SS 小泉花陽はお腹がすいた -第二幕 魔法大国UDX編
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前回の、ラブライブ!!…の、SS小泉花陽はお腹がすいた
みなさんこんにちは。おひさしぶりです。小泉花陽です
音ノ木坂学院の一年生……だった私ですが、ある日気がついたら異世界に!?
私は戦争が原因で何もかもを失ったセト村の魔術師さん達によって勇者として召喚されたのです!驚き!
とはいえただの高校生である私に出来る事なんてありません
そこで私は現地で知り合った女の子、ユリカちゃんから勇者の素質がある者にだけ継承できるスキルを習得しました!
しかし中身が普通の女の子でしかない私にはそのスキルを上手く扱うなんてこともできず、状況に流されるままに……
戦争や野盗の襲撃で親を失った9人の子供達と一緒になんとか元の世界に帰る方法を模索する中、1つの案が出ました
複数人の術者の命と引き換えに異世界より勇者を召喚する大召喚
これを将来魔術師、魔法使いを目指していた子供達に習得してもらい、元の世界へ送り返してもらうというものです!
なんて言ってもそのままじゃ子供達の命が危ないので、そこは勇者のスキルでなんとかしました!
自分の事は何もできないけど、他のモノにはなんでも干渉できるスキルでちょちょいのちょいです!
その後子供達が召喚術を習得するのに必要な魔法学校の寮に入るため、東の国ユーディクスへと旅立つことに
便利な勇者のスキルで家のように大きな馬車を創り、アルパカさんに引いてもらいます
電気、ガス、水道、全部使い放題の夢のようなお家
そして世界中にある放棄されて久しいお金をすべてかき集めるという金の箱も作り、旅も順調!というところで盗賊に襲われた私達!
この世界には戦争があって、人の命を奪う事を仕事にしている人達がたくさんいます
みんな殺したり殺されたり、復讐を誓って……そんな事ばかり考えています
平和を願う気持ちや心はあるのに、環境がそうさせてくれない。やさぐれるばかりです!
なので私は自分にできる事でみんなを助けたいと思いました
――そう、傷つきすさんだ心を浄化する存在……アイドルです!
歌という文化が祭礼時に使われるお経のようなものしかないのもあり、初めて聴くアイドルの歌やライブ映像に衝撃を受ける子供達
いつしか自分も歌ってみたいと、アイドルに対する憧れを抱くようになります
というか、そういう誘導をしたのが私ですっ!
……言い方が悪かったですかね。アイドルのすばらしさについて自ら歌ったりして普及活動をがんばったのです
そして色々あって仲間も増え、アイドルのライブをみんなに見せると宣言した私
しかしそこで問題が!
子供達の一人がお家の事情で敵に命を狙われている事がわかりました!危ない!
そこで私はその子と一緒に命を狙われる原因を排除するために、アルパカさんの背に乗って走り出したのです!
ここがすごいよ花陽ちゃん!
現在習得中のスキル
・「隣人花陽」1つ隣の次元に存在するようになっちゃったスキル
・「隣の観測者」空腹時にたかりにくるスキル
・「無垢なる罪人」第三段階まで領域拡大し「悪意」に対して無敵になったスキル
・「リン、知ってるよ」あの子が何を言ってるのか、知ってるよ!な、スキル
・「それ正解!」答えがわかるカンニングスキル。テスト中は音声でバレる
・「GOHAN屋通い」好きな物には目がない、ドキドキがとまらないスキル
・「アルパカマスター」花陽ちゃんに忠誠を誓うとアルパカにされるスキル
・「アルパカクリエイト」飼い主として隅々まで弄るスキル
・「無垢乙女」小泉花陽そのものを表すスキル。これは初めから所持していた
残る未開放スキル「???」は後6つ!
-クレスタリア王都 西の領内 夜の森の中
本気をだしたフワちゃんは馬車で3日はかかる距離を半日で走りきりました
もう私とエミちゃんは手綱に繋がれた鯉のぼりのように風に靡いているだけでした…
フワ「エミちゃん、そろそろ大丈夫?」
エミ「ぅぅ……だ、大丈夫……」フラッ
花陽「……………」グデ…
例えるなら、超回転を繰り返すジェットコースターに半日乗り続けていたような感覚……
これに普通の人が耐えられるはずもなく、途中から私もエミちゃんも夢の中でした
いくら死なない体といっても堪えるものは堪えます……
でもそれくらいに急がないとこんなにも早く到着はしなかったのも事実です
フワ「話によるとこの辺りってことだけど、こんな森の中にそんな施設があるの?」
エミ「はい……ここから少し歩けば石造りの小屋が見えます」
花陽「話を聞く限りだとすごく大掛かりな研究施設ってイメージだけど…」フラフラ…
エミ「勿論その小屋はダミーです。施設は地下に隠されているのです」
フワ「なるほどね」
花陽「じゃあ小屋の周りにも人は……?」
エミ「今は敵国に抑えられていると思いますから、敵の番兵が」
その魔導兵器というものは簡単に運び出せるようなものではないらしく、構造を知らない人間が触るとまた暴走する可能性があると
フワ「そんな危ないものをよく作ったわねぇ」
エミ「本来は無理に起動させようとするとロックされるハズなのですが、なまじ知識があるせいで……」
花陽「解析できると思ってやっちゃったと……」
そんな精巧なものを作ったユリカちゃんのお父さんて、ホントにすごい人だったのだと思います
平和を願う心優しい人だったとも聞きます
しかしそんな人が大召喚なんてものに頼らなくてはいけなかったほど、当時の状況は過酷だったのですね
フワ「少しここで休んでて。偵察してくるわ」ザッ
エミ「お願いします」
花陽「……いろんな意味で早めにお願いしますね……ぅぅ」バタッ
エミ「ハナヨちゃん!」
今回の作戦、することは単純です
施設に突撃して魔導兵器を無力化する。これだけです
強引に壊すこともできそうですけど、先の暴走事件の事を考えると得策ではありません
エミ「お腹が空いていないと使えないスキルというのも珍しいものですね」
花陽「ホントに……仕組みがよくわかりません……ぅぅ」
私のこのスキル「隣の観測者」で魔導兵器の存在そのものを変化させてしまおうという作戦
すぐに実行できるように朝から何も食べていません……
おかげでお水がとてもおいしいです……
フワちゃんが偵察にでている間、森の中に身を隠して待ちます
というか、そんなに動けませんし……
エミ「ハナヨちゃん、お茶飲みますか?」
花陽「ん……ありがとう」
リュックからお茶の道具を用意し、器用にお湯を沸かす準備をする
この手際の良さの中にもその動作にはどこか気品が感じられます
施設で育てられたといっても、やっぱりお姫様としての躾もあったのかなぁ…
花陽「…………」ジー
エミ「……えっ、な、なんですかハナヨちゃん?」
花陽「あ…ごめんなさい。綺麗だなーと思いまして」
エミ「え!? い、いきなりなんですか?」
ストレートに言ってしまいましたが、せっかくなので聞いてみたいと思います
花陽「エミちゃんて、お姫様としてのレッスンとか教育、受けていたの?」
エミ「……そうですね。躾は厳しいほうだったと思います」
花陽「へー、すごいね。私の世界にもお姫様という人はいますけど、実際に会った事はないから憧れちゃいます」
エミ「んー……申し訳ありませんが、夢を壊してしまうかもしれません……」
花陽「え……?」
エミちゃんは語ります。クレスタリアの王族間にある確執や派閥争い
自身がそれに利用されているだけの、飾りの王女であった事……
王女としてというより、王家の血筋としての予備品でしかなかったこと
エミ「ユリカちゃんが言っていた戦争前の事、覚えていますか?」
花陽「えっと……王位継承者がいなくなったり……亡くなったり……って」
エミ「はい。国際会議での事故で元々内部争いでギリギリだった緊張の糸が切れてしまって…」
花陽「まさか……」
エミ「親族同士での殺し合い。王を狙った政略争いが本格化してしまったのです」
花陽「…………」
淡々と話すエミちゃんには事件そのものがどこか他人事のよう……
私には王族の家柄とか、自身の使命とか到底理解できるものではありませんが、それでも……
花陽「エミちゃんは……その……」
エミ「あ、ご心配には及びません。民の事を数字で語るような人達には何の感情もありませんから」
花陽「……………」
それを大丈夫だなんて……平気で言いきっちゃうのはよくないと思います
まだ10歳なのに、そんな悲観した感情なんて……
エミ「とにかく、今はもうその人達もいません。私以外の王族はすべて亡くなっています」
花陽「……え」
という事はこの国の王様というか、女王はエミちゃん!?
でもエミちゃんはもう名前も変えて新しい人生を歩むって決めているから……
エミ「だからクレスタリアは名実ともに滅ぶんです。元々圧制を敷いていたせいで民衆の支持もなく、そのうちクーデターが起こるのではないかと言われていた国です」
花陽「だから……これでいいの?」
エミ「…………無責任だと思いますか?」
花陽「私には難しい事はわからないけど……エミちゃんはそれで、辛くない?」
エミ「辛いなんてことは……」
王家とかそういうゴタゴタした事よりも、指導者を失って行き場を失った国の人達の事をこの子が考えないはずがないです
きっとそのことでたくさん苦悩していたのだと思います。優しい子ですから
エミ「それに、あの方がおっしゃってくれたんです」
花陽「あの方……ユリカちゃんのお父さんだね」
エミ「はい!」
心配しなくても国はすぐに新しい指導者の元で統制されるから大丈夫だよと、そう言ったそうです
今のこの状況も次第に収束に向かうと……
花陽「どういう意味なのかな?」
エミ「さぁ……聡明な方でしたから、きっとお考えがあったのでしょう」
王様の政治ってよくわからないけど、副王様とかいないのかな。この場合は副首相? 副大統領?
とにかくなんか二番目にいる人。その人がいなければさらにその下と、指揮系統はどこかに委ねられると思います
それを見越しての事?
エミ「何もかも放り出した私に、この国の行く末を口にする資格なぞもうありません」
花陽「そんなことは……」
エミ「いえ、いいのです。ただ一つ…願うものがあるとするのなら、人々に笑顔が戻る事だけ……」
エミちゃん……立派だなぁ。彼女なら大人になった時、この国をいい方向に導いてくれそうな気はします
ガサッ
フワ「ふぅ…」タッ
エミ「お帰りなさい、フワさん」
花陽「お帰り。どうでしたか?」
偵察に出ていたフワちゃんが戻りました
施設周辺は警備兵はいるものの、特別警備を強化しているというわけでもなさそうだと
エミ「おそらくあちらも扱いに困っているのだと思います」
フワ「使い方もわからない、下手に触ると暴走する兵器なんてこのまま封印しておきたいところでしょうね」
花陽「でもそれが存在し続ける限り、王家がまた兵器を手にする危険性があると考える人がいる……」
エミちゃんという存在が知られている以上、これはずっとついてまわる問題です
フワ「それで、地下施設に入るのは可能だとして、兵器のある場所はわかる?」
エミ「はい。数年間はあそこで生活していたので熟知しています」
花陽「…………」
地下の研究施設に子供を……。エミちゃんの親族だけど、酷い事をする人だと思います
私みたいな生粋の庶民にはわからない事情があったとしても、それでも理解できません
フワ「それなら夜の間に実行しましょう。花陽ちゃん、気合入れなさいよ!」
花陽「お腹すきすぎてなんかもう色々麻痺してきてるのでがんばります」
エミ「終わったらすぐにおにぎりを召し上がってくださいね」
-森の中の研究施設
ガサッ
「ん、何か音がしたか?」
「動物だろどうせ…」
フワ「まぁ正解といえば正解ね」ヌッ
ガッ ゴツッ ドサッ
フワ「それじゃ、道案内お願いね」スッ
エミ「はい!」サッ
花陽「ごめんなさーい……」コソコソ
見た目はただの小屋なのに、中に入るとそれが別物だとわかりました
想像していた研究施設はよくわからない機械や計器類がたくさん並んでいるような物でしたが、この世界に機械はありません
代わりにたくさんの試験管に、怪しい植物……の、ようなもの?
色とりどりの薬品と、理系の実験で嗅いだような独特の匂いがしました
お世辞にもここにずっと住むというのは遠慮したいところです
エミ「こっちです!」タッ
フワ「ハナヨちゃん、背中に乗って!」
花陽「わ、わかった〜」ヨロッ
ヘロヘロな私を乗せてフワちゃんが走ります。正直朝から何も食べてないせいでもう色々と吹っ切ってはいたけど、体は動きません
フワ「出番まで休んでていいわよ」タッ
花陽「ありがとー…」クテッ
地下に続く石階段を降りると、細い通路が左右に伸びた洞窟のようになっていました
壁にかけられた松明のような魔法の光が照明がわりになっています
「なんだ?」タッ
「おい、上の様子がおかしいぞっ」タタッ
エミ「こっちです!」ダッ
フワ「後ろは気にせず突っ走って!」ダッ
花陽「ぁぅぁぅ…」ガクガク…
「おい、侵入者だ!」
「敵襲ー!!」
この場合、敵じゃないですーなんて言っても無駄ですよね…
タタタ… バッ
エミ「わっ!」
「っ!? こ、子供!?」バッ
フワ「どいて!」ゲシッ
曲がり角の出会いがしらにフワちゃんの蹄がさく裂……痛そう
勿論本気で蹴ってはいないと思いますが、絶妙な力加減でフワちゃんは相手を一撃で気絶させます
フワ「便利な戦闘技能のおかげよっ」グリグリ
花陽「そうなんですね」
どんなのを設定したのかよく覚えていないというか、よくわからなかったので気にしていなかったけど、便利そう
明かりがあるとはいえ地下の洞窟は薄暗く、私一人で後ろをノコノコ着いて行ってたらあっという間に迷子になっていたでしょう
道も細い通路の中分かれ道があちこちにあり、地下施設の規模が伺えます
エミ「はぁ、ふぅ……もうすぐですっ」タタタタタ…
フワ「がんばって!」ダッダッ
エミ「……はいっ」ダッ
のびて倒れこんだせいでフワちゃんの背中を占領してしまっている自分が不甲斐ないです
でも私が無理をしても足手まといでしかないので素直に後ろから応援でしています。がんばれー
タッタッ
フワ「っ!? まってエミちゃん、ストップ!!」キュッ
エミ「えっ!?」グッ
フワちゃんが何かに気づいて急に足を止めます
私達は侵入者という立場なのに声をあげて制するのにはよっぽどの理由があるのかな
フワちゃんがエミちゃんの脚を止めさせた直後でした
「チッ……いい勘してやがる」スッ
エミ「えっ……!?」ドキッ
フワ「恐ろしいくらいに殺気が感じられないのに、明確な殺意だけ滲み出すなんて…」
花陽「あ………」
進行方向とは別の曲がり角からその人は現れました
片腕がない鎧をまとった騎士……私はその人に見覚えがあります
花陽「あなた……村を襲った……あの時のっ!」
「……ん? なんだ、お前もいたのか」サッ
エミ「まさか……ライ様?」
ライ「覚えてたのか。最後に会ったのなんて5年くらい前だってのに…」
花陽「エミちゃん、この人知っているの?」
エミ「………はい」
グイッ サッ
フワ「下がるのよエミちゃん」スッ
エミ「あ…っと」
フワちゃんがエミちゃんの襟を口で銜えて後ろに引っ張る
この人が危険だというのを感じ取っているみたい
それは私も同じ意見です
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あと、>>1は死んでください ライ「なんだその生き物は?」
フワ「うるさいわね。レディに剣を向けるような輩には教えてあげないわよ」
エミ「あの、この方は私の…」
フワ「こいつはあなたを殺す気よ!」
エミ「えっ…!?」ドキ
ライ「村にいた変なお嬢ちゃんもいるってことは、俺の目的はわかっているようだな」
花陽「どうしてあなたがここに……」
この人達はエミちゃんを探してあちこちの村をまわっているんじゃ……
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あと、>>1は死んでください ライ「エレミア姫が生きてるって可能性があるのなら、いずれここに来るかもしれないだろ?」
フワ「来るかもって……生きてるかどうかもわからないのに?」
ライ「こなきゃこなきゃで構わない。俺はここでお前を一生待つと決めたからな」
エミ「……そんな」
花陽「一生って……」
この人……いえ、この人達はセト村の人達にすごい恨みを持っているようでした
そしてエミちゃんに対しても……
ライ「しかし思っていたよりも早くお前は来た」スッ
エミ「ライ様……」
フワ「危ないっ!」ダッ バッ
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あと、>>1は死んでください ライと呼ばれている男の人がゆっくり足を前に出すと同時にフワちゃんはエミちゃんの前に移動する
この人は片腕がありません。私と遭遇した時に失ったからです
それなのに、フワちゃんはこの人を警戒しています
剣を持ってはいますが構えてはいません。それでも今、フワちゃんは危険を感じたのです
ライ「へぇ、すごいなお前。馬……かなんかわかんねぇが」
フワ「あいにくとうちのお姫様たちには指一本触れさせないわ!」
花陽「そ、そうですっ!」トッ
この状況でいつまでもフワちゃんの背中でのんびり見てられません
この人なら私に対して触れる事が出来ないから……
花陽「………ん?」
あれ、そういえば……「無垢なる罪人」……発動したかな?
よっこらしょ。
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●●●●● ライ「心配しなくても、もうアンタに用はないぜ」
花陽「え……?」
ライ「どうせ斬る事もできないんだろ? だったらもう関わらねぇし、する必要もねぇ」
花陽「で、でも私はエミちゃんを守りますよ?」
ライ「好きにしろ。俺はそいつを殺すためならなんだってする。巻き込まれたくなかったら……」スッ
フワ「こいつ……自分もろともここを爆破させるつもりよ!!」
花陽「爆……えぇっ!?」
エミ「ライさん!!」バッ
フワ「エミちゃん、ダメよ!」
フワちゃんの言葉を聞いた瞬間、エミちゃんがライさんの前に飛び出しました
エミちゃんが死なない体なのはフワちゃんも知っています。でも、だからといって死ぬほど痛く苦しい思いをしていいワケじゃありません
ドスッ
エミ「ぐ……カハッ…」
ライ「…………」グッ
フワ「エミちゃん!!」
花陽「あ…あぁ…っ」
しかしそれは、ほんの一瞬の出来事でした
エミ「ぐ、うぅ…ぁぁぁぁっ」
ライ「…………」
エミちゃんの身体にライさんの剣が突き刺さる…
真っ直ぐにお腹を刺し、そのままエミちゃんの身体を持ち上げて、その苦痛に歪む顔を確認するように見つめている
死なないからいいなんて事は……絶対にないんです!
花陽「フワちゃん!!」バッ
フワ「わかってるわよ!」
エミ「ま、待ってください……」グッ
ライ「……ん?」
花陽「エミちゃん!」
エミ「ハナヨ……ちゃん、私は…大丈夫……です……だから…」
ライ「しぶといな……」スッ ググッ
エミ「ああっ!」
フワ「やめなさい!」ダッ
ドンッ
花陽「エミちゃん!」タッ
フワちゃんの蹄がさく裂し、ライさんはエミちゃんから手を離す
体に剣を突き刺したままのエミちゃんが床に放り出されるのをなんとか受け止めることが出来ました
花陽「エミちゃん、しっかりして!」
エミ「ぅ……平気です。死なないというのはこういう感覚なのですね……」グッ
フワ「痛いものは痛いでしょ、無理しないの」
ライ「ちっ………」スッ
フワ「逃がさないわよ! 施設ごとここに埋めるつもりでしょうけど…」
エミ「待ってください……私に、話をさせてください」ヨロッ
花陽「話って……この人はエミちゃんを殺そうとしているんだよ?」
エミ「わかってます。だから、ちゃんと話をしたいんです……」
エミ「んっ……んんん!!」ググッ
時間の経過とともにエミちゃんの身体がみるみる回復していきます
回復というより、元に戻るというほうが正確でしょうか
自分で体に刺さった剣を引き抜こうとするエミちゃんですが、肉が食い込んでいるのかなかなか上手くいかない
エミ「ハナヨちゃん、ちょっとこれ引っ張ってくれませんか?」
花陽「えっ!? あ、う、うん……」ガッ ググ…
剣の持ち手部分を握って引っ張ります。ズシリと伝わる感触はこの剣の重さ……これ抜けたらきっと私じゃ持てそうにないです
ザシュッ カランッ
ライ「………どうなってやがる?」
エミ「ありがとうございます…ふぅ」
どうにか剣を抜くとエミちゃんの身体は何事もなかったように無傷です
お腹の部分だけ服が破れただけ。それを見たライさんがさすがに表情を変える
エミ「ごめんなさい。私は見ての通り死ぬことはありません。ライ様に殺される事もありません」
ライ「それが王家にしか扱えないというあの兵器の力なのか?」
エミ「いいえ。これはハナヨちゃん……こちらにいる、この世界に救済をもたらす勇者様のお力によるものです!」
花陽「え……ちょっと大げさになってませんか?」
フワ「いいのよ」
ライ「勇者ハナヨ……お前が?」
花陽「花陽は私です。勇者かどうかの自覚は正直ありませんが……」
私の取ってきた行動の結果、そう呼ばれるのだとしたらそうなのかもしれませんが、私個人では勇者だからこうする!なんて思考はありません
エミ「あの、ライ様……一体何があったのですか?」スッ
ライ「あ?」
武器を失ったライさんにエミちゃんが歩み寄る
これだけ強い人です。剣なんてなくったって……
ガッ
エミ「あうっ!」
ライ「片腕の俺には殺されないとでも思ったのか? このまま首をへし折るくらい…」ググッ
エミ「い、いいえ……それでも私は、死にません……どうか、話を……」ガッ
首を掴まれるエミちゃんが、逆にその腕を両手で握り返す
でもそれは、抗うものではありません
エミ「ハ、ハナヨちゃん……」グググ…
花陽「え、はいっ!」
エミ「この先の行き止まりが…目的の場所です……魔導兵器が……くっ」グイッ
花陽「兵器……あっ…」
エミ「この人の事は私にまかせて、はやくあの兵器を…っ!」
ライ「やはりあれを狙ってるのか…だがっ!」
花陽「わかった、すぐに壊してくるっ!」
ライ「……なに?」
フワ「私達はあの兵器をこの世から消し去るためにここに来たのよ!」
ドドドドド…
フワ「どうやら他の衛兵達もこっちに来てるようね」
エミ「そっちはおまかせしていいですか?」
フワ「勿論よ。でも、エミちゃんはそいつをどうしたいの?」
エミ「きっと……誤解があるだけなんです。それを……」
ライ「……………」
後方からたくさんの足音が聞こえてきます
フワちゃんがそっちに対応するという事は……
花陽「私が魔導兵器を……」ヨロッ タッ
ライ「……………」
私が横を通り過ぎるのをライさんは邪魔する事はありませんでした
もっとも妨害しようとしたその瞬間に私に触れなくなるだけだから意味はありませんが
花陽「はぁ…ふぅ……えっと……」トタトタ…
細い通路の行き止まり……途中見かけていたどの扉よりもひと際大きな鉄製の扉がありました
間違いなくこの中に問題となった魔導兵器があると思います
グッ…… ググッ…
花陽「あれ……開かない……?」ガチッ
扉には鍵穴のようなものは見当たりません……でも、開かない?
ひょっとして、もっと強く押さないとダメ?
花陽「ん、んんんんっ!!」ググ…
取っ手のようなものはあるから、押すか引くかすれば開きそうなのに…ビクともしません
花陽「ハァ……ハァ……むぅ……」
あまり時間もないのにこんなところでモタつくわけにはいきません……こうなったらっ!
花陽「……ふぅ」
開かない扉なんてあるなら、存在から変化させてやります
今の私はなんだってやっちゃうんですよ!
ドンッ! ガタッ パタン…
花陽「ふぅ…これでよしっと…」サッ
鉄の扉だったものは材質を木に変化させました
扉として壊しちゃうと違う問題もあるかもしれないと思ったからですけど、結局軋んで壊れてしまいました
花陽「えっと、魔導兵器は……」キョロキョロ
室内はここまでの通路と違って広い場所になっていて、床もしっかりとした石畳
そして映画にでてきそうなとても大きな試験管…かな? それが壁際にたくさん並んでいました
花陽「えっと……どれが魔導兵器?」
ここに来て兵器がどういう形状のものかをちゃんと聞いておくべきだと思いました
コツン…コツン…
花陽「兵器…兵器……危なそうなもの……」ジー
試験管の中にはどれも液体がいっぱいに入っていて、様々な色をしています
まさかこの液体が兵器……なんてことはあるのかな?
花陽「映画だと、この中にエイリアンとか……なんているわけ……」ジー
「…………」
花陽「……?」
中に……人…の、ような………人!?
花陽「ぴょわぁぅぇぇぉぇ!?!?」ビクゥッ
人……人間、誰かわからないけど試験管の中に誰かいます!!
花陽「え……ぁぁ………」ヘタッ
あまりの衝撃に腰が抜けました
試験管の中で漂っているのは女の子でした……それも……エミちゃんと同じ年くらいの小さい女の子……
花陽「まさかこの試験管…全部に……?」ソー
いやな光景を想像しながら他の試験管も確認してみましたが、中に人が入っているのはこれ1つだけでした
これが……兵器なのかな?
花陽「でも暴走したことがあるという事は……動く事があるもので……」
本当に、この女の子が魔導兵器……なのでしょうか?
もしそうだとしたら、私は……この子をどうにかしないといけないのかな……
花陽「…………」ジー
「…………」
花陽「可愛いな……」
ユラユラと水の中を漂う女の子は、どういう状況であれ綺麗に見えました
長い髪が何か違う生き物のように揺れて……ん?
動いてるという事は、水が動いている……振動が伝わっているのかなにかで、とにかくこれ、動いています!
他の試験管を確認しても特に水が揺れていることはありません
やっぱりこれが……兵器
花陽「つまり……この女の子を無害にすれば……」
カタッ
エミ「ハナヨちゃん!」ダッ
花陽「ひゃいっ!!?」ビクゥ
エミ「待ってください、まだそれを壊さないでください!」タタタ…
花陽「エミちゃん? 驚きましたよー…」
エミ「ごめんなさい。それよりハナヨちゃん、目的が変わりました」
花陽「ん……どういう事?」
エミ「兵器を破壊、もしくは無力化するのではなく、兵器にされた彼女……チセさんを元に戻してあげてください!」
花陽「チセ……もしかして、この試験管の中の?」
エミ「はい。私の代わりに無理やり魔導兵器に改造された……ライ様の妹様です!」
花陽「妹……あの人の?」
ライ「そうだ」ヌッ
花陽「ひゃわっ!」ビクッ
エミ「このような形で無理やり起動させようとしていたなんて……」スッ
花陽「もしかして、ライさんは妹さんを人質にとられて?」
エミ「いえ………違います……」
ライ「もうチセは生きてはいない」
花陽「え………」ドキッ
ライ「この魔導兵器のコアに使われたんだ。姿かたちはそのままでも、すでに命はない」
花陽「そんな……」
エミ「ライ様が王家を恨んでも仕方ないことです……こんな酷い事を……」
ライさんの妹さん……チセさんは少しだけあった魔法適正のせいで、兵器を制御する生体コアとして使われたそうです
それでも兵器は満足に起動せず、結果暴走という形で周囲に毒素のある細菌をバラ蒔く事に…
王家はそうした手段を使った理由として、開発者の裏切りをあげたのでした
花陽「あの……エミちゃん。先に謝らせてください。ごめんなさい」
エミ「なんでしょうか……」
もう我慢できません。話を聞けば聞くほどに……
花陽「最低な人達です!そんなマネをするのはっ!いくらエミちゃんの身内とはいえ、最悪ですよこんなの!!」
エミ「私も同感なので、もっと言ってください!」
花陽「人の上に立つ立場のくせに権力争いばかりして、みんなに迷惑ばかりかけて……バカです!大バカです!!」
エミ「バカヤローです!」
花陽「バカヤロー!!」
ライ「……おいっ」ドスッ
エミ「ぐふっ……そ、そうでした……ぅ」フラッ
花陽「エミちゃん!!」
心の思うままに叫んでいたらエミちゃんが刺されました
しかしエミちゃんはもうそれを気にすることなく、まるで漫才のツッコミのように受け止めています
そんなものに慣れるなんて……
ライ「さっき言ってた事は本当なんだろうな?」グリッ
エミ「ホ、ホントです…から……刺さないでください…」
花陽「ちょっと、酷いとこしないでください!」ドンッ
妹さん……チセさんを失ったライさんは生きる目的をすべて失っていました
兵器として扱われ、大勢の人々を一瞬で殺す事に使われる事になった自分の大切な存在
結果としてそれは未遂に終わるのですが、妹さんだったチセさんはもう戻ってきません
ライさんがそれを知らされたのは戦後の事でした…
ライ「敗残兵として行き場を失った俺達は王都へと戻った……しかしそこにはもう王はいなかった…」
花陽「戦争で亡くなったの?」
エミ「いいえ。王は戦争で意識がそれているところを暗殺されたのです。自分の側近に」
花陽「あ………」
いつクーデターが起こってもおかしくない状況。圧制を敷いていた王への不満はそこで爆発したのですね
もう国がどうとか考える事もなく、今その時、王を暗殺しようと……させようとする状況がすでに間違っていると思いました
なんだか……国の人々にも余裕がないように思います
ゆとりなんて呑気な事は言いませんが、それでも拠り所とする何かが必要なのかも……
ライ「チセがこうなったというのに、俺にはここから出してやることも出来ない」
エミ「装置がどのような動作をするかわからないし、また暴走でもしたら今度は被害がどこまで広がるのかわかりません…」
花陽「最後まで管理しないで放棄するなんて……勝手ですね」
ライ「でも、お前ならなんとかできると聞いた。本当なのか?」
花陽「え、あ、はい。出来ると思います」
エミ「ハナヨちゃんに不可能はありません! なんたって勇者さまなんですから!」バッ
ライ「……………」
花陽「それよりエミちゃん、魔導兵器ってどれですか?」
エミ「えっ…あぁそういえば明確な形は知らないのでしたか、ごめんなさい」
花陽「この子……というわけではないの?」
エミ「魔導兵器は、この試験管すべてがそうです」
花陽「えっ!?」
エミ「正確には、試験管の中で培養されているこの液体そのものが魔導兵器なのです」
花陽「な、なるほど……」
そういえばさっき細菌がどうとか言ってました
魔導兵器と聞くとゲームによくあるビームみたいなのを撃ちだすやつかなと思っていました
なので、てっきりこの女の子が魔法みたいなのをぽこぽこ撃ちまくるのかなーと想像していたのですが…
エミ「今は停止していますが、この液体を自在に操る事ができるのが兵器としての能力なのです」
花陽「へー……」
エミちゃんもここに入っていたという事でしょうか
そして今でもこれを操ることが出来る……
花陽「…………」
ライ「おいっ、聞いてるのか!」
エミ「わっ、はい」
花陽「はいっ!」
思わず私も背筋が伸びます
この人、声に凄みがありすぎです……
ライ「妹を……チセを助けてくれるのか……どうなんだ!?」
さっきまでエミちゃんから少しも視線を外さなかったのに、今はもう私しか見ていません
この人にとって妹さんはそれほど大切な存在なのですね
ん……そんなの当然か。この世界にだってちゃんとそれは存在します……
花陽「まかせてください。私は勇者ですからっ!」フンッ
ライ「…………」
花陽「そのかわり……もうエミちゃんの命を狙わないと約束してくれますか?」
エミ「ハナヨちゃん……」
ライ「どうせ誰も殺せないんだろ……」
実際はそうですが、立場とか環境の問題です!
花陽「エミちゃんはもう名前を変えて新しい人生を歩もうとしています。その邪魔をしないように言ってください」
ライ「それは……俺の雇い主にか?」
花陽「そうです。それと他のお仲間にもそう伝えて欲しいんです!」
エミ「…………」
ライ「それは無理だな」
花陽「どうしてですか!?」
ライ「俺個人の意思と上の総意はまったく別だからだ。あいつらはどんな形であれ、王族の血が生きていることを許しはしない」
エミ「……………」
花陽「そんな……」
この国がそれほどまでに隣国に憎まれているという事の表れだと言います
でもそんなの……エミちゃんだって被害者なのに……
エミ「仕方ありません……この国はホントに酷い事をしてきたのですから……」
ライ「そうだな」
花陽「むぅ……」
それじゃこの魔導兵器を処分してもエミちゃんの環境は変わらない……アイドル活動するのにそんなの……
どうにかして他に……
エミ「あ、ではこうしてはどうでしょうか?」
花陽「ん、何かいい方法があります?」
エミ「ハナヨちゃんのスキルって、物を別の物に変えたりできるんですよね?」
花陽「今のところ望んだ結果は得られていますけど……」
エミ「なら、私の死体を創る事はできますか?」
ライ「……」
死体……エミちゃんの……あ、なるほど、意図が読めました
花陽「エミちゃんの死体をライさんに届けてもらって、世間的にも死んだ事にするんですね?」
エミ「はい。それなら相手国も納得するはずです」
ライ「なんだと…?」
花陽「ライさん、今の話を承諾してくれたら、妹さんを助けてあげます」
私個人としてはもう助ける気でいるのですが、どうせならこちらの条件に従ったという形のほうがこの人も動きやすいと思います
ライ「わかった」
花陽「はやーい」
エミ「ありがとうございます、ライ様」
ライ「それでチセが助かるんなら構わない」
エミ「…………」
まったくブレない、本当の信念を持って行動しているんですね
すごい人です……
エミ「ハナヨちゃん、それでよろしくお願いします」
花陽「うん。それじゃ早いとこ兵器から片付けちゃいましょう」
あと、早く全部解決してご飯が食べたいのですっ!
ライ「……………」
ダダダダダ… バッ
フワ「花陽ちゃん、大丈夫っ!?」ザッ
エミ「フワちゃん! こっちは平気です」
花陽「他の兵隊さんはもう終わったの?」
フワ「ごめんなさい、ミスっちゃった!」
エミ「えっ!?」
フワ「全員気絶させるつもりだったんだけど、一人逃がしちゃったの!」
花陽「それは……問題ないのでは?」
エミ「いえ、防衛している拠点が襲撃にあったという報告があればきっと本国の本隊が動きます」
ライ「そうだ。西の中継基地に伝令がいるはずだ」
えっと……つまり……ここでモタモタしてるともっとたくさんの兵隊さんが来るということかな?
花陽「い、急いだほうがいいみたいですね」
花陽「それじゃまず、この妹さんの入っている水槽のような試験管の中の液体をただの水に変化させますね」
ライ「そんなことが……」
エミ「お願いします。えっと……全部で5つありますね」
…………え?
エミ「それぞれ特色の違う成分を持っているのですが、どれも危険なものには変わりありません。すべてお願いします」
花陽「5つ………」
少し前に考えていた事が、ここに来て一気に危険範囲に入ってきたような気がします
花陽「それって、やっぱり全部処理しないとマズイ……ですか?」
エミ「はい。どれもこのまま放置するには危険な物ですし、暴走とはいかなくても漏れだすと環境にも……」
…………はぅ
5という数字に嫌な予感がした私はスキルボードを展開させます
花陽「大丈夫かな……」ヴォン
エミ「わっ」
フワ「あんまり人前で出しちゃダメよーそれ」
今はそれよりも大事な事を確認しないと……確か……
花陽「…………うっ」
――スキル「隣の観測者」――17/23
花陽「はわわ……」
もしかしなくても、スキルの使用回数が残り5回にまでなっていました
花陽「………………」
エミ「どうかなされたのですか?」
フワ「………まさか」
花陽「どうしよう………スキルの使用回数なんて意識していなかったから……」
フワ「残り……5回ね」
エミ「えっ、回数制限があったのですか!?」
花陽「みたい………」
そういえばスキル説明の時に、時間の許す限り20と3がどうとか言ってたような気がします
普段ゲームとかしないせいでこういう大事な部分をすぐに忘れてしまう
ホントに、情けないです……
エミ「5回……ではチセ様のお体とそこにある兵器の無力化、この2つでいきましょう」
花陽「え、でもそれじゃエミちゃんが……」
エミ「もうじきここに隣国の部隊がくるのなら、私は残りの兵器を持ってここで待ちます」
フワ「エミちゃん、あなた連中に捕まる気?」
なんで……
エミ「この魔導兵器が存在する限り、私は自由にはなれません。今それが叶わないというなら、自分の手で手繰り寄せるだけです」
花陽「…………」
エミ「私はハナヨちゃんとアイドルをやるんですから!」
なんで……怒らないの……
花陽「ごめんなさい……私がちゃんと意識していれば……」
エミ「そんなっ、ハナヨちゃんが気に病む事はありませんよ。もとはと言えば頼りっきりな私達に問題があるのですから…」
花陽「…………」
それでも…あれだけ調子のいい事を言っておいて…。これは情けなくて恥ずかしくもあり、申し訳ない気持ちも合わさってなんとも言い難い気持ちになります
なんとかしてあげたい……私はこれをずっと思い続けてきたのに……
フワ「ん……あれ、そういえば……」
エミ「どうかしたのですか?」
フワ「花陽ちゃん、もしかしたら問題ないかもしれないわよ」
花陽「えっ!?」
フワ「私は花陽ちゃんの中から生まれた存在で、花陽ちゃんの可能性、スキルの本質を一部知っているのよ」
花陽「それは前に聞きましたけど、すべては知らないという事だったような」
フワ「勿論今花陽ちゃんが認識できていないものは私も同じ。でも今あるスキルの本質はなんとなくわかるのよ」
エミ「それはハナヨちゃん自身にもわからない事を……ですか?」
フワ「そうね。みんな意外と自分の事なんて解っているようで解らないものよ」
花陽「それで、問題ないというのはどういう事ですか?」
フワ「物は試しよ。最初の予定通り、この魔導兵器を全部処理しちゃって」
花陽「ほ、ほんとに大丈夫なのー?」
フワ「いいからほらっ、時間もあまりないのよ」
フワちゃんはいつだって私を助けてくれました
だからこういう場面でいい加減な事は言わないって、知ってます
そのフワちゃんが言うんだから、きっと……
花陽「…………」スッ
大きな水槽のような試験管に手を触れ、意識は中の液体に向ける
これは普通の水……普通の水……
花陽「すいません、隣の者ですが……この液体は普通の水ですか?」
シュウゥゥ…… ピカッ!
ライ「……っ!?」
エミ「すごい……毒々しい色だった液体が、みるみる透明に……」
フワ「普通ってつまりどういう水? 淡水純水蒸留水と、色々あるけど…」
花陽「私が想像している普通の水なので……普通の水道水です。詳しくはわかりません」
この世界に水道というものは私の知る限りなかったのですが、きっと大丈夫です
花陽「これでこの魔導兵器は無力化されたのかな?」
エミ「長年、色んな研究者が試行錯誤を繰り返し、あの方が完成させたものをあっという間に無かったことに……」
花陽「え……まずかったですか?」
エミ「あぁいえ……ただあまりにあっけないので……」
このスキル、過程というものがなく結果だけ先に現れるからそのあたりはドライです
フワ「それじゃ残りも同じ要領で片付けていきましょう」
花陽「うん」
ライ「……………」
このいくつかある魔導兵器を一括りにできないのはそれぞれが別の性質を持つ液体だからなのかな
まったく面倒な物を作ってくれます
私は最初のと同じように残り3つの液体を無害な水に変化させました
花陽「ふぅ………」グゥ…
フワ「お腹空いてるわよね…終わったらおいしいおにぎりが待っているわよ」
エミ「あと1つです、ハナヨちゃん!」
花陽「…………」
――スキル「隣の観測者」――22/23
数字で見ればあと1回……ホントに大丈夫なら……
花陽「あの……」
花陽「フワちゃんの言う事は信じてます。きっと大丈夫なんだろうなって…だったら……」
フワ「ん?」
花陽「先に、ライさんの妹さんを助けてあげてもいいですか?」
ライ「…………」
エミ「私は構いませんが……」
フワ「どうしても引っかかっちゃう?」
花陽「ごめんなさい……でも何かあったら……」
エミちゃんにとってこの兵器の存在は1つあってもずっと引っかかる問題です
だから完全に存在を消し去る必要がある。でも、もしかしたらって考えると……
ライ「構わないからさっさと魔導兵器を処分しろ」
花陽「えっ!?」
エミ「ライ様…」
フワ「ほぅ」
花陽「いいの? 万が一これが最後になっちゃうかもしれないけど……」
ライ「そこの馬が大丈夫だと言ったのを、お前は信じたんだろ? だったら自分の心に従え」
花陽「…………」
フワ「誰が馬よっ」
エミ「ライ様……」
ライ「すでにこいつの奇跡のような力は目の当たりにした。本来なら戻らないはずのチセが戻る可能性もだ」
花陽「それは…はい。かならず」
ライ「もう叶わないと思っていた奇跡を与えられるというのに、個人の我儘でお前の手を止めるつもりはない」
フワ「あら、言うじゃない」
ライ「どっちか選べと言われたら口を挟むかもしれんがな。さぁ、あまり時間はないぞ、とっととやれ」
花陽「は、はいっ」
この場で一番チセさんの事を第一にしているライさんに背中を押されました
私以上に………私の事を信じてくれました
花陽「では、やりますっ!」
最後の1つ……。エミちゃんを縛り付ける戦争の道具……
花陽「すいません、隣の者ですが……この液体は普通の水ですか?」
シュウゥゥ…… ピカッ… キラキラ……
エミ「………………」
全部、綺麗に無くなりました
これでこの国が持つ凶悪な魔導兵器は無くなり、隣国に与える脅威もすべて失われます
もう戦争で負けているとはいえ、周辺国から見放されて孤立するのは寂しいです
これをきっかけにいい方向に動いてくれるといいのですが……
フワ「終わったわね」
花陽「うん」
――スキル「隣の観測者」――23/23
スキルの使用回数は数字がいっぱいになりました
これで使えなくなると思っていたけど、フワちゃんはどう考えているのかな?
フワ「さ、次はこの女の子を助けてあげましょ」スッ
エミ「え………あっ」
ブン ガシャーーーーン!! ドバッ
花陽「フワちゃん!?」
ライ「おい……っ!」
突然フワちゃんがチセさんの入っていた試験管に蹄を食らわせました
結構分厚そうなガラスだったと思うけど、今のフワちゃんには簡単に壊せたようです
ライ「チセ!!」ダッ
破壊された試験管からは大量の水と、そこに入っていたチセさんが崩れるように倒れこむ
しかしそこはライさんがしっかりと受け止めました
フワ「ナイスキャッチよ、お兄ちゃん」
ライ「いきなり無茶をする……」グッ
エミ「破片でチセさんが傷ついたらどうするんですかっ!」
フワ「それも含めて治すんだから問題ないわよ。呑気に蓋を外してる時間もおしいしね」
花陽「な、なるほど……」
フワ「さ、花陽ちゃん……」
花陽「う、うん……」
スキルの表示は変わらず23/23となっています
でも特に体に変化もないし、ナビ妖精が何かを伝ることもありません……
フワ「気にせず、いつものようにやってみなさい」
花陽「ん、わかった…」
ライさんの腕に抱かれているチセさんの頬にそっと手をそえる……
ふと、どういう形で蘇ってもらおうか考えます
花陽「あの……このまま生き返らせた場合、身体に何か異変とかはないですかね?」
ライ「どういう事だ?」
花陽「以前、別の人を生き返らせた時は、なくなった直後の体を死なない体に変化させたのですが…えっと……」
エミ「それなら、少し遡ったほうがいいかもしれません。魔導実験に無理やり使われたという事は、少なからず弄られている可能性もあります」
フワ「やりそうなの? そんなこと……」
エミ「あの人達ならやりかねませんっ!」キー
花陽「んー……となると……えっと、ライさん」
ライ「なんだ?」
花陽「チセさんは昔は健康で、元気な妹さんだったんですか?」
戻すのなら、そういうイメージで願えばいいのです
ライ「ああ。少しお転婆がすぎるところもあるが、いつも明るく誰にでも優しい自慢の妹だ!」グッ
エミ「ライ様……」
フワ「一番力説してるわ……」
花陽「わ、わかりました。では私が思うその頃の元気なイメージで……」
願う内容は決めました
不死身じゃないけど、きっとうまくいきます
ス……
花陽「ふぅ………すいません、隣のものですが……元気で明るいチセさんはありませんか?」サッ
いつもならチセさんの身体が光って……
エミ「…………」ドキドキ
ピカッ シュウゥゥゥゥ……
ライ「なっ!?」
エミ「光りました!」
フワ「ね、だから言ったでしょ?」
花陽「フワちゃん! やりましたっ!」パッ
ホントに23回を超えてもスキルは発動しました!
結局あれはどういう意味だったのでしょうか……スキルボードは……
花陽「あれ……?」
フワ「花陽ちゃん」
花陽「はい」
フワ「勇者のスキルはね、花陽ちゃんの中の可能性を力にするの。そこに野暮な制限なんて、本来ないのよ」
花陽「えっと……どういう事ですか?」
ピピッ
――スキルの使用回数が24に到達しました
花陽「わっ…ナビ妖精!?」
エミ「24というのはさっきのスキルの事ですよね、一体何が……?」
フワ「これも1つの可能性……どこかにあった、消えてしまった花陽ちゃんのね」
花陽「………私?」
ピピッ
――スキル使用回数が規定値に達しました
スキル「隣人花陽」の即死回避を確認
花陽「え……どういう事ですか?」
ピピッ
――「ありがとう」
花陽「っ!?」
エミ「これ……ハナヨちゃんの声ですか?」
フワ「いつかいたかもしれない、可能性の中の花陽ちゃんね」
私の中の……別の可能性?
花陽「あ…………」
――スキル「隣の観測者」――24/1000
エミ「増えてますね。それもすごくたくさん……」
フワ「保守されたからね。一つ山場を超えたって事よ」
花陽「ホシュ……?」
フワ「ふふ、いつかわかる時がくるといいわね」
えー……そこはあやふやにするんですかー!?
「………ん、ぅぅ……」ピクッ
ライ「!? チセ!!」バッ
チセ「………お兄……ちゃん?」
ライ「チセーー!!」ガシッ
チセさんが目を覚ましました
よかった、ちゃんとすべて思い描いた通りになってくれましたっ!
チセ「わたし、どうして……お兄ちゃん……?」
ライ「よかった………ホントに……」ギュッ
チセ「く、苦しいよお兄ちゃん……」
エミ「ふふ……」
フワ「よかったわね」
花陽「はい……」
初めてライさんの表情が優しさに溢れるのを拝見できました
えーっと次は………エミちゃんの死体創りですか………ぅぅ…
続くー
週末お出かけにより、次は次週になります……Zzz… 昔建てた隣人花陽スレがすぐ落ちたのを思い出してなんか泣いた
あれも一つの可能性だったのか そういうことかすげー……
よく考えられてるなあ、面白い チセ「ここどこー?」
ライ「何も心配ない……もう安心だからな…」
チセ「なにが……って、キャーー! わたしの服は〜!?」ガバッ
はい。そうなりますよね……チセさんは液体の中に裸のまま入れられていたのです
ここまで誰もつっこみませんでしたが……
チセ「お父さんとお母さんはー!? それと私の服〜〜〜!!」
ライ「ちょっと待て、とりあえず俺のマントだけでも羽織っておけ」バッ
チセ「なんなのーもう…」ガバッ
フワ「元気があっていいわね」
チセ「はわっ、馬がしゃべってるっ!」
フワ「だから馬じゃないっての!」
エミ「ふふ……さて、ハナヨちゃん、次は偽装工作のために私の……」
花陽「う、うん……わかってる……」
計画として理解もし、必要だと思うからやると決めはしました……けど
花陽「ホント言うと、なるべくなら見たくないものなので……気合がいります」
フワ「身内の死体だものねー」
エミ「ありがとうございます。そう言っていただけるのもなんだか嬉しいものです」
チセ「お兄ちゃん、この子達は? 彼女?」
ライ「違う。しかし………ん……」
ライ「なぁ、アンタ……」スッ
フワ「ん、私かしら?」
ライ「すまんがチセを外の安全なところに連れて行ってやってくれないか」
フワ「ふむ………」
エミ「あ、それがいいかもですね」
この後の事を考えると、これ以上何も知らないチセさんをこの場にいさせるのは刺激以上に危ない気がするので賛成です
ライさんにはこの後も別の役目がありますからね
チセ「お兄ちゃん?」
ライ「チセ、すまないが俺はまだ仕事が残ってるんだ。家で待っててくれるか?」
チセ「お仕事……。うん、わかった!」タッ
フワ「いい子ね。お姉さんといきましょう」
チセ「あなた女の人なの? さっきはゴメンなさい」
フワ「ん、いいのよー。外は寒いから、私の背中に乗るといいわ」スッ
ポフッ
チセ「わーあったかい〜フワフワ〜♪」モフモフ
フワ「しっかり掴まってるのよー」スッ
チセ「は〜い」ボフッ ボフッ
ライ「頼む……」
フワ「いいわよ。そっちこそよろしくね」
チセさんがフワちゃんと外へ移動したので、ここでやる事はあと一つです
エミちゃんを正式に死んだ事にして、この国が行ってきた暗躍もすべて潰えた事を周辺国に知ってもらう
エミちゃんはこれから、ちょっとエレミア姫に似ている子…という事になります。そうします
そしてこの国が生まれ変わって、いい国になったらいいな
エミ「それではハナヨちゃん」
花陽「う、うん……」
イメージとしては一応思い描いてはいるけど、これを形にするにはゆっくりと意識を集中する必要があります
私が想像する……死んだエミちゃん……ぅぅ……
エミ「ハナヨちゃん、がんばってください」ググッ
花陽「エミちゃん……」
悩んでも仕方ありません。今目の前にいるエミちゃんのために……一緒にライブをするために……
花陽「………すぅ」
フワちゃんが怖したガラスの破片を1つ手に取り、想像を創造する言葉……
花陽「すいません、隣のものですが……エミちゃんと瓜二つの死体はありませんか?」
ピカッ シュウゥゥ……
自分で言っていてすごい言葉ですがスキルは無事に発動し、手にした破片が光を放つ
それはみるみる形を変え、大きな光となり……やがて人の姿を形作る……
ライ「っ………」
エミ「すごい………」ゴクッ
花陽「……………」
ほんの数秒で、破片はエミちゃんそっくりな女の子へとなり……あれ?
エミ「…………へっ!?」
花陽「……………」
ライ「……………」
完成したそれは………服を着ていませんでした!
エミ「ハハ、ハナヨちゃん! どうして私、裸なんですか!」ガバッ
花陽「あれー?」
ライ「すごいな。よく出来ている」
エミ「ライ様ー! そんなじっくり見ないでくださいっ!!」
思い描いたのはエミちゃんの眠るような顔……体はイメージ……あっ、たしかに服を着せてないです
いつもは自分が思っていた以上に装飾がされていたり、過剰表現だったりしたのに、人型だとそうはいかないのですね
花陽「ごめんね、細かい意識がかけてたみたいで……」
エミ「あ、いえ……その、だ、大丈夫……です」
ライ「さすがに裸の死体を持ち歩くのはゴメンだぞ。いらぬ噂でもされたらかなわん」
エミ「それでは倒れている警備兵から衣服を拝借いたしましょう」
ライ「行方不明の王女が警備兵の服を着ているのも……通らないわけではないが……」
花陽「なにか服を創りましょうか?」
エミ「いえ、いくら回数が増えたといっても貴重なハナヨちゃんのスキルをそんな事で使わせられません」
エミ「ライ様、やはりお手数ですが外で倒れている警備兵から服をとって来ていただけませんか?」
ライ「構わんが、どうするつもりだ?」
エミ「大きめのコートなどで結構ですのでお願いします。この死体には私の服を着せておきますので」
花陽「ん、いいの?」
エミ「ユリカちゃんから頂いた服ですが、この際いいでしょう。あまり時間もありませんし、急ぎましょう」
ライさんが服を調達してくるあいだに私とエミちゃんとでこの横たわる子に服を着せないといけません
確かにおもったより重労働になりそうなのでさっそく……
エミ「……………」
花陽「………?」
花陽「どうしたの?」
エミ「…………」
自分の上着を脱いだところでエミちゃんがじっと横たわる自身の身体を見つめる
やっぱり思うところがあるのかな。ここは私が……
花陽「エミちゃん、服を着せるのは私が……」
エミ「いえ……平気です」
自身の身体から目を反らすことなくエミちゃんは力強く言います
エミ「今ここに寝ている私は……ほんの少し進む道が違えばこうなっていたかもしれない姿なのだと思うと…」
花陽「え………」
エミ「ほんとうに今こうしているのが奇跡みたいだなって……自分の運命みたいなものを感じています」
花陽「そう………そうだね」
10歳にしてすべてを奪われたエミちゃんにとって、今のこの時は数奇な巡りあわせのようなものがあります
ユリカちゃんのお父さん、セト村の子供達……そして私。どれ一つかけても彼女は生きられなかった
そうでなくても、今も命を狙われ続けて、逃げて、隠れる生活だったのです
花陽「これからきっと良くなるよ」
エミ「……はい」
花陽「さ、早いとこやっちゃいましょう」
エミ「とりあえず下着から………ん」
花陽「ん?」
また先と同じように自身の身体を見てる……まだなにかあるのかな?
じっと見ているその先は……
エミ「ハナヨちゃん」
花陽「なにかな?」
エミ「この子、ちょっと歳のわりに胸が大きい気がします……」
花陽「ん………ああ、ホントですね」
やっぱり過剰表現だったみたいです
その後どうにかして服を着せる事が出来ました
昔家に泊まりに来た凛ちゃんの寝起きをお世話している時の事を少し思い出します
学校に遅刻するよと、寝ぼける凛ちゃんにを着替えさせて洗面台に立たせて髪をとかしてと、色々大変です
それでもあの頃と違うのは、本当に相手が動かないとこんなにも苦労するんだなという事……
早くしないとそのうち死後硬直も始まっちゃうかもしれないので、とにかく急ぎました
花陽「………あんまり綺麗にしすぎるのも良くないし、これでいいかな」バサッ
カタッ
ライ「そっちは終わったか?」
花陽「あ、はい」
どうにか終わったところでライさんが戻られました
手にコートと小さめの毛布やタオルを持って
ライ「ん……あぁそうか。こっちが死んでいる方か」
花陽「ん?」
ライ「服を着せただけなのに一瞬どうして寝てるんだと思ってしまった。本当によくできている」
花陽「そうですね」
ライさんが戸惑うくらいです。きっと誰の目にもこの子はエレミア姫として認識されるでしょう
ライ「そういえば本人はどうした?」
花陽「………どうしたって……ふぅ」
そういうところ、デリカシーないですよっ
ライ「ああ……そうか。じゃあこの服を渡してくれ」スッ
花陽「はい。ありがとうございますっ」バッ タタッ
エミちゃんは今壊れていない試験管の裏側に隠れています
当然ですっ!
花陽「エミちゃん、これ着てください」サッ
エミ「ありがとうございます」ササッ
花陽「この毛布は薄手なので腰に巻く感じにするといいかもです」
エミ「こう…ですか、なるほど」スッ
花陽「はい、可愛いですよ」
エミ「な、なに言って……」
花陽「アイドルになるのなら、可愛い自分にもっと自信を持ってくださいね」ギュッ
エミ「あぅ…わ、わかりました……」
言ってから少しおかしくなりました
私が一番この言葉を必要としていたはずなのに……気が付けば誰かに言うようになってるなんて
花陽「……こっちの一枚は胸に巻きましょう」スッ
エミ「下着の代わりですね。なるほど…」
毛布と一緒にあった小さめのタオルも使い、万全の態勢を取ります
下着がわりと大き目のコート。ん、あまり人には見られたくないですね
エミ「早く帰ってお風呂に入って、ちゃんと着替えたいです」
花陽「ふふ、そうだね」
ライ「ん、準備はできたのか」
エミ「すみません、お待たせしました……って!」
花陽「ライさんっ!?」
エミちゃんの着替えが終わり戻ってみると、そこには横たわる偽エミちゃんのお腹に剣を突き立てるライさんが……
ライ「ん……このままじゃ死因も不明だろう。俺が殺したという事にするなら必要な処置だ」
エミ「た、確かにそうですが……」
花陽「…………」
横たわる偽エミちゃんのお腹からは血が滲みだしています
この子は私が創りだした偽物で、生きていた事もないとわかっているけど、それでも心が締め付けられそうです
ごめんね……
エミ「それではライ様はこのまま隣国へ?」
ライ「ここに魔導兵器奪取のために少数で奇襲をかけてきたエレミア姫一行を俺がどうにか撃退という筋書だからな」
花陽「……………」
ライ「大将以外は撃ち漏らしたという情けない結果だが」
エミ「そんなことありません……大きな仕事をしたとなるはずです」
ライさんとはここでお別れ……一つ、ずっと気になっている事があります
私が今お願いすれば、きっとライさんは応じると思います……言うべきでしょうか……
それとここまでの流れでもう一つ気が付いた事もあります
ライ「今は時間がないが、いずれ妹の事も含めて礼をさせてくれ」ガッ
エミ「チセさんはどちらへお連れすれば?」
ライ「王都だ。そこへ行けば家に帰れるだろう」
花陽「……………」
ライさんが偽エミちゃんを担ぎ上げる
言うなら今しかありません……
エミ「それではライ様、よろしくお願いします」
ライ「ああ。事情があったとはいえ、すまなかったな」
エミ「いえ……」
花陽「………あ、あのっ!」
エミ「?」
ライ「ん?」
花陽「ライさん…………髪の毛1本………頂けませんか?」
エミ「ハナヨちゃん、どうしたんです?」
花陽「必要………だから」
ライ「ああ、わかった」プツッ
本当にあっさりと、ライさんは私の要望を聞いてくれました
以前に話しているから、これがどういう意味なのか分かっているとは思います
エミちゃんはライさんと古いお知り合いみたいですけど、彼女は自分が狙われているとは知っていても、大事な事を知りません
ライさんがトト村、セト村を襲撃した騎士団の人達の仲間であり、実行犯でもあるという事実
彼がユリカちゃん達の仇であるという事……
花陽「……ありがとうございます」
ライ「今回の件にカタがついたらどのみち顔をだすつもりだったが……ま、どちらにせよ同じ事か」
花陽「え………」
ライ「俺は自分のしてきた事を有耶無耶にするつもりはない。妹の事が無事に済む以上、俺の目的は終わっている」
花陽「それじゃ……」
ライ「すべて受け入れて、お前達の判断に委ねるさ」
エミ「………?」
本当に……彼はまっすぐな人です……
良いことも悪いことも、自身の心に嘘偽りなく従う姿勢……
私の背中を押してくれたのも、この人が迷いなく前に進んでいるから……
道を外れなければ、きっとすばらしい騎士であったに違いありません
……それでも
花陽「わかりました。そう……伝えておきます」スッ
施設から出てすぐのところでフワちゃんが待機していました
フワ「少しかかったわね。あら、エミちゃんお着換え?」
エミ「偽装するのに使いました。少し肌寒いです……」
花陽「チセさんは………あ」
フワ「今は眠っているわ。いきなり生き返ったんだもの、無理もないけど…」
チセさんはフワちゃんの背中で静かに眠っていました
後は帰るだけとなり、道中この子を王都に送り届ける……
花陽「もう、大丈夫ですかね?」
エミ「はい。ハナヨちゃんのおかげで事は上手く進んでいると思います」
いえ、そういう事ではなくて……
フワ「もう食べても平気だけど、先に水分をとってからね。胃がビックリしちゃうわよ」
エミ「あ、そちらでしたか」
花陽「まる1日何も食べてないんですよ、もう限界は越えて妙に元気です」
フワ「それは決して良い状態じゃないからね、勘違いしてはダメよ」
エミ「す、すぐにお茶の準備を……」
フワ「もうじきこのあたりに兵隊さんくるんでしょ? 先に移動しましょう」
花陽「うぅ……もう少しがんばります」
エミ「フ、ファイトですっ」
ある程度の距離をとればすぐには問題は起きないだろうという事で、今の場所から一番近くにあって休める場所に移動します
エミ「となると、ここに来る途中にあった道を少し南下したところにある宿場ですね」
-クレスタリア領 南部
フワちゃんの背中に三人で乗りゆっくりと移動中…
少し前から感じていた事ですが、この世界の気候はとても暖かいですね
エミ「今は温暖期ですからね。後半年もすれば寒冷期がやってきます」
花陽「夏と冬があるんだね」
フワ「四季ではないのね」トットットット…
エミ「四季……? 気候が4種類あるという事ですか?」
花陽「私のいた国がそうだったんだよ。春、夏、秋、冬って」
エミ「へぇ……すごい世界ですね」
たぶん……私がここの気候をよくわかっていないのと同じくらいにはエミちゃんも理解していないかも
認識としては、別世界というよりも遠い外国の話ってニュアンスのほうがしっくりくるのかな
本当ならエミちゃんにすぐライさんの事を話さないといけないのに、他愛のない話で時間を潰す…
先に落ち着きたいというのもあるけれど、私自身どうやって伝えるのがいいか、悩んでしまいます
エミ「あ、あの光がそうですね」
エミちゃんの示す方向に町の明かりが見えてきました
宿場という事なのでこの時間でも賑やかな場所のようです
フワちゃんが宿場の近くの岩場に移動します
フワ「それじゃ花陽ちゃん、お使いお願いね」
花陽「えっ? お使い…?」
エミ「私達の中で今町中で動けそうなのはハナヨちゃんだけです。お願いできますか?」
ほぼ全裸のコートを羽織っている女の子
それに近い女の子
この世界には存在しないアルパカ……
花陽「なるほど……確かに…」
フワ「とりあえずこの子達の着る物を調達してきて頂戴。その後で宿を探しましょう」スッ
フワちゃんはそういって手綱に括りつけられている革袋を私に差し出す
中にはお金がけっこうな額入っていました
フワ「まさか無一文で旅をしていると思っていたの?」
花陽「最初は超特急の日帰りを想定していたので……」
エミ「さすがにそんな早くは……」
むぅ……甘かったようです……
フワ「こんな時間だし、場合によっては宿を先に借りて、そこに素早く移動する方法も考慮してね」
花陽「わ、わかりました」グッ
エミ「落ち着いてから、ゆっくりご飯を頂きましょうね」
それはもう、早急に!
ということで、すぐそこにある宿場へは私一人で行く事になりました
いまいち宿場という名前に馴染みがないのですが、ようはパーキングエリアのようなものなのかな?
旅人がおもに中継地点として使う小さな集落のようです
花陽「目標は服、それから宿……そしてご飯!」グゥ…
あ……少し収まってたのにまたお腹が……ぅぅ、お腹空いたよぅ……
-宿場町
町は夜だというのに結構なにぎわいを見せ、いろんな服装の人達がいました
ここが旅の中継地点というのもあって、多種多様な風貌の方がいます
特に目立つのはやっぱり武器を背負った人達
この世界の生業としてあるようなので、決して珍しいわけではないのでしょう
なにげにこの世界に来て初めて人の町というのを一人で歩く事になります
先の騒動のように騒ぎをおこして捕まる……なんてことはないようにお願いしたいです
花陽「さ、まずはお店を……」スッ
ピピッ
――対象に対する「悪意」を感知しました
スキル「無垢なる罪人」を発動します
花陽「………………」
そういえばここに来る前にフワちゃんが軽く言っていた言葉があります
フワ「たぶんナンパ野郎が声かけてくると思うけど、間違ってもついてっちゃダメよ」
もちろんそんなマネはしませんが、これ……そういう事なのかなぁ?
ピピッ
――対象に対する「悪意」を感知しました
スキル「無垢なる罪人」を発動します
花陽「え…………」
「どうした嬢ちゃん、こんな夜更けに」サッ
「一人かい? よかったら俺らと遊ばなぁい?」スッ
「キミカワイイね、こっちおいでよっ」シュタッ
ピピッ
――対象に対する「悪意」を感知しました
スキル「無垢なる罪人」を発動します
花陽「そんな………」
町の入り口に入っただけでなんでしょうかこれは……
この世界の男の人は女の子を見るとみんなこうなのかな?
それともこれも戦争の影響なのでしょうか?
それでも今は大事な情報源として、しっかり活用させてもらいましょう!
なんて、少し前の自分では考えられない思考です
以前の私なら今頃ちぢこまって何も言えなくなっていたに違いありません
少しは鍛えられたのかな?
花陽「あの、実はお店を探しているんですけど……」
「店? ここにはロクなもんはないぞ?」
花陽「子供が着られる簡単な服でいいんです。それと宿もあれば……」
「宿ならそこらに見えてる大半がそうだぜ」
「服は……旅人用の服ならあっちに店があるぜ。案内してやるよ」スッ
花陽「………………」
この人の案内で私は目的の服を手に入れられるでしょうか?
「どうした、行かねえのか?」
花陽「えっと…ゴメンなさい。自分で探します……」スッ
スキル「それ正解!」が発動しません
さっきの悪意がこの人のものもあるのなら、ついて行ってはダメです!
「おい、人が親切で言ってやってんのに……」バッ
花陽「………はぁ」
ここに来る前にエミちゃんが軽〜く言っていた言葉があります
エミ「低俗な輩には、魔術師か幻術士であることを仄めかすとだいたいが引き下がりますよ、おすすめです!」グッ
さすがにもう慣れてはきました、この流れ……
スカッ
「は?」
花陽「申し訳ないけど、私の魔術であなたは私に触れる事もできません」ジト…
「嬢ちゃん魔術師か……その若さで」
「なんの魔術だ、こりゃ?」
なんでしょうね?
花陽「お、大人しく質問に答えてくれたらお礼の賃金はお支払いします」スッ
「な、なんだよこいつは……」
「やめとけ、魔術師相手に下手はできねぇ…」
おーすごい、効果ありましたよエミちゃん!
結局あの人達が私に何をしようとしたかはわかりませんが、お金で情報は買うことが出来ました
さっきの私、アニメにでてくるカッコいい魔法使いっぽかったかなぁ?
凛ちゃんやにこちゃんの意見を聞いて見たいところです
花陽「えっと、ここ……かな?」
全部が嘘ではなかったようで、実際に旅人用の洋服店はありました
場所はもっと人通りのある方角でしたが……
けれどそのお店は……小さな明かりは店内からこぼれてはいるけど……営業してる?
花陽「でも他に探してる時間も惜しいし、はいってみましょう」ガチッ
さりげなく異世界で初めてのお買い物です!
花陽「ごめんくださーい……」ギィ…
木製のドアを引くとけっこうな軋む音が店内に響き渡ります
失礼だけど、少し埃っぽい……お掃除してるのかな?
花陽「あのー……」
夜だというのに外は旅人さん達で賑わっている。それなのにこのお店はお客さんがいません
それ以前に薄暗い明かり一つだけが奥にあるだけで本当にお店なのか一瞬わからなくなりそうです
それでも店の入り口から目にするのはたくさんの服や普段着、大き目のローブやマントが並んでいます
間違いなくお店なのは間違いなさそうです。さっきの男の人もここを教えてくれましたし……
花陽「すいませーん……」トタトタ…
パっと見ただけでも目的の物は見つかりました
小さい子供でも着られそうな洋服。シンプルで、着飾るタイプではないですが丈夫そうです
カタッ
「は、はい……」
花陽「ひゃわっ……あ、す、すいません」
突然奥のカウンターから声がして驚いてしまいました
いえ、店員さんがいるとは思っていたのですが、か細い声で元気がないというか……
「誰……ですか?」
この声……子供ですよね
花陽「あの、お客さんですよ。買いたい物があるんですけど……」ソー
声はするけど姿が見えないので、カウンターの中をちょっと覗いてみます
「ぅぅ……」
花陽「あの……」
カウンターの奥にいたのは小さな女の子。それも……かなりやせ細った……
いくら私でもこれが普通の状態じゃないのはわかります
女の子は私の姿を見ると一瞬怯えたように身を引きますが、すぐに無害そうな私の顔を見て落ち着きます
自分で言うのもなんですが、人を怯えさせるような人相はしていないと……思いますっ
花陽「服を買いたいのだけど……お店の人は……」
「……………っ」カタッ
私はお客さんで、服を待ってるエミちゃん達のためにも早く戻らないといけない
だから何も不思議な事は言っていません……なのにこの心に感じるもの……ズレのようなものは何…?
花陽「…………ええっと」
「……………」トンッ
お店の人はどこか聞くと、女の子は傍に倒れていた椅子をおこし、そこにチョコンと座ります
……あ、お店の人という事でしょうか?
花陽「服を買いたいのだけど……えっと……」キョロキョロ
「……………」ジー
どうしよう……お店の人に適当に聞けば買い物くらいできると思いましたけど…
花陽「こっちの…これ、おいくらですか?」
「……………」ジー
うぅ…値札のようなものはあるのに読めないから金額がわからない
そしてお人形さんのように椅子に座って動かない女の子からは情報が貰えそうにありません……
花陽「誰か他の人………」サッ
店の奥のほうは暗くて良く見えませんし、この子がいるのに出てこないとなるとホントにいないのかも知れません
花陽「えっと……これと……これ…」バッ カチャ
掛けてある服をいくつか手に取りカウンターの上に置く
これを買うという意思表示なのですが……女の子は微動だにしません
これではお店番というよりも、マスコットキャラのようです
花陽「これを買いたいんですけど、全部でいくらですか?」
「…………っ!?」ピクッ
花陽「あ、反応した…」
買うという言葉に反応したのか、女の子が並べられた服を手に取り……
指を……使って………数えて………あ、間違えたっぽい……最初から……
花陽「……………」
「………っ」アセアセ…
どうやら結構な時間がかかりそうです……
花陽「あの……」ゴソゴソッ ドサッ
「………っ!」ビクッ
花陽「これだけあれば、足りますか?」
「…………へ」
たぶんですけどそんなに高級でもないし、これだけあれば足りると思います
日本円で例えるなら、数千円の買い物に一万円札をだすようなもの
女の子は出されたお金に目を丸くした後、私の問いかけに答えるようにウンウンと頷きます
初めての買い物としてはなんともあっさりしたものですが、どうやら無事に買えたようです
花陽「えと……何か袋のようなものは……」
「っ!」バッ タタタ…
花陽「え………」
女の子はお店の奥に引っ込んでいきました
トトト…
「………っ」ガサッ
花陽「あ、袋を取って来てくれたんですね」
「っ………」バッ ガサガサッ ゴソゴソ
花陽「あ…ちょっ……」
持ってきた紙袋に女の子は私が買った服をまとめて放り込んでいきます
特に折りたたむこともなく、投げ込むかのようにグシャっと一纏めに……
女の子なりにちゃんと対応してくれているのだとは思いますが……ふぅ
花陽「あ、ありがとう……」
「………っ」コクッ
妙に気を使わせるお店です
お店を出たところでお釣りの存在を思い出しましたが……ん、まぁいいかな
それより次は宿を探さないと……
花陽「これはあちこちにあるって話でしたけど……」キョロキョロ…
そこらじゅうにでている看板……やっぱり読めません
考えてみればみんな私が文字を読めないのわかってるのに送り出すなんて酷くないですか!?
とまぁ軽く愚痴ったところでどうするか考えます……
ピピッ
――対象に対する「悪意」を感知しました
スキル「無垢なる罪人」を発動します
花陽「…………はぁ」
疲れる町ですね……
-宿場町の外
花陽「ただいまー」ガサッ
フワ「お帰り〜。意外と早かったわね」
エミ「おかえりなさい! お茶の準備をしておきました!」サッ
花陽「ああ……助かります……」ズズ…
空腹時のお腹に熱いお茶が染み渡る……心から落ち着きますね
フワ「随分お疲れね、やっぱりナンパされまくったのかしら?」
花陽「変な男性ばかりですよもう……あ、これ服、買ってきました」サッ
エミ「ふふ、ハナヨちゃんのような可愛らしい女の子なんて、みんな放っておきませんよ」ガサッ
花陽「普通に声をかけてくれる人が少しでもいれば違うんでしょうけど……」
結局宿を探すよりも寄ってくるナンパ男さんを対処するのに疲れて町を出てきてしまいました
フワ「それで、結局宿はまだなのね」
花陽「文字が読めないので、ここだっていう場所がわからなくて……あと付きまとわれますし……」ズズズ…
エミ「すいません、配慮が足りませんでした」
花陽「なんとか服は買えたんで、エミちゃん一緒に行って宿探しお願いしてもいいですか?」
エミ「勿論です!」
フワ「早くこの子をベッドで寝かせてあげたいわ。お願いね」
フワちゃんの懐で暖かそうに寝ているチセさん
その寝顔を見ていると、ふとあの洋服屋さんの女の子が頭をよぎる…
あんなにやせ細って……一人きりでどうしたんだろう……
花陽「……………」
-宿場町のとある宿屋
エミ「ではこの料金でお願いします」カタ…
「はいよ。大人一人と子供が二人ね……これ鍵」チャリッ
エミ「はい、確かに」スッ
「あんたらこんな時間を旅してきたのかい? 危なかったろう」
エミ「お姉さんは魔術師なんです」スッ
花陽「……………」ジロッ
「そ、そうなのか。そらすげーな……」サッ
エミちゃんの言う通りに後ろに控え、がんばって凄みを利かせていました
舐められないためとのことですが……顔が引きつってきました……
エミ「それよりも随分と賑わっているのですね。普通の宿場町だと思っていたのですが」
「ああ、今この国は変な野盗集団や賞金稼ぎがそこらをうろついてるからな。一部の旅人たちも徒党を組んでるのさ」
エミ「賞金稼ぎ? 何かでたのですか?」
「知らねーのかい? シューティングスター・エメラルドの噂を…」
エミ「……? いえ、初耳です」
花陽「…………?」
賞金稼ぎという聞きなれない言葉もそうですが、宿のご主人の話す内容に私とエミちゃんは違う意味で驚きます
それは数日前の事だそうです……
エミ「トロスタンの町に現れた謎の光……」
花陽「町中で爆発を起こしてあちこちを襲撃……」
「あくまで噂だが、近々トロスタンから賞金付きで手配書が正式に発行されるらしい」
エミ「それがシューティングスター……」
花陽「エメラルド……」
すごく………ものすご〜〜〜〜く、嫌な予感がします
エミ「そ、それはどういう人なのですか?」
「人じゃねえ、馬のようなバケモノだそうだ」
花陽「えー……」
ご主人の聞いた話だとそれは馬のような動物で、体は碧色に光っているそうです
トロスタンの町を流星のように駆け抜けた事からシューティングスターという異名がついたのだとか……
なにか色んな情報がゴチャ混ぜになっている気はしますが、おそらく……いえ、ほぼ確実にそれは私とフワちゃんでした
エミ「まさかあの時の事がこういう問題になるなんて……」
花陽「この世界にも指名手配のような事、あるんですね」
エミ「普段は南国から迷い込むモンスター相手に出されることが主でしたから…。あ、今回も一応そうか……」
モンスター? ……え!?
花陽「そ、それって……ゲームとかに出てくる……?」
エミ「ゲームがどういうものか私にはわかりませんが、異形のバケモノです。滅多に人の領域には来ませんが…」
あぁ……そういえばゲームの話を楽しそうにする凛ちゃんとにこちゃんの会話にもありました……
凛「やっぱり凛はでっかい魔獣討伐が好きかなー」
にこ「私は断然ドラゴンね! あれを大剣で叩き落すのがいいのよ!」
きっと凛ちゃん達なら異世界=モンスターとしてその存在とか考えるんだろうけど、私は今の今まで意識すらしていませんでした
でも、いるんですね……この世界にも……
エミ「私が生まれてからは目撃報告とかはあまり聞きませんでしたけどね」
花陽「それじゃぁトロスタンでの騒ぎは……」
エミ「そういうのを生業としている方々や腕試しをしたい人にはもってこいのお祭り騒ぎ……ですね」
この何気ない宿場町でさえこんなに賑わうくらいですと、エミちゃんは付け加えます
勿論実際にはそんなモンスターはいなくて、私とフワちゃんの事がなぜか同一視されて語られているみたいですが
エミ「しかし手配書ですか……どういうモンスターとして描かれているんでしょうか?」
花陽「碧色に光って走ってたのは私だし、結構な人に目撃されているはずなんですけどねー」
それ以前に光ったまま数人の方と会話もしています
万が一私の顔が手配書に書かれてたらどうしよう…?
エミ「ま、そのことは置いておいて今は先にチセさんをお連れしましょう」
花陽「フワちゃんにも一応この話しておいたほうがいいよね?」
エミ「手配される可能性としては一番可能性ありますからね……」
ゲームみたいにフワちゃんが手配書モンスター扱い……
なんだかありそうで怖いです
エミ「宿で落ち着いたらご飯ですよっ」タタッ
花陽「あ、ですね!」タッ
花陽「………………」
エミ「ハナヨちゃん?」タッ
花陽「あ、ごめんすぐ行くね」サッ
エミ「あちらに何かあるのですか?」
花陽「さっき服を買ったお店が……もう明かりはついてないなーって……」
エミ「さすがに夜も遅いですしね、今日は閉めたのでしょう」タタッ
花陽「うん…………」
あの子………ずっと一人なのかな………
-宿場町の外
フワ「あっはははは、私が賞金首に!?」
なぜかフワちゃんにはウケました、例の噂
肝が据わってるというか、随分と余裕たっぷりに受け止めています
エミ「もし手配書に顔がのってしまったら、不用意に外も歩けないんですよ?」
フワ「大丈夫よー。そんな事にはならないって」
花陽「どうしてそう言い切れるの?」
フワ「あの男にそんな度胸ないだろうって、女の勘よ」
エミ「あの男……?」
花陽「もしかして商人の人?」
フワ「噂として流れてくるのが女の賞金首じゃなく、よくわからないモンスターっていうのは、居ても居なくてもいいってことよ」
町であれだけの騒ぎが起きた以上、自警団としての立場もあり、何もなかったとは住民にも説明がつけられない
でも女一人に体よくあしらわれたなんて言えるはずもなく、丁度目撃情報のあった馬のような生物に乗っかったと、フワちゃんは言います
実際騒ぎは起きたけど、被害としては私が壊した家の壁くらいだし…
でもそんな簡単な事でいいのかな?
フワ「チラっと見た感じだけど、あの商人の家があの町じゃ一番大きかったからね、実質の支配権も握ってるんでしょう」
花陽「そういえば警察っぽい人達も使ってましたね」
上から強く言う事はなかったけど、口が上手そうだったしありえるかも
それに女の人には強くでていたし……やっぱりあまり好感がもてるタイプではありません
エミ「それならいいのですが……心配です」
フワ「その手配書とやらが発行されるのを待つしかないわね」
花陽「はぁ……」
色んな問題がありそうですけど、アイドル活動に支障がでないようにしないと
お尋ね者アイドルなんてゴメンです
モンスターいるのかよ!
じゃあまあアルパカがしゃべってもいいよね? -宿場町のとある宿屋
チセ「………んっ……ふぁ」パチッ
エミ「あ、起きましたか」モグモグ…
花陽「……………」
チセ「あれ……ここどこ?」モゾッ
エミ「宿場町の宿屋ですよ。今日はもう遅いのでお家に帰るのは明日になります」
チセ「そうなんだ……あふ…」
花陽「……………」
チセ「………?」
チセ「あのお姉さん、具合悪いの?」
エミ「え、ええ……ちょっと……」
チセさんが言うお姉さんとは毛布にくるまって横になっている私の事……
今私は……ものすごい事になっちゃってます
それはさりげなく追加されていたあのスキルの効果のせいです
エミ「チセさんも何か食べますか?」
チセ「いいの? 食べる〜!」サッ
ようやく長い一日が終わり、お腹をいたわりながらゆっくりとおにぎりを頂きました
他にも宿でだしているパンなど、簡単なものも買いこんで部屋で晩ご飯です!
と、ここでいつもと違う変化が起きました……
エミ「ハ、ハナヨちゃん……眩しいです……」クラッ
花陽「あう………」ゴォォォォ…
スキル「GOHAN屋通い」によっておにぎりを食べて今必要のないパワーアップをした私
しかしここで「空腹の度合いにより効果アップ」というさりげなーい効果により、全身光るどころではありません
いつか凛ちゃんが読んでた漫画にあったスーパーなんとか人みたいに碧色の光が炎のごとき勢いで揺らめいたのです
チセ「大丈夫ー?」
花陽「はい……」
ただでさえ噂となっている碧に光る正体不明な存在によって今町中がざわついているというのに、これでは外に出られません
光どころじゃないです
しかしこの効果、実際にすごく自身が強くなったのは感じます
単純な話だと世界の感覚が変わりました
すべてがすぐ傍にあり手に取れるような感じ、周りすべてが緩やかな波に揺れるように動きます
問題として、今そんな力は少しも必要ないという事です……
エミ「簡単なパンと紅茶ですが、どうぞ」カチャ
チセ「ありがとっ、いただきまっす」ハム
花陽「……………」
私も紅茶欲しいけど……下手に動いて毛布からこぼれ出る光にチセさんが気づいたら大変です
なので効果が切れるまでしばらくじっとしています…ぅぅ
チセ「ねえ、あなたいくつ?」モグモグ…
エミ「私ですか? 今10歳です」
チセ「1コ下か。なんでそんな喋り方なの?」ズズ…
エミ「なんで……と言われると難しいですね。自分ではこれが自然なもので…」
チセ「ふーん、なんだかお嬢様みたい。でもそんなカッコしてるお嬢様なんていないか〜」
エミ「服装はあなたと同じなんですけどね」
チセ「あはは、そういやこれあんがとね」クイッ
エミ「いえいえ」
チセ「ね、お名前はなんていうの?」
エミ「私はエミと申します」
チセ「エミちゃんか。わたしはチセ、よろしくね」
エミ「はい、よろしくお願いします」
チセ「そういえばフワちゃんは?」
エミ「あ…っと、今日はもうお休みになるという事です」
チセ「この宿にいるの?」
エミ「いえ、別の場所で休むそうです」
チセ「フワちゃんてなんなの? 馬じゃないって言ってたけど…」
エミ「あるぱか…という珍しい種族の方です。他にもいらっしゃるんですよ」
チセ「そうなんだ! お話しできるなんて、賢いんだね」
エミ「ええ、とても」
チセ「……………」
エミ「……………」
チセ「ねぇ………」
エミ「はい」
チセ「お兄ちゃんとどういう関係なの?」
エミ「えっ……」
チセ「随分と仲が良かった……というか、ぶっちゃけ怪しい」
エミ「怪しい……とは、どういう?」
チセ「彼女じゃないんだよね?」
エミ「ええ、違いますよ」
チセ「んー……」ジー
エミ「本当ですよ。ただ、昔少しお世話になったことがあるだけです」
花陽「……………」
エミ「それに、私とライさ……んとじゃ歳が離れすぎています」
チセ「それがなかったら付き合ってたような言い方だね」
エミ「そんなことは……」
花陽「……………」
じっと聞き耳を立てることしか出来ませんが、会話の内容にはとても興味がありました
エミちゃんと私とではライさんに対する印象が決定的に違うのです
これから先、私達はあの人達との間に明確な答えを出さなくてはいけません
それはエミちゃんにとってどれほどの問題になるのでしょうか……
エミ「あ、そういえば私からもお聞きしたい事が…」
チセ「んー?」
エミ「ライさ…んは、何か事故にでもあわれたのですか?」
チセ「え、何も聞いてないけど?」
エミ「そうなのですか……片腕を無くしておられたので、何か大きな事故にでもと思ったのですが…」
チセ「へっ!? お兄ちゃんそんな大怪我してたの!?」
エミ「……はい。お気づきになられませんでしたか?」
チセ「うん。正直言うと自分が裸だったのに気づいてからあんまりお兄ちゃんの方も見れなくて……」
エミ「慣れたご様子だったので昔の事なのかと思いましたが…」
チセ「え、でもお兄ちゃん先週は元気だったよ?」
エミ「先週………」
チセ「ん、あれ……というか待って、わたしいつからあんなトコにいたの?」
エミ「それは……わかりません」
チセ「てかさ、今って何月何日?」
花陽「……………」
エミ「今は……その……九月十日です」
チセ「九月!? 十月じゃないの!!?」
エミ「………はい」
チセ「あれ……なんか記憶があやふやなんだけど……1月勘違いしてない?」
エミ「それは………」
おそらく、チセさんの言う十月というのは去年の事なのでしょう
そのタイミングで彼女は兵器実験のために拉致されたと考えられます
チセ「まぁいっか、次お兄ちゃんに会ったら確認してみよっ」
エミ「そう…ですね……」フゥ
………わりと気にしないタイプのようです
-次の日
結局昨夜はそのまま三人で寝ました
エミちゃんも忙しい一日でしたから眠りにつくのはあっという間のようでした
そして次の日の朝。どうにか全身から溢れ出す光は収まってくれていましたが、おにぎりパワーは食べ時を考える必要がありますね
チセ「んー質素ね」ズビ…
エミ「そういう事を言うものじゃないと思います」パク
花陽「これはこれで味わい深いです」モムモム…
それは宿の1階にある酒場のような場所で朝食(別料金)を食べている時でした
「おい聞いたか、あの今にも潰れそうな洋服屋のこと……」
「ん、あそこがどうかしたのか?」
花陽「……………」ピクッ
ふと後ろから聴こえてくる会話に意識がもっていかれます
今にも潰れそうな洋服屋……まさか……
花陽「………………」
エミ「ハナヨちゃん、どうかしたのですか?」
花陽「ん、なんでもないです」
エミちゃんに話しかけられ、後ろの会話が一部聞き取れませんでした
しかしここは冷静を装いつつ、意識は後方に……
「…………死んでたんだとよ」
「マジかよ……」
花陽「………………」
バンッ! ダダダダ……
エミ「ハナヨちゃん、待ってください!」バッ
意識や思考が回るよりも早く、私は宿屋を飛び出していました
花陽「……そんな……まさかっ!」ダダダダ…
昨日見た女の子の顔が脳裏から離れない
どんなに考えようとしても冷静になんてなれません
死んでた……誰が……あのお店に居たのって……っ!
花陽「くっ…ぅぅ……」ダダダダ…
昨日訪れたお店の前には数人の大人がいました
皆お店の入り口に集まって何か話している……
胸がザワつく…… 喉が熱い……
花陽「………ハァ…ハァ…」フラッ
…………………いた
花陽「………ハァ、フゥ……」
大人達に囲まれるようにしてあの子がいました
自分を見下ろす大人達を見上げている……生きてる……
花陽「………………」ヘタッ
エミ「ハナヨちゃんっ! ゼェ…ど、どうしたんですか……ハァハァ…」ヨタヨタ…
花陽「………………」
あの子が無事でいる……私の早とちりだった…?
エミ「ハナヨちゃんっ!」ガッ
花陽「あっ……いえ、その……ごめんなさい」
無事………だけど、あの人達はなに?
死んだというのは……誰のこと?
花陽「ん、しょ……」グッ
エミ「ハナヨちゃん?」
花陽「ちょっと行ってきます。宿で待っていてください」タッ
ちゃんと冷静に考えてみても、あの子が死んだという疑問に対してスキルは発動していませんでした
そんな事も忘れて頭が真っ白になって飛び出してしまいました
だけどそれならあの状況はどういう事なんだろう?
花陽「あの、すいません」
「ん、なんだいアンタ?」
「あ………」
女の子と目が合うと私に気づいてくれたのか、小さく声を出しますがそれきり…
この状況がどういう事なのか、彼女自身もよく理解しきれないままに困惑しているようにも見えました
花陽「何かあったんですか?」
「アンタこの町の人かい?」
花陽「いえ、昨日このお店で買い物をした客です」
「………ああ、アンタだったのか」
花陽「………?」
集まっていた大人の人達はこの辺りのご近所さんでした
このお店はご夫婦とお子さん……この女の子一人の、三人で暮らしていたそうです
しかし先の戦争時、旦那さんが仕入先で戦火に巻き込まれお亡くなりになったと…
残された奥さんはショックで寝込んでしまったということです
花陽「…え、じゃあこのお店って……」
「奥さんが倒れてからは店はやってなかったんだよ」
「ずっと娘さんが奥さんの看病をしていると思っていたからねぇ…」
花陽「…………」
時折お店に明かりが点いているのを確認していたので、なんとかやっているのだと思っていたそうです
でも実際はこの子がお母さんのかわりにお店番をしていたと
お母さんが元気になるまで、お母さんのマネをして……あのお店を……
花陽「それじゃ……亡くなったのって……」
「結構な時間が経過していたようだけど。あの子の母親さ」
「寝たままで、衰弱してしまったんだろうねぇ…可哀想に……」
花陽「……………」
とても哀しいお話です
あの小さな女の子は看病していたお母さんが死んでいるのがわからず、元気になるまで自分が店番をしようとがんばっていたのです
やがて家の食料も底をつき、それでもお母さんが起きてくるまで一人でお店を守って……
エミ「なんという事でしょう……」グスッ
花陽「エミちゃん、いつのまに!?」
エミ「ハナヨちゃんの様子がおかしかったので着いてきてしまいました……でも……こんな事が……」
花陽「うん………」
「朝早くにうちの門を叩くから何かと思ったらよ、嬢ちゃんが薬を売ってくれって来たんだよ」
花陽「薬……お母さんのために?」
「酷くやつれてるんで、これは何かあったに違いないと、数人で様子を見に行ったのさ……そしたら」
エミ「亡くなっているお母さんを発見した…という事ですね……」
「……?」
私達の話もあまり理解できないまま、女の子はキョトンとしています
生きていてよかった……そう思っていたのに、今は違う感情で胸が締め付けられます……
花陽「……………あの」
「ん?」
花陽「この子……これからどうなるんですか?」
エミ「………ハナヨちゃん……」
「どうなるってもなぁ…他に身よりがいるなんて話は聞いた事ないし……」
「戦後の統制がまだ落ち着いてないから、どこも大変なのよねぇ…」
「物資の流通も滞ってばかりだしなぁ…」
「余裕あるとこなんてどこもねー……」
「戦争やったばかりなんだしどこもないだろ、余裕なんて…」
花陽「……………」
また戦争……。ここでもやっぱり戦争です。その影響でこんな状況になってもみんな心に余裕がありません
手を取り合うなんて考えもない……
自分や家族を守るのに精一杯なのは理解できます
でも、こんな小さな子供一人どうにもならない……しようという考えもない……
花陽「…………」
-宿場町のはずれ
フワ「あなたねぇ…………」
花陽「……………」
エミ「…………」
チセ「ちっこい〜」ツンツン
町の人に聞いて、身寄りのない子供を受け入れてくれる施設があるとすれば王都にしかないという話だったので……
「つつかないでー…」
連れてきちゃいました、女の子
この子自身、まだお母さんが亡くなった事を知りません。むしろ人の死を理解できません
そんな中あの家で一人で生きていくなんてきっと無理です
フワ「だからって……王都には確かに立ち寄るけど……その施設とやらはあるの?」
花陽「………無いです」
施設の可能性を考えて見たけど、スキルは反応しませんでした
王都にこの子を預かってくれるところはありません
エミ「え、でもこの子を責任もって王都に連れて行くという理由で預かったのでは……?」
花陽「……………」
フワ「自分で預かろうっていうのね……」
花陽「だって……誰もこの子を助けてあげられそうになかったですし……」
どの可能性を考えてもあの町でこの子を保護できる存在はいませんでした
だったらしょうがないじゃないですか……
フワ「花陽ちゃんのする事に、きっと誰も文句は言わないわ。言える立場でもないし」
花陽「そうかもしれません……けど……」
フワ「でもいい?花陽ちゃん。あなたのその優しさは、いつかきっとあなた自身を動けなくさせてしまうわよ」
エミ「………………」
花陽「ど、どういう意味……ですか?」
フワ「そのままの意味。花陽ちゃんは元の世界に帰りたいのでしょ?」
花陽「それは勿論……そうですけど……」
フワ「だったらその事を第一に考えて注力すべきなの。でもあなたはこの世界で色々なものを背負いすぎてるわ」
花陽「助けるなってことですか?」
フワ「ユリカちゃん達のためにすること、アイドル活動も良いと思う。あの子達との約束もある。でも、それ以外に花陽ちゃんは何人助けるつもりなの?」
花陽「そんなの……」
フワ「あの盗賊達を助けて、あの騎士の……名前忘れたけどアイツもほっとけない……そして今度は身寄りのない子を引き取る……」
花陽「何が言いたいのフワちゃん」
フワ「人を助けるって、簡単じゃないのよ?」
花陽「わ、わかってます……私は私にできる事があるならやりたいだけです」
フワ「……その子の人生、今日がとても大きな分岐点になるのよ。その道の先へあなたが連れて行くのに、あなたは元の世界に帰れるの?」
花陽「…………」
フワ「生きていける環境だけ用意すればいいなんて考えてないわよね?」
エミ「フワちゃん……それは……」
フワ「その子の人生に、関わろうとしているのよ、あなたは…。もしかしたらこの先もっと増えるかもしれない」
花陽「ダメ………なんですか?」
フワ「そうは言わないわ。私だってあなたのする事を否定はしない。でも、その先にあるものもちゃんと見て、考えて欲しいの」
花陽「……………」
フワ「花陽ちゃん。あなたはその子にとっての希望になるかもしれないのよ?」
花陽「希望………」
フワ「事情をある程度知っている私達だけならともかく、あなたが手を差し伸べる人達に、あなたはどう映るのか……一度考えてみて」
花陽「……………」
チセ「ケンカしてるのー?」
エミ「大丈夫ですよ」
「…………おうまさん……」
フワ「馬じゃないわよー」
-クレスタリア領内 王都への道中
エミ「どうするんですか?」
フワ「ちょっとタイミングを間違えちゃったかもしれないわねー……」カッポカッポ…
花陽「……………」トボトボ…
私達は今チセさんを王都へ送り届けるために街道を移動中です
フワちゃんの背中は三人までが限界なので、エミちゃん達が乗り、私がその横を歩いて移動です
私が宿場町から連れてきた子はカナちゃんという6歳の女の子
両親を亡くし、頼るべき親族も友人もいない境遇の子……
いくら私達が王都へ寄るといっても、普通通りすがりの人に子供を託すのをなかなか了承はしません
それでも私達がカナちゃんを連れて行くのを誰も止めることはありませんでした
花陽「………………」
私は私で、それができるならと選んだ方法です
でも、その先にあるものをちゃんと意識した事は確かに無かったかもしれません……
エミ「ずっとあの調子ですよ?」
フワ「悩むときはいっぱい悩むものよ」
チセ「ふにふに〜」ムニムニ
カナ「やめて……」
エミ「チセさん、カナちゃんのほっぺたばかり触らないでください、嫌がってます」
チセ「だって気持ちいいんだもん、触ってみる?」
エミ「私はいいです」
フワ「暴れて落ちないでよー?」トトッ…
花陽「……………」
カナちゃんにはお母さんが病気で遠いところで治療するからその間私達と暮らしましょうと言いました
ありのままを説明するのにはまだ理解しきれない事が多いですし、一人で受け止めきれるはずもありません
カナちゃんのお母さんは町の人達が丁重に埋葬すると言ってくれました
いつかすべてを理解して、受け止めきれるようになってから…会いに行って欲しいです
それまで……私が………
花陽「……………」
エミ「ハナヨちゃん、前!」
フワ「気づいてないわねー」カポカポ…
私が………どこまで一緒に居てあげられるの……?
ゴツンッ!
花陽「ぴゃふっ!?」
フワ「ちゃんと前見て歩かないから……」
エミ「だ、大丈夫ですか?」
花陽「うぅ……いたた……」ジーン…
チセ「あはは、なにやってんのー?」
いつのまにか目の前に木があったようです……ぅぅ……
フワ「考えるのはいいけど、注意はしなさいね」
花陽「はい……」
エミ「ハナヨちゃん、歩くの交代しましょう」
花陽「いえ、大丈夫です。むしろ今ので少しスッキリしましたし……」
これからの事、フワちゃんの言う通りちゃんと考えないといけません
それでも私は手が届く範囲で助けを求めている人がいるならきっと手を伸ばすと思います
少し前にも思った事です
私が元の世界に帰る時は、いつもの私…小泉花陽としてちゃんと帰るんだと
そのために無くしちゃいけないのが、自分自身……
花陽「フワちゃん、この辺りで少し休憩しませんか?」
フワ「そうね、この辺りなら見晴らしもいいし平気かしら」
エミ「それでは簡単ですがお昼の用意をしますね」サッ
チセ「わーい、ご飯だー」
カナ「……………」
花陽「カナちゃん?」
カナ「どこまで………いくの?」
花陽「えっと……私達のお家です」
カナ「カナ……おかあさんとこ行きたい……」
エミ「……………」
チセ「え、でもお母さんって…フゴッ」
フワ「やめなさい」ググ…
花陽「…………」
エミ「お母さまはどこにいても、カナちゃんの事を想ってくれています。だから……」
カナ「ん………ぅぅ」
エミ「どうか……元気な笑顔を……見せて………あげて……っ」
エミちゃんが言葉を詰まらせます
この子を連れだしたのは私で、一方的にしたことではあるけど正しいと思いました…でも……
今のこの子を元気にしてあげられるのは、きっとお母さんしかいません……
フワ「さ、まずは食べましょう。お腹がすいてちゃ気分も下がる一方よ」
チセ「その通りー!」
エミ「そ、そうですね、すぐに用意します!」ガサッ
カナ「………………」
花陽「………ありがとう、フワちゃん」
フワ「とりあえず、花陽ちゃんが元気だして笑顔でいなきゃダメでしょ?」
花陽「ん……そうですね、ハイ!」
気持ちは……笑顔は伝染するものだって、にこちゃんもよく言ってました
元気になってもらいたいのなら、まずは自分も元気をださなくちゃ、ですねっ
その後、道中は問題なく進みました
チセさんが特に明るく色んなおしゃべりをしてくれたおかげで、雰囲気は悪くなかったと思います
そして夕方頃、目的のクレスタリア王都が見えてきました
フワ「あそこね」
チセ「んー……なんでだろう、すごく久しぶりな感じ」
エミ「チセさんはずっと王都で暮らしているんですか?」
チセ「そうだよー。あんまり遠くへは行ったりしないかな。だから今も小旅行って感じで楽しいよ」
フワ「お家へは一人でいける距離なの?」
チセ「あそこは私にとっては庭みたいなものだもん、余裕だよ」
エミ「それなら大丈夫そうですね」
もうじきチセさんとはお別れです
正直チセさん本人は呑気にしていますが、1年近くも不在……おそらく行方不明だったのは平気なのかな?
チセ「え、無断外泊はいいのかって?」
エミ「一応しばらくいなかったわけですけど……」
チセ「その辺よく覚えてないんだけど、でもまぁお兄ちゃんが家に帰れっていうんなら問題ないでしょ」
花陽「そういえばそこは特に問題視していませんでしたね」
エミ「色々と手をまわしてあるという事でしょうか?」
生き返るという望みに賭けていたのか、それとも別の可能性を考慮していたのでしょうか?
チセ「なんにせよ、ここまでありがとねっ」サッ
フワ「あら、中まで送っていくわよ?」
チセ「ん、大丈夫。それにフワちゃん珍しいから、きっと見世物小屋に捕まっちゃうよ?」
冗談ぽく笑うチセさんですが、見世物小屋なんてあるんですね
本当に希少動物として狙われないかな……
チセ「あ、そうだ……」クルッ
エミ「ん?」
タタタ… ムニュッ
エミ「ひゃいっ!?」
チセ「まだまだね…」ムニムニ
エミ「なな、なんですかいきなり!」バッ
チセ「お兄ちゃんはね、胸はおっきいほうが好きなのよ」
エミ「か、関係ありませんっ!」
チセ「ふふ、がんばってね〜」タッタッタ…
こうしてライさんの妹、チセさんは王都へと帰っていきました
フワ「賑やかな子だったわね」
エミ「………むぅ」
花陽「あはは、そうですね」
なんとなくですがリホちゃんとすごく気が合いそうだなーと思いました
…………ん?
エミ「…………」ジー
花陽「エ、エミちゃんなに?」
エミ「いえ、なんでもないです……ハァ」
フワ「うふふ、若いっていいわね〜♪」
このSS読んでると塩のおにぎりが食べたくなって困る -東の国境沿い 街道外れの川辺
フワ「ついたわよー」カポッ
エミ「ん……ふぁ……」
花陽「カナちゃんはまだこのまま寝かせておいてあげてね」トンッ
フワ「いい感じの揺れ具合をだしておいたから、ぐっすり眠ってるわよ」
途中から私達三人を乗せたフワちゃんが程よい速度で街道を駆け抜けてくれたおかげで何とか夜には帰ってこれました
出発時と変わらずすぐそこに女子寮と男子寮があります
フワ「さっきギンに連絡入れておいたから、もう出迎えがくるはずよ」
花陽「連絡……そんな事ができるの?」
フワ「同種族間の念波みたいなものよ」
私の知らない便利な特技を持っているようです
ユリカ「ハナヨちゃんっ!」ダッ
花陽「ユリカちゃん、ただいま」
ユリカ「おかえりなさい。みなさんよくご無事で…」ササッ
ギン「戻ったか…」ザッ
エミ「ギンさん、ただいま戻りました」
フワ「お留守番ご苦労様」
ギン「ん、問題ない」
女子寮からユリカちゃん、男子寮からはギンさんが出迎えてくれました
細かい事以外には大きな問題はなかったという事です……
細かい問題はあったんだ
ユリカ「………ハナヨちゃん、そちらの子は?」
花陽「あ、今は寝てるから起こさないであげて」
エミ「ハナヨちゃんが保護した戦災孤児です」
ユリカ「まぁ……」
フワ「二階のベッドに運んであげて」
ユリカ「わかりました。あ、みなさんの晩ご飯の用意はしてありますので…」
花陽「ありがとう」
ユリカちゃんにカナちゃんを託し、私はギンさんに男子寮の様子を聞いてみました
いちおう仕事は頼んでおいたけど、丸1日ずっとそれをやっていたわけでもないでしょうし…
花陽「え……みんな潰れてる?」
ギン「正確には1人残して他、全員だな…」
エミ「なにやってるんですか…もぅ」
昨日からお金の洗浄と買い出しを頼んであったと思うのですが、どうやらみなさん欲望にストレートだったようです
ギン「ひさしぶりの酒だったのだろうな」
エミ「買い出しついでに大量のお酒を買いこむなんて……」
花陽「それで、今日はずっと1日宴会のように騒いでいたと……」
確かに金銭的余裕はありますが……いいのかなぁ?
ギン「ユリカの奴がそれを許可していたんで、俺からは何も言うことは無い」
花陽「ユリカちゃんが?」
ユリカ「はい。私にいいのかどうか聞かれたので、許可はだしました」
と、ユリカちゃんがシチューを温めなおしながら答えてくれました
しかしそれにも考えがあってのことだそうです
アイナ「やるべき仕事はきっちりやってくれたし、私達…ってかハナヨちゃんにつく利点も体感したほうがいいって事じゃない?」
エミ「なるほど……流れるようにハナヨちゃんに従う道を選んだ事を良いものと感じて頂くために」
ユリカ「……私としてはお仕事がんばってくれたお礼のようなものだったんだけど、そういう認識でもいいのかな?」
アヤ「それでも連中、働いたあとの酒は最高だって、喜んでたし、いいんじゃない?」
トトトッ
スズ「あの子の着替えはすんだよ。起きたら一度お風呂に入れてあげた方がいい」
リホ「髪ボサボサだったー」
パイ「細かったー」
ヨシノ「あの子もここに住むの?」
花陽「うん、カナちゃんて言うの。事情があってね……仲良くしてあげてね」
ユリカ「戦災孤児というと、あの子のご両親はもう……」
アヤ「今のこの国じゃ珍しい事じゃないからね…」
みんなカナちゃんの境遇と自分達の境遇を重ねているのか、少し空気は重く感じる
それでもここにいるみんなとなら、カナちゃんもきっと笑顔になれると信じています
パイ「ハナヨちゃんがあの子を助けてあげたのね」
リホ「さすがハナヨちゃん」
花陽「あはは、ありがと」
みんなが私に思う感情はとてもありがたいもので、私達はお互いを必要とする存在です
私だってみんなのおかげでたくさんの元気を貰いました
カナちゃんがこの先どういう生き方を選ぶかはわかりませんが、私は出来る限り手助けしてあげたいと思います
サササッ
ヨシノ「ん………」
花陽「どうしたの?」
ヨシノ「優しいハナヨちゃんに、ご褒美〜」スッ
花陽「あはは、ありがと。何かくれるのかな?」
チュッ
花陽「……………え?」
ヨシノ「ん……いい子いい子」ナデナデ…
リホ「あ、チューした!いいな、わたしもやるっ」サッ
パイ「ぱいもー」バッ
気が付くと、リホちゃんパイちゃんに左右から挟まれ、膝の上にはヨシノちゃんが……って、今!
花陽「ああ…あの……」
ユリカ「もう、みんなハナヨちゃんが大好きなのはわかるけど、お食事の邪魔はしちゃダメよー?」
ヨシノ「食べさせてあげるの」スッ
花陽「い、いえ…それくらいは自分で……」
リホ「遠慮しないのー」グイ
パイ「ハナヨちゃん、柔らかい」プニプニ…
え、ちょ…急にどうしちゃったの!?
ユリカ「あらあら、みんな甘えちゃって…」
スズ「ほどほどにな」
ユリカさんが言うには、私がカナちゃんにしたことが本当に嬉しく思った子供達なりの愛情表現なんだとか
さりげなくキスされちゃいましたけど、まぁ……可愛いものでしたし、いいか……
……と、油断していた時でした
ガラッ トタタタタ…
花陽「へ?」
リホ「ハナヨちゃん、体洗ったげるっ!」バッ
ヨシノ「あたまワシャワシャするの」スッ
パイ「せなかゴシゴシする!」ババッ
花陽「お、お風呂くらい一人ではいれます〜〜!」
-夜 女子寮1階 居間
花陽「ふぅ……違う意味で疲れました……」
ユリカ「ふふ、お疲れ様です」
エミ「大人気でしたね」
スズ「それでハナヨちゃん、あらためて話というのはなんでしょう?」
アヤ「アイドルのライブの話?」
アイナ「ライブ映像っていうのならけっこう見たよ」
花陽「その話もしたいのですけど、今は別の話です」
みんなとライブをするための本格的な活動計画もしないといけません
しかし今は、みんなが抱える一つの重要事項をどうにかしないと……
花陽「えっと……最初に、感情的にならず落ち着いて話をするって事だけ、お願いします」
ユリカ「それは……まぁ」
スズ「…………」
それでもきっと……無理かもしれないけど……
花陽「まずはユリカちゃんにこれを……」ス…
ユリカ「これは、ハンカチですか?」
花陽「それに包んであるものを…」
エミ「………?」
ユリカ「これは……髪の毛………えっ!?」ドキッ
スズ「まさかそれ……奴らの?」カタッ
アイナ「見つけたの!?」
アヤ「っ!」
エミ「………え?」
花陽「落ち着いてください。まずは私の話を聞いてください」
ユリカ「これをどこで……?」
エミ「ハナヨちゃん、それってライ様の……?」
花陽「……………」
私はエミちゃんのために魔導兵器の研究施設に訪れた時の事を詳しく話しました
みんなにとっての仇……元王国騎士団に所属するライさんの事を……
エミ「そんな………う、嘘ですっ!」ガタッ
花陽「エミちゃん、さっきも言った通り、感情的にならず落ち着いて……」
エミ「これが落ち着けますかっ! だってライ様がそのような非道なまね、するはずがありません!」
アヤ「なんなのそのライ様って。エミちゃん、あいつらと知り合いなの?」
ユリカ「アヤ……あなたも少し落ち着きなさい」
アヤ「…………フン」
アイナ「ほら、お茶でも飲みな」スッ
エミ「すみません、ありがとうございます」
ライさんがどういう経緯で村にいたのか、エミちゃんもわかっていると思います
それでも起こった事は事実であり、ライさん自身がそれを認めています
この問題はユリカちゃん達自身が納得のいく答えを出さないといけないと思います
だからすべて話しました。その先にあるものを私は見届けないといけません
花陽「……………」
ユリカ「では今そのライという方がエミちゃんの死亡という偽装工作のために動いてくれているのですね」
エミ「そうです。あの方は信用できます!」
アヤ「どういう関係なの?」
アイナ「何年も会ってなかったんでしょ? どうしてそこまで…」
エミ「…………」
エミ「ライ様は………政略的のものですが………私の婚約者だった方です」
花陽「えっ……」
ユリカ「こ、婚約者……ですか」
エミ「ライ様の家は元々名高い騎士の家系で、私は王族といっても末端の役目なんてほとんどない位置でしたので都合のいい話だったのでしょう」
スズ「だからって、まだ子供にそのような……」
エミちゃんにとってはその話は形式的なものでしかなくても、ライさんと知り合えた事として良い記憶となっていました
エミ「10以上も歳の離れた私に、あの方はとてもよくしてくださいました」
アヤ「10って……そんなに……」
ライさんの事を話すエミちゃんは、とても穏やかな顔をしています
エミ「当時から型にはまった生活ばかりの私に、あの方は唯一普通の女の子として扱ってくれました…」
花陽「同じ年頃の妹さんがいたおかげで接しやすかったのかもしれないね」
エミ「そうですね。当時の私はそれがとても嬉しくて、会える日を心待ちにしていました」
アヤ「好きだったの?」
エミ「……………はい」
アイナ「それって、今もって事?」
エミ「それは……。自分でもよくわかりません……」
アヤ「ふーん……でもさ、もう今はそういう話じゃないんだよね」
エミ「アヤさん……」
アヤ「私はあの時の連中を一人も許すつもりはないよ、絶対に!」
ユリカ「それは私もです」
アイナ「そうだね、そこは私も同意見」
スズ「同じく」
エミ「……………」
アヤ「エミちゃんはあいつらを許すって事?」
エミ「いいえ、私もそれは通らない事を理解しています……」
ユリカ「ライ……さんが私達に対してすべてを委ねるとおっしゃっているなら話は早いです」
スズ「他の仲間の所在を教えてもらえるかもしれません」
アヤ「そうだよ、そうしたらあいつら全員殺してやれるっ!」
花陽「……………」
ユリカ「…………」
アイナ「…………」
スズ「…………」
アヤ「ど、どうしたのみんな……まさかみんなもあいつらを許すつもりなの!?」
ユリカ「そんなワケないよ。でも……その方法はアヤちゃんとは別……」
アヤ「何言って……」
アイナ「アヤは、アイツら全員殺してやりたいって、思ってるんでしょ?」
アヤ「当たり前じゃない!」
ユリカ「それじゃ……同じになっちゃうよ……」
エミ「…………」
アヤ「同じって……何よそれ…そんな綺麗事……ユリカちゃんがそれを言うの?」
ユリカ「アヤちゃん……あのね…」
アヤ「私の気持ち知ってるくせに! 見てたくせに! ユリカちゃんだけには言われたくないっ!!」ダッ
アイナ「アヤっ!」
スズ「私がっ……」
花陽「待ってください。アヤちゃんには私が。みなさんは話し合いを続けてください」サッ
エミ「ハナヨちゃんっ」
ユリカ「お願いします、ハナヨちゃん」
やっぱりこうなっちゃいましたけど……ここにいるみんなの気持ちがどれ一つ否定できません
抱える問題は同じだけど、その重みはみんな少しづつ違っていて、求める答えはたくさんあります
それでも選ぶべき答えを出さないといけない
-女子寮外
花陽「えっと……」キョロキョロ
家を飛び出したアヤちゃんを探しに出ましたが、アヤちゃんはすぐに見つけられました
花陽「アヤちゃん………」ザッ
アヤ「……………」
アヤちゃんは家のすぐ近くにある川辺に座り込んでいました
蹲り、水面に映る月をじっと見つめているよう……
川の流れる音と玄関付近で寝ているフワちゃんの寝息だけが辺りをつつみます……
花陽「………隣、お邪魔しますね」スッ
アヤ「………ハナヨちゃん」
同じように私も座り、なんとなく視線を夜空に向ける
私が本当の意味でアヤちゃんに寄り添うなんて事はできないけど、少しでも想いを感じられれば……
花陽「あの、アヤちゃん……」
アヤ「ハナヨちゃんも、復讐なんてやめるべきだって思う?」
花陽「え……ん、どうかな……それは私にはわかりません」
アヤ「そうよね。あんな目に遭わない限り、人ってそういうものよね…」
花陽「ん……………」
アヤ「連中にはきっちりと責任、落とし前はつけてもらう。この考えはみんな同じ……でも私は…」
花陽「どうして……その……アヤちゃんは…」
アヤ「…………」
どうしてもこの部分だけがひっかかる……恨むのは当然の事かもしれません
けれどここまでの生活の中で少しづつ変化するものはみんな多かったと思います
だけどアヤちゃんのこの芯の部分……ここだけはずっと揺るぎません
アヤ「わからないって顔してる」
花陽「えっ……うん……」
アヤ「しょうがない……それじゃ…」スッ
花陽「ん?」
アヤちゃんは立ち上がると私に背を向けます
そして着ていた上着に手をかけると、ゆっくりと脱ぎ始めました…
花陽「アヤ………ちゃ……」
アヤ「みんなは知ってるんだけどね、ハナヨちゃんにも見せてあげる……」スル…
月明りの中……アヤちゃんの背中に……それはありました……
花陽「それ………」
アヤ「これがある限り、私は絶対に諦めることはないんだよ…」
アヤちゃんの背中……肩から腰にかけて斜めに大きく、刃物で切り裂かれた傷跡があります
その周りには無数の細かい切り傷……背中全体を覆いつくすほど広がっていました……
そのあまりの衝撃に私は言葉を失います
花陽「…………」
アヤ「ごめんね、さすがにきつくて…前は見せたくないんだ」
花陽「………っ」
アヤちゃんがこの状況で私に見せてくるのなら、疑う余地はありません
これは村が襲撃されたときにつけられた傷……
アヤ「酷いもんでしょ……」スッ
花陽「ん………」
言葉だけで想像していた惨状よりも、そこにある現実は違う衝撃を私にもたらします
以前に一度、本気で殺されそうになった時に感じた深く、冷たいものが背筋を伝う……
彼女は本気で殺されそうになった経験がある
花陽「…………それ…」
アヤ「ん…今日は少しだけ冷えるね……」バッ
そういってアヤちゃんは服を着なおすと、私の隣に腰を下ろす
私はまだ感じたものを言葉にすることができません
何も言えなくなります……何を言っても絶対に気持ちが同じになるなんて事が無いから……
私じゃアヤちゃんに寄り添う事は出来ないと思いました
アヤ「……………」
花陽「……………」
アヤ「ハナヨちゃんも気づいていると思うけどさ、私ソラの事が好きなのよね」
花陽「へっ? あ、ああ……はい、それは……」
アヤ「ま、わかるよね。別に隠してないし」
アヤちゃんのソラくんに対する接し方は可愛い弟とかそういう部類ではないのはわかります
ちゃんと女の子として、アヤちゃんはソラくんの事が好きなんだと思います
でも、どうして今それを……?
アヤ「小さい頃からね、友達の弟ってだけじゃなく、好きだった。可愛いとこも生意気なとこも全部」
花陽「ん……」
アヤ「ソラは見ての通り私の事はたくさんいるお姉ちゃんの一人って意識だけどね」
花陽「年上のお姉ちゃん多いですもんね」
アヤ「私も冗談まじりに将来はソラのお嫁さんになる〜なんてあちこち言いまわっててね、若かったわ」
花陽「あ、はは……」
アヤ「周りのみんなも、将来私達はそうなるんだろうなって、思ってくれてたみたいでね……」
花陽「公認なんですね、いいな……あっ」
口にしてすぐに間違った事を言ってしまったと思いました
今の状況はこれが叶わなかったからあるものなのに……
アヤ「いいよ、そんなに気を使わなくても。終わった事だし」
花陽「……………」
アヤ「そう……終わっちゃったんだよ」
アヤちゃんは淡々と話します
あの日、突然村にやってきた野盗の集団によってすべてが奪われた事……
アヤ「ホントに突然で、何もかもあっという間だった。村に火がつけられ、みんな殺された…」
花陽「…………ぅぅ」
アヤ「父さんも母さんも、目の前で殺されたの」
村の大人達もほとんどが殺されたと聞きました
聞いているだけでも心が痛い……
アヤ「あちこちで人の悲鳴や野盗の笑い声が飛び交う中、必死に逃げて、逃げ回って……」
花陽「………」
アヤ「そんな中ですぐ頭に浮かんだのはソラの事だった。無事なんだろうかって」
アヤ「ソラの家のドアを開けた時に、野盗の奴らに見つかってね……」
花陽「…………」
アヤ「振り向く前にもうバッサリよ……よく即死しなかったものね。あ、さっきの傷ね」
花陽「う………ん…」
アヤちゃんなりの気遣いなのか、淡々と話す中にも軽めの口調がまじる
アヤ「そのまま家の中に倒れこんで、あぁ…私ここで死ぬんだって、そう思った……」
花陽「酷い……」
アヤ「ホントよ……でも、私は死ななかった……」
アヤ「痛いってより熱いって感じで、私が苦しんでるのを野盗の奴が見てた……それでね…」
花陽「え………」
アヤ「突然私の着ている服を強引に引き裂いたの」
花陽「……………」
アヤちゃんの言葉を理解する
考えたくない事なのに、光景を想像させる……アヤちゃんは……
アヤ「私もね、何をされるかすぐに理解したから必死で抵抗したの。そうしたら暴れるたびにナイフで……ね」
花陽「っ………く……ぅ」
こんな事すらも淡々と口にするアヤちゃんの辛さがあまりにも大きすぎて、考えるのも嫌になるくらい……痛い……
アヤ「でもねハナヨちゃん。そんなのは別にいいのよ……いや、良くはないけど、やっぱり大きな問題じゃないの」
花陽「そんな……だって……」
アヤ「私にとって一番きつかったのは……体を汚された事じゃない……もっとも大切にしたい未来を潰された事なんだよ」
花陽「未来……一番大事な……」
アヤ「私が抵抗しなくなって、野盗の奴が事をはじめた頃にはね、もうどうせこのまま死ぬんだろうって、諦めた…」
花陽「……………」
アヤ「そうしたらね、目が合ったの……」
花陽「目……?」
アヤ「家にある大きなソファの下にね、ユリカちゃんとソラが隠れてたの……」
花陽「……………」
体中の感覚が痺れ、震えあがっていく……
私の陳腐な想像力でさえ、そんなの……嫌です…考えたくありません
それでもアヤちゃんは話を止めることなく、変わらない口調で続けます
アヤ「ユリカちゃんが必死にソラを抑えつけていたのを覚えてるよ……すごい顔してた」
花陽「アヤちゃん、もういいよ……」
アヤ「ん、私の言いたい事はその後の事なんだよ」
花陽「後……?」
地獄のような出来事、惨状さえもアヤちゃんはまだ違うと言います
アヤ「いつどのあたりで自分が気を失ったのかわからないけど、気が付いた時はベッドの上だった」
花陽「………」
アヤ「後で聞いたら、スズが助けてくれたらしいんだよね」
花陽「そ、そうなんだ……」
アヤ「もう全身包帯グルグル巻きにされてた。視界も悪いし最悪だったよ……」
花陽「よく無事だったね……」
アヤ「ん……みんなが必死に手当てしてくれてね、命を繋ぎとめてくれたの」
花陽「そう……」
アヤ「動けない私の手をね、ずっとソラが握ってくれてたの」
花陽「ん、ああ……」
アヤ「そうしてね、あの子が言うの……助けてあげられなくてゴメンって……」
花陽「…………」
アヤ「ホント生意気よね、ソラがでてきても何かできたわけでもないのに……ね」
花陽「…………」
アヤ「でも………嬉しかった。ソラの気持ちが伝わってきて。ただ手を握り返す事しかできなかったけど」
アヤ「でも私はそこである事に気がついて、嬉しかった気持ちが一瞬で消し飛んだ…」
花陽「……え?」
アヤ「ソラがね、泣きながら言うの……絶対に仇を取ってやるって……」
花陽「ソラくんが……」
アヤ「わかる……ハナヨちゃん?」
花陽「え……?」
アヤ「私はソラにそういう負い目を感じさせて、トラウマにしちゃったの……私とソラの間にはあの時の出来事が一番強烈に焼き付いてる」
そしてアヤちゃんは、もっとも大切にしていた気持ちさえも淡々と口にして続けました…
アヤ「もう私の'好き’は絶対にソラには届かない……私の生きる目的はそこで途絶えたの」
花陽「そんなこと、ないんじゃ……」
アヤ「ううん。ソラの事よくわかるもん。あの子は優しいから、きっと私の気持ちに応えようとしてくれる……でもね、それって違うのよ…」
ソラくんがアヤちゃんに対して生涯消える事のない負い目を感じている事で、アヤちゃんの純粋な気持ちは届かない……
それは二人の間に決定的な壁として残り続ける
アヤちゃんが復讐を絶対に止めない理由としてこの部分がもっとも大きく影響しているのだと思いました
アヤ「私が思い描く未来はもう絶対に来ない……だったら私って何のために生きてるんだろうって考えてね」
花陽「そんなの他に……あ、いえ……」
アヤ「いくらでもあるって言いたいんだよね? みんなも言ってた」
花陽「ぅぅ………」
アヤ「でも私にとってソラ以外に生きる理由なんてないの。ハナヨちゃんを元の世界に送り届ける過程で死んじゃっても、それはそれでいいと思ってた…」
花陽「え、でも…将来はソラくんのお嫁さんだって……まだ諦めてないってことじゃ」
アヤ「無理に決まってるでしょ。ハナヨちゃんにはわかんないよ」
花陽「ぅぅ………」
アヤ「だからね、私に残された出来る事を考えたの。そうして出した答えたが復讐……」
花陽「それは、自分のため?」
アヤ「ううん。ソラに仇を取るっていう誓いを叶えさせてあげるの。そうしたらソラの中で一つの悲願は達成できるでしょ」
花陽「そうかもしれないけど……」
アヤ「それとね、勇者のスキルっていうのが私にはよく理解できてなかったから深く考えてなかったけど…今は少し後悔してる」
花陽「えっ!?」ドキ
アヤ「どうせなら死なない身体より、私かソラの記憶を消して欲しかったっていうのが本音っ」
花陽「それは………ごめんなさい」
アヤ「ハナヨちゃんは悪くないよ。現実的な問題としても今みんなが笑顔でいられるのってハナヨちゃんのおかげだし」
花陽「それでも……ちゃんと話を聞いていれば違う道も……」
アヤ「それは今だから言えるだけで、きっとこれが正しかったって、いつか言えるよ」
花陽「アヤちゃん……」
アヤ「私も感謝してるよ。私だって他のみんなは好きだし大切だからさ……でもね」
ずっとここまで自分の感情を押し殺すように淡々としていたアヤちゃんの感情がここにきて揺らぎました
それはずっと主張してきたアヤちゃんの生きる目的……
アヤ「例えハナヨちゃん達が反対しても、私はあいつらを殺す事はやめないよ。一人になってもね!」
花陽「アヤちゃん……」
アヤ「それでもまだ、私を止める? ハナヨちゃん……」
正直、同情や哀れみなんて簡単な言葉では決してアヤちゃんの気持ちは理解できないし、寄り添う事も出来ない
その固い決意を打ち破るには、同じくらい固い決意がないと不可能です
花陽「私と一緒にアイドルのライブをやってくれる話は、嘘ですか?」
アヤ「ん、嘘じゃないよ。みんなが楽しそうにしてるならそれに協力するのは嫌じゃないし。ただ、優先順位が違うんだよ」
花陽「そうですか。でも私はみんなとアイドルをやりたいです。そしてアイドルは誰かに夢や希望を与える存在です」
アヤ「ハナヨちゃんにピッタリだね」
花陽「ありがとうございます。でもそれは、他のみんなも一緒です。勿論アヤちゃんも必要なんです」
アヤ「……………」
私がみんなを心から助けたいと思って考えた唯一の方法であり、そのために必要ならなんだってやります
エミちゃんの問題だってなんとかなったんです。だから私だって諦めません
花陽「ハッキリ言います。アヤちゃんに誰かを殺して欲しくありません。復讐は諦めてもらいます」
アヤ「私もハッキリ言うわ。それなら私は私で好きにやるから、ここを出ていく、この傷に誓ってね」
花陽「それもダメです。アヤちゃんの行動は違う誰かを悲しませる事になりますから……だからアヤちゃん…」
アヤ「…………なによ」
花陽「私と……ケンカしましょうっ!」
このかよちんどんな問題も真剣に考えてるし、色んな価値観を尊重した上で自分の信じる善意を貫こうとしてるから安心して読める
頑張れかよちん…… アヤ「ケンカって……殴り合うの?」
花陽「そうですっ!」
凛ちゃん達が読んでいた漫画にもありました
お互い譲れない意見があるときは拳で語り合うのだそうです!
そしてそれが終わるころには二人の間に芽生える友情……!
打ち解け合い、心が通うのです!
アヤ「え…無理……やる意味がわかんないし、勇者に勝てる気なんてしないし……」
花陽「あれ………」
アヤ「どうせあれでしょ、勝ったら言う事聞けとか、そういう事いうんでしょ?」
花陽「え……あ……まぁ…はい」
アヤ「やるわけないじゃん、そんなの」
花陽「で、ですよね……」
普通に考えてもこのノリが通じる相手じゃないのはわかるのに…ぅぅ……
正直どうやってアヤちゃんの意識を変えられるのか、いい考えが思い浮かびません
花陽「ぬー……ぅぅー…」
アヤ「……………」
気持ちとしてはみんなの事は好きでいてくれているのに、その感情はすごくドライ……
すべてはソラくんとの事、たった1つ……それだけでアヤちゃんの優しさや愛情が塞き止められています
それはとっても哀しい事なんです……やっぱりダメ……
花陽「んん……」
アヤ「ぷふっ……もう、なんて顔してんの」
花陽「……えっ?」
アヤ「私の事でそんな顔しないでよ」
花陽「……だって」
アヤ「ハナヨちゃんが真剣に考えてくれてるのはわかってるよ。ただ譲れないだけ」
花陽「それはわかります……でもそれは…」
アヤ「私も同じって言いたいんでしょ?」
花陽「……はい」
だからお互い引けないのに、アヤちゃんの主張はみんなを悲しませる事になってしまう
アヤちゃんもそれをわかっているのに、少しだけ自棄になっているような印象も受ける……
まぁその原因が……
花陽「…………っ?」ハッ
アヤ「ん、どうしたの?」
花陽「………………んん?」
アヤ「私の顔になにかついてる?」
花陽「……………」
ちょっと引っかかった部分があるので、それを組み込んで一度予想します
もしかしたらこれでアヤちゃんとケンカできるかもしれません
いやまぁ……ケンカしたいってわけじゃないんですけど、これしか方法がないのなら……
花陽「……………」ジー
アヤ「……ちょっとホントになんなの?」
ピピッ
――スキル「それ正解!」が発動しました
花陽「あっ……いけた」
アヤ「え、いまのってなんかヤバイスキルなんじゃ?」
花陽「ヤバくはないですよ、ただ自分の考えがうまくいくよって、背中を後押ししてくれるのですっ」
ということは……ふむ
アヤ「うまくいくって……今の状況だと私は嫌な予感しかしないんですけど?」
花陽「ふふ、もう怖いものなしですよっ」サッ
アヤ「あ、そんな嫌らしい顔もできるんだね」
花陽「アヤちゃんにとってもきっとプラスになるはずですっ」
アヤちゃんの考える理想というのが、ソラくんとの関係です
村での出来事がトラウマになっていて、それがずっと心にひっかかっていると……
でも、スキルのおかげで分かりました
トラウマになっているのはアヤちゃんのほうです
花陽「どんなに強い言葉で言いきっても、根っこの部分…心がずっと沈んだまま。だからアヤちゃんっ!」ガッ
アヤ「は、はいっ!?」
花陽「ソラくんにちゃんと告白しましょう!」
アヤ「えっ………は、はぁ!?」
花陽「あ、いやでも…アイドルになるなら恋愛はダメなんでしたっけ?」
アヤ「な、何言ってのよバカじゃない!?」
花陽「顔が赤くなってますよ」
アヤ「うるさいっ! しないわよ絶対!」
花陽「どうしてしないんですか?」
アヤ「どうしてって……さっきの話聞いてなかったの!?」
花陽「周囲にもバレバレなくらいソラくん大好きアピールしてたことですか?」
アヤ「違うわよっ!」
花陽「わかってますよ。あえて明るく話すようにしてたんですよね」スッ
アヤ「そんなわけっ……」
ギュッ
花陽「ごめんなさい、意地悪な事いって…」
アヤ「だからそんな……」
花陽「いいんです……ちょっとズルイ方法でしたけど、気づいてあげられたから……」
アヤ「……っ!」
さっきだってそうです。私がアヤちゃんの事を本気で悩んでいるのを知ったから、あえて明るく見せてくれました
みんなの前でもそう……。誰もが心の奥底で悩み苦しんでいる事を最初に口に出して、意識させてくれます
本当は、あの中で誰よりも復讐なんて望んでいないのに
花陽「ホント……私よりよっぽど優しいんですから……」ギュゥ
アヤ「ぅ………言わ………ないで……っ」グッ
ソラくんが大好き……そして同じくらい、みんなの事が大好きなアヤちゃん
みんなを悲しませないために、自身の苦しい部分を飲み込み続けたアヤちゃん
ソラくんに意識させているなんて嘘…。ホントはそうなる現実が怖くて仕方ないんだよね
花陽「でもねアヤちゃん。友達や家族……どれも大切な人達だからこそ、アヤちゃんが辛いのを助けてあげたいんだよ、みんな」
アヤ「ぇぅっ……だって……私、そんなキャラじゃないし……私が泣いたら……みんな……」
花陽「一人で苦しみ続けるキャラなんて、もうやめちゃいましょう。そんなの誰も嬉しくありません」
たった1つ……スキルのおかげで知る事ができたものがあります
それはソラくんとアヤちゃんの関係が今より良いものとなるかどうかです
本当にソラくんにとってあの時の出来事はトラウマになるほど重いものなのか
もちろそんな軽い出来事だったわけじゃありません。それでも若いソラくんにとって憤りを感じるには十分でも重荷になっていたのでしょうか?
答えはノーです
ソラくんだって悔しくて辛い体験だったでしょう
でも、それでアヤちゃんに対して壁を作るなんてことはないんです。なんか話だけ聞いてるとすごい鈍感さんなようですし
そしてそれをアヤちゃんもよくわかっています
じゃあどうしてこういう態度を取るのか……それが答え
すべて、アヤちゃんがみんなのために作ってくれたキャラクターなのです
もしかしたら昔からそうあろうとしてきたのかもしれません
花陽「さあアヤちゃん、さっきも言いましたけど、ケンカしますよ!」
アヤ「………ふぇっ?」
だったら私が助けてあげられる方法は、やっぱりこれしかありません!
今シャッフルでちょうど君くせが流れてきてぴったりすぎる
乙 少し緊張しているのがわかります
アヤちゃんを抱きしめるが震えている……だけど、やるんですっ!
花陽「こうでもしないと、アヤちゃんは曝け出せないと思いますからっ」グッ
アヤ「………?」
パァァァァン!!
アヤ「っっっ!?!?」ヒリヒリ…
突然私にビンタされてさすがのアヤちゃんも呆けてます
凛ちゃん以外の人をぶったのは初めてです
こっちの手も痛い…でもここで止めたら意味がありません、ごめんなさいアヤちゃん
花陽「アヤちゃん、自分一人が不幸だなんて思ってないですか?」
アヤ「は………なに言ってんの…そんなわけない……」
花陽「みんないろんな苦悩を抱えてるの、アヤちゃんだってわかってるじゃないですか!」
アヤ「そ、そうよ……そんなの言われなくなたって……っ!」
花陽「アヤちゃんだって苦しんでるの、みんな知ってます!」グッ
バチィン
アヤ「…っつ……なにするのよ!」グイッ バシィ!
花陽「あぐっ……」
アヤ「みんな苦しんでるからこそ、助け合ってるんでしょ!!」ドンッ ドサッ
覚悟はしてましたけど、やっぱり痛いです……でも、みんなはもっと痛かったとはずです
アヤ「ハナヨちゃんには、私の苦しみは絶対にわかんないよ!」グイッ
花陽「痛みや苦しみはちゃんと訴えるものです、ユリカちゃんは最初からそうしてました!」ガッ
アヤ「そんなの、私だって……っ」ガッ ガツッ
花陽「アヤちゃんが本当に言いたい事、苦しい事、吐き出したい想い……それは飲み込んだままじゃいけないやつなんですだから…っ」ググ
みんな戦争の影響で生きる環境が変化する中、消え去りたい記憶もすべて背負いこんで前を向いて歩かなきゃいけない
心に余裕がないだなんて、私は彼女達を別の意味で軽視していました、反省すべきところ……
それでも手を取り合って生きていくと決めたのなら、アヤちゃんのような役回りは不要なんです
花陽「私はアヤちゃんも含めたみんなを助けます! だから聞かせて! アヤちゃんの本当の気持ち、苦しみを!」
元より非力な私がアヤちゃんに敵うはずもなく、あっという間に地面に転がされ、馬乗りにされる
だけど視線は……この私自身の想いはまっすぐに見つめています
花陽「私が絶対に助けるからっ! それが私がここにいる理由、役割だから、信じてっ!」
アヤ「っ!?」ピクッ
私を見下ろすアヤちゃんの手が止まる
彼女の中で、それを口にする事の恐れを感じます
みんな大変な目に遭いました。不運や不幸……軽い言葉ばかりで表現しきれない地獄を見てきました
その中でも特に凄惨な体験をしたのがアヤちゃん
彼女はその事を誰かに話すことはありませんでした
同じ境遇で互いに協力して生きていくのに、自分の不幸を押し付けるだけだと、それを躊躇しました
言っても冗談にもなりません。相手にも辛い思いをさせるだけ……あの時あの村にいた子供達はみんな知っています
だから強がりでもなんでも、自分を押し殺して明るくふるまおうとした
今私を見つめながら涙を流して泣いているこの子を救えないで、何が勇者でしょうか!
花陽「あなたが今見ている相手は、その気持ちをぶつけていい相手です。受け止めてくれる相手です」
アヤ「………っ………く、ぅぅ……」ググ…
花陽「その振るいあげた拳を……ぶつけてやりたかったんですよね? いいですよ、おもいっきり来てください!」
アヤ「ぅぅぅあぁぁ……あぁぅっ!」バッ
アヤさん、16歳(驚きの年上さん)
ちょっと幼く見える可愛い女の子。ソラくんの面倒をよく見ているお姉ちゃん
以前私が彼女達に出会った時の印象としてあげたものです
あの日からアヤちゃんはずっと明るく、みんなのためにお料理や掃除をしたりして、がんばっていました
アヤ「うう、ぐ…………あああぁぁぁ!!」ブンッ ガツッ
花陽「うっ!」
でもその裏で、傷つけられた体を見る度に、嫌でも思い出す惨劇に、ずっと苦しんできました
アヤ「痛かった………痛かったのよ!! 死んじゃうと思ったし、でも……助けなんてきてくれないし!!」ガッ ゴッ!
花陽「っ!………ぅっ…」
自分が泣けばみんなが悲しむ。自分が笑えば、みんなも笑顔になる
必要なら悪役だって演じる。みんながまとまっていけるなら……
アヤ「怖かったのよ……お父さんもお母さんも、殺されて……言葉さえかけることができなかった…!」バシッ
花陽「んっ………うん」
アヤ「私……ソラが好きなのに……大好きなのにっ……あんな……ひどいよっ…」
花陽「うん………」
アヤ「初めてだったのに……いつかソラとって、ずっと考えて……それが毎日楽しかったのに……っ」ポロッ…
花陽「うん………」
アヤ「ソラの前ですることないじゃん! どうせならそのまま殺して欲しかった……でも、それでもソラは傍にいてくれて……」
その言葉とともにアヤちゃんの手が止まる
彼女の中の本当の気持ちが……誰も聞けなかった奥底の気持ちがあらわれます
アヤ「傍にいるのに……こんな体じゃ私はソラに触れられない……抱きしめられない……」
花陽「……………」
アヤ「イヤだよぅ……こんな汚れた傷だらけの体………一生このままなんてイヤだ……」
アヤ「ホントはね、死にたいんだ………消えてしまいたい………」
花陽「………え!?」ドキッ
アヤ「この先何年も私はこの体のまま……ソラが違う誰かと結ばれても、止める事もできない……そんなの惨めだよぅ」
花陽「アヤちゃん……あなた……」
アヤ「本当の気持ち、言っていいんでしょ? 助けてくれるんでしょ?」
花陽「……………」
アヤ「だったら……みんなを悲しませることないように、私を消してよ……」
花陽「それは………出来ません」
アヤ「それじゃ私の体をキレイな頃に戻して……あの日の記憶をみんなから消して……」
花陽「……………」
アヤ「……………」
自由に観測できるのは一人……1回。それをアヤちゃんも知っているはずです
知っているからこそ、飲み込んで我慢していた
アヤ「それに……みんなもどっか頼りないし」
アヤ「私だってみんなの前で泣きたかった……でもちっちゃい子達もいるし…」
花陽「……………」
アヤ「ユリカちゃんもああ見えて微妙にズレてるし……」
花陽「それは……ちょっとだけ……」
アヤ「あと年上趣味で疑うことを知らないから、悪い大人にすぐ騙されてちゃうし……」
花陽「えっ!?」
さりげなく新情報
アヤ「誰かが強くでないと、今いる子達だけじゃ、流されてばっかりなんだよ……大人なんて誰もいないし」
花陽「それも…まぁ…」
アヤ「さっき、少しだけ後悔してるって言ったの、覚えてる?」
花陽「………はい」
アヤ「本当の気持ち、ついでだから言うね」
花陽「…………」
アヤ「こんな体のまま、何十年、何百年も生きていくなんて、地獄よりもっと酷いわ! 最悪よ!!」
花陽「ぅぅ………」
アヤ「調子のってほいほい気軽にしていいような事じゃないでしょ! アンタわかってんの!? このバカ!!」グッ
花陽「ぐふっ……ぅぅ」
アヤ「私がそのためにどれだけ………くっ……」スッ
花陽「…………?」
もっときつい一発が飛んでくるのを覚悟したのですが、アヤちゃんはゆっくりと私の上からどきます
そのまま隣に元のように座りなおす
アヤ「はぁ……やっと言ってやったわ」
花陽「あの…………」
アヤちゃんの本音。その中には私に対することも含まれていました
考えなかったわけじゃないですけど、面と向かって言われたのは初めて?
いえ、アヤちゃんだけはちゃんと言ってくれていました
アヤ「みんなハナヨちゃんの事持ち上げすぎなのよねーまったく…」
花陽「えー………」
アヤ「お人好しで、どんくさくて、大食いで……わりと抜けてる部分も多いわよね」
花陽「うぅ……」
アヤ「あーでもちょっとスッキリしたっ!」バタッ
花陽「ケンカはお終いですか?」
アヤ「やめやめ、ハナヨちゃん弱いし」
花陽「私はここにくる前はホントにただの一庶民だったんですから……」
アヤ「それもなんとなくわかってたよ。勇者って部分を除けば、ハナヨちゃんわりと私の嫌いなタイプだし」
花陽「え、そんな……」
こうやって軽口を叩いてすぐに明るくまたふるまう……
少しだけ気分を変えることが出来たかもしれませんが、そこで終わると結局いつもの流れです
私はアヤちゃんを救うと決めています
方法はあれだったけど、本音も聞けました。なら次は私の番ですね
花陽「とりあえずわかりました」
アヤ「ん…?」
花陽「記憶の問題は今はわかりませんが、アヤちゃんの体はかならずなんとかします」
アヤ「え………でも……」
花陽「アヤちゃんがせっかく吐き出してくれた本当の気持ちです。簡単に諦めるわけないじゃないですか」
アヤ「でも確かあのスキルって……」
花陽「あのスキル以外にも方法はあるはずですし、スキル自体の回数も増えました。手はあると思います。だから……」
アヤ「………………」
花陽「アヤちゃん?」
アヤ「ホントに………期待していいの?」
花陽「勿論です。助けますよ、全部」
アヤ「うっ…………んん、ホントのホント?」
花陽「はい」
アヤ「っ!…………」
彼女は優しい人です
結局また最後に私の事を想ってなのか、軽く流そうとしました。危ない危ない
勇者にだって無理な事はある。それはそうかもしれませんが、今あるものだけで無理なら違う方法を探すまで
フワちゃんに一度言われたことですが、それでも私自身がやりたいのです
私は……絶対にみんなを救ってみせます
アヤ「ぅぅ…………お願い…します」
花陽「まかせてください」
熱い展開
こういう文書くときって、自分も顔うぎぎぎってならん? さてここで一つ問題です
やってしまった事にはそれなりの結果がついてくるもので
後悔なんてあるはずもないのですが、少しばかり困った事になりました
アヤ「あー、中が切れてるね」グイ
花陽「アヤちゃんも少し切ってますね、血がでてます」ファサッ
アヤ「ハナヨちゃんのほうがひどい顔してるよ」グイグイ
花陽「アイドルはお顔も大事なんですから、もうこれっきりにしましょうね」
アヤ「ふふ、ユリ姉とか大騒ぎしそう」
ユリカちゃんに対する呼び方が元に戻ったみたいです。気持ちが落ち着いたからかな?
というか、ユリカちゃんや他のみんなになんて説明しよう……
アヤ「そのままでいいんじゃない?」
花陽「ケンカしてましたって言うの?」
アヤ「うん。実際やってたんだし」
花陽「それはそうですけど……」
アヤ「余計な心配はかけたくないっていうのもわかるよ、私もそうしてたと思う」
花陽「でも今回の事はきちんと話すべきだと、アヤちゃんはそう考えるのですね」
アヤ「色んな意味で迷惑かけてたからさ……ちゃんとして、スッキリしたいじゃん?」
花陽「なるほど。それは良いと思います」
意見が別れて家を飛び出し、それを追いかけた私とケンカして帰って来た
端的にするとなにやってるのと言われるかもしれません
だけど私も…きっとアヤちゃんも気分は悪くないのです
問題はまだ残っているのにどこか晴れやかなこの気持ち
花陽「……はっ、これが漫画にあったケンカの後の友情!?」
アヤ「なんの話?」
アヤ「っと、そうだ。言いたい事言ったついでに聞いて見たい事があったのよ」
花陽「この際何でも聞いてください」
アヤ「ハナヨちゃんのスキル、やたらうるさくない?」
花陽「え……スキル?」
アヤ「ナビ妖精の設定もしかしてそのままにしてるの?」
花陽「ナビ妖精の……設定?」
アヤちゃんの口ぶりはこの世界の人達にとっての常識であり、ある種のマナー的なものでした
アヤ「周りでナビ音声って聞いた事ないでしょ?」
花陽「そ、そう言われてみれば……」
花陽「みんなもスキルを使う時、音声が流れてるんですか?」
アヤ「あんまり周囲に響かせると迷惑になったりもするから、普通はコンフィグで設定するんだけど……」
花陽「コンフィグ……ってなんですか?」
アヤ「………………」
花陽「え?」
アヤ「あぁ、そっか。異世界の人っていうのを忘れてた」
花陽「すいません……」
この世界の常識としてあるものみたいです……
アヤ「ハナヨちゃんの場合は、何でしないんだろうなって疑問よりも先に、知らないのかなって考えるべきね」
花陽「そうしていただけると……」
コンフィグとは、スキルを習得すると同時に追加される、スキルの細かい設定を弄れる機能なのだそうです
そういえば昔凛ちゃんとにこちゃんが遊んでいたゲームでそういう話をしていたような?
凛「このコンボやりにくいにゃ〜」
にこ「ボタン配置やりやすいように変えてみれば?」
凛「んーそうする……設定画面で弄るにゃ」
花陽「あれってそういう感じのことだったんですね……」
アヤ「まぁ他人のスキルボードなんてまず見ないから気づかないのも無理ないのかもしれないけど…」
花陽「へ……そうなんですか?」
アヤ「……………」
花陽「またそういう顔をする……」
この世界の常識その2……スキルボードとは、言ってしまえば自分を表すものであり、ボードを見せるのは自身の内面をさらけ出すのと同じ
また、相手が何を出来て何が出来ないのかを知られるのは防犯の観点からもおすすめされるものではない
花陽「はぇー……」
アヤ「あの子達のスキルボードも見た事ないでしょ?」
花陽「そう言われてみると……あ、でも一度だけ……」
この世界にきたばかりの私にユリカちゃんが見せてくれました
あの時はスキルがどういうものか理解していなかった私に教えてくれるためだったと思いますけど
花陽「今思うとあれもユリカちゃんの配慮だったんですね…」
アヤ「いきなり呼びつけた異世界の人に説明するにはまぁ仕方ないけどね」
花陽「しかしそう考えると……」
けっこうポンポンだしてた覚えがあります
みんないつも驚くのが少しおかしく感じてたけど、逆に恥ずかしい思いをしていたのですね、私……
アヤ「ハナヨちゃんだけは別格だと思うけどね」
花陽「ん……そうなんですか?」
アヤ「見た事のないスキル……最上位のゴールドもあれだけズラーっと並んでるとさ、あ…こいつには逆らっちゃいけないって思うじゃん?」
花陽「そ、そういうものなんでしょうか……」
アヤ「もしそのスキルが取り外し可能なやつならすっごい金額で売れると思うんだよね」
花陽「え、売る!?」
まさかと考えましたが、そういえばそういう話を何度か聞いていました
ユリカちゃんはスキルの付け外しや上書きの事も言っていたと思います
そしてお店には日用品のように日常生活で使うスキルがあるとも……
アヤ「個人によって扱えるスキルレベルの上限、数には限りがあるから、みんな必要に応じてそのつど入れ替えたりしてるんだよ」
花陽「そうだったんですか……」
アヤ「それで、ハナヨちゃんもコンフィグでナビ妖精のことを少し弄っておいたほうがいいと思うんだけど…」
花陽「はぁ……でも私のスキルにそういうのあったかなぁ?」
と、ここでいつもの感覚でスキルボードオープン!
ヴォンッ
アヤ「わっ」
花陽「あ、ごめんなさい」
アヤ「ううん………はー………」
人前でボードを展開させるのは自身の内面をさらけ出すのと同じ……アヤちゃんはそう言いました
そう言われていてもこのボードに私自身があらわれているなんて感覚はまったくありません
アヤ「しかしやっぱり……すごいね、これ」
花陽「みなさんそう言いますね」
アヤ「異世界の勇者様……ハナヨちゃん見ててもまったく感じないけど、このボードを見てたらやっぱりね……」
私がこの行為を特に恥ずかしいものとして認識していないので、アヤちゃんも遠慮なく眺めています
アヤ「あ、あるじゃん一番すみっこに…ほら」
花陽「え………あ……」
アヤちゃんの示す場所……ずっと???だったスキルの一つが読めない文字に変わっていました
あれ……いつのまに?
アヤ「これがさっき言ったコンフィグね。これで他のスキルの細かい設定ができるよ」
花陽「そうなんですか、ありがとうございます」
ホントにいつのまに増えたんだろ?
イベントの後に増えるスキル
どんなものか気になります! その後、わりと騒いでいたけどフワちゃんは変わらずスヤスヤおやすみしているのを少し安堵し、帰宅しました
そして案の定……
ユリカ「ハナヨちゃんとケンカしたですってー!?」グワッ
アヤ「うん」
花陽「みっちりと」
アイナ「あらら、これはまた……」
エミ「わー!わー!わー!」バタバタ
アヤ「落ち着きなって……」
エミ「ここ、これが落ち着いていられますか! 勇者に手をあげるだなんて…っ!」
花陽「手を出せるって事が大丈夫な理由でもあるんだけどね」
ユリカ「それは元より危惧していませんが……あぁもう…こんなに…」
勢いでもなんでも、アヤちゃんに心の底から私をどうにかしてやるなんて気持ちはありませんでした
それが私に手をだせた理由。ただ、自分の感情を目の前の相手に初めてぶつけただけなんです
エミ「それでも……むぐぐ…ハナヨちゃんの顔にこんな……」
アヤ「ね、言った通りでしょ?」
花陽「ふふ、ほんとですね」
ユリカ「アヤっ! ちょっとこっちに来なさい!」
アイナ「それより先に傷の手当が先でしょー。ほら、二人ともこっち来て」ガタッ
アイナちゃんが共用の薬箱を持ってきて私達の手当をしてくれます
ユリカちゃんとエミちゃんがアヤちゃんに詰め寄るけど、これは少しフォローが必要かな
エミ「万が一何かあったらどうするんですかっ!」
花陽「エミちゃんちょっと待って。ケンカしようって言ったのは私なの」
エミ「へ?」
花陽「最初に手をだしたのも私。このケンカでどっちが悪いかって言うと、私なの」
ケンカの理由……それは二人だけの秘密にしておきます
結果としてアヤちゃんの心が落ち着いたのを見て、ユリカちゃんは少し察してくれたようです
しかし予想外な事に……
エミ「うににににに……っ!」ギリギリ…
アヤ「そんなに睨まないでよ。可愛い顔が台無しだよ?」ワシャワシャ
エミ「ん〜、撫でないでっ…」
花陽「あ、はは……」
エミちゃんのキャラが変わってしまいました
厳密に言うと、怒っているんですがその矛先をどうしていいかわからずにもぎもぎしています
原因が私にあり、アヤちゃんはやり返しただけとういもので、程度はともかく悪いのは私です
そのせいもあってか、ふくれています
でも、なんかとっても可愛いです
アイナ「はい、終わったよ」ポンッ
花陽「ありがとうございます」
アイナ「ん……可愛い可愛い」プニプニ…
花陽「あ、あいなひゃん?」
なんかほっぺたをぷにぷにされました
アイナ「ふふ、いっぺん触ってみたかったんだ〜」フニフニ
花陽「みょぅ……」
アイナ「……ありがとうねハナヨちゃん」グニグニ
花陽「ふぇぃ?」
アイナ「んっふふふ♪」
よくわからないまましばらく愛でられ続けました
私達が外で騒いでいた間にこちらの話し合いもひとまず落ち着いたようです
花陽「なにをおいても野盗集団の確保。これを最優先にという事ですね」
ユリカ「はい。私達があいつらを許す事はありませんが、まずは全員捕まえるのが先決かと」
エミ「ライ様が役目を終えたらすべての判断をこちらに委ねると仰っていましたし、仲間の所在も掴めるでしょう」
花陽「それでその後は?」
ユリカ「それは相手次第ですかね…」
花陽「相手……野盗達?」
エミ「はい」
花陽「それは、もしも相手が反省していたら許すって事ですか?」
ユリカ「いいえ。対応を変えるのです」
アイナ「きっちり責任はとらせる。もしどうしようもないクズなら……そん時考える!」
アヤ「クズじゃなかったらどうするのよ」
ユリカ「どうも話を聞いていると、元騎士団といっても野盗に成り下がる過程で色々あるようですし…」
エミ「確かに騙されていたとはいえ、ライ様達がやった事は許される事ではありません。しかしそこにも事情があるのです」
アヤ「どういう事情があれば私達の家族が殺されていい理由になるのよ」
エミ「それもわかってます……だから許す事はないと、私も考えています」
ユリカ「その辺りはさっきも話たけど、エミちゃんだって責任が重大なのをわかっているの…だから」
エミ「はい……。事情を考慮した上でなお下される判断に私も従います」
アヤ「それは、そいつが死んでもいいという事?」
エミ「…………はい」
エミちゃんの中ではまだライさんは昔の印象、想いでの方が色濃く残っているみたいです
この国には今、人を裁ける制度も環境もありません
そんな中で被害者であるユリカちゃん達が決断した道は、そう遠くないうちに訪れると思います
アヤ「それならいいわ。私も連中がどういう態度をとるのか見てやりたいしね」
花陽「……………」
アヤちゃんの中で何か変わった部分はあるようですけど、このキャラはわりと素でもあるのかな
ともあれ、一応の結論を出し、今日の騒動はお終いです
男子寮に行ったきりそのまま向こうでお休みしているソラくんと、子供達をあやして一緒に寝ているスズちゃん
それとリホちゃん達はどういう答えに辿り着くのかな……
ユリカ「相手の居場所はスズのスキルでわかるとして、私達は明日からどうしましょうか?」
アヤ「連中を捕まえに行くんじゃないの?」
エミちゃんの中ではまだライさんは昔の印象、想いでの方が色濃く残っているみたいです
この国には今、人を裁ける制度も環境もありません
そんな中で被害者であるユリカちゃん達が決断した道は、そう遠くないうちに訪れると思います
アヤ「それならいいわ。私も連中がどういう態度をとるのか見てやりたいしね」
花陽「……………」
アヤちゃんの中で何か変わった部分はあるようですけど、このキャラはわりと素でもあるのかな
ともあれ、一応の結論を出し、今日の騒動はお終いです
男子寮に行ったきりそのまま向こうでお休みしているソラくんと、子供達をあやして一緒に寝ているスズちゃん
それとリホちゃん達はどういう答えに辿り着くのかな……
ユリカ「相手の居場所はスズのスキルでわかるとして、私達は明日からどうしましょうか?」
アヤ「連中を捕まえに行くんじゃないの?」
エミ「ライ様はこのまま逃げるようなお方ではありません。事後処理にまだ時間もかかるでしょうし、先にユーディクスへ向かいましょう」
ユリカ「そうね。それでいいですか、ハナヨちゃん」
花陽「えっ? 私?」
ユリカ「ハナヨちゃんの意見も聞いておかないと……」
花陽「その辺りはおまかせします。私はライさん達の件とは別に考える事があるのです」
……そう、アイドルのライブをするために本格的に動き出すのです!
そのためには私の持つスキルをもっと良く知って、アヤちゃんの体を治してあげられるようにならないと
花陽「ってことですので、スケジュール的なのはおまかせします」
ユリカ「そのライブ……というのはいつやるかはまだ決まっていないのですね?」
花陽「時間も場所も規模もまだ何も。でもやるという決定事項だけがあるので……なんとか」
向こうじゃ考えられないプラン内容です
だけど何も決まっていないからこそ、全部自分達で作り上げていく楽しさを味わってもらいたいのです
とりあえずあ明日はまたフワちゃんにスキルについて色々教えてもらいましょう
>>408修正、差し替え↓
ユリカ「そうしたいところだけど、先に魔法学校の入学を決めておかないといけないと……」
エミ「ユーディクスにはいつまでという期日はあるのですか?」
ユリカ「入学試験は年中やっているけど、入学のタイミングは年に6回しかないのよ」
なんでも入学試験とは別の、入学や卒業というのは二か月おきにあるようです
変わった精度ですね
そしてもうじきある期日を過ぎれば、次は二か月先になると……
ユリカ「いくらハナヨちゃんがいいと言ってくれてもこのままズルズル先延ばしにするのはねぇ……」
アイナ「だね。先にそっちを決めてからでもいいんじゃない?」
作者死にかけてるやん
無理して毎日あげんでもええぞ 毎日同じ時間帯に更新してくれるのはありがたいけど、無理はしなくていいのよ…… なんなら週一でもいいくらいだぞ
今回も面白かった乙 -次の日 朝の女子寮
リホ「ほら、そんな慌てなくても平気だよ」
パイ「もっとゆっくり食べるのよ」
ヨシノ「ジュースもあるからねー」
それは朝食の席でのこと
カナ「……………」モグモグモグ…
アヤ「すっごい食べるね」
花陽「しばらく満足に食べていなかったみたいだから……」
エミ「でも少し抑えないと、お腹に響きますよ」
朝おきてから朝食の席まで、カナちゃんが何か話した事はありません
急激な環境の変化と、見慣れない人達に囲まれて落ち着けるはずがないのもわかります
だけどがんばって慣れていって欲しいです
みんなとも仲良くなってくれたら、きっと楽しいと思える日がくるはずです
カナ「…………っ」ケフッ
リホ「おー、全部食べた」
パイ「すごいのね」
エミ「ほら、口についてますよ」フキフキ
カナ「んー……」
バタン タッタッタ……
ソラ「あーお腹すいた、ご飯あるー?」
ユリカ「あらソラ、お帰りなさい」
アヤ「あーっソラ! 昨日なんで帰ってこなかったのよ!」バッ
ソラ「なんでって、向こうでご飯食べてお風呂はいって……なんとなくそのまま?」
アヤ「お風呂なら私が一緒に入ってあげるって言ってるでしょ」
ソラ「い、いいってそんなの……それよりご飯あるー?」
ユリカ「あら、向こうは朝ご飯の準備してないの?」
ソラ「みんなまだ寝てるんだよ。全然起きない」
アイナ「宴会みたいに騒いでいたみたいだしねぇ」
花陽「…………」
アヤちゃんのソラくんに対する態度はいつもと変わりません
その内に秘めた想いには気づく事なくソラくんもいつもと変わりません
そんな二人のやりとりを日常の一つとしてみんなは特に気にすることなく眺めています
この空気はすごく和やかで、私も好き
ユリカ「しょうがないですね。ちょっと向こうへ行って朝食の用意でもしてきますね」スッ
アイナ「私も行こうか?」
ユリカ「ご飯の用意するだけだし、大丈夫よ」
リホ「行ってらっしゃいー」
アヤ「……………」
花陽「………?」
アヤちゃんがユリカちゃんの背中をじっと見つめて………ん?
アヤ「…………」ジィ
花陽「え、な、なに?」
アヤ「なんでも…」
と、思ったら今度は私が見られてました
何かしらのアイコンタクトだったのでしょうか?
――ユリカちゃんは年上趣味
花陽「………………」ハッ
アヤ「…………」
昨日なにげに耳にした情報がふと思い返されます
……え、まさかこの状況でそういう事になるのかな?
花陽「あ、私今後の予定とか伝えないといけないので向こうに行ってきますね」サッ
アヤ「よろしく」
エミ「……?」
つい適当な要件を口にしてその場を後にします
まさかというか、そういう発想がまったくありませんでした
しかし客観的に見れば、ここには年頃の女の子がたくさんいます
わりと年は離れているけど男性陣もいます
………え、本当にそういう事ってあるんですか?
フワ「おはよう花陽ちゃん」
でもユリカちゃんてお父さんが大好きで……はっ!
花陽「そういえばトロスタンのあの男の人もダンディといえなくもないような……」ブツブツ
フワ「花陽ちゃーん?」
でもまさかユリカちゃんに限って……いえ、ユリカちゃんだからこそあり得る……?
少し前の壮絶な体験から、ちょっと優しい言葉に乗せられて……
フワ「おーい」
そういえば騙されやすいとかアヤちゃんが言ってました!
まさか男子寮の誰かに口説かれた……何てことがあるのでしょうか?
花陽「ユリカちゃん可愛いですし、可能性は十分に……」ブツブツ
フワ「…………」
ゴツッ
花陽「いったあい!」
フワ「大丈夫?」
花陽「あ、フワちゃん…大丈夫です……今一体何が!?」ジーン…
フワ「考え事しながら歩くと危ないから止めといてあげたわ」
花陽「それはありがとうございます」
フワ「で、どうしたのよ。昨夜のケンカまだ引きづってるの?」
花陽「いえ、それとは別の事で……え?」
フワ「すごい剣幕で暴れてたわよね、二人とも」
花陽「み、見てたの!?」
フワ「ええ、バッチリ」
花陽「こ、声かけてくださいよっ!」
フワ「ケンカに巻き込まれるなんてゴメンだわ」
花陽「えー……」
なんでも昨夜は私達の話を全部聞いていたというフワちゃん
恐ろしく耳がいいらしく、周囲の色んな音を感知して対応できるのだとか
自分で呼び出しておいてなんですが、すごいアルパカさんです
フワ「ケンカじゃないとすると、他に悩み事?」
花陽「悩みというか……私の知らない世界のお話しです」
フワ「?」
花陽「ユリカちゃんがね……」
フワ「ん、さっき男子寮へ行くって出ていったけど?」
花陽「……うん」
このまま私が行ったところでどうしていいかわからないし、フワちゃんに一度相談してみましょう
フワ「うん、まずないわね」
花陽「あれ……そう言い切れるものなんですか?」
フワ「恋ってね、心に少なからずある隙間に生まれるものなのよ」
花陽「は、はぁ……」
どういう意味だろう?
フワ「今のあの子にはそんな隙間にかまけている余裕なんてないし、ちゃんと自制できるわよ」
花陽「つまり……ユリカちゃんの心は他の事でいっぱいだから大丈夫と?」
フワ「良い意味で余裕がないのよ」
花陽「心に余裕がないのが、いい意味?」
フワ「ようは今やるべき事、これからやるべき事に向けて充実しているのよ」
-男子寮
花陽「フワちゃんは気にしなくてもいいって言ってたけど……」トトト…
ギン「ん、花陽か」
花陽「ギンさん、おはようございます」
ギン「ああ、おはよう。今ユリカが来ているぞ」
花陽「はい。こっちはみなさんまだ寝ているとか……」
ギン「特に朝から用事を請け負っていなかったからな。勝手に起きてくるだろうと放置していた」
花陽「はは……」
ギン「もしこちらの対応で不備があるところは都度報告してくれ」
花陽「はい、そのの時はお願いします」
ギンさんはとても頼りがいがあるというか、頼んだ事には徹底して努めてくれると思いますが
ギン「…………ん、何か用事か?」
花陽「ああいえ…」
ちょっとお堅いイメージ……。大人の男性みたいですし……
花陽「大人の男性………」チラッ
ギン「…………?」
花陽「さすがにないですよね……」
ギン「どうしたというんだ?」
ガチャ バタン
ユリカ「あれ、ハナヨちゃんどうしたんですか?」
花陽「ユリカちゃん? ちょっと様子を見に来たんだけど、朝食を作りにきたんじゃ?」
ユリカ「そのつもりだったのですが、色々と足りないものが多くて、取りに戻ろうかと……」
花陽「そうなんだ」
ユリカ「あ、すいませんギンさん」
ギン「ん?」
ユリカ「少しはみなさんにお家を片付けておくように言ってくれませんか? 散らかりすぎです」
ギン「そうか。掃除とは無縁の連中だからな」
ユリカ「それでもです。たった数日であれだけ物が散乱するのは逆に感心します」
よっぽどなんだろうなぁ……
ユリカ「ということで私一度戻りますね」サッ
ギン「ユリカ」
ユリカ「っ、は、はいっ!」ビクッ
花陽「……?」
ギン「わざわざすまないな……感謝する」
ユリカ「いえ…これくらい別に……で、では……」ササッ
…………ん?
さっきのはなんだったんだろう?
ギン「花陽」
花陽「は、はいっ」ドキ
あ……なるほど、少しわかったかも……
ギン「連中に用があるなら呼んでくるが?」
花陽「あ、うーん……寝ているなら後にします。またお昼ごろに来ますね」
ギン「わかった。そう伝えておこう」
花陽「それではまた後で……」タタッ
不意打ちのように名前を呼ばれるとドキっとしてしまいます
ギンさんの声って、とても深みのある声で、なんというのだろう……イケボ?
おそらく……男子寮の中でも一番シブい部類ではないでしょうか
私達の予定は魔法王国ユーディクスにある魔法学校にユリカちゃん達が試験に合格して入学する事
そして学んだ魔法、魔術で私を元の世界に送り返す事です
それと同時進行ですると決めたのがみんなに知ってもらいたいアイドルの魅力とすばらしさ
本格的に同時進行となりますがアヤちゃんの体の事、保護したカナちゃんの事も考えなくてはいけません
今日お昼に国境を超えるために出発するのですが、その前に昨日アヤちゃんのおかげで気づく事のできたスキルをためしてみます
フワ「それで私のトコに来たのね」
花陽「意見を聞きたくて……それと…」スッ
フワ「ふふ、仕方ないわねー」サッ
花陽「おじゃまします〜」ボフッ
やっぱりフワちゃんの懐は最高に気持ちがいいです
花陽「自分のベッドにしたいくらいですー…」
フワ「漏れてるわよ、心の声」
フワ「コンフィグ……なるほどね」
花陽「いつの間にか増えてたんです、これ」ヴォンッ
他のスキルの時は使えるようになると同時にお知らせがあったのですが、これは昨日言われて気づいたほどです
フワ「それは単純な話、これは元々あったスキルなのよ」
花陽「え、どういう事ですか?」
フワ「花陽ちゃんが認識しているかどうかで表示が変わったのね」
フワちゃんが言うには、元々あったけど私が存在を微塵も考えなかった、想像すらできない段階のものだったからだと……
花陽「もしかして残りのスキルもそうなのかな?」
フワ「それは不明ね。条件が必要なものとそうでないものと、謎が多いのは確かよ」
フワ「それで、そのコンフィグで色々設定できるのでしょ?」
花陽「アヤちゃんが言うには、ナビ妖精の設定もできるとか……やってみるね」スッ
ボードにあるコンフィグと書かれているらしい文字に触れます
するとそこからさらに別枠でウィンドウが開き、たくさんの文字が……
花陽「読めない……」
フワ「元々こっちの世界にあるスキルだからね。代わりに読んであげるわ」
花陽「フワちゃん読めるの?」
フワ「必要になるだろうし覚えたわ」
うぅ……羨ましいですINT999……
フワ「こっちのがナビの音量調節で、こっちが発信範囲制限」
花陽「それってどういうのです?」
フワ「んーとね……あら、これは便利そう」
フワちゃんが教えてくれたのはナビ音声の声が響く範囲の事
いつもスキルが発動するたびに周囲にお知らせしていたあの声が、なんと私にだけ聞こえるようになるそうです
これはとても便利そうなのでさっそくフワちゃんに操作を習い設定を私にだけ変更しました
フワ「他にも開放されているスキルの細かい設定とか弄れるみたいよ」
花陽「スキル個別のですか?」
フワ「そう……例えば………」
フワちゃんがスキル「隣の観測者」について1つ、大切な事を教えてくれました
花陽「……え……履歴から効果を消せる?」
フワ「出来るみたいね」
花陽「それって……無かった事に出来る……?」
フワ「ええ。例えばスキルで生み出したこの家とかも元の素材に戻せるわ」
ただし、スキルの使用回数が戻せるわけではないそうです
あくまで観測した結果を消滅させることができると……
花陽「それって、同じ相手に1度しか効果がないものでもやり直せるのかな?」
もし可能ならアヤちゃんの体を……
フワ「出来るかどうか、考えてみれば答えがでるんじゃない?」
花陽「あ、そうか……やってみる!」
アヤちゃんの不死身の体を元に戻して、綺麗な体だった頃に戻してあげる事は……
ピピッ
――スキル「それ正解!」が発動しました
花陽「わあっ、頭に声が響きました!」
フワ「そういう設定にしたからね。でも、うまくいったのね」
花陽「はい、よかった……アヤちゃんの体、これで……」
フワ「でもその方法はどうかしら?」
花陽「……え?」
フワ「それって、一人だけ大召喚の術者から外れるってことでしょ?」
花陽「え…あ、うん……でも一人くらいなら……」
フワ「周りのみんなが長い時を共に生きていくのに、自分だけが先に死ぬことにもなる……」
花陽「…………」
フワ「それは、あの子の幸せにつながるのかしら?」
アヤちゃんの望みは確かに叶う……けど、そこには違う問題もでてきます
一度与えた奇跡を取り上げてしまう事は少し勝手だとも思いますし……
でも確かにある方法でもあります
フワ「一度本人に聞いて見てもいいんじゃないかしら?」
花陽「………………」
おそらく……聞くまでもないと思います
アヤちゃんはそれを受け入れる事はありません
スキルも反応しない……
フワ「………………」
花陽「やっぱり別の……」
フワ「花陽ちゃん」
花陽「ん、なんですか?」
フワ「その正解がわかるスキル、便利ではあるけど少しまかせすぎないほうがいいわよ」
花陽「えっ!?」ドキッ
フワちゃんには私が今「それ正解!」を使ったことがわかったのでしょうか
いえ、それよりもまかせすぎないとはどういう……
フワ「花陽ちゃんは、ラブライブに優勝できないってわかったらがんばれる?」
花陽「ラブ……ライブ……」
フワちゃんの口からまさかその言葉を聞くとは思いませんでした
私やみんなが目指したスクールアイドル夢の舞台、ラブライブ……
フワ「逆の意味でも同じ。優勝できるってわかっても変わらず全力で取り組める?」
花陽「…………」
答えはすぐに出ました
花陽「最初のはノーで、後のはイエス。結果がすべてじゃないから、私は大好きなスクールアイドルに全力を尽くします、きっと…」
フワ「ん、そうね」
花陽「大事なものはその道のり、過程にもたくさんあると思うから……」
あ……フワちゃんの言いたい事が少しわかった気がします
フワ「勿論スキルによってでた結果が大事な時もある。だけどそこへ至るまでに生じる様々な要素、想いはきちんと向き合わないと見えないものよ」
花陽「うん。ありがとうフワちゃん」
フワ「便利で今まで助けられてきたのは一度や二度じゃないのは分かってるわ。でも、さっき考えていた事はきちんとしたほうがいいわ」
花陽「どうしてフワちゃんは私の考えている事がわかるんですか?」
フワ「前にも言ったでしょ? 私は花陽ちゃんの中から生まれた存在。思考や価値観は別だけど、根底にあるのは同じなのよ」
根底にあるもの……んー……なんだろう?
花陽「時々はぐらかすような言動もどうしてですか?」
フワ「多少ミステリアスな部分があったほうが女の魅力になるからよ」クスッ
花陽「そこはハッキリ言うんだね」
フワ「ふふ。ま、人生の先輩、お姉さんの助言だと思って聞いておきなさい」
花陽「フワちゃんて実際のところいくつなんですか?」
フワ「ヒ・ミ・ツ♪」
私の中から生まれたはずなのに私じゃ絶対に言わないような事をよく言いますこのアルパカさん
それが嫌とは感じない、フランクな空気を心地よくさえ思えるのはやっぱり人柄のせいでしょうか
花陽「………あ、ちょっと思ったんですけど」
フワ「今度はなあに?」
花陽「ギンさんも私から生まれた存在なら、根底にあるのは同じなのかな?」
フワ「やめてよ気持ち悪い」
花陽「……………」
ギンさんにやけに強くあたるのはなんでかなぁ〜?
ありがとー
ラストのフワちゃんスゲー真顔なんだろうなw -女子寮 二階
答えがわかっていても、直接見て聞いて、感じるものは別の道へ進むためのきっかけになる
フワちゃんと話してその事は理解できます
では一体どういった流れになるのかはまったく想像もつきません
つかないのであれば、動いてみるのが一番です
花陽「と、思ったのですが……アヤちゃんは?」
リホ「アヤお姉ちゃんなら向こうに行ってるよー」
パイ「お片付けするんだってー」
花陽「向こう……というと男子寮ですね。お片付け?」
ヨシノ「お掃除の仕方を教えに行ったのです」
ユリカちゃんが言っていた惨状がどうやら本格的のようです
となると呼び戻すのもなんですし、少し時間をおきましょう
花陽「みんなは何してるの?」
リホ「お絵かきだよっ」
パイ「アイドルちゃんが着てる可愛い服をかいてるのっ」
花陽「ああ、ライブ衣装ですね」
ヨシノ「フリフリなの」
みんなの絵を見せてもらうと、それぞれ個性がでていてとても可愛らしいデザインがたくさん
ヨシノちゃんは絵が上手なだけでなく、独創的な感性で奇抜なデザインが多数見受けられます
でもこれはこれで曲のイメージとハマればいいかもしれません……
花陽「………ん?」
カナ「……………」
部屋の隅っこにうずくまるようにしてカナちゃんが座り込んでいます
やっぱりまだ……
花陽「カナちゃん、こっちでみんなと遊びませんか?」
カナ「……………」
リホ「あの子ずっとあんな感じなの」
パイ「遊ぼうって言っても……」
ヨシノ「しょうがないの」
みんなカナちゃんの境遇を知っているので無理強いはしません
少しづつでもいい……カナちゃんにも何か興味を持ってもらいたいです
花陽「……………あ」
ふと子供達がお絵かきしている紙が目に入ります
この世界にあるのかは知りませんが、少しは楽しんでくれるかな?
花陽「リホちゃん、この小さな紙、1枚もらってもいいですか?」
リホ「ハナヨちゃんもお絵かきするの?」
花陽「ううん。ひさしぶりに折り紙でもしようかなって」
パイ「オリガミ……ってなぁに?」
この世界での事はわかりませんが、少なくともパイちゃん達は折り紙を知らなかったみたい
少し得意気に解説なんてしながら実践します
花陽「紙をこんな感じに折っていって、色んなモノを作るんだよ」カサッ
リホ「えっ紙で何か作れるの?」サッ
パイ「勇者さまのスキル?」
ヨシノ「さすがそうぞうしゅ」
花陽「あは、そんな大袈裟なものじゃないですよ。模した形になるように……こう…」ササッ カサッ
小さい頃よくお家で凛ちゃんと折り紙して遊んでいたのを思い出します
花陽「ここをこうして……っと」グイッ
リホ「すごいっ、なんか見た事あるかも?」
パイ「………犬?」
ヨシノ「子犬なの」
花陽「ふふ、正解。折り紙で作ったワンちゃんですよー」トンッ
カナ「…………?」ジ…
ひさしぶりですが上手くできました!
カナちゃんもちょっとは興味を示してくれたかな?
ピピッ
――スキル解放の条件達成を確認
スキル「織神」を発動します
花陽「………へ?」
ピカッ!
リホ「わぁ、紙のワンちゃんが光ってるよ!?」
パイ「オリガミってすごいのね」
花陽「い、いえ……これは……」
今確かにナビ妖精が新しいスキルを発動したと言いました
それと同時に私が作った折り紙が突然光りだしました……しかもこの反応って……
花陽「アルパカマスターの時と同じ?」
ヨシノ「ちょっと大きくなってきてる?」
カナ「…?…?…?」
シュウウゥゥゥゥ……
やがて光がおさまっていくと……そこには………
花陽「……………」ゴクッ
リホ「………おぉ?」
パイ「可愛いっ!」
ヨシノ「まさにそうぞうしゅ」
ワンッ!
そこには1匹の子犬がいました……
カナ「っ!?」ササッ
花陽「うーん……摩訶不思議です」
リホ「すごい、このこもハナヨちゃんが作ったの?」
花陽「折り紙で作っただけなんだけどね……」
パイ「子犬よね、このこ」
ヨシノ「ふふ、おいでおいで」ナデナデ
アルパカの時と同じように作ったものを犬に変化させてしまうスキルでしょうか?
ちょっと確認する必要があります
カナ「……………」コソッ
リホ「………っ、カナちゃん見て〜可愛いよ〜」
カナ「う……うん……」スッ
パイ「抱っこしたいわ」
花陽「………」
思わぬ形で発動したスキル……オリガミとか言ってたような……
でもフワちゃんの時と同じように生まれた子犬は、本当にただの子犬ちゃんのようです
クリエイトするスキルもないみたいですし……どういう効果なんだろう?
パイ「あはは、人懐っこいのねこの子っ」
カナ「かわいい……」ナデナデ…
ヨシノ「んひひ、くすぐったいっ」
リホ「あーん、わたしも〜」
でもまぁ、一つのきっかけとなったのは確かなようですね
すぐに確認したいので子犬の事は子供達におまかせするとしましょう
花陽「私ちょっと用事があるので、また後で折り紙で遊びましょうね」カタッ
-女子寮 屋上
1階ではアイナちゃんとエミちゃんがお昼の準備をしているので邪魔にならないよう屋上にきました
さきほど突然追加されたスキルの検証をするためです
花陽「折り紙をすることが条件だったみたいですけど……」ヴォンッ
フワちゃんが言うには、この世界に元々あるスキルや一部のスキルはそのままこちらの文字で表記されているけど……
――「織神」
やっぱり、私に読める漢字で表記されています
これは私の内から現れたスキルで、私独自のものなんだとか
私専用スキル……ちょっとかっこいい響きです
さっそくどうしてあの子犬が産まれたのか確認します
ピピッ
――花陽ちゃんの折り紙はすごいんだよ!
紙で作ったものがそのまま花陽ちゃんの持つイメージに直結して形創られるんだ!
――花陽ちゃんはその気になれば折り紙で作られるものはなんでも本物として創れちゃうんだ!…あと可愛い!
花陽「…………………」
え………何今のナビ……?
いつもの端的な口調とは違っていきなりとても陽気な感じでさらっと伝えられました
あとなんか個人的な感想もオマケで……
花陽「………なにかおかしくなった?」
ためしにもう一度……
ピピッ
――「織神」……祈りなす神の小さなお遊戯
その御心のまま、投影されるは在りし日の記憶……
花陽「………あれ?」
またあの陽気な感じが来るのかと思っていたのに、響いてきた声はいつもの無機質なナビ妖精の声
いくつかあるスキルと同様にどこか抽象的な表現でスキルの性質を語るその内容は、なんとなく理解しました
主にさっきでてきた声の内容と同じ
花陽「私が折り紙で知っているものを折るとそれが本物になる……という事ですね」
それでさっき折り紙で犬を作ったから、そのまま子犬が産まれたというわけですか
んー……子犬のつもりじゃなかったんですけど……出来が小さかったせいでしょうか?
トントントンッ タタッ
リホ「ハナヨちゃんっ! あのワンコ、飼ってもいいのー?」
花陽「え……あー……」
それは私の一存では決められません……なので
ユリカ「子犬ですか? みんながいいのなら構いませんよ」
リホ「やった〜!」
パイ「ワンコ飼うの!」
ヨシノ「よかったの」
カナ「うんっ!」
ユリカちゃんのお許しがでたことで、新しい家族が増えました
リホちゃんに名前はと聞かれたのですが、ここで私が名前を付けると危険なのでやめておきました
たぶん………アルパカになっちゃいそうです
花陽「みんなで決めてあげるといいよ」
ユリカ「ちゃんとお世話すること、いい?」
リホ「はいっ!」
アヤ「え……紙でできた犬なの?」
スズ「かわいい……」
エミ「ハナヨちゃんのスキルがすごいのはもう十分承知しているつもりでしたが、これもまた随分なスキルですね」
アイナ「紙から生まれたってだけで、ちゃんとした生き物だよ。エサ食べるかな?」
どうやら子犬はみなさんに受け入れられたようです
そうだ、どうせなら……
花陽「今日の移動中、男子寮のみなさんにこの子のお家を作ってもらいましょう」
アイナ「それはいいかもね。あの人達仕事してないと飲んだくれになっちゃうよ」
目的は舞台を作るうえでの基礎練習のようなものなのですが、なにぶん実力が不明なので見ておきたいのもあります
-男子寮
花陽「というわけで、この子のお家をよろしくお願いします」
「犬小屋ですか……それなら今日中にできますぜ」
頼もしい答えが返ってきました
この人達は少し前は盗賊という危険で悪い事をしていた人達ですが、その前はそれぞれが手に職をもった人達です
道具さえ用意すれば日曜大工程度なら簡単にこなしてくれるとのこと
問題は……
「適当な大きさの箱っぽいのでいいすか?」
花陽「えっと……どうせなら屋根がついてて、中でちゃんと寝れるように工夫をして欲しいかな……」
「んー、犬小屋っていうとこういう感じが思い浮かぶんすけど……」サラサラ…
紙に書いてくれた子犬のお家と聞いて連想したものを見せてもらいました
………問題はやっぱりありました
花陽「これただのミカン箱じゃないですか?」
「ミカン……なんです?」
花陽「ようはただの四角い箱です、蓋無しの」
「子犬が寝られるくらいの大きさはありやすぜ?」
花陽「この子もそのうち大きくなるんで、これじゃすぐに入れなくなります」
「はぁ……なるほど」
やはり完成予想図くらいは提示しておかないとダメみたいです
みなさん技術はあるかもしれませんが、なんせ触れた事のないジャンル、お仕事なので感性というか……センスが……
花陽「えっと……こういうのでお願いします……」サッサッ
「ほう……町にあるような民家の三角屋根をつけるんですね?」
花陽「たぶんお家は女子寮の屋上に置く事になると思うので、簡単なドアもあるといいかも」
「ふむ……わかりやした」
花陽「いけそうですか?」
「こういう細かい造形物に精通してる奴もいますんで、大丈夫でしょう」
花陽「それじゃ、お願いしますっ」
「へいっ、まかせてくだせいアネゴ!」
花陽「アネゴだったりお嬢だったり姉さんだったりみなさんそれぞれ個性を持っていていいのですけど、やめてください」
「しかしうちらは雇われの身なもんで、本当は女将とお呼びしたいところなんですぜ」
花陽「オ、オカミって……」
「その若さで人を従えるっていうのは俺らの苦労をしょい込むのと同じでやす。そんなアンタに俺らは感謝と敬意を示すため、そう呼んでいるんすよ」
花陽「………………」
「人の上に立つ者として、ここは慣れてくだせい、ハナヨのアネゴ」
花陽「………せ、せめて統一してください……」
ちょっと驚き、ちょっと感心しちゃいました
申し訳ないけど、あの人達は基本大雑把で荒っぽい部分が目立つから、どこか粗暴なイメージを持っていました
雇い入れたのは私ですけど、それも圧倒的な力での支配のようなものです
でもちゃんと現状を認識して、移り変わる環境に自身の身の振り方を考えています
そして決して流されてここにいるのではなく、みんながそう決めて……私という一回り以上年下の子供に従うと決めたのです
その決意、心意気の表れだったんですね……
花陽「女将……は、ちょっといいかなって思いましたけど……」
「お、じゃあそれで統一させやしょうか」
花陽「ぴゃあっ! い、いいです!もっと普通のでっ!」
結局お互いに譲れない部分をぶつけあった結果、私の呼称は姉さんになりました
花陽「アネさん……かぁ……」
初めて呼ばれることになるその響きになんとも表現しがたいものを感じます
こういうのってどちらかというとユリカちゃんやアイナちゃんのようなお姉さん気質の子が似合うと思います
今日もありがとう!
具合悪くて気が滅入ってたけど元気出たw
男衆とのエピソードも良いね深さが増す感じがする 特技折り紙の設定が活きてていいね
登場人物がみんな考え方しっかりしててすごいけど作者さんの人柄が出てるのかしら 子供達の意見で子犬の名前はショコラに決定しました
そしてお世話係として、カナちゃんがショコラの面倒を見る事になりました
勿論家族としてみんなで協力しあっていくのは当然です
だけどカナちゃんがショコラを気に入ったらしく、そのことで少しでも気持ちが前に向くのならと
この提案のをしたのが同じくらいショコラを気に入っていたリホちゃん達です
フワ「いい感じにあの子達もお姉ちゃんになろうとしているのね、姉さん」
花陽「フワちゃんまでその呼び方はやめてください」
フワ「ふふ、いいじゃないのっ慕われてる証拠よ」
花陽「もうっ」ボフッ コショコショ
フワ「んっ…ちょっとくすぐったいわよ〜」
花陽「愛情表現ですよ〜!」コショコソョ ボフワッ
フワ「あっははは、ゴメンゴメンって〜」
ユリカ「楽しそうですね」カタッ
フワ「ユリカちゃん、この甘えん坊さんどうにかしてっ」バタバタ
花陽「ん〜モフモフ〜ゴロゴロ〜♪」コショコショ モフモフ
リホちゃんが前にこうやってフワちゃんのフワフワの毛に顔を埋めてモフモフしているのを見て、私もやってみたいと思ってたんですよね
いい機会なのでじっくりと堪能を……
ユリカ「ハナヨちゃん、楽しそうなところ悪いけど、そろそろ出発です」
花陽「おっと、了解です」サッ
フワ「いよいよ出発するのね」
ユリカ「はい。よろしくお願いします、フワさん」
男子寮のほうとも打ち合わせをすませ、いよいよ魔法国家ユーディクスへと向かいます
といってもまずはその間にある国境を越えなくてはいけませんが、これは今日中に通過できるとのことです
花陽「それじゃまた後でね、フワちゃん」
フワ「ええ」
ユリカ「お話しの途中だったのですか?」
花陽「スキルのことでちょっとね」
結局フワちゃんにも陽気なナビ妖精の事は知らないみたいです
もう一度聞けるなら聞いて欲しかったのですが、結局あの一度きり……謎です
とりあえず今は保留という事でお話しは終わりました
フワ「それよりも、道案内しっかりお願いね」
ユリカ「お任せくださいっ!」
お昼になって私達のちょっと大きめの馬車二台が出発しました
道は平たんな街道を東に進み、途中いくつかの分かれ道を超えた先にある国境を目指します
国境を超えるために必要……かどうかはわかりませんが、私に一つの役目ができました
花陽「え……私が幻術士?」
ユリカ「はい。この先もし何か人に対して身分を示す必要がある場合、ハナヨちゃんはセト村の幻術士と名乗ればいいと思います」
召喚術は一部の地域に広まっている術式で、場所によっては知られていないのだとか
そこへさらに大召喚ともなると、ホントにごく一部の人達しか知らないものになるので、私がそれでこの世界にきたなんてなかなか通用しません
そこであげられたのが、幻術士という魔術を使う人を私が名乗れば大丈夫との事
そしてこれは、魔法使いや魔術師ではダメで、幻術士でないといけないのだとか
花陽「正直そのへんの違いが私にはよくわからないのですけど……」
ユリカ「詳しく説明が必要ならご教授できますけど……」
花陽「その反応だと、私には難しい部類のお話しですか?」
ユリカ「魔法というものがない世界だという事なので、根幹にある世界のしくみから理解しないとって感じです」
花陽「ややこしそうなのでまた今度にします……」
ユリカ「私ももっと簡単に説明できるように勉強しておきますね」
幻術士花陽。これが私のこの世界での職業? のようなものになりました
私が普段扱うスキルも、現象だけ見れば幻術に分類されるかもしれないというので、うまく誤魔化せそうです
あとそんなに扱う人が多いわけでもない分野だそうです
-女子寮 屋上
リホ「おー、いい子いい子〜」タッタッタ…
パイ「次わたし〜」
カナ「ショコラ〜おいで〜」タタッ
屋上では子供達がショコラと遊んでいます
カナちゃんが少し元気になってくれてホントによかったです
エミ「はぁ、ふぅ……ふひぃ……」バタッ
花陽「大丈夫? エミちゃん…」
エミ「み、みなさん元気ですね……」
どうやら一緒に遊んでいたようだけど体力が続かなかったようです
インドアっぽいですしね、エミちゃん
花陽「でもアイドルのライブをするのならもっと体力をつけないとダメですよ?」
エミ「あ、あの映像を見てるとそう思います……がんばり……ます…」クテッ
基礎となる体力強化が特に必要なのはエミちゃんとアヤちゃんかな
勿論長い時間のライブではないですけど、3,4曲くらいは歌って踊れるくらいにはならないとダメです
このあたり問題なさそうなのはスズちゃんとアイナちゃんかな
花陽「すごいね、向こうは今日もやってる」
エミ「え……ああ、男子寮の方ですね」
この馬車の後方に男子寮の馬車が続いているので、向こうの屋上の様子がよく見えます
あちらでは今日もソラくんが剣の特訓をしています
「そんなんじゃダメだ、体全体で剣に力を乗せろっ!」ガッ
ソラ「ぬっく、うぅ……くそう、もう一度っ!!」ダッ
「俺の動きをマネても意味ないぞ。自分の体格に合った扱い方を自分で見つけるんだ!」バッ
最初は軽くあしらっていたおじさんも、いつしか真剣にコーチとして実戦とアドバイスを繰り返しだしています
そしてその横では……
スズ「なるほど…こう……か?」ブンッ
アヤ「いんじゃないの? わかんないけど」
スズちゃんがソラくんと一緒に剣の特訓を受けています
それを見守るアヤちゃんはマネージャーのように傍らでお茶やタオルの準備をしたりと、まるで部活のようです
そして聞こえてくるのは……演歌?
エミ「ハナヨちゃんの創ったコンポ、今は男子寮のほうでおじさま達が音楽鑑賞に使っています」
花陽「あ、それで今日はこっち静かなんだね。でも……」
確かに私の知っている範囲の音楽としていくつかの演歌もあります
有名どころばかりですがみんなに好評なのかな? 歌詞の意味も伝わらないけど音楽として……
花陽「やっぱり世代なんでしょうか?」
エミ「……ん、なにがですか?」
花陽「音楽は国境を超えるとはよく言いますけど、世界を超えても世代ごとに響く部分は同じなんですかねー」
エミ「そうなのかもしれませんね」
どうにかして歌の部分をこちらの世界の言葉で聴かせてあげられないかなぁ……
と、なんとも長閑な時間を過ごす事数時間、ついに目標の国境が見えてきたのでした
今日もありがとー!
サイドエピも盛り込んでくれるから、キャラそれぞれに愛着湧くわw -クレスタリア王国と魔法王国ユーディクスとの境にある国境
最初に見た感想として……
花陽「万里の長城みたいです……」
アイナ「なにそれ?」
花陽「私の世界にある世界遺産なんですけど、国境ってこんなに大きな壁で区切られているんですね」
エミ「土地が変われば空気などすべてが変わります。そこにすむ精霊さえもかわりますからね」
アイナ「ほとんど別の世界だよ、国境の先って」
別の世界……
アイナちゃんの言う通り、右を見ても左を見ても遥か先のほうまで高い壁が続いていて、まるでここは箱庭の中のよう……
エミ「あそこに見えるのが関所です。大きな門が見えますでしょう?」
花陽「あれが……」
どことなく門構えが日本のお寺にあるような物のと似ている印象を受けました
詳しく名称はわからないけど、京都や奈良にあるようなお寺だったかな…
花陽「結構古い建造物なのかな……?」
エミ「国境そのものは遥か昔からありますが、このような大きな建物で明確に区切られるようになったのは100年ほど前ですね」
花陽「そうなんだ。何かあったの?」
エミ「世界大戦があったとされていますが、過去の記録がある時を境に消失してしまったらしく、詳しくは……」
花陽「世界大戦………戦争」
あまり馴染みのない言葉ですけど、それは確実に私の世界でも起こった出来事です
歴史の一部分として今の私達に当時の状勢、教訓はたくさん生かされていると聞きます
だけどこの世界には戦争があったという事実だけが残り、それだけが語られているんですね……
さすが国境というだけあって、関所に向かう人達が私達の他にもけっこう見られました
ここに来るまでの道中、人とすれ違う事はなかったようなのですが、北や南から訪れる人がたくさんいます
しかしユリカちゃん達の反応からも薄々気づいてはいましたが、こんな大きな家のような馬車を引く人はいません
花陽「これ……すごく目立ちませんか?」
エミ「今さらですか?」
花陽「向こうにいくつか馬車で移動してる人が見えますけど、みんな普通の馬車ですよ?」
エミ「あれが一般的な馬車ですからねぇ」
花陽「だ、大丈夫でしょうか?」
エミ「むしろ堂々としていましょう。幻術士ハナヨちゃんの創りだしたものなんですから」
花陽「どういう目で見られるのかな、私」
聞いている分には、幻術士だから何でもオッケー!って印象なんだけど……
オイ、ナンダアレ… イエガウゴイテル!
バシャナノカ… ザワザワ…
アイナ「ふふ、見てる見てる♪」
リホ「みんなリホ達の事見てるね」
パイ「わたしが可愛いからかしら?」
ヨシノ「そーかもねー」
花陽「……………」
みんな注目を集めているのに結構堂々としてます
ライブの時に緊張で動けなくなるよりかは全然いいのですけど……うぅ…私より度胸あるかも…
「おいっ、そこの一行、止まれ!」
花陽「っ!?」ビクッ
エミ「なんですか?」
関所に向かう私達……正確には馬車を引くフワちゃん、手綱を握るユリカちゃんに声をかけてきた人がいました
それは数人の武装した人達。先頭を歩く少し小太りなおじさんを囲うようにしてこちらへやってきます
花陽「…………もしかして」
エミ「……あっ……」
エミちゃんも思い当たるところがあり表情を変えます
少し前に耳にした噂……手配書、シューティングスター・エメラルドの噂……
もしかしてフワちゃんのことが本当に手配書として出回っていたら……
エミ「下へ行きましょう、花陽ちゃん!」タッ
花陽「はい!」サッ
アイナ「ん、どうしたの?」
もしそうだとしたら、私達はお尋ね者として顔が知られてしまうという事でしょうか!?
それはアイドル活動をするうえであってはならない事です!
でも、私の危惧する想像にスキル「それ正解!」は特に反応しません
最悪の状況にはまだなっていないという事?
花陽「でももし賞金なんてかけられてたら……」
この先、フワちゃんを狙う輩がきっと後を絶ちません……
どうにかして……
タタッ タンッ!
急ぎ屋上から一階玄関へと移動し、外へ飛び出してみるとそこには……
ユリカ「ごめんなさい、フワさんは売り物ではありませんので」
「なんだとっ!? キサマ、わしの交渉に不服があると言うのか!?」クワッ
ユリカ「交渉しているつもりもありません。フワさんは私達の大事な家族です。家族をお金で売る人がいますか?」
「んぐぐぐぐぐっ……!」
花陽「あの……ユリカちゃん?」
ユリカ「ん、どうかされましたか?」
エミ「その人達は……?」
ユリカ「いきなりフワさんを売れと言ってきたので、お断りしていたところです」
花陽「へ?」
「このように巨大な家……というか馬車か? こんなのあっても誰にも扱えない代物……しかしそこの馬はこれを引く力がある!」
おじさんがフワちゃんを馬と表現したので少しイラっとした表情をしているフワちゃん
一応面倒なことにならないよう、口は閉ざしているみたいです
「こんな素晴らしい馬をわしが買ってやるといってるんだぞ?」
ユリカ「それを今お断りしたばかりですが…」
「何が不満だ!? これだけの金額だぞ!」バッ
おじさんがユリカちゃんに突きつけるように差し出したのは金貨の束……きっとすごい金額なのかな
でもあの金貨なら家にたくさんありますよね
ユリカ「金額の問題ではありません。もう一度言いますが、家族をお金で売るようなマネはしません」
「キサマ、このわしに恥をかかせる気かっ!」
ユリカ「いえ、けしてそういうつもりでは……」
フワちゃんを買いたいと言っているおじさんの態度はどうにも上から……
私の苦手とするタイプの方です。しかしそれは私だけじゃないみたい
エミ「交渉が決裂した時点でお話しは終わりです。そこに悪態をついて食い下がるなんて、それこそ恥の上乗せですよ」
「な、なんだとこのガキ!?」
エミちゃんが口を挟むとおじさんはますます激高し、周囲にいた大人達も手に武器を構えます
……って、ええっ!? 武器!?
エミ「フワちゃんを金銭での取引で手に入れようだなんて浅ましい……。そのような方には例え何を提示されようと交渉にたる材料になりません」
花陽「エ、エミちゃん? そんな言い方するとこの人……」
エミ「大丈夫ですよ」
「黙って聞いてれば生意気なガキが……わしに逆らうと……っ!」
エミ「逆らうと……どうなるのですか?」
ここでエミちゃんは一歩前に出ます
おじさんと向かい合うようにして対峙し、真っ向からその目を見つめ返す
エミ「まさかとは思いますが、周囲の目も気にせずお金で買えないからと強引に奪うおつもりですか? もしかして盗賊の一団でしたか?」
「はぁ!? 周囲がどうしたと……」サッ
エミちゃんの言葉におじさんと一緒に私も驚きました
いつのまにか他の旅人達や国境から鎧をまとった騎士風の人達がこちらに向かっているところです
エミ「国境警備隊の前で堂々と悪事を働くその勇気……いえ、蛮勇でしょうか。それには感服いたしますが……」
「んぎぎぎ……っ!」
「おい、何をもめている!」ザッ
顔を真っ赤にしたおじさんの前におそらく国境を守る兵隊さん、国境警備隊? がやってきました
これを見越してエミちゃんはこの騒ぎを周囲に聴こえるようにおじさんを挑発したのですね
できれば穏便に済ませて欲しいところです
エミ「ああいえ、こちらの方が商談を持ちかけてきたのですが残念な事に交渉が決裂した……ただそれだけです」
「そうなのか?」
「えっ……ん、ぐぐ……」
おじさんはさっきの勢いを失い、黙って引き下がるしかないようでした
さすがに国境付近でもめ事はお互い良いことありませんしね
「ちっ……おい、行くぞ」サッ
エミ「お待ちください」
諦めて下がろうとするおじさん達をエミちゃんが引き留めました
これ以上問題はないと思うのだけど……
エミ「一言言っておきますが、フワちゃんはアルパカというとても神聖で高貴な種族です。どこをどうみて馬などと言うのか分かりませんが、お間違えの無いよう…」
「アルパカだと…?」
フワ「…………」
エミちゃんがフワちゃんのちょっとイラっとしてるだろう心情を汲み取ったのか、馬という発言に訂正を入れます
その言葉におじさん達と他に見ていた旅人さん達も口をそろえて呟いたのです
「アルパカ……欲しい…」
「神聖な……どこの地方から来たのでしょうか……」
「なんと神々しいお姿じゃ……」ナムナム
フワ「…………っ//」
あ、ちょっと照れていますフワちゃん
結局フワちゃんがお尋ね者として狙われることはなさそうです
さすがにあれから数日で手配書というのが出回るにはまだ時間がかかるという事でしょうか
それともフワちゃんが言っていたように、形だけのもので大事にはなっていない?
ユリカ「ありがとうエミちゃん」
エミ「いえ、あのような輩には慣れていますから」
リホ「エミちゃんカッコよかったよ!」
パイ「撫でてあげるの」サワサワ
エミ「え、えへへ……」
高圧的な大人、それも武器を構える集団に少しも臆することなく主張を貫いたエミちゃん
この子にステージ度胸がないなんて思えません
むしろ私よりもずっと……
「キミ達は国境を超えるために来たのか?」
ユリカ「はい、そうです」
「随分と大きい馬車のようだが、どこで建造したものなんだ?」
ユリカ「これはセト村の幻術士、ハナヨ様がお作りになられたものです」
「ほう、幻術士様が」
え……そういうので通用するんですか?
「もしやこちらに幻術士様が?」
ユリカ「はい、こちらにいらっしゃる方です」スッ
エミ「幻術士、ハナヨちゃ……様です」サッ
花陽「へっ?」
ユリカちゃんが国境警備隊の人とお話ししてるなー的な感覚でいたら突然私が前面に押し出されました
あの……結局この世界で幻術士というのはどういう立場の人を言うのですか?
「あなた様が……あぁいえ失礼、想像よりもずっとお若くて驚いてしまいました」
花陽「いえ、そんな……」
ユリカちゃんが私を幻術士として人前に出した事で、周囲の人達からも視線を感じます
これはちょっと……というか、かなり恥ずかしい……
「あの方が幻術士様ですって……」ヒソヒソ…
「あんな若い女の子が?」コソコソ…
「本当なのかしら?」ヒソヒソ…
しっかり聞こえてくる疑問の声。当然といえば当然です
その声に反応したのか、警備隊の人が私に尋ねてきました
「すいません、私は幻術というのをこの目で見たことがありません。よければ見せて頂く事はできないでしょうか?」
花陽「えっ……幻術……えっと…んー」
突然言われても私は幻術を扱う事なんてできないのだけど……えっと…ユリカちゃ〜ん
ユリカ「勿論構いませんよ。ハナヨ様のすばらしい術をご堪能ください」
花陽「あの……ユリカちゃん……」
エミ「簡単なヤツで大丈夫です。あの紙を使ったスキルなどで…」コソッ
紙……あ、折り紙の事か……えっと、じゃあ……
エミ「あと、なるべく威厳をだして」ボソッ
無茶な要求です……
幻術を披露するという事で私達は関所前まで移動しました
いつのまにか他にもたくさんのギャラリーというか、ユーディクス方面からこちらにやってきた旅人さん達も足を止めています
大事になってないかな? 大丈夫かなー?
「なにが始まるんですか?」
「幻術士様が術を披露してくれるそうだ」
「それはぜひ拝見したいものだ」
「なんて可愛らしい幻術士様でしょう」
花陽「………………」
見られてます……すごくたくさんの人に……
最初は5、6人だったはずなのに今は30人近くいます
リホ「はいはーい、ちゃんと座って〜」
ヨシノ「ここから入っちゃダメなの」ススー
アヤ「あなた背が高いんだから後ろにまわってあげて」サッ
他のみんながこの状況を整理しようと前面に立ってくれています
すごいな……でもライブ以外でもきちんと人前で動けるようにならなきゃダメなのは、私も同じ……
花陽「それじゃー簡単なのをいくつかお見せしますね」スッ
エミ「…………」ササッ
私が合図すると用意された小さいテーブルにエミちゃんが紙を数枚ひろげます
この段取りの良さ……裏方としても有能そうです
さて、それでは折り紙教室……ではなく、折り紙そのものを初めて見る人のために色々やってみましょう
花陽「この紙を折り曲げたり複数重ね合わせたりして、色々なものを創ります」ササッ
「おぉ、そんなことが……」
「紙がどうなるってんだ?」
この世界にもあってわかりやすいもの……じゃあ……
サッ カサカサッ ペタペタ…
この折り紙自体は幻術でもなんでもないのですけど、紙の使い方として初めて見るのか、皆さんの視線が熱いです
さて……とりあえずこれでスキルが発動するのかな……?
花陽「はい、スズメの完成です!」サッ
「鳥?」
「紙を折って鳥のような形にした……」
シュウゥゥゥ… ピカッ
「うわっ、光った!?」
スズメっぽい鳥さんは見かけたことがあるのでこの世界でも通用するはずです
花陽「幻術で紙のスズメが………っ」
「あっ! 鳥だ!」
「コバロか? 少し違うようだけど、コバロのような鳥になった!」
スズメはこの世界ではコバロと呼ばれているのですか…まぁなんにせよ最初の掴みはいいようです
「すごい、紙でできてるわけじゃない……本物のコバロだ!」
「信じられん……これが……」
「幻術士様の……お力……」
「ハナヨ様ー! すごいですっ!」
ふふ、いい感触です。それでは次は別の馴染みある物を創っていきましょう!
観客の反応に気分よくした私は簡単なものから少し複雑なものも織り交ぜてたくさんの折り紙を披露しました
花陽「はい、ソファーです!」ドンッ
「おおっ! フカフカだ!」
花陽「出来ました、豚さん!」ブヒッ ブヒッ
「まるまるとして油がのってそうだ!」
花陽「タンポポですっ!」フワッ
「可愛いっ!」
花陽「あとやっぱり折り紙と言ったらこれは外せませんっ!」ササッ
エミ「あ、あのハナヨちゃん…そろそろ……」
花陽「ちょっと待ってください、これで最後ですから」カサカサカサッ
折り紙の代名詞ともいわれる伝統の……
花陽「出来ましたっ折鶴です!」バッ
シュウゥゥゥゥゥ… ピカッ!
当然といえば当然ですが、私の作った折り鶴はまたたくまに光、形を変え、本物の鶴になりました
「おお、見た事のない……これも…鳥か?」
「ハ、ハナヨ様……この生き物は一体?」
花陽「これは鶴といって、私の故郷では天然記念物として扱われる神聖な鳥です」
少し脚色しましたが大事にされているという意味は同じでしょう
「す、すばらしい……」
「これはまさしく現代の幻術士……」
「ハナヨ様〜〜!!」ダッ
花陽「………えっ!?」
気が付くと大人しく見ていた人達がみんな立ち上がり、私を囲うようにしてこちらに……っ!?
その表情は興奮からか、とても冷静には見えません……っと、これ…っ
「おっと、悪いが姉さんには不用意に近づかないように」スッ
「そのお力は十分目に焼き付いただろ? さぁ下がって」
花陽「あれ、男子寮のみなさん?」
ユリカ「万が一を考えて周囲を警護してもらってます」
エミ「物珍しさからよからぬ事を企てる輩もいるかもしれませんからね」
花陽「あ、ありがとう……」
私自身に対する悪意はなかったけど、違う意味でエスカレートした人が騒ぎを起こす事もある…と
どうも少し調子にのってしまったようです……反省
「いやー大変すばらしいものを見せて頂きました!」
花陽「簡単なもので申し訳ありませんが、楽しんでいただけたのならよかったです」
「あれで簡単だと……本格的なものはもっとすごいお力なのでしょうな」
国境警備隊の人達にも満足してもらったようで何よりです
「そういえばあなた方は国境をこえるために来られたのでしたね」
花陽「はい。ユーディクスに向かう予定です」
「そうでしたか。幻術士様なら身の保証も大丈夫そうです。どうぞお通りください」
花陽「えっ……あ、ありがとう」
いいのかな?
「ユーディクスへの道はこの門を抜けて東の方へ向かうと案内板がございます。そこでご確認を」
花陽「わかりました」
「あの、ユーディクスへは何をされに?」
花陽「ん? ああ、えっと……あの子達が魔法学校へ入学するためにです」
幻術士の創ったものとして、家のように大きな馬車を見物する人達の応対をしているユリカちゃん達
彼女達の将来のため、そして私のために魔法学校へ行くのです
「魔法学校……ですか。しかしあそこは今……」
花陽「え、どうかしたんですか?」
魔法学校という言葉ににこにこ笑顔だった警備隊の人の顔が曇る……
この時私達はまだ知りませんでした……
花陽「え………!?」
国家をあげて取り組んでいる魔法学校が………廃校の危機に直面している事を!
なんだ?戦争か??って思ったらまさかの展開だったw
今夜もありがとう!めっちゃ面白い! アイドル計画に続いて廃校もなのか
異世界転生×ラブライブらしい話ですごい -ユーディクス王国 西の領地プレハブ平原
国境を超えると世界が変わる
アイナちゃんが言っていた事を今体感しています
クレスタリアからユーディクスへ行くために門を潜った先に広がっていたのは、平原……
それも一面に広がる大平原です。気温も少しあがった気がします
空気はカラっとしていて……というか春先ののんびりした気候から突然真夏になった感覚です
花陽「これでよしっ……と」カタッ
パイ「わぁ、おっきいカサ〜」
花陽「これはビーチパラソルって言ってね、強い日差しを防いでくれるんだよ」
ヨシノ「こっちのながーいのは?」
花陽「ビーチベッドだよ。おもに海辺やプールで使うベッドなんだけど」
リホ「よくわかんないけどゴロゴロしていいの?」
花陽「いいよ〜」
折り紙を使って色々と使えそうなものを創りました
こちらの地方は日差しが強いので屋上でよく遊ぶ子供達のために日よけ対策です
正直折り紙で作ったことがないものもこの機会に挑戦しているのですが、上手く出来てくれてよかったです
多少私のイメージが先行する部分もあるので、細かい造形は省略しても平気みたいでした
「姉さーーん!」
花陽「ん?」
ふと声をかけられたので見ると、後続の男子寮からでした
というか姉さんで反応するようになっちゃった……
花陽「どうかしましたかー?」
「そのでっかいカサ、俺らにも作ってもらえませんか〜?」
カサ…パラソルの事かな?
向こうの屋上ではソラくんがいつものように特訓しています……この暑い中……
傍らで見守るアヤちゃんもこの気温はこたえているようです
花陽「いまそっちに行きますからお待ちください〜」
「ありがとごぜぇやす〜」
花陽「ちょっと向こうに行ってきますね」
リホ「行ってらっしゃい〜」
パイ「このベッドはちゃんと死守しておくわっ!」ガシッ
ヨシノ「ぐぬぬ…っ!」ググッ
花陽「仲良く使ってくださいね……」
二階ではユリカちゃん達が今後の事についての話し合いをしています
現状問題として挙がった内容が今の私達では到底どうにもできない事なので、どうしようかという事
エミ「とにかく一度学校の方へ出向きましょう。私達にも何かできるかも」
ユリカ「しかし国として下した決定を部外者にどうこうできるかしら?」
アイナ「原因がわかんないんじゃ今決める事はできないんじゃないかな?」
スズ「それか、魔法の先生に直接師事を仰ぐというのはどうでしょう?」
エミ「召喚魔法は当然ですが、基礎となる魔法の鍛錬にもそれなりの設備と環境が必要です。先生がいらっしゃるだけでは……」
花陽「……………」ソー
邪魔しないようにこっそりと……
馬車はゆっくりと東へ向けて走行中です
問題は発生しましたが進路は変わらずなので、なにをおいてもまずはユーディクスへ行きます
花陽「フワちゃん、ちょっと後ろへ移動するので一度止まってくださいー」タッ
フワ「ん、はーい」ザッ
馬車を引くフワちゃんの背中にはカナちゃんとショコラがいました……が
カナ「…………スー」Zzz…
花陽「気持ちよさそうに寝てますね。ショコラまで」
フワ「適度な振動が心地いいからねっ」
一応移動中の私達に接触してくる存在があれば知らせにくる役割があったと思いますけど、まぁフワちゃんがついてるし大丈夫でしょう
フワ「中の話合いはまだ続いてるの?」
花陽「そうみたいです」
フワ「さすがにみんな驚いたわよねー」
花陽「まさか魔法学校が生徒の募集を先月で打ち切り、事実上廃校に向かってるだなんて……」
フワ「詳しい原因はわかってないのよね?」
花陽「警備隊の人は簡単な内容しか聞いていないらしくて。先月突然決まったそうですから」
フワ「学ぶべき場所がないなんて、さすがに予想もしていなかったことだもんね」
魔法国家としてその地位を確立してきたユーディクスがまさかの魔法事業を辞めるだなんて
そこにどういう事情があるかは行って見ないとわかりません
もしこれでユリカちゃん達が学校で学べなくなったとしたら、私が帰る方法として別の道を探さないといけません
花陽「廃校………」
以前、この言葉に必死に抵抗していた人がいました
廃校という決められた未来に全力で抗った私達のリーダー……
花陽「学校を救う……かぁ」
-夜 プレハブ平原 街道
思っていたよりもユーディクスまで距離がありました
途中にあった案内板では明日には着くそうですが、今日はここでお休みです
カナ「どう? 窮屈じゃない?」
ワンッ
カナ「ふふ、良かったね」
ショコラのお家が完成しました
実は色々とあってリテイクを繰り返し、ようやく今日完成となったのです
「どうですか?」
花陽「ん、オッケーです。ご苦労様でした」
「姉さんの細かい注文に全部答えやしたからね、時間かかっちまいましたが……」
花陽「でもすごく喜んでいますし、いい仕事です」
「コツさえ掴めばなんてこたぁねぇです」
「お前あれだけ板をぶっ壊しといてよく言うな」
カナ「ありがとう、おじさんっ」
「お、おう……気に入ったかい?」
カナ「うん♪」
「そうか……へへ」
「なに照れてるんだこいつは」
「うるっせー」
ショコラのお家完成記念というか、今まで私達はご飯を別々に集まっていただいていました
だけどこういう時はみんな一緒がいいですよね
花陽「ということで、じゃじゃーん!!」
「ん、なんでやすか?」
街道から少し道を外れたところに馬車を置き、二台の間でちょっとしたバーベキューです!
リホ「なになに、これなーに?」
花陽「バーベキューセットだよ。この網の上でいろんな食材を焼いて食べるの」
アヤ「普通に鍋で焼くのとは違うの?」
花陽「ふふ、炭火で焼くとまた違った味わいがあるんですよっ」
たしか海未ちゃんがそう言ってました。キャンプの醍醐味だそうです
そのために必要なものは全部創れる範囲でしたので折り紙で創りました
ホントに便利というか、あれもこれも折り紙でできるかな?って、挑戦してみたくなります
昔本で読んだ折り紙の世界にはもっと複雑で高度な造形物がありました。いつか私も……
ユリカ「お野菜、切り分けましたよー」
花陽「はーい………それではっ」
明日には魔法王国に到着します
そこに待っているのがどういうものかはまだまだ不明ですが、とりあえず今日は……
花陽「みんなでバーベキューパーティーです!」ガバッ
パイ「おー!」
ヨシノ「お〜!」
リホ「よくわかんないけど、おいしいもの食べられるならおー!」
エミ「お、おー…」
「「「おおーーー!!」」
アイナ「野太いなー…」
アヤ「ソラまで……」
今日も寝る前に読めたーありがとうー
花陽の新たなる可能性と仲が深まっていく様子がいいね
焼いてるシーンとか無いし始まってないのに美味しそうだなって思ったわw みんな野外でご飯を食べる事は経験あったけど、バーベキューは初めてだったみたいです
普段と違う網で焼く食材、飯盒で焚くご飯のおいしさを十分に楽しんでくれました
健康的というか、子供達も好き嫌いないみたいで、良いことだと思います
花陽「ん、可愛い寝顔……」
ユリカ「みんなよく食べて騒ぎましたからね」
エミ「…………クー」Zzz…
リホ「……ケフッ………それあーしの……にく……」Zzz…
パイ「……………っ!」ビクッ Zzz…
花陽「外でも十分暖かいけど、ちゃんとみんなベッドで寝かせてあげないと…」サッ
ユリカ「そうですね、それじゃあ私が…」
フワ「ああ、いいわよ。子供達は私が運んであげるわ」ヌッ
花陽「フワちゃんっ」
ユリカ「え…ですが……」
どうやって運ぶの? というまっとうな疑問に対しフワちゃんは……
フワ「ん…っしょ」スッ
花陽「わっ……フワちゃん立てるんですね」
フワ「ちゃーんと二足歩行も可能よ」
ユリカ「さすがです」
なんでもありですね
フワ「それよりも、話しておきたい事、あるんでしょ?」
ユリカ「えっ……あ……」
花陽「?」
フワちゃんが意味深な言葉を残して子供達をお家に連れて帰ります
ユリカちゃんが話したい事……この場合、私に…かな?
ユリカ「……………」
花陽「……………」
静かな夜に、焚火の音だけが響き渡る……
なにか大切なお話しなのかな?
ユリカ「あの、ハナヨちゃん」
花陽「っはい」ビクッ
静寂が妙な緊張を生んだせいで、過剰に反応してしまいました
しかしユリカちゃんはそんな事も気にとめず続けます
ホントに、大切な話みたい……
ユリカ「魔法学校の事……突然の事で、その…ごめんなさい」
花陽「ん、どうしてユリカちゃんが謝るの?」
ユリカ「ハナヨちゃんを送り返す方法なのに、このような形になってしまって…」
花陽「まだ決まったわけじゃないですよ?」
ユリカ「はい……。明日どういう結果が待っているのかわかりませんが…でも…」
ユリカちゃんは国が決めた事なので簡単には状況を変えられないという意見でした
それでも諦めるような素振りはありません。まだ私のために道を探そうとしてくれています
花陽「正直な事言うとですね…」
ユリカ「………はい」
花陽「魔法学校が廃校になっていて、計画が上手くいかないって聞いた時に、前のような焦りはなかったんです」
ユリカ「前の…とは?」
花陽「この世界にきたばかりの私。何があっても帰りたいばっかりで、すごく我儘で……」
ユリカ「我儘なんてそんな……それは当然だと思います」
花陽「ん……でもね、みんなと一緒にここまで来て、みんなが私のためにがんばってくれているのを見て、少し考えが変わりました」
自分でも驚いたのが、帰る方法がうまくいかないって聞いた時に、そんなにショックを受けなかった事です
喜んだわけじゃない。やっぱり今でも帰りたいという気持ちはあります
でも、いつのまにかそれは私の最優先ではなくなっていました
花陽「少なからず、私自身が手を差し伸べたものがある。私は自分でそれを背負うことを決めました」
ユリカ「ハナヨちゃん……」
花陽「だから、もし学校がダメでも違う方法をユリカちゃん達が探してくれるのを、信じて待ってます」
ユリカ「……………」
花陽「そこに私がやれることがあれば、なんでも言ってくださいねっ」
ユリカ「……………」
ユリカちゃんは私を1日でも早く元の世界に戻れるようにと最善の道を探してくれていました
それが少しくらい頓挫したからといって気に病んで欲しくはありません
ユリカ「……………ぅっ」
花陽「……ユリカちゃん?」
ユリカ「ごめんなさい……。ハナヨちゃん…違うんです…」
花陽「えっ…え?」
ユリカ「あなたの優しさに……私は甘えてました……今も自分の事を考えてました……」
花陽「ど、どういう事ですか?」
ユリカ「ハナヨちゃんを元の世界に送り返すのに大召喚が必要なのは本当で、そのために学校で学ぶのは正しい……でも」
突然ユリカちゃんが顔を覆って俯いてしまいます
彼女の中で何がそうさせるんだろ…
ユリカ「私は……魔法学校に入りたいです。お父さんと同じ道を……ずっと追ってきたから」
花陽「お父さん……?」
ユリカ「私達が元々魔法学校に入学する予定だったのは以前言ったと思います……」
花陽「はい……だからみんなで行く事に問題はないと……」
ユリカ「私個人の目的が一致したから、それでいいと、都合よく考えていたんです…」
花陽「でも、ちゃんと考えてくれてたんですよね?」
ユリカ「それは勿論……でもこうなってしまって、ハナヨちゃんは気にしなくてもいいと言ってくれました…」
花陽「うん。私は大丈夫だから……」
ユリカ「でも私は嫌なんです。魔法学校に入学して、お父さんと同じ道を行って、お父さんと同じ称号を欲しいと思っています」
花陽「称号……?」
ユリカ「魔法の各分野で認められると、それぞれ称号が与えられるんです……」
花陽「それがお父さんも持っていたと?」
ユリカ「はい…。私はどうしてもそれが欲しくて……すごく我儘なお願いをハナヨちゃんにしようとしていました」
私の事以上に学校への拘りを持っていたユリカちゃん
お父さんの事が大好きなんだなーというのは知っていましたけど、これほどとは……
ユリカ「でも、ここでぐっと溜め込んでいたらダメだっていうのもみんなに教えてもらいました」
花陽「う、うん……そうだね」
みんなのお姉ちゃんであろうとし、自分一人ですべてやり切ろうとした彼女を叱ったのは私達
その結果、家族に頼る事を知ったユリカちゃんが今、私を頼ろうとしてくれています
でも、前後の会話からその内容はもう分かってしまいました……
ユリカ「なのでお願いですハナヨちゃん! 廃校の問題をもし解決できるのであれば、勇者のお力を……貸してください!」
花陽「やっぱりー」
他国の国家事情を私にどうか出来るとはちょっと思えないし、このお願いを私は気軽に返事するのは躊躇われます
スキル「それ正解!」が発動しないのもわかります。私の知らない事情、認識があるからです
でも……私はユリカちゃんのお願いを無碍にできない。したくありません
ユリカ「………………」
花陽「絶対って自信はないけど……出来る限り、やってはみますね」
ユリカ「あっ………ありがとうっ!」ギュッ
花陽「あうっ……もう……絶対ってわけじゃないんですよ……」サッ
こんな笑顔を見せられたら、やっぱりダメでした〜なんて言えなくなります
お父さんの事になるとホントに真っ直ぐで、融通が利かなくなるお姉ちゃんですね
花陽「お父さんと同じ道……か」
ユリカ「お恥ずかしい話ですが、お父さんの事になるとどうしても……」
花陽「大好きなんですねー」
ユリカ「はい。尊敬しています!」
花陽「はは………。お父さんの称号ってどういうのなんですか?」
ユリカ「お父さんは様々な分野で称号をもっていましたから、私にはすべてというわけにはいきません。でも、1つだけ……」
そんなお父さんの持つ称号の中で、たった1つ、自分も欲しいと思ったものがあるそうです。それが……
花陽「クボ……?」
ユリカ「はい。召喚術の中でも精霊召喚の道を極めた者に与えられる称号です」
称号を与えられると、名前の前か後ろに権威を持って呼ばれる事になるんだとか
クボ・ユリカ………ユリカ・クボ? その称号がユリカちゃんの望みでした
え?!そこに繋がるの?!凄い虚をつかれた気分だw
毎日更新してくれてるけど無理しないでねー
読み手としては凄い有難いんだけど書き手ありきだからさー 魔法王国ユーディクス
かつては魔法大国としてその技術の高さを周辺国に知らしめたと言います
しかし国はそれを軍事に活かすことなく、技術改革や若者の育成に努め、魔法以外の分野でも高い水準を持つようになる
花陽「あれが…………」
国事として魔法を強く推進する一方でその研究に取り組んでいたのが、スキル技術
ユリカ「スキル開発にも力を入れ、その方面でも強い影響力を持つのだとか…」
花陽「なるほど……」
次の日のお昼ごろ、私達はついに魔法王国ユーディクスに到着しました
眼前に広がる光景はまさに圧巻です
高い城壁、そのさらに上をいくたくさんの塔……
魔法によるものなのか、建物それぞれが淡い光を放っていてとても幻想的です
リホ「きれいなとこだねー」
ユリカ「そうだね。私も本の中で絵を見た事はあるけれど、ここまですごいとは……」
エミ「やはりここまでくると人の出入りがすごいですね」
スズ「クレスタリア以外の国からも来ていますね。あちらには大きな商船団が見えます」
パイ「わーあれなに? お船が走ってるよ〜?」
アイナ「確か…北国の砂上船だったかな。私も見るのは初めてだよ」
リホ「こっちも負けてないんだからっ!」
ヨシノ「んっ」グッ
なにを張り合ってるんだろう?
フワ「このまま城門までつけていいのかしら?」
ユリカ「はい。確か街中に大型の馬車などを格納する借車場があるはずですからそこへ」
フワ「わかったわ。ここから先、なるべく話さないようにするからよろしくね」
ユリカ「はい」
他の人にはアルパカという種族だとフワちゃんやギンさんの事は説明していますが、人の言葉を理解し、話せることは秘密にしています
理由は単純で、面倒なことになるからだと……
すでに近くを通る人々や馬車のほとんどが私達の大きな家のような馬車とフワちゃんを見て驚いたりしています
物珍しさは確かにあるのかもしれませんが、異国の文化で、そういうものだと理解しているようです
花陽「……………」チラッ
リホ「あ、あそこの馬車の女の子、こっちに手をふってくれてるっ!」ササッ
パイ「わたしの可愛さに反応しちゃったのかな〜?」
ヨシノ「ちがうとおもう〜」
みんな堂々としている……むしろ人に注目されるのを楽しんでさえいます
元々の素養なのか、他人と自分を意識して比較したりすることがない人間性なのか……
アイナ「そうだ、どうせなら盛大に行かない?」
ユリカ「なにをするつもりなの?」
どうせ注目されているならと、アイナちゃんがここにきてライブの宣伝を兼ねるといいだしました
屋上から音楽を大音量で流すというのです
花陽「………………」
少し……いえ、結構驚きました
みんなはそれぞれやることがあるのに、私の我儘な話をきちんと考えてくれていたのです
ライブをすると言ったのは私で、その計画は変わりません
だけど、宣伝として活動できるチャンスは活かしていく……この発想は今の私にはないものでした
エミ「アイナちゃん、流すなら歌詞のない音楽でお願いします。あとなるべく軽快なやつを」
アイナ「え、どうして?」
エミ「初めて音楽に触れる人達に意味の伝わらない歌詞を聴かせても呪唱の類だと警戒させてしまう可能性があります」
花陽「……………」
アヤ「そうだね、最初はノリノリな音楽を聴かせて興味を持ってもらったほうがいいね」
エミちゃんの指摘にまた一つ教えられました
ユリカちゃん達が私という安心できる人物から与えられた影響とは違い、不意に聴こえてくる歌には別の印象を抱く可能性がある
リホ「それならあれがいい、あのなんかテンションあがるやつっ!」
アイナ「どれかわかんない。リホ選んで」サッ
リホちゃんが歌詞がなく、なんだかテンションあがる曲として選んだのが…
〜〜♪ 〜〜♪ ……♪!!!!
花陽「ワ、ワルキューレの騎行……え、でもこれ確か歌が……」
リホ「これ好き〜♪」
エミ「確かに、徐々に気持ちが高揚する旋律……いいですね!」
パイ「いいんじゃない?」サッ
そっか……言葉がわからないとオペラも音に聴こえるんだ……
ユリカ「そうだハナヨちゃん、幻術士として先頭に立ってアピールするというのはどうかな?」
花陽「いっ!? な、なんのためにですか?」
ユリカ「初めてみる不思議な光景にも幻術士の存在があれば皆納得すると思うんです」
ホントに幻術士ってどういう人なの?
……という疑問をよそに、ワルキューレの騎行を流しながら馬車の屋上にて佇む幻術士私
花陽「これはどういう状況ですか?」
エミ「ハナヨちゃん、もっと威厳をだしてっ!」
花陽「だから無茶な要求ですって〜それ」
独特の雰囲気を醸し出しながら私達は魔法王国ユーディクスに到着したのでした
花陽「すごく注目されましたっ……」
ユリカ「お疲れ様っ良い宣伝になったと思いますよ」
エミ「ハナヨちゃんはもうちょっと自信を持っていいと思います」
好き勝手言ってくれます……ふぅ
入国審査的な手続きはどういうものなんだろうと思っていたのですが、何事もなく門を潜ることが出来ました
というよりも……
「ようこそ幻術士ハナヨ様、ご連絡は受けています!どうぞお通りください!」サッ
花陽「はぁ………」
なぜかもう私が来ることが知られていました
関所の人がなんらかの方法で話を通してくれたのでしょうか?
エミ「それほど幻術士というのは高貴な存在なのです」
花陽「それって大丈夫なんですか? 私ただ名乗ってるだけなんですけど……」
ユリカ「ハナヨちゃんの場合、幻術士というカテゴリーですらもう超越していますからね。まさか勇者様と呼ぶわけにもいきませんし…」
花陽「あ、そうなんですね……」
私のこの不思議なスキルの数々を他の人に納得させるうえでの必要な処置だという事です
でも、知らない人にまで様付けで呼ばれるのにはまだ慣れません……
-魔法王国ユーディクス 城下町メレイナ
街というか、すごく立派な都市がそこにはありました
電光掲示板のような作りの文字盤が道路のあちこちに設置してあり、通りに並ぶ店先にも表示板があります
それらは決して機械というわけではなく、すべてがスキルで管理されている道具でした
正直魔法のような不思議な光景を想像していたのですが、予想以上に近代的です
建物の材質こそクレスタリアと変わりませんが、細部にわたって生活水準の高さが伺えます
花陽「すごいところですね……」
ユリカ「本当に……」
リホ「馬車のまま楽々はいれるなんて、おっきな道なんだね」
私達が運んできた大きな家のような馬車でも十分通れるくらいの道幅があります
しかしさすがにこの大きさの馬車は珍しいのか、街の人達が何事かと目を向けています
ユリカ「えっと……どこかに街の案内板はないかしら?」
アイナ「あそこの交差点前にあるよ」
ユリカ「あれね。フワさん、あちらにお願いします」
私は当然として、ユリカちゃん達もここに来るのは初めてです
まるで上京してきたばかりの田舎者さながらに、見るものすべてに目を奪われています
もちろん私もっ!
アヤ「あ、あそこのお店……綺麗な服がたくさん売ってる!」
アイナ「どこっ!?」
パイ「あぁ……なんだかいい匂いがする……」
ヨシノ「おいしそうな料理の気配があのお店から……」
カナ「すごいねーショコラ」 ワンッ
私達がこの状態なら、後続のギンさん達も同じような状況なのかな
とにもかくにも人目が気になるのでどこか落ち着ける場所に早く向かいたいところです
通りの案内板を見ながらユリカちゃん達が話し合っているので私達は路上駐車? して待機です
道行く人達が皆見ていくので大人しくしましょう
「ママ、おっきいお家〜」
「ホントだわ。どこからいらしたのでしょう?」
こっちを見て女の子が手を振ってくれているので笑顔で応えます
突然やってきた私達だけど、怪しい集団じゃないですよーと、第一印象は良くないとね
「ママ、へんなお馬さんー!」
「ホントだわ。ほかの地域に生息している珍しい種類かしら?」
フワ「………………」ヒクッ
フワちゃんも第一印象大事に、ですよ!
こんなに更新ありがとう
RPG好きだとこういうシーンが更に楽しく感じるね〜 パート1から読み返してもテンポいいなって思う
驚かされるし話の詰め方も好みだ ようやく到着したユーディクスにて、最初の問題が浮上しました
結論! 馬車を停めておくところがありません!
ユリカ「普通サイズの馬車なら受け入れてくれる宿もあるのですが、このサイズのものは数が少ないらしくて…」
アイナ「さっき見かけた砂上船が見事に空いていたところを埋めてくれたねー」
ヨシノ「呑気に宣伝してる場合じゃなかったの」
花陽「うぐっ……」
エミ「そ、そんな事ありませんよっ!」
アヤ「でもとりあえずどーするのよ」
リホ「みんなで外に行くの?」
国のすぐ外に馬車を停泊して何拍もするのは不法滞在になるそうです
学校に通いたいのにこれはマズイ問題になるので却下となりました
「姉さん、ちょっといいすか?」
わりと本気でどうしようかと考えてるところに別の意見が飛び込んできました
花陽「え………不動産屋さんと知り合いなんですか?」
「昔ちょっと世話んなってたとこの看板がさっきあったんで、まだやってると思いやす」
エミ「不動産で宿を探すのですか?」
「いえ、そこはちょっとした企業向けに商売をしてるところでして……」
提案として出されたのは、なんとも意外……でも問題解決には確かに有益なものでした
花陽「工場跡地を……」
エミ「買い取る……ですか」
「へい」
まさに私達向けの、お金にものを言わせた方法でした
エミ「でも、今日きたばかりの私達にそんな大きな物件、売ってくれるのでしょうか?」
「そこはあっしにまかせてくだせい。それに幻術士様たっての願いなら多少無理も通りまさあぁ」
花陽「はは………」
ということで、交渉のためにおじさんと私、それとユリカちゃんの三人で不動産屋さんに向かう事になりました
馬車はその間街に入ってきたところにある広場に停めさせてもらうしかありません
その広場での対応とまとめ役をスズちゃんとエミちゃんにおまかせし、いざ不動産屋さんへ!
花陽「ところで、工場跡地ってどういうのですか?」
「ああ、それはこの国にもある表と裏の事情ってやつでさぁ」
ユリカ「表と裏……それは……」
魔法王国……少し前には魔法大国として名を轟かせたこの国にも、繁栄の裏に犠牲というものが存在していました
「ここは魔法やスキル、他にも武芸だったりと色々手を伸ばす一方で、それが出来ない奴らにとっては住みにくい国なんすよ」
ユリカ「格差がある……と?」
「それと競争社会でもありやすから、ついていけない組織なんてあっという間に潰されるか吸収されるんす」
大きな社会としてそれはごく自然の流れだと思いました
私の世界にも似たような事はたくさんあると考えます
それは学生であった私にも思い当たるものが多いからです
ユーディクスのすべてを把握したわけではありませんが、街の入り口から目にした光景すべてには裏がある……という事ですね
ユリカ「ではその潰されて放置されている跡地を買い取るというわけですね?」
「ただ土地の所有者になれればいいんですぜ。商売とかするんであれば許可証とか必要になっちまう」
花陽「建物や土地を買うのには許可はいらないんですか?」
「この国の住人であれば問題ありやせん」
ユリカ「そうですか……」
花陽「え……この国の住人、誰かいるんですか?」
「一応……自分が……」
ユリカ「あら、元々この国の出身だったんですか?」
「ええ…。ま、色々あってこんなナリになっちまいやしたが……」
人に人生ありとはよく言ったものですが、これもその一つなのですね
みなさんどういう経緯で盗賊という集団になったんだろう…
「ま、そんなワケなんで交渉はまかせてくだせえ」
ユリカ「綺麗な交渉を、お願いしますね」
花陽「危ない事はしないでくださいねっ」
「はは、わかってますよ」
-メレイナ広場
交渉が終わって馬車に戻るとそこには不思議な光景が広がっていました
花陽「これは……」
ユリカ「な、なにをしているのでしょうか?」
街の入り口としてかなり広い場所に馬車を一時的に停めさせてもらっているのですが……
花陽「人が集まってる……何かトラブルかな?」
ユリカ「急ぎましょう!」タッ
もしかして馬車やフワちゃん達が珍しいからと、人目を惹いてしまったのでしょうか?
それともやっぱりあんな大きなものを停めているのが問題だったのでしょうかっ!?
聞こえてくるこの騒めきは……っ!
〜〜♪ 〜〜♪ ワー! キャー!
〜〜♪ 〜〜♪
花陽「…………え」
ユリカ「こ、これは……?」
そこにあったのは、騒ぎではなく、歓声……集まった人達が見ていたのは
音楽に合わせて踊るリホちゃん、パイちゃん、ヨシノちゃん達
それに馬車の前に設置してあるのは家の中にあった大型モニターとコンポ
まさかという考えよりもそれは目に入りました
花陽「みんな、踊ってるの?」
ユリカ「そうみたいです……」
モニターに映し出されているのはスクールアイドルのライブ映像
しかも見覚えのある講堂……って、あれ……μ’sっ!!
花陽「はわ………っ」
確かにあのモニターテレビにはたくさんのアイドル映像が入っています
少し昔のアイドルから現役アイドル、海外のアイドル……そしてスクールアイドルまでもっ!
で、でもμ’sの映像は隠してあったというか、リストの後ろのほうにこっそりと忍ばせてあったのに…
ユリカ「ああ、ハナヨちゃんのでてる映像を流しているのね」
花陽「へっ!? ユリカちゃん知ってるの?」
ユリカ「はい。前にみんなで見ましたので」
みんなで……… 見ましたので……… 見ました………
花陽「はうぅぅぅ!」
ユリカ「ハ、ハナヨちゃん!?」
あわわわ、まだ早いかなと思って隠していたのに、私がスクールアイドルをしているところを見られていたなんて
とっても恥ずかしい……というか、みんなあれを見た上で私の事を見ていたんですねっ!
ユリカ「ハナヨちゃん、お顔が真っ赤ですよ?」
花陽「だ、だって…ちゃんとみんなに言ってから、それから見てもらおうと思っていたのに……」
ユリカ「恥ずかしいものなんですか?」
花陽「そりゃぁ………っ?」
ユリカちゃんがまっすぐ私を見ていました
恥ずかしいものなのかどうか……アイドルというものに初めて触れる彼女達に……いけません、これは
みんなにアイドルをやっている私を見られて、それを恥ずかしいと感じているなんて
一緒にやろうと声をかけてこれじゃ……ズルイですよね
花陽「さ、最初はちょっと……でも…っ」
ユリカ「私達はあの映像に勇気を……最後の一押しをもらいましたよ」
花陽「……えっ?」
ユリカ「正直に言うと、ハナヨちゃんの話すアイドルはとてもすばらしくて、良い事ばかりで……」
花陽「はい、それはもう……」
ユリカ「そんな出来すぎた存在が本当にあるのか、信じきれない部分はみんな少なからずあったと思います」
花陽「……………」
それは………考えもしなかった言葉でした……
ユリカ「でもそんな存在が本当にある。そう思わせてくれるきっかけになったのがあのライブ映像です」
花陽「そんな……他にもっとすごいアイドルのライブがあるのに……」
ユリカ「でも、ハナヨちゃんが楽しそうに歌って、踊っているのはあのグループだけなんですよね?」
花陽「え……あ、はい……」
ユリカ「身近にいるハナヨちゃんが本当にアイドルをやっている姿が、私達にはなにより衝撃だったんですよ」
ユリカ「あんなに楽しそうなハナヨちゃん、初めて見ましたし、本当に心から好きなんだって伝わってきました」
花陽「ぁぅ……////」
ユリカ「それを恥ずかしいなんて感じるのは、変じゃないですか?」
花陽「うん。ごめんなさい……昔の私のわるいクセなんです……でも」
「あれ、あの子あの映像にでてる子じゃない?」
「ホントだわ」
「本物!? 可愛い〜!」
前を向いて歩いて行くと決めて始めたアイドル活動。みんなに知ってもらいたいアイドルのすばらしさ
それを体現しているのは昔の私自身
それを恥じるのは、昔の私にも失礼ってものです、反省しますっ!
ユリカ「とりあえずスズに事情を説明してもらいましょう」
花陽「そうですねっ」
花陽ちんのアイドル部分に触れてくれてありがとう
ちょっとウルッてきてしまった 広場にて突如始まっていたリホちゃん達によるダンスパフォーマンス
これにはここに来る前に派手にやらかしちゃった宣伝が予想以上に効果があったという事だそうで…
エミ「こちらに馬車を運んですぐに何人かの人が訪ねてきたのです」
スズ「さっきの音楽は何だとか、呪唄の危険性はないのかとか、色々ね」
アイナ「そんな危ないものじゃないよっていうのを証明するために、面倒だから他の音楽も流したんだ」
アヤ「もう歌もお構いなくどんどんかけたよ」
ヨシノ「幻術士様のお創りになったものという名目つきなの」
花陽「えー………」
リホ「みんな音楽を聴いてなんだか楽しい気持ちになってくるって言ってくれたよっ!」
パイ「だからその楽しいをもっと教えてあげたくてっ!」
ユリカ「それでモニターを外に持ち出したのね」
初めて聴く音楽はみんなに不思議な高揚感を与え、初めて見るダンスはその昂りを解放し、表現する方法だと話したそうです
私自身そういう話をみんなにした事はありません。ただ感じたことだけを言葉にした結果だと……
花陽「そうなんですか……」
私が考えていたアイドル活動の内容……アイドルの魅力を伝える方法……そのすべてを飛び越えて、みんなは想うままに活動しました
そこにはなんの計画もないけど、打算的な思惑もない純粋な感情
それがこうして広がった………リホちゃん達のダンスを楽しそうに見ていた人達の笑顔がすべて物語っています
花陽「……………」
ユリカ「もう、みんな無茶するんだからー」
リホ「楽しかったよっ」
エミ「あの、やはり問題があったでしょうか?」
花陽「え……ど、どうして?」
スズ「ハナヨちゃんにはきちんとしたライブの計画があったのではないでしょうか?」
花陽「ん……いえ……大丈夫ですよ」
全部1から、すべてを自分達で作り上げていくのがスクールアイドルの醍醐味であり、アイドルと違う明確な部分
でも……それは独りでやるという意味じゃありません
私が考えている以上にみんなアイドルを理解して、行動できています
ライブの日程を決めて場所を決めて、披露する曲を決めて、告知をして……
そんな私の計画じゃ遅いよと、誰かに背中を押されているような気さえします
花陽「思い立ったらすぐ行動……穂乃果ちゃんのように出来るかはわからないけど…」
エミ「ハナヨちゃん?」
花陽「いい機会ですから、1曲歌ってみましょう!」
エミ「い、今からですか? というか、馬車をどうにかする問題は?」
ユリカ「それなら大丈夫です。いま現地の人と連絡を取っていますので」
エミ「現地の人?」
花陽「私達がここで住む場所の人です。それよりもせっかく人が集まっているのですから、少しだけでも見てもらいましょう!」
ユリカ「で、でも私達まだ歌なんて歌えませんよ?」
花陽「大丈夫です。歌は私が歌いますからっ!」グッ
エミ「お、おお…っ!」
花陽「アヤちゃん、なんでもいいので女性アイドルの曲をかけてください!」タッ
アヤ「え、なんでもって……どれでもいいのー?」ポチッ
花陽「全部歌えますから大丈夫ですっ!」サッ
パイ「ハナヨちゃん踊るの? ならパイも〜」
リホ「ズルイ、ならこっち側ばわたしの場所だからねっ」
ヨシノ「ここはゆずらぬ…」
広場に集まってくれたたくさんの人
まだ何か始まるのかと期待している人も、何をしているのかわからず困惑している人全部まとめて…っ
花陽「勢いでやっちゃいますよ〜!」
「はーい、どいてどいてー」
「ほらっ邪魔だよっ」ザッ
花陽「えっ……!?」ピタッ
「ツバサさん、こっちです!」
ツバサ「なぁに、これ馬車ー?」
「無駄におっきいですね。不便そう」
突如集まった人々を押し退けて数人の子供達がやってきました
みんな同じデザインの服を着ています。………あれは、制服?
「スキコーの奴らだ……」
「なんだよいいところなのに……」
スキコー?
ツバサ「ええっと……」ジー
花陽「………ん?」
ツバサ「そこのアナタ」
花陽「え、私ですか?」
ツバサ「こちらに幻術士様がいらっしゃると聞いてきたのだけど、どちらにいらっしゃるの?」
花陽「えっと……それは……」
この子達は幻術士に用があってここに来たのでしょうか
それだと私……に、なるんですよね
「ほらっ、ツバサさんの質問にさっさと答えなさいよっ」
花陽「ええ………」
いきなり高圧的な態度を見せる……おそらくツバサと呼ばれる女の子のお友達さん
そのお友達の態度にも慣れた様子で呑気に笑みを浮かべているツバサさん
第一印象って、大事ですよね
アヤ「ハナヨちゃーん、曲流すよー!」
花陽「あ、アヤちゃんちょっとま……」
さっきアヤちゃんに頼んでいた曲が流れ始めました
っと、ここはまず私のやる事をきちんとこなすほうがさきかな?
花陽「ごめんなさい、ちょっと1曲歌いたいので少し待っていてもらえますか?」
ツバサ「………はぁ?」
「あなた、ツバサさんに待てと仰るの!?」
「なんて無礼なヤツ! これだから余所者は…っ!」
うーん……第一印象って本当に大事で、自分も大切にしたいと思わされます
でもま、構わずやりますっ!
ツバサ「なんですの、この音……呪唄……でもないようね」
「さっきもこんな感じの音を大音量で流してましたよ、こいつら」
ツバサ「わたくしを無視して何かしようだなんて……」スッ
エミ「っ!?」ピクッ
パキィィィン!
花陽「きゃあっ!」ビリリッ
リホ「わっ、な、なに!?」
パイ「耳が〜」クワンクワン…
アヤ「あれ……曲が……止まった?」
エミ「何をなさるのですか!?」バッ
ユリカ「っく……さっきのは…エミちゃん?」
ツバサ「なんですのあなた?」
エミ「今のはあなたのスキルですね? どうして邪魔をするのですかっ!」
「なにこのチビッ子。ツバサさんに盾突くつもり?」
「これだから余所者は……ハァ」
花陽「な、なにが起こったの?」
エミ「そこの方がスキルで空気を割ったのです。おそらくコンポからの空気の流れを止めてしまっています」
花陽「ス、スキル? って、どうしてそんなことを……?」
ツバサ「わたくしは、幻術士様がどちらにいらっしゃるか、お尋ねしているんですのよ?」
「それを無視するそっちが悪いんだぞっ」
花陽「………………」
エミ「だからって、一歩間違えば怪我をするかもしれない危険なスキルですよ!?」
「はっ……お子様ね。ツバサさんがそんなミスをするはずがないでしょう?」
「いいから先に質問に答えなさい」
言われたからそう名乗っているだけ
ただ都合がいいから……誤魔化すための幻術士
だけど、その名がこの事態を招いたと言うのなら、そこは誤魔化すわけにはいきません
花陽「ごめんなさい。あなたの質問に先にお答えしますね」
ツバサ「ええ、よろしくてよ」
花陽「私がその幻術士です。何か御用ですか?」
ツバサ「…………………」
私の中で一つの予感がしていました
ツバサ「…………へぇ」ニヤッ
もう確実に、この人とは面倒な事しか起こりそうにないという予感が……
ピピッ
――スキル「それ正解!」が発動しました
ツバサ「ふふ……そう、貴方が……うふふふ」
花陽「………………」ゴクッ
「何言ってるのあなた、幻術士よ、ゲ・ン・ジュ・ツ・シ!」
「あなたみたいな田舎娘なわけないじゃないのっ」
「ったく、これだから余所者は…」
この子これしか言ってないですっ!
ツバサ「やめなさい、あなた達」スッ
「ツバサさん…でもっ」
ツバサ「……………」ジー
花陽「……………」
なぜかこの鋭い視線というか、威圧感のようなものには覚えがあります
私達が一方的にですがライバル視していたあのグループの人達のような……
ツバサ「さて、あなたが幻術士様というのなら、一体どっちが正解かしら?」
花陽「どっち……といいますと?」
ツバサ「関所の方々からはすばらしい術を拝見できて光栄だという声も届いていますが……」
花陽「……………」
ツバサ「数年ぶりに現れた幻術士様は……人を騙す術に長けたお方か、権威だけが一人歩きしているだけの過剰な信仰なのか…」
花陽「……………」
ツバサ「あなたは、どっちだと?」
私の顔を見てずっと笑顔のツバサさんですが、その印象は変わりません……
だけど敵意があるわけじゃないので、しばらく成り行きにまかせます
この手のタイプの方は無駄に刺激しなければ何事もなく……
エミ「どちらでもありませんっ!」バッ
花陽「へ?」
ユリカ「人を騙すだなんて……この子のどこをどう見ればそういう考えになるのか、理解不能です」
リホ「そーだそーだ!」
パイ「見る目がないって、それだけで人生損してそう」
ヨシノ「これだから都会者は…」
アヤ「それはどうなの?」
花陽「あの……そんな言い方したら……」
「きさまらっ、ツバサさんに対してなんて口の利き方をっ!」バッ
「この方を誰だと思っているの、この田舎者!」
「田舎者っ!」
あ、田舎者にかわってみんな言うんだ…って、そうじゃなくて!
花陽「みんなちょっと待って、話がややこしくなりますっ」
ユリカ「ややこしくなんかありません!」
エミ「ハナヨちゃんを…家族をバカにされたのですよ! 黙っていられるわけないじゃないですか!」
花陽「……………」
「まずはその無礼な発言を取り消しなさいっ田舎者!」
パイ「その年でもうヒステリックなのは将来が可哀想」
ヨシノ「きっと明日ハゲるのです」
「な、なんですって…子供だと思って優しくしてりゃ…っ!」バッ
エミ「危なっ…!」
ガシッ!
お互いにヒートアップした口喧嘩から、相手が手をあげてしまいました
しかしそこは最高の護衛がついているから安心です
って、みんなケンカはダメです!
ギン「やれやれ……うるさくて敵わん……」ググッ
「………へ?」
フワ「子供らしいケンカなら可愛げがあったのに、しかたない子達ねぇ」ザッ
「ひっ…な、なに!?」
ユリカ「ギンさん、フワさん!?」
「う、馬がしゃべったぁぁ!?」
ツバサ「……………っ」
花陽「ケンカはダメです。例えどんな理由でも、そこで話が終わっちゃいますっ」サッ
みんなが怒ってくれた理由は……すごく嬉しいですけど
フワ「馬じゃないんだけど、まぁ今はいいわ」
ツバサ「あなたが………報告にあったアルパカという動物かしら?」
フワ「私の事は聞いているのね。そうよ」
ツバサ「この大きな馬車を引くほどの力持ちだとは聞いていましたが、お話しになられるのですね」
フワ「幻術士ハナヨちゃんにそうしてもらったのよ」
ツバサ「幻術士……ハナヨ………」
花陽「私が花陽です」
ツバサ「…………そう」
「こ、こんなのきっとどこかに声をだす何かが仕込んで……」ススッ
ギン「………」ギロッ
「ひぅっ」ビクッ
花陽「ギンさん、威圧しないでください」
ツバサ「それではこの国の魔法学校に入りたいというのは、そちらの中にいらっしゃる子かしら?」
ユリカ「どうしてそれを……」
「ツバサさんにわからない事なんてないのよっ!」
パイ「ハナヨちゃんが幻術士だってわからなかったクセにー?」
「なによこの子っ!」
花陽「パイちゃん、抑えてー」
ツバサ「あなたも余計な口を挟まないで」
「し、失礼しました……」
ツバサ「…………………」
花陽「……………」
ツバサ「いいでしょう。先ほどのわたくしどもの非礼はお詫びます。申し訳ございませんでした、幻術士ハナヨ様」スッ
「…………」スッ
「…………」ササッ
「…………」ペコッ
花陽「………………」
ツバサさんが軽く会釈するように頭を下げると、周りの子達も同じように頭を下げる
少し意外な展開ですが、これでこの場はなんとか収まってくれるのかな…
ツバサ「ハナヨ様はこの街にご滞在なされるので?」
花陽「あ…はい、その予定ですけど……」
ツバサ「そうですか。ふふ、ではまた会う機会がありそうです」
花陽「え……?」
ツバサ「その時に少し、わたくしの話に耳を傾けて頂けると幸いです」サッ
ツバサ「今日はご挨拶だけする予定でしたのでこれにて失礼しますわ」バッ
花陽「あの………」
ツバサ「わたくし、この国にあるスキル技術の研究、開発をしている学校の生徒会長をしております、ツバサと申します」
花陽「こ、小泉…花陽です」
ツバサ「コイズミ……初めて聞く称号ですね」
花陽「……………」
名字というものが誰にでもあるわけじゃないのがこの世界です
エミちゃんのように元々が王族とか、権威ある身分の人にはあるみたいですけど…
だから敢えて訂正はしません。話がややこしい方へ膨らみそうだから
ツバサ「そのあたりも踏まえて、今度じっくりと……ふふ、それでは…」サッ
エミ「待ってください、聞きたい事があります!」
ツバサ「…………」ジ…
エミ「………っ」
立ち去ろうとするツバサさんをエミちゃんが呼び止めます
しかしさっきも感じたあの威圧的な視線にエミちゃんが動けなくなる
スキルじゃなく、あの人自身の持つオーラとか、なんかそういうのが強いんです
タタッ
ソラ「なぁ、ユリ姉ーご飯まだー?」サッ
ユリカ「ソラ、なにを呑気な事を……」
ツバサ「…………っ?」チラッ
ソラ「でもお腹すいたー」
ツバサ「っ!!!??」ドキーーン!!
エミ「………?」
ツバサ「ぁ…………っ」
花陽「………ん?」
ツバサ「ん……で、ではまた……みなさん、行きますわよっ!」サササッ
………んん?
結局エミちゃんの呼び止めに応じることなく、ツバサさん一行は急ぎ足で立ち去っていきました
最後のあれはなんだったんだろう?
フワ「ふふ……おもしろ子達ねー」
花陽「フワちゃん……おもしろがってますね…」
リホ「アイツきら〜い」
パイ「他のヤツも〜!」
ユリカ「これ、そんな言葉使いやめなさいっ」
ソラ「ご飯ー…」
アヤ「何か作ってあげようか?」
エミ「あの、それよりこの騒ぎを収めて早く馬車をどうにかしたほうが……」
花陽「そうでしたっ!」
忘れてました
突然現れたツバサさんのおかげで広場の空気は一変
私達が何かをするのではという期待に満ちた眼差しは今……
「幻術士様、お会いできて光栄ですっ!」
「握手してくださいっ!」ギュゥ
花陽「は、はは……」
「なんと神々しい…神聖な神の御使いに違いない」ナムナム
「ありがたや、ありがたや……」
フワ「またこのパターン……」
エミ「ここにいた人達がすっかりハナヨちゃんとフワちゃんに集まってしまいましたね」
アイナ「これじゃ今から仕切りなおして歌うのは難しいか」
スズ「これ以上騒ぎを大きくしたら別の問題が生じる可能性も…」
ユリカ「ハナヨちゃん、そろそろ移動しましょう。ライブはまた次の機会にっ」
花陽「はーいっ」
こうなってしまっては仕方がありません
ハイテンションのままやり切ってしまいたかったですが出直しです
「幻術士様はどちらの宿にご滞在なされるのでしょう?」
「きっと国一番のあの宿しかないわ」
その宿に馬車ば停められなかったんですよね
花陽「みなさん、馬車を動かさないと邪魔になってしまうので、そろそろ失礼しますね」
「幻術士様、今度ぜひ幻術を見せてくださいっ!」
「さっきの音と踊りもまた…っ!」
花陽「はい、それは必ず」
街の人達に違う認識とはいえアイドルの存在を知ってもらえただけでも良しとしましょう
しかし今回の事で一番街の人に知れ渡ったのが……
「きゃー!フワちゃん、可愛い!」
「ふわふわだわ、いい毛皮のコートが作れそう!」
フワ「サラっと怖い事を言わないの。とにかく今日はもう解散よー!」
フワちゃん人気、すごいです
ちなみにギンさんは気づくと後方に下がって見つからないようにしていました。さすがです
-メレイナ地区 北部
街中を目立つ馬車で進み、住宅街から少し離れた場所へとやってきました
ここはユーディクス王国メレイナ地区で、いわゆる商業区と呼ばれるところだそうです
ちなみにメレイナ地区の南部は産業区だそうで
希ちゃんや絵里ちゃんがやっていた街を作るゲームでよく聞いた言葉ですね
ユリカ「えっと……確かこの辺りで……あっ」
「ここっす、ユリカの姉さん!」サッ
エミ「交渉役のおじさんですね。ここで待ち合わせを?」
ユリカ「はい。相手方に事情を説明してからのほうが良いという事でしたので、その役を」
「随分かかりやしたね」
ユリカ「ごめんなさい、ちょっと色々あって。それで……」
「はい、場所はこっちです」スッ
メレイナ地区の北部は商業区というだけあってたくさんのお店が並んでいます
しかしお店すべてが営業しているわけではなく、中には扉を閉め張り紙のようなものを出している店舗もちらほら
テレビでみた地方の商店街の雰囲気が少し感じられます
エミ「あれ、工場跡地を買い取る予定だと聞きましたが……お店ばかりですね」
ユリカ「えっとですね、工場跡地の買い取りは、そもそも物件がなかったのよ」
「いくつかあった候補も人手に渡ってしまってやしたからねぇ…」
エミ「えっと……じゃあこっちにあるのは?」
目的地は商業区の奥にある、一件のお店……
「ここでやす」
ユリカ「ここが……」
花陽「話にあった……パン屋さん!」
事の経緯としては工場跡地はないけど、代わりに近々お店を畳むつもりの老夫婦がやっているパン屋さんを買い取ってしまうのはどうかとう話でした
なんでもご主人が体調を悪くしたらしく、元々規模も抑えめにして続けていた経営も危うくなってきたからという事情だそうです
エミ「でもパン屋さんって……馬車が二台も留められるとは思えないのですけど?」
ユリカ「それは私も聞いたのだけど、どうやらお店の裏がパン工房になっていて、裏庭では野菜の栽培もやっていたんだとか」
花陽「お店を閉めるから、その工房にある設備を撤去してしまえば1台は入るし裏庭の敷地内にもう1台はいるだろうと」
「でやす」
エミ「そういう事情でしたか」
ガチャ パタン…
「あらあら、お話しには聞いていたけど、本当に大きな馬車ねー」
「こちらがお店の方で、ミナヨ夫人です」
ミナヨ「はじめまして」ペコッ
ミナヨさん(62)が体調を崩し寝ているご主人に変わって応対してくれました
なんでもずっと夫婦二人でこのお店をやってきたんだとか…
ユリカ「突然のお話しに寛大な処置、本当に感謝いたします」
ミナヨ「いえいえこちらこそ。もう隠居してのんびり過ごすくらいしかなかったし、いいご縁だと思うわ」
エミ「旦那さまの御容態は……」
ミナヨ「この年で腰やっちゃってねぇ。無理して続けてきたツケがまわってきたのね」
「これからはどうするんでやすか?」
ミナヨ「お店を売ったお金で、主人とどこかのんびりできる土地にでも行くわ」
花陽「……………」
ミナヨ「とりあえず中を案内するわ。えっと……この馬車は……」
ユリカ「1台は裏庭に入れるという事でしたので、もう1台はお店の前につけておきます」
エミ「おもいっきり寄せれば道の邪魔には…なんとか……」
お店が通りの端で良かったと思います。ここから先は小さな林に城壁があるだけです
ユリカ「ギンさん、裏に回って馬車を留めておいてください」
ギン「了解した」
ユリカ「それと、設備を運び出すのでみなさんの出番ですよ」
「まかせとけっ!」
力仕事といえばおじさん達です
フワちゃんや他の子達を一時待機させておき、まずは工房の整理です
ミナヨ「こっちよ」ガチャッ
決して広くはない個人経営のお店を通り抜け、生活空間となっている居間にでます
さらにその奥、重々しい扉を潜ると、歴史あるパン工房にでます
基本は石造りの釜戸などが複数並んでいて、ここで毎日パンを焼いていたのでしょう
お店と比べて工房はとても広く、裏口がそのまま裏庭と繋がっていて、空気の流れもとてもよさそうです
確かにここを空にすれば馬車はもう1台入れそう…だけど……
ミナヨ「お店が小さいわりに設備が多くて驚いた?」
花陽「え……あ、はい……たくさんあるなって…」
ミナヨ「ふふ、主人がね、店は小さくても、パンを買い求めてくる人に売り切れなんて言えないって、量には拘っていてね」
花陽「そうなんですか……」
ミナヨ「ほんと……毎日毎日、パンを食べてくれる人の笑顔だけが見たいって……無理しちゃって……」
花陽「……………」
ザッ
「うっす、姉さん。裏に馬車停めてきやしたぜ」
「ここの物を運び出すんですか?」
花陽「あっ………う、うん………」
「うおっすげー、年季の入ったいい釜戸じゃないすか」
ミナヨ「あら、あなたこれ知ってるの?」
「昔うちの親父が趣味でやってたんすけどね、懐かしいなぁ」
ユリカ「でもこれ、どうやって運べばいいのでしょうか?」
「いくつかに解体できるはずっすから、まずはそこからっすねぇ」
ミナヨ「………………」
花陽「……………」
なんだろう………この感じ………
体を壊したから、もうお店はやめて隠居するって……じゃあミナヨさんのこの寂しそうな表情は……
「まずは……こいつからかなぁ」ガッ
ミナヨ「…………っ」
花陽「……………」
おじさんがお店の中央にある大きな石のテーブルに手をかけます
その様子に目を反らしたミナヨさん……
これ……ダメなやつじゃないですかね?
私達にだけ都合がいい話で……本当はしかたなくって……そう思えてなりません
花陽「まってください!」
フワちゃんも言ってたけどかよちん抱え込みすぎで心配になるな…… ごめんなさい、今日は更新できそうにないので明日に
理由は親戚間での台風対策がどーのこーの……面倒い… もうすでに暴風始まっとるしの、こっち
みんな気ーつけるんやで 久しぶりに隣人花陽スレ立ってたけど24行かずに落ちてた ユリカ「ハナヨちゃん、、どうかしましたか?」
花陽「あの、ミナヨさんは……これでいいんですか?」
ミナヨ「え……?」
エミ「ハナヨちゃん…?」
お店を売って、余生を過ごす……それは決して間違ってはいないと思います
私もその道を反対するつもりはないですし、旦那さんとのんびり過ごして欲しいとも考えます
だけどそこに、しかたないなんて理由が……ひとかけらでも後悔があるなら、それは持っていっちゃダメです
花陽「大切なお店……本当は売りたくないんじゃないですか?」
ミナヨ「……っ!」ビクッ
エミ「ハナヨちゃん、それには事情があるんです。仕方ない事で……」
花陽「わかってます。パンを作れないから……お店が続けられないから……でも、何か出来る事が…」
ミナヨ「ありがとう。そのお気持ちだけで十分よ」
花陽「え……」
ミナヨ「あなたの言う通り、お店が続けられなくなったのは残念な事よ」
花陽「なら……」
ミナヨ「でも、同時に少しほっとしている部分もあるのよ…」
花陽「………」
来る日も来る日もパンを焼き続けて、少しも休める時間なんてなかった日々……
いつかこういう日が来るかもしれないと、予感はしていたと言います
だからこういう形でも、ご主人がゆっくり休めるのなら……それもいいのかもしれないと、考えたそうです
ミナヨ「あの人頑固だから、体が壊れるまで続けるって聞かなくてね……」
ユリカ「それじゃあ今回のお話しって…」
ミナヨ「半分は私の我儘。ふふ、長年付き合ってきたんだもの、一度くらい聞いてもらわないとね」
エミ「……………」
良いとか悪いとかじゃない……お店とご主人と、どちらがより大切か…その心に従ったんですね
強い……人だな……
「その、後継ぎっていうか、店を任せられる人はいないんすか?」
ミナヨ「……………」
おじさんがわりとデリケートな事をズバっと聞きました……
ミナヨ「残念ながら恵まれなかったのよ。そのうちあの人もパンを焼くことばかりに時間を使って…」
ユリカ「そんな……」
「なんか、すいやせん……変な事聞いて…」
エミ「まったくですよっ」
ミナヨ「ふふ、いいのよ。この年になるともう…ね……」
ユリカ「奥さま……」
花陽「……………」
ミナヨ「さあさあ、早いとこ片付けて、外で待ってる人達も入れてあげましょ」
「へいっ」
「よし、じゃあこっちのこれを……」ガタッ
ユリカ「ハナヨちゃん?」
花陽「……………」
エミ「……………」
ユリカ「…………」
きっとこういうところをフワちゃんに指摘されるのでしょう
私は自分が優しいとか、お人好しだとかなんて思った事はありません
ただそこに悩んだり、辛い目に合っている人がいて、差し伸べられる手があるなら躊躇わないというだけです
エミ「……まったく……ホントにお優しい勇者様なんだから」
ユリカ「もう慣れてますけどね」
エミ「みなさん、手を止めてください」
ユリカ「予定を少し変更します」
花陽「………え?」
「ん、運びださねぇんですか?」
ミナヨ「……?」
エミ「はい。まずは……」
ユリカ「どうしたいの? ハナヨちゃん」
花陽「……………」
二人が私に意見を求めます
何をするのか……私が……何を望んでいるのか……
花陽「えっと……」
私が考えている事は、私達自身には大きな問題になります
我儘なこの考えを…それでもと、聞いてくれるのなら……
花陽「ミナヨさんと旦那さんの希望を……私は叶えてあげたいと思います」
ミナヨ「え、ど、どういうことだい?」
エミ「この方は幻術士ハナヨちゃん」
ユリカ「不可能を可能にする、私達の救世主…勇者様です」
持ち上げすぎです……が、伝えるならきちんとしないとですね
ミナヨ「幻術士様? もう何年も新しい人がいなかったって聞いてたけど……」
エミ「ハナヨちゃんはそんじょそこらの幻術士とはワケが違いますっ!」
そんじょそこらにはいないって聞きましたが……
ユリカ「きっとおばさまの願いを聞いてくださいます」
ミナヨ「でも…どうして私なんかに……」
花陽「ミナヨさんが、本当にすごい人だから、助けになれるならって思って…」
ミナヨ「すごいって…私は何も……」
花陽「私がそうしたいって……ご迷惑でしょうか?」
ミナヨ「そんなことはないけれど……でも、なにをするの?」
花陽「なんでもいいんです。ミナヨさんの本当の願いを…気持ちを教えてください」
ミナヨ「そうはいってもねぇ……」
花陽「……………」
ミナヨ「……………」
突然なんでもいいから願い事をと言われてもすぐに思いつくのなんてそんなにありません
それでも私の言葉をどうにか受け止めてくれたのか、ミナヨさんはしばらく考えてから一つ、言葉にしてくれました
それはご主人さんにも関わりのある事で、すぐには決められないことでした
しかしこの先の事を考慮して私がすることは一つ、明確になりました
ユリカ「ということは……」
エミ「ハナヨちゃんはご飯、抜きですねっ」
花陽「そうみたいですね……」
願いがきっとミナヨさんにとって……ご主人さんにとって良い結果になるように……
花陽「お腹を空かせます……フゥ」
なぜID変えたり地域変えたりしてまで一人で保守してるの? >>684
きしょいからレスすんなよ
お前のせいで書く気が失せるんだわ >>685
駄作しか書けない奴の書く気が失せても、誰も困らないからな。 ほぼ毎日更新ってのはありがたい
俺も楽しみにしてるよ
荒らしが一人いても負けずに続けてほしい これ終わったらリリーのアトリエやると言ってたのにこれが終わらんぞ
俺はあれを楽しみに待ってるぞ ーパン屋さん 二階
ミナヨ「あなた……おきてますか?」
「ん、うぅ……どうした?」
花陽「こ、こんにちは…」
エミ「お休みのところ申し訳ありません」
「お嬢さん方は…?」
ミナヨ「ほら、お店の事で話してた……」
花陽「ど、どうも…」
「ああ、お嬢さんたちがこの店を買ってくれるのかい……」
ミナヨさんからの印象で、てっきりお店は売らん!とか、怒鳴られるかと思いました
だけどご主人はベッドからゆっくり体をおこすと、私達に優しく微笑んでくれました
「こんな寂れた店で申し訳ないね……」
エミ「いえ、とても風情と暖か味のあるよいお店です」
「そうかい…。ありがとう……」
ミナヨ「調子はどう?」スッ
「今は少しいいかな…よ…」グッ
エミ「あ、どうかそのままで…」
花陽「……………」
基本寝たきりのご主人さんを介護しながらの生活
お店を売ったお金で余生を過ごすといっても、きっと過酷な道だったと思います
私のしようとしている事って、きっと他の人から見れば勝手極まりない事かもしれません
不公平だと言われても仕方ないです。慈善的とも……
花陽「あの……お話しがあるのですが…」
だからと言ってハイやめます…なんて事も思いません
私がこの世界にいる間は、やれることはすべてやるって決めたのです
私自身の評価なんてどうでもいい。ただそこに笑顔になってくれる人がいれば、それだけで…
花陽「パンの作り方を、教えてくれませんか?」
「ん……どういうことだい?」
ミナヨ「あなたさえよければ、この方が私達に機会をくださるそうよ」
「機会……?」
花陽「……………」
-その日の夕方 パン屋前の女子寮
フワ「ふぅ……まったく、あなたって子は……」
花陽「えへへ……」
フワ「わかってるとは思うけど、あなたの決断は他のみんなに少なからず負担をかける選択よ?」
花陽「うん。全部、やるって決めてるから大丈夫です」
フワ「いい顔するようになったわね」
花陽「え……そうですか?」
フワ「以前はまだ少し、自分にできるかなって、不安が滲み出ていたもの」
花陽「うぅ……それはまぁ…あると思います…」
フワ「でも今は自ら請け負う事の責任も理解して、覚悟が見える……ホントいい顔だわ」
花陽「なんだかくすぐったいです」
フワ「賛辞なんて今まで散々もらってきたでしょ」
花陽「フワちゃんだとなんだか妙に気恥しい感じです」
フワ「それで、今回はどういう方法を取るつもりなの?」
花陽「はい、ミナヨさんご夫婦の願いを叶えるのに必要なのは、時間です」
フワ「時間?」
ミナヨさんの願いは、自分のために人生のほとんどをパン作りに費やしたご主人の功績を世に残したいという事
本当はパンよりご飯派のご主人にもっといろんな料理を作ってあげたい事
フワ「奥さんがパンが好きだから、ずっとパンを作り続けていたの?」
花陽「そう…みたいです……」
パンが大好きだったミナヨさんの気を惹くために最初はそれほど好きではなかったパン作りに専念したご主人
少し単純で簡単で……だからこそそれ一つに本気で取り組めたのかもしれません
そしてミナヨさんのもっとも叶えたい願い……もう決して無いと思っていた夢……
フワ「あ、まだあるのね」
フワ「そっか……ん、そうよね……」
花陽「はい」
ミナヨさんが一番望んでいるものは、やっぱりご主人との子供が欲しかった事です
たった二人でお店を続けてきて、ゆっくり休める時間もままならない中で叶わなかった事……
フワ「それをどうにかするのって……時間をマキ戻すの?」
花陽「単純に若返ってもらおうと思ったんですけど、それはうまくいかないみたいなんです……」
今までの経験から、それは私に問題があることでした
フワ「二人の若かりし頃の姿をイメージできないから、明確なスキル発動はできないのね」
花陽「はい。でもそれなら、それを知っている人に助けてもらえばいいのかなって思いました」
フワ「知っている人……ご本人?」
花陽「はい」
私の記憶には二人が生きてきた軌跡、記憶はありません
だけどミナヨさん達自身の身体には生まれてから今日まで、すべての記憶があるはずです
その記憶を身体自身が思い出せれば、それだけでこの方法は上手くいくと思いました
それを後押しするかのようにスキル「それ正解!」もようやく発動し、自信を持って行動に移せます
花陽「そしてできたのが、これです!」ジャーン
フワ「ん……香水?」
花陽「ミナヨさんが愛用してらした化粧水です。この小瓶の液体の性質を変化させました」
フワ「この場合……飲むと身体が若かった頃に戻る……そういう感じ?」
花陽「お二人にいつぐらいの頃に戻りたいか確認したところ、30年前が一番充実していたような気がするとおっしゃっていたので…」
ミナヨさんとご主人はともに62歳。30年前、32歳の時にお店は軌道にのり、毎日忙しくも楽しくやっていたと
ちなみにお二人は幼馴染だそうです。いいですね、幼馴染でその生涯を支え合う存在
花陽「………ホント、いいな」
フワ「これ、上手くいくならアヤちゃんの体も戻せるんじゃないの?」
花陽「え……?」
フワ「相手の観測が一度きりという条件でも、これなら外部から変えられるんじゃない?」
効果として1,2年前に戻るようなものを作ればとフワちゃんは言います
確かにこれなら制約を破らずに出来るかも……
花陽「………………」
フワ「どうしたの?」
かも……と、考えてみてもスキルは応えてくれません
花陽「ダメなのかな……正解じゃないみたい……」
フワ「ふむ……」
フワ「そのご夫婦にはうまくいったんでしょ?」
花陽「まだ使ってないよ。先にやることがあるって…」
私の話にまだ半信半疑なところはあったけど、元よりここを離れて遠い土地で暮らす予定だったお二人
これまで付き合いのあったご近所に最後のご挨拶をするそうです
実際は新しい生活を……このお店で再スタートするのです
名前も変えるのかなぁ?
フワ「でもそれには正解が示されたという事は、ちゃんと何かしら要因があるのね」
花陽「観測対象に観測対象のものは使えないという事?」
フワ「明確に変化させてしまうようなものは、もしかしたらそうかもしれないわね」
観測スキルで作ったお家にみんな住んでいるし、フワちゃんの言う通りなのかもしれません
フワ「それで、この馬車はどうするの?」
花陽「ちゃんと停められる場所を用意するよ」
最初はユリカちゃんのお父さんが使っていたという、地下空間を形成するスキルか魔法かををユリカちゃんか誰かにお願いしようとしたのですけど
ユリカ「ごめんなさい、あれはお父さんにしか使えない秘術で……」
との事でしたので、別の方法を考えましたっ!
その方法とは……
エミ「ただいま戻りました」
花陽「お帰りなさい」
「言われた物は買ってきやした」
フワ「何か買い物?」
花陽「はい。普通の倉庫を」
エミ「良く考えてみると、滞在する間馬車は使いませんし、家としての機能だけ利用するなら二台同じ場所に置く必要もないなと」
「貸倉庫のような物件なら山ほどありやすからね」
フワ「なるほどね、そっちに1台放り込んでおくのね」
男子寮の方々にはそこに仮住まいとして使ってもらって、こちらに通いで来てもらう事にしました
フワ「通うって、ここで何かするの?」
花陽「パン屋さんです」
フワ「へ?」
エミ「お店をお手伝いすることにしたんですっ!」
あからさまな回線切り替えは恥ずかしい
作者にまでダメージ与えるから、本気で応援してるならやめてやれ この世界ではお店をお手伝いする、いわゆるアルバイトのようなものがきちんと確立されていなくて、知り合いのお手伝い程度の認識しかありません
勿論企業として人を雇う事はありますが、臨時のアルバイトというのはあまりないそうです
そういう時になんでも手伝う便利屋稼業というのがその代わりになっているのかもしれません
パン屋を続けていく中で、ずっとちゃんとした休みがないのって本当に大変だと思います
なら、そこに休める時間を作ってあげられればすべて上手くいくと考えました
フワ「確かに材料を仕入れて管理して、作って売ってと…やる事はたくさんね」
エミ「それに加えて裏庭での畑作業となると、それはもう…」
「働き者っすね」
花陽「やりすぎのような気もしますが……」
それでも続けてこられたのはすべてミナヨさんのため
とても真っ直ぐで、少し不器用なのかもしれません、ご主人
フワ「でもそのお手伝いを誰がするの?」
花陽「それは私とおじさん何名かと、カナちゃんです」
フワ「あら、あの子をもう働かせるのね」
花陽「語弊がある言い方ですが、あながち間違ってはいないのでなんとも…」
しかし私はカナちゃんの秘密……特技というものを知っています
そしてそれがお店にとってすばらしい影響を与える事も…
花陽「というわけで、こちらに用意したのがカナちゃんです」サッ
カナ「?」
フワ「本人解ってないみたいだけど?」
花陽「カナちゃんは洋服屋さんで働くお母さんを見て育ってきました」
フワ「そういえばそうだったわね」
花陽「おかげでお店番は得意なのです」サッ
フワ「椅子?」
花陽「パン屋さんのカウンターに置いてあった椅子をお借りしてきました。ここに…」グイッ
カナ「??」
花陽「カナちゃんをセットします」トンッ
フワ「扱い方がどうかと思うけど、それでどうなるの?」
カナ「……」ムスッ
フワ「あら、姿勢よく座って……顔つきが凛々しくなって……怒ってない?」
花陽「大丈夫ですよ」
お母さんがそうしていたのか、カナちゃんは椅子に座ると店員さんモードに早変わりします
ちょっとムスっとしているのはお母さんがそういう表情だったのか、きちんと店員さんを務めている意志の表れか
花陽「ね、とっても可愛いでしょ?」
フワ「つまりマスコット的なポジションなわけね」
カナ「………」ムスッ
花陽「まだ少しお会計の計算にはお勉強が必要ですけど、そこは私もカバーします」
フワ「本気でパン屋さんになるの?」
花陽「お手伝いですよ。ミナヨさんが少しでも休める時間が作れればいいかなって」
フワ「それで、おっちゃん達の何人かは旦那さんのパン作りに協力っと。よく引き受けてくれたわね」
花陽「勿論それを本業にしてもらうわけではないですよ。あくまでお手伝いです」
元々私に雇われた段階で、何でもやる便利屋さんのようなものでしたし、問題ないでしょう
フワ「それで、私はどこにいればいいのかしら?」
花陽「えっと……じつはそれなんですが……」
基本的に馬車の管理、護衛を任されていたフワちゃんとギンさん
お二方のお役目もしばらくはお休みになります…が
花陽「というわけで、フワちゃんにはあちらに……」スッ
フワ「ん………」
ただ、私達の特殊な立場に対するさまざまな視線にはそれなりのバリケードが必要です
フワちゃんには壁となってみんなを守ってもらいたいのです
花陽「ここが……フワちゃん達の新しいお住まいです……」
フワ「あら、そのままお店の裏庭じゃない。ここで馬車の番をすればいいのね」
花陽「はい………」
フワ「てっきり見世物小屋にでも出稼ぎにいかされるのかと思ったけど、いつも通りね」
花陽「……………」
フワ「…………ん………達……?」
ザッ
ギン「いま戻った……」
花陽「あ、お帰りなさい」
フワ「んなっ…!?」
花陽「倉庫のほうは問題ありませんでしたか?」
ギン「ああ、問題ない。鍵はあいつらが預かっている」
フワ「あの、花陽ちゃん?」
花陽「フワちゃんにはここで……ギンさんと一緒に……」
フワ「は、はあぁっ!?」
花陽「よろしくお願いしますね、ギンさん」
ギン「了解した」
フワ「ちょっと花陽ちゃん…」
花陽「け、決定なので……仲良くしてくださいね」サッ
フワ「あっ、こらっ!」
きっと苦情がでると思ったので私はそそくさと退散します
でもどうしてフワちゃんはあんなにギンさんの事を毛嫌いしているんだろう…
もっと仲良くして欲しいのだけど……ちょっと荒療治すぎたかな?
後でちゃんと説明して謝っておきましょう。さて…次は……
アヤ「あ、ハナヨちゃん!」
花陽「ん、どうかしましたか?」
アヤ「カナちゃんが椅子に座ったまま動かないんだけど…」
花陽「ああ……大丈夫ですよ、下せば元に戻ります」
アヤ「どういう事?」
これで取り敢えずの住まいは確保できました
結局馬車を置くだけなら倉庫を二つ借りればそれで解決はしたのでしょうけど……
さすがに倉庫に頻繁に出入りしているのは何かとイメージが悪そうです
花陽「宣伝と………場所と………その方法……」
ライブをするにあたってより良いイメージを与えるのに、ちょっとした作戦を考えます
アヤ「………?」
-夜 パン屋 二階
シュウウゥゥゥゥ・・・
「お、おぉ…!?」ゥゥゥ…
ミナヨ「これは…っ?」プシュゥ…
一日使って周囲にご挨拶をして回ったお二人に、その時がやってきました
私のスキルによって性質を変化させた化粧水を飲んだミナヨさんご夫妻の身体が光り輝きます
ユリカ「すごい……お二人の身体が……」
エミ「輪郭が変わって……」
キラーーーーン… キラキラ…
お二人の身体を包み込んでいた光が粒子となって散っていくと、そこにいたのは…
「本当に、こんなことが……!」
ミナヨ「あなた、その姿……」
ユリカ「すごいっ!」
エミ「お二人ともステキです!」
花陽「上手くいって良かったです」
「はは、お前別人だな」
ミナヨ「あなたこそ…ふふ、懐かしいわね」
自分達が一番充実していたという30代
その言葉通り、若返ったお二人の表情からはすごく気力がみなぎっているのがわかります
元々気品のあったミナヨさんですが、それはこの頃からすでにあったのですね
というか、やっぱりすごい美人……ご主人もワイルドな方です
花陽「これからはもうちょっとご自身を労わりながら、パン作りに励んでください」
「本当に感謝するよ、お嬢さん……あ、いや、幻術士様」
ミナヨ「ありがとうございます。ハナヨ様」
花陽「あーえっと……これから私達もお世話になるので、みんなと同じように接してくださると嬉しいです」
エミ「ふふ…」
ユリカ「お店のほうはこれからどういう方針で行くのですか?」
周囲からすれば、体を壊してお店を閉め、別の土地へ移り住むというミナヨさんご夫妻
その次の日からいつもと同じようにパン屋が営業しているとどういうことだとみんな不思議に思うかもしれません
花陽「お店の名前を変えさせてもらって、先代から受け継いだお店としてやっていこうかと思います」
「店そのものは実際にお嬢さん達が買ってくれたんだ。好きにしてくれて構わないよ」
ミナヨ「どんな形であれ、主人のパンがまた食べてもらえるのなら大歓迎よ」
パン工房は弄らずに、少し店の外観と看板、内装を変えさせてもらいます
思いがけない形でパン屋さんを買い取ってしまいましたが、やれることは全部やる…ですっ!
花陽「ということで、こちらの準備に2,3日もらいたいので、そのあいだミナヨさん達は……」
ミナヨ「ええ、勿論お手伝いさせてもらうわ」
花陽「いえ、お二人で休暇をすごしてください」
「休暇?」
花陽「今までゆっくりした時間もなかなか作れないっておっしゃってたので、この機会にぜひ」
エミ「そうですね、改装は私達でもできると思いますし」
ユリカ「おもにハナヨちゃんが……」
「しかし……」
花陽「ご主人さんは、ミナヨさん……奥さんのために毎日がんばっていらしたそうですね」
「ためっていうか……まあ、こいつはパンが好きなもんで」
ミナヨ「ふふ、あなたいつもそればかりね」
その言葉の裏にあるものをミナヨさんはちゃんと知っています
休みなくパンを作り続けていたのはミナヨさんのためから、それを求めてきてくれるお客さんのためでもあると
人の喜ぶ顔が大好きなんだと、ミナヨさんは言っていました
それを決して表にだすことはないけど、ずっと傍で見てきたミナヨさんにはすべてお見通しというのです
ユリカ「奇跡のようなハナヨちゃんの加護は、きちんとそれに応えて初めてハナヨちゃんへの恩義に報いることにもなるんです」
エミ「ここで変に遠慮すると、ハナヨちゃんが困ってしまいますよ?」
花陽「え…私は別に……」
「そうか…。気を使ってもらって、それを無碍にするのは…な」
ミナヨ「ご厚意はありがたくお受けしましょう、あなた」
花陽「……………」
結果としてお二人が数日の間小旅行としてお出かけする事になりました
私は私の出来る事を可能な限りやりたいっていう意識なのだけど…
花陽「恩義…………」
ユリカ「ん、どうかしたの?」
花陽「いえ……」
みんなに意識させてしまっているのでしょうか……
いえ、しないはずがない……
花陽「…………」
「しかし休暇といってもなぁ…どうする?」
ミナヨ「あ、それなら東地区の温泉に行ってみたいわ」
ユリカ「温泉っ!?」バッ
エミ「温泉!!」ガバッ
花陽「温泉、あるんですね」
なんだかユリカちゃん達の食いつきがすごいけど……
ミナヨ「ユーディクスの観光名所にもなっているのよ。地元だけどなかなか行く機会がなくて…」
「お前がいいならそこにするか」
ユリカ「温泉………」ゴクッ
エミ「そんな話は今まで聞いた事がありませんでしたが……ここにあるなんて…」
花陽「温泉って、そんなに珍しいの?」
ユリカ「珍しいですし、とても貴重なものなんですよ、温泉!」
エミ「温泉、ご存知なんですか?」
花陽「うん。私の国じゃわりとメジャーというか、けっこうあちこちにあるので…」
ユリカ「お、温泉があちこちに……」
エミ「そんな国が……」
どうやら希少価値もあってこの世界……いや、クレスタリアの人達には温泉は珍しいものだそうです
ユリカ「大地に宿る精霊の力をじかに感じられるといわれる温泉……」
エミ「土地にもよりますが、すばらしい効能が……いいですねぇ温泉……」
花陽「そんなに気になるならそのうちみんなで行きましょうか」
ユリカ「そうしましょう!」
エミ「いつ行きますか?」
花陽「先にやることをやってからですっ」
そもそもユリカちゃん達は明日から魔法学校に出向いて現状を把握する役目もあるでしょうに……
ミナヨ「ふふ、それならどんなところか見てくるわね」
ユリカ「お願いします!」
エミ「なんでも温泉地にはその地質を含んだお饅頭があるそうです!」
「温泉饅頭だな。買ってこよう」
花陽「食いつきますねー」
-夜 パン屋裏庭 女子寮屋上
明日、ミナヨさんご夫妻はユーディクスの東にあるという温泉宿へ小旅行
同じ国内でもけっこうな距離があるらしく、期間は二泊三日となりました
ユリカちゃんとエミちゃんは魔法学校へ直接出向き、現状どういう状況になっているのかを確認、対応します
そして私は他のみんなとお店の改装、必要な物の買い出しにと、忙しくなりそうです!
エミ「ハナヨちゃん、少しいいですか?」カタッ
花陽「エミちゃん、どうかしたの?」
エミ「今日の事で話しておきたいことがあるのです」
花陽「今日の……色々あってどれのことか…温泉?」
エミ「ツバサ……そう名乗っていたあの女性と、私達に向けられている監視体制についてです」
花陽「えっ!?」
幻術士を探しにきたツバサさんとそのお友達
私達に対して何か思うところがあるのか、妙に高圧的な人達でした
でも私に対して悪意があるわけでもなく、ケンカをしにきたわけではなさそうでした
結局目的は私だけというか、幻術士の存在確認のようでしたけど
花陽「あの人とは、なんだか面倒な関係になりそうな予感はしましたけど…」
エミ「私もです。それに随分と上の立場の人でもあるようですし」
花陽「この世界の生徒会長はそんなに偉いんですか?」
エミ「ハナヨちゃんの世界はわかりませんが、クレスタリアではそうでもありません」
あくまで学校内にある生徒間のまとめ役といった役職で、私の知っている生徒会長とそう変わりませんでした
エミ「それよりも、どうやら私達……いえ、ハナヨちゃんはこの国に入る前からマークされています」
花陽「マーク……それが、監視?」
エミ「あの女の人が報告にあった…と言っていました。おそらく関所からので間違いないと思います」
花陽「私達が来るのをわかっていたみたいですしね」
エミ「幻術士というだけですんなり通してくれたわけではないのかもしれません…」
むしろそんなので通して大丈夫なのかなって思っていたので、少し納得です
花陽「じゃあ関所からここまで、ずっと?」
エミ「どういう形で報告されているのかはわかりませんが、幻術士の出現に少なからず動いている人達がいるのは確かですね」
花陽「……………」
エミ「しかし明確に力を示しているのも確かです。何か言われる筋合いはありませんっ!」
厳密には幻術士じゃないから、そこを指摘されるのだったら何も言えないのですけど
エミ「大丈夫ですよ、自信持ってください」
何をもって幻術士となるのか、ずっと曖昧なままなんですけど…
エミ「もしかしたらまたハナヨちゃんに接触してくるかもしれません」
花陽「そうだろうと思います」
面倒事に巻き込まれるのは確実みたいですし…
エミ「まぁハナヨちゃんに危害を加えようなんてバカなマネはしないと思いますが……」
花陽「ただ幻術士が物珍しいから見に来ただけっていうのはないかな?」
エミ「あの段階では本当に幻術士がどういう人物か、確認しにきただけでしょう」
花陽「ただの興味本位……ってわけではないんですねぇ」
それにツバサさんが私とお話しがしたいとも言っていたのを思い出します
そのうち……なにかするのかなぁ?
エミ「とにかく、ハナヨちゃんはつねに監視されているかもという意識でいてください」
花陽「そ、それって……私生活も覗かれている…と?」
エミ「勿論取り越し苦労ならそれでいいのですが、おそらくそうはならないでしょう」
花陽「普段通りの行動で、大丈夫ですよね?」
エミ「こちらにはやましい部分は何もありませんし、堂々としていれば…」
花陽「幻術士だって、嘘ついてますよ?」
エミ「ハナヨちゃんが幻術士でないというのは嘘にはなりません。あくまで一般的に通用する総称にあてはめただけですから」
花陽「勇者のこと?」
エミ「そうです。クレスタリアで呼ばれる勇者……まぁ一部の人間にしかわかりませんが、それがこちらだと幻術士にあたると、そうお考え下さい」
花陽「それなら勇者である事も、隠す必要はないんじゃ……」
エミ「…………」
ユリカ「それはハナヨちゃんの出自に問題があるからです」スッ
花陽「ユリカちゃん…」
すごい、ドラマみたいな登場のしかた……
ユリカ「大召喚というのは元々秘術の中の秘術……お父さん達歴戦の魔導士でないと行使できないもの…」
エミ「きっと他の世界から一人の人間をそのまま召喚するだなんて発想、今までにもなかったはずですしね」
花陽「…………」
聞いてる分には、なんだか悪い事をしているのかなって気持ちになります
ホントの緊急事態で、きっとお父さん達も子供達を守るために必死だったに違いありません
だからこれを公にすることはできない……?
でもユリカちゃん達が魔法学校で習う召喚術はすでに広く浸透している術
一般の召喚術と大召喚は…やっぱり違うものなのかな?
ユリカ「それよりエミちゃん、明日の予定なんですが…」
エミ「あ、はい…えっと、朝にここを出て……」
花陽「あ、二人ともまだ話があるなら私は先に戻りますね」
ユリカ「ごめんなさいハナヨちゃん。明日またゆっくりお話ししましょう」
エミ「念のため、警戒はしておいてくださいね」
花陽「うん……」
実際言われてもどこから何かが飛んでくる…とか、そういうわかりやすいのならいいんですけど……
ピピッ
――対象に対する「悪意」を感知しました
スキル「無垢なる罪人」を発動します
花陽「っ!?」ビクッ
突然脳裏に響くナビ妖精の音声
今このスキルが発動するという事は……まさか!?
花陽「………………」キョロキョロ
ユリカ「それで、ここにまず向かって…」
エミ「なるほど……ではこちらには……」
花陽「…………っ?」
二人は何も気づく事なく話を続けています
馬車の下、夜間警備をしているギンさんも特に反応はしていません
夜の闇に紛れて何かが迫っている……というわけではないのかな?
花陽「……………」
少し離れたところにある別の通りに並ぶお店も今はすべて閉まっています
夜間の外灯なんてものは極端に少なく、通りに面していない裏にあたるこのあたりは本当に真っ暗です
でも、本当に何かきているのだとするとギンさんやフワちゃんが必ず反応します
ユリカ「………ん、ハナヨちゃんどうかしましたか?」
エミ「……?」
花陽「………い、いえ」
確証はありませんが、おそらく近くには誰もいない
このスキル、一見便利そうに思えて効果対象も距離もよくわからないので逆に困惑してしまいます
花陽「悪意を感知したんですけど、誰か来ている様子はないみたいで……」
エミ「悪意……スキルが反応したのですか?」
ユリカ「…………近くには……たしかに誰もいません」
花陽「だよね。だからこれは……」
エミ「この国にいる誰か……が明確にハナヨちゃんを意識した、という事ですか?」
花陽「うん。それもどうして今なんだろう…?」
ユリカ「昼間の人達とはまた違うのでしょうか?」
花陽「それならその時発動すると思いますし、さっき発動したという事は、ついさっき私に対して悪意を持った人がいる……」
エミ「ハナヨちゃんの噂はすべてではないにしろ、この国に広まっていると思います……ですが……」
なるべく第一印象は悪くならないように気をつけてはいますが、誰かにとっての私はそうは映らないようです
花陽「確実なことがただ一つ……」
ユリカ「そうですね…」
エミ「この国には……」
花陽「はい。確実に、敵さんがいます」
続くー 週末お出かけなので次はまた次週……Zzz… 余計な気使わないといけないから、スキル発動も良い事ばかりじゃないね -次の日 朝
「それでは道中お気をつけてー」
ユリカ「よい休日をおすごしくださいませ」
エミ「楽しんできてくださいね」
「ありがとう」
ミナヨ「楽しんでくるわねっ」
花陽「これ、持って行ってください」サッ
「ん…お金?」
花陽「これでたくさん温泉饅頭を、お願いしますっ」ギュッ
「はは、わかってるよ」グッ
花陽「ゆっくりしてきてくださいねっ」ギュゥッ
ミナヨ「本当にありがとう。精一杯楽しんでくるわね」グッ
ミナヨさん夫妻が二泊三日の小旅行に出かけました
念のため確認をとりましたが、お二人の手を握る事ができました
あの状況から悪意を持たれる可能性なんて考えたくもないですけど、余計な心配だったようです
花陽「となると、やっぱり私の知らない誰かでしょうか……」
「しかし若くなったとはいえ、見違えやしたね」
アヤ「奥さんすごく綺麗な人ね」
アイナ「あれじゃ旦那さん、温泉どころじゃないんじゃない?」
エミ「ん、他に何かあるのですか?」
アイナ「絶対やるでしょ、一日中」
アヤ「やるわね」
ユリカ「やめなさい、品のないっ!」
花陽「?」
エミ「?」
アヤ「でもそういう事がなかったっていうのも、奥さんの不満なんでしょ?」
アイナ「大切な事じゃないの、ねぇ?」
スズ「こっちに振らないで」
ユリカ「そうだけど、そういうのを揶揄しないのっ」
花陽「あっ……」
はわわ…そういう意味だったのですね
エミ「ハナヨちゃん、みなさん何の話をしてるのですか?」
花陽「へっ!? あ、あぁ…なにかなー?」
アイナ「……………」
ご夫婦の事はご夫婦にまかせて、私達は今日やることをしっかりやりましょう!
花陽「ということで、お買い物です!」
リホ「わーい!」
パイ「お洋服買うのっ」
ヨシノ「疑似餌っ」
カナ「ショコラっ」
アイナ「それは売ってるのかなー?」
私と子供達、それとアイナちゃんとで日用品のお買い物です
エミちゃんとユリカちゃんは魔法学校へ、ソラくんアヤちゃんとスズちゃんは剣術学科のある武術学校へと向かいました
おじさん達には午前中お店の改装のためのお片付けをお願いして、午後から日用品のお買い物にでる予定です
アイナ「私達も初めて行くんだから、迷子にならないようにちゃんとついてくるのよ」
「「はーい」」
パイ「カナちゃん、ぱいと手を繋ごっ」スッ
カナ「ん…」ギュッ
リホ「じゃ、繋ぐ?」
ヨシノ「ん…」スッ
花陽「あら、みんな仲良しさんです」
アイナ「うちらも繋ぐ?」スッ
花陽「あはは、はいっ」ギュッ
アイナ「っ……」
ミナヨさんご夫妻から簡単な周辺の地図と、おすすめの日用雑貨を売っているお店を教えてもらいました
そんなに距離は離れていないけど、改めて新しい街に来たんだなと少し歩いても実感します
パイ「どのお店も珍しいものばかりね」
カナ「〜♪」
ヨシノ「あのお店から抗えぬ魔力が……」フラフラ
花陽「お昼ご飯にはまだはやいよ」
アイナ「まずは……服?」
花陽「はい」
今日までセト村から持ち出した少ない枚数の衣服を何度も洗って使い続けてきました
さすがに修繕を繰り返し使うのにも限界があり、そろそろ補充しないといけません
この世界のファッションは基本的に機能性を優先し、華美な装飾はそれほど多くありません
シンプルな分多様性もあるので、いろんな状況で着ていける便利さはあります
決してこの世界全体がそういう感性というわけではなく、以前見かけたエミちゃんのドレス姿や、
昨日ツバサさん達が着ていたブレザーに近い制服のようなものもあります
おそらくですが、この世界の衣服……特に身分の高い人のために作られる服の生地が高いのかもしれません
シルクのような肌触りのものは今のところエミちゃんが着ていたドレスくらいで…
あれ、そういえばあのドレスはどうしたんだろう?
アイナ「メモにあったお店は、ここかな?」
花陽「あっ、はい」
あれこれ考えているうちに目的のお店に到着しました
デパートとはいかないものの、そこそこ大きな洋服店だと思います
パイ「あ、これ買うっ!」バッ
リホ「こっちはわたしっ」ババッ
ヨシノ「むー、取りすぎ〜」
お店にはいるやいなや、子供達が店内を走り回りいろんな服を物色しています
確かに金銭的な余裕はあるとはいえ、そんなに買って持って帰れるの?
アイナ「カナちゃんは欲しい服とかあるかなー?」
カナ「んー……」ブンブン
カナちゃんは特に興味はないのかな。少し退屈そうにしています
それでも日常において大事なものだから、こっちで何枚か買っておいてあげよう
アイナ「スズたちは適当に買っといてと言ってたけど…どれがいいかなぁ?」
花陽「サイズとかはわかってるんですか?」
アイナ「ん、私やスズに合うならみんなだいたい着れるでしょ」
わぁ…適当だなぁ……
花陽「スズちゃんに着れるものだと、アヤちゃんには少し大きかったりしない?」
アイナ「そうかもだけど、あんまり誰も気にしてないし」
意識の問題でしょうか……みんな取り敢えず服が着れればいいという感覚
可愛い服を着飾ったりしてみたいとか……ないのかな?
パイ「んー…だいたい見たけど…」
リホ「ハナヨちゃんが着てるようなのは売ってないの」
花陽「ん?」
ヨシノ「ハナヨちゃんがアイドルしてる時に着てる、すごくキラキラした服」
リホ「あれすっごく可愛いよねっ!」
パイ「フワフワしてるっ!」
花陽「ステージ衣装ね。確かにみんな可愛いステキな衣装だけど、普段着るには…」
リホ「着てみたい〜」
パイ「着たい〜!」
ヨシノ「着心地を述べたい〜!」
花陽「ライブの時はみんなで衣装を着るんだから、その時のお楽しみだよ」
アイナ「あの衣装可愛いよね。むこうはああいう服とか売ってるんだ」
花陽「売って……はいますけど、あれは自分達で作った衣装です」
パイ「えっ、あのフワフワってハナヨちゃんが作ったの!?」
花陽「私は少しお手伝いしただけで、衣装作りを担当している子がいるの」
リホ「おぉ……すごい」
ヨシノ「……っっ!」ビクッ
アイナ「ん、ヨシノちゃんどったの?」
ヨシノ「そう……そうなの……無ければ創る…この手で創造すればいいのっ」
花陽「なんだか様子が…」
リホ「たまにこうなるよー」
パイ「変な事考えてる時ね」
でもそのうちってずっと考えるのを後回しにしていたけど、衣装のデザイン、素材選びから色々とやらないとなぁ
ヨシノ「あの……」チョイ
花陽「ん、どうしたの?」
ヨシノ「服……衣装、作りたいですっ! お、教えてください」
花陽「ヨシノちゃん…」
あのいつものんびりおっとりしてるヨシノちゃんが、すごく真剣な顔をしています
もしかすると、これはヨシノちゃんにとってとても大きな意味を持つのかもしれません
花陽「………ん、帰ったら基礎から教えてあげるね」
ヨシノ「っ!……ありがとうなのっ!」グッ
私にはことりちゃんほど上手に作れる技量はありませんが、作る過程と必要な知識なら教えてあげられます
衣類を一通り購入したら次は細かい家具などを買う予定でしたが……
花陽「んっ……しょ…」ググッ
リホ「重いのー」ズズ
パイ「みんな買いすぎよっ!」
アイナ「一番多く買った子が何言ってるの〜」ズシッ
ヨシノ「こ、これを……持ち帰るまでは…っ」ズリズリ…
カナ「がんばって〜」
大量に買い込んでしまった衣服を運ぶのに、一回お家まで戻る事になりました…
まぁでも必要な物なので致し方ないといった状況でしょう……が
花陽「ふぅ……」ズッシリ
カナ「お手伝いする」
花陽「ありがとう、でも大丈夫だよ。それにほら、もうすぐお家が……」
ピピッ
――対象に対する「悪意」を感知しました
スキル「無垢なる罪人」を発動します
花陽「っ!?」ビクッ
悪意っ!? こんな街中で!!?
花陽「っ…?」バッ キョロキョロッ
アイナ「ど、どうしたの急に?」
花陽「私に対して悪意を持った人が近くにいます……」
アイナ「えっ……それって悪いやつがいるってこと?」
悪いやつ……昨日の夜感知したのと同じ人物かはわかりませんが、どこかにいるのは確かです
距離がわかればいいのに……微妙なところで不便なスキルですっ!
花陽「みんな、疲れてるとこ申し訳ないですけど、なるべく走ってください!」
リホ「え、なになに?」
パイ「ハナヨちゃんにちょっかいかけようってのがいるんでしょ?」
カナ「???」
花陽「ごめんねカナちゃん、なるべく急いでお家に帰るように、できるかな?」
カナ「ん、できるけど」タッ
花陽「私達も急いで帰るから、先に戻ってフワちゃんに伝えてくれる?」
カナ「な、なにを?」
花陽「悪い人がいるって、それを伝えてください」
カナ「わ、わかったっ!」ダッ
アイナ「一人でいかせて大丈夫なの?」サッ
花陽「悪意は私に対して向けられているものです。むしろ離れたほうが安全……っ」ハッ
ここで私は悪意にもいくつか種類があるのをふと思い出しました
フワちゃんがその中で言っていたもの……
アイナ「え、じゃあ私らも危ないの?」
花陽「……………」
リホ「悪いヤツとか、やっつけるし!」
パイ「目潰し食らわせるわ」
花陽「みんなは死なないからなにがあっても平気だけど…」
アイナ「そういう問題?」
花陽「でも危険な目に遭うのがいいってわけじゃないので、早いところ戻って様子を……」
スウゥゥ……
花陽「っ!?」ゾクッ
アイナ「ん、またなんか感じた?」
花陽「すごく、悪寒が……何か嫌な気配が……」
冷たい……この身体を突き刺すような感覚は……私に向けられた……悪意?
でも昨日はこんな事なかったです。つまり……悪意を持つ人が近くに……
「あのー…」
花陽「っ!?」バッ
アイナ「誰!?」サッ
リホ「…っ!」
パイ「にゃあっ!?」ビクッ
背後からかけられた声にみんなが反応します
しかしそこにいたのは、普通のお姉さんでした
でも、何があるかわからない以上、油断はできません
花陽「な、なんでしょうか?」
「えと、あなた達の荷物じゃないかしら? そちらに散らばっているの……」
アイナ「え………?」
言われて周囲を確認すると、すぐ近くに見慣れた紙袋がいくつか落ちています
袋からこぼれでているのは私達がさっき購入した衣服……
みんなそれが何なのかわかると自分が手にしている紙袋を確認します
花陽「ちゃんと……あります」
アイナ「私も」
リホ「ちゃんと持ってるよっ」サッ
パイ「あるわ……じゃあ」サッ
あの散乱してる紙袋は……
リホ「ヨシノちゃんは?」
アイナ「あ、あれ…?」
花陽「ヨシノ……ちゃんっ!?」
フワちゃんが教えてくれた悪意にもいくつかあるというのをさっき考えました
私に悪意があるという事は……私がいるこの環境、立場に不満があるかもしれない人
私という個人に対して持つ感情というのは、私の周囲すべてに及ぶものである……
-パン屋(改装中)前
カナ「それでねっ、えっと、わるいひといるの!」
フワ「あぁ、悪い人ね。どこにいるの?」
カナ「あっちっ!」ビッ
フワ「あっちというと……あら?」
ダダダダダ…ッ!
花陽「フワちゃん、助けてください!!」ガシッ
フワ「何があったの?」
花陽「ヨ、ヨシノちゃんが……いなくなっちゃった!!」ガクガク
フワ「あら、迷子にでも……って、その様子じゃそんな簡単な事じゃなさそうね、話して」
ヨシノちゃんが何者かに連れ去られました。誘拐されたのです!
もう頭が真っ白で何をどうしていいのかわからなくて、気が付いたらフワちゃんを求めて走り出していました
ヨシノちゃんは私に対する悪意に巻き込まれたのです
花陽「お願いフワちゃん、ヨシノちゃんを…助けてくださいっ!」
フワ「落ち着きなさい。あなたがそんなんじゃ、取り戻すものも取り戻せないわよっ!!」
花陽「ひぐ……ぅ……っっ」
だって……関係ないのに、私のせいで……
私がもっと注意していればこんな事にはならなかった
自分に危害はないからって、相手の事をちゃんと意識できなかった……
花陽「私が……もっと……っっ」
フワ「……………」
フワ「現状の確認として、ヨシノちゃんが攫われたのは間違いないのね?」
花陽「…はいっ……スキルで確認もしました……」
ヨシノちゃんは誰かに連れていかれたのかという考えに、正解がでてしまいました
フワ「そう。それで、他のみんなは?」
花陽「他の………あーー!!」
どうしよう、何も考えないで走り出しちゃったから、みんなは……
まさか……まさか……っ
フワ「っと、大丈夫みたいね」
花陽「えっ」
アイナ「はぁ、はぁ……もーっ! 急に走り出してどこ行くのかと思ったら〜!」
リホ「ふひぅ……」バタッ
パイ「へぐ……っ」ドテ
花陽「みんな……よかった……」
フワ「花陽ちゃんは一度深呼吸して落ち着きなさい」ムニッ
花陽「ひ、ひゃいっ」
アイナ「ヨシノちゃんの居場所ならユリカちゃんやスズがわかるはずだよ」
花陽「あ……」
ユリカちゃんとスズちゃんは特定の相手の位置を知ることが出来るスキルを持っています
これから一緒に生きていくためにと以前に登録しました。今なら私達全員の位置は把握できるはず……
花陽「じ、じゃあすぐに二人に来てもらって……」
フワ「二人は今……魔法学校か武術学校かしら?」
アイナ「ユリカちゃん達は帰りに寄ってくるところがあるから遅くなるって」
花陽「じゃあスズちゃんのほうにすぐ行きましょうっ!」サッ
フワ「だから落ち着きなさいって」
花陽「ヨシノちゃんが連れていかれたんですよ! 私のせいでっ!」
リホ「ハナヨちゃんのせいじゃ……」
花陽「私に対する悪意に巻き込まれたんです……何も関係ないのに……私が助けてあげないと……」
パイ「ヨシノちゃんはみんなでたすけるの!」
アイナ「当然だね。大事な家族なんだから……それに」
リホ「ハナヨちゃんにも悪いことしようとするやつはやっつける!」
花陽「………ぅ」
フワ「という意見。ここにいない子達に聞いても同じよきっと」
花陽「ぁぅ………」
家族におこったことは全員の問題
それは今、私も同じなんだと改めて教えてもらいました
一人で責任を感じて取り乱して……情けないです
花陽「ありがとう……」
花陽「それじゃ、これから私、武術学校に行ってくるから…」
フワ「それは待って。色々と確認しないといけないから」
花陽「で、でも……」
フワ「心配で焦るのもわかるけど、ここで道を誤ると別の被害がでることだってあるのよ」
花陽「別の……」
フワ「相手の目的がわからない以上、もうここだって安全ではないわ」
アイナ「えっ…まじ?」
フワ「それに、みんなに気づかれる事なくヨシノちゃんを連れ去った方法も不明……やっかいなのは確か……でも…」スゥ
リホ「?」
フワちゃんが空を見上げてゆっくりと目を閉じます
何かを探っているのでしょうか?
フワ「いるわね……んっ」シュッ
スパァァン…!
花陽「え、な、なに!?」
フワちゃんが上空目掛けて何かを……投げた?
一瞬の事で何も見えませんでしたが、上で何かが破裂するような音が響きます
リホ「わっ、なにか落っこちてきた!」
フワ「危ないから近づいちゃダメよ〜」
おそらくフワちゃんがなにかしらの方法で上空にいたものを落としたみたいです
それは……鳥?
パイ「トリさん……フワちゃんがおとしたの?」
フワ「ただの鳥じゃないわ。魔力が漏れ出てる……生き物じゃない」
アイナ「魔法生物!?」
花陽「し、知ってるの?」
フワちゃんが落としたものは、魔法生物と呼ばれる疑似生命体だそうです
アイナ「私のお母さんが得意だった魔法なの。疑似生物を構成して操る魔法」
フワ「こんな気配さっきまでなかったわ。目的はわかる?」
アイナ「魔法の規模にもよるけど、こんな小さな鳥型だと単純な命令しかできないと思う」
フワ「単純……ただ上から私達を監視していたのかしら?」
花陽「み、見られていたって事ですか?」
昨日エミちゃんが言っていた事を思い出します
私はもう、監視対象として誰かに見張られているかも知れないと……
アイナ「推測だけど、こちらの様子と会話も聞かれていたかもしれないよ」
花陽「………っ!」ドキッ
元々はお互いの場所に小さな疑似生物を置いて会話をするのに使われたそうです
もしも本当にこれで私達の会話を聞かれていたのだとしたら……
フワ「噂の幻術士がどういう人物かその力を見極めるためなのか……もしくはその力を危険視している奴か」
花陽「悪意がハッキリとある以上、興味本位ではない事は確かですっ!」
監視として魔法が使われているという事は、ヨシノちゃんもなにかしらの魔法で連れていかれたのかも
でもどうして私に直接じゃなく無関係なヨシノちゃんが……
フワ「人質……あるいは何かしらの交渉材料と考えてのことかも」
花陽「そんなっ……」
アイナ「と、とにかくこの事を早くみんなに伝えないとっ」
フワ「花陽ちゃんはここにいて、武術学校の方へは私とアイナちゃんで行くわっ」
アイナ「わ、私?」
フワ「私だけじゃ街中で変に目だったり、絡まれたりする可能性があるのよ」
アイナ「そ、そっか…うん、わかった」
花陽「ユリカちゃん達のほうはどうしよう?」
フワ「寄り道してくるって場所がわからないんじゃ、帰るのを待つしかないわねぇ」
アイナ「でもさっきまで会話を聞かれてた可能性を考えると、どっちも狙われるかもしれないんだよね?」
フワ「むぅ……やっかいな状況ね……」
こういう時こそ何か考えて正解を導きだせればいいんだけど……ええっと……
ツバサ「ごきげんよう、ハナヨ様っ!」ザッ
花陽「何かいくところに心当たりないかな? アイナちゃん」
アイナ「んー…なーんかこそこそしてた気がするんだけどなーあの二人」
リホ「二人だけでおいしいもの食べに行くきなんじゃ?」
花陽「じゃあ、二人は何か食べに行ってるかも……」
ツバサ「こちらに宿を取っていると聞いてきたのですが、この辺に宿屋なんてありましたかしら?」
花陽「ダメ、正解じゃないみたい」
フワ「やみくもにやってても仕方ないわね、取り敢えず私達は行くわ」サッ
アイナ「戻ってくるかもしれないから待ってて」
ツバサ「あの……」
リホ「ヨシノちゃん、きっと帰ってくるよね?」
花陽「大丈夫だよ。みんなで助けてあげよう」
パイ「うんっ!」
ツバサ「あのっ!!」
花陽「何ですか、今こっちは取り込んでるんです!」キッ
フワ「あら、あなたは昨日の……」
リホ「あっ、うるさい人だ」
パイ「ヒステリックだわ」
ツバサ「む……く……お、おはようございます、みなさん」
突如現れたのは確かに昨日私に会いに来た生徒会長のツバサさんでした
どうしてここが……はっ!?
花陽「まさか、私達を監視していたのって……」
ツバサ「ハナヨ様、昨日は突然おしかけて申し訳ありませんでしたわ」
花陽「……………」
ツバサ「今日は改めて昨日の………ハナヨ様?」
違う……この人は無関係です
私に対する悪意はありませんし、関連性もありません
花陽「ごめんなさい、本当に今立て込んでて、あなたのお相手はできません」
ツバサ「あ、あら…そうでしたか」
リホ「そーだそーだ!」
パイ「帰れ帰れっ!」
ツバサ「んくっ……コノ……」グッ
アイナ「ちょっといいすぎだよ、あんた達!」
フワ「嫌いなのはわかるけど、露骨にしちゃダメよ」
フォローになってないけど、今はこの時間も惜しい時です
ツバサさんには申し訳ないけど出直してもらうしかありません
花陽「ごめんなさい、お話しはまた別の日にしてください」
ツバサ「ええ、こちらこそお忙しいところ申し訳ありませんでした。それでは………あら?」
フワ「それじゃ行ってくるわね」ダッ
花陽「気をつけてね……」
アイナ「そっちもね」
ツバサ「これ……教会の魔法生物の残骸? どうしてこのような場所に……」ボソッ
花陽「っ!?」ビクッ
フワ「えっ?」ズザッ
アイナ「わわっ!」ガクッ
きっと本人にしてみれば些細な事のような、小さく呟いたその言葉に私は全身で反応していました
フワ「あなた、この魔法生物の事知っているの?」
ツバサ「え? ええ、これを扱っているのは教会の人間だけですし……」
花陽「教会……そこの人が私を監視していたって事?」
ツバサ「監視? 一体なんの事ですか?」
花陽「………それは」
一瞬今の状況を無関係のツバサさんに話していいものか躊躇われます
もしかしたらこれのせいでこの人まで巻き込む事になるかもしれません
フワ「お願い、力を貸してちょうだい!」
花陽「フワちゃん……それはっ」
フワ「時間が惜しい時に何を迷う事があるの! 何が大事なのか、必要なのか、考えてっ」
花陽「っ!?」
ツバサ「何か、大変な状況なんですの?」
リホ「ヨシノちゃんが悪いやつに連れていかれたの!」
パイ「ハナヨちゃんに悪いことしようとする酷いやつ!」
ツバサ「ハナヨ様に? 昨日の今日でそのような事をする輩がいるとは……」
必要な事……私達だけじゃ対応しきれない事……ヨシノちゃんを助けるためにもっ
花陽「昨日の夜から私に対して悪意を持った人がいて、その魔法生物を使って監視していたみたいなの」
ツバサ「悪意を持った教会の人間……ふむ」
フワ「その悪意を持ったやつにうちの子供が誘拐されたの。あなたは何か心当たりはない?」
ツバサ「いくつか不明な部分はありますが、心当たりとしてはありますわ」
花陽「ホント!?」
アイナ「どこのどいつ!?」
ツバサ「個人で特定するのは難しいですが、教会が監視していたというお話しが事実なら、教会そのものでしょう」
フワ「まずその教会というのをよく解らないのだけど……」
私達がこの街に来てからそういう組織、機関? の名前は初めて聞きます
この国の人達からすれば当たり前なのかもしれなくても、私達にはそれを知る方法が今はありません
ツバサ「………ふむ。事情は解りましたわハナヨ様」
花陽「ツバサさん……」
ツバサ「わたくしに出来る事なら、喜んでお手伝いさせていただきます。幻術士ハナヨ様」スッ
花陽「……っ」
こちらの状況を知ってなお協力してくれるというツバサさん
場合によっては自身も巻き込まれる可能性があるのに
だけどきちんと私に……幻術士としての私に協力を申し出るという事は……
フワ「借りが出来たわね、花陽ちゃん」
花陽「そうみたいですね」
生徒会長をやっているくらいの人です
それを加味しての損得は計算しているはず……
ツバサ「それで、あなた方は今どういう対応を?」
もしこの人に別の思惑があったとしても、今は……
-お昼 パン屋1F
ユリカ「ただいま戻りましたっ!」ダッ
エミ「みなさんご無事ですか!?」ダダッ
花陽「ユリカちゃん、エミちゃん!」
アイナ「無事でよかった…」
リホ「お帰りなさい!」
パイ「ぱい達は大丈夫っ!」
ツバサ「メッセージはきちんと伝わったようですわね」
ユリカ「一瞬何のことかと頭を悩ませましたけどね……」
エミ「名指しで緊急事態につき家に帰れだなんてメッセージがそこらじゅうに表示されて、焦りました…」
どこにいるのかわからない二人にメッセージを送ってくれたのはツバサさんのアイディアです
なんでも街のあちこちにあるメッセージボードにツバサさんは任意の文字列を表示させることができるのだとか
そういうのを勝手に弄っていいのかという当然の疑問に、すごい答えが返ってきました
ツバサ「わたくしの作った物ですので、少しくらい私的に利用させてもらっても大丈夫ですわ」
とのこと……
元より緊急時には様々なメッセージを表示できるようにしてあるので街の人も利用できるそうです
ユリカ「走りながら途中のメッセージも見ましたが、子供が危険って、何があったんですか?」
花陽「ん……ヨシノちゃんが……誘拐されました……」
エミ「そんなっ…!」
花陽「ごめんなさい……私に対する悪意は感知していたのに……」
ユリカ「ハナヨちゃんが謝る事ではありません。悪いのはヨシノちゃんを攫った奴らです!」
エミ「そうですよっ! 許せない…っ!」
アイナ「ユリカちゃん、すぐにヨシノちゃんの居場所を確認できる?」
ユリカ「はい、すぐに!」スッ
ツバサ「……………」
ユリカ「あ、あれ……表示がない?」
花陽「どうしたの?」
ユリカ「探知にヨシノちゃんの反応がでないんです。こんな事今までなかったのに…」
花陽「それは……どういう理由が?」
ユリカ「反応が消えるのは……その……」
ユリカちゃんが言葉を詰まらせる
消えるのは、その対象が生命活動を停止した時………
でもヨシノちゃんは私のスキルで……
ツバサ「それなら大丈夫ですわ、ハナヨ様」
花陽「え?」
ツバサ「あなたのスキル、少し普通のより範囲が広いようですが、対象の生体反応を光源で示すスキルですね?」
ユリカ「あ、そ、そうです…」
ツバサ「教会本部の施設にスキル効果を遮断する場所があります。きっとヨシノさんはそこに連れていかれたのでしょう」
アイナ「そんな場所があるんだ……」
花陽「教会本部……そこにヨシノちゃんが…」
ツバサ「むしろ探知できないことが、その証明になっているとも言えますわ」
得意気に話すツバサさんですが、確かにこの情報はとても助かります
私に悪意を持ち、私の周りにいる人にまで手をだそうとする人がそこにいる…
エミ「居場所がわかればなんとかなりますね」
ユリカ「はい」
リホ「あの……」
ツバサ「ん、なにかしら?」
パイ「さっきはごめんなさい……」
リホ「ごめんなさい。それと、ありがとう。助けてくれて…」
ツバサ「別にかまいませんわ。生徒会長として当然の事をしたまでです」
パイ「せーとかいちょーすごい」
リホ「すごいっ」
ツバサ「ふふん」バサッ
アイナ「単純だなぁ」
エミ「でも大丈夫なのでしょうか?」
ユリカ「何か気になる事でもあるの?」
エミ「偵察用の魔法生物を破壊したり、街中で目立った呼びかけをしていて、相手に感づかれるんじゃ…」
花陽「それは……」
ツバサ「そんなものは最初から筒抜けですわ」
ユリカ「えっ…!?」
ツバサ「あなた方が破壊した魔法生物は映像と音声を取得する目的のもの。前後の会話は相手にも漏れています」
アイナ「やっぱりそうだったんだ…」
エミ「じゃあ……」
ツバサ「しかしご安心を。偵察用魔法生物を破壊した後に私がここに来たという事は漏れていませんわ」
花陽「あ……」
エミ「それじゃ、ヨシノちゃんが教会本部にいるというのを把握してるのも……」
ツバサ「バレていない……と、考えても良さそうですね。もしバレているのなら場所を移す必要がありますし…」
ユリカ「施設から移動させるときに探知には引っかかる……」
ツバサ「そういう事です。ヨシノさんがまだ教会にいるという確証のためにもこまめな探知をお願いしますわ」
ユリカ「わ、わかりました」
ツバサ「状況の把握と犯人の出方、これらに意識を集中しているように見せかければ十分つけ入る事は出来ます」
花陽「……………」
学校の生徒会長をしているという事以外はよく知らないけど、この人すごいです
続くー 要領のため思うような文が書き辛くなってきたのでそろそろ移動準備します… かよちんが能力発揮のために絶食中だから俺らも続きが読ませてもらえないのか
かよちんにだけ辛い思いはさせないってことか 地域変えてひとりがレスしてるだけじゃモチベ続かなかったか 体調崩したりしてないといいけどねぇ…
気長に待ちましょう もともと次スレに移るタイミングではあったけど……どうなんだろう この作者にはリリーのアトリエの続編も書いて貰わなきゃならないから逃がさん リリーのアトリエってこの人のなのか
シリーズものなの? 前スレの途中でにこ誕SS書いてたのとピンクまとめ最後の更新SSがそれなのは知ってる いつか続編を待つSSとかのスレで名前が上がれば次スレ立ちます どうして次スレの条件提示してるのに邪魔するんだろう
酷いアンチに粘着されて可哀想 別所で完結してから1ヶ月近く経ってんのに残す必要ないから埋めますね このスレッドは1000を超えました。
新しいスレッドを立ててください。
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