「のっぽパン!」【SS】
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ルビィ「はぁぁ…」
ため息と共に空を仰ぐ
その先に校門はあった
いや、校門すら見えない
校舎の一部がそこに見えるだけだった
ルビィ「誰があんなところに学校を建てたんだろう」
長く急な坂道が延々と続いていた
「はぁ…」
別のため息
隣を見ると同じリボンの色にノースリーブの制服の少女
この春から通う同じ1年生だ
爽やかな風が髪を泳がせている 彼女はうつむいて、何かを言い聞かせるように頷いている
そして彼女は目を開き
じっと高みにある学校を 校門を 見つめた
「この学校は、好きですか」
ルビィ「え?」
ううん、私に聞いてるんじゃなかった
私には分からない、誰かに問いかけていた
その誰かはどう答えたんだろう
「わたしはとってもとっても好きずら」
「でも、なにもかも…変わらずにはいらないです」
「楽しいこととか、嬉しいこととか、ぜんぶ」
「ぜんぶ、変わらずにはいられないです」
「それでも」
彼女は続ける
「それでもこの場所が好きでいられますか?」
「わたしは…」
ルビィ「見つければいいんじゃないかな」
「えっ?」
彼女は驚いて私を見る
誰も回りに居なかったと思っていたのだろう
ルビィ「次のたのしいこととか、うれしいこととか、見つければいいんじゃないかな」
ルビィ「それは、ひとつだけじゃないと思うよ」
「……」
ルビィ「ね?いこう」 私の教室前まで彼女は着いてきた
ルビィ「えっと、あれ?あ!1年生ってことは同じクラス…だよねそうだよね、えっとごめん、お名前何でした…っけ?」
花丸「花丸です、国木田花丸。宜しくね黒澤ルビィちゃん」
ルビィ「うんっ…て、ええ!?なななんでルビィの名前!?」
花丸「初日に自己紹介したずら」
ルビィ「え、あはは、そうだよねそうだよ、ごめんねルビィ覚えてなくって…」
花丸「ううん全然」
んー何で忘れてたんだろう?
そう考えを飛ばす前に教室の扉が開く音がした
教師「出席とるぞーー……
津島ー津島善子ー?…また来てないのか…」
津島善子
そうだ思い出した
彼女は自己紹介の日全ての人の注目を集めたんだ
それこそ他の人の自己紹介を書き消すように
地に落ちた天使、だとかなんとか言ってそのまま逃げたきり
学校に来ていなかった 授業が始まって終わる
1日の授業を終え、放課後に
ルビィ「また誰とも話せなかったなぁ…」
引っ込み思案の私は入学からまだお友達が出来ていない
既にクラスではグループが出来つつある
ちらりと坂の下ですれ違った彼女の席を見る
そこに彼女はいなかった
ルビィ「もう帰っちゃったのかなぁ」
彼女は授業を真面目に受け休み時間は常に本を読んでいた
結局、今日の朝に彼女と少し話をしただけ
そんな代わり映えのない1日 部活にも入っていない私は帰る準備を終え楽しそうに話すグループの隣を軽く会釈をしながら教室を後にした
家に帰っても、この時間は誰もいない
お父さんはお仕事だし
お母さんはママ友と井戸端会議かな
お姉ちゃんは、最近帰りが遅い
生徒会の仕事が忙しいのか…
ルビィ「あんまり、話さなくなっちゃったなぁ…」
この時間に帰るとすることは1つだった
ルビィ「はああっ…!やっぱり可愛いなぁ〜〜!!」
昔から大好きなスクールアイドル
その雑誌や情報をネットで見たりするのが日課だった
ルビィ「……少し前までは、お姉ちゃんも一緒だったのになぁ」
そうやってたまに虚しくなったりする毎日 次の日、また坂の下に彼女はいた
ルビィ「また、立ち止まってるの?」
花丸「えっと、それは」
花丸「そのなんというか」
ルビィ「ううん、別に無理して話さなくてもいいよ」
ルビィ「その、友達とかでも、ないん…だし 」
花丸「え、あ、うん」
ルビィ「でもこのままだと遅刻しちゃうよ」
花丸「それはそっちもずら」
ルビィ「うん、そうだよね」
私はひとり坂を登り始める
なんだか気になって話しかけてしまっただけ
友達でも、ないのに
気になった、それだけ
花丸「あ、待って」
声、
花丸「えっと、ついていってもいいですか」
振り替えるとすぐ近くにいた ルビィ「えっと、どうして」
花丸「それは…」
花丸「ひとりで行くのは、なんだか、不安」
花丸「……」
いつもひとりで本を読んでいる彼女も不安になるんだ
坂を見上げる
まだちょっと遠い
ルビィ「…うん、どうぞ」
花丸「あ、待って」
ルビィ「今度はなに?」
彼女は私を見つめながら…
花丸「のっぽパンっ…」
そう言った
私は何て答えればいいんだろう
ルビィ「…おいもパン」
花丸「何を言ってるずらか?」
ルビィ「えと、こっちのセリフなんだけど…
のっぽパン好きなの?」
花丸「うん」
ルビィ「……」
それだけのようだった
ルビィ「いこっか」
花丸「うん!」
返事は少し元気になっていたように感じた 校門をくぐると今日も多くの部活勧誘が声を張り上げていた
??「スクールアイドル部でーす!今をトキメクスクールアイドル!あなたも!あなたも!そこのあなたも!!!一緒にスクールアイドルやりませんか〜!!」
昨日まではいなかった勧誘チラシを持った人がそこにはいた
ルビィ(スクールアイドル!?こんな田舎の学校で!?)
ルビィ(でも、私にはできっこないし…)
??「あ!ねえそこのおふたりさんっ!スクールアイドル興味ない?うわっ!すっごいふたりとも可愛いねぇ〜!絶対アイドル向いてるよ!」
ルビィ「ひゃあぁ!」
急に声を掛けてきたのに驚いて一緒にいた彼女の後ろに隠れてしまった 花丸「スクールアイドル?」
??「そう!スクールアイドル!どう?興味ないっ?やってみない!?」
花丸「スクールアイドル部が何をするのかは分からないけど、わたしにはアイドル何てできっこないです」
??「ええ!?そんなことないよ!だってこんなに可愛いんだよ!?ほら後ろのお友達と一緒に!ね!?」
ルビィ「え、わ、わたし?」
??「うん!ふたりともすっごいかわいい!アイドル向いてるよ!」
花丸「別に私達は…友達じゃない、です」
ルビィ「たまたま、その、坂の下で少しお話しして一緒にきただけで…」
話をさえぎるように、
??「えー?それもう友達じゃん!」
キラキラでまっすぐな瞳でそう言う 「ちかちゃーん!もう時間だよー!!」
千歌「あ、はーーーい!!じゃーっこれ!来てね!ふたりで!!」
台風ように千歌ちゃんと呼ばれた彼女は去っていた
花丸「……」
ルビィ「……凄い、人だったね」
花丸「嵐のようだったずら…」
ルビィ「…ふふ、ルビィもそう思った」
花丸「だよね、えへへ」
ルビィ「あ、初めて笑った顔見たかも…」
花丸「そういえば私もそうかも」
ルビィ「アイドルになれそうだよ?」
花丸「そっちこそ」
ふたり笑い合う ───
HRが終わる
教師「国木田ー!すまんがこれ、津島のとこまでもってってくれんか?」
花丸「はい、分かりました」
プリントが纏められた束を受けとる
そういえば津島さんへのプリントは彼女が全部持っていっていた
そしてすぐ教室をあとに、
ルビィ「ちょ、ちょっとまって、」
花丸「……」
気付かない
ルビィ「ぇと…
は、花丸ちゃん!!!」
花丸「えっ?」
花丸ちゃんはびっくりした表情でこちらを見た
私もびっくりした表情をしていただろう
名前を呼んで引き留めるなんて…
花丸「ど、どうしたの?というか名前…」
ルビィ「声、かけても気付かなくて
ごめん名前急に。迷惑、だったよね」
花丸「ううん、何だか、ちょっぴり嬉しい、かも、知れないずら」
ルビィ「ホント?!ぇとえと
じゃあ!あの、は、花丸ちゃん!!ルビィのこと!ルビィって!その、…駄目?」
花丸「ルビィ…ちゃん?」
ルビィ「…っ!花丸ちゃん!よろしく!」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています