穂乃果「ホノカと希ちゃんの哲学対話」
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ガチャッ…
穂乃果「授業終わったぁ〜っ!」
希「あ、穂乃果ちゃんや。」ニコッ
穂乃果「あれ、まだ希ちゃんだけ?」
希「エリチは先生のお手伝いで、にこっちはお友達とお話中。」
穂乃果「こっちも海未ちゃんとことりちゃんが日直で遅れるって〜」
希「真姫ちゃん達はテスト期間やから練習来られへんみたいやしなぁ。」
穂乃果「暇だなぁ〜……あっ! そういえば良い話題あったんだった!」
希「おっ、なになに〜?」
穂乃果「哲学のお話なんだけど…海未ちゃん達に話しても、
あんまり興味持ってくれないっていうか〜…」
希「哲学話ならウチのお得意さんやけど、穂乃果ちゃん大丈夫?」
穂乃果「へ? なにが?」
希「何度かエリチ達にも話した事あるんやけど、深過ぎるって言われてて…
だから穂乃果ちゃんは、軽い相槌とか質問だけでええよ。」
穂乃果「うん? …あ、じゃあホノカから質問!」 穂乃果「人間って、なんの為に生きてるんだろうなぁって。」
穂乃果「例えばお父さんを見ているとね、毎日毎日仕事をしているけど、
仕事ってお金を稼ぐためにするんでしょ?」
穂乃果「お金を稼ぐのは、お金がないと生きていけないからだよね?」
穂乃果「お金がないと食べ物も服も買えないし、色々な娯楽も出来ないし……」
穂乃果「でもお父さんを見てると、生きていくために必要だからやってるはずの事が、
生きていく事そのものになっちゃってるような…」
穂乃果「なんだか変な感じがするんだけど…」
希「生きていく為の手段であったはずの事に、
生きていく時間の大半を使っちゃってるって事やんね?」
希「でも人生はね、目的と手段をはっきり分ける事が出来ないんよ。」
希「手段であったはずの事が、いつの間にか目的そのものになっちゃうって事こそが、
人生のおもしろみなんじゃないんかなぁ。」
穂乃果「手段であったはずの事がいつの間にか目的そのものになっちゃう…?」
穂乃果「でも、その目的って一体なんなの?
人間って結局は何のために生きてるの?」
希「…結局は遊ぶため。」 希「仕事をしてお金を稼ぐのも遊ぶためなんだけど、
その仕事が生きていく事そのものになっちゃうのは、」
希「その仕事そのものが遊びになっちゃった、って事なんよね。」
希「それはちっとも変な事じゃなくて、とても良いことなんよ。」ニコッ
穂乃果「人生の目的は遊ぶ為だっていうの?
世の中のためになるとか、何か立派な仕事をするだとか…」
穂乃果「そういう事じゃなくて? ただ遊ぶだけ?」
穂乃果「一生ただ遊ぶだけなんて、何だかかえってつまらない様な気がするんだけど…」
穂乃果「やっぱり、なにかある目標の為に努力する人生の方が、
充実してるんじゃないかな?」
希「世の中の人は、仕事をする事と対比して“遊ぶ”って言葉を
何もしないでぶらぶらしてるって意味に使うからね。」
希「でも、ウチの言う“遊ぶ”ってことは、そういう意味じゃないんよ。」
希「“遊ぶ”っていうのはね、自分のしたい事をして“楽しむ”こと。」
希「その時やっている事の中だけで、
完全に満ちたりしている状態の事なん。」
希「その時やっている事の外に、どんな目的も意味も
求める必要がないような状態のことなんよね。」 希「つまり、なんの為にでもなく生きてる状態やんね。」
希「ただ、それが楽しいから遊んで、
それによって何が実現されるからでも無いんよ。」
穂乃果「そうだとすると人間は、何の為にでもなく生きるために生きている…
って事にならない? そんなのちょっと変だなぁ」
希「ちっとも変じゃないよ。」
希「でも、何の為にでもなく生きるために生きているうちは、
なんの為にでもなく生きる事は出来ないけどね。」
穂乃果「じゃあどうすれば良いの?」
希「何の為にでもなく生きるために生きているって事それ自体が、
なんの為にでもなく生きている事にすれば良いんよ。」
穂乃果「???」 ーーーーー
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希「ねぇ穂乃果ちゃん、人生体験マシンがあったらどうする?」
穂乃果「なにそれ?」
希「偽物の一生を、本物のように体験させる機械。」
希「自分の脳みそをその機械につなぐとね、いま生きている本物の人生とは、
ぜんぜん違う人生をホンモノのように体験出来るん。」
希「色々な人生パターンが用意されているから、ビデオを見るみたいに、
自分が好きなのを選んで、好きな人生を体験出来るようになってるんよ。」
穂乃果「へぇ〜! 面白そう! でも、そんな機械ほんとうにあるの?」
希「今のところ、まだ無いみたいだけど…」
希「でも、もしあったら試してみたいと思う?」
穂乃果「もちろん!」
希「不幸で苦しい生涯を過ごさなければならないような人は、
一生この機械に繋がれて、嘘の幸福な人生を体験し続けたいと思うかもしれない」
希「その方が幸せだからね。」
穂乃果「そう思う人もいるかもしれないね。でも、ホノカはいやだなぁ…」 穂乃果「一生涯ずっと、偽物の人生を生き続けて死んでいくなんて。」
希「どんなに苦しい、悲惨な境遇になっても、
自分のほんとうの人生の方が良い…ってこと?」
希「でも、それはどうして?」
希「それにね、ひょっとしたら穂乃果ちゃんが本物だと思っている
今の人生こそが、実はそういう機械が生み出している作り物かもしれんよ?」
希「そうでないって証拠がある?」
希「穂乃果ちゃんの今の人生のなかにあるはずないやろ?」
希「それでも穂乃果ちゃんは、自分がいま生きている
その人生を大事にするんよね? それは何故?」
穂乃果「うーん。なんでだろう…」ムムム… ーーーーー
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穂乃果「ねぇ希ちゃんっ」
穂乃果「嘘をついたり約束をやぶったりする事は、やっぱりいけない事だよね?」
希「ううん、嘘と約束は違うよ。」
希「ウチらは概して人は嘘をつかないって前提のもので暮らしてるけど、
自分から進んで“私は嘘をつきません”って約束した人なんかいない。」
希「それに対して、約束をした人はその約束をわざわざ自分でしたんよ。
しない事も出来たのにだよ。」
希「だから、嘘をつくことが約束を破ることと同じになるのは
法廷で宣誓したような場合だけだったんよ。」
穂乃果「でも、約束だって破らなくちゃならない事もあるよね?
もっと急を要する重大なことが起こったりして。」
希「そりゃあもちろん。でもね、いったんした約束には
約束をした時点にはなかったような重大さが付け加わってくるん。」
希「たとえば、A君とB君が3時半に駅の改札口で会う約束をしたとする。」
希「約束した時点では、時刻は4時でも構わなかったし、
場所は駅のホームでもなかったん。」
希「会う理由自体も、たいしたものじゃなかった。」 希「でも、その約束をした後では、A君とB君はその約束がある事を前提して
すべての予定を立てなくてはならなくなるん。」
希「だから、どんなにくだらない用件だったとしても、
既にしてしまった約束と言うのには、そのことで重みを持ってくるん。」
希「もし自分一人なら、もっと重要な用事が出来たら
すぐに予定を変えればいいんだけど…」
希「人との約束がある場合はそうは行かなくなるんよ。」
希「相手の方はもう既に、自分の大事な用件よりも
その約束を優先してくれているかもしれないからね。」
穂乃果「じゃあ、よほどの事が無い限り約束を破っちゃダメなんだね?」
希「約束を破ること自体が目的の場合は別だけどね。」
希「ウチらは色んなことについて、自分から約束をするけど、
約束を守るという約束なんて、自分から進んではした事がないからね。」
希「そこまで来ると、嘘の場合と同じになるんよ。」
穂乃果「???」 ーーーーー
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穂乃果「ねぇねぇ希ちゃん!」
穂乃果「嫌なことをしなければならないとき、どうしたら良い?」
希「嫌なことって? 勉強とか?」
穂乃果「そうじゃなくて、人に謝らなきゃいけないときとか、
頼みにくい事を頼まなくちゃならないとか…」
穂乃果「そういう時のことだよ。」
希「そんな事たいした事じゃないんじゃない?」
穂乃果「ホノカにとっては重大な事なんだよっ」
希「まぁコツはあるよ。」
希「まず第一に、その事が正当なこと、すべき事である事を自分に言い聞かせる。」
希「それが終わったら、第二に、じゃあやろうかなと思って、
ちょっと待っているんだよ。力を抜いてね。」
希「そうすると、すーっとやれる時が来るん。
その時が来るのをただ待つんよ。」
希「大切なことは、ふとやってみるってことだよ。」 希「“ふと”って言うのは“不図”って事で、意図無しにって意味なん。
意図なしに、ふとやれる瞬間が来るのを待つ。」
希「慣れてくると、人生全体をふと生きる事が出来るようになってくるよ。」
希「そうなれば、しめたものよ。」
穂乃果「そんなこと出来るかなぁ…」
希「まずは、なにか言う時に練習してみると良いよ。
言うときなら、ふと言ってみる時に“ふと思った”って言っちゃう事が出来るから。」
希「そういう風にして、人生全体から小さな作為を少しづつ取り去って行くんよ。」
希「そうすると、最後には嫌なことなんて無くなっちゃうよ。」
穂乃果「そうかなぁ……」
穂乃果「…ホントを言うとね、勉強も嫌なことの一つなんだけど…
ふとやるっていうやり方は、勉強の時にも使える?」
希「もちろん使えるよ、やり方は同じ。」
希「なんでもそうなんだけど、する量の全体を考えないで、
とにかく、まずやり始めてみる事よ。」
希「つまり、何かをやり遂げようとしないで、ただやり始めようとするん。
やり始めるだけで良いって考えるんよ。」 穂乃果「でも、それだと、やり始めても何もやり遂げないうちに
すぐ嫌になって、やめちゃうかもしれないじゃん。」
希「ふと続けていれば良いんよ。」
穂乃果「……?」
希「それから、辞め方のコツもあるよ。」
穂乃果「辞め方のコツ?」
希「どんな仕事でもそうなんだけど、何となく調子が出てきて、
もっと続けたいと思うところで止めるのがコツだね。」
穂乃果「ひと区切りついたところで、じゃなくて?」
希「そう、区切りがついた所で止めると、
後でまた続けるのに力が必要になるからね。」
希「区切りがつかない所でやめて、その仕事の中に持続力を残しておく方が良いんよ。」 ーーーーー
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穂乃果「希ちゃぁん!」
穂乃果「眠っちゃいけないのに眠って、眠りたいのに眠れない事ってあるよね!?」
希「なぞなぞみたいだね。穂乃果ちゃんでも眠れない事があるの?」
穂乃果「そりゃあるよ! 眠れないなぁって思うと、ますます眠れなくなっちゃうの。
眠っちゃうときはいつの間にか寝てるのに…不思議だなぁ。」
希「人間がする沢山のことのうちには、自分の力で絶対実現出来ない事がある。」
希「眠ることがその代表かなぁ。眠ろうとして布団に入ったら、
後は穂乃果ちゃんに出来ることは何もない。」
希「ただ待っているほかないんよね。」
希「自分でなにかをしようとしたら、かえって妨げになるんよ。」
希「自分に出来ることは何もない。もし穂乃果ちゃんが不眠症なら、
人生の中のそういう種類の事を学ぶために、とても都合の良い立場にいる事になるよ。」
穂乃果「眠りたいと思ってるのに、眠ろうとはしないなんて事出来るかな?
眠ろうとしてるのに眠ろうとしないなんて!」
希「だから、寝れなくても良いんだって信じ込まなければダメなんよ。
それを前提にしたうえでなら、一つ眠る時だけに使える良いやり方があるよ。」 穂乃果「どんなやり方?」
希「眠るってことは、起きている時の世界とは別の世界に入ることだから、」
希「眠むる為にはまず、起きている時の世界のことは
全て忘れてしまわなけりゃダメなんだけど……」
希「ただ忘れるのは、ただ待つよりも、もっと難しいんよね。」
希「だから逆に、眠ってから入る世界の方を、
あらかじめ自分で勝手に作っちゃう方が簡単なの。」
希「昔のことを思い出しても良いよ。要するに、眠ってから見るはずの夢を、
自分で勝手に作っちゃって、その世界の中で生きている気になっちゃうの。」
希「それが完璧に成功して、布団の中に居ることを忘れてしまったとき、
穂乃果ちゃんはもう眠っちゃってるんよ。」
穂乃果「そんなこと……」ウ-ン… ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています