【ss】善子「幸せに生かされて」
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私の人生は、こんなはずじゃなかった。
…なんて言うと、あたかも絶望の淵で嘆いているように聞こえるかしら。
そうよね。
アニメかマンガでこの台詞を聞いたなら、私だってそう受け取ったに違いないもの。
でもね、決して、必ずしもそうとは限らない。
「こんなはず」じゃなければ「どんなはず」だったのか、その前提によって話は大きく変わるわ。
私の場合、そうね…ふふ。
ねえ、どうせひまでしょう?
少しだけ、昔話に付き合っていきなさいよ。
退屈はさせないから――ね♪
………………
……… 今さら改まって言うまでもないと思うけれど、私の人生がこんな風になったのには、何人かの重要人物が絡んでいるの。
繰り返して言っておくけれど、悲惨なほうに転がったとかひどい人生だったとか、そっちじゃないからね。
上手くやれば、この口上、叙述トリックなんかに使えそうね。
私はやらないけど。
それで、なんだっけ…ああ、そうよそうよ。千歌さんたちの話。
あのミス・ゴーイングマイウェイとの出会いこそ、私の人生の転換だったわ。
…とは言っても、時系列的に語るなら、実は彼女は割と遅めで。
大きな流れとして最初に私に接触してきたのは、意外や意外――曜だったのよね。
…意外でもないか。
………………
…………
…… 曜「あ。やっほー」
待ったかって? 全然待ってないよ、私もさっき来たとこだから。じゃ行こっか。今日も楽しい一日になりそうだね!
笑顔で、仕草で、こうも雄弁に距離を詰めることが可能なものなのね…なによりもまずそんなことを考えた。
次いで、いやいやいやいやと思考が冷静さを取り戻す。
善子「――だ、誰?!」
ズザザと後ずさり。
ターニングポイントと言えば、ここで咄嗟に自宅へ取って返さなかった私自身の行動もその一因だったと言える。
これまであまり積極的に人と関わってこなかったせいか、リアクションとしてまず身体が動くということが、ない。 曜「あれ? なんで制服じゃないの? カバンは?」
善子「んな、な…」オロ
曜「どこ行くの?」
善子「どこって、そこ、コンビニ、飲み物…」
曜「そっかー! 暑いもんね、今日」
善子「う、うん」
曜「じゃ早く行こ。もー、着替えとけば買いにいった足でバスに乗れるのにー」グイ
善子「や、ややややや、待ってよ!」パシッ
曜「あ…」シュン
善子「あ…その、ごめんなさい…」 善子「でも、その、あなた…誰よ。なんなの? こんな、まるで…」
曜「そっか、挨拶まだだっけ!」ハッ
曜「私、渡辺曜っていうの。気軽によーちゃんって呼んで!」ゞ
善子「ええ…初対面の挨拶を忘れることなんてあるの…」
曜 ニッコニコ
善子「…渡辺先輩、」
曜「気軽によーちゃんって呼んで!」ゞ
善子「渡辺先輩は、どうしてここにいるんですか。その、まるで…私のことを待ってたみたいに…」
曜「よーちゃんって…」 善子「…あの、」
曜「あ! 私ね、待ってたんだよ。あなたのこと」パッ
善子「は? なんで?」
曜「前に見かけたとき、すごい美人さんだな〜と思ってねえ。そしたらなんか近くに住んでるらしいから、これはもう一緒に登校するしかない! ってことだよ」ガッツポーズ
善子「意味がわからないんですけど」
曜「とにかくとにかく! さささ、早く買い物済ませて準備しちゃおーよ。次のバスには間に合うようにさ!」グイグイ
善子「ちょっあの押さないで…待って待ってよ待ってってば」グググ…
曜「む〜? なかなか力あるね。負けないぞーっ」グイーッ
善子「だあああああっ力比べとかしたいんじゃないからあ!!」
………………
……… アリガトウゴザイマシターッ
曜「それでね、『くるくるーっドボーンってやるだけだよ』って勧誘されたのにね、やってみたら全然そんなことなくって、失敗したら鼻に水とか入るし、」プシッ ゴクッ
曜「んおわ〜っ、これ美味しい! ねね、飲んでみて! これ美味しい! それも美味しい? ちょうだい! 開けちゃうね!」ヒョイ プシッ ゴクッ
曜「んええ…あんまり美味しくなぁい…」カエスネ つジュース
善子「…」ポカン…
曜「ん? どしたの?」
善子「いえ…なんていうか、こんな…コミュニケーション能力のオバケみたいな人が実在するものなんだと思って…」
曜「オバケぇ?! 私?! そんなに怖いものじゃないよ!」アセアセ
善子「そのくせあんまり人の話は聞いてないし」 曜「朝から炭酸ジュース飲むのって、なんかちょっぴりいけないことしてるみたいで楽しいね」フフフ
善子「はあ…そういうものかしら…」
曜「朝ごはんは牛乳って相場が決まってるしね。お父さんだけコーヒー飲むけどね。私そこまで大好きってわけじゃないしな〜」
善子「私のうちは別に牛乳って決まってないけど…」
曜「空っぽになっちゃった。ね、おうちに捨ててもいい?」
善子「それくらい構わないけど…」
善子「っていうかあなた、どこまでついてくるつもりなの?」
曜「どこって、学校までだよ? 一緒に行くって約束したじゃん」
善子「してないし。なんなら行かないし、学校…」
曜「え?! 行かないの?! なんで?!」
善子「…」ムッ
善子 ハァ…
善子「あのね、先輩にこんなこと言いたくないんですけど、よく知りもしない相手を朝から待伏せなんて非常識――」
曜「もしかして、今日ってお休みだっけ?!」ハッ
善子 ガクッ
………………
……… ー津島家前ー
善子「あの、ほんとに…もう家なんで。早く学校行ってください」
曜「ヘーキヘーキ、待つから!」
善子「いいかげんに話を聞きなさいよ! 私は行かないんだってば!」
曜「でも私はあなたと一緒に学校行きたいんだけどなー」
善子「あんまり人の話を聞かないと友達なくすわよ」
曜「明日は行く?」
善子「知らない」
曜「明日もお迎えにきていい?」
善子「来なくていい」
曜「大丈夫だよ、私も家すぐ近くだから」
善子「そーいうんじゃなくて、」
曜「お名前、なんていうの?」
善子「…津島善子」
曜「善子ちゃんね! じゃあ今日は私もう行くね。早く風邪治しなね! ばいばーいっ!」タタタ…
ウワーッ ヤバイ チコクカモーッ!
善子「…風邪とか一言も言ってないし。なんなのよ、もう…」
………………
…………
…… それが私と曜との出会いで、もっと言えば全ての起こりだったの。
私は少しだって受け入れるような態度を取らなかったはずなのにね…そんなのお構いなしよ。
今だって大差ないけれど、やっぱり曜はあの頃からコミュニケーション能力のオバケだったわ。
去り際の言葉通りにね、次の日も来たの。
さも当然みたいに、インターホンまで鳴らしちゃって。
お母さんが出た後でよかったわ。
じゃなければ、あれよあれよという間に登校する流れになってたはずだものね。
…ま、結果的にまんまと連れ出されたわけだから、早いか遅いかの違いでしかなかったんだけど。 そう。
これだって言うまでもないと思うけれど、私は不登校の身を引きずって、あっさりとまた学校へ行くようになったわ。
曜と会って、一週間もしないうちだったかも。
だからお母さんも本当に私は体調が悪かっただけだったんじゃないか、って思い直しちゃったみたいよ。
そもそも私が入学早々登校しなくなったのは、まあ、様々な不幸が重なっての悲しい事故に由来するんだけど――うるさい! あの頃は若かったから!
そんな中、どうして復学したかというとね、…結構恥ずかしいんだけど、『行ってもいいかも』って思ったからなの。それだけ。
っていうか、違うわね、『この人となら行ってもいいかも』って――思ったんだったかしら。
この人っていうのは、もちろん曜のことよ。
毎日飽きずに迎えにくることに、うっとうしさなんかも感じていたくらいなのに。
ふと、ね。
ある日、気付いたのよ――
………………
…………
…… ピンポーン
…トタトタトタ ガチャ
曜「善子ちゃん! おはヨーソロー!」ゞ
善子「…やっぱり今日も来たのね」
曜「お話ししたいからね!」
善子「…上がれば」スッ
曜「おじゃましまーすっ」 善子「はい」コト
曜「あ、気を遣わせちゃって…って牛乳じゃん!」
善子「4.5特濃よ。買っておいたの」
曜「朝はうちで牛乳飲んでくるって言ったでしょ?!」
善子「ええ。つまり好きなんでしょ?」ニヤ
曜「好きだけど! 貰うけど! も〜〜っ!」ゴクゴクゴクッ 善子「なんか、日に日に早くなってない?」
曜「だって善子ちゃんと話すの楽しいんだもん。なんならもっと早く来れるよ」
善子「ママと遭遇しかねないから。やめてください」
曜「そろそろご挨拶しないとね…」
善子「いいから! ほんとにいらないから! やりそうで怖いのよ…その表情やめてほんと!」
曜「今日は何時に起きたの?」
善子「6時」
曜「早いね!」
善子「あなたのほうが早いでしょ」
曜「よーちゃん」
善子「渡辺先輩」
曜 シュン… 曜「あ!」
善子「なによ」
曜「善子ちゃん、化学とか得意そうだよね」ゴソ
善子「まさか」
曜「教えてほしいところがあって!」サッ
善子「嘘でしょ先輩」
曜「化学に関しては私より先輩でしょうに〜」ココナノ
善子「意味わかんないし。私も習ってないしそんなとこ」
曜「これ。化学なのに突然英語が出てきてね、」
善子「CO2」
曜「足し算とかし始めるし、なんの教科だよってね!」プンプン
善子「あなたよく高校に入学できたわね…」ワナワナ
………………
……… 善子「バス。そろそろじゃないの?」
曜「うわっほんとだ! あっぶな!」ガタッ
曜「じゃあまた明日ね、善子ちゃん!」バタバタ
善子「あ、うん…」
曜 バタ… ピタ
善子「どうしたの?」
曜「初めて『もう来なくていい』って言わなかった」ニシシ
善子「――!」
曜「明日もお話ししにきていい?」
善子「…」
善子「うん。待ってる」
曜「えへへっ。やった!」 善子「…渡辺先輩は」
曜「うん?」
善子「『学校に来い』とも言わないし、『なんで来ないの』とも聞かないのね」
曜「うんん??」
善子「私を連れ出すために、毎日来てるわけじゃないの?」
曜「うーん…」
曜「そういうのは、私が善子ちゃんとお話しするのに関係ないからね!」パッ
善子「!」
曜「私は休んじゃおうって思うことより行ってみんなに会いたいって思うことのほうが多いからよくわかんないけど、善子ちゃんは善子ちゃんの大切なことがあって、それで『行かない』んでしょ?」
曜「それは私が口出しすることじゃないから」
曜「よーちゃんは、こうやって善子ちゃんが毎日お話ししてくれることが嬉しいから来てるだけなのであります!」ゞ
善子「…!!」
曜「もちろん、一緒にバスでお話しできる日が来るのも楽しみにしてるよ。そのうちね!」
曜「じゃ、私は行くよ! また明日ねーっ!」ノシ タタタ…
ウギャーッ マッテマッテ ソノバスノリマース!!
………………
…………
…… 私が学校に行くのを再開したのは、その次の日からよ。
行かない理由は、曜が言ったような『大切なこと』なんてものじゃ全然なかったけれど、曜の言葉とか思いとかにあてられたって点はその通り。
行きたくないって思うより、曜とバスの中でお話ししたいって思ったから――かしらね。
制服で出迎えたときの曜の顔ったら…なかったわよ。
初めて名前で呼んだときもね。
なんで撮っておかなかったんだろうって思っちゃうくらい。
それから、バスで30分、歩いて10分の通学路を曜と往くのが、私の日課になったってわけ。
帰りは一人だったわよ。まあ、最初のうちは――ね。
登校を再開してから程なくして、私は再会することになるのよ。
運命の従者とね。
………………
…………
…… キリーツ キヲツケー レー
ガヤガヤ…
善子「本日も終わり…疲れたぁ」フニャ
「つーしまさん」
善子 ビクッ
「帰り松月寄ってかない?」
善子「うえ?! えっと、その、」
「あ、でも津島さん沼津の駅のほうだっけ」
善子「う、うん…」
「じゃあ遅くなっちゃうかなー」
「また今度行こうね!」
善子「うん」
「ばいばーい」
善子「ば、ばいばい…」
善子 チラッ
『16:20』
善子 (木負まで下りなきゃ…)
善子「帰ろ」ガタ…
………………
……… 善子 トコトコ
善子 (別に喫茶店寄ってくくらいよかったのにな)
善子 (あんなに簡単に諦めなくてもいいじゃない)
善子「…」
善子「いや、『行く』って言えなかった私の責任よね。どう考えても」
善子 (でも、誘ってくれた)
善子 (高校では友達できるかもしれない!)
善子 (友達…)
――『善子ちゃん』
善子 ブンブンブンッ
善子 (あの子のあれは私のことばかにしてるだけだし。腐れ縁だし。友達とかじゃないし)
善子「…ん?」 ?? トコトコ
善子「…」
善子 (私の勘違い? あの人の勘違い?)
善子「う〜ん…」
善子 (…ま、私の勘違いなら『あっそう』で済む話か)
善子「ねえ、あなた」
?? トコトコ
善子「ねえってば」
??「っ?!」ビクッ
??「は、はい…」オド
善子 (…あ。二年生じゃん…じゃあ私の勘違いか…) ハァ 善子「親が迎えにでも来るの?」
??「えっ。いえ、そんなことありませんけど…」
善子「それじゃ、バス?」
??「はい。下のバス停から乗ろうかなって」
善子「しばらく来ないと思いますよ。次の沼津方面は5時20分だから…って、ごめんなさい、余計なお世話でしたよね…」
??「えっ、そうなんですか?! うう…そんなに待つんだあ…」
善子「…」
善子「バス、滅多に乗らないんですか?」
??「…実は、今年度から転校してきたばっかりで」
善子「ふうん…」
善子「それなら、大通りのほうに出ましょう。そっちなら少しは早くバス来ますから。私も行きますし」
??「ほんとですか?! ありがとうございます!」ニコッ
善子「……別に」プイッ
善子 (なんか、会ったことあるかも…この人…) 善子「転校なんて珍しいですね。二年生になって」
??「私一人、前の学校に残ってもよかったんですけどね。お母さんにダメって言われちゃって」
善子「ふうん…」
??「あの、教えてくださってありがとうございます。じゃなかったら、私バス停でずっと待ってました」
善子「なんで今日はバスに乗ろうとしたの?」
??「お母さんと沼津のほうで待ち合わせをしてるんです。晩ごはん食べにいこうって」
善子「そう。さすがに歩ける距離じゃないものね」
??「はい。…あの、」
善子「ねえ」
??「は、はい?」
善子「あなた、どこから転校してきたの?」 ??「東京ですよ。聞いたことはない学校だと思いますけど」
善子「なんて学校?」
??「国立音ノ木坂学院ってところです」
善子「…やっぱり」
??「え?」
善子「久し振りね」
??「はい?」
善子 ジッ
善子「…間違いないでしょ。桜内梨子さん」
梨子「はわ?! 私の名前っ、どうして…」
善子「会ったことあるじゃない。私たち」
梨子「え…」 善子「まったく…とろそうなのは変わらないのね。それならこう呼べば思い出すかしら」
善子 スッ
善子「リトルデーモン・チェリーブロッサム」ギラリ
梨子「りとる…で……」
梨子 ジッ…
梨子「………あ〜〜〜〜〜〜っ!!」
梨子「よ、善子ちゃん?!」
善子「ちがぁう! ヨハネ!」
梨子「それそれ! わあ、ほんとに善子ちゃんなのね!」
善子「話を聞けえーい!!」
………………
……… 梨子「こんな偶然があるものなのね」
善子「ククク…偶然などではないわ。これぞまさに堕天使ヨハネによる運命の導き」
梨子「まさか善子ちゃんに会えるなんて思わなかったよ〜」
善子「だからヨハネだってば! わざとやってるでしょ?!」
梨子「私、一度もそんな呼び方したことないと思うけど」
善子「だから言ってるのよ! 自覚あるなら呼んでよ!」
梨子「嫌です。恥ずかしいもん」バッサリ
善子「クッ…ためらいのない精神攻撃…」
梨子「自分のことリトルデーモンとか言える人に精神攻撃なんか効かないでしょ」
善子「リトルデーモンはあなた! 私は堕天使!」
梨子「はいはい…思い出してきた思い出してきた。こういう子だったよね、善子ちゃん」
善子「なんかイヤ! その感じやめて!!」
………………
…………
…… 本当に、凄い偶然だと思ったわ。
その場では照れ臭くてごまかしちゃったけれど。
ん? ふふ…別に、たいした間柄じゃないのよ。
私のお母さん教師なんだけど、東京での交流研修ってやつについていったことがあってね。
その会場が音ノ木坂で、たまたま居合わせた梨子に、ひまを持て余していた私が一日じゅう遊んでもらったことがあったの。
初対面にも関わらずろくに話も聞かないで、あまつさえ変なあだ名まで付けて振り回したっていうのに――嫌なカオ一つしないで、…いえ嫌なカオはしてたけど、私が満足するまで付き合ってくれたんだから。
お人好しよね、本当に。
今にして思えば、私もよく見ず知らずの高校生にあそこまでぐいぐい行ったものね。
なんだか舞い上がってたのかもしれないけれど、ううん…心のどこかで、いつか運命が重なる相手だってわかってたのかもしれないわね。
そっちのほうが素敵だもの。 それでね、その日は結局同じバスで帰ったし、それ以降も、学校で見掛けては立ち話をするようになったわ。
曜との出会いが起こりだったというのなら、梨子との再開は承け。
私の周りにばらばらと点在するだけだった偶然みたいなものたちは、梨子がいたから繋がることになったの。
ま、そんなのは後で振り返るから言えることであって、当時の私はただ嬉しかったものよ。
どこか呆れながらも優しく付き合ってくれる相手がいるというのはね。
そして、いよいよあの人に出会う――ううん、出会ったなんて言い方じゃぬるいわ。
巻き込まれたのよ。
乗せられたとも言うかも。
引力を絵に描いたようなあの人、高海千歌に巻き込まれて――千歌ちゃん号とやらに乗せられたのね、きっと。
………………
…………
…… ピンポーン
善子「おはよう。いらっしゃい」ガチャ
曜「おはヨーソロー! 善子ちゃん!」
善子「善子じゃなくてヨハネって…」
曜「ん? 羽?」
善子「…なんでもないわ」
善子 (この人は呼んでくれなさそうだものね)
曜「おじゃましまーすっ」 善子「ねえ」
曜「なーに?」
善子「もう、わざわざ私の家に来る必要ないんじゃないの? どうせ同じバスで行くんだから」
曜「うーん…でももうこの生活スタイルに慣れちゃったからなー」
善子「一年間続けてきた生活スタイルに戻るだけでしょうが」
曜「あはは、いーのいーの。家を出るのが何時でも変わらないしさ!」
善子「変わらないことないと思うけど…」
善子「ま、あなたがいいなら私は構わないんだけど」
曜「うん♪」
善子 (タイミング悪くお母さんと出くわすことだけないように、それだけが切なる願いね…) 善子 ゴクゴク…
曜「善子ちゃん、そろそろ友達できた?」
善子 ブッ
善子「んなななななななっ、なによ突然?!」フキフキ
曜「仲の良い一年のコがいるんだけどさ、善子ちゃんのこと聞いたらいつも一人でいるって言ってたから。気になっちゃって」
善子 (だ…誰よそんなこと言ったの――――っ!)
善子「し、心配ご無用です。女子高生は世を忍ぶ仮の姿…他者との交流など元より必要としない立場であって、」
曜「友達がいると学校は何倍も楽しくなるんだよ。よーちゃんは心配だなー」パリパリ
善子「おせんべい食べながら心配しないでちょうだい」
善子「そ、それに、あなたには言ってなかったかもしれないけど、友達ならちゃんといます」
曜「お、そうなの?」
曜「そっか、そうだよね〜。一人も友達がいないなんてこと有り得ないもんねー」アハハ
善子「それ誰も彼もには言わないほうがいいと思う。恨まれるわよ」 曜「どんなコ? 同じクラス? 出席番号近いコ? 鉄棒得意そう?」
善子「変な人。二年生。出席番号は知らない。鉄棒は苦手そうよ」
曜「にねんせい?」キョトン
善子「二年生」
曜「一年生に友達いないの?」
善子「純粋に疑問を持たないで。それ結構くるから」
――『善子ちゃん』
善子「…」
曜「?」
善子「…別にいないこともないけど。真っ先に思い浮かぶ友達が、その人ってだけよ」 曜「ふ〜ん。同級生より先に思い浮かぶなんて、よっぽど好きな相手なんだね!」
善子「ま、まあね…チェリーブロッサムは運命の絆を共有するリトルデーモンだからね」
曜「変わった名前のコだね! タメだけど知らないな〜」
善子「本名のわけないでしょ?!」
曜「あ、あだ名? 善子ちゃんのつけるあだ名かっこいいね!」
善子「う…っ?!」
曜「私も欲しいなー! 善子ちゃん善子ちゃん、私にもあだ名つけてよ!」
善子「んにゃああああ…っ??!」
善子 (し、新鮮すぎる反応…どうすればいいの…)
善子「だ…だめ! あなたにはまだ真名を授けるわけにはいかないわ!」
曜「えー! なんでー?!」
善子「な…なーんーでーも〜〜〜〜っ!!」
………………
……… ーバス車内ー
曜「ところで、善子ちゃんの友達ってなんてコなの?」
善子「その話また掘り返すの?」
曜「だってほとんどなんにもわかんなかったじゃん」
善子「真名と学年しか伝えてないものね…」
曜「私の知ってるコかなー? 私、タメのコならだいたいみんな知ってるよ!」
善子「そうでしょうね、あなたは」
曜「ねえねえ、なんてコ?」
善子「どうしてそうぐいぐい来るのよ。そんなに知りたいこと?」
曜「知りたいよー。善子ちゃんの友達は私の友達だからね」
善子 (この思考がこのオバケを生んだのね)
善子 (…でも) ――善子『これが私のリトルデーモンであるチェリーブロッサムよ』
――CB『ハァイ、こんにちは☆』
――曜『うわあめっちゃ美人!』
――善子『こちらよくうちに来る人、曜さん』
――曜『おはヨーソロー!』
――CB『なんて素敵な人!』
――曜『善子ちゃんより美人じゃん! 私チェリーブロッサムと仲良くする〜♪』
――善子『んなっ?!』
――CB『私もヨハネ様よりあなたに使えたいわ。乗り換えよーっと』
――善子『んなななっっ??!!』
――曜・CB『『じゃあ、そういうことで。じゃあね〜っ』』
――善子『ま…待ってよ二人ともーっ!』 善子 ガタガタガタガタ
曜「善子ちゃん? なんか震えてない?」
善子「む、無理…」
曜「なにが?」
善子「だめーっ! あなたは私と仲良くするのー!」ギュ
曜「えなになに?! 仲良くしてるじゃん!」ギョ
善子「チェリーブロッサムも私のリトルデーモンのままなのーっ!」
曜「それはよくわかんないけど」
善子「絶対絶対絶対、あなたに紹介なんてしないんだから――っ!!」
曜「なんで?! ねえなんで?! みんなで仲良くしようよ!」
曜「善子ちゃ〜〜〜〜んっ!」
ブゥゥゥン…
………………
……… シュウテン、ウラノホシー ジョガクインー デスッ
曜「善子ちゃん、着いたよ」
善子「着いたわね。わかってるわよ」ギュ
曜「離してくれないと学校に行けないなあ」
善子「…」ギュ
曜「そんなに嫌がるとは思わなかったんだ。もう無理やり友達のこと聞こうとしたりしないから。ね」
善子「…別に、それを怒ってるわけじゃないもの」ボソボソ
曜「下足室まで手繋いでいこっか。それで許してよ!」
善子「…うん」スッ 善子 トコトコ
曜 トコトコ
善子 トコトコ…
善子 (ぬぁんで私この人と手ぇ繋いで歩いてんの???!!!)
善子 (いや『繋ごう』っつって『うん』っつってこうなったんだけど! それは覚えてるけどさ!)
善子 (ちょっと思考が定まってなかったの! これは私の本心なんかじゃ全然ないんだから!)
善子 チラッ
曜「〜♪」
善子 (べ、別に嫌なわけでもないけど…)
善子 (ま、まあこうしてればさすがにこの人がチェリーブロッサムのとこに行っちゃうなんてことないだろうし) ウンウン…
梨子「あら。曜ちゃん、おはよう」
善子「?!」 曜「あ、梨子ちゃん! おはヨーソロー!」ゞ
梨子「おはよう…なのはいいんだけど、えっと…」
梨子「どうして手を繋いで登校してるの? しかもその、」
善子 ← 無差別格闘堕天流『全力知らんぷり(しらんぷり・ぐらんぷり)』発動中
梨子「善子ちゃんよね」
善子「ギックゥゥゥウウウウッ!!」
曜「ギクッて口で言ったぞこのコ」
曜「っていうか、梨子ちゃん善子ちゃんのこと知ってるの?」
梨子「曜ちゃんこそ。手を繋いで登校するなんて、随分仲が良いのね」 善子「あわ、あば、あわわわば」
梨子「それでどうして善子ちゃんはそんなに怯えてるの…」
曜「なんかね、さっきから少し変なんだよ」
梨子「変なのはいつもだと思うけど」
曜「なんか梨子ちゃん、善子ちゃんに対しては辛辣だね」
梨子「そのくらいがちょうどいいと思うから。堕天使さんは」
曜「だてんし?」
善子「っ!」ハッ 善子「あわ、あば、あわわわば」
梨子「それでどうして善子ちゃんはそんなに怯えてるの…」
曜「なんかね、さっきから少し変なんだよ」
梨子「変なのはいつもだと思うけど」
曜「なんか梨子ちゃん、善子ちゃんに対しては辛辣だね」
梨子「そのくらいがちょうどいいと思うから。堕天使さんは」
曜「だてんし?」
善子「っ!」ハッ 書込みエラーのようなもので重複してしまいました
お気になさらず 善子「ば、ばばばばばかなリトルデーモンよ! 人間の前で私のことを堕天使だと言いふらすなんて愚かな――」アワアワ
梨子「普段は呼んでって言うじゃない」
善子「それは二人だからであって曜さんといるときはあのそのえっと」アワアワ
梨子「…曜ちゃん、善子ちゃんとどうやって知り合ったの?」
曜「待ち伏せたら仲良くなれたんだよ!」
梨子「ええ…二人とも変だよ…」
曜「梨子ちゃんたちは?」
梨子「腐れ縁だと思います」
善子「違う! 運命!」カッ
曜「あ…」 曜「もしかして、善子ちゃんの一番の大親友って、梨子ちゃんのこと?」
善子「んなあっ?!」
梨子「一番の大親友?!」
善子「そうじゃな…」
曜「浦女で一番仲良いのが梨子ちゃんだって、さっき話してたんだよ。同じクラスのコよりも。ねっ善子ちゃん!」
梨子「そ、そうなの…」
善子「わああああああんっばかばか曜さんのばか! なんでそういうこと本人の前で言っちゃうのよ! っていうかそんな言い方してないし! 誇張しないで!」ポコポコポコ
曜「大好きって気持ちはちゃんと伝えなくちゃね!」ハッハッハ
善子「あなたみたいに誰もが直感でコミュニケーション取れると思わないでよ! あなたのそういうとこ嫌いよ!」ウワーンッ
梨子「私から見たら曜ちゃんたちのほうがよっぽど仲良しなんだけど…」
……………
……… ワーワー ギャーギャー
梨子「…」
梨子「善子ちゃんってば、随分と曜ちゃんになついてるのね」
善子「!」
曜「そうだね! 善子ちゃんとっても良いコだもん!」
善子 (こ…これはまさか、)
――CB『そんなに曜ちゃんのことが好きなら、曜ちゃんをリトルデーモンにすればいいじゃない』
――CB『さよなら…梨子だけの堕天使サマ…』
善子 (い…いけない!!)
善子 バッ
曜「おっと」
善子「チェリーブロッサム!」
梨子「よ、曜ちゃんの前でその呼び方しないでくれる?!」// 善子「私っ、わた…あの…」モジ
曜「勢いはどこに」
梨子「善子ちゃんの胸に」
善子「だ、大丈夫だから! 曜さんは曜さん、チェリーブロッ」
梨子「梨子です」
善子「チェ」
梨子「行きましょ曜ちゃん。予鈴鳴っちゃう」スタスタスタ
善子「んわあああああんっ、待って待って待って」ガシッ
梨子「梨子」
善子「り、」
善子「リリー…」
梨子「………とりあえずはそれでいいけど」 善子「曜さんは曜さん、リリーはリリー。どっちのこともちゃんと大切にするから! 仲良くするから!」
善子「ねええええ行かないでよおおおお」ガシーッ
梨子「ちょっ、なに?! なんの話?!」
曜 ザッ!
梨子「よ、曜ちゃん。善子ちゃんを落ち着かせて…」
曜「だめだよ、梨子ちゃん。こんなに嫌がってるんだから、きちんと向き合ってあげないと」
梨子「ねええええ曜ちゃんまでええええ」
善子「りぃぃぃぃりぃぃぃぃっ」ウエーン
梨子「ちょっと善子ちゃんほんとに…やっ…みんなが見て…っ」
梨子「もおおおおおおおお〜〜〜〜〜っ!!」
………………
…………
…… こうして、曜と私の繋がりと、梨子と私の繋がりが、一つになったの。
どのくらいあることなのかしらね。
決して奇跡や運命とは言えないんでしょうけれど――とても仲の良い人ととても仲の良い人が、互いに深く繋がっているということは。
一つひとつはたいしたことのない些細な出来事でも、それが二つ続いて、三つ重なって、どんどん大きくなっていく。
99%だって、永遠に起こり続けることはないものよ。
それなら、ほんのわずかに『素敵』と思える出来事がずっと続くのは、きっととんでもなく素敵なことなのね。
さあ、お待ちかね。
彼女の出番よ。
そんな風に騒いでいたから、私たちは登校する生徒たちの注目の的だったし、面白そうなことに目がない彼女が見逃すはずもないのよね。
………………
…………
…… 千歌「あ――――――――っ!!」
ようよしりこ ビクッ
善子「な…なに?!」ビクビク
曜「あー…まあ、そりゃ見付からないわけないよね」
梨子「やばっ…」サササ…
千歌「梨子ちゃん逃げるの禁止ーっ!」
梨子「ううっ」
千歌「朝からなんか楽しそうなことしてるふいんき!」
曜「ふいんきじゃなくて雰囲気だよ。おはよう千歌ちゃん!」ゞ
千歌「おはよー、よーちゃん。梨子ちゃんもっ」
梨子「お、おはよう…」 千歌「んん〜〜〜? 梨子ちゃんはどうしてチカの声を聞くなり逃げ出そうとしたのかな〜〜〜」ジトッ
梨子「だ、だって千歌ちゃんってば…会うたび同じ話をするんだもの…」
千歌「それだけチカの想いは強いってことなのだ!」
曜「その情熱を他のところに向けてほしいものだよね。勉強とか」
千歌「よーちゃんに言われたくないよ! 体育以外はチカとおんなじじゃん!」
曜「同じとは失敬な! 期末テストの点数差を忘れたとは言わせないよ!」
千歌「5科目で7点しか変わんなかったもん!!」
梨子「ちなみに何点だったの?」
千歌「よーちゃんは288点」
曜「ちかちゃんはマイナス7点」
梨子「ひ、ひどい…」
ようちか「「なんだとーっ?!」」プンスコ 千歌「チカたちよりちょっと勉強ができるからっていい気になって!」
曜「そうだそうだ! ちかちゃんよりちょっと勉強ができるからって、」
千歌「チカ、たち、より!! よーちゃんもおんなじ!!」
千歌「もう、よーちゃんってばすぐチカのことおばかさん扱いして…ん?」
善子 ボーゼン…
千歌「…」
善子「…」
曜「…」
梨子「…」
千歌「…だれ?」
ようりこ「「遅っっっそ!!」」 千歌「って、うわーっ! よく見たらすっごい美人さんだね!」
善子 ビクッ
善子 ササッ…
曜「およ?」
千歌「隠れちゃった」
梨子「内弁慶…」
善子「う、ううううるさい!」
千歌「声も可愛い!」
善子「ひいっ?!」 千歌「この子だれ? 曜ちゃんの友達?」
曜「そうだよ。一年生の津島善子ちゃん」
千歌「一年生なの?! 大人っぽいね〜」
梨子「見た目だけはね」
善子 キッ
梨子 サッ
千歌「梨子ちゃんも友達?」
梨子「うん」
千歌「じゃあチカの友達じゃん! よろしくね、善子ちゃん!」
善子「?!」
善子「こ、この人曜さんよりパワフル…」ガタガタ
曜「ちかちゃんには敵わないよね〜」
梨子「そういう星の生まれだものね」 千歌「…」ジッ
善子「な、なんですか…」
千歌 ニパッ
ようりこ ((あ。))
千歌「津島善子ちゃん」ニコニコ
善子「は、はい…」
千歌「人には誰でも、向き不向きってあるよね」ニコニコ
善子「え? はあ、たぶん…」
千歌「どうせなにかやるなら、自分に向いてることをやったほうがいいよね」ニコニコ
善子「そう…ですね?」
千歌「善子ちゃんは部活なにするの?」ニコニコ
善子「決めてませんけど…っていうか、なにもやらないと思います…」
千歌「んもったいない!!」クワッ
善子 (顔芸…)
曜 (顔芸…)
梨子 (顔すごい…) 千歌「わたしにはわかるよ…善子ちゃん、あなたになにがイチバン向いてるか」
千歌「色んな気持ちもあるよね。経験してきたこともあるよね。そういうの全部ひっくるめて、わたしにはわかってるから」
善子「え、こわ…」
千歌「津島善子ちゃん!」
千歌「あなたには――スクールアイドルが向いています!」ビシッ
善子「――――っ!」
善子「スクール、アイドル…」
ようりこ「「…」」
善子「…って、なに?」
ようりこ ((だよねー))
千歌「今はわからなくてもいいの! やればわかるから!」
ようりこ ((ですよねー)) 千歌「一度きりの高校生活、思いっきり情熱を持ってなにかに打ち込みたいじゃない!」
千歌「一人で頑張るより、みんなと力を合わせたいじゃない!!」
千歌「それならスクールアイドルはね、うっっってつけだと思うんだよ!!!」
善子「この人ほとんど一人で話進めるんだけど」
梨子「そういう人だから…」
千歌「よーちゃんと梨子ちゃんとこのチカと! 四人で青春してみないっ?!」
梨子「あの私まだやるって言ってないから」
善子「えっそうなの?!」
曜「別に私もやるって返事した覚えないような」アハハ
善子「曜さんも?!」 善子「…」
千歌 ワクワク
善子「がんばってください」ペコ
千歌「えーっ?!」ガビーン
善子「なにであるのかもわからないことを、誰であるのかもわからない人に誘われて、はいやりますとは言えません」
曜「正論すぎる」
梨子「梨子も似たようなこと言って断ってるんだけど…」
曜「でも梨子ちゃんは、スクールアイドルがなにか知ってるしちかちゃんのことも知ってるよね」
梨子「大差ないと思うの」 千歌「ね、ねねね、お願いお願い善子ちゃん。必ずこの二人にも頷いてもらうからあ」スリスリ
善子「じゃ、じゃあこの二人が頷いたら参加してもいいですよ」
ようりこ「「??!」」
千歌「!」キュピーン
曜「きっ、貴様ァ!」
梨子「私たちを売ったわね?!」
善子「しょうがないじゃない! そうでもしないとこの人ずっと食い下がってきそうなんだもの!」
梨子「ずっと食い下がってくるわよ! やっと矛先が別の人に向いたと思ったのにぃ…」
曜「善子ちゃんのこと責められない思考してない?」
千歌「ふふ…うふふふ…」ユラァ
ようりこ「「ひいっ?!」」 千歌「聞いたよねー、よーちゃん。梨子ちゃあん」
千歌「善子ちゃんと一緒にいたかったら、もうチカの仲間になるしかないんだよぉ」
曜「くっ…善子ちゃんを人質に取られた!」
梨子「ず、ずるいわよ千歌ちゃん!」
千歌「ふふふふ。言い出したのはチカじゃなくて善子ちゃんだよ」
善子 (あれ? なんか千歌さん側に組み入れられてる)
曜「…っ」チラッ
梨子「…っ」チラッ
ようりこ コクッ
曜「提案があります!」ビシッ
千歌「お? どうぞ、よーちゃん!」 曜「負けた…負けたよ、ちかちゃん。その熱意には負けた」
曜「だからね、約束するよ。私も梨子ちゃんと善子ちゃんが仲間になるなら観念して仲間になることを」
千歌「おっ!」
梨子「私もよ、千歌ちゃん。すぐに諦めてくれると思っていたのに…本気で梨子なんかのことを求めてくれるのね」
梨子「だから、約束するわ。曜ちゃんと善子ちゃんが仲間になったら、梨子もスクールアイドルやること」
千歌「おおおおおっ! 梨子ちゃんまで!!」
千歌 チラッ
善子「…私も、さすがに自分で宣言したことは取り消したりしません。曜さんと梨子さんが仲間になったら、よくわかんないけど…あなたがやりたいことを一緒にやります」
千歌「いよっしゃあ――――っ!!」
千歌「それじゃあさっそく、……えっと」
千歌「…あれ? だれから誘えばいいの?」
ようよしりこ ソロリ… 千歌「よーちゃんは梨子ちゃんの後だから、梨子ちゃん…は善子ちゃんの後で、善子ちゃんはよーちゃんたちが………んんん???」
キーンコーンカーンコーン
曜「予鈴だ! 走るよみんな!」バッ
善子「イエッサー!」バッ
梨子「はいっ」バッ
千歌「あ! 待って! まだだれから誘うか決めてないよ! ってゆーか予鈴鳴ったのに置いてかないで! 善子ちゃん何組なの?! どこ行けば会えるの?! 梨子ちゃん宿題移させて!」
千歌「ねえ待って〜〜〜〜っ!」タタタ…
………………
…………
…… …ふう。
一気に話すと結構疲れるものね。
ここからは、約二週間にもわたる私たちと千歌さんの戦いの日々よ。
あの人ってば強引なんだから、見かけたら状況構わず大声で誘ってくるのよね。
昼休み、放課後、移動教室の途中、ああ…偶然沼津駅の近くで会ったときにも大変だったわ。
見付かって、逃げて、追い付かれて、詰め寄られて、追い詰められて、口説かれて、断って、また逃げて…ってね。
聞くに、梨子も同じような感じだったらしいわよ。
とは言っても同級生だし、家も隣だし、私とはまたちょっと違う攻め方をされていたらしいけれど。
曜はね、またあの二人の関係は別種のものみたいで、私たちほど激しい勧誘はされなかったって。
時期が来れば仲間になってくれるって、そういう信頼があったみたいね。
ま、私も梨子も千歌さんを嫌いだったわけじゃないしさ。
落ちるのは時間の問題だったのよ。知ってるでしょうけど。 そこからは色々なことがあったわ。
いざ活動開始って段になって、理事長から難癖つけられたりしたわね。
なんだっけ。
一人一つずつ『大切なもの』を宣言して、初ライブで体育館を満員にできなかったらスクールアイドルか『大切なもの』のどちらかを諦めろ、とかだったかしら。
曲がりなりにも学校の名前を背負うからには覚悟を持てってことだったんでしょうけれど、あのときはなかなか揉めたわね…
一人でも『大切なもの』を取れば、その時点でスクールアイドルは継続できない――残ったメンバーだけでやるなんて選択肢、私たちにはなかったもの。
結局なんとか満員にできたから、その決断を迫られることはなかったんだけどね。
他校の生徒がたくさん来てくれなかったら終わってたわ…というか、たぶん浦女の生徒より多かったわよね。
どこのどなたのおかげか知らないけど。 活動に慣れてきた頃に、二人ずつでユニットなんてのを組んだこともあったっけ。
家が近い者同士が練習しやすいだろうって、私は曜と組んだわね…言わないで。やめて。
仕方ないじゃない、私と曜は全然キャラ違うんだし、共通点なんか見付けられなかったんだもの。
まあでも曲はカワイイのができたわね。
じ、も、あい♪ ってね。
向こうの――ぶふっ…何回聞いても笑えるユニット名だけれど、梨子たちのほうも盛り上がってたわね。
あれはあれでとっても楽しかったわ。 …こうやって、私の人生は今の形になっていった。
起承転結で言うのなら、その間がずーっと『転』だったのかしらね。
あんなに楽しい時間が続くのなら、物語は終わらなくてもいいのにね。
………………
……… …ん。
長居しちゃったわね。
そろそろ出ましょうか。
うん、久し振りに話せてよかったわ。
でも、なに。ちょいちょい向こう行ってるんでしょ?
だったら連絡しなさいよ。
…別に平気よ、知らない仲じゃないし。もちろん、あの子がいいならだけど。 私? 楽しくやってるわよ。
梨子も向こうにいるし、親しくしてくれる人もいるし。
曜と出会って、梨子と再開して、千歌さんに巻き込まれて。
あの時間がなかったら、きっと私は今と全く違う私になっていた。
それは、想像するのも嫌なくらい恐ろしいことなの。
ふふ…皮肉な話よね。
昔はこれでもかってくらい自分のことを否定してたのに、今となっては感謝してる。
でも、そういうもんなのかしら。わかんないけど。
少なくとも私は、人、出会い、出来事――これまで関わってきた全てのものに生かされているんだって、そう思ってるの。
私でよかったって思えるくらい、今が最高よ。
………………
……… じゃ、行くから。
あんたも頑張りなさいよね。
言われなくてもでしょうけれど。
次はそっちの話も聞かせてね。
善子「またね。花丸」
終わり 蛇足を承知で少しだけ。
最後まで読んでくださってありがとうございました
このssは、実は最近書いたあるssのスピンオフ的な位置付けのものです。ただし、単体でも読めるように書いたつもりですので、わざわざもう一つのssを探して読んでくださる必要はありません なお、少し書き急いだということも理由にはありますが、意図的に粗い書き方をした箇所がいくつかあります
アニメ時空を基盤として、少々設定をいじった結果、さて善子はどうやって仲間になるのかな?と考えて産まれたssです
細かいことを書き上げていない箇所が多々あるので、読んでみて「こういうことかな?」と想像を楽しんでいただけたら幸いです。
文末汚しを失礼しました
以上です 良い…大人善子ちゃんが語ってるのかな。ありがとうございます 作風がすごく好きだったからこれの元のSSを教えてはくれないか? >>77
>>79
これほど凄い手のひら返し初めて見た気がする 前作読んでなかったからオチが良く分からなかったけど面白かった ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています