絵里・真姫「「貴女との明日」」
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絵里「このステップはどう?」
真姫「とてもいいと思うけど、貴女以外できないんじゃない?」
絵里「そう…少し調整しましょう。リズムをもう少し落とせる?それで振り付けを考えるわ」
真姫「分かった。ちょっと待ってて、テンポを落としても違和感がないところを探ってみるから」 μ`sの一員となってから私と真姫は一緒に過ごす時間が増えた。
私の振り付けを基にメロディをつけてもらったこともあったり
海未の歌詞から振付を考えたこともあったけれど
海未と私を中心に曲を完成させるとどうしてもメンバーの体力的には厳しいものとなることが多く、そこに異を唱えたのが真姫だった。
今では海未の歌詞を基に真姫がメロディをつけ、私が振り付けを最後に考えるという流れが主流。
私もこれがベストだと思っている。 海未の仕事が早いというのもあるけれど、真姫はNOをハッキリと私に言ってくれる珍しい存在だったから。
勿論海未があやふやな返事しかしない子だと言うわけじゃない、むしろ間違っていることには毅然とした態度を崩さない。
ただ……技術や体力的な話になると案外ノリノリで「やりましょう!」と羽目を外してしまう節がある。
私も下級生ができるというのなら大丈夫だろうと安易に話を進めてしまう悪癖があるみたいで、そういう意味で真姫はとても貴重な存在。 あまりそういう風には考えたくないけれど、私は人に威圧感を与えてしまうことがあるらしい。
男の人や目上の人でも遠慮がちだったりするし、同級生、下級生であればなお更私の外国の血が強く出た容姿は人を委縮させてしまうみたい。
それでも真姫は、その凛とした眼差しは私を真っすぐ見つめてくれる。
私はいつしかその視線に魅せられるようになっていった。 真姫「ねぇ絵里、貴女はこの歌詞からどんなメロディをイメージした?」
絵里「うーん……難しいわね。作曲なんて普段しないから…」
真姫「そう…」
絵里「煮詰まった時は気分を変えるのが一番よ。私も気分転換下手な方だから分かるの、あまり考え込んでもうまくはいかないものよ?」
真姫「気分転換…?」
絵里「そうだ、今からちょっと二人で遊びに行きましょう!」 真姫「え、ちょっと!」
絵里「大丈夫よ、時間はまだあるし間に合わなかったら私も謝るわ!」
真姫「ま、待ちなさいよ〜!」
絵里「遅かったらジュース奢りでー!」
真姫「もー!ズルいわよー!」 いつの間にか私は絵里と作業をする時間が長くなった。
アイドル活動の肝である歌と踊りを決めるポジションに偶々私達がいたから。
μ`sを結成する前は正直絵里に対してあまりいい感情を抱いていなかったわ。
同じグループになってからも、私はしばらくぎこちなかったと思う。
……あまり人付き合いが上手な方じゃないのは認めざるを得ないところね。
皆は真姫ちゃんなら、真姫なら上手くやれるだろうと曲作りを私に一任してくれている。
昔からしっかりしているから、大人びているからと人に心配されることは少なく、大体の事は一人でこなしてきた。
実際曲作りに関しても任せっきりにされていれば、一人でどうにかしたのだろう。 ただ、彼女は思いの外人懐っこく、交わる部分がある作業をこなす私をよく気にかけてくれた。
いつの日か絵里に指を褒められたの。「長くてとても綺麗ね、羨ましいわ」と。
何でも絵里が昔やっていたバレエは、指先まで神経を張り詰めて演技をするような競技らしく、その時の癖でつい見てしまうのだとか。
自分では気づかなかった部分を初めて人に褒められるのは悪い気分ではなかったわ。
あまり友達を作らず、人と距離を置く自分と似たところがあると思っていた彼女の明るい一面が私は気になるようになっていった。 絵里「ねぇ、真姫?」
真姫「なに?」
絵里「私、貴女の事が好きよ」
真姫「はいはい、また指の話でしょう?どうも」
絵里「指も、歌声も。そうやってそっぽ向いたりするところも」
真姫「向いてないわよ!」
絵里「私を真っすぐ見てくれるところも」
真姫「……っ。今日の絵里変よ?」
絵里「そうね。いつからだろう……私、変なのよ」 真姫「………多分、私も」
絵里「可笑しいわよね、女同士でこんな感情」
真姫「おかしいわね」
絵里「ごめんなさいね。先輩の私が堪えないといけないのに」
真姫「μ`sに先輩も後輩もないんでしょう?」
絵里「ふふ、そうだった」
真姫「絵里、私の目を見て?」
絵里「えぇ」
真姫「私も…貴女が好きよ」 絵里、貴女が好きよ。
透き通る雪のような白い肌に、癖のない真っ直ぐな金の髪。
スラっと伸びた長い脚や綺麗なアイスブルーの瞳。
脆い部分を隠して気丈にふるまう姿も、賢いのにどこか抜けている一面も。
好きよ絵里、貴女が好きになってしまったの。 真姫、貴女が好き。
強い眼差しに、力強い歌声。
長くて繊細な指や、シャープで整った顔立ち。
誰より現実を見ているのに、誰よりも純粋に夢を信じる優しい心も。
好きよ真姫、貴女が好きなの。 その日二人で初めて手を繋いだ。
恋人って何をすればいいんだろうって二人で笑い合った。
慣れないハンバーガーショップに二人で行って、アタフタしていたら店員さんを困らせて。
やっと頼めたポテトが妙に美味しく感じた。 二人で撮るプリクラはとても新鮮だった。
いつも9人で撮る空間が妙に広く感じて、身を寄せ合った。
タイミングが分からず変な写りになって、落書きの時間が足りなくて中途半端になったり。
手探りで過ごすぎこちない時間が二人だけの秘密を作っていくようで楽しかった。
別れの時間、恋人と繋いだ手を離すのが寂しいことなんだと知ったのはこの時。 真姫「〜♪」
真姫ママ「最近はご機嫌な日が多いわね」
真姫「べ、別にそんなことは…」
真姫ママ「ひょっとして彼氏でもできたとか?」
真姫「違うわよ!」
真姫パパ「可愛い真姫の恋なら私も応援するよ」
真姫「だから違うの〜!!」 真姫パパ「真姫が選んだ男の子だ、きっと聡明で優しいんだろう」
真姫「本当にそういうのじゃないの…」
真姫ママ「うふふ、ならそういうことにしておきましょうか」
真姫「あのねパパ、ママ。実は私の友達同士がね、お付き合いを始めたの。それがとても幸せそうだったから私も嬉しくなっちゃったと言うか…」
真姫パパ「……………………………」
真姫ママ「ま、真姫ちゃん?お風呂湧いてるから入ってきちゃって?」
真姫「……はい」 何となく、探りを入れてみたつもりだった。
きっとパパとママなら受け入れてくれるんだろうと。
女の子同士が付き合ったっていいんだよって。
でも現実は違った。
困ったような顔ととても冷たいパパの顔。
あんなに私に優しかったパパのあんな顔、今まで見たことがなかったわ。
けじめをつける時までこの話はやめようと誓った。 亜里沙「お姉ちゃん」
絵里「どうしたの?」
亜里沙「お姉ちゃんは真姫さんとお付き合いしてるの?」
絵里「ストレートに聞くのね…」
亜里沙「真姫さんが来るときは真姫さんしか来ないから、変だなぁって」
絵里「はぁ…妹に隠してもしょうがないわね。私と真姫はね、付き合っているの」
亜里沙「ハラッセオ〜!恋人ってどんなことをするの?」
絵里「どんなことって普通よ。お話したり、お茶したり遊んだり」 |c||^.- ^|| あくあくAqoursですわ 亜里沙「ふぅん。亜里沙にはまだよくわからないや」
絵里「私もよく分かってないわ」
亜里沙「でも、真姫さんの事を話してる時のお姉ちゃんとっても楽しそう!」
絵里「そ、そう?そんな風だったのね…」
亜里沙「その、お姉ちゃん。お祖母さまにも言うつもりなの?」
絵里「いつか言わないといけないわね。大丈夫、優しいお祖母様だもの。きっとわかってくれるわ」 私の不安を亜里沙は見通していた。
細かい部分はすっ飛ばして直感したんでしょうね、亜里沙はそういう子。
お祖母様に打ち明けるのは私も少し怖い。
同性愛者に対してロシアは厳しい国だから。
同性愛者が命を奪われる悲しい事件すら起こる国。
徐々に理解はされてきているとはいっても、その分反発の意見も深まっているのも事実。
昔の時代から生きているお祖母様なら男女で愛を育むのが当然と考えていてもおかしくない。
ねぇ真姫?私少し怖いわ。
どうしたらいいかしら?
なんて貴女には言っちゃダメよね。
私の方が大人なんだからしっかりしないと。 真姫「エリー、私達の事いつ打ち明けるべきなのかしら」
絵里「そうね……真姫が大学を卒業するまでは待った方がいいかも」
真姫「はぁ…かなり先じゃない」
絵里「仕方ないわよ。しっかり自立する力を身に着けてからじゃないと」
真姫「分かってるけど」
絵里「μ`sの皆には言ってもよかったかもしれないけれどね。タイミングがなかったから」
真姫「言えないわよ。皆で最高のステージを作ろうって時にそんなこと」
絵里「えぇ、だからいつかきっと言いましょう」
真姫「それはいつ?」
絵里「分からない。でも、いつかきっとよ」 それから六年ほどの月日が経った。
何回か別れた方がいいという話もあったし、男性の恋人を見つけた方がいいという流れにもなった。
二人共男性を嫌悪しているわけではなかったから。
じゃあどんな男の人がいい?
話してみると二人とも同じような人を挙げてしまい苦笑いがこぼれた。
あぁ、私は貴女が好きなんだと余計に気付かされてしまう。
私達は元の道に戻る最後の選択を断ち切った。 真姫パパ「改まってどうしたんだい」
真姫「そのね、パパ。私には恋人がいるの……女性の」
真姫パパ「真姫、そんなくだらないことの為に私を呼びだしたのかい」
真姫「下らないって……!」
真姫パパ「出ていきなさい、二度と西木野の門を通ることは許さない」 真姫「………さようなら。今まで育ててくれてありがとう」
真姫ママ「真姫ちゃん…」
真姫「ママも、さようなら」
真姫ママ「これを。サンタさんからよ」
真姫「……?ありがとう、それじゃ行くわ」 こうして私は西木野の家から事実上絶縁されることになった。
世間体を重んじる医者の世界で、跡取りが同性愛者ではやはり示しがつかなかったのだろう。
パパの権威が失墜してしまえばパパだけでなく部下や後輩、彼を慕い付き従ってきた人の生活まで危ぶまれる。
高校生だった当時は認めてもらえないことを恨みもしたが、今となってはパパに対しどういった感情を抱けばいいか分からない。
大人になってから分かりたくもないようなことまで色々とわかってしまった。
私がパパの立場なら子供を理解してあげられたのだろうか。 季節外れも甚だしいサンタさんからの手紙の封を切る。
手紙にはパパの気持ちを代弁するサンタさんの言葉がつづられていた。
パパはとても悩んでいたこと、パパは私を愛していたこと、パパの立場ではどうしても私を公に認めてあげることができなかったということ。
東京から遠く離れた病院の働き口の紹介や、卒業おめでとうと書かれた生活費の小切手も。
大人になっても毎年欠かさずクリスマスをお祝いしてくれていた優しいサンタさんからの手紙はパパもサンタさんも私を愛しているという言葉で締めくくられている。
手紙は何かに濡れたように所々点状の皺の痕が見受けられた。
パパ、私だって24歳にもなればいくらなんだって気付くわ。
パパの気持ちも知らずに強がることしかできなかった私を許してほしい。
もう煙突を磨くこともメリークリスマスを返すこともできないけれど
私もパパを愛してる。
ありがとう、そしてさようならサンタさん。 絵里「お祖母様、お話があります」
お祖母様「どうしたんだい、エリーチカ」
絵里「はい。私は…エリーチカには同性のパートナーがいるんです」
お祖母様「言葉の意味は分かっている?」
絵里「分かっています」
お祖母様「お前が男だったら今頃殴り殺されていても、この国では庇ってくれる者などいないんだよ」
絵里「…はい」
お祖母様「それがお前の意思だというのならお行き。これが今生の別れになるのは寂しいね」
絵里「…うぅっ、ぐすっ」
お祖母様「可愛い顔が台無しだよ。エリーチカ、お前には笑顔がよく似合う。お前を笑顔にしてくれる者の元へ、さぁ」
絵里「До свидания.(また会いましょう)お祖母様」
お祖母様「あぁ、До свидания.」 私はお祖母様と二度と会うことはなかった。
ロシアという国は同成婚への反対意見が80%超えるのも珍しいことではなく、
男性の方がより強い差別を受けるとはいえ、女性なら安全かと言われるとそうでもない。
ロシアでは公衆の面前で同性がキスをすれば罪に問われることだってある。
お祖母様なりの優しさだったということはわかっていても、祝福してほしかったと思うのは私の我が儘だろうか。 お祖母様は没するまで毎年私にお便りをくれた。
心配をさせないように真姫の事を書かないことがもどかしくて苦しかった。
また会いましょうの言葉が毎年私に重くのしかかる。
ごめんなさいお祖母様。
エリーチカは間違ったことをしてしまったんでしょうか。
それでも自分の感情に嘘はつけません。
さようなら。 真姫「狭いわね、この部屋」
絵里「贅沢言わないの。それにあんまり広くたって二人しかいないんだから」
真姫「それもそうね……。あ、そうそう皆からお祝い来てたわよ」
絵里「ふふ、優しいのね皆」
真姫「もっと早くに言えばよかったと思う?」
絵里「どうかしら、大人になったからこそ受け入れられることだってあるし」
真姫「あの時打ち明けていればどうなっていたか分からない……ってこと?」
絵里「そうは言わないけど。人と違った面を受け入れてもらうってきっと贅沢なことなのよ」 真姫「間違ったことはしていなくても?」
絵里「そうね、間違ったことじゃなくても。真姫の方が分かってるんじゃない?」
真姫「………うん」
絵里「本当に二人きりになっちゃったわね」
真姫「何よ、私と二人は嫌なの?」
絵里「むくれないの。嫌なわけないでしょう?」
真姫「知ってるわ」
絵里「ここまで来るのに色々なものを失ったわ」
真姫「後悔してる?」
絵里「ううん、真姫は?」
真姫「してない」
絵里「嬉しい。私もよ」 私達は地方のマンションに二人で暮らすことを選んだ。
街の診療所と、企業勤めの共働き。
周りには気が合う二人でルームシェアという形で説明しているがその平穏もいつまで続くかは分からない。
いつか二人で診療所か喫茶店でも開ければいいな、なんて話を語ったりもする。
μ`sのメンバーからはそれぞれお祝いのメッセージが届いた。
それ以上は何もなく、日常へと戻っていく。
結婚して家庭を持つ者に仕事に精を出す者、それぞれ自分の未来を歩んでいる。
私達が皆から遠ざかっていたこともあるし、向こうも私達に構っているヒマなどないのだろう。
もし普通の人生を歩んでいれば彼女達とも変わらぬままの関係でいれたのだろうか。
ifに意味はない、時間はただ進んでいく。
後悔はしていない。
たった一つだけ大切なものを守ることはできたから。
貴女との明日を。 乙
他メンバーも深くは関わろうとしない辺りが悲しい 乙
良い雰囲気だった
あくまで二人の物語だけ書ききって終わったの好き ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています