ことり「ゴースト」
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ことの発端は穴に入った事だ。
私は下校中に猫を見掛けて追いかけた。
猫は好きだけど、追いかけて愛でる程じゃない。
この猫は私を見てにゃあの一声鳴き、アスファルトの上を優雅に歩いた。
私はその猫に呼ばれたかのように感じ、後を付いて行った。
立ち止まり、先を行く猫は足を止め振り向き私に、にゃあと鳴く。
私はまた立ち止まり先を行く猫はにゃあと鳴く。
猫が私をどこかへと連れて行きたいらしい。
そう確信したのはこれを何度か繰り返してからだった。
ことり「ねぇ、私をどこに案内したいの?」
猫に人間の言葉は分からない。
にゃあ。
けれども、猫はまるで私の言葉を分かっているかのようにそう鳴いてみせた。
私には猫語は分からない。
だけど、私も猫の言葉を理解しているかのように後を追った。 しばらく後を追っていると、猫は空き家へと入って行った。
いや、もしかしたら空き家ではないかも知れない。
私が想像する空き家は窓が割れていて草も生え放題で屋根の瓦は所々剥がれている。
猫が入った空き家は私が想像する想像通りの空き家だったが、もしかしたらここにはまだ人が住んでるのかもしれない。
もし人が住んでいて私が不法侵入してるの見付かったら私は警察のお世話になるかもしれない。
それにこんな家に住んでる人はひょっとすると危ない人かも知れない。
殺人を犯し、隠れ家としてここに隠れていて、あの猫はその殺人犯が芸を仕込んだ猫で私をここへ誘い込み金銭を要求されるかもしれない。
それか、殺されてしまい殺人鬼の殺人リストに私の名前が刻まれるなんて事もあり得なくもない。
あれこれ考えているうちに家の中からにゃあと声がした。 恐る恐る戸を開けて中を見る。
人の気配は無い。
見えるのはわたしを見ている猫と荒れた廊下だ。
壁には張り紙が所狭しとしてあり、書いてる文字は神よ我を救いたまえ。
全部が全部そう書いていた。
しかも、赤字で・・・。
こんな家、まともじゃない。
私はすぐに帰りたかった。
猫が私を呼び、案内して行き着いた先が誰がどう見てもまともじゃない家。
この時点で私は死ぬほど怖かった。
と同時にこの状況は不思議の国のアリスに似ていると感じた。
メルヘンチックな童話の世界は必ずと言っていいほど不気味な場面が必ずある。
私は今、それを体験しているの? 猫はまたにゃあと鳴いた。
入れとでも言っているのだろうか?
絶対入りたくなかった。
事の発端は穴に入った事だ。
いつの間にか猫はと私の間に私が一人ようやく入る黒い穴がポツンと空いていた。
こんな事普通は絶対あり得ない。
猫がもう一度にゃあと鳴く。
ことり「ここに入るの?」
猫はコクリと頷く。
見間違いじゃない、確かに私の言葉を理解している。
絶対に入らない。
私は決心して、この場から逃げる事にした。
踵を返し、走り出す。
足は地面を蹴らず、何も蹴らず、片足は宙を切り。
私の体も宙に舞う。
いや、落ちる。
私が逃げ出そうとした先、いつの間に穴が出来てて私はそれに気付かず穴に落ちて行く。
落ちて行く。 体感で1分程落ちてたと思う。
1分落ちるって高さはどれくらいあるんだろう?
走馬灯を見るには長すぎる時間を過ごし、私は穴の底へふわりと着地した。
死んだと思ってたのに死ななかったのと、もはや現実を超越したこの状況に頭が付いて行かない。
辺りはただ真っ白な部屋。
上を見ても私が落ち来た穴は無かった。
ただ、何か降って来ている。
赤橙黄緑青藍紫。
虹のように様々な鮮やかな色を輝かせ、降ってくるのはカラービーズ。
色が色を反射し、また別の色を輝かせる。
キラキラと光り、ヒラリヒラリと舞うように落ちて行く。
私はただそれを見ていて、綺麗だなと見惚れていた。
赤色のビーズが私の頬に落ちる。
頬に濡れた感触。
緑色のビーズが広げていた手のひらに落ちる。
濡れた感触。
私がカラービーズだと思った物は様々な色の雨だった。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています