仕事の帰りのことだった。

このユウウツとした心の状態がきっかけになったのかもしれないし、あるいはそれこそ、必然や運命と呼ばれる何かに違いないのかもしれない。

家に帰りたくない理由はなく、けれども濃霧のようにジメジメとしてさっぱりしない気持ちを身体の重さに感じると、どうにも食べて寝るだけのマンネリ化した生活に戻る気力が沸き起こらなかった。

散歩でもすれば多色気が紛れるだろう、と、そんな気分で、普段使う大通りを脇道から抜け、路地を抜け、一本隣の通りへ出た。

大したことは考えずに街灯に照らされたコンクリートの地面を見たりしながら歩いていると、視界の端にまでのびる影にふと違和感を覚えて顔を上げた。

というのも、門が少しずれて隙間ができていて、施錠されていない。

以前通っていた音ノ木坂学院の裏口。

セコムなんかの防犯システムだって当たり前のようについている時代だろうに。

大丈夫なのだろうか。

好奇心半分に門を押すと音もなく開き、その光景になんだか私は全く躊躇いなく、あたかも引き寄せられるようにして校内に足を踏み入れた。

精神操作されているのではという発想に至るほどその行動は私らしくなかった。だから、運命と呼ぶに相応しい出会いだったのかもしれない。

非現実的なそれは、現実には受け入れられない夢なんだと、そう思う。