ルビィ「ドブの味だったの」
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そう言って笑うルビィを見た瞬間
プツン────と
私の中の、ナニカがキレる音がした ◆
「今日、善子ちゃんちに泊まっていってもいいかな」
ルビィがそう呟いたのは、何度目かの自宅での儀式後のことだった 「えっ?」
ルビィから(というか他人から)そんなことを言われるのは初めてだった
だから
「……ダメ、かな」
「あっ、その……」
「……別に、いいけど」
などとぶっきらぼうに返事をしてしまったのだ ◆
夕食後
お風呂を済ませた私たちは、事前に近くのコンビニで仕入れたお菓子を肴にパジャマパーティーを開催していた
学校の話とか
スクールアイドルの話とか
堕天使の話とか
何の話題でも盛り上がっていたところに
その話は転がり込んできた 「善子ちゃんはさ」
「んー?」
「……したことある?」
「何を?」
「……」
スッと、ルビィの人差し指が指した場所は── きす?
期す?
帰す?
「……鱚?」
「もちろん魚の話なんかしてないからね」
……どうやらとぼけても無駄みたいね 「キス、ね……」
「うん」
「……も、もちろんっ、私はっ」
「嘘はつかないでね?」
「したことありません」 「そっかぁ」
そう言ってルビィはクスッと笑った
「な、なによ、別にまだ高一なんだしそんなもの体験してなくても……」
「うん、そうだよ」
「?」
「知らない方が、幸せだと思うの」 「……ルビィ?」
「ねぇ、善子ちゃん」
ルビィは、私の方を見ないまま話を続ける
「白雪姫って知ってる?」
「知ってる、けど」
「じゃあ毒リンゴを食べさせられて永遠の眠りについちゃうことは?」
「知ってるわよ」
永遠だったかどうかまでは覚えてないけど
「じゃあどうやってその眠りから覚めるかは?」
「どうって、そりゃ……」
「……王子様の……キス、でしょ?」
「ぴんぽーん、正解だよっ」 「じゃあ王子様のキスは何味だったでしょう?」
「えぇ?」
そんな描写あったかしら……?
「んーと……」
「爽やかキスミント、とか?」
「ぶっぶー、違いますっ」
「……じゃあ何よ」
「それはルビィにもわかりません」
なんじゃそりゃ……
「だって」
「ルビィが知ってるのは、ドブの味だけだから」 「……は?」
思わず、口からこぼれたのはそんな間の抜けた言葉で
目の前で微笑むルビィの言葉の意味を理解することが
そのときの私にはできなかった ◆
夏休み
夕暮れの遊園地
二人きりの観覧車
年頃の女の子が聞けばドキドキするようなシチュエーションって感じなのかしら
でも
私が聞いたそれは
胸糞悪くて
胃がキリキリするだけの話だった ◆
「せんせいがね、遊園地に連れてってくれたの」
「もちろんそれはルビィだけじゃなくって、何人かお友達もいたんだよ」
「途中までは、皆で楽しく遊んでたんだ」
「だけどね、遊園地内で買ったおやつを食べた後にね、ルビィだけ具合が悪くなっちゃって」
「皆心配してくれたんだけどね、せんせいがルビィの面倒見るから心配ないよ、って言って皆だけ遊びに行かせちゃったの」
「皆も白状だよねー、ルビィだけ置いてくなんてさー」
「……まあ、今となってはそれはもう別にいいんだけどね」 「遊園地内の救護室、だったかな?」
「しばらくはそこで寝てて……起きた後、少し具合がよくなったの」
「それでね、せんせいが皆観覧車に乗ってるみたいだから僕達も行こうか、って、ルビィの手を引いたの」
「……ルビィも子どもだったなぁ」
「はーい、なんて元気良く答えてせんせいと一緒に観覧車に向かったの」
「着いたときにはちょうど皆が乗っちゃった後のタイミングだったみたいでね」
「せんせいに、一緒に乗ろうか?って言われて……うん、って答えちゃったの」
「……答えちゃったの」 「観覧車に乗って、4分の1くらい回った頃だったかなぁ」
「せんせいがね、言ってきたの」
「いいもの、見せてあげる、って」
「だから、目を瞑ってて、って……」
「……ありがと、善子ちゃん」
「ごめんね、ちょっと手握っていい?」
「うん、ありがとう……」
「バカだよね、今思えば」
「そんなの、決まり文句みたいなものなのに」
「子どもだったルビィは、何を見してもらえるんだろうって、ワクワクしてた」
「でも」
「待ってたのは」
「ねっとりと」
「張り付くような」
「着いて取れない」
「ドブみたいな、キスだった」 「……最初、何されてるかわからなかったの」
「びっくりして、ルビィ目を開けちゃったの」
「そしたら、目の前にせんせいの顔があって」
「血走ったせんせいの目が、目の前にあって」
「うん、だいじょぶ……」
「……善子ちゃん」
「……ごめん、大丈夫じゃないかも」
「でも、聞いて……」
「ただでさえ、大人と子どもなのに」
「男の人の力ってね、凄いんだよ」
「こっちがどんなに暴れてもね、全然効かないの」
「押さえつけられたら、何もできないの」
「本当に、何もできないの」
「何も、できないんだよ」 「気がついたら、観覧車が4分の3くらいは回っててね」
「せんせいがこう言ったの」
「今日のことは二人だけの秘密、誰にも言っちゃダメだよ、って」
「もし誰かに言ったりしたら、ルビィが皆に嫌われちゃうよって」
「お父さんにも、お母さんにも、お姉ちゃんにも嫌われちゃうよ、って」
「ルビィ、それだけは嫌だったから、うん、ってうなずいたの」
「そしたらせんせいがね、いい子だね、って頭を撫でてきて」
「また、一緒に楽しいことしようね、って言ってきたの」
「だから、ルビィも……」
「……」 ◆
なによ、それ
そんな話、私は知らなかった
あなたがそんなこと抱えてるなんて私、知らなかった
私にとってのルビィは
純粋そうで
まだまだ子どもっぽくて
あざとくてもそれが可愛らしくて
ときどき辛辣だけどでも憎めなくて
恋愛なんかとは
ましてや性的なことなんかとは
まだまだ遠い位置にいる女の子で
でも
だけど ルビィちゃんは小さい頃に性犯罪に巻き込まれているという風潮 「あはは……」
目の前で、乾いた笑いを見せるこの子は
「ごめんね、こんな話聞かせて」
無理やりそんな世界に連れていかれて
「あ、でもね、もう大丈夫だからっ」
知りたくもないものを押し付けられて
「あの後、私の様子がおかしいことに気づいたお姉ちゃんが色々手を回してくれたみたいで」
好きでもない相手に、自分の大事なものを奪われて
「あの男があなたの前に現れることはもう二度とないから安心して、って言ってくれたから」
想像に夢を膨らませる時間も奪われて
「だから、大丈夫なの」
「大丈夫、なの」 「……ルビィ、白雪姫はよく読んでたの」
「だから、王子様のキスってどんなものなんだろうなぁって」
「子どもながらによく考えてたの」
「ルビィの好きなアイスの味がするのかなぁ、とかね」
「……でも、実際はそんな味じゃなかったなぁ」
「だって、ルビィの初めてはね」
「ドブの味だったの」 「ルビィ」
「?」
「明日、予定空いてる?」
「明日? 空いてるけど」
「よかった、なら明日も私と一緒に遊びましょ」
「うんっ、いいよ」
「……よしっ」 性犯罪者は黒澤家の黒服に処分されたんだな
よかった これは私の我儘だ
ただの自己満足に過ぎないし
一時の感情に身を任せただけの行動で終わるかもしれない
ルビィにとって迷惑になる可能性も捨てきれない
でも
だとしても
それでも、私は──── おい善子!頼むぞ!救いを求めてるんだよルビィちゃんは!! なぜルビィがこんな話を善子にしたのかという事がカギだな 続きを書くとは言っているが、投稿するとは言っていないからな… ◇
どくリンゴを食べたことによってのろわれた白雪ひめは
王子さまのキスによってのろいから救われました
キスのちからってすごい
……ああ
そっか
だから
ぎゃくに
キスによってかけられたのろいは
いつまでたっても解けないんだ ◇
翌日
善子ちゃんに連れられて向かったその場所は
「……ここの遊園地、一度来てみたかったの」
「……そうなんだ」
同じ場所ではない
けど
騒がしい人ごみが
楽しげなBGMが
周囲ではしゃいでる子どもたちが
あの日を、連想させる──── 「ルビィ?」
「へっ?」
どこか、遠くに行きそうになったルビィの意識を、善子ちゃんの声が引き留めてくれた
「え、と……」
遠慮がちに、ぎゅっと掴まれた袖布
善子ちゃんの顔を見ると、やっぱりまずかったかしら……なんて思ってそうな表情をしていて
でも、ルビィの視線に気づいた途端
何かを決意したみたいに、キリッとした表情でこう言ってくれたの
「ルビィ」
「私が、あなたの思い出を塗り替えてみせる」
「だから」
「今日一日を、私にください」 ドブの味を知ってるってことはルビィちゃん…ドブを味わったことがあるんですかねぇ 善子ちゃんの視線
真剣な表情
袖布を握る力
ルビィに向けられた、それらすべてを通して
今の言葉に込められた想いが伝わって気がして
「……っ」
────もしも
べっとりと張り付いていて
いつまでも着いて取れない
こののろいを解くことができるのなら──── 「善子、ちゃん」
「ルビィの思い出、塗り替えて……っ」 |c||^.- ^|| ゆっくり書いてくださいまし ロングスパンでやるなら速報かしたらばでやるべきだと思うんだ。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています