SS 小泉花陽はお腹がすいた
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よくあるわかりやす〜い異世界もの
のんびり進行
伝説として語り継がれる9人の女神たちのお話し
「チッ、やはり何かの幻術の類か」
「あれがそうなのか?」ザッ
「あら、けっこう可愛い娘じゃない」スッ
花陽「あ……んんっ……くっ」キッ
崩れた瓦礫を押し退けるようにこちらに迫る人影……三人
この人達が……この村をっ…!
花陽「怖いけど……がんばらなきゃ……私が……」タッ ザッ
この人達に……伝えないと
「術士様は周囲を攻撃してくださいよ」スッ
「幻影にしては濃いな」
「持ち帰って可愛がってあげましょ」タッ
伝え………うぅ、やっぱりお帰り頂く方向で…
花陽「あ、あのっ……村からでていってくださいー……」
「あん?」
花陽「もうここには何もありません。来るだけ無駄ですっ」
「何もないことぁないだろ。隠れ潜んでる奴がいる」
「それに、少なくともアナタがいるわね?」
花陽「私達は明日にでもここを離れます。ここをどうにかしたいのならその後好きにしていいですから」
「お嬢ちゃんは、私達が誰だかわかっているの?」
花陽「え……えっと、クレスタリアの騎士団……だった人達ですよね?」
「そうだな」
花陽「戦争の事もあなた達の事情も私にはよくわかりません、だけど……」
「俺達の正体を知っているのなら、やはり生かしてはおけんな」チャキッ
花陽「えっ…!?」
「むしろ一番の不安材料がここにまだあるようだ」
「ああ、絶対に逃がさねえ」
「せっかく可愛がってあげようと思ったのに、残念ね〜」
花陽「……………」
……流れが悪くなった?
不安材料……この人達の目的って……
「囲め」スッ
「背後行きます」
「詠唱はじめるわ」
花陽「…………」スッ
敗残兵となって野盗まがいの事をしている元騎士団……だけじゃない?
「探知できない? どういう事?」
「構わねえ、撃て」
花陽「えっ…!?」
私の足元が赤く光って……何かの模様?
ヒュン ゴオォォォン!!
花陽「ぴょわあぁぁぁぁぁ!!!」
ば、ばば、爆発しましたっ! 足元がどかーーんて!!
もしかしてこれ、魔法とかファンタジー世界ならではのやつでしょうか!?
だけど、やっぱり私には何も感じなかった……というより、魔法の効果で発生した現象だけすり抜けた?
「………!?」ピクッ
花陽「びっくりしましたぁ……」ドキドキ
「な……無傷だなんて」
よし、きっと大丈夫…このまま作戦続行です!
とりあえず私の後ろから近づいてる人に…
タタタッ
花陽「あ、あのっ!」
「むうぅ、くっ」サッ シュッ
花陽「ごめんなさい、あたりません」スルッ
「くそっ」タッ
花陽「あ、待ってください」ギュッ
「うわっ、離しやがれ!!」グイ
本当なら男の人の力に私が勝る要素なんてありません
だけど私が握る手をこの人は振りほどけない。振り切る力をぶつける先がないからです
干渉されないという事は、こちらからの干渉に対して無抵抗だという事……で、いいんですよね?
「なんだこれ、腕が…あがらねえっ!」ググ…
花陽「帰ってくれないなら、聞きたい事があります」
ヒュンッ ゴオォォ…
花陽「っ!?」
「うおっ!」
突然背後からものすごい風が通り抜けます
でもこれも魔法によるものなんでしょうか、私には何の感触もありません
私が捕まえてる人は少し飛ばされそうになっていましたが、腕がそこに固定されているように動きません
一方的な干渉。なんだかすごいです
あとは私がちゃんとやれれば……
花陽「すいません、お話しがあるので待っていてもらえますかー?」
「なんなのあの子……」フルフル
「やっぱり幻術なんかじゃねぇ、実体がある……」
花陽「あなたも諦めて大人しくしていてください。手荒な真似はしたくありません」ギュッ
「ぐあっ…く…!」
花陽「あ、ごめんなさい。痛かったですか?」
特に筋力がついたわけではないのにこの反応……
逃げたり暴れたりできないのであればこれでいきます
花陽「ちょっとお話ししたいので、大人しくしていてくださいね」
「うぅ……くっ」コクッ
花陽「あの、あなた達もこっちに来てくれませんか」
「なんだ……?」
「…………わかったわ」
私個人としては何か危害を加えようという気はないのですが、見た状況は完全に人質をとっています
それにこの人達は悪い人達です。ユリカさん達にホントに酷い事をしました
花陽「最初に言っておきますけど、私自身はあなた達の敵じゃありません」
「はぁ、じゃあ離せよっ」ググ…
花陽「お話しがあるのは本当です。離したら逃げちゃうじゃないですか」
「逃げないわよ」
このローブを着込んだ人……女の人?
「お前、なにもんだ?」
花陽「何者と聞かれても、普通の学生です」
勇者とか言われてますけど、自分で名乗るのはやっぱり恥ずかしいです
「そんなわけ…っ!」ググ…
花陽「じっとしててくださいっ」ムギュッ
「ぐあっ、くそっ……」スッ
「ライ、じっとしていろ…」
私が取り押さえている騎士の人はライさんというようです
さっき私はこの人に殺されそうになりました
花陽「……………」
「普通の学生がこんなマネできるわけないでしょ」
花陽「あ、いえーその、それには事情がありまして…」
「どんなだよ」
花陽「私の事はいいんです。それよりっ…!」
ちゃんと話して、ちゃんと伝えなきゃ
花陽「この村や、近隣の村を襲った野盗はあなた達で間違いないですか?」
「…………ああ」
花陽「……………」ギュムー
「いででででっ!」
花陽「どうしてそんな酷い事をするんですか?」
「はぁ? なにが酷いってんだー?」
「私達を見殺しにしておいて、何を今さらっ!」
花陽「……?」
見殺し? どういうことでしょうか?
「お前はこの村の者なのか?」
花陽「あ、いえ…私は最近お世話になってるだけで……」
「余所者が邪魔してくれてんの!?」
花陽「よそもの……それはそうですけど……」
「北の連中が盟約を果たさず、俺達は戦場で孤立したんだ」
「援護も受けられず、敗戦が確定していても帰る場所すらなかったのよ…」
それって、先にあった他国との戦争の事でしょうか
北とはこの辺りの事?
「しかも王都の皇族は敗戦が濃厚になるとまっさきに逃げ出しやがった…」
「絶対に許さないわ」
花陽「えっと……話が違う方向へ行きそうなのでちょっと戻しますけど」
うっかり流されそうになりますが、そんな事を聞きたいのではありません
花陽「もうこの村には数人の子供達しか残ってません。あなた達のせいで」
問題の正当性なんて私にはわからないし、関係もありません
あの子達の親を殺し、普通の生活すらできなくさせた。私はこれがただただ許せません
花陽「事情はわかりませんが、子供達を巻き込まないでください。ひ、人を殺すなんて絶対ダメです」
「何も知らないくせに…っ!」
花陽「確かに私には詳しい事情はわかりません。だけど、ダメなものはわかります」
ユリカさんの涙が本物である以上、私はユリカさんの味方でありつづけると決めました
花陽「なので、こちらから一つ要求があります」
「要求?」
私がユリカさんにしてあげられる事……ユリカさんが望んだ事……
花陽「全員、髪の毛を数本づついただきます」
「髪の毛?」
「まさか、サーチに使うのか?」
「髪の毛だと、ダイレクトサーチか…?」
花陽「そうらしいです」
ユリカさんは野盗に対して復讐する事を心に決めています
最初は誰でもいいからこの人達に復讐できればいいと考えていましたが、今は違います
花陽「あなた達が奪ったものの代償は、かならず支払ってもらいますとのことです」
「ことです……って、誰だよ…」
花陽「あなた達が酷い事をした村の人達です。私はそのお手伝いをしています」
「復讐か……。だったら今連れて来いよ。ちゃんと相手してやるよ」
花陽「今はしません。あなた達のおかげでここはもう人が住める場所ではありませんから、移動するんです」
「そのための……サーチか」
花陽「これから先、あなた達は村の生き残った子達に狙われることになるんです」
ユリカさんは私の提案を、これから先の生きていくための目的と手段に使いました
この人達に直接復讐するために、進むべき道を決めたのです
花陽「あなた達がどこでなにしようがもう関係ありません。いつか必ず、彼女達はあなた達の前に現れます」
「はっ………」
「たいした執念ね」
花陽「だけどその前にあなた達がまた私達に危害を加えようというのなら、わ、私が相手になります」
「どうして余所者のお前がそんなに肩入れするんだ?」
花陽「……………」
どうしてと聞かれれば、それは私が元の世界に帰るために必要だから
……いえ、もうそれだけが理由じゃないのを自分でもよくわかっています
「ねえあなた……どうせなら私達の仲間にならない?」
花陽「え!?」ドキッ
黙っていたのが何か誤解を与えてしまったようです
私個人の事情があるのは確かですが、例えこの人達が私の問題を解決してくれる存在だとしても仲間になんて考えられません
それに私がこの世界に召喚される元々の原因はこの人達のせいなのです
花陽「個人的な恨みはありませんが、私はあなた達が……その、嫌いです。大嫌いなんです」
立場を明確にするために強めの口調で言います
こんな事を他人に言うのは初めてです。だけど、心には何の抵抗もありません
ホントに誰かを嫌うことがあるとどういう心境になるのか、初めて味わう経験です
「あっそ……。そんなすごいスキルを使えるのにあんなやつらに肩入れなんて…もったいないわね」
花陽「あなた達なんかよりずっといい子達ですっ」
「嫌われたもんだな」
花陽「それより、はやく髪の毛を置いて帰ってください」
「イヤだと言ったら?」
花陽「……え?」ドキッ
私が一人、人質として騎士の人を捕まえているのにどうしてこの人達は引かないんでしょう
……それより、私が考える話の流れでこの人達を諦めさせることができない
スキル「それ正解!」がさっきから全然発動してくれません
「俺を人質として交渉材料に考えてるんなら無駄だぜ」
「俺達はある目的のために組んではいるが、仲間のために…なんて考えはない」
「目的の邪魔になるなら当然、捨てるわよ」
花陽「……………」
花陽「じ、じゃあなんで話し合いに…その、応じてるんですか?」
「殺意もない、やる気がまずない相手が人質なんてとって有利に事が進むと思ってるのか?」
花陽「え……」
「お前たちの動向を探るためと、あとは……」
「私は今でもあなたを殺す方法をずっとためしてるわよ。なんか効果ないみたいだけど……」
花陽「…………」ドキッ
「優しいんだな、あんた」
「こんなに優しくて可愛くて……あぁ、ほんともったいないわぁ……」
花陽「な……う……」
どうしよう……私なんかの考えじゃこの人達の意志を変える事なんてできない
事の良し悪しは別として、この人達は本気です……命をかけている。それを曲げる事はないのかもしれません
だったら私に出来る事は……
「それにしてもホントどういうスキルなのかしら……別動隊にあなたのデータをずっと送って探らせているのだけど、解答がでないって」
花陽「別動隊……?」
「まさか夜襲をかけるのに、昼間の連中はおうちでお留守番なんて考えてたわけじゃないだろ?」
花陽「え………」
「突入部隊とは別に今もこの村の周囲で村から出ようとしているやつを監視しているし、隠れている奴らの探索もしている」
花陽「…っ!?」ビクッ
「んー可愛い反応♪ ホントにシロウトなのねぇ」
他にも仲間がいるのはわかっています。少なくとも昼間に出会った人達……だけどどうして今ここにいない事に思考がまわらなかったのでしょうか……
もしかして、この会話もただの時間稼ぎにされているだけなんじゃ……
花陽「……………」ドキドキ…
「あら、動揺しているわね。隠れているお仲間が心配?」
「俺なんかを捕まえたままで守れるのか?」
花陽「………ぅぅ」
私はユリカさん達を守りたい……なのにこの状況は何も変わらない
自分が干渉されないからってすべてが上手くいくなんて事にはならない……
花陽「ど、どうしても諦めてはくれないんですか……?」
「ええ、私達は例え死んでも諦めないわ」
信念が………覚悟が違いすぎます
なにもかもを平和ボケした頭で考えている私なんかの言葉じゃこの人達は変えられない
花陽「…………………」ゴクッ
だったら……もうこれしか……
ピピッ
――スキル「それ正解!」が発動しました
「なに!?」
「スキルだと!? なんだ……?」サッ
「…………聞いた事のないナビ妖精………」
発動……しました…………本当に、これしかないのでしょうか……
花陽「ハァ……ふぅ、ん……」スッ
「な、なにを……あ…」
ユリカさんから受け取ったナイフを取り出し、人に向けて構える
スキルがその道を示してくれました
私自身も覚悟を決め、かわらなければいけないと……
武器を手にし、戦う意思を明確にし、躊躇わない事……
花陽「わ、私……ほ……本気、ですよっ!」ググ…
「……………」
この人達には曖昧な態度は通じない。私が本気だとわかってもらわないと……
「…………」
「あらら、そっちにいっちゃったか」
「お前の負けだな」
花陽「え……?」
「諦めて仲間になって欲しかったんだけどねぇ〜……ん、仕方ない」
私が捕まえてる人にナイフを突きつけたら状況が変わりました
んー?
「ねえあなた。村にはもう子供しか残ってないって言ってたわね?」
花陽「へ? あ、ああ、はいっ」
「じゃあ、これ見てくれる?」スッ
花陽「これは、女の子の絵?」
ローブの人に一枚の絵を渡されました。小さいけど立派な額縁に入った女の子の絵
花陽「えっと……これが?」
「……………」
それは自身の髪が踝にまで伸びた小さな女の子
見た感想としては、ただ可愛らしい女の子だなって感想しかでません
服装がヒラヒラフリルのドレス姿で、まるでお姫様みたい
「ん、その反応はホントに知らないみたいね」
「どうすんだ?」
「ここが最有力だったんだろ?」
花陽「………?」
「いいわ。おとなしく帰ってあげる」
花陽「…………えっ!?」
「俺達の最重要目標はこの娘を殺すことだ」
「この村の連中も残らず消してやりたいところだけどな……」
「そのためにあなたみたいなわけわかんない存在に狙われるのはゴメンだわ〜」スッ
帰る……引いてくれる……?
花陽「あ、ありがとうござ……っ」
って、なんでお礼言おうとしてるんですか私……
この人達は許せない人……ちゃんとしなきゃ
花陽「待ってください。髪の毛置いていってください」グッ
「いてて、なんだよ帰るって言ってんのに」
花陽「理由はさっき説明しました。あなた達を許せない子達がいるんですっ!」
「そんなのイヤに決まってるでしょ」
「当然だ」
ヒュンッ ザシュッ
花陽「……………え?」
「っつ……っしょっと」タッ
「こっちは残さないようにっと」スッ シュウ…
ゴオォォ…
花陽「わっ」ビクッ
私が捕まえていた騎士の人の腕を、もう一人の騎士の人が手にした剣で切り落とした
ローブの人が私が持ったままの腕に突然魔法かなにかで火をつける
花陽「……………」
「じゃあねお嬢ちゃん。もしどこかで会ったらまた勧誘させてもらうわ」タッ
「作戦終了、撤収するぞ」タタッ
「俺らの正体知られてますけど、いいんすか?」スッ
「知られているならそういう対応するだけよっ」
花陽「……………」
―――
――
-ユリカさん家の地下、隠し部屋
ユリカ「ハナヨ様!」
スズ「ご無事で、ハナヨ様!」タッ
花陽「……………」
野盗の人達が帰った後、私は呆然としてその場で動けませんでした
ようやく状況を理解し、念のため周囲を警戒しつつユリカさん達の待つ地下室へと戻りました
ユリカ「お怪我はありませんか、ハナヨ様」
花陽「あ……はい。大丈夫です……」
スズ「………よかった」
ユリカさん達は私の無事に安堵し、喜んでくれています
きっとすべて上手くやったんだと思ってくれているのでしょう
だけど……結局私はなさけないままで、簡単にどうにかできるなんて考えていました
花陽「……………」
ユリカ「ハナヨ様?」
パイ「ハナヨ様〜」テテテ…
リホ「おかえり〜」トトト… ピトッ
花陽「え……ど、どうしたの?」
ユリカ「少し前に大きな爆発音が続きましたから、みんな飛び起きてしまって」
花陽「あ、そうですよね……」
アイナ「あいつら、おっぱらってくれたの?」
花陽「………うん」
ヨシノ「ありがとう…」ピトッ
花陽「………ふふ」
私は……この子達を守れたんでしょうか……
??「あの……ありがとうございます……」
花陽「え?」
ユリカ「あ、ハナヨ様にはまだご挨拶していなかったわね。エミちゃん、おいで」
エミ「ん……」トトッ
花陽「…っ!?」ドクンッ
食事の時、寝ていた女の子
最年少、10歳のエミちゃん
エミ「エミです。ハナヨ様、よろしくお願いします」ペコッ
花陽「あ……ぅ……」
それはとても可愛らしい、小さな女の子
アヤ「ハナヨ様、どうしたの?」
それは……見覚えのある女の子
花陽「……………」
エミ「?」
綺麗な髪が踝にまで伸びた、お姫様のようなドレスを着た……女の子
これ凄い長編なのでは…?
面白いからいいんだけど! -地下室 花陽ちゃんの寝室
ユリカ「そうですか……サーチの触媒は手に入りませんでしたか…」
花陽「はい…。ごめんなさい……」
ユリカ「そんな、謝らないでくださいっ」
花陽「でも、私にもっと覚悟があれば変わったんです。だけど……」
どうしても一歩踏み込めないでいた領域
この世界の人達と私……いえ、きっとこうと決めた事なら迷いなく動けたと思います
絵里ちゃんや穂乃果ちゃんみたいに真っ直ぐ突き進む勇気があれば……
ユリカ「ハナヨ様……」スッ ギュゥ…
花陽「え……」
ユリカ「ごめんなさい。辛い役目をおしつけてしまって」
気が付くと私はユリカさんに抱っこされていました
よく凛ちゃんや希ちゃんにこうしてぎゅっとされることがあって、その時のような心がフワっと軽くなる心地よさを思い出します
なんだか……疲れが一気に……
花陽「ん……ユリカ……さん……」
ユリカ「どうか今日はこのままお休みになってください」
花陽「あ…ふ………ん」ウトウト…
頬に感じる柔らかい感触に包み込まれる……体中から力が抜けていくよう……で……
花陽「…………スゥ…」
ユリカ「…………」ギュッ
ねぇ……凛ちゃん………私………帰ったら……
ユリカ「おやすみなさい、ハナヨ様」
-次の日 セト村
スズ「…………」キョロキョロ
花陽「ぅぅ……」
スズ「ハナヨ様、大丈夫そうです」
花陽「はい、じゃあ手分けして探しましょう」
スズ「私はあちらから見て回ります」スッ
花陽「周囲に誰かいる気配がしたらすぐに戻ってくださいね」
スズ「ええ、もう一人で先走るようなマネはしません」
昨晩の襲撃から明けて今日、ユリカさん達はセト村を出ます
行先としてあげたのは、東の国「ユーディクス」
ユリカさん達が自らの手で目的を果たすために選んだ道……魔導士になるための学校がある国だそうです
花陽「ふぅ……ぅぅ……」
今私とスズさんは長旅に必要なもの……わずかに残った物資がないか村を見て回っているところです
花陽「はぁ……」フラフラ…
旅立つ前にユリカさんが子供達にお話しをしています
今回の旅の理由……自分達の境遇、目的……為すべき事……
私を元の世界に帰すために、あの子達が選んでくれた方法のため
花陽「……………んー」ガラガラッ ガタッ
崩れた家屋にお邪魔して、少し原型を留めている箪笥を調べます
着替えや毛布は地下室にある程度ありましたが、旅をするという事はもっと必要になります
幸いなのは、もうじきあの子達は病気や怪我に対する心配はしなくて済むという事
私がみんなを「隣の観測者」で変化させるからです
そのために必要なこととして、私は朝食を食べていません……
花陽「どうして空腹時限定なんだろう……はぁ…」グルル…
残り22回使えるスキル「隣の観測者」……みんなに使うとして残り14回……
使うたびにご飯が食べられないのはなんとなくイヤなので、使えるうちに必要なものを考えてみます
花陽「旅に必要なもの……」ガサゴソ…
スズ「クルマ……ですか?」
花陽「そういう乗り物とか……なさそうですね……」
スズ「すいません、私の知る限りで移動に使うものといえば荷馬車くらいしかありません」
機械的なものがない文明みたいですし、私達が機械で行う事はこちらでは魔法やスキルになります
という事は、この場合は移動や荷物運びに使うスキル?
スズ「大きな町にはそういった物を扱うスキルも売っていると思いますが、今はないですね」
花陽「スキルって売ってるんですか?」
スズ「はい。生活用のものとかはだいたいは店で買う事で手に入るんです」
花陽「家電製品を買うようなものなのかな?」
スズ「カデン?」
花陽「ああいえ……。ということは必要なものとしてあげられるのは大きな荷車とか?」
スズ「長旅になりますが、野宿には慣れていますよっ」
花陽「んー……さすがに小さい子もいるし……」
花陽「何か使えるの、ないのかなぁ……」ヴォン
スズ「わっ」
花陽「あ、いきなりごめんなさい」
スズ「いえ、こちらこそ……はぁー……すごいですね」
全部私が習得しているというスキルボードを展開させたらスズさんが驚いています
なんだかみんな同じ反応するんですね
スズ「???になっているのはどういうスキルなんですか?」
花陽「それがよくわからなくて……」
「隣の観測者」が空腹時になると使えるようになったので、他のスキルも何か条件が必要なのかもしれません
頂点に「隣人花陽」……なぜか私の名前がついたスキルがあって、そこから下に2つに分かれて、その2つがさらに2つづつ分かれて4つに
その4つがそれぞれ2つに分かれて8つに……
私のスキルは全部で15あるようなのです
花陽「何か日常生活に使えそうなのないんですかねぇ……」
スズ「ハナヨ様のスキルって、聞いた事のないのばかりなんですね」
横で同じようにボードを眺めていたスズさんが物珍しそうに見ています
私が習得したから私の名前がついているのか、元々なのかもわからない変な名前のスキルばかりです
スズ「あ、これだけスキルカラーが青ですね……無垢乙女?」
花陽「これがそうなんですね…」
一度だけ発動した苺みたいなスキルですね。最下段にあるようです
読めない文字のせいでどれがどれだか理解できません
スズ「隣のは黒……リン、知ってるよ……?」
花陽「え?」
スズ「あ、このスキルの名前です。リン、知ってるよというスキルのようです」
花陽「凛ちゃん?」
スズ「?」
どうしてここで凛ちゃんの名前が……いえ、これが凛ちゃんのことなのかわかりませんが……
ちょっと気になったのでナビ妖精の解説を聞いて見ます
ピピッ
――「リン、知ってるよ」他種族、他国家間にある様々な言語を自動変換し、意思疎通を可能にする
スズ「へえ〜外国語とか覚えなくていいスキルなんですね。便利そうです」
花陽「ああ、このスキルのおかげで私、みんなとお話しできているんですね」
この世界に来た時からこのスキルは私が習得していたという事でしょうか?
無垢乙女もそうですが、仕組みがよくわかりません
同じように「無垢乙女」も確認してみます
ピピッ
――「無垢乙女」何も知らない、汚れのないピュア乙女
無垢で無欲で無害な乙女は誰からも愛され、誰からも疎まれる
スズ「よくわからないスキルですね」
花陽「たまにある抽象的なナビはなんですかね?」
スズ「ややこしい言い回しをするのはナビ妖精の気まぐれだとも言われてますけど……」
花陽「あ、前例があるんですね」
そもそもナビ妖精って、生物なのでしょうか?
理想としてパーっと移動できるスキルがあればいいけど、残念ながら今は確認できません
ゴールドクラスとか、すごいスキルらしいのに???のままなのか使えません…残念です
結局村から運び出せそうな物はあまりなく、着替えとして何枚かの衣服やタオルを確保できただけでした
スズ「ハナヨ様、そろそろ戻りましょう」
花陽「はーい」
ユリカさんが大事な話を終えて準備している頃です
スズ「お腹、大丈夫ですか?」
花陽「………え、あぁ」
最初に発動した時のようにお腹が淡い光を放っていました
碧色の優しい光……私はこの光に不思議と心が落ち着くのを感じます
最初の時に感じた痛みは今はない……でも、
花陽「お腹がすきました……」
スズ「もう少しの辛抱ですよ」
-回想
ガチャ バタン
パイ「おかえり〜」
ソラ「ユリ姉、スズ姉〜!!」ダッ
ユリカ「ただいま……んっ…しょ」ズズ…
スズ「ソラ、急いでベッドの用意と毛布を出してっ」ガタッ
花陽「……………」Zz…
ソラ「っ!? そ、その人…さっきの……」
ヨシノ「この人ーだぁれー?」
アイナ「まぁ可愛いっ」
ユリカ「みんな静かにして、ハナヨ様がおきてしまうわ」
リホ「エミちゃんみたいにどこかの村から来た人ー?」
エミ「わたしは知りませんが…」
パイ「てつだう〜」
アイナ「わお、おっぱいでっか」
ユリカ「アイナ、この方に変な事したら許しませんよ」ギロッ
アイナ「はいはい」
ソラ「……………」
アヤ「ソラ、どうしたの?」
スズ「姉さん、後は私にまかせて」
ユリカ「ハナヨ様をお願いね、スズ」
ヨシノ「あの人は?」
ユリカ「大丈夫、お休みしているだけよ」
アヤ「面倒事なの?」
ユリカ「その事も含めて話があるの。アイナ、みんなをキッチンに集めて」
アイナ「ん、わかった…」
ソラ「……ぅぅ………」
ヨシノ「どしたのー?」
ソラ「どうもしないっ……」プイッ
ユリカ「みんな座って。大事な話があります」
リホ「はーい」
ヨシノ「ん」
パイ「なにー?」
アイナ「あんた達、大人しくしなさい」
エミ「…………」
ソラ「………」ムスッ
アヤ「……?」
アイナ「それで、大事な話って?」
ユリカ「みんなとこれからのお話」
アヤ「これから?」
リホ「リホは早くお外で遊びたいよ〜」
ヨシノ「かくれんぼ飽きた〜」
ユリカ「そうだね。もうこんなところに隠れ続けるのも限界だよね」
エミ「出るのですか?」
ユリカ「出ましょう。みんなで」
パイ「わ〜い」
ユリカ「……ねえ、みんなは将来何になりたい?」
アイナ「突然だね」
リホ「ママみたいなまじゅつしになりたい!」
ヨシノ「まおう〜」
パイ「パパとおなじ魔法つかいっ!」
アヤ「……ソラ……ノ…ゴニョゴニョ…」
ソラ「……………」
ユリカ「ソラは?」
ソラ「急に言われても……わかんないよ」
ユリカ「そう……そうよね……」
アイナ「あなたは何かあるの?」
ユリカ「えっ!? わ、私は……」
アイナ「あったでしょ、夢」
ユリカ「私は………今はハナヨ様のために……」
アイナ「ハナヨ様?」
ユリカ「コイズミハナヨ様。私達を助けてくださる勇者様です!」
アヤ「さっき連れてきた人がそうなの?」
ユリカ「そうよ! さっきも勇者様のお力すごかったのよ!!」バッ
アイナ「あらら」
ユリカ「と、ちょっと話がそれちゃったけど……」
アイナ「あなたがね」
ユリカ「とにかく、私達はここを出て違う国へ行くの」
リホ「おひっこしするの?」
エミ「…………」
ユリカ「もうここで暮らしていくのは……ね」
アイナ「…………」
パイ「そうなのー?」
アイナ「行くあてはあるの?」
ユリカ「あて……というか、必要な事だって思える行先ならあるの」
ヨシノ「ゆーでぃくすー?」
ユリカ「そう。魔法の分野を専門的に扱う機関や学び舎があってね、そこへ行こうと思うの」
アイナ「行って、何するの?」
ユリカ「みんなで魔法を学ぶのよ」
ソラ「え、ボクも!?」
アヤ「えー……」
ユリカ「それにね、ここには学生寮もあって、勉強に集中できる環境なの」
エミ「…………」
パイ「おべんきょうばっかはいやー」
アイナ「寮か。でも現実問題どうにかしないといけないのは確かだよね」
ユリカ「このままここにいても、そのうち食べる物も無くなって、復興どころじゃなくなる…」
アヤ「だから……?」
ユリカ「この理不尽な状況に対する救いを与えてくださったハナヨ様のためにも、どうか……」
ソラ「…………」
ユリカ「どうかお願い。私が勝手に決めたことだけど、みんなでやらなきゃできないの……」
アイナ「…………」
アヤ「よくわかんないけど……あなたが言うなら、いいわよ」
リホ「うん、リホもいいよ」
パイ「おねえちゃんが嬉しいなら、ぱいも」
ヨシノ「魔法をならって、まおうになる」
アイナ「……ま、魔法とかわたしに覚えられるかはわかんないけど、いいよ」
ユリカ「…………ありがとう」
リホ「でも、おとうさんたちが帰ってくるのはまってたいな」
ヨシノ「うい」
パイ「お仕事まだおわらないのかなー」
アヤ「…………」
アイナ「……ユリカ、まだ話は?」
ユリカ「できるわけ………ないじゃない……」
ソラ「……………」
エミ「ユーディクス……東の国ですね」
ユリカ「エミちゃんはいいの?」
エミ「はい。トト村に戻っても私一人じゃ生きていけませんし、お世話になった恩義もありますから」
ユリカ「恩義だなんて、困ったときはみんなで助け合うものよ」
エミ「………そうですね」
ユリカ「……?」
アヤ「ソラ、さっきからどうしたの、黙っちゃって」
ソラ「なんでもない……」
―――
――
-セト村
花陽「…………」
ユリカ「…………」
スズ「ほら、リホ………」
リホ「イヤっ!! 行きたくない!! パパはぜったい帰ってくるもん!!」バタバタッ
パイ「……グスッ…………リホ……」ギュゥ
ヨシノ「ぅぇぇぇぇ…っ!」
地下室でユリカさんが村の状況をゆっくりと子供達に話しました
自分達を助けるために、大人のみんなが守ってくれた事……もう、帰ってこない事
これからはみんなが助け合って生きていかなきゃいけない
ユリカ「ごめんね、黙ってて……でも……でもねっ!」グイ
リホ「っえぅっ…?」
ユリカ「しっかりしなさい!! お父さんの子でしょ!!」
パイ「………ズビ…グスッ」
ヨシノ「………っ」
ユリカ「私は村を襲った連中を……みんなを殺した連中を絶対に許さないわ」
リホ「ぅぅ……おねえちゃ……っ」
ユリカ「あなた達は泣いたままでいるの? 悔しいままでいいの? 逃げるだけでいいの?」
パイ「! ……」ブンブン
ヨシノ「ヤダ……」
ユリカ「だったら顔をあげなさい。私達はそのために東の国へ行くの!」
リホ「……………ぅぇ………」
少し強引で、一方的にも見えます
だけど彼女達がここで立ち止まっている時間がないのも理解できるから、何も言えません
前を向いて歩いていくためにも、今は強く引っぱっていく人が必要です
リホ「…………わかったょ……ズズッ」
パイ「……………」コクッ
ヨシノ「行くの……」
ユリカ「ありがとう……みんなで助け合っていきましょう」
本当に強いお姉ちゃんです
みんながみんな血の繋がりがあるわけじゃないらしいですけど、もうそんなの関係ありません
この9人はお互いが大切な家族です
花陽「9人……」
なんとなく頭によぎるその言葉に不思議な安堵感がありました
大丈夫だって思える根拠なんてありませんが、それでも言葉にすることで何かがかわる予感がします
花陽「この9人なら、きっと大丈夫……」
……と、気持ちを鼓舞していざ出発!とは簡単にいかないのが現実なのです
ユリカ「これも……スズ、こっち持てる?」ゴソッ
スズ「んしょ…ふう、なんとか……」ズシ…
アイナ「嵩張ってしょうがないね」ガチャガチャ…
アヤ「でも必要なものにはかわりないよ」
リホ「ソラ兄がんばれ〜」
ソラ「んぐぐ……これくらい…っ!」グググ…
エミ「さすがに多すぎじゃ……」
ヨシノ「ソラ兄ならだいじょうぶ〜」
パイ「ぱいもお手伝いするー」
花陽「……はは」
目的地となる東の国「ユーディクス」までの移動手段は、ずばり徒歩です
それも1日かけて歩けば着くような距離じゃありません。当然数日は野宿が続きます
その際に必要な簡素なキャンプ道具。道中必要な食材を確保するための狩り道具や採取道具
調理に使うお鍋やお皿。毛布、着替え、その他もろもろ全部を持ち運びしないといけません
私も荷物持ちを手伝おうとしたのですが、
ユリカ「ハナヨ様のお手を煩わせるようなことは……っ!」
スズ「私達で運べますから、大丈夫です!」
と、さらっと断られてしまい、手ぶらです
だけどソラくんもがんばってるのにそれを横目に何も持たないのは、立場がどうとか以前に気が重くなります
花陽「なので、自分のためにも必要と感じるので用意します」
ユリカ「な、なるほど……ご配慮感謝します」
-セト村周辺 東の野道
リホ「なになに、ハナヨさま〜何するの?」ヒョコッ
花陽「んーとね、みんなが楽に旅ができるように必要なものを作るんだよ」キュンッ
ヨシノ「おー」
パイ「馬車を作るのー?」
可愛い女の子達に囲まれて草むらの上にシートを敷いてのお昼ご飯タイムです
私は朝から水しか飲んでいないのでお昼はちゃんといただきたいと思います
なので、ここはしっかりと考えなくてはいけません
リホ「みんなが乗れるおっきい馬車がいいなー」
花陽「リホちゃんは馬車が好きなの〜?」ニコニコ
リホ「うん」
形状は馬車が濃厚……といってもこれだけの人数と荷物を運ぶには相当大きな馬車が必要になります
それに馬車という事は、それを引く馬も必要です。それも1頭じゃ無理でしょう
花陽「大きい馬車か……」カサッ
リホ「お絵かきするの?」
花陽「そうだよ。イメージしたものができるから、細かいところもしっかりしておかないとね」ニコニコ
パイ「ぱいもかくー」
花陽「うん、みんなで書こう」ニコニコ
ヨシノ「んっ」シャキン
大変な状況なのにそれらを忘れてしまいそうなほど楽しい時間です
凛ちゃんにそっくりなリホちゃんを見ていると昔を思い出してほっこりします
そういえば凛ちゃんとにこちゃんがアニメの事で話していた内容が……
にこ『いつも思うんだけど、馬車の中にこんだけいて、大変そうね』
凛『荷物もあるのにね』
にこ『盾やスマホだと馬車の中にも収納とかあったりするわよね』
凛『床下収納や、二階建てっていうのもあるよねー。乗ってみたい』
花陽「……………」サラサラ…
リホ「ハナヨさま、お絵かき上手〜」
花陽「ふふ、ありがとう」
よくアイドルのステージ衣装を妄想しては色々書いていたのが役に立ちました
小物とか細部にまで拘るよりも、大まかな骨組み、形状をより明確にして……
パイ「リボンつけよっ」カキカキ…
ヨシノ「羽も」シュバッ
リホ「あはは、変なの〜」
花陽(馬車というより、花籠のようなものになってる……)
ユリカ「みんな、お昼ご飯の用意できたわよ」
リホ「は〜い」
パイ「ハナヨさま、ごはんですっ」
花陽「あ、私は後でいただくから、みんなで先に食べてね」
ヨシノ「食べないのー?」
リホ「一緒に食べようよー」グイグイ
ああもう、可愛い……
ユリカ「これ、ハナヨ様のお仕事の邪魔しないの」
リホ「おしごとちゅー?」
花陽「そんなに時間かからないし、気にしないでみんな先にどうぞ〜」
パイ「ふに、じゃまはしたくないの…」トテテ…
みんなと少し離れた場所でさっそく出来上がったイメージ画を構築してみます
構造の基礎は馬車……だけど丈夫なのがいいので、枠組みを映画にでてくる鉄の戦車のような……
車輪も同様に…本体が大きくなるので1つ1つを大きく……
花陽「んー……」
大人数だから横幅よりも縦に広げて、二階部分も同様のスペースを……
花陽「あ……」ピタッ
よくよく考えると、これ大きいキャンピングカーですね。お家と車がくっついたやつ
ベースはそっちのほうがイメージしやすいかな……でもそのまま車を作っても燃料も免許もないし動かせない…
花陽「ということは、前面を馬車のような馬が引く形で……」
……できました!
花陽「っと、このへんにリボンと羽を……よし……」
花陽「それではやってみましょう……このイメージ画を元に……」スゥ…
これが上手くいけば他にも使い道ができそうです
花陽「すいません、隣の者ですが……「私がイメージする馬車」はありませんか?」
シュウゥゥゥゥ…… ピカァァン
花陽「わっ」
手にした画用紙が輝きだしたかと思うと、光になって浮かびあがる
光はゆっくりと回転しながらその大きさをどんどん変化させていきます
花陽「……って、え、え!?」
大きくなっていきます……光が……何かを形作って……
花陽「………………」
馬車が完成しました……形は私のほぼイメージ通り……だけど……
花陽「お、大きい……」
大きいです……とても……え、というかこれ……
ユリカ「ハナヨ様!」タタッ
スズ「今の光は……って、これは…」
アイナ「わあ、すっごい!」
アヤ「え、なにこれ?」
花陽「ええっと……馬車……なんですけど……」
リホ「わあすごーい、お家だ〜」
パイ「どこから持ってきたの〜?」
ソラ「すげー……」
みんなが驚いています
私も驚いています……
確かに馬車……のようなものは完成しました
しかしその大きさたるや……ほとんど一軒家です、お家です
ヨシノ「あ、羽がついてるっ」
エミ「すごい……」
花陽「あれーー?」
イメージ通りの形状にはなりましたが、なぜかイメージよりも3,4倍大きくなってしまいました
もう馬車というより車輪がついた動く家です。キャンピングカーと言えなくもないですが…
ユリカ「ハナヨ様、これは一体……」
花陽「みんなで移動するのにあったら便利だろうなっていう考えで出来た馬車です」
ユリカ「馬車……ですか……馬車……?」
スズ「おっきい鉄の箱に見えないことも……これどこから乗るんですか?」
花陽「横にあるドアからです」
リホ「すごーい! ハナヨさま、乗っていい?」
花陽「いいよー。変な構造になってないといいけど…」
パイ「のる〜!」タタタ…
ヨシノ「羽〜〜」タタタッ
ユリカ「これ、まだご飯の途中なのに…もうっ」
花陽「ふふ、まあいいじゃないですか」
正直私も内装を見てみたいとは思います
ソラ「…………」ソワソワ…
アヤ「ソラも行ってくれば?」
ソラ「っ……んんー…」ジ…
花陽「ん?」
ソラ「………」
花陽「ソラくんも、見てきていいよ」
ソラ「ぅ………ん」コクッ タタタ…
なんだか初めてコミュニケーションがとれた気がします
ユリカ「……………」ソワソワ…
花陽「……………」
可愛い人だなぁ……
花陽「ユリカさんもどうぞ遠慮せず」
ユリカ「あ、ああ、あの子達があちこち壊さないか見てきますねっ」ピクッ
花陽「まぁ、少し大きいけど成功かな?」
スズ「はぁ……すごいですけど、こんなのを引く馬なんているんですか?」
花陽「あ………」ピタッ
そうでした。ここまで大きいと馬も1,2頭ではとても足りません
予定としては馬車にスキル1回、馬に1回と考えていたのでこれはミスりました
スズ「ちなみに私は無理そうです」
花陽「いや、さすがに人力は考慮してないです……」
んー……馬、何頭くらい必要なんだろう?
スキルの残り使用回数で足りるかなぁ……
ガチャッ バタン
リホ「すごーい、外にでれるよー!」
ユリカ「屋上があるんですね。あぁ、洗濯物をここで干したりできるかな?」
パイ「おひるねできるね」
花陽「あぁ、喜んでくれてる……」
スズ「車輪はついていますし、なんとか引けないですかねぇ」
花陽「とにかく1頭、用意してみます」
馬……馬車馬……この場合私の知ってる馬でいいのかな?
えっと、この落ちてる石ころでいいかな
花陽「すいません、隣の者ですが……「立派な馬車馬」はありませんか?」
ピカッ シュウウウゥゥ…
スズ「おおっ…光が……変わっていく……」
花陽「立派な馬ならなんとか……」
「ブルルルっ……」ザッ
花陽「わぁ、おっきい」
スズ「立派な馬ですね、ハナヨ様」
花陽「はい、これならいけるかも……っ!」グッ
ピピッ
――スキル「アルパカマスター」が発動しました
花陽「ん?」
スズ「スキル!? ハナヨ様のですか?」
花陽「あ、たぶん……えっ?」
シュウゥゥゥゥゥ…… ギュイーン
花陽「あれ、お馬さんが光って……」
スズ「ま、また何か変化するんですか?」
花陽「し、知らないですっ…どういう事……!?」
…ゥゥゥゥゥン キラキラキラ…
スズ「こ、これは…っ!」
花陽「あ、ああ……これって……」
「ヴェェッ…」ザッ
花陽「お馬さんが‥‥…アルパカになっちゃったーー!!」
隣人の要求がご飯どころじゃない…
チート感ゴリゴリで好きよ 見てるよー
にこちゃんが盾とかスマホとか言っててなんか笑ってしまう スズ「ハナヨ様……この生き物はいったい…?」
花陽「あ、アルパカさんはこの世界にはいないんですね…えっと……」
「ヴェェッ」
花陽「えっと……モフモフで、フワフワの愛らしい動物です」
スズ「馬が変化したように見えましたが、もしかして馬車を引くことに長けた動物なのですか?」
花陽「んー……正直馬と比べると……そもそもラクダ科の草食動物だから馬車を引くなんてことは…」
「フェー…」サワサワ
スズ「ハナヨ様に懐いていますね。可愛い…」
花陽「はわ、この感触ひさしぶりです……んっ?」スゥゥゥ…
あれ、またこの感覚……頭に何かイメージが流れ込んできます
もしかしてさっき発動したスキルと関係あるのでしょうか?
花陽「……………」
きっかけはわかりませんが、スキル「アルパカマスター」が発動したことで別のスキルも解放されたようです
頭に流れてきたイメージはアルパカさんのステータスを調整、設定できるスキル
花陽「アルパカクリエイト……」スッ
スズ「ん?」
花陽「どうやらこのアルパカさんに馬車を引いてもらえそうです」
スズ「え、1頭でですか?」
花陽「はい。ちょっとやってみます…」
「フェェェ…」
イメージとして流れ込んできたのは、スキルボードと同じように展開させる感覚……
ヴォンッ
――「アルパカクリエイト」
・アルパカマスタリー
・能力向上
・言語設定
・交配設定
・戦闘技能設定
花陽「色々あるなぁ……言語?」ピツ
・言語設定 -現地標準語 -マスター同期 -オート設定
スズ「なんだか見た事のない記号……文字ですか、これ?」
花陽「え……あ、そういえば日本語だ。私に合わせてくれてるのかな?」
スズ「ハナヨ様の国で使われている文字でしたか。複雑そうですね……」
花陽「見慣れないと漢字とかややこしそうですもんね。えっと…」
言語って、アルパカが話す……なんてことになるのかな?
まさかね……えっと、オートにしてみよう
ピッ
花陽「……………」ジー
「あら、話せるようになったわ。ありがとう」
花陽「ぴゃあっ!?」ビクッ
スズ「し、しゃべった!?」
「そんなに驚かないでよー。あなたが設定してくれたのよ?」
花陽「は、はぁ……」
もう些細な事じゃ驚かないなんて思っていてもさすがに驚きます
アルパカの飼育係だった時も、確かにお話しできたら楽しいな〜なんて考えていましたけど
「よろしくね花陽ちゃん」
花陽「私の名前、知ってるんですね」
「そりゃーね、私を生み出してくれたお母さんだもの」
花陽「おか……ぁぅ……」
スズ「さすがハナヨ様です。こんな愛らしい動物を創造なされるなんて…」
「んふ、ありがとっ」キュピンッ
花陽「それで、あなたは……えっと……名前はなんていうの?」
「名前はまだないわ。花陽ちゃんがつけてくれない?」
花陽「わ、私ですか……んー」
「可愛い名前お願いね」
花陽「そ、そんなプレッシャーかけないでください……」
リホ「わー、なにこの子〜!」タタッ
パイ「おっきいの〜」
ヨシノ「うま……じゃないの、なにー?」
スズ「ハナヨ様が創造されたのよ」
花陽「創造というよりも、なんか勝手にできたというか……」
「まぁ、可愛い子達ね〜。よろしくね」
リホ「おー、しゃべるー!」
ヨシノ「フワフワだ〜」モフモフ
パイ「わ〜い、ふっかふか〜♪」ボフン
「うふふ」
子供達がもう気に入ったのか、アルパカさんの背中に飛び乗ってはしゃいでいます
そうだ、どうせなら……
花陽「ねえみんな、この子にステキなお名前をつけてくれませんか?」
「あら、花陽ちゃんたら〜」
リホ「お名前?」
パイ「つけるー」
ヨシノ「まおう!」
リホ「それはないよヨシノちゃん」
ヨシノ「っ!?」
パイ「あなたはおとこのこ? おんなのこ?」
「私は女の子よー」
パイ「じゃあねぇ、すっごくフワフワだから、すわわ!」
スズ「略すところがおかしいわよ」
リホ「フワフワならそのまま、フワでいいんじゃない?」
パイ「それもまぁアリね」
ヨシノ「……まおう」
「ふふ、可愛い名前ね」
リホ「じゃああなたのお名前はフワ!」
フワ「ありがとう。気に入ったわ」
アルパカさんもとい、フワちゃんが旅の仲間に加わりましたっ!
花陽「えっと、これでいけそう?」ピッ
・能力向上 -STR 999 ↑
フワ「わぁ、すっごい力が湧き上がってくるわ! これなら馬車を引くのなんてお安い御用よ!」
カチャカチャ
アイナ「フワさん、手綱はこんな感じでいい?」
フワ「ん、ちょっと緩いかも。もう少し強めに取り付けてくれてもいいわよぉ」
アイナ「わかった。苦しかったら言ってね」
フワ「ありがと、アイナちゃん」
みんなにフワちゃんを紹介し、この大きな家のごとき馬車を引いてもらう準備をします
なぜかその口調、雰囲気から大人の女性を連想させるのか、一部からはフワさんと呼ばれています
ユリカ「ハナヨ様、フワさんとは会話ができますから馭者は必要ありませんか?」
花陽「あー……そうですね。いちおう形状として席はありますが」
フワ「それならただ引いて歩くだけじゃ退屈しちゃうから、誰かお話し相手になって欲しいかな」
花陽「それなら大丈夫そうですね」
ユリカ「みんな荷物はちゃんと積み込んだわね?」
スズ「大丈夫です」
アヤ「全部積み込めるなんていいわねー」
ソラ「楽になった」
エミ「……………」
アイナ「エミちゃんどうしたの? 忘れ物?」
エミ「いえ、ただちょっと……すごいなって思って……」
アイナ「ハナヨ様?」
エミ「はい……。あれが勇者様のお力なのですね」
アイナ「わたしは勇者がどういうものかいまいちピンとこないけど、すごいなってのはわかるよ」
エミ「………あの力があれば」ボソッ
アイナ「ん、なに?」
エミ「なんでもありません。さ、行きましょう」
花陽「ユリカさん、旅をするのに今必要なものは他に何かありますか?」
ユリカ「そうですね……食料問題はもう少しするとでてきそうです。いまのところは大丈夫ですが」
花陽「取り敢えず今すぐというのはないんですね?」
ユリカ「はい。ハナヨ様のおかげで移動の問題も改善されましたから…」
花陽「じゃあ、もういいですね……」ゴクッ
ユリカ「……?」
花陽「お腹すきました〜ご飯ください〜!」
ユリカ「あああ、す、すぐにご用意します〜!!」
こうして私達の旅は馬車と馬……あらためアルパカのフワちゃんを手に入れ、快適に進むのでした
>>233
加減を一切知らないかよちん好きwww
この馬車狭い道だと木々をなぎ倒しながら進むよな イメージを形にするというのは本当によくわからない部分が多々あります
アヤ「おお、すごい便利です……」ジーン
花陽「………どうして?」
馬車もとい動く大きな家……1階にはダイニングキッチンがあり、トレイもお風呂もあります
一番驚くべきことは、私のイメージがそのまま直結してできているということです
アヤ「このガスコンロ……というのは無限に火がでるのですか!?」
花陽「でてますねー……ほんとにどうして?」
アヤ「とにかく、これはお料理するのにもとても助かります!」
花陽「それは楽しみです」
イメージはしました。だけど連想するものが馬車=キャンピングカー=大きな家となり、設備も完備
しかしその構造は私自身にはよくわかっていないものばかりです
なのにしっかりと機能しているのはなぜ?
-馬車外 馭者席
花陽「それが私のイメージ……ですか?」
フワ「そうなるかしらね。花陽ちゃんが思い描くものを作り出したとして、どこまでイメージしてる?」
花陽「えっと……キャンピングカーとかは、車と家がくっついた便利な乗り物で、家だったら台所やトイレもあって…」
フワ「そこね」
花陽「え…どこですか?」
フワ「家にあるものとして、水で流せる水洗トイレやお風呂、ガスで火が付くガスコンロ」
花陽「それは、まぁ……」
フワ「でも頭でイメージする時って、ガス管を通してガスをコンロ台で着火して火を起こす、なんて考えないでしょ?」
花陽「そう……ですね。お風呂やトイレも、あったらあったで、水を使うのは当然ですし…」
フワ「要はその部分を一纏めにして形にしたから今のような事になってるんじゃないかしら?」
フワちゃんが言うとことはつまり、
私がイメージしたお家が、ガスコンロは火がつくもの、お風呂なども水がでて当たり前の物としたからだと
つくづくデタラメなスキルだなと思います「隣の観測者」
花陽「それにしてもフワちゃんは物知りですね」
フワ「ふふ、だてに長く生きてないわよ」
私もフワさんと呼ぼうかな?
ソラ「いいって、風呂くらい一人で入れるよっ!」ジタバタ
アヤ「そう言っていつも頭洗わないでしょ、ダメよー」グイ
リホ「いいお湯でした!」シュタッ
パイ「しゃわー? きもちいー」ホカホカ
ヨシノ「おふろ……好き」ポワポワ
ユリカ「気持ちいいわねー。こんなものがあるなんて、ハナヨ様に感謝です」
花陽「………………」
アイナ「このスイセントイレってすごいわね、不思議な空間に水で流すなんて」
スズ「どこへ流れているのでしょうか?」
ほんとにどこへ繋がってるんですかね。お風呂もそうですが……
これもきっとイメージとして、私が知らないから……どこかに流れていくというイメージの形ですよね
リホ「フワちゃ〜ん、あそぼ〜」
フワ「んー、そうねぇ。ユリカちゃーん」
ユリカ「あ、はいっなんでしょうか?」サッ
フワ「今日はもう陽も落ちるし、移動はここくらいでいいかしら? 私夜道って苦手なのよ」
ユリカ「そうですね。それでは今日はこのへんで野宿……はしなくていいんですね」
フワ「ちょっとその辺の草でも食べてくるから、手綱はずしてくれる?」
ユリカ「わかりました。今日はありがとうございました」カチャッ
フワ「お安い御用よ。花陽ちゃんのおかげで力仕事は余裕だし」
ユリカ「さすがハナヨ様ですっ」
フワ「リホちゃん、ちょっとお散歩に行く?」
リホ「行く〜」ボフッ
花陽「……………」
フワちゃんのコミュ力、すごいです……
-夜 馬車内二階
二階部分は部屋がいくつかありましたが、その一つにだけ大きなベッドが置いてありました
ユリカさん達にはこれが珍しいのか、その寝心地を堪能しています
さすがに9人全員は寝れないので日替わりにするそうです
当然のようにユリカさんはベッドには私をと言ってくれましたが、私は慣れているので後回しにしてもらいました
ユリカ「スー…グゥー……」
リホ「ふにゅ……」Zz…
パイ「しゅぴー…しゅぴー…」
ヨシノ「………………フニッ」
エミ「…………スゥ……スゥ…」
花陽「みんな可愛い寝顔」クスッ
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