理亞「ルビィ..絶対助けにいくからね..」chapter3
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理亞「花丸!?どうしたの大丈夫!?」
花丸「あ..足が..」
理亞「ヒッ!」
花丸の足にボウガンの矢が突き刺さり、矢が刺さった場所から血液がボタボタと滴り落ち、床の木目に赤い液体が伝うように流れて行った
理亞「は..花丸!!」
花丸「痛い..う..動けない..」
痛みに顔を歪める花丸をあざ笑うかのように..暗闇を切り裂いて銀色の矢が飛来し..
狙いを大きく外れた矢は廊下を風のように飛び去ってゆき..奥の壁にドガッ!!という大きな音を立てて突き刺さった 花丸「理亞ちゃん逃げて!!」
理亞「バカなこと言ってんじゃないわよ!!さあ早くこの手に捕まって!!」
花丸「理亞ちゃ..わッ!」
理亞は花丸の腕を掴むと渾身の力で引っ張り、教室の中へと引き寄せた
??「.......」
カチャン..ドシュッ!!
襲撃者はボウガンを構えると理亞達目がけて矢を撃ち放った
理亞「くっ!!」
花丸を教室の中に引っ張りいれたと同時に、床に銀色のアンテナが生えるように突き刺さった 花丸「理亞ちゃん..」
理亞「大丈夫..今矢を抜いてあげるから..」
理亞は花丸の太ももに突き刺さった矢を掴み、思い切り引き抜いた
花丸「アグッ!!」
アーチを描くように花丸の足から血が飛び散り、理亞の頬に雨水が飛び散るように血が付着した
理亞(よかった..思ったより傷は深くない..早く手当しないと..でも今はそれより..!!)
理亞「花丸逃げるわよ!!私の肩につかまって!!」 花丸「マルに構ってたら理亞ちゃんまで殺されちゃうよ..マルのことはいいから一人で逃げて!!」
理亞「何言ってんの!アンタを置いて逃げられるわけないでしょ!?さあ早く!ヤツが来る前に早く!!」
理亞は花丸の腕を自分の肩に強引に巻きつけ、力づくで花丸を立ち上がらせた
花丸「ウッ!」
理亞「後で手当てするから..逃げるよ!」
花丸に肩を貸した状態で二人はベランダまで歩き、扉を開け放った..
夜風の心地よい冷たさが理亞の頬を弄ったとほぼ同時に..窓ガラスにボウガンの矢が突き刺さった
理亞「ヒッ..!」
ガシャーンという窓ガラスが粉々に砕け散る音が鳴り響き..粉々に砕け散ったガラス片がシャワーのように飛び散った 襲撃者は教室の出入り口にピストルクロスボウと呼ばれる、連射能力に秀でたボウガンを構えて立っており..獲物の様子を伺うように..理亞と花丸を見つめていた
理亞「なんなのよアンタ!!私たちが何をしたって言うのよ!?」
理亞は敵をキッと睨みつけ、腹の底から大声を出して怒鳴りつけた。
襲撃者は理亞の問いに応えることなく、淡々とした手つきでボウガンに矢を装填する作業に取り掛かる
教室の中に矢を継げ変える無機質な金属音が鳴り響いた
花丸「理亞ちゃん逃げよう!!話の通じる相手じゃないずら!」
理亞「クッ!しっかりつかまってなさいよ!!」 理亞は花丸を肩に担ぎ上げると校庭目がけて全力で駆けた。襲撃者は矢をボウガンに装填すると、理亞の背中目がけて矢を射出した
バシッ!という大きな音の後に夜の闇を切り裂くように矢が飛来する..幸いにも矢は理亞達に刺さることはなく、グラウンドの土に生えるように突き刺さった
花丸「ウッ..痛い..」
理亞「我慢しなさい..どこか安全なところに身を隠さないと!!」
理亞は後ろを振り返り襲撃者の様子を伺うも、襲撃者はベランダに立ち尽くし、2人を追うようなそぶりは見せなかった 理亞は花丸を背中におぶってしばらく走り続け..プールサイドの側にやってきた
理亞「はぁ..はぁ..大分走ったけど..どうやら巻いたみたいね..少しだけここで休みましょう..花丸足を見せて」
花丸「うん..」
花丸はおずおずと理亞に足を差し出す..血液から発する鉄の匂いが理亞の鼻を突き、わずかに吐き気が込み上げてくるのを感じた。
理亞「フッ..」
理亞は自分のスカートのすそを僅かに破くと、包帯代わりに花丸の足に巻きつけて止血を施した
理亞(これでよし...でも応急処置にしかなってない..早く医者のところに花丸を連れて行かないと) 理亞はポケットの中の携帯電話を取り出すも..山の中に位置する校舎の中ではアンテナは立たず、圏外とだけ表示されていた
理亞「花丸!アンタの携帯貸して!!」
花丸「ごめん..携帯持ってきてないずら」
理亞「なんですって!クッ..こんなときに..」
苛立ちを発散させるように舌打ちをした後理亞は思考にふける
理亞(どうする..私一人で町まで逃げて助けを呼んでくる?イヤ、ダメだ..私が助けを呼びに行く間に花丸にもしものことがあったら..)
理亞(私たちがいないことに気が付いたダイヤが探しに来てくれるのを待つ..これもダメだ..ダイヤに行先を告げずにここに来ちゃったから..そもそもダイヤは私たちが浦の星女学院に来ていることを知らない..)
理亞(クソッ!どうすれば..どうすればいいんだ!!) 花丸「理..理亞ちゃん!!」
理亞が必死に善後策を練るために頭を働かせていると..花丸の恐怖に上ずった声を上げた
理亞「え?なに?どうしたの?」
ドシュ..ビイイ〜〜ンンン..
理亞「な..!!」
理亞の顔のすぐ横に位置する壁に..ボウガンの矢が深々と突き刺さり、小刻みに震える弓矢の羽が理亞の頬をくすぐった
理亞「あ..あ..」
理亞は恐怖に目を大きく見開き..真横の壁に突き刺さった矢を呆けたように見つめた 花丸「あわわわ..も、もう来たずら!!」
理亞「なんで!?どうして私たちがここに逃げ込んだってわかって..ハッ!!」
月明かりがプールサイドを薄く照らし出し..花丸から流れ出た血痕が道しるべのようにコンクリートの上に点在しているのに理亞は気が付いた
理亞(クッ!花丸の血痕を辿ってきたのか..こんなことに気が付かなかったなんて!!)
襲撃者は矢を取り換えて再び理亞に狙いを定め..ボウガンの引き金を弾いた
ドシュッという音の直後、銀色の弓矢が疾風のごとく理亞目がけて飛来する..
理亞「わああ!!」
理亞は腰を抜かしてしまい、地面にへたり込んでしまう..
ボウガンの矢は理亞の顔面があった場所に突き刺さり、壁の粉末がパラパラと理亞の頭に降り注いだ 襲撃者は矢が外れたことに特に反応を示すこともなく..淡々とボウガンに矢を装填する作業に取り掛かった
理亞(姉さま..姉さま助けて!!)
理亞は想像の中の聖良に縋った..
いつも明るく優しい姉聖良..弱きを助け強きを挫く..どんな相手にも果敢に立ち向かっていく理想の姉..
幼いころ..人見知りが激しくイジメられていた理亞を助けてくれた姉の姿が脳裏に浮かんできた せいら「もう大丈夫よ..あなたを虐めていた子達は私がやっつけてあげたから..」
りあ「ひっぐ..ひっぐ..」
せいら「もう..泣かないの..私の妹なんだからめそめそしないの!」
りあ「姉さま..ありがとう..」
幼き日の理亞がお礼を言うと聖良は苦笑し、肩をすくめた
りあ「ねえ..姉さま..」
せいら「な〜に?りあ?」
りあ「姉さまは..どうしてそんなに強いの?」 せいら「鍛えているからね..そんじょそこらの奴相手になら負けないわ」
りあ「姉さまは..怖くないの?相手はあんなに大勢いたんだよ?」
せいら「怖くないって言ったら..ウソになるわ 私だって人間だもの..傷つくのは怖いし、痛いのはイヤよ」
りあ「じゃあどうして?どうして姉さまはどんな相手にも立ち向かっていけるの?」
せいら「大切な人を守るため..だからね」
りあ「守る?」
せいら「そう..りあは私にとって大切な人だから..たとえ相手が誰であろうと..何人だろうと..りあの為だったら立ち向かっていくことができるの」
りあ「私も..鍛えれば姉さまみたいになれる?」 せいら「あなたは鍛えなくてもいいわよ..いざとなったら私が駆けつけて守ってあげるから」
りあ「...やだ」
弱い自分が嫌だった..いつも泣いてばかりでメソメソして..そんな自分を..変えたかったんだ
せいら「りあ?」
りあ「私も姉さまみたいになりたい!!姉さまは私の憧れ..いつか私も姉さまみたいになって..姉さまを守ってあげられるようになりたい!!」
せいら「りあ..」
りあ「これからは私も姉さまと一緒に特訓する!!」
せいら「わかった..これからは私があなたをみっちりと鍛え抜いてあげる..」
りあ「うん!早く強くなって..私も姉さまや誰かを守ってあげられるようになるの!!」 そうだ..私はあの日誓ったんじゃないか..もうメソメソ泣かない..強くなって姉さまや大切な人を守れるような強い人間になるんだって..
矢の装填を終えた襲撃者は理亞目がけてボウガンの矛先を向けた
理亞(私が殺されたら次は花丸が殺される..守るんだ..私の大切な友達を..守って見せる!!)
ドシュッ!という鈍い音の直後に銀色の弓矢が理亞目がけて高速で飛来する..
アドレナリンが脳内に分泌された理亞にとって、飛んでくる矢はコマ送りのスローモーションのように見えた
心臓目がけて飛来する矢を理亞は紙一重で交わし、矢は壁に突き刺さった 理亞「守る..私は..友達を守って見せる!お前なんかにやられてたまるか!!」
矢を回避されたことで襲撃者に僅かな戸惑いが生じるも、理亞を抹殺すべく次の矢を装填する作業に取り掛かった
花丸「理亞ちゃん逃げて!!」
理亞「逃げない!私は絶対に友達を見捨てない!!」
理亞は壁に突き刺さったボウガンの矢を掴むと思い切り引っこ抜く..
襲撃者も矢の装填作業を終え、再び理亞目がけてボウガンの狙いを定めた
理亞「せいッ!!」
理亞は体を捻ると襲撃者目がけて矢を投げ放つ..それとほぼ同じタイミングでボウガンが撃ちだされるドシュっという鈍い音がプールサイドに響き渡った 理亞「ッ..!」
ボウガンの矢は理亞の頬を掠め、一筋の血液がツッ..と頬を流れた
ガシャン..!という固いコンクリートの上に金属を落とす音が鳴り響く..
理亞の投げた矢は襲撃者の肩に突き刺さり、敵は肩に刺さった矢の痛みでボウガンを取り落した
理亞「ヤッタ..」
黒いローブから赤い血液がコンクリートの上に滴り落ちる..襲撃者はボウガンを拾い上げると走りだし、プールサイドから逃げ去っていった 花丸「理亞ちゃん..すごい..」
理亞「た..助かった..」
敵の撃退に成功し、自分と花丸を守ることができたことに安心した理亞はヘナヘナとその場に崩れ落ちた
花丸「理亞ちゃん!血が出てるずら!」
理亞「あ..本当だ..かすり傷だから大丈夫よ」
花丸「ダメずら!ジッとしてて!」
花丸は足の痛みをこらえて立ち上がると、乾いたハンカチを取り出し理亞の頬にあてがった 理亞「ありがとう..アンタも大丈夫?」
花丸「さっきよりは痛みも軽くなって来たずら..心配かけてごめんね?」
理亞「よかった..ねえ、今の..ボウガンで私たちを襲ってきた奴..何者なの?」
花丸「わからない..あんな恐ろしい人見たことないよ..」
理亞「ルビィの失踪にアイツが関わっていると思う?」
花丸「もしかしたら..そうなのかも..考えたくないけど」
理亞「またアイツが来るかもしれないから..ここを離れよう..立てる?」
花丸「うん..」 理亞「とにかく人がいるところまで非難するわよ..町まで歩けるかしら?」
花丸「大丈夫..心配いらないずら..早くここから逃げよう!」
理亞は花丸に肩を貸して立ち上がらせ、2人は校門を目指して歩き出した
花丸「フウ..フウ..」
理亞「花丸..大丈夫?ペース早かったら言ってね?」
花丸「うん..大丈夫だよ..それにしても..理亞ちゃんさっきはすごかったね..矢を投げてボウガンの人を追い払っちゃうなんて..」
理亞「別に..さっきは夢中だったから..それに..姉さまだったらああするんじゃないかって..」
花丸「聖良さんが?」 理亞「うん..ウチの姉さま..ものすごくケンカが強いんだ..人見知りの激しい私は..昔から意地の悪い奴にからかわれたり..いじめられたりすることがあって..そのたびに姉さまが助けてくれたの」
花丸「聖良さんが..妹思いの良いお姉さんだね」
理亞「ええ..自慢の姉よ..さっきも姉さま助けて!!って思ったら..昔姉さまが私を助けてくれたときのことが頭に浮かんできて..姉さまだったら誰かを守るために戦うんだろうなって..それで..」
花丸「さっきは守ってくれてありがとう..こうしてマルが生きていられるのは理亞ちゃんのおかげだよ」
理亞「べ..別に..私は..//」
人から感謝されたことが少ない理亞は頬を赤らめて顔を背けた 花丸「あ!理亞ちゃん赤くなってる! 暗くてもよくわかるずら!!」
理亞「あ、赤くなんてなってない!!」
花丸「照れちゃってかわいいずら」
理亞「バカにしてんの?ここに置いてくわよ?」
花丸「ずら!?じょ..冗談キツイずら!!謝るから勘弁してほしいずら〜!」
理亞「それより..早くここから逃げて警察をって..待って..校門の前に何かいる..」
花丸「え?」 グルルル..グルルルルルル...バウ!!ワンワン!!
真っ暗な校門の前に..一頭の大型犬が門番のように待機していて..理亞と花丸目がけて大きく吠えまくってきた
花丸「え?ちょ、ちょっとなんずらこの犬!?お願いだからそんなにほえないでずら!!」
ワンワンワンワン!!ワオオオオオオ〜〜ンン!!
大型犬は2人目がけて跳びかかってきて、校門をぶち破らんばかりの勢いで吠えまくった
理亞(クッまずい!こんなに大きな声で吠えられたらさっきのボウガンの奴に居場所を知られちゃうじゃない!!それに私一人だったらともかく..ケガをした花丸を連れてこんな凶暴な犬がいる夜道は危険すぎる!!) ワン!!ワンワン!!ワンワン!!
花丸「やめて!!そんなにほえないで!イイ子だから大人しくして!!」
理亞「花丸!ここは危険だから校舎の中に戻るわよ!!」
花丸「え?ち、ちょっと理亞ちゃん!?」
理亞は花丸を担ぎ上げると校門に背を向けて走り出し、校舎の中へと非難した
理亞「なんなのよあのバカ犬!!どうしてこんなときに限ってあんな変なのが出てくるのよ!」
理亞は次から次へと降りかかる異常事態へのいら立ちを隠すことができずに、教室の壁を蹴り飛ばした
花丸「怖かったずら..まだ心臓がドキドキしてるよ..」
理亞「クソッ!あんな凶暴な犬がいるんじゃここから逃げられないじゃない!」
花丸「落ち着くずら..焦っている時ほど冷静さを保たなくちゃだめだよ..」
理亞「これが落ち着いていられるかっての..どうしよう..このままじゃ..」 花丸「ここにいたらあのボウガンの人に殺されるのも時間の問題ずら..どこか身を隠すことができる安全な場所を探そう」
理亞「安全な場所って..どこよそれ?」
花丸「それは..ト..トイレの中とか?」
理亞「絶対にイヤよ..!!アイツはトイレの中で待ち伏せしていたのよ!?それに何かあったら袋の鼠で逃げられないじゃない!!」
先ほどトイレで襲われたことがトラウマになったのか..理亞は花丸の提案を一蹴した
花丸「あう..ごめん..」
その時..廊下からギシ..ギシ..という木製の床が軋む音が聞こえてきた 理亞(まずい..誰かくる!!)
花丸(き、きっとさっきのボウガンの人がマルたちを探しに来たんだよ!!)
理亞(隠れるわよ!!こっちへ!!)
理亞は花丸を連れて教卓の中へと逃げ込んだ
ギシ..ギシ..という足音は次第に大きくなってゆき..足音は理亞達の隠れる教室へと近づいてきた
花丸(せ..狭いずら..)
理亞(し!静かに..絶対に動くんじゃない!) ギシ..ギシ..ギシ..ギシ..
そして..フードをかぶった何者かが理亞達が隠れる教室の中を覗き込んだ
??「...........」
漆黒のローブをまとった襲撃者はボウガンを手に携え..教室の中を一歩..一歩..と慎重に歩を進めながら見てまわった
花丸(〜〜〜!!)
理亞(絶対に声を出すな!!)
理亞は怯える花丸の口を両手で塞ぎ、見つからないように自分の気配を殺すことに力を注いだ
そして..襲撃者は異常がないと判断し、次の場所を探索すべく、理亞達の教室を去って廊下に出て行った.. 花丸(た..助かったずら..)
理亞(静かに..まだ奴はすぐそこにいるのよ..物音を立てたら気づかれる..)
理亞は廊下を歩き去ってゆく襲撃者の足音に注意深く耳を傾け..足音が聞こえなくなったとき..ホッと安堵の溜息を吐いた
理亞「行ったみたいね..とりあえずは大丈夫よ」
花丸「生きた心地がしなかったずら..」
理亞「ここも安全じゃないわね..奴が去った方とは反対の方に逃げるわよ..」
花丸「反対方面だったら..マルたちの部室があるずら..あそこは内側からカギをかけることができるからここよりは少し安全ずら」
理亞「そう..それじゃあそこに移動するわよ..案内をお願い」
花丸「わかったずら..」
そして二人は部室を目指し廊下を歩き出した ギシ..ギシ..
1歩..1歩と足を踏み出すごとに木製の床が軋む音がする..
理亞「ちょっと..もう少し足音静かにできないの?」
花丸「これが限界ずら..建物が古いから..どうしても床が軋むのは仕方のないことずら..」
理亞「まったく..よくこんなオンボロ校舎で勉強しているわね」
花丸「オンボロでも..ずっと通っていると愛着が沸くものなんだよ..」
理亞「アンタ達って..確かこの学校を守るためにスクールアイドル活動をしているのよね?」
花丸「うん!そうだよ..ルビィちゃんがいなくなっちゃってからは活動は休止してるけど..みんなこの学校を大切に思って活動してるんだ: 理亞「どうしてこんな辺鄙なところに立っている学校を守ろうとしているの?私は学校なんて大嫌いだから..アンタ達がなんでそんなに必死になっているのかがわからないわ」
花丸「学校が..そして..生まれ育ったこの土地が大好きだから..かな..」
理亞「内浦が..?」
花丸「内浦の人達は..みんな心が温かい人達ばかりで..マルは子供の頃から地元の人たちの優しい愛情を感じながら育って来たずら」
花丸「ホントの田舎だけど..マルは生まれ育ったこの町が大好き..内浦の人たちが大好き..」
花丸は両目を瞑り、優しい微笑みを浮かべ..慈しむように地元への愛情を語りだした 花丸「確かに校舎は古いし..海以外は何にもない田舎だけど..この学校には、今まで地元の人がたくさん通ってきて..みんながこの学校を大切にしてきたんだよ..この学校は地元の人たちの思いがいっぱい詰まっているんだ..だから..失くしたくないんだ」
理亞「ごめん..無神経なこと言った」
花丸「ううん..いいの..こんな状況じゃなかったら、理亞ちゃんを色々な場所に案内してあげたいけど..」
理亞「気持ちだけで十分よ..今はそれよりルビィの手がかりと、安全な場所を探さないと」
花丸「もうすぐ部室だよ..話していたらすぐついたね..」
花丸はスクールアイドル部の部室の扉に手をかけて..ドアを開けようとするが.. ガツン
花丸「ずら?」
理亞「ん?」
扉が開くことはなく..カギが掛かった扉が僅かに振動するだけだった
ガツン..ガツン..
2度..3度と引っ張るも結果は同じ..部室にはカギがかかっていて入れなかった
花丸「しまった..部室にはカギが掛かってたんだ..カギは千歌ちゃんが持っているから入れないずら〜〜!!」
理亞「なんですって!?」
花丸はオロオロと頭を抱え、縋るような目で理亞を顔を覗き込んだ 花丸「どうしよう..部室に入れないよぅ..」
理亞「しょうがないわね...他に安全な場所を探しましょう..」
花丸「ずら..ここからだと..図書室がいいと思うずら!」
理亞「図書室?」
花丸「図書室も中からカギが掛けられるし..隠れる場所も多いずら!」
理亞「また鍵がかかってるんじゃないでしょうね?」
花丸「大丈夫ずら!図書委員はマルだから..図書室の鍵はほら..ここにあるずら!」
花丸はポケットから図書室の鍵を取り出して理亞に見せた
理亞「図書室か..もしかしたらルビィの手がかりがあるかもしれないし..わかった..図書室に行ってみよう」 二人は目的地を図書室へと変え、学院の真っ暗な廊下を音を殺してゆっくり歩いて行った
ギシ..ギシ..
1歩..1歩と足を進めるごとに木製の床が軋む音が小さく鳴り響く
理亞「2階の廊下も軋むわね..」
花丸「校舎が全体的に古いからね..ポジティブに考えればそれだけ歴史と伝統があるんだよ..それより..真っ暗で怖いずら..」
理亞「我慢しなさい..懐中電灯で照らしたらあのボウガンの奴に居場所がバレちゃうじゃない..」
花丸「こんな暗い中であの人と遭遇したら..想像するだけで鳥肌が立つずら」 理亞「私これでも耳がいいのよ..私たち以外の足音は聞こえないから..アイツは近くにいないはずよ」
花丸「そ、そうなの?それを聞いて少しだけホッとしたよ..」
理亞「花丸..私この学校について調べたいんだけど..図書室の中にこの学校について詳しく書かれた本とかある?」
花丸「それなら..この学校の会報を読めばいいずら..マルは読んだことないけど..古いモノから新しいモノまで揃っていたと思うよ」
理亞「図書室についたら、その本のところに案内してくれる?」
花丸「わかったずら..っと..話をすれば..ほら、そこが図書室だよ」
理亞「ここが..」 2人は図書室の扉の前へとたどり着いた..灯りのついていない図書室はシン..と静まり返っていて、暗闇の中に何かが潜んでいるのではないか..という恐怖が理亞の背筋を冷たく凍らせた
花丸「開けるよ?ちょっと待ってて..」
花丸はポケットの中から図書室の鍵を取り出して、扉を静かに開けた
花丸「マルの大好きな図書室へようこそ♪」
理亞「待て..図書室の中に異変がないかをまず確認して..イスがいつもと違う場所にあるとか..モノが無くなっているとか..」
花丸「大丈夫だよ..図書室にはカギがかかっていたし、このカギはマルしか持っていないからこの図書室には誰もいないよ」
理亞「そう..」
理亞はホッと安心し、軽く溜息を吐いた 花丸「それより..カギを閉めるから早く中に入って」
理亞「あ、ごめん」
理亞は花丸に促されて図書室の中に入ると、花丸は扉を閉めて内側からカギを閉めた
花丸「これでよし.と言っても相手はボウガンを持っているから..絶対安全とは言えないけど..」
理亞「花丸..私はこの学院の歴史や成り立ちについて調べたいから..本がある場所まで案内して」
花丸「わかった..こっちだよ..」
花丸は理亞を連れて図書室の奥の棚へと案内した
理亞「この棚に..この学院の秘密が書いてある本があるかもしれないのね..」
花丸「本が古すぎて虫食いがある本もあるから..手がかりになるかどうかはわからないけどね..」 理亞は懐中電灯を取り出すと、スイッチを入れた。掌で灯りが外に漏れるのを防ぎ、本棚の背表紙に書かれたタイトルが見える程度の明かりを灯す
内浦の漁業
古代内浦の歴史
内浦の民俗学
理亞「内浦の歴史書ばかりだ..私が知りたいのはこの学校について書かれた本よ」
花丸「あれ?確かここにあったと思うんだけど..マルの記憶違いかもしれないずら..」
理亞「しっかりしてよ..」
花丸「ちょっと待ってて..他の本棚を探してくるずら」
花丸はそう言うと理亞をその場に残してさらに奥の方へと歩いて行った
理亞(それにしても..内浦の歴史や文化について書かれた本か..ちょっと興味があるかも..)
理亞は暇つぶしがてらに、内浦の民族学について書かれた本を取り出し、パラパラとページをめくった この内浦という土地には独特の風習がある..
理亞はあるページのその一文に目を引かれて、ページをめくる手を止めた
理亞(へえ..風習ね..やっぱり古い土地だからそういう習わしもあるのね..)
この内浦という土地は漁業と農業を主として生計を立てていた
かつて大規模な干ばつがこの地を襲い、作物はできず、また漁も不漁で飢饉に襲われたことがあった
理亞(飢饉って..たしか歴史で習ったわね..食べ物が取れなくて人がたくさん飢え死にすることよね..?そんな悲惨な過去が内浦にもあったなんて..)
数百名にも及ぶ餓死者が出て、この飢饉の影響で当時の内浦の人口の2割ほどが死に絶えたという..
内浦の民たちは沼津の者たちに支援を求めるも、当時の沼津も苦しい状況で他の地域を助けられるほどの余力はなかった
飢えで困窮した内浦の民は死んだモノの遺体を解体してその肉を食べた 理亞「え?」
人肉の味を占めた内浦の民たちは、次々と飢餓で死んだモノたちの遺体を解体してその身を食べることで飢饉を凌いだのだった
内浦の民たちの暴挙とも取れるこの行動を沼津の者たちは忌み嫌い、交流を閉じることで、内浦はますます孤立した
飢饉を乗り切り、全滅の危機を免れた内浦だったが、人肉の味を忘れられない内浦の者達はよそから人をさらってきて、生贄としてその身を食すという
暴挙に乗り出した
理亞「は..え?え?」 主に生贄として連れ去られるのは沼津近郊の人間が多かったため..内浦と沼津の中はさらに険悪になり、内浦のモノたちを忌み嫌う沼津の住民たちは兵を起こし、内浦と沼津の間で戦が勃発した
数で勝る沼津だったが..当時の内浦の当主を筆頭とし、結束した内浦の民たちは襲い来る沼津民たちを撃ち破り、殺した者たちの肉を食べたという逸話が残っている
現代ではもう人を食すことはほとんどないが..内浦の人間たちのDNAには食人の遺伝子が刻まれているのだろうか..数十年に1度よそからさらってきた子供を自分たちの好みの味になるように育て上げて、残虐に食い殺す生贄の儀という伝統が残っているのだ..
生贄の体を痛めつければつけるほど、肉は旨みを増すと言われ..生贄の儀に選ばれたものは凄惨な末路を遂げると言う
そして儀式が終了次第、いなかったものと扱われ、その名を2度と口にしてはいけなくなる
だから、儀式を行う際は生贄を弔うために、ひたすら哀れな贄の名前を皆で口ずさむのだ
この土地に拠点を構えられたことを私は幸せに思う..
この風習を研究してこれを....×××××××× 理亞「ここからは虫食いで読めないわ..それにしても..悪趣味だわ!これを書いた奴はとんでもない夢想家ね..現実とフィクションをごっちゃにしてるんじゃないかしら..気持ち悪くて鳥肌が..」
理亞の全身が粟立つように総毛立ち..腕に鳥肌が立つのを感じた..
手がかり一つ残さずに突然失踪したルビィ..
学校に現れて自分たちの命を狙っている謎の襲撃者..
内浦の者たちから理亞に向けられる奇妙な視線..
理亞の中で恐ろしい仮説が組みあがった
理亞(ルビィは..まさか...タ・べ・ラ・レ・タ?) ルビィちゃん..ルビィちゃん..ルビィちゃん..ルビィちゃん..ルビィちゃん..ルビィちゃん..ルビィちゃん..ルビィちゃん..
ルビィちゃん..ルビィちゃん..ルビィちゃん..ルビィちゃん..ルビィちゃん..ルビィちゃん..ルビィちゃん..ルビィちゃん..
内浦の住民たちがルビィを取り囲んで、ルビィの名前をひたすら口ずさんでいる..
泣き叫び、命乞いをするルビィを..バラバラに切り刻み..そして..
ピギャアアアアアアアアアアアアアアアア〜〜〜〜〜!!!!!
理亞の頭の中で..ルビィの断末魔の叫びが聞こえた...ような気がした 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:1341adc37120578f18dba9451e6c8c3b) 理亞「う...」
突如めまいに襲われた理亞は、膝の力が抜けてその場に崩れ落ちた
理亞の額や背中から冷や汗が噴き出してくる
貧血のような立ちくらみを覚えた理亞は、しばらく床に座ってめまいが通り過ぎるのを待った
理亞(なにをバカなことを考えているのよ私は..そんなバカなことがあるわけないじゃない..ルビィが?食べられた?内浦の住民たちに?)
ナンセンス..そう..まったくもってナンセンスだわ..現代日本にそんな..そんなおぞましい風習があるわけないじゃない..
これを書いた奴は頭がおかしいのよ..それかこれはきっと創作なんだわ..あるいは性質の悪い怪談を作って生徒をからかっているのか..
そうよ!!ここは学校の図書室なのよ?図書室にこんな本が置いてあるのがそもそもおかしいわ
こんなの生徒が読んだら..絶対気分を悪くするし、保護者が知ったらクレームモノよ! でも..もし..もし..ルビィを殺したのが内浦の住民たちで..それをみんなで隠しているんだとしたら..
あのボウガンの奴は..私を殺そうと奴らが差し向けた刺客..だとしたら..辻褄があってしまう..
つまり内浦の住民の仕業じゃない? それとも罠? そもそもあんなトイレの中で待ち伏せしていたのがおかしい..
ここに私が来るように仕向けたのは花丸..そしてあのボウガンの奴が待ち伏せして襲ってきた..
つまり、花丸とボウガンの奴は..グル?
でも、あのボウガンの奴は私と一緒に花丸も殺そうとしている..少なくとも花丸が味方なのは間違いない
でも..もしも花丸がボウガンの奴とグルで..私を殺そうとしているんだとしたら..
何言ってるのよ?殺そうとしているヤツが、わざわざこんな本が書いてあるところに連れてくるわけがないじゃない..
こんな本を私に読ませたら殺そうとしていることがバレバレになるのよ?
それに..花丸はあんなにルビィと仲が良かったのよ?そんな花丸がルビィを殺そうとなんてするわけがない!!
花丸はとっても優しい女の子よ..虫一つ殺せない人畜無害な人.. 理亞(もしかしたら..ルビィの失踪には内浦の人間が関わっているのかもしれない..でも、花丸やダイヤ達が関わっているとは思えない..私はみんなを信じる..)
理亞(ルビィ..絶対あんたを探し出してみせるからね..待ってなさいよ!!)
花丸「理亞ちゃん!!」
そんな理亞の背中に花丸の声がかけられる
花丸「理亞ちゃん!学校について書かれた本がみつか..どうしたの?大丈夫?」
花丸は顔面蒼白になった理亞の顔を見て、心配する声を掛けた
理亞「大丈夫..なんでもない..」
理亞は読んでいた本を本棚に戻し、自分の想像を必死でかき消した 理亞(こんなバカげた妄想を花丸に話すわけにはいかない..心配をかけないように、なんでもないように装わないと..)
花丸「ならいいんだけど..あ、それでね?さっき本を見つけたんだよ!もしかしたら何かの手がかりになるかもしれないずら!!」
そう言うと花丸は理亞に1冊の本を手渡した
理亞「これは..」
花丸「浦の星女学院の会報ずら..」
理亞「ずいぶん古いモノみたいね」
会報は黄色く黄ばんでおり、所々に虫食いの跡があった
花丸「ここなんだけど..」
花丸がページを開くと年月を経たすえた臭いが理亞の鼻を突く.. 浦の星女学院の皆さん!こんにちは!この学院の初代理事長の小原です!
理亞「初代理事長って確か..体育館に置いてあった胸像の..」
花丸「鞠莉ちゃんのお爺ちゃんずら」
我が小原グループが内浦の女子教育を推進するために、この学院が設立してから1年がたちました。
自然豊かな土地で地域の皆様と共に日々を過ごせることを幸せに思います。
花丸「この自然あふれる澄んだ空気の元で皆様がすこやかに成長し、知恵を付けて社会に通用する人材になることを切に願っています..これで終わってるずらね」
花丸「さすがに噂の事までは書いてないずら..」 理亞「あくまでウワサだから..信憑性もないし..それに学校の会報に..この学院で人が行方不明になったことがあるなんて書かないでしょ..あら?」
花丸「どうしたの?」
理亞「この本..表紙の裏になにか挟まっているわ..」
花丸「え?」
理亞はそう言うと本の表紙を外して、本をむき身の状態にした..
すると..カツンという音を立てて固い何かが図書室の床の上に落ちた
理亞「これ..レリーフね..」
理亞は床の上に落ちたレリーフを手に取るとクルクルと角度を変えて、レリーフを観察した 花丸「本当だ..この形は浦の星女学院の校章ずら..なんで本の間にこんなものが..」
理亞「校章を象ったレリーフ..はっ!!」
理亞の頭に体育館にあった創設者の胸像が思い浮かんだ..
理亞「このレリーフ..もしかしてあの胸像の..あの胸像にこのレリーフをハメれば何かが起こるのかも!」
花丸「なにかって..なんずら?」
理亞「わからない..でも..他に手がかりがない以上これに賭けるしかないわ!花丸!今から体育館へ.いくわ..危ない!!」
花丸「へ?わあ!!」
理亞は花丸の体を掴むと地面に押し倒した。床の上に倒れこむドサリという固い音が鳴り響く..
2人が床に倒れた約1.5秒後に銀色のボウガンの矢が、2人が立っていた場所を猛烈な勢いで通過して行った
壁に矢が突き刺さるドガッ!という音の後に、ビイイ〜〜ンと矢が振動する少し間の抜けた音が響き渡った 理亞「アイツだ!!」
花丸「ど..どうして!?」
理亞が指を差した先には..黒衣のローブを纏った襲撃者が貸出カウンターの中からボウガンを構えて立っていた
理亞「カウンター机の中に隠れて待ち伏せしていたのよ!!逃げるわよ花丸!!」
花丸「ま、待って!!」
理亞は立ち上がって逃走の体制を整えるが..足をケガした花丸はもたついてしまう..
襲撃者は矢を継げ変えて狙いを花丸に定めた
理亞「危ない!!」
ドシュッ!!という矢を射出する音が鳴り響く 理亞は花丸の体を抱きしめて自分へと引き寄せた..
理亞の体に花丸の温かくやわらかい触感が伝わってくる
理亞「イタッ!!」
理亞は手の甲に焼け付くような激痛を覚えた
花丸「理亞ちゃん!?」
理亞「イタッ..クソッ!!」
ボウガンの矢は理亞の手の甲を掠め、理亞の手に鋭い切傷を刻み込んだ
図書室の床に理亞の手から滴る血液が零れ落ちる.. 理亞「この!!ヤッタな!!」
理亞は浦の星女学院の歴史について書かれた本を取り上げると、襲撃者目がけて思い切り投げつけた
??「!!」
襲撃者は自分目がけて飛んでくる本に対してとっさに反応することができず、本が真近になってから慌てて回避行動をとろうとするが間に合わず、額にガツンと言う固い音を立てて本が命中した
襲撃者はのけ反り、天井を仰ぐ。フードの隙間から長い髪の毛がファサッという軽やかな音を立てて背中に零れ落ちた 理亞「え?あたった?」
花丸「理亞ちゃん逃げよう!!」
花丸は理亞の手を引いて図書室から脱出を促す..
理亞「あ..うん..そうね..早く逃げましょう!!」
額を抑えて悶絶する襲撃者を尻目に、理亞は花丸に肩を貸し2人は図書室のドアの鍵を開けると廊下へと飛び出した
花丸「ふう..ふう..」
足を引きづりながら、花丸は息を切らしつつも精いっぱいに前へ前へと足を進める..
理亞は花丸を気遣いながらも、早足に廊下を歩き出した 理亞(クソッ..こんなノロノロしていたらすぐに追いつかれちゃう..私一人だったら簡単に逃げ切る自信があるのに..)
その時..理亞の心の中に保身に走る自分の声が聞こえてきた
理亞(花丸を置き去りにすれば...そうだ..私は足が速いから..逃げることができる..花丸を囮にしてしまえば..あのボウガンの奴も花丸を狙うから時間を稼げる..私はその間に山を下りて町へ逃げれば..)
理亞(逃げ..るか?)
理亞は痛みに顔を歪めながら必死に歩く花丸の顔を見つめ..花丸をこのまま見捨てて自分だけ助かってしまおうかどうか..
理亞の心は良心と非常の狭間で揺れ動いた 理亞..
理亞(!! 姉さま..)
追い詰められた理亞の脳裏にいつかの聖良とのやり取りが再生された
理亞『ねえ、姉さま..姉さまはどうして私を助けてくれるの?』
聖良『なによ理亞..急にどうしたの?』
理亞『私が困ったときいつも手を差し伸べてくれるじゃない..いじめっ子たちをやっつけてくれた時だって..相手はあんなにたくさんいたのに..姉さまはちっとも怖がるそぶりをみせずに立ち向かっていって..やっつけちゃった』
理亞『そんな姉さまを凄いと思うし..尊敬もしてる..でもね?姉さまは..怖いとか..イヤだ..とか思わないの?』 聖良『前にも言ったでしょ?私だって人間だもの..痛いのはイヤだし、傷つくのは怖いわ』
理亞『じゃあ、どうして私を助けてくれたの?もしかしたら姉さまが逆にやられちゃってひどい目に合わされるかもしれないのに..』
聖良『確かに..返り討ちにされてしまうかもしれないって..考えたことがないわけじゃないわ..』
理亞『そうなの?』
聖良『理亞..私はアナタのヒーローなんかにはなれない..』
理亞『え?』
理亞は唖然としてしまいポカンと口を開けた..理亞の目に映る聖良の姿は、どんな強大な敵にも猛々しく立ち向かってゆき..悪を挫くその姿はまさしくヒーローだった..
その姉が..憂いを帯びた表情で自分はヒーローではないなんて口にするなんて..この姉は一体何を言っているんだろう.. 聖良『正直に告白するわ..私ね..あの時迷っちゃったの』
理亞『迷ったって..何を?』
聖良『理亞を見捨ててしまって..見て見ぬフリをしてしまおうかって..』
理亞『え?』
聖良は気まずそうな顔を作ると罪悪感から逃れるように、理亞から顔を背けた
聖良『あんな大勢を相手にするのに..怖くないなんて人..いるわけないわよ..理亞がいじめられているのを見て怒りを感じたのは本当よ..助けてあげたいって思った..』
聖良『もしもやられたら..自分があんな目に合わされたら..そんなことを考えちゃったら..怖くて足の震えが止まらなくなった..』
聖良『このまま見て見ぬフリをしてしまおう..そして、事情を知らない風を装って理亞にいつも通りに接すればいい..そんなことを考えて逃げようとしたの..』 聖良『そして..後ろに一歩足を踏み出した時..ふと思ったの..ここで逃げたら..私は一生十字架を背負って生きていくことになるんじゃないかって..ここで理亞を見捨てたらこの先どんな顔をしてあなたに会えばいいのか..わからなかった』
聖良『何も知らない風を装って..素知らぬ顔であなたの良き姉を演じるなんて私には到底無理よ..』
理亞『姉さま..』
いつも強気でなんでもできてしまう完全超人の姉が..こんなに儚げな表情を浮かべて、自分の心の弱さを告白する姿に理亞は打ちのめされたような気がした。
聖良『だから私は立ち向かうことにした..正々堂々といつまでも..アナタの姉でいられるように..ね』
聖良『やられてしまってケガをすることより..アナタの姉でいられなくなることの方が私にはずっとこわか..理亞?』
気が付いたら理亞は聖良の背中を後ろから抱きしめていた..
聖良の頬に理亞の目か流れ落ちる涙がツッ..と伝わり落ちた 理亞『ありがとう姉さま..大好きだよ..』
聖良『理亞..』
聖良はそっと目を閉じて泣きじゃくる妹の頭をあやすように優しく撫でた
理亞(私..今何を考えたんだ..)
花丸を置き去りにして自分だけで逃げてしまおうという考えがチラリとでも頭をよぎったことを理亞は恥じた
理亞(私は絶対に友達を見捨てない..あの時の姉さまのように!! 見捨てたらきっと一生後悔する..それはきっと..ここで殺されるより恐ろしい事に違いない..)
理亞(友達を見捨てるなんて..私は絶対にしない..花丸と一緒に安全な場所まで逃げないと..) ドシュッ!!という矢を射出する鈍い音が廊下に響き渡る..
理亞「クッ!」
花丸「キャアッ!!」
矢は理亞と花丸の頭上を飛んでゆき、廊下の窓ガラスをぶち破って外へと飛び出していった
ガシャーンという窓ガラスが割れる音が鳴り響き、粉々になったガラス片がシャワーのように廊下に降り注ぐ
??「.......チッ」
矢が外れたことにいら立った襲撃者は苛立ちを発散するように舌打ちをし、矢の装填作業に取り掛かる
ボウガンと矢がこすれあうカチャカチャという金属音が鳴り、理亞の焦燥を駆りたてた 花丸「理亞ちゃん!!オラを置いて逃げて!理亞ちゃん一人なら逃げ切れるずら!!」
理亞「何度も同じことを言わせないで!私はアンタを絶対に見捨てないわ!さあ早く立ちなさい!逃げるわよ!!」
花丸「理亞ちゃん..」
理亞は花丸の肩を担ぐと強引に立ち上がらせた。
理亞(考えろ..考えるんだ..きっとなにか方法がある..)
脳みそをフル回転させてこの状況を切り抜ける手段を考える
理亞(このままじゃいい的だ..逃げるか..隠れるか..それとも..)
理亞は矢の継げ変え作業を行っている黒衣の襲撃者を睨みつける..先ほどの頭部へのダメージが効いているのか..襲撃者は矢をボウガンに番える作業に手間取っているようだった 理亞(アイツ..あんまり強くないのかもしれない..やってしまうか..?姉さまみたいに..)
理亞の脳裏に聖良の顔が過る..
猛々しい姉聖良..どんなに不利な状況だろうと諦めず、立ちはだかる敵をその剛腕で粉砕しねじ伏せる..
幼き日の理亞はそんな聖良を見て、ヒーローだと思い憧れた..
理亞(このままじゃヤられてしまう..アイツが矢の装填を終える前に接近して、一撃で倒してしまえばそれで..)
理亞が蛮勇を発揮しようとした時..胸の奥から恐怖が湧き上がり、足を止めた..
理亞はイメージしてしまったのだ..ボウガンの矢に心臓を貫かれて殺される光景を.. 理亞「....ッ」
死を意識した理亞は足を踏み出すのをやめてその場に固まってしまう..
結果的にはその臆病さに身を救われることになった..
襲撃者はボウガンの矢を装填を終えると、ボウガンはカシャンと乾いた金属音を鳴らし、ボウガンを構えた
あのまま真正面から突っ込んでいたら、ボウガンの矢は想像通りに理亞の心臓を貫いていたであろう
襲撃者は理亞に狙いを定めて、ボウガンの銃口を右に左へと微調整している..
理亞「うわあ!!」
理亞は左に飛び退いてドアが開いていた教室の中へと飛び込んだ..
次いでドシュッ!!という大きな金属音の後に、ボウガンの矢が射出され、理亞の胸があった場所を矢は猛スピードで通過してゆき、廊下の奥の壁に深々と突き刺さった ??「.....!!」
またもや獲物に逃げられたことに苛立ちを隠せない襲撃者は、ボウガンで図書室のドアを殴りつけた
理亞「花丸..こっちよ!!」
花丸「理亞ちゃん!!」
矢の装填に追われる襲撃者を尻目に、理亞は花丸の手を引いて空き教室の中に引き入れた
花丸「だ..だだだ大丈夫!?ケガしなかった!?」
理亞「私は大丈夫..それよりカギを閉めて!!早く!!」
花丸「う、うん!!」
花丸は慌てて教室の後ろの扉の鍵をかけた
ガチャリという音がして扉はロックされる 理亞「あっちのドアの鍵も閉めないと!!」
教室の前の扉まで理亞は全力で走り、勢いよく扉を閉めてカギをかけた
ガチャリと言う音がして教室の扉は完全にロックされた
理亞「よし..これで..!」
理亞が一息つこうとした時..
ガシャーンというガラスが割れるけたたましい音が響き、教室の壁にボウガンの矢が突き刺さった
花丸「キャーーー!!!」
花丸の甲高い悲鳴が響いた後..教室の後ろの扉がガンガンと乱暴に蹴り飛ばされた 理亞「クッ..まだ..」
襲撃者はドアの上部に位置する窓ガラスから、ボウガンの矢を教室内に撃ち込んだのだ..
カチャカチャ..という矢を継げ変える音の後に..ドアの上部に位置する窓ガラスの部分からボウガンが顔を突出し、獲物を探すように、右へ左へと銃口を動かした
理亞「花丸!!」
理亞はとっさに清掃用具入れを開けるとその中から箒を取り出し、先端部分を前にしてやり投げのごとく、襲撃者の立っているドア目がけて投げつけた
流れ星のごとく弧を描き、箒の先端はドアにけたたましい音を立てて命中した ドガン!という大きな音と、突然ドアが大きく振動したことに驚いた襲撃者は後ろに後ずさり、ボウガンをガラス窓から引っ込めた
理亞(このままじゃ袋の鼠だ!!どうにかこの教室から脱出する方法を考えないと..でも..)
理亞は窓から外を眺めた..窓の外には暗闇に包まれた駿河湾と煌々と輝く満月が目に飛び込んでくる..
理亞(ここは2階だ..下の地面はコンクリートだし..飛び降りたら大けがは免れない..どうすれば..ん?あれは..)
理亞はベランダの下にあったその物体を目にして、閃きが頭をよぎった
理亞「花丸!!こっちへ来なさい!!この教室から逃げるわよ!!」
花丸「どうやって!?この教室にはベランダがないから、他の教室に逃げることはムリだよ!?」
理亞「いいから..こっちよ..早く!!」
花丸「あ..理亞ちゃん..わあ!!」
理亞は花丸の手を掴むと強引に窓際へと連れてきた 理亞「アレを見なさい!!」
花丸「あれは..え?でも..あれの上に飛び降りるの!?無茶だよ!!」
理亞「ここにいたら殺されるのを待つだけよ!!」
理亞が大声を出した時..ドアのガラス窓から再びボウガンが教室の中に顔を覗かせた
理亞「クソッ!せっかちな奴ね..こっちがためらう時間も与えてくれないみたいね!!花丸!!行くよ!!」
花丸「ええ!?わあああああああ!!!!!」
理亞は花丸の体を掴むと、手すりから外へ放り投げる..闇の中に花丸の悲鳴が響き渡り..数秒後にガシャーンというけたたましい音が階下から響き渡った ??「.......!!」
襲撃者は花丸が下に落ちてゆくのをあっけに取られたように見つめていた..
理亞「今度は私の番!!」
理亞が手すりに足を乗せると襲撃者は慌ててボウガンの引き金を弾いた
ドシュッ!!という音がし、教室内をボウガンの矢が飛行し、理亞めがけて彗星のごとく突っ込んでゆくが..
矢が手すりの上を通過する頃には理亞の姿はすでにそこにはなかった。
理亞「うわあああああああああ!!!!」
暗闇の中を理亞は落下してゆく..
真下は暗闇に包まれており、奈落に落ちてゆくような錯覚を理亞は覚えた 理亞が落下していたのは時間に直すと1秒に満ちるか満ちないかぐらいの短い時間だったが..
暗闇の中に落ちてゆく理亞にとってはその1秒が永遠のように感じた
ズシャーン!!というけたたましい音が闇の中に響き渡り..理亞は足もとに強い衝撃を感じた
理亞「はぁ..はぁ..た..助かった」
花丸「理亞ちゃん!大丈夫ずら!?」
理亞「ええ..なんとかね..あんたはケガしなかった?」
花丸「マルもかろうじて..もう!いきなり手すりから放り投げられるんだもん!びっくりしたよ!!三途の川が見えたずら!!」
理亞「う..ごめん..でもしょうがなかったのよ..迷っている時間はなかったし..」
花丸「ベランダの下にこの車がなかったら..マルたち死んでいたね..」
花丸が視線を理亞の下に向けると..そこにはボンネットがべコリと凹んで、窓ガラスが粉々に粉砕された黒い乗用車が停車してあった 花丸「車の持ち主さんにはひどい事しちゃったね..」
車の中には段ボールなどの荷物が散乱しており、学校の関係者の車にしては妙だと理亞は思った
理亞(警備員も先生もいないはずの無人の学校にどうして車が止まっているのかしら?それにこの車..どこかで見覚えが..)
理亞はべコリと凹んだ車を眺めて記憶の糸を辿り、どこで見たのかを思い出そうとしたが..
理亞(って..今はそんなこと考えている場合じゃないわ..奴がすぐに来るかもしれないわ!急いでここから離れましょう!!)
理亞「花丸!逃げるわよ!」
花丸「う..うん」 理亞が花丸の肩を担いだ時..2人の足もとに銀色のアンテナのようなモノが突き刺さった
花丸「わあ!!」
理亞「クッ!!」
上を見上げると..理亞達がいた教室の一つ隣の教室の手すりから黒衣の襲撃者が身を乗り出して、ボウガンを構えていた
理亞「急ぐわよ!!おぶさりなさい!!」
花丸「う、うん!!」
理亞は花丸を背中におぶるとコンクリートの上を急いで駆け出した ??「!!」
襲撃者は次の矢をボウガンに構えると、走り去る理亞めがけて狙いを定めるが..
??「.......」
結局矢を放つことはなく、暗闇の中に走り去ってゆく理亞の背中を見送った
理亞「はぁ..はぁ..はぁ..はぁ!!」
花丸を背中におぶった理亞は体育館の前へとやってきた 花丸「理亞ちゃん大丈夫?少し休んだ方が..」
疲労困憊の理亞に花丸は労りの声を掛けるが、理亞は無言で首を横に振った
理亞「私は大丈夫..それより..早く体育館の中に入るわよ..」
花丸「でも..あの胸像にレリーフをハメたらなにが起こるって言うの?あんなの只の装飾品ずら」
理亞「わからない..でも..私はこの体育館に何か大きな秘密が隠されていると思うの..きっとそれがルビィの手がかりを探すカギになるはず..」
花丸「......」
理亞「さあ、行くわよ..」
理亞は体育館の正面玄関を大きく開け放った..
ギィィィ..という扉の軋む音が古びた体育館の中に響き渡る 花丸「体育館はさっきと変わりないみたいだね..」
理亞「いいから入って..扉に鍵をかければあのボウガンの奴もすぐには追ってこないわ」
花丸「あ!うん..そうだね!」
理亞に促された花丸は慌てて玄関の鍵を閉め..ガチャリと言う重厚な音が鳴り響く
カギが掛かったことを確認すると、2人は真っ暗なバスケットコートの中を突っ切り、舞台の上へと足を運んだ
理亞「ここね..」
胸像の前までやってくると理亞は、あらためて胸像のことを注意深く観察した 理亞(この胸像..よく見たら..さっき音が違うと感じた床を見つめてる..ひょっとしたら..)
理亞「花丸..レリーフを..」
花丸「はい..これだよ」
花丸から浦の星女学院の校章を象ったレリーフを受け取ると..理亞は蝶ネクタイの結び目に位置するくぼみにレリーフをハメこんだ
カチッ..という金属音がし..ガコン..というなにか大きな仕掛けが作動するような重厚な音聞こえてきた
花丸「な、なに?」
理亞「見て!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ...という地響きを伴った重い音が体育館の中に響き渡る..
バスケットコートの真ん中に位置する床板が動きだし..
地下へと続く階段が姿を現した 花丸「な..なにこれ!!」
理亞「こんな仕掛けがあるなんて..」
花丸と理亞の2人は目を丸くして、階段の出現に驚いた
理亞「ずいぶん..放置されていたみたいね..人が出入りした形跡が感じられないわ」
階段を指でツッ..となぞると理亞の指にホコリがたっぷりと付着した
理亞「降りてみるわよ」
フッと息でホコリを吹き飛ばすと、理亞は決意を込めた硬い表情でそう言った 花丸「え!?なにがあるかわからないし..危ないからやめておこうよ!!」
理亞「私は行くわ..こんな壮大な仕掛けを施してまで隠しておきたいモノなんだもの..重大な何かがあるに違いないわ」
花丸「で..でも..」
理亞「花丸..私たちの目的を思い出して..私たちはルビィの手がかりを探しに来たのよね?その手がかりが今目の前に存在しているのよ?」
花丸「う..うん..それは..そうだけど..」
理亞「虎穴に入らずんば孤児を得ずよ..私は行くわ..あなたは残るのなら..そうね..舞台の下にパイプイスが収納できるスペースがあるでしょ?そこに隠れてて..できるだけすぐに戻るわ」
理亞はそう言うと懐中電灯で階段を照らしながら、一段..一段と注意深く降りて行った..
花丸「あ、待ってよ理亞ちゃん!マルも行くよ!!こんなところで一人でいるのはイヤだよ!!」
理亞に続くように花丸も階段を下り地下へと降りて始める。2人が去った体育館には暗闇と静寂だけが残された 少しの時間が流れた頃..
カラララ..という滑るような音が小さく鳴り響く..
??「........」
トイレの窓から体育館に侵入した襲撃者は、口を開けるように..バスケットコートに現れた地下への階段の前で立ち止まり..
カツン..カツン..カツン..カツン..
地下へ逃げ込んだ獲物を始末するために石段を降り始めた 理亞「真っ暗で何も見えないわね..」
花丸「ううう..真っ暗闇ずら..怖いずら〜!!」
体育館の隠し階段を降りて地下通路へと降りた2人..懐中電灯を手に持ち慎重に通路を進む二人の行く手には、細長い通路が生えるように存在してい
る..灯りは手に持つ懐中電灯の頼りない光だけで..光が当たらない場所は何も見えない闇が立ち込めていた 理亞「ちょっと!しがみつかないでよ!歩きずらいじゃない!!」
花丸「マルは暗い所が嫌いずら〜〜!!」
理亞「パイプイスを収納するスペースに隠れてろって言ったでしょ!?」
花丸「あんな狭い所はイヤだし..一人であんなところに隠れているのは怖すぎるずら!!それに..もし、ボウガンの人に見つかったらと思うと..」
花丸は小刻みに震えだし、理亞の体に花丸の震えが伝わってきた
理亞「わかったわよ..安全なところに着くまでアンタの側から離れないから!だからしがみつくのはやめなさい!」
花丸「本当?」
花丸は潤んだ瞳で理亞の目を覗き込む.. 理亞(う..こうして改めて見ると..花丸ってやっぱりかわいい..ってそんなこと考えてる場合じゃなくて..)
理亞「本当だから..だから離れなさい!」
花丸「うん..」
理亞「まったく..こんなわけのわからないところに紛れ込んで..ボウガンを持った頭のおかしい奴に命を狙われてるってのに..アンタは能天気ね..」
花丸「マル一人だったら..怖くて..震えて泣いていることしかできないよ..でも、理亞ちゃんがいるから..マルはこうしていつものマルでいられるんだよ..」
理亞「花丸...」
花丸「....//」
花丸は顔を僅かに紅潮させて、恥ずかしさから逃れるように話題を反らした 花丸「それにしても..なんなんだろうね..ここ..どうして体育館の下にこんな地下通路が..」
理亞「それはきっと..奥まで行ってみればわかるわ..でも、あんな大がかりな仕掛けを施してまで隠したいモノなんだから..よっぽど重大な何かがあるんでしょうね..」
一歩..一歩と真っ暗な通路を歩くごとに、カツン..カツン..という冷たい石の上を歩く足音が反響する..
真っ暗な通路にはひんやりとした冷たい空気が漂っており、理亞は寒さで体をわずかに震わせた
花丸「あ、通路が終わるずら..広いところに出たみたいだけど..真っ暗でよく見えないずら..」
理亞と花丸は通路の奥までたどり着いた..通路を抜けると開けた広場があり、鉄サビの匂いが2人の鼻をツンと突いた
理亞「う..なにここ..なんか臭い」
花丸「さっきまでの狭い廊下と打って変わってずいぶん広い所に出たね..ここは一体なんなんだろう..?」 懐中電灯で周りを照らしてみると..ソコは石で造られた壁がグルリと四方を囲んでいる広い部屋だった..
壁の隅にいくつかのベッドが放置されるように置かれており、ベッドの上は黒い染みのようなもので汚れていた
理亞「ずいぶん広い部屋ね..なんでこんな部屋があるのよ..」
花丸「わからない..マルにはさっぱりわからないよ..」
理亞「この黒い染み..一体なんなのかしら?」
理亞は一刺し指でベッドの上をツ..となぞった
指に鼻を近づけて匂いを嗅いでみると..つんと鉄さびのようなにおいが鼻を突く..理亞はその染みの正体がわかると、ベッドからのけ反るように
飛び退き、冷たい地面の上に尻餅をついた 花丸「理..理亞ちゃん!?どうしたずら!?」
理亞「こ..これ..血よ!!血が渇いて固まったモノだわ!!」
花丸「えええ!!?」
花丸は仰天すると懐中電灯の光をベッドの上に充てた
花丸「ホ..ホントだ..これ..よく見ると血だよ!!」
理亞「ッ!!」
理亞は手のひらの食感に異変を感じ、懐中電灯の光を手のひらに充てる..
すると..床に手を着いた部分に..乾いた赤黒い血液が付着していた.. 驚いた理亞は慌てて懐中電灯の光を床や壁..天井にも向けてみると..
理亞「ヒッ!」
花丸「こ、こんどはどうしたの!?」
理亞「ベッドの上だけじゃない..なによ..なんなのよこの部屋!!床も..壁も..天井まで血まみれじゃないの!!」
花丸「へ?...い..イヤアアーーーッツ!!!」
花丸の絶叫が広場に響き渡る..悲鳴は壁や天井に跳ね返り、暗闇の広場にガンガンと反響した
理亞「どうして学校の体育館の地下にこんなものがあるのよ..まるでこれじゃ..処刑場の跡地みたいじゃない!!」
花丸「なにこれ..なんなの..どうしてこんなものが!?」 理亞「とにかく..まだ奥があるみたいだから..進みましょう..この地下空間の正体がわかるかもしれないわ」
花丸「そ..そうだね..でも..うう..怖いずら」
2人は暗闇に包まれる空間に懐中電灯のか細い光を当てて歩き出した
理亞「ねえ..ルビィは..こんなところに迷い込んだと思う?」
花丸「それはないと思うけど..ルビィちゃんが体育館の地下にこんな施設があったことを知っていたとは思えないし..」
理亞「私は小原鞠莉がルビィの失踪に関わっていると思うんだけど..」
花丸「鞠..鞠莉ちゃんが?そんな..」 理亞「だって..この浦の星女学院は小原鞠莉のお爺ちゃんが創設したものなんでしょ?その創設者が作った建物の地下にこんなヤバそうな施設が眠っていたのよ?直接的にせよ、間接的にせよ私は小原鞠莉が怪しいと思う」
花丸「マルは鞠莉ちゃんを信じたいよ..仲間を疑いたくないけど..」
花丸「もし..ルビィちゃんの失踪の原因が..鞠莉ちゃんにあるのなら..マルは許さないずら」
花丸は決然とした表情でそう言い放った
理亞「私..この施設の正体を突き止めて、動画を撮ってインターネットの世界に挙げるわ..世界中の人たちが興味を持ってくれてればきっと大問題になるはずよ..それでルビィの失踪の真相が明るみに出るかも」
花丸「そうなったら浦の星女学院もおしまいずら..」
理亞「こんなヤバい施設がある学校なんておしまいになった方がいいと思うけどね..そろそろ次の部屋に着くわよ」
花丸「うん..」 そして、2人は血にまみれたベッドが散乱する広間を抜けて..一番奥の部屋へとやってきた..
理亞「ここは..さっきの部屋に比べると大分狭いわね..」
花丸「なんの部屋だったんだろう..ずいぶん分厚い扉ずら..」
鉄の扉は分厚く..ドアの至る所にチェーンが厳重に巻かれていたような跡が残っていた
理亞「とにかく..中に入ってみるわよ..」
理亞は鉄の扉のドアノブを回すとギィィィ..という不気味な音を立てて扉は開かれた
理亞「う..ここもホコリ臭い..」
花丸「真っ暗で何も見えないずら..ここは一体..ヒッ!」
花丸は短い悲鳴を上げると横に立っていた理亞にしがみついた 理亞「ち、ちょっと..!!急にどうしたのよ!?」
花丸「あ..ああああ...あそこに..何かあるずら..」
花丸が震える指で..小部屋の中の..隅を指差した..
理亞「ナニかって..ナニ..よ...う..うわああああああ!!!!」
理亞は悲鳴を上げると後ずさりをし、部屋の外へと飛び出した..
理亞と花丸が見たモノ..それは..部屋の中に無造作に..ごみのように捨てられている人骨の山だった
部屋の壁には赤黒い文字で..
タスケテ..タスケテ..タスケテ..タスケテ..タスケテ..タスケテ..タスケテ..タスケテ..タスケテ..タスケテ..タスケテ..タスケテ..タスケテ..タスケテ..タスケテ..タスケテ..と..埋め尽くすようにびっしりと..ここで犠牲になった者たちの哀れな叫びが刻まれていた.. 理亞「なんなの..ここは一体なんなのよ!?」
恐怖が限界に来て、理亞は金切り声をあげた
花丸「小さい骨ばかり..ここに積みあがっているのは..ほとんどが子供の骨ずら..」
理亞「なんですって!?それじゃあ..あの怪談は真実だったってことなの!?」
花丸「それはまだわからないけど..浦の星女学院が..子供を殺して何かをしていた..のかもしれないずら」
花丸はそう言うとがっくりとうなだれてしまった
理亞「地面の下から聞こえてきたうめき声っていうのは..ここで殺された人たちの苦悶の叫び声だったわけね..まさか!!」
理亞は人骨の山の中に手を突っ込むと、何かを探すように人骨をかき分けだした 花丸「理亞ちゃん!?ど..どどどうしたの!?どうして人骨の中に手を突っ込んでいるの!?」
理亞「ルビィ..ルビィ!!もしかしたら..この中にルビィがいるのかもしれない!!」
半狂乱になった理亞は人骨の山をかき分けて、ルビィを探す..
人骨の山が崩れると、犠牲になった子供たちの白骨がガチャガチャという音を立てて、乱雑に床の上に散らばった
花丸「ルビィちゃん..そんな..まさか..!」
理亞「ルビィ..どうか..お願い..お願いだから..」
出てきてほしいのか..出てきてほしくないのか..理亞には恐ろしすぎてその先の言葉を口にすることはできなかった どのくらいの時間を理亞は白骨の山を漁ったのだろう..
出てくる骨はどれも子供の人骨ばかりで、ルビィの年ごろと思われる人骨が発見されることはなかった
理亞「ルビィ..ここにはいないのね..」
理亞はほっと胸を撫で下ろし、人骨から手を引っ込めた
花丸「よかった..ルビィちゃんがこんなところにいなくて..」
理亞「とにかく..これでこの学院が恐ろしい何かをしていたことが明らかになった..悪事の尻尾を掴んだわね..」
理亞はスカートのポケットからスマートフォンを取り出した 花丸「動画を撮って..インターネットにアップロードするの?」
理亞「ええ..この人骨の山を動画にとって世間に晒せば、たちまち大問題になるわ..マスコミや世間の目を集めることができれば..」
理亞は白骨の山を撮影しようとスマートフォンを向けるが..
理亞「ダメだ..こんな小さい懐中電灯の光だけじゃ、暗すぎて動画に何が写っているかわからない..もっと大きい明かりが必要だわ」
花丸「もっと大きい明かり..体育館の倉庫に行けばもっと明るく照らせる道具が見つかると思う」
理亞「戻る必要があるわけね..花丸..私が取ってくるからアンタはここで待ってなさい」
花丸「へ!?い、イヤだよ!こんな骨だらけの怖い所にマルを一人にしないで!!」 理亞「さっきのボウガンの奴と出くわしたらどうするの?ケガしたアンタを連れて行くのは危険なのよ..照明器具を見つけてすぐ帰ってくるから..」
花丸「イヤッたらイヤずら!!マルも理亞ちゃんに付いていく!」
理亞「だから..それは危ないってさっきから..」
コツ..コツ..コツ..コツ..
理亞・花丸「!!」
理亞と花丸が言い争っていると..誰かが階段を降りてくる足音が遠くから聞こえてきた 花丸「い..今..遠くから足音が..」
理亞「ボウガンの奴が追って来たのよ!!隠れるわよ花丸!こっちへ!!」
理亞と花丸は懐中電灯の光を消すと、ベッドのある部屋に戻り..血まみれのベッドの下に身を潜めた
息を殺しベッドの下に身を潜めていると..
カツン..カツン..という足音は次第に近づいてきて..
理亞と花丸が身を潜める広場へと入ってきた
襲撃者はランタンを手にぶら下げており、慎重な足取りで少しずつ歩を進めて広場の中に入ってきた 理亞(ランタン..?どうしてあんなもの持ってるのよ..さっきはボウガンしかもっていなかったハズよね?)
花丸(...ッ)
恐怖で目に涙をいっぱいに浮かべながら震える花丸..
理亞(お願い..どうか私たちに気づかないで..!神様..どうか助けて!)
理亞は目をキュッと閉じると普段信じてもいない、神に祈りを捧げた
カツン..カツン..カツン..カツン..
その祈りが通じたのか..足音とランタンの光は徐々に遠ざかってゆき、襲撃者は理亞達に気づくことなく奥の部屋へと行ってしまった 理亞「た..助かった..」
理亞は安堵するとベッドの下からはい出した
理亞「花丸..もう大丈夫よ..出てきなさい」
花丸「イヤずら..怖いからここから出たくないずら」
理亞「アイツはもう行っちゃったわ..今なら逃げられるわ..行きましょう?」
花丸「理亞ちゃん一人で逃げてずら..マルは足手まといになっちゃうから..ここに置いて行っていいずら」
理亞「何言ってるのよ..グズグズしてるとアイツが戻ってきちゃうじゃない..いいから出てきてよ」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています