千歌「ロボットに乗ろうよ!」
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果南「!」
曜「はあ」
千歌「曜ちゃん! 果南ちゃん! ロボット部作ろうよ!」
曜「突然どうしたの、ロボット部って」
千歌「ロボットだよロボット! 最近テレビでもやってるじゃん!」
曜「あー、ヴァーチャル世界でロボットに乗って……ってやつ?」
果南「……VFC?」
曜「たしか、最近正式なスポーツとして認められたんだっけ」
千歌「そう!ヴァーチャル分野では初のスポーツ認定!」
果南「だいぶ前から、話はあったみたいだけどね」
千歌「そして全国大会が開催!」
曜「で、それをやりたいの?」
千歌「うん! 絶対楽しいよ!」
果南「…………」
曜「でも私はプログラミングの方が忙しいし……」
千歌「プログラミング大会最終選考だっけ?」
曜「うん、もう少しで日本一なんだ」
千歌「頑張ってね!」
曜「うん!」
千歌「ロボットやろうよ!」
曜「話聞いてた?」 千歌「だって、私はプログラミングとかできないんだもん!」
曜「あー、ロボットは一から作らないといけないんだっけ?」
千歌「うん、ちょっと調べてみたら、使用するロボットはシージー?だからいくらでもコピーペーストはできるけど、大会で用いるのは自分で一から作ったものだけ、なんだって」
曜「たしかに、優勝候補の機体をコピーすればいいもんね」
果南「そもそも、単純にロボを組み立てる技術もいるみたいだしね」
千歌「だからシージー?でネジとか、配線?とか、プログラミングしないといけないんだって!」
曜「うーん、たしかに、プログラミングの一歩先の革新的技術としてロボット作りは話題にはなってるけど、私の技量じゃなぁ……」
千歌「できないの?」
曜「できないこともないけど、私には途中までしかできないよ」
千歌「?」
千歌「果南ちゃんも?」
果南「うーん、まあ」
曜「ここ二、三年で発展した技術だからねー、私にもよくわからなくて」
千歌「どういうこと?」
曜「えっとね、わかりやすく説明すると」 曜「まず、ヴァーチャル空間での活動のことはわかるよね?」
千歌「うん、何年か前から話題になってるよね、ヘルメットみたいなのをつけて、夢の中で動き回るみたいな」
千歌「ゲームセンターとかにもある! たまに果南ちゃんといくやつ!」
果南「私は見てるだけだけどね」
曜「そう、そんな感じ」
曜「で、千歌ちゃんもやったことあるようなゲームセンターとかのやつは、ゾンビ倒したり、アイドルになって踊ったりするやつだよね?」
千歌「うん、果南ちゃんとたまに行く!」
曜「それと同じ並びで、そのヴァーチャル空間でロボットが作れるようになったんだ」
千歌「そういえば、普通の世界では作らないの?」
曜「重力とか、材料とか、その辺りの都合の悪い条件があるから、この世界では不可能なんだよ」
果南「それ専用の空間が用意されてるみたいだね」
千歌「だからヴァーチャル空間だけなんだ」
曜「そう、それで、ここからが私もよく把握してないところなんだけど」
曜「誰にでも買えるヴァーチャル空間のソフトがあるのは知ってるよね?」
千歌「うん! もう買ったよ!」
果南「えっ」
千歌「パソコンとかないからわかんないけど!」
曜「なにも知らないのに買っちゃったんだ……」
千歌「曜ちゃんに習えばいいかなって!」
果南「…………」 曜「……まあ、そのソフトで用意されてるのは、真っ白な空間だけなんだ」
千歌「え、工場とか、戦う山とか海はないの?」
曜「普通の安いソフトだとないはずだよ。そこに、プログラムを打ち込んで世界を広げていくんだ」
千歌「曜ちゃんの得意技だね!」
曜「この技術は、新しい建築物や壊れそうな歴史的建造物の修復のためにできた技術なんだけど、それの応用とも言えるね」
千歌「……?」
曜「……で、プログラミングで工場やら工具はもちろん、機体の材料になる鉄やら合金?やら、その辺を世界に作り出して、それを、ヘルメットを着けてヴァーチャル空間に潜り込んだ人が組み立てるんだ」
千歌「プログラミング、ってのでそのまま作るんじゃないの?」
曜「それもできるけど、それは大会では使用できないみたいだね」
曜「ヴァーチャル空間でするメリットは現実に不可能な重量の問題とかを解決できることであって、その他の技術はなるべく現実に合わせてるみたい」
千歌「なるほどねー」
曜「本当になにも調べてなかったんだ……」 千歌「で、曜ちゃんはプログラミングできるんじゃないの?」
曜「そうなんだけど、私はプログラミングできてもヴァーチャル空間でロボットを作ることはできないよ……」
曜「それに、何よりもまず、その通常の何倍も容量の多いデータに耐えられるだけの性能のいいパソコンがないと」
千歌「お小遣いで買えるかな?」
曜「いくら持ってるの?」
千歌「あと二万円……」
曜「二桁は足りないよ……」
千歌「そんなぁ……」
曜「そのパソコンがないとなにも始まらないよ」
千歌「そっか……」
曜「ま、もしそれが用意できたら私も考えないことはないかな」
曜(どうせ用意できないだろうし)
千歌「わかった! なんとかしてみる!」
曜「あっ……いっちゃった」
曜「ま、今度もまたすぐ飽きるだろうし、ほっとけばいっか」
曜「……果南ちゃん、具合悪い?」
果南「……ううん、大丈夫だよ」
曜「……?」 ー生徒会室ー
千歌「失礼しまーす!」ガタャ
ダイヤ「……誰ですの」
千歌「二年生の高海千歌です!」
ダイヤ「それは知ってます!」
ダイヤ「入るときはノックくらいしてください」
千歌「あ、すみません」ガタャ
ダイヤ「…………」
千歌「入っていいですかー?」トントン
ダイヤ「……どうぞ」
千歌「失礼しまーす!」ガタャ
ダイヤ「……要件は」
千歌「部活を作りたいです!」
ダイヤ「部活?」
千歌「はい! ロボット部です!」
ダイヤ「……一応、理由を尋ねましょうか」
千歌「パソコンが買えないんです! だから部費でなんとかしてもらおうと思って!」
ダイヤ「はぁ……」
千歌「?」 ダイヤ「あなた、ロボット……を作るのに、いくらするパソコンが必要なのかご存知ですの?」
千歌「えっと、二万円の二桁だから……にひゃくまん?」
ダイヤ「払えるわけないでしょう!」
千歌「えっ、学校ならそれくらい持ってるかと!」
ダイヤ「まったく、ただでさえウチは今……」ブツブツ
千歌「え?」
ダイヤ「なんでもないです!」
ダイヤ「もう、ロボット部なんてものを設立する余裕はありません! お引き取りください!」
千歌「えー、じゃあまた明日きまーす」
ダイヤ「何故明日も!」
千歌「あ、今日はイライラしてるから女の子の日なのかなーって思いまして」
ダイヤ「違います!」バタンッ
千歌「ありゃりゃ……」トト 千歌「追い出されちゃった」
千歌「うーん、どうしよう、頼みの綱が……」
??「話は聞かせてもらったわ!」
千歌「誰だっ」
鞠莉「小原鞠莉」
千歌「小原鞠莉」
鞠莉「はい」
千歌「はい」
鞠莉「あなたノリいいわね」
千歌「ありがとうございます」
鞠莉「それで、ロボット部ですって?」
千歌「どうしてそれを!」
鞠莉「聞こえてたのよ」
千歌「なるほど」
千歌「あ!」
千歌「ロボット部に興味がおありですか!?」
鞠莉「ふふーん」 鞠莉「なんと私は大金持ち!」
千歌「大金持ち」
鞠莉「大金持ちということは!」
千歌「……まさか!」
鞠莉「パソコンも持ってまーす!」
千歌「おおー!」
鞠莉「そして私はロボットに興味がある!」
千歌「おおー!!」
千歌「ぜひ一緒にやりましょう!」
鞠莉「いいけど、あなた、名前は?」
千歌「高海千歌です! 千歌でいいよ!」
鞠莉「千歌、あなたはどうしてロボットをやりたいの?」
千歌「そりゃ、もちろん」
千歌「楽しそうだからです!」
鞠莉「…………」
鞠莉「……なるほど」
鞠莉「いいわよ、一緒にロボット、やりましょう!」
千歌「わーい!」 鞠莉「あなた、VFについて、どこまで知ってるの?」
千歌「VF?」
鞠莉「……じゃあ、VFCは?」
千歌「???」
鞠莉「……千歌、本当にロボットに興味あるの?」
千歌「あ、あるにはあるんだけど、つい最近テレビで特集見ただけだから……」
鞠莉「あら、そうだったの」
千歌「でもやりたいのは本当だよ!」
千歌「ソフトだって買ったし、プログラミングしてくれる人も探したもん!」
鞠莉「まあ、プログラミングができる子がいるの?」
千歌「うん、幼馴染にね!」
鞠莉「……なら、私があなたに協力してあげるのに、条件を出してもいいかしら」
千歌「なに?」 鞠莉「一週間後までに、そのソフトの中に1つ、何か最低限の戦闘ができるロボットを作ってくること!」
千歌「戦闘ができるロボット……?」
鞠莉「千歌、あなたはロボットっていうと、どんなものを想像する?」
千歌「うーん、人型で、二本足で、武器を持ってて……」
鞠莉「そうね、それが普通よ」
鞠莉「でも、VFには、それ以外にもいろんな形があるの」
千歌「戦車とか?」
鞠莉「そう! そのへんのノートパソコンでも、三本脚くらいなら作れるはずよ」
千歌「三本脚……」
鞠莉「調べれば出てくるわ、車くらいの大きさの戦車みたいなものよ」
千歌「それを作ってくればいいんだね?」
鞠莉「ええ、それを作って、見事試合が出来れば、あなたのロボット部建設に力を貸すわ!」
千歌「試合!? 鞠莉ちゃんと?」
鞠莉「いいえ、残念ながら私は作る専門。相手はこちらで用意する」
千歌「わかった! 一週間だね!」
鞠莉「ええ! 楽しみに待ってるわね!」 ー曜の家ー
ピロリン
曜「あ、千歌ちゃんからLINEだ」
曜「えっと……ロボット部、作れることになったって?」
曜「一週間後までに三本脚をつくる……」
曜「三本脚って、VFの小型みたいなアレのことかな」
曜「で、曜ちゃんの力をお借りしたいんだけど……って」
千歌「おーい!」
曜「家の前まで来てたの!?」ガララ
千歌「居ても立っても居られなくてー!」
曜「と、とりあえずあがって!」
千歌「お邪魔しまーす」 曜「……で、力を借りたい、とは」
千歌「うん、曜ちゃんにね、このソフトの中に三本脚の材料をプログラミングで打ち込んで欲しいんだ」
曜「三本脚が何か、わかってる?」
千歌「さっき調べたんだけど、小回りがきく脚の速い戦車みたいなものだって」
千歌「必要な材料とかはネットに載ってたから、あとでLINEで送る!」
曜「それで、EVR……ヴァーチャル空間の中に入って作業するのは?」
千歌「わたし!」
曜「……できるの?」
千歌「うーん、それがね、バスで少し行ったところに、EVRの研究してる会社のお家の子がいるみたいだから、その子に教えてもらおうと思って!」
曜「頼めそう?」
千歌「うん、さっき鞠莉さんって人に連絡繋いでもらったら、後で会ってくれるって」
曜「なるほど、わかったよ」 曜「ただ、三本脚をつくるのもいいけど、まずはソレを組みためたり、材料を置いたりする工場が必要だね」
千歌「あ……」
曜「それは大丈夫、わたしの得意分野はヴァーチャル空間での建築だから、そこは練習がてらやってみるよ」
千歌「お願い!」
曜「任せて、3日で終わらせてみせるよ」
千歌「なら、それまでにわたしはロボットを作る技術を学んでくる!」
曜「わかった」
千歌「じゃあ例の子のところ行ってくるね!」タタッ
曜「はーい、いってらっしゃーい」
曜「…………」
曜(思ったより本気みたい……今までわたしに頼んでくることなんてなかったのに)
曜(それにしても、一週間で三本脚の組立かぁ……)
曜(大会のルール的には、ほとんど出来合いのパーツを組み立てるだけでいいみたいだけど……それこそプラモデルみたいな、それでも一週間ってのは、少しキツイんじゃ)
曜(ま、できる限りの応援はするけど、ちゃんとやり遂げられるのかな) ー港ー
千歌「おーい!」
??「あ、先輩……」
千歌「千歌でいーよ! 花丸ちゃん!」
花丸「じゃあ、私も好きに呼んでもらって構わないです」
千歌「わかった! なら花丸ちゃん!」
花丸「そっちのほうがいいず……です」
千歌「?」
花丸「え、えっと、今日はどうして……」
千歌「あ、えっとね、マルちゃん、私に機械の組み立てについて教えてくれない?」
花丸「機械の組み立て?」
花丸「……というと、VFのことですか?」
千歌「あ、たぶんそれ! どうしてわかったの?」
花丸「え、えっと、ほら……最近流行ってますもんね、スポーツとして認定されたとか」
千歌「そうなんだよ! かっこいいよねー、私も乗りたくて乗りたくて!」
千歌「それで、さっきこういうことがあって……」カクカクシカコ 花丸「……なるほど、一週間以内に三本脚、ですか」
千歌「うん、どうかな、私にもできそう……?」
花丸「もちろん、難易度的には市販のパーツでパソコンを作るようなものです」
千歌「パ、パソコン……」
花丸「まあ、慣れれば簡単ですよ」
千歌「なら、もしよければ、私にその作り方とかって……」
花丸「いいですよ、放課後でよければ」
千歌「ありがとうございます!」
花丸「今日はもう遅いので明日からにしたいんですけど、先輩のうちにEVRはあるんですか?」
千歌「EVR……あ、ヴァーチャル空間」
千歌「うん、あるにはあるけど、いま工場を作ってもらってて、あと3日はかかりそう……」
花丸「なら……私のうちのを使いましょう!」
花丸「一通りの設備は揃ってますよ」
千歌「何から何までありがとう……!」
花丸「いえいえ、暇ですから」
千歌「今度ジュース奢らせて!」
花丸「わーい」
千歌「じゃ、明日からよろしくお願いします!」
花丸「はい! こちらこそ!」 花丸「…………」
花丸(三本脚……)
花丸(そういえば昔、ルビィちゃんと一緒に作ったな……)
花丸(もう2年だっけ、話さなくなってから)
花丸(確かちょうど、鞠莉さんが外国に引っ越しちゃった後……か)
花丸(高校に入ってから、ルビィちゃんとあまり会えなくなって、一人でEVRの中に籠るようになって……)
花丸(外に出なきゃいけないのはわかってるけど、学校に行って、帰ったら友達と遊んだりせずにEVRの中で機械を作ってる方が楽しかった)
花丸(鞠莉さん、いまのおらの状態を誰かから聞いて、頼まれたりしたのかな)
花丸「……ま、ちょうどいい頼みずら」
花丸(おらも少しは、一人でこもってばかりでいないようにしよう) ー次の日ー
千歌「おっはよー!」
果南「おはよー」
曜「おはよー……ふぁ」
千歌「ごめん、眠たい?」
曜「ううん、つい熱中しちゃってね」
千歌「そっか! 私も今日の放課後からマルちゃんに組み立て習いに行くよ!」
果南「何のはなしー?」
千歌「ロボット部作るんだ!」
果南「えっ」
曜「?」
果南「……ロボットっていうと、VFのこと?」
千歌「そうだけど……」
千歌「もしかして、果南ちゃん、知ってる!?」
果南「……そりゃ、まあ」
曜「この間一緒に話してたじゃん……」
曜「…………」
千歌「だったら、もしよかったら一緒に」
果南「あーごめん、私お店の手伝いあるから、ね?」
千歌「むー、そっかー」
果南「ほらほら、遅刻するよ」
千歌「はーい」
曜「…………」 ー昼休みー
千歌「みんな知らないって……」
曜「クラスみんなに声かけたの……」
千歌「うん……」
曜「まあこんな田舎じゃねー」
曜「そもそもEVRに入ることすら田舎じゃ難しいし」
千歌「機械買えばー!」
曜「何千万すると思ってるの……」
千歌「ううーん……」
ガララッ
鞠莉「ハロー! 千歌ー!」
千歌「鞠莉さん!」ガバッ
曜(……転校生? 見ない顔だな)
千歌「この流れで来たってことは、買ってくれるんですか!?」
鞠莉「え、な、何を?」
千歌「何でもないです……」
曜「初めまして、わたなべようです」ペコリ
鞠莉「オハラマリよ!」
千歌「曜ちゃんがウワサのプログラマーだよ!」
鞠莉「よろしくね!」
曜「は、はい! こちらこそ!」
曜(……なんか、見たことあるぞこの人) 千歌「ところで、どうしてここに?」
鞠莉「昨日の様子を聞こうと思ってね」
鞠莉「どうだった? マルは」
千歌「いい子だったよ、今日の放課後から習いに行く!」
千歌「曜ちゃんにもプログラミングしてもらってて……」
曜「いま作業するのは工場を作ってるところで……」
鞠莉「なるほどねー、間に合いそうな感じ?」
曜「はい、三本脚くらいなら、すぐ……」
千歌「私もなるべく早めに覚えるよ!」
鞠莉「そう、いい感じね」
千歌「あ、わたし果南ちゃんにお菓子分けてもらうんだった!」
鞠莉「!」
千歌「失礼します!」タタッ
鞠莉「あらら……」
曜「あ、用事が何かあったんなら伝えますけど……」
鞠莉「いや、様子を知りたかっただけで、特に用はないのよ」 曜「……それより、鞠莉先輩」
鞠莉「呼び捨てでいいわよ」
曜「じゃあ、鞠莉さん」
曜「鞠莉さん、転入されたんですか?」
鞠莉「……まあ、こんな田舎の高校じゃ、わかるわよね」
曜「それから、もしかして……昔、この辺りにいらっしゃいましたか?」
鞠莉「あなた、もしかして薬飲んで若返ったりしてる?」
曜「高校生探偵じゃないですよ」
曜「……さっき、果南ちゃんの名前に反応してたので」
鞠莉「……なるほどね」 鞠莉「まあ、合ってるわ」
鞠莉「本当はいまは引越し期間で、通うのは一週間後からだけど」
曜「……どうして、千歌にVFCを?」
鞠莉「そうねー」
鞠莉「利用してるといえば人聞は悪いけど……」
曜「…………」
鞠莉「ま、そうね」
鞠莉「詳しい話は、一週間以内に三本脚が完成したら……ということにしましょ」
曜「……わかりました」
曜「そういうことなら、わたしも俄然やる気が出ます」
鞠莉「こちらも、どう話をするかワクワクするわ」
鞠莉「じゃあ、またねー」
曜「……はい、また」 ー3年生の教室ー
千歌「果南ちゃーん!」
果南「おお、千歌」
果南「はいあーん」ヒョイ
千歌「はいっ」パクッ
ダイヤ「お行儀悪いですよ、お二人とも」
千歌「ダイヤさんもいたんだ!」
果南「全学年、ひとクラスしかないからね」
千歌「昨日で終わりましたか?」
ダイヤ「だから違います!」
果南「なにが?」
ダイヤ「何でもないです!」
果南「千歌、みかんいる?」
千歌「ほしい!」
千歌「あ、そういえば、ロボット部の話なんですけど」
果南「…………」
ダイヤ「だからそれは……」
千歌「一週間後に、機材を全部揃えて、また申請にきます!」 ダイヤ「……幾らかかるとお思いで?」
千歌「何とかしてみせます!」
果南「…………」
千歌「お金がかからないんだったら、問題はないですよね! 部室も余ってるみたいですし!」
ダイヤ「……まあ、設部だけなら、何とでもやりくりはできますが」
千歌「じゃあ、一週間後、また!」タタッ
ダイヤ「何なんですの……」
果南「……たぶん、帰ってきてる」
ダイヤ「…………」
ダイヤ「……まさか、鞠莉さんが、ですか」
果南「たぶんね……急に揃えられるなんて、普通は考えられないし」
ダイヤ「だったら、また……!」
果南「でも」
ダイヤ「……果南さん、あなたは」
果南「外の空気、吸ってくる」
ダイヤ「…………」 ー放課後ー
花丸「それじゃ、早速EVRの中に入っていきたいと思います!」
千歌「はーい先生!」
千歌「あ、EVRって、何のことなんですか……?」
花丸「えぇ……」
千歌「いや、ゲームセンターとかではよく見るけどさ……」
花丸「えっとですね、英語はよくわかんないけど……たしか、拡張仮想現実、とかじゃなかったですっけ」
千歌「拡張仮想現実……」
千歌「なんかかっこいいね!」
花丸「近未来な感じですよねー」
千歌「だよねー、何年か前は、ヘルメットかぶってちょっと耳にイヤホン通すだけで夢の中を動き回れるなんて、思わなかったもんね」
花丸「ですね、当たり前だけど、未だに不思議です」
花丸「じゃ、入りましょうか」
千歌「はい!」 〜
千歌「おぉ……」
花丸「簡単な工場ですよ」エヘヘ
千歌「すごい! かっこいい!」
花丸「テンション上がりますよね!」
千歌「うん! 早く何か組み立てよう!」
花丸「じゃ、さっそく……」
…………
……
ー曜の家ー
曜「ふー」タンッ
曜(思ったより早く進んでるな……これなら予定より豪華になりそう)
曜(素人でも簡単にVFを作れる様に、動かしやすい設備にして……)カタカタ
曜(千歌ちゃんは割と飛んだり跳ねたりはできるから、階段は問題ないはず……)カタカタ
曜「…………」
曜(ついでに、プログラミングの大会の練習にもなるしね)
曜(大会は、建物の構造を把握してないとできない)
曜「……練習だよ、練習」
曜(幼馴染がはじめてプログラム関係で頼み事してきたんだから、頑張らなきゃ!) 〜〜
千歌「うぅー……目が……」ショボショボ
花丸「疲れますよね……細かい作業だと」
千歌「もっとおっきなパーツをがーんっと動かすかと思ってた……」
花丸「あれはVFですね、フレームはもちろん、装甲とかがおっきくなるんで」
花丸「それにはじめは、細かな回線やらケーブルやらからですし」
千歌「三本脚は装甲小さいんだ……」
花丸「まあ、小回りが利く機体ですからねー」
千歌「それはそれでかっこいいけどね!」
花丸「ですよね! 大きなVFの足元を潜り抜け、俊敏に駆け巡り隙を突く!」
千歌「おおー!」
花丸「……疲れましたし、ちょっと休憩にしましょうか」
千歌「はーい!」 千歌「休憩のついでに、ロボットについて教えてもらってもいい?」
花丸「いいですよー」
千歌「EVRとかはさっき聞いたらからいいんだけど、正直VFとか三本脚とか、何のことかよく……」
千歌「ネットで調べたら負けなが気がして」
花丸「なんですかそのこだわり……」
花丸「えっとですね、VFは、virtual fighterのことですね」
千歌「ヴァーチャルファイター?」
花丸「えぇ、元々はいろんな呼び名があったみたいなんですけど、今はvirtual fighterで統一されてますね」
千歌「あ、EVRの中の戦うロボットだから!」
花丸「たぶんそういうことでしょうね」 花丸「あと、三本脚ってのは、SFのことですね」
千歌「ってことは……スモールファイター?」
花丸「ですね、でもそれだとサイエンスフィクションとかと被っちゃうんで、みんな三本脚って呼んでます」
千歌「なるほど……」
千歌「じゃあ、流石にVFが現実に作れないのはわかるけど、三本脚くらいなら作れるの?」
花丸「まさか!」
花丸「だいたい三本脚ってのは……こんな感じのロボットなんですけど」フォン
千歌「おおっ、画像出てきた!」
花丸「この機能もプログラミングしておいたんです」
花丸(……随分と前に)
千歌「人型もいいけど、こういう小型もかっこいいなぁ……」 花丸「ただ、見てわかる様に、かなり重たい機体を、たった三本の細い脚で支えてますよね?」
千歌「あ、現実の空間だとこれができないんだ」
花丸「そうです。ただ、EVR内の簡易的な重力制御システムを使えば、簡単に解決できちゃうんです」
千歌「重力制御システム?」
花丸「はい、理論的に可能に近くなったけど現実では不可能だったシステムを、このEVR内で再現したものです」
千歌「ものが浮くってこと?」
花丸「まあ……端的に言えばそうですね」
花丸「大会では規定があって、VFが直立した時に、バランスを保てるだけの制御はしていいけど、100メートル跳んだり、ブースターなしで飛行したりするために用いるとルール違反になってしまいますね」
千歌「……?」
花丸「つまり、巨大な人型重機であるVFを、人間のように立たせることにのみ使用していい、ということです」
千歌「あ、じゃあ、それと同じで、三本脚でも支えられるくらいの制御なら、SFにも使っていいんだ」
花丸「そういうことになりますね」
千歌「なるほど……」 花丸「それから、一番重要なのが材料ですね」
千歌「いろんなものが散らかっててわかんないや」
花丸「散らかってるように見えるかもですけど、私からすればこれが定位置なんです……」
千歌「あ、ごめん……」
花丸「……ま、まあ、材料なんですけど、これは厳しい規定があるず……ます」
千歌「?」
花丸「たとえば、現実では無理でもEVRだからこそ可能なことといえば?」
千歌「うーん……コピペ?」
花丸「そう! どんな素材でも、プログラムの段階で簡単に増やせちゃうんです」
千歌「ダイヤモンドとか?」
花丸「そうですね……もし可能なら、ダイヤモンドの槍とかカッコいいですよね」
千歌「おぉ……」
花丸「でも、それは不可能に近いんです」 花丸「素材は決まった会社から買う様になっていて、そこで買ったものはコピーガードがかかっているんです」
千歌「……ってことは、素材に関しては普通の世界と変わらない、ってこと?」
花丸「えぇ、ほぼ同じです。ただ一つ違うことがあります」
千歌「うーん?」
花丸「存在しない物質も作り出せるんです」
千歌「存在しない物質?」
花丸「たとえば、現実の空間でVFを作ることができない理由の1つに、パーツの強度というものがあります」
千歌「あ、壊れちゃうんだ」
花丸「はい、何メートもある腕が肘で曲がってるのに肩しか支えるところがないなんて、正気の沙汰ではありません」
花丸「ただ、理論上作り出せる限りの強度の素材を使った関節や、現実のどんな爆薬でも貫けない強度のフレームを、このEVRは実現させてしてしまうんです」
千歌「だからEVRでだけVFが動けるんだ……」
花丸「そういうことです」 花丸「……じゃ、作業、再開しましょうか」
千歌「はーい!」
千歌「いやぁ、勉強になった!」
花丸「おらも、こんなに喋ったの久し振りです!」
千歌「そういえば、花丸ちゃんは高校どこ通ってるの?」
花丸「あ、えっと……」
千歌「?」
千歌「あっ、言いたくなかったら無理しなくてもいいよ!」
花丸「すみません……」
千歌「ううん、こちらこそ!」
千歌「じゃ、続きお願いします!」 ー果南の家ー
果南「いつっ」ズキッ
果南「やっぱ、治らないよなぁ……」
果南「…………」
果南「……VF、かぁ」
果南(千歌と曜には隠し通してたつもりなのに……やっぱり、興味を持つものは似ちゃうんだ)
果南(なるべく触れない様にしてたのに、最近やけにこそこそしてると思ったら……)
果南「…………」
果南(……2年前、鞠莉はまだ発達段階だったEVR内の素材の研究のために、アメリカの大学に留学した)
果南(もともと異常な速さで飛び級で大学を卒業した上で日本に来ていた鞠莉は、日本のVFの技術を少し見に来ただけのつもりだったらしい)
果南(そんな鞠莉が内浦に留まったのは、たぶん……ダイヤと、私がいたから)
果南(自惚れてるわけじゃないけど)
果南(たまたま同い年で、近くに引っ越してきたから、少し体験させてもらっただけのつもりだった)
果南(あの日、EVRに初めて入れてもらった日) 果南(私は夢中になった)
果南(自分の手足の様にVFを動かして、広い海を駆け抜けるのは、楽しかった)
果南(だから、VFCが正式なスポーツとして認められるという噂を聞いた時、私たちは3人で喜んだ)
果南(きっと大会が開かれたら出ようね、って)
果南(なのに……)
果南(2年前、鞠莉はアメリカに帰ってしまった)
果南(なんでも、もっと上の研究がしたい、って)
果南(鞠莉が帰ってきた……ということはつまり)
果南(……でも、あの時置いていかれて、少しは腹も立ったし、今更話すのも気まずい)
果南(千歌たちが声をかけられたということは……もしかしたら、私やダイヤは、もう)
果南「…………」
果南「……そんなこと、考えたくないな」
果南(……こわい) ー次の日、教室ー
千歌「いやー、だいぶ進んだね!」
曜「私もだよ、あとは細かいところ作ってけば完成!」
千歌「おおー!」
曜「ただ、本当に容量はカツカツだから、最大でも少し豪華な三本脚が一機作れるくらいだよ?」
千歌「それは大丈夫!」
千歌「花丸ちゃんと相談しながら、私が作る時は動かしやすい様に小さめの機体にする事にしたんだ!」
曜「そっか、なら安心だね」
曜「……ところで、一週間後……あと5日で完成させて、それから何かあるの?」
千歌「え?」
曜「いや、鞠莉さんに認めてもらえれば設備を貸してもらえてロボット部を建設できる、ってのは知ってるけど……」
曜「何千万もするような設備を、たった三本脚を造っただけで貸してくれるかなぁ?」
千歌「えっとね、たしか試合する、とかなんとか言ってた気が」
曜「試合!? VFと!?」
千歌「た、たぶんあの言い方だと三本脚同士じゃないかな……」
曜「あ、びっくりした……」 曜「でも、それだと千歌ちゃん、練習する時間も必要だよね」
千歌「あ……たしかに……」
曜「相手は鞠莉さん?」
千歌「ううん、用意するとは言ってたけど、他の人みたい」
曜「他の人……?」
曜(この辺りでVFCができる人なんてほとんど聞かない……ってことは)
曜「……果南ちゃんには、話してあるの?」
千歌「あー、そいえばちょっと話はしたけど直接話してはないなぁ」
曜「…………」
曜(……なら、もしかしたら、相手は)
千歌「ねえねえ、調べてみようよ!」
曜「え、なにを?」
千歌「VFを造ってる部活がある高校とか!」
曜「?」
千歌「もしかしたら、練習試合とかで呼んでくれてるのかも!」
曜「あ、あー……」
曜(……どうだろ、実戦経験0のこんな田舎に来てくれるのかな)
千歌「えっとねー」スマホスッ 千歌「全国的な大会がまだだから相対的な強さはわかんかいけど、VFの格好良さとか、動きとか、技術とか、そういう意味での強さなら載ってた!」
曜「へー、例えばどこ?」
千歌「うーん、だいたい高専とかだねー」
千歌「あ、これ、話題になってる」
曜「なるほど」
千歌「変形するVF! かっこいいなぁ」
曜「これ、強度とか大丈夫なのかな……」
千歌「あ、ここも!」
千歌「高専ではないけど、青藍高校!」
曜「へー、可愛い制服だね」
千歌「この細い機体の子とか、話題になってるみたい」
曜「ふーん……スケートの動きみたい」
千歌「だよね、滑らかに動くのがみそなんだって!」
曜「ロボットでこれかぁ……すごいなぁ」
千歌「私たちも負けないようにしないと!」
曜「だね、帰ったらすぐ完成させる!」
千歌「私も早く覚える!」 〜花丸の家、EVR内〜
放課後
花丸「さぁ! あとは組み立てるだけです!」
千歌「いよいよだね!」
花丸「といっても、試作なので色は味気ないですし、武装もありませんが……」
千歌「大丈夫大丈夫!」
千歌「早く組み立てよう!」
花丸「じゃあ、まずはそっちのクレーンを使って……」
千歌「はーい!」
…………
……
ー曜の家ー
曜「よし! できた!」ッタ-ン
曜「我ながらいい出来……!」
曜(真っ白な空間の中に、1つだけ工場がある……普通の一軒家5倍くらいの広さを想像したつもりだけど)
曜(中もわりと充実させた……)
曜(使いそうなパーツとかは、マルちゃん、って子からいくらか譲ってもらえるみたいだから、私は千歌ちゃんが好きそうな特殊パーツをいくつか揃えておいた)
曜(あとは、千歌ちゃんがこの中で三本脚を上手く造り上げてくれるか……)
曜「でもとりあえず……」バタンッ
曜「…………」
曜「ねる……」
曜(これで……鞠莉さんの目的も……) 〜EVR内〜
花丸「あとはコクピットに外装をかぶせて……」
千歌「どっ……こいしょ!」ガコンッ
花丸「しっかり接続しましょう」ギュィィン
千歌「おぉ……それっぽい作業」
花丸「で、反対側も!」
千歌「はい!」ガコンッ
花丸「…………」ギュィィン
花丸「……よしっ、完成です!」ババ-ン
千歌「おおー!」
花丸「高海製SF試作1号機!」
千歌「かっこいいー!」ダキッ
花丸「まだ武装も1つしかなくて、追加装甲もない、裸みたいな状態ですが」
千歌「すごいよ花丸ちゃん! たった2日でこれができるなんて!」
花丸「え、えへへ……」
千歌「動かしてみていい?」
花丸「もちろんです! 今からコクピットの細かい説明をしますね」
花丸「コクピットの入り口は戦車とかと同じ位置です、上から入ってください!」
千歌「はーい!」 花丸『あーあー、聞こえますかー』
千歌「はーい、聞こえてまーす」
花丸『今の状況を教えてくださーい!』
千歌「はーい、真っ暗でーす!」
千歌「なにも見えません!」
花丸『コクピット内に明かりは用意してないですからね。それで問題ないずら』
千歌「えっ、感覚でいく感じ?」
花丸『いいえ、ここからがEVRの強み』
花丸『千歌さん、目を閉じてください』
千歌「はい」
花丸『何か見える?』
千歌「見えないよー」
花丸『そうですよね、まず、そこからがポイントなんです』
千歌「?」
花丸『千歌さんはさっきまで目を開けていた……』
千歌「う、うん」
花丸『と、いつから勘違いしていました?』
千歌「え?」 花丸『そもそも、ここはEVR内の中です。現実の千歌さんは椅子に座って目を閉じているはずです』
千歌「た、たしかに……」
花丸『つまり、極端なことを言って仕舞えば、今の千歌さんはコクピットの中が暗い、と思い込んでいるから暗いんです』
千歌「ってことは!」
花丸『はい、だいたい想像している通りだと思います』
花丸『まずは、目を閉じたまま少し詳しくコクピットを想像してみてください』
千歌「うーん……椅子があって、そこに座ってて……」
千歌(椅子の下の方から、自転車のハンドルみたいな形の操作レバー?が伸びてて、そこを握ってる……)ギュ
千歌(少し硬いボタンが、親指から小指までの四本のスペースに1つづつつけてある……何かに使うのかな)カチカチ
千歌(それから、足元には足を置く場所がある……たしか、これで機体を動かすんだよね)
千歌(1mあるかないかくらいの円盤の中を、360度の方向に好きに動けるようになってる)ガシャガシャ
千歌(そういえば、モニターとかはつけなかったな……どうやって外を見るんだろう)
千歌「……だいたい、できたよ」
花丸『じゃあ、次は千歌さんの両目と、試作機のカメラアイが、1つになるイメージをしてください』
千歌「1つになるイメージ……?」
花丸『はい、カメラアイそのものが、千歌さんの目になるようなイメージで……』
千歌「ううーん……」ギュ
千歌(カメラアイはたしか前の方につけてたはず……だから、そのまま目だけが前に移動するイメージ……)
花丸『それができたら、目を開いてみてください』
千歌「…………」ソロ-ッ 千歌「…………」
花丸『どうです? 見えますか?』
千歌「す……」
千歌「すごーい! 見える、外が見えてる!」
花丸『私は今何本指を立ててますか?」』
千歌「7本!」
花丸『はい、おっけーです』
千歌「すごい! 身長が伸びたみたい!」
花丸『VFほどではないですけど、三本脚も多少は首が振れますので、首を横に向けるイメージで……』
千歌「おお! 見える見える!」ガコンガコン
花丸(久しぶりだから訛ってるかな、って思ったけど、予想より滑らかなに動くずら)
花丸『それから、足元のコントロールアクセルを動かしてみてください』タタタ
千歌「こう?」ギュイン
千歌「おお! 前脚が動く!」ギュインギュイン 花丸『それで前脚の向きを調整できます。移動するには、左手の親指の部分のボタンを押してもらえれば、ロック解除になります』
千歌「こう?」ポチッ
花丸『うわぁ!』タタッ
千歌「あっ、ごめん!」
花丸『あいてて……いえ、そういえば言ってなかったですね……』
花丸『EVRの中で大怪我をしたり、死ぬようなことがあると、その直前に強制的にEVRを終了させられますので、お気を付けて……』
千歌「はい……」
花丸『ちなみに、アマチュア大会での価値判定の多くは相手をEVRから退出させることらしいですよ』
千歌「こ、ころすつもりでやるんだ……」
花丸『まあ、EVRもGPSと同じでアメリカの軍事設備が大元ですしね』
花丸『詳しいところは違うみたいですけど、もしかしたら大会もいずれ来る何かとの戦争に使うのかも……』
千歌「……な、なんだかすごいものに乗ってる気がしてきたよ」
花丸『大丈夫ですよ、誰だってGPS使ってますし、それと同じです!』
千歌「そ、そうだよね! よし、ちょっと動いてみていい?」
花丸『もちろんです! 工場の外は広い野原になってますので、自由に動いてみてください!』
花丸『何か問題があればそこを直してみましょう!』
千歌「はーい!」 ー次の日ー
千歌「試作機1号機が完成したよ!」
曜「おぉー」パチパチ
千歌「だいたいは覚えたから、あとはもうひとつ同じのを作るだけ!」
曜(一回で覚えられるもんなんだ)
曜「……ちなみに、私の方も!」
千歌「おお! もしかして!」
曜「うん! ちょっと小っちゃいけど、できたよ、工場!」
千歌「ありがとー!!」
曜「いやぁ、我ながら力作だよ、VF作る設備なんて初めて作ったし」
千歌「本当に助かるよー」
曜「まあ、おかげで私もVFとかVFCとか詳しくなれたし!」
千歌「やっぱ、造るのに関係あるの?」
曜「うーん、直接はないけど、知ってた方がやる気が湧くよね」
千歌「あー、なるほど」 曜「そういえば、花丸ちゃん、って子は浦の星じゃないの?」
千歌「うーん、それが何かあるみたいで、聞きそびれちゃった」
曜「……そうなんだ」
曜(……たしか、鞠莉さんの紹介で知り合った、って言ってたはず……もしかしたら、その子にも何か関係あるのかな)
曜「ちなみに、今日は誰の家で作業するの?」
千歌「えーと、EVRのヘルメット借りられるからマルちゃんちに行こうかなーと」
曜「私も一緒にお邪魔してもいいかな?」
千歌「うん! きっと大丈夫なはず!」
曜「じゃ、放課後、一緒に行こう」
千歌「いえーい!」
千歌「あと4日……それで2号機を完成させないと!」 ー放課後、花丸の家ー
千歌「お邪魔しまーす!」
花丸「いらっしゃいずらー」
曜「お、お邪魔します」
千歌「あ、この子が曜ちゃん!」
花丸「ど……どうも」ペコリ
曜「はじめまして」ペコリ
曜「あ、これ、造った工場です」
花丸「えと……EVRに繋げますね」
曜「うん、お願い」
千歌「じゃ、鞠莉さんの言うことではなるべく私一人の力の方がいいみたいだから、まずは一人で入ってくるね!」
花丸「なら、もし手が借りたくなったら呼んでください」
曜「置き場所がわかんなかったりしたらこっちから指示するから」
千歌「はーい!」
千歌「では……」カパッ 花丸「えと……粗茶、ですが……」コトッ
曜「あ、お気遣いどうも……」
花丸「…………」
曜「千歌とは、鞠莉さんの紹介で……?」
花丸「あっ、はい……」
曜「鞠莉さんとは、前から知り合いだったんだ」
花丸「えぇ、まあ…………」
曜「…………」
花丸「…………」
曜・花丸((気まずい……)) 曜(ど、どうなんだろう……)
曜(花丸ちゃんは浦の星ではないみたいだけど、鞠莉さんと知り合いみたいだし)
曜(でも鞠莉さんは前にいた時は浦の星だったっぽいし……)
曜(鞠莉さんとはどういう繋がりなんだろう……)
曜(果南ちゃんは花丸ちゃん知らないっぽいしなぁ……うーん……)
曜(まあ、あと4日もすればわかるんだろうけど……たぶん)
曜「…………」
曜(このままここにいても気まずいよね……)
曜(そうだ、コンビニでも行って……) 花丸(ど、ど、どうしよう……)
花丸(ここ数日で突然会話量が増えてただでさえ頭が追いつかないのに、ただ座ってるだけなんて……)
花丸(うああ……気まずいずらぁ)
花丸(千歌ちゃんは不思議と話せたけど、やっぱり身体動かしてたからだろうし……)
花丸(こんなことなら、オラも一緒にEVRの中に入っておくべきだったずら……)
花丸(あぁ……どうすれば……)
花丸「…………」
曜「…………」
曜「……あ、あの、ちょっとコンビニ行ってきます」ガタッ
花丸「あっ、おっ、わ、私も!」ガタンッ
曜・花丸「「…………」」
曜・花丸((なんでだよ!!)) 〜EVR内〜
千歌「ふー、だいぶ形にはなったかな」
千歌「三本脚のフレームと、本体の大まかな部位は完成」
千歌(まあ、いっちゃえば出来合いの部品の組み合わせだしね)
千歌「……でも、ここまでの早さでできるって、わたし、もしかして才能あるのかな?」
千歌「…………」
千歌(……なんて、自惚れてないで、早く組み立てよう! 時間もないしね!)
千歌「……あ、武器はちょっと1号機より増やそうかな」
千歌「頭の部分に回転式の砲台だけじゃ、物足りないよねぇ」
千歌「…………」キョロキョロ
千歌(……なんだろう、あれ)
千歌「…………」テクテク
千歌「……釘打ち機?」
千歌(かっこいい……けど、3本脚にはつけられないかなぁ) ーコンビニー
曜「ふぅ……」
曜(思ったよりコンビニ近かったなぁ、歩いて20分で着くなんて羨ましい……)
曜(にしても、会話がほとんどないのはキツかった……)
曜「そうだ、花丸ちゃん、誘ったの私だし、ジュースくらいなら奢るよ」
花丸「え、あ、ありがとうございます……ずら」
曜「ずら?」
花丸「あっ、すみません……」
曜「……?」
??「も、もしかして……花丸ちゃん?」
花丸「……ぁ」
曜「ん? 知り合い?」クルッ
ルビィ「……えっと、久し、ぶりだね」
花丸「う、うん……ルビィちゃん、元気、だった?」
ルビィ「わたしは大丈夫だよ、その、花丸ちゃんこそ……」
花丸「お、おらも……」
曜「……?」 ルビィ「あ、お……お姉ちゃん待ってるから、またね!」タタッ
花丸「え、うん、また……」
曜「……知り合い?」
曜(見たことない子だったけど……)
花丸「二年……」
曜「え?」
花丸「二年ぶりに会ったずら」
曜(……こんな田舎だと、偶然出会うのはよくあることだけど)
花丸「……本当は、会っちゃいけないんです」
曜「え」
花丸「……外の風、浴びてきます」
曜「う、うん……」
曜(これは……何かあるね……) ー次の日ー
千歌「でね、もうほとんど完成していて……」
曜「す、すごいね……たったこれだけでここまで組み立てられるなんて」
千歌「花丸ちゃんに習ったばっかりだからね!」
曜「……ところでさ、その花丸ちゃんなんだけど」
千歌「花丸ちゃんがどうかした?」
曜「もしかして、高校通ってなかったりしない?」
千歌「え?」
曜「いや、ほらさ、昨日千歌ちゃんがすぐEVRに入っちゃって二人に切りなったじゃん?」
千歌「うん、そうだったね」
曜「あの時、なんというか……会話がさ、上手く行かなくて」
千歌「?」
曜「いや、私だって初対面の人とそんなに話せる方じゃないけど、花丸ちゃんは、なんというか……会話慣れしてない、って感じで」
千歌「……なるほど?」
千歌「つまり、花丸ちゃんを学校に誘えばいいんだね!」
曜「あ、そういうことではないのだけどね?」
千歌「ダイヤちゃんに花丸ちゃんが浦の星の名簿にいるのか聞いてくる!」タタッ
曜「あ、ちょっと!」
曜「……行っちゃった」 ー生徒会室ー
千歌「失礼しまーす」ガタャ
ダイヤ「まだ一週間経ってませんが」
千歌「今日は違う要件です!」
ダイヤ「……?」
千歌「く、えっと……国木田花丸、って女の子」
ダイヤ「!」
千歌「この高校に在籍してませんか?」
ダイヤ「……えぇ、してますわ」
千歌「おお!」
ダイヤ「一年生になってすぐ、不登校になってしまっていますが」
千歌「不登校……?」 ダイヤ「……今は、そんなこと気に来ている場合ではないのでは?」
ダイヤ「あと数日ですよ、例の試合、とやらまで」
千歌「あ、それはもう三本脚が完成しかけなんで……」
ダイヤ「完成しているだけではダメです!」ダンッ
千歌「ひぇっ」ビク
ダイヤ「練習を積むのも当然、それに完成した上で機体の色を考えなければなりません!」
千歌「機体の色……?」
ダイヤ「はい、機体の色はそのVFの印象を決める大事なものとなります。そのパイロットや特性に合わせて色を考えて、それを……」
千歌「……ダイヤさん、もしかしてVFの経験者、なんですか?」
ダイヤ「…………」
千歌「…………」
ダイヤ「……チャイムが鳴ってしまいますよ、教室に戻りなさい」
千歌「え、でも」
ダイヤ「いいから!」
千歌「はいっ」ガタャッ 〜放課後、花丸の家、EVR内〜
千歌「って言われたんで、試作2号機をみかん色に塗ってみたよ!」ババ-ン
曜「うわっ……」
花丸「へt……下地透けてて手作り感ありますね……」
曜「それ褒めてないよ……」
曜「いくらみかん好きでも、ここまでオレンジにしなくても……」
千歌「え、下手かな……」
曜「控えめに言うとね……」
千歌「そ、そんなぁ……」
花丸「…………」
花丸(色塗り、は壊滅的だけど……何より恐ろしいのは、この完成速度)
花丸(二回目とはいえ、まだおらの手助けは必要かと思ってたけど、まさかたった1日と数分で三本脚を完成させてる……異例の早さ)
花丸(これは……)
曜「ま、初めてにしてはいいんじゃ……ぁ?」
千歌「自身あったのになあ……」
曜(マジか……) 花丸「……えと、塗装は一旦置いておいて」
曜(置いとくんだ)
千歌「はい!」
花丸「たしか、試合は3日後、でしたよね」
千歌「うん、たしか!」
花丸「なら、それまでに練習が必要ですよね」
曜「たしかに、未経験で挑むのは相手にも失礼だもんね」
千歌「でも、相手はどうしよう……」
花丸「ふふっ、安心するずら」
曜「ずら?」
千歌「もしかして!」
花丸「おらが相手になりますよ」
花丸「……経験者ですから!」 ➖フィールド・市街地➖
曜『あー、あー、聞こえますか二人とも』
千歌「バッチリだよ!」
花丸『聞こえてるずら』
曜『ここは花丸ちゃんちのVFC用のフィールドEVRだから、風や気温、コンクリートや草なども完全に再現してあるEVRになります』
曜『一応フィールドの説明をしておくと、市街地の範囲はだいたい20km×20kmの広さで、20階建てくらいのビルが並んでいます』
千歌「ひぇー、都会だね!」
曜『道は普通より広めに作ってあって、横幅3、4mはある三本脚でも余裕を持って通れる細道に、大通りはかなり自由に動けるスペースになっています』
花丸『市街地戦はVFではできない、隙間をくぐり抜けるような細かな動きができますからね!』
曜『電波が悪くなることもあるので、そこは二人とも気をつけてね!』
千歌「はーい!」
花丸『試合のルールはだいたい3点先取のポイント戦と殲滅戦の2つが主流なんですけど、今回はポイント制にします』
千歌「ポイント戦ってのは?」
花丸『相手の機体にペイント弾を当てるか、機体に深さ3mm、幅1000mmの傷をつけると1ポイントとなって、先に3ポイント取ったほうが勝ちとなります』
千歌「なるほどね! わかった!」
曜『じゃあ準備はいい?』
花丸『はい!』
千歌「おっけー!」
曜『試合開始3、2、1……』
曜『はじめ!』 千歌「いよぉっし……」
千歌「まずは目を閉じて……」
真っ暗なコクピット、自分が息を吸う音が聞こえる。千歌は小さく深呼吸した。
千歌(レーダーを頭に思い浮かべる。カメラが写してる外の風景と、試作2号機が受け取ってるレーダーの反応を同時に見るイメージ)
千歌(……教室の扉を顔の真ん中に当てて、教室と廊下を同時に見るイメージ……一度に2つの世界を見るイメージ……)
千歌「…………」
千歌「……よし」
ごちゃごちゃの世界観をイメージして、なるべく柔軟に受け入れられるように自分にそれを当たり前だと思い込ませる。
ハンドルを強く握り、それからゆっくりと、目蓋をうえにあげた。
千歌『うんっ、見える!』
千歌『カメラアイの視界とレーダーが邪魔することなく見える! ……口じゃ説明できないなぁ』
千歌『えっと、花丸ちゃんは……5km先、北方向のビル群』
千歌(まだ初戦だから手加減はしてくれると思うけど……どうかな)
千歌『高海千歌、試作2号機、いっきまーす!』ガシャンッ 千歌『!』
千歌『もう1km範囲内……早い』
ジャミングのない綺麗な戦場からは、千歌の機体に向けて正確な情報が送られてくる。
視線をずらすことなくそれを確認しながら、千歌はゆっくりと足を前に向ける。
千歌『ビルがいっぱいあるから直前まで見えないし……』
<ドゴォンッ
千歌『うわっ!』キキッ
花丸『ビルがあるから見えないなんて、ここでは甘いですよ!』
千歌(ビルを突き破ってきた!)
千歌『とりあえず後ろに……!』
花丸『三本脚同士の戦いで直線の動きは禁物ですよ!』バシュッ
花丸の射程範囲から逃げようと後ろを振り返るも、自分の乗っている機体の全長がわからない。戸惑っているうちに、その機体めがけてペイント弾が放たれる。
千歌「うわぁっ」ベチヤッ
曜:花丸ちゃん1点!
千歌(逃げなきゃ……とりあえずわたしも壁を突き破って!)ドゴォンッ
千歌(後ろから回り込む!)
花丸『そう簡単には背中は取らせませんよ!』
クラフト紙のように簡単に破けてしまったコンクリートとは反対に、花丸はそう簡単には背中は譲ってくれない。
千歌『ぐぅ……!』 花丸「そう簡単には背中は取らせませんよ!」
千歌『ぐぅ……!』
花丸『…………』キィッ
花丸(おかしい……)
千歌『当たらない……弾の軌道がぶれる!』バシュッバシュッ
花丸『慣れないうちは止まってから打たないと、感覚がありませんからね……!』
花丸(……まだまともに動かしたこともない素人が、ここまでの動き……普通じゃないずら)
花丸(これはもしかして……あっ)
千歌『そこぉっ!』バシュッ
花丸『しまっ……』ベチャッ
曜:うそ! ち、千歌ちゃん1点!
千歌『うそって何ぃ!?』
花丸(とりあえずビル群を利用して物陰に……)
花丸『……実は、手加減してないんだけどなぁ』
花丸(わたしが鈍ったのか、それとも……) 千歌『まずは一対一……!』
千歌(感覚的に弾のコツは掴めてきた……次は避けられる前に当てる!)
千歌『さっきはこっちに逃げられたから……』キキィッ
花丸の後を追って狭い路地を抜けると、そこには閑散とした路地が続いているだけで、3本脚の機体の姿はなかった。
千歌『……あれ、いない』
千歌(一体どこに……)
花丸『平面だけにとらわれるのは愚直ずら!』バシュッ
千歌が上から落ちてくる砕けたコンクリートに気づく頃には、試作2号機の真上めがけてペイント弾が打ち込まれていた。
千歌「えっ、上!?」ベチャッ
曜:花丸ちゃん、2点!
千歌(まずい……あと1点しかない!)
千歌(大通りの方に逃げる!)キキッ
千歌『どうやって浮いてるの……!?』チラッ
花丸『逃がしませんよ……!』ガシャンッ
千歌『!』
振り向くと、両側のコンクリートから伸びる白い糸が、花丸の機体をゆっくりと地面に下ろしていた。
鉄の軋む音を立てながら、軽自動車ほどのロボットが二本の糸で吊るされている。
千歌(違う、浮いてるんじゃなくて、ワイヤーで壁に引っ付いてたんだ!)
千歌『何千キロもある三本脚が浮くなんて、どんなワイヤーなの……!』
千歌(いや……違う、それが可能になるのがEVRなんだ……!)キキィィッ 千歌『大通り……ここならワイヤーは使えないはず!』ガシャンッ
振り返ると、路地の影からは花丸の機体は確認できない。レーダーには少し遅れた反応がある。
千歌(あの細路地から出てくる花丸ちゃんを迎え撃つ……!)
千歌(でも素直に直線でくるかな……)
花丸『1点分は差し上げます!』ガガッ
そう通信が入った直後、目の前の路地から、機体より前に射出されたワイヤーで機体を引っ張りながら移動する花丸の機体が勢いよく飛び出してきた。
千歌『うわっ!』
千歌(やっぱりギリギリまでワイヤーを使ってきた!)
千歌(でもこれなら……!)パシュッ
いくら勢いが早くても、点でみれば動いてないのと同じ……とは言わなくとも、千歌でも狙える範囲だった。
停止した3本脚から放たれたペイント弾は、景気良く花丸の機体に色をつけた。
曜:千歌ちゃん、2点! あとお互いに1点だよ!
花丸『もう取られませんよ……!』ギュルルッ
千歌(壁にアンカーを飛ばして加速してる……やっぱりあれが厄介!)
千歌(まずはあれをなんとかしないと……!) 千歌『マルちゃん、参考までに聞いていい!?』
花丸『なんでしょうか!』
千歌『そのワイヤー、何でできてるの?』
花丸『そうですね……蜘蛛の糸、とでも言っておきましょうか!』
千歌『蜘蛛の糸……』
事実、蜘蛛の糸には鋼鉄の約4倍という強度と高い耐熱性がある。直径1センチ程度の蜘蛛の糸をつくることができれば、それはジャンボジェットの勢いを止めてしまうというほどだ。
花丸『それがどうかしましたか!?』パシュッ
千歌『なんでもないよっ』グルンッ
花丸『その場で回転!? なんて使い方を……』
千歌(あれっ、これ驚かれるんだ)
千歌『……蜘蛛の糸なら、千切るのは無理だね』
千歌『だったら!』ギュインッ
避けるのをやめて、方向転換とともに勢い良く花丸にむけて加速する。
花丸『突っ込んできてもいい的になるだけですよ……それっ!』パシュッ
千歌『的にはならないよ!』ギュルンッ
花丸の狙撃のタイミングを狙って、勢いのまま機体の片足をロック、それによりロックされた脚を支点に、期待が大きく回転する。
ペイント弾が回転した機体の横スレスレを通り抜けていく。
花丸『なっ』
花丸『回転して避けるなんて……そんなの三本脚の動きには思えない!』 千歌『花丸ちゃんの動きを参考にしたんだよ!』
花丸『えっ!?』
千歌『さっき細路地から出てきた時……急に横に動かれた時、びっくりしたもん!』
花丸『なるほど……点が線になった瞬間、頭が追いつかない、ってことですね!』
千歌『? よくわかんないけど、多分そういうこと!』
千歌(そして回転があまりみない動きなら、使うしかない!)
千歌(これで距離を詰める!)ギュインッ
繰り返し回転で相手の目を迷わせる……が、当然、この動きを続けていると、勢いは落ちてしまう。それを見逃す花丸ではなかった。
花丸『そうはいきませんよ!』
千歌『うわっ!?』
千歌(花丸ちゃんが突っ込んできた!)
花丸『これで……!』
千歌(まずい、当てられる……!) 千歌(……あっ、そういえばさっき)
花丸『相手の機体にペイント弾を当てるか、機体に深さ3mm、幅1000mmの傷をつけると1ポイントとなって、先に3ポイント取ったほうが勝ちとなります』
千歌(……傷をつけても1ポイント……!)
千歌『わたしだって……!』
ペイント弾だけではない。花丸にその思惑を気づかれる前に、むちゃくちゃを装って、千歌は3本脚を前へ走らせる。
スポーツカーのような勢いで2機の機体が突進し合う。
花丸『おわりずら……!』ガシャンッ
千歌『よいしょっ!』グルンッ
ギリギリですれ違いそうだった機体を急回転させ、花丸の視界に潜り込む。当然、花丸の照準はズレてしまう。
千歌(機体ごと突っ込む!)ギュインッ
花丸『えぇっ!?』
千歌『どうだ!』ガゴンッ
勢いを殺しきれなかった花丸が、そのまま回転する千歌の機体に突っ込む。勢いを多少逃すことのできた千歌の機体とは異なり、花丸のコクピットは大きく揺れる。
花丸『ぐぅっ』グランッ
千歌『っくぅ……!』ガクンッ
千歌『どうだ……!』
曜:えっと……幅が968mm! 無効!
花丸『……残念ずら』
砂塵のあがる中、ゆっくりと花丸の機体が千歌の機体へ照準を合わせる。この距離……もとい、接触している状態で、弾が外れるわけがない。
千歌『あっ……』ベチャッ
曜:花丸ちゃん1点! 勝負あり!
…………
…… ー海沿いの道ー
千歌「いやぁ、すごかったね!」テクテク
千歌「本当にロボットに乗ることができるなんて……」
曜「まさかあんなに動けるなんて……」
花丸「驚きましたよ、初心者とは思えなかったずら……」
曜「上手い人はあんなものなの?」
花丸「いや、さすがに……」
千歌「あ、コンビニ見えた! なんか買ってくるよ!」
曜「あ、私は適当に飲み物で」
花丸「あ、おらも……」
千歌「はーい!」タッタッ
曜「…………」
曜「……ね、やっぱり」
花丸「そうですね、あれは少し……普通ではないずら」
曜「あんな動きを、初心者が……」
花丸「三本脚の回転なんて、並の判断力と空間認識能力ではできません、もはや、三本脚を自分の身体と信じ込むような脳でもないと」
曜「しかもたぶん、無意識に遠心力を利用してるよね……」
花丸「えぇ……おそらく、千歌さんは」
花丸「第六感の持ち主でしょうか」
…………
………
ーコンビニー
千歌「えと……花丸ちゃんはどれにしよ」ボソッ
ルビィ「!」ピクッ
千歌「?」
ルビィ「…………」フイ
千歌(……どこかで見たことある顔だなぁ)
千歌「……早く買って帰ろ!」 ー次の日ー
果南「どうしたの千歌、やけに機嫌いいね」
千歌「んっふふー、わかるー?」
曜「目に見えて……」
果南「最近すぐどこかに出かけてるけど、何かしてるの?」
千歌「うん、花丸ちゃんの家で、VFCやってるの!」
果南「」ピクッ
曜「?」
千歌「こーね、EVRの中でロボットに乗って、自分の手足みたいにねー」
果南「……へぇ、そうなんだ」
千歌「そうだ! 果南ちゃんもやってみない?」
果南「……いいよ、私は」
千歌「えー、果南ちゃんもやろーよー、せっかくだしー」
果南「いいってば」
千歌「果南ちゃーん」
曜「ちょ、千歌ちゃん」アセアセ
果南「……だから」ボソッ
千歌「……え?」
果南「だからやらないってば!」
千歌「」ビクッ 曜「……千歌ちゃん」
千歌「ご、ごめん……」
果南「…………」
果南「……いや、こっちこそ、大声出してごめん」
千歌「…………」
果南「……先、行ってるね」
果南「…………」スタスタ
曜「……怒らせちゃったね」
千歌「うん……」
曜「……まっ、まあ、今日も練習するんでしょ?」
曜「早く上達しないとね!」
千歌「そ……そうだね! がんばる!」 ーー
千歌:三本脚完成したよ! あとは練習あるのみです!
鞠莉「ふむ……完成したみたいね」
鞠莉「じゃあ、改めてお願いできるかしら、この子……千歌との練習試合を」
??「えぇ……まあ、試合後の整備を頼めるなら」
鞠莉「もちろん、それはいくらでも」
鞠莉「でも、本当に謝礼はいいの?」
??「試合させてもらうのは、私も同じですし」
鞠莉「貴女がいいならいいけど……望むなら、家でも、土地でも、なんなら転校とかでもいいわよ」
??「……そうですね、何かあったら考えておきます」
鞠莉「ま、転校続きらしい貴女からすれば慣れたものといえば慣れたものなのかしらね」
鞠莉「……桜内梨子さん」
梨子「…………」 乙
同じ県内の藤木君に真・世界征服ロボを作ってもらおう(錯乱) あのさあ、ラブライブ!でロボットアニメなんてありえないよ(笑)
そんなこと言ってたらアイドルマスターがサンライズ製作花田脚本でロボットアニメとしてTV放送されてなきゃ駄目じゃないか >>72
同じ作者さんだったか、最初パクリと勘違いした ープレハブ小屋ー
千歌「高海千歌です! 今日はよろしく!」
梨子「私は桜内梨子です、よろしくお願いします」
花丸「そ、そんな……相手が桜内梨子だなんて」
曜「有名なの?」
花丸「有名……というか、知る人ぞ知る、って感じです」
花丸「親の都合で転校が多いそうなので、小さな大会や練習試合での記録は驚くほど少ないのですが、その強さは目を見張るものがあります……」
曜「お、おぉ……」
曜「というか、全国大会はなくても、小さい大会とかはあったんだ」
花丸「えぇ、競技人口が多ければそれだけ見たい人も増えてきますし、何よりこのVFCのすごいところは、試合が見やすく、どこでも楽しめるんです」
曜「あ、なるほど! EVRの中ってことは、カメラがなくても映像に映し出せるんだ!」
花丸「そうです。風景を撮影して、そのデータを写すのではなく、もとからデータとしてあるものを写せばいいので……まあ多少の調整は必要だけど」
曜「なるほど……だから、たまにテレビでも見るんだ」
花丸「えぇ、全国大会では全国中継もあるみたいずら……」
曜「それは……すごいね」 鞠莉「では、既にお二人のSFはEVRに入れてありますので、早速ヘルメットを被ってー!」
千歌「はい!」カパッ
梨子「…………」キュポッ
ダイヤ「全く……校内にこんな立派な機械を持ち込むなんて」
鞠莉「まーまー、そうお堅いこと言わないの」
鞠莉「……果南は来ないの?」
ダイヤ「……まあ」
曜「果南ちゃん?」
ダイヤ「……あとで、話は聞かせていただきますよ」
鞠莉「……わかってるわ」
花丸「…………」
曜「……?」 鞠莉「……では、お二人とも準備はオッケー?」
千歌『はーい! あとは起動するだけです!』
梨子『私も、大丈夫です』
鞠莉「ではルールの再確認よ!」
曜「えっと、今回はVFではなくSFということもあり、殲滅戦ではなくポイント戦になります」
曜「両者、武装は30ミリマシンガンのみ、ワイヤーやブースターなどの特殊武器はなしとなっています」
鞠莉「ポイントは3点先取! 千歌は素人とはいえ、手加減はいらないからね!」
梨子『……わかってます』
鞠莉「では、3、2、1……はじめ!」
千歌『高海千歌! 試作2号機! いっきまーす!』
梨子『…………』
梨子『桜内梨子、出ます』 ➖フィールド・市街地➖
千歌『よっし、これで鞠莉さんに認められて、ついでにダイヤさんにも認めてもらえれば……!』ガシャンッ
千歌(大丈夫……市街地戦はこの数日花丸ちゃんとやり込んだ……慣れてはいるはずだよね)
千歌(とにかく市街地戦のポイントは、どうにかして相手を細道に追い込んで、直線で狙うか)
千歌(でも、逆に行き止まりに追い込まれたらわたしは不利……むしろ、わたしは大通りの方が得意かも)
千歌(旋回を生かして距離を詰めて、相手の機体に傷をつける)
千歌(だいたいはこの作戦で行こう!)
千歌『えと……レーダーは……』
千歌(距離は……8km地点の大通りで動かないで止まってる)
千歌(よしっ! これなら誘い込む手間が省ける!)ギュインッ
千歌『まずは不意をついて直線で突っ込むよ!』 千歌『このあたりのはず……』
千歌(まずは細道から伺いつつ梨子ちゃんを探そう)
千歌(理想的には相手に見つからずに1ポイント先取することだけ……)ベチャッ
油断だった。数日の花丸との特訓で自信の付いていた千歌には、見えない範囲からの射撃など、想定の範囲にはなかった。
千歌『……え?』
鞠莉:はぁいまずは梨子! 1ポイント!
千歌『うそ……』
あっけに取られながらも、ぼぉっとしていれば次を取られてしまう。細かく移動しながら、辺りを見渡す。
千歌(どこから……いや、むしろどこに当たったの……)キョロキョロ
梨子『突っ立つ待てるなら、続けて点もらうわね』ガシャッ
動揺する千歌の機体に、思わぬ方向から3本脚が向かってくる。
試作2号機よりもふた回りほど大きな機体に、千歌はさらに動揺する。
千歌『うわぁっ』キキィッ
千歌(物陰に隠れてた……近い!)
梨子『直線で逃げても、いい的よ』パシュッ
千歌『似たようなセリフ……この間聞いたよ!』グルンッ
動揺はしていても、この数日で身体に刻みつけた動きは、遺憾なく発揮された。
梨子の機体から飛び出したペイント弾は、大きく回転した機体には当たることはなかった。
梨子『なっ……!?』
千歌(あちゃ……なるべく隠しておきたかったけど、この際仕方ないよね!) 梨子『かわされたけど……あれくらいなら』
千歌『こっちだって!』パシュッ
やみくもに打った弾は、迷いのない梨子の動きでなんなく後ろのコンクリートにぶつかってしまう。
梨子『なに、試し射ちでもしてるの?』サッ
千歌(動きが滑らか……!)
千歌『ぐぅ……っ』パシュッパシュッ
梨子『弾を打ってるときは動きが止まるわね……そんなのだと、すぐ当てられるよ』パシュッ
千歌『うわっ!』ベチャッ
鞠莉:梨子、続けて2ポイント! もう勝負は終わりかしら?
千歌(このままじゃ負けちゃう……だったら!)
千歌『真正面から!』キキィッ
梨子『こっちに向かって真っ直ぐ……諦めたのかしら』
梨子『それこそ、的よ』パシュッ
千歌『この練習は何回もしたもんね!』グルンッ
梨子『そうだった、右方向に回転してるから……』
その淡々とした口調に、千歌は違和感を感じた。
口の中でほぞほぞするような感覚を覚えながら、小さく首をかしげる。
千歌『……?』
千歌(なんか、違和感が……いや、今はそんなこと気にしてる場合じゃない!) 梨子『なるほど……そういうこと』ギュインッ
そんな千歌にお構いはなく、梨子の機体はゆっくりと後ろに下がる。前に走ることのみを考えられた3本脚では、バックでのスピードはあまり誇れるものではない。
千歌『あっ、後ろ向きに!?』
梨子『まさか、SF戦で接近戦をしてくる人がいるなんてね』
千歌『でも、バックと直進だったら、直進の方がスピードは上!』
梨子『そうね……でも』パシュッ
梨子が威嚇射撃をするたびに、全身の力を持って避けなければならない千歌の機体は、少し付く勢いを落とし始めていた。
千歌『ぐぅっ』グルンッ
梨子『回転するたびにスピードは落ちるんじゃないの?』
千歌『…………』
千歌(弱点が見抜かれてる……でももう目と鼻の先!)
千歌『うおおおぉ!』ギュイイィンッ
機体の角をぶつけようとする千歌のカメラアイには、梨子が小さく動かした脚の挙動は、移ることはなかった。
梨子『…………』サッ
千歌『そこだぁ!』ガゴォンッ
甲高い音を響かせて、梨子の機体に大きな傷が走る。角をぶつけた千歌の機体は、せいぜい角が欠けた程度で、この後の動きに支障が出るほどのものではなかった。
鞠莉『千歌、1ポイント!』
梨子『……でも』
瞬時にその場から離れようとした試作2号機は、そのときやっと機体の異変に気付いた。
千歌『あ、あれ? 脚が……』ガクッ
梨子『私の脚にぶつけるコースに置いたわ……私も動かなくなったけど、これなら』グインッ
2機の3本脚の足が、一本づつぶつかって砕けてしまっている。
これではもう身動きは取れない。
千歌『あ……』
梨子『勝負ありね』パシュッ
…………
…… ーー
千歌「いやぁ、一瞬だった!」
梨子「……手加減なし、って言われてたからね」
花丸「歯が立たない、とはこのことずら……」
曜「だね……」
千歌「でも楽しかったよ! ありがとう!」
梨子「……どうも」
鞠莉「今日はわざわざありがとうね」
ダイヤ「すみません、こんなところまで呼びつけてしまって」
梨子「いえ、これくらいなら……」
梨子「あの、バスの時間近いんで帰りますね」
鞠莉「あら、車くらい出すわよ?」
梨子「いえ、大丈夫、では……」ガチャッ
千歌「疲れたのかな?」
曜「さぁ……」 千歌「……で! 鞠莉さん!」
鞠莉「そうね……千歌、今の試合は楽しかった?」
千歌「はい! とっても!」
鞠莉「……わかった、私も力を貸すわ」
鞠莉「機材も貸すし、私も少しなら機体の整備ができるわ」
千歌「やったー!」
ダイヤ「…………」
千歌「ダイヤさん!」
千歌「設部を……」
ダイヤ「……ひとつ」
千歌「?」
ダイヤ「一つ条件があります」
鞠莉「…………」 千歌「条件って?」
ダイヤ「果南さんをロボット部に誘って、入部の約束をしてください」
千歌「……果南ちゃん?」
曜「……!」
ダイヤ「そうすれば、ロボット部の設部を認めましょう」
千歌「ちょうどよかった」ボソッ
花丸「?」
ダイヤ「それから、花丸さん」
花丸「……っ」ビクッ
ダイヤ「あなたも入部して、学校に通うこと」
曜「えっ?」
ダイヤ「……もうあの話は終わったのです。私たちが引きずっていても、何もならない」
花丸「……はい」
ダイヤ「気まずいのは分かりますが、私も出来る限りの事はします」
千歌「?」
千歌「とりあえず、果南ちゃんを誘えばいいんだよね?」
ダイヤ「そうですわ」
千歌「だったら、今から行ってくる!」タタッ
曜「あっ、ちょっと千歌ちゃん!」
花丸「……おらも、さきに帰ります」 鞠莉「…………」
曜「……あの、鞠莉さん」
曜「もしかして果南ちゃんのことって、千歌ちゃんを誘ったのに関係してますか?」
鞠莉「…………」
曜「それから、利用した、って、もしかしていまのダイヤさんの条件も……」
ダイヤ「…………」
鞠莉「……えぇ、その通りよ」
鞠莉「果南を誘ってもらうために、千歌にVFCを勧めたわ」
曜「…………」
鞠莉「もちろん良くないことなのはわかってる……だからその上で話を聞いてほしいの」
ダイヤ「…………」
鞠莉「私は2年前……ダイヤと果南が高1の時も、内浦に来ていたわ」
曜「!」
鞠莉「そして、その時、ダイヤと果南にVFCを勧めたのも私」
曜「えっ……」
ダイヤ「……黙っていてすみません」
曜「じゃあ……」
鞠莉「内浦で一番初めのパイロットは、果南よ」 |#|| = .益 = || pileダーオンデスワ ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています