真姫「不確定エンディング」
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出逢ったその瞬間
多分、私たちは全く別のことを感じていた
それがあの子を好きになった理由だったのかもしれない
けれどその時の私にとって、そんな事はどうでもよかった 「その時凛ちゃんがね…」
適当な相槌しか打たない私に、クラスメイトの小泉花陽は熱心に自分の幼馴染の話をしている。
こんな無愛想な人間に話して楽しいのだろうか?
花陽は私に話す時だけ、普段の彼女とは別の一面を見せる気がする。
小泉花陽はおとなしく、人見知りの子
それがこのクラスでの花陽の評価だ。 「ねぇ、真姫ちゃん。私の話聞いてる?」
「もちろん。捨て猫の話よね」
「違うよ!凛ちゃんの話!」
花陽がわざとらしくぷくーっと膨れる。
最近になって、彼女は眼鏡をコンタクトレンズに変えた。
少し遅いけれど高校デビューなのだろう。 ずっと空返事ばかりの私に、とうとう花陽の堪忍袋の緒が切れた。
「ま〜き〜ちゃ〜ん〜!」
彼女は両手を私の肩に置き、前後に動かす。必然的に私の脳は反動をつけて揺さぶられた。
花陽の顔が上下にブレる。
彼女の意図とは逆に、私の興味は目の前の花陽から過去へと遡り始めていた。 「西木野さん!」
息を切らし、後ろから私に声を掛けた少女
「あなた…同じクラスの…」
「小泉です!突然ですけど、私とお友達になってください!」
本当に突然で、私には意味がわからなかった。
「そういうの、興味ないの」
「私、友達なんて必要ないので」
私は花陽から目を背け、歩き始める。嘘をついた。恥ずかしくて顔が真っ赤になりそうだ。
ずっとずっと、私は友達が欲しかった。 「待って!」
花陽が私の手を掴む。か弱い見た目の彼女からは想像できないほどの力で、だけど震えている。
「西木野さん、私とお友達になってください」
花陽は同じことを言った。
私は振り向かない。花陽の顔を見れば、私はきっと涙を見せる。
そんなの、西木野真姫じゃない。 「…好きにしなさい」
それが精一杯の照れ隠しのつもり。花陽の手が緩んだ隙に、私は歩き始めた。
振り返る勇気はない。彼女はどんな顔をしているんだろう。
高飛車な私に失望しただろうか。
身勝手な私に憤慨しただろうか。
怖くて、歩くペースが勝手に速くなっていく。 「真姫ちゃん!」
突然、私は名前を呼ばれた。
驚きのあまり、つい後ろを振り返ってしまう。
「今日からは真姫ちゃんって呼びます!だから、私の事も花陽って呼んでください!」
数メートル後ろにいる花陽は、屈託のない笑顔でそう言った。
どうして小泉花陽が西木野真姫と友達になりたいのか。
どうでもよくなった。考えても考えても、きっと私にはわからないだろうから。 花陽との出会いを振り返っている内に、私の目の前から彼女はいなくなっていた。どうやら知らない間に私は危機を脱していたらしい。
花陽は自分の席に戻り、午後の授業の準備を始めている。
教室の喧騒がより一層大きく感じる。
最初こそ、私と花陽が一緒にいることでクラスではさまざまな邪推をされた。私が花陽を手下にしたとか親の借金を理由に脅しているとか、本当にくだらない噂話が出た。
それらも、私といる時に見せる花陽の笑顔ですぐに嘘だとわかり消えていった。今では私と花陽はこの教室公認の『友達』になっている。 高校生になり、花陽と友達になった。
それから私は花陽とずっと一緒にいた気がする。
休みの日も、互いの家に泊まったりした。私の部屋には花陽専用の荷物スペースまでできていた。
これから二年生三年生…そして卒業してからもずっと花陽が友達でいてくれる。
他には何もいらない
彼女の太陽のような暖かさは、じっくりと私の心を焦がし始めていた。 「かよち〜ん!たまには凛にも構ってよ〜!」
耳障りな声が私の大切な友達にまとわりついた。
花陽は一瞬だけ私の方を見て、その声の主と話し始める。
星空 凛
花陽の幼馴染"だった"子だ。
一年生が一クラスしかないこの学校で、必然的に私たちは同じクラスとなる。
やめて
やめて
やめて 星空凛は馴れ馴れしく花陽に抱きつく。その手がいやらしく這い回り、花陽を汚した。
「うん!かよちんはふかふかだにゃ!」
「やめてよ〜凛ちゃん」
目を逸らしたいのに、この不快な教室からは逃げられない。
私が反応すれば、星空凛は必ず私に接触する。
その時、冷静な対応ができる自信がない。
私はとっくに花陽に依存しきっている。自覚している。
私にできるのは、歯を食いしばりこの瞬間を堪えることだけだった。 いつのまにか午後の授業が終わり、放課後になった。
外からは運動部のランニングの掛け声が聞こえる。
私はどっと疲れ、帰り支度をする元気すらも失くしていた。
「真姫ちゃん、お昼はごめんね」
花陽は私の機嫌が悪いことをわかっていた。
「私の友達は花陽だけよ。知ってるでしょ」
「うん。もちろん」
「あなたが他の人と仲良くするのがイヤ。私以外と楽しそうにしているのがイヤ」
「そうだね。『本当の私』には真姫ちゃんしかいないんだよ。だから、不安にならなくて大丈夫」
夕陽が窓に反射し、花陽の笑顔は一瞬だけ隠れた。
私は無言で立ち上がり、彼女を抱き締める。 抱き締めた花陽の身体は、星空凛が言っていたとおりに柔らかかった。
花陽の髪からは控えめなシャンプーの香りがしている。
私は蓄積されてしまったモヤモヤを浄化するために花陽の存在そのものを全身で感じた。
西木野真姫の弱さを見せることができるのは、この子だけ。
小泉花陽の存在は、私の中身のほとんどになろうとしていた。 どうして西木野さんが凛とかよちんの話に入ってくるの!? ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています