絵里「止まないで」
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季節は初秋、夏休み明け
海未「絵里、今日はありがとうございました」
絵里「生徒会の仕事を教えて欲しいだなんて、海未は真面目ね」
海未「そうでしょうか。早く仕事を覚えたいので、当然だと思いますが」
絵里「そういう事を当然と思える事すらもあなたが真面目たる証左よ」
海未「はぁ、そういうものですかね」
絵里「そういうものよ。さ、もうそろそろ帰りましょうか」
海未「ええ。途中までは一緒に帰れますね」 テクテクテクテク
海未「そういえば、私と穂乃果とことりで、昔はよくここら辺で遊んでいたのですよ」
絵里「へぇ。海未たち3人の思い出の場所、って感じかしら」
海未「ですね」
ポツリ ポツリ
ザーッ
海未「あ」
絵里「わわっ」
海未「絵里、こちらです!」
絵里「ふーっ、海未のおかげでびしょびしょになるのは避けられたわ」 海未「夕立、ですか。急にきましたね」
絵里「あ……」
海未「どうしました?」
絵里「な、なんでもないわっ」
絵里「そういえば」
絵里「小学生くらいの頃って、秘密の隠れ処みたいなの探して遊んだりしなかった?」
海未「しましたね。穂乃果とことりと、よくそういった場所を見つけてはお菓子を持ち寄って遊んだりしていました」
絵里「ふふっ。やっぱり海未達もそういう遊びをしたのね」
海未「この手の遊びは皆やるものだと思いますよ」 絵里「子供の頃は、隠れ処だとか秘密基地というものに憧れがあったものね」
海未「くすっ」
絵里「な、なによ」
海未「いえ。絵里にもそういう時代があったのだと思うと」
絵里「あなたは私を何だと思っているわけ?」
海未「すみません。ですが、今の絵里を知っていると、どうも想像がつかなくて」
絵里「あら。私だって生徒会長をやる前は、結構遊んでばかりだったのよ?」
海未「そうなのですか?」
絵里「ええ。そこまで真面目でもなかったしね。生徒会長になったのも頼まれたからで」
海未「意外です。いつも冷静沈着で泰然自若、剛毅果敢にして常に意気自如としている絵里が、そんな」
絵里「ホントに私を何だと思っているのよ……」 海未「生まれたときから鋼鉄の意志を持っている人だと思っていました」
絵里「そんなわけないでしょう」
海未「冗談ですよ」
絵里「海未もこんな下らない事を言うときがあるのね」
海未「たまには良いかと思いまして」
絵里「そうね。センスはないけれど」
海未「そうですか。勉強しておきます」 絵里「今はここが私と海未の隠れ処ね」
海未「と、言うと?」
絵里「雨がこの屋根の下だけ世界から断絶しているみたいでしょ? 今なら誰も来ないし、誰にも見られない。私と海未だけの隔離された世界よ」
絵里「ね、これって立派な隠れ処じゃあないかしら」
海未「随分詩的な事を言いますね」
絵里「馬鹿にしてる?」
海未「いいえ。素直に感心しましたよ」
絵里「えっ、そ、そう?」テレッ
海未「ええ。一度絵里も作詞をしてみては?」
絵里「作詞ねぇ」 絵里「夕立、雨宿り、このまま雨が止まないでくれたら」
絵里「ずっとあなたと二人きりでいられるのに……」
絵里「みたいな歌詞はどうかしら」
海未「なるほど。今の状況を詠ったわけですね」
絵里「あ、わ、わかっちゃった?」
海未「ふふっ。わかりますよ、それくらい」
絵里「海未……///」
海未「ですが、申し訳ありませんね。私が絵里の意中の方ではなくて」
絵里「……ま、そうよね」
海未「?」 絵里「それにしても、中々止まないわね」
海未「止まないように祈っていますから」
絵里「なぜそんな事を……」
海未「このまま止まなかったらあなたと二人きり、ずっと一緒にいられるからですよ」
絵里「さ、さらっとカッコいい事言わないでくれる?///」
海未「すみません」
絵里「ていうかそれ、さっき私の言った歌詞よね」
海未「気付きましたか」
絵里「数分前に言った事を忘れたりはしないわよ」
海未「流石、賢いですね絵里は」
絵里「それは馬鹿にしているのよね?」
海未「冗談ですよ」 海未「ですが、先ほど言ったのは本気ですよ」
海未「絵里とこうして二人で、ゆっくりお話する機会などあまりありませんからね」
絵里「思えばそうよね。海未のそばにはいつも穂乃果かことりがいるもの」
海未「でしたら、この夕立にも感謝しなければなりませんね」
絵里「えっ?」
海未「絵里と二人きりというのも、私は好きです」
絵里「っ〜〜///」カァァァ
絵里「も、もう。不意打ちはずるいわよ!///」
海未「ふふっ。ごめんなさい」 海未「でも、絵里の照れた顔が可愛くって」
絵里「ま、また!///」
海未「いつもは絵里にからかわれてばかりですからね。たまには仕返しをしませんと」
絵里「もうっ! いじわる!」
海未「絵里の照れた顔が見られるのならば、たまにはこういう状況もいいですね」
絵里「ずるいわねぇ……」
海未「あ、止んだようですね」
絵里「ホントね」
海未「名残惜しいですが、帰りましょうか」
絵里「そうね。もう結構な時間だわ」
――――
―――
――
― 〜数日後〜
海未「絵里、今日もありがとうございました」
絵里「いいのよ。真面目な海未ちゃんのためならこのくらい」
海未「引っかかる言い方ですね」
絵里「引っかからせたもの」
海未「なんですかそれ」
海未「まぁいいです。では帰りましょうか」
絵里「ええ」 テクテクテクテク
絵里「そういえばこの前は突然雨が降って大変だったわね」
海未「この季節はにわか雨に注意しないといけませんね」
絵里「今日も降ってきたりして」
海未「空模様が悪くなってきましたね」
絵里「まさか……」
海未「嫌な予感しかしません」 ポツポツ
ザーッ
絵里「やっぱり!」
海未「絵里、こちらへ」ササッ
絵里「デジャヴ、ね」
海未「呪われているのでしょうか」
絵里「ちょ、ちょっとやめてよ、怖い話は」
海未「ですが、今回は流石に学習しましたよ」バッ
絵里「流石海未ね。折り畳み傘とは」
海未「大人の嗜みですよ」 絵里「備えあれば嬉しいなと言う奴ね」
海未「憂いなし、ですよ」
海未「絵里は持っていないのですね」
絵里「ええ。残念ながら。私は嬉しくないみたい」
海未「憂いしかないというわけですね」
海未「入ってください。絵里の家まで送っていきますよ」
絵里「ありがとう」 絵里「海未、肩が濡れてない?」
海未「狭いですからね」
絵里「……じゃあ、もっと近付けばいいのよ」ギュ
海未「わっ、ちょっと、絵里!」
絵里「ほらほら、もっともっと」ギュウギュウ
海未「は、破廉恥ですよ!」
絵里「だって、海未が濡れるわけにもいかないじゃない。風邪ひかれても困るし」
海未「しかし、胸をそんなに押し付けて……」
海未「嫌味ですか?」
絵里「……」
絵里「海未に色仕掛けは通用しないか」
海未「当たり前です」 ……
絵里「あ、ここまででいいわよ。海未はあっちでしょ」
海未「えっ? どうするのですか?」
絵里「実は私も持っているの。大人の嗜み」バッ
海未「……最初から出しておけばよかったのでは」
絵里「ふふっ。海未と相合傘がしたかったのよ」
絵里「お陰で海未と密着できたし」
海未「えっ///」
海未「も、もう。冗談は止めてくださいっ///」カァッ
絵里「えっ、あっ――」
絵里「ご、ごめんなさいね///」
海未「あっ、い、いえ、謝るような事では///」
海未「ううぅ……、そういうわけでしたら、私はここで……。また明日、学校で」タタッ
絵里「え、ええ。またね」フリフリ 絵里(……)
絵里(海未の少し照れた顔、可愛いかったわね)
絵里(……そんな顔をするという事は)
絵里(少しは脈アリって、思ってもいいのかしら?)
絵里(なんて、ね)フフ
オワリ 冗談ってことにして誤魔化しちゃうみたいな好き合う一歩手前な雰囲気が良いね
お互いからかったり照れたりなえりうみ素晴らしい ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています