花丸「マルのお雛様」
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――部室
徐々に温かい気候になって、気づけばもうすぐ雛祭り。
千歌「さて、雛祭りの件についてですが……」
机の真ん中に置かれた、お雛様の衣装。
AqoursでSNS用の写真を撮ろうという話になって、誰が着るのかを話し合い中。 果南「千歌が着ればいいんじゃない? リーダーだし」
千歌「えぇ、千歌はあんまり着たくないなぁ。何か面倒くさそうだし」
マルには密かな計画があるの。
それはルビィちゃんに、お雛様の衣装を着てもらうこと。
ルビィちゃんの子どもらしさの残る可愛さなら、絶対に似合うはずだもん。
本人も以前、お雛様の衣装を着てみたいとそれとなく言っていた。
1人では難しいと思って、ちゃんとダイヤさんと善子ちゃんに根回しもしてある。 ダイヤ「千歌さんがダメなら、やはり一年生では? この手の衣装はよく似合いそうですから」
果南「あー、確かに」
流石ダイヤさん、綺麗に話を誘導してくれている。
善子「私はパス、面倒だわ」
本当に面倒くさそうに話す善子ちゃん。
実際協力をお願いする前から、『あんな動きにくそうな衣装はごめんよ』って話してたもんね。
でもこれで残された選択肢は一つ。
あとはマルがしっかりと―― ルビィ「それなら、マルちゃんが着ればいいんじゃないかな」
花丸「えっ」
梨子「確かに花丸ちゃんはピッタリかも」
ちょ、ちょっと待って。
マルじゃなくて、ルビィちゃんに――
千歌「じゃあセットのお内裏様の衣装はルビィちゃんが着るのはどうかな」
曜「賛成! Aqoursが誇る可愛い系の2人ならよく映えそうだし」
梨子「身長的なバランスもちょうどいいわね」 話を遮ろうにも、息の合った二年生の掛け合いに入り込めない。
ルビィ「でもルビィでいいんですか」
千歌「大丈夫、ルビィちゃんなら似合うよ!」
マルが何かを言う前に、どんどん進んでしまう話。
ダイヤさんと善子ちゃんの方を見て助けを求めるけど、2人とも諦めなさいという感じで首を横に振る。
千歌「よし、お雛様は花丸ちゃん、お内裏様はルビィちゃんに決定ね!」
あぁ、決まっちゃった。 鞠莉「じゃあさっそく衣装合わせをしましょうか」
曜「そうだね。撮影まで日はないし、色々調整しなきゃ」
鞠莉「ルビィはうちに来てくれる? お内裏様の衣装はそっちに置いてあるから」
ルビィ「分かりました!」
鞠莉「ダイヤ、花丸の方はお願いできるかしら」
ダイヤ「え、ええ」
そこは何か言ってほしいけど、この流れじゃ無理だよね。
というかマル、一言も話せないまま話し合いが終わっちゃったよ…… ―――――
ダイヤ「さて、どうしたのものでしょう」
善子「困ったわね……」
花丸「ずら……」
他のみんなが解散した後、衣装合わせで部室に残ったマルたち3人組。
花丸「まさかこんなことになるなんて……」 善子「まあ、冷静に考えれば、ずら丸が選ばれる可能性もあったわよね」
ダイヤ「そうですね。花丸さんもルビィとタイプの近い可愛らしさの持ち主ですから」
そんな風に言われると、ちょっと照れるかも。
花丸「でもマルはルビィちゃんにお雛様の衣装を着てほしいよ」
ダイヤ「確かに、私も可愛らしい衣装を着たルビィは見たいですが」
花丸「ですよね!」
ダイヤ「しかし、肝心のルビィが花丸さんを押していますからね」 善子「もう諦めたら? ルビィならお内裏様も似合うと思うわよ」
確かにお内裏様の衣装を着たルビィちゃんは素敵かも。
お雛様の衣装を着たマルと二人並んでみたら、まるで――
花丸「っ〜」
は、恥ずかしい。
いやいや、そもそも違うよね。
やっぱり何とかしてルビィちゃんにはお雛様の衣装を着てもらいたい。 花丸「こっそり衣装を入れ替えるとかは?」
善子「ルビィはあんたのお雛様の衣装を楽しみにしてたし、機嫌を損ねかねないわ」
ダイヤ「そもそもすぐに気づかれますわよ」
花丸「ならマルが嫌がってるっていえば、ルビィちゃんがお雛様になるかな?」
ダイヤ「その場合、善子さんがお雛様になるだけでは」
花丸「じゃあ善子ちゃんも拒否すれば――」
ダイヤ「今度は千歌さん辺りでしょうね」
善子「そもそもあんたと一緒じゃなきゃ衣装を着ること自体止めそうよね」 花丸「うぅ」
何でマルはもっと素早く動けないんだろう。
ちゃんと予定通りに事を進めていれば、こんなことにはならなかったのに。
ダイヤ「仕方ありません。今回は諦めましょう」
花丸「でも――」
善子「いいじゃない。私はあんたのお雛様衣装も見てみたかったし」
花丸「善子ちゃん……」
ダイヤ「そうですよ、ルビィはまた来年着ればいいのです」 また来年もある。
ルビィちゃんとマルはまだ高校生だし、きっとスクールアイドルは続ける。
その時にまた提案すればいいのかもしれない。
でも、ダイヤさんは今年で卒業しちゃう。
来年になったら、生でルビィちゃんのお雛様姿を見ることはできないかもしれない。
マルがこの案を話した時、凄く嬉しそうにしていたのに。
ダイヤ「では衣装の採寸をしましょうか」
花丸「はい……」 でもマルには、これ以上良い案が思いつかなくて。
どうしようもないんだ、もう。
ポジティブに考えよう、きっとルビィちゃんは今まで、女の子らしい服を着たことはたくさんある。
男の人の服を着るのも貴重な機会。
ダイヤさんだって、それはそれで喜ぶはずだよね。
善子「あーあ。三人官女だったら全員女装だったのに」
善子ちゃんが残念そうにつぶやく。
ダイヤ「今回は2人だけで写真を撮る企画ですからね。予算を考えると、大量の衣装を用意するのも大変ですし」 人間雛飾りを作る企画だったら、その可能性もあったかな。
一年生3人で並んだら楽しそう――でも善子ちゃんが面倒くさがるから駄目かな。
善子「あれ、お内裏様の衣装を女性向けに改造するとか」
ダイヤ「確かに男装を強調する必要はない企画ですが、酷い絵面が想像できますわね……」
ヒラヒラして色彩明るめのお内裏様?
うーん、いまいち想像できないや。
それだったら普通に女性向けの衣装を着た方が――
花丸「!」 ※
撮影日当日。
場所は和風の雰囲気を出すために黒澤家。
ルビィ「お雛様のマルちゃん、楽しみだねぇ」
花丸「えへへ、そうかな」
善子「なかなか似合っていたわよ、楽しみにしていなさい」
ルビィ「ふわぁ、どんな感じなんだろう……」 ダイヤ「みなさん、話していないで早く着替えますわよ」
よしまるびぃ「「「はーい」」」
ダイヤ「花丸さんは私が着せますのでここに残ってください」
花丸「わかりました」
ダイヤ「ルビィ、貴女はあちらの部屋で鞠莉さんが衣装を用意して待っていますから、行ってらっしゃい」
ルビィ「うん! じゃあマルちゃん、また後でね」
パタパタと走っていくルビィちゃん。 花丸「あの、ちゃんと用意できました?」
ダイヤさんに衣装を着せてもらいながら、念のために確認。
ダイヤ「ええ、問題ありませんわ」
善子「よく用意できたわね。結構面倒だったんじゃない?」
ダイヤ「ふふっ、衣装をお願いしていたお店が黒澤家と関係があったので、多少融通が利いたのですよ」
花丸「流石ダイヤさんずら!」
ルビィちゃんビックリするかなぁ。
ダイヤ「さあ、できましたよ」 花丸「わぁ――」
鏡に映るマルは、これが自分だと思えないぐらい輝いていた。
善子「いい感じじゃない」
ダイヤ「ええ、とてもよく似合っていますわ」
花丸「ありがとう、2人共」
ダイヤ「ではいってらっしゃい。ルビィが待っていますわよ」
花丸「はい!」 撮影部屋――
ルビィ「あ、マルちゃん」
花丸「ルビィちゃん!」
待っていたのは、マルとお揃いのお雛様の衣装を着たルビィちゃん。
マルの想像通り――ううん、それ以上に素敵な姿。
ルビィ「どうかな?」
花丸「ばっちり、似合ってるよ」 ルビィ「これ、マルちゃんの案なんだよね」
花丸「うん――嫌だった?」
ルビィ「ううん、本当はルビィもお雛様になりたかったから」
花丸「よかった、マルもルビィちゃんのお雛様、どうしても見たかったから」
ルビィ「えへへ、ありがとう」
あの時、思いついたんだよね。
別に公式の行事とかじゃないんだから、2人共お雛様の衣装を着てもいいんじゃないかって。
ダイヤさんに提案したらすぐに鞠莉ちゃんに連絡を取って、手配してくれたの。 ルビィ「マルちゃんも素敵だよ」
花丸「そうかな?」
ルビィ「うん、ルビィの想像通り」
花丸「うふふ、嬉しいなぁ」
ルビィちゃんに可愛いって言ってもらえると、心がぽかぽかする。
鞠莉「ワーオ、花丸もとってもプリティーね!」
千歌「わぁ、2人共可愛いよ〜」
撮影のために、みんなも部屋に入ってくる。 ダイヤ「まぁ、ルビィ――なんと、なんという……」
ルビィ「お、お姉ちゃん」
ダイヤさんなんて、ルビィちゃんを前にお姉ちゃん全開。
感動の余り言葉を失って、今にも抱きつきそうになってる。
善子「良かったわね、ずら丸」
花丸「うん!」
善子「見てると私も羨ましくなってきたわ」 花丸「来年は三人官女かな」
善子「そうね、曜さんと千歌さんをお内裏様とお雛様にして」
花丸「梨子さんは?」
善子「うーん――女帝?」
花丸「そんなのないよ〜」
善子「いいのよ、悪の〜とかつければ、いかにもリリーぽい――」
梨子「聴こえてるわよ、善子ちゃん」
善子「げっ」 梨子「あとでお説教ね――花丸ちゃんは撮影を始めましょう」
花丸「はーい」
ご愁傷さま、善子ちゃん。
ルビィ「マルちゃん、早くおいでよ〜」
ダイヤ「ルビィ、急がなくても衣装は逃げませんわよ」
ルビィ「でもぉ」
姉妹のやり取りに微笑ましさを感じながら、ひな壇に座って待つルビィちゃんの横へ。 ダイヤ「ルビィ、もう少し寄って」
ルビィ「こっち?」
ダイヤ「そうです――花丸さんもルビィの方に」
花丸「了解ずら〜」
ダイヤ「ええ、いい感じですね」
鞠莉「じゃあ撮るわよ〜」
鞠莉さんの声と共に、カシャリ、カシャリと響くシャッター音。 ダイヤ「どうですか?」
鞠莉「ええ、バッチリよ」
ダイヤ「では――あとは個人的な撮影タイムですわね!」
その言葉と共に、どこからともなくマイカメラを取り出してルビィちゃんを撮りだすダイヤさん。
ルビィ「ちょ、ちょっと、まっ」
抵抗できずに、写真を撮られ続けるルビィちゃん。
助けてあげようにも、マルも上手く動けないから、心の中でエールを送ることしかできない。 鞠莉「花丸、お疲れ様」
花丸「鞠莉ちゃん」
鞠莉「さっき撮った写真、あとであげるわね」
花丸「うん」
鞠莉「あとね、これ」
花丸「?」
そう言って鞠莉さんが渡してくれたのは、マルのスマートフォン。
何でこれをいま? 鞠莉「自分だけの写真も欲しいでしょ」
花丸「!」
花丸「ありがとう鞠莉ちゃん!」
鞠莉「いえいえ――ダイヤ、ちょっといいかしら」
ダイヤ「な、なんですの?」
鞠莉「ちょっと確認したいことがあるから、こっちに来てくれる?」
ダイヤ「はぁ」
鞠莉ちゃんに連れられて、ダイヤさんは名残惜しそうにルビィちゃんから離れていく。 ルビィ「うぅ、ビックリしたよぉ」
ちょっと涙目のルビィちゃん。
花丸「仕方ないよ、ダイヤさんはルビィちゃんが大好きなんだから」
ルビィ「そ、そうかな」
花丸「うんうん――ねえルビィちゃん」
ルビィ「なぁに?」
花丸「ちょっとこっち、向いてくれる?」
ルビィ「うん」
カシャリ 花丸「ふふ、ルビィちゃんの写真いただきだよ」
ルビィ「あー、マルちゃんまで!」
花丸「えへへ」
確認すると、そこには無防備に写る、最高に可愛らしいルビィちゃんの写真。
横に座っているマルにしか撮れない、特別な一枚。
ルビィ「駄目だよぉ、恥ずかしいから――」
ダイヤ「さあルビィ! 撮影の続きをしますわよ!」 ルビィ「ピギィ!」
ちょうどいいタイミングで戻ってくるダイヤさん。
マルは画面と閉じながら考える。
この写真、待ち受けにしようかな。
でもみんなに見せたら勿体ないかも、せっかく独り占めできるのに
やっぱり1人の時にひっそりと楽しむのがいいよね。
だってマルだけの、大切なお雛様なんだから。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています