穂乃果「いくよ、変身!」
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穂乃果「もういいんだよ、戦わなくて」
穂乃果「私が戦うから」
ことり「でも!」
穂乃果「……ううん、これが一番なんだ」
穂乃果「作られることしかできないわたしたちなら、また作られさえすればいい」
穂乃果「誰かの手によって変えられるなら……」
穂乃果「みんなが幸せになるまで変えられてみせる!」
ことり「また……穂乃果ちゃんが……」
穂乃果「私はいいんだ、みんなが笑えるなら」
穂乃果「死ななくて済むような……」
穂乃果「だから! 私はそのために戦う!」ガシャンッ
穂乃果「いくぞ、変身!」バッ ➖➖
穂乃果「って夢を見た気がするんだけど!」
海未「…………」
ことり「夢かぁ」
穂乃果「うん! なんかことりちゃん怪我してたけど、腰になんか巻いてて……ベルト?」
穂乃果「なんかスマホみたいな!」
ことり「スマホは腰には巻けないよ?」
穂乃果「そうだけど……」
海未「変身するのですか」
穂乃果「うん、なんというか……仮面ライダー的な?」
ことり「仮面ライダー……」 穂乃果「というか海未ちゃん、寝不足?」
海未「え?」
穂乃果「なんかクマがすごいよ」ジ-ッ
海未「きっ、気のせいです!」
穂乃果「ことりちゃんも、朝から辛そうだし……」
ことり「あはは……」
穂乃果「あの日?」
ことり「違う」 穂乃果「部活、頑張りすぎないでね?」
海未「わかっていますよ……体調管理も部活動のうちです」
穂乃果「最近2人と一緒に帰ることもめっきり減っちゃったからさみしいんだよー」
ことり「穂乃果ちゃんは、何か部活とかしないの?」
穂乃果「私はなー……」
穂乃果「どのみち、音ノ木坂、廃校になっちゃうらしいし」
ことり「あー」
穂乃果「止めたいけど……私たちじゃ、どうしようもね」
穂乃果「私が、何か特別なことでもできればなー」
海未「!」
ことり「!……穂乃果ちゃん、宿題、宿題進めよ?」
穂乃果「うあー、おわんないよーぅ」ゴロンッ
海未「…………」 ➖➖夜
穂乃果「ん、夜だ」
穂乃果(2人とも帰っちゃったし……暇だなぁ)
穂乃果「コンビニでも行こっと!」スタッ
…………
穂乃果「なんか人が少ないなぁ」テクテク
穂乃果「まあこの辺夜は車も通らないけどさ」
穂乃果「……あれ?」ピタ
穂乃果「こんなところに……ヒビなんてあったっけ?」
穂乃果「亀裂が入ってる……」
穂乃果「何があったんだろ……」
「見つけた!」 穂乃果「えっ?」クルッ
水色「やっとみつけた……この子だね!」
穂乃果(や、屋根の上に……女の子?)
穂乃果(あの服……)
穂乃果「プリキュアとかのコスプレ?」
水色「ちがーう!」シュバッ
穂乃果「!?」
穂乃果(あの高さから飛び降りるの!?)
水色「まあ、なんでもいいや……」
水色「お願い、一緒に来て」
穂乃果「え、え?」
水色「事情は後で話す……だから!」
??「穂乃果ちゃん伏せて!」
穂乃果「え」
穂乃果が声のした方向を振り返る頃には、耳の横を風を切る音が通り過ぎていた。
穂乃果「?」
元の場所に目線を戻すと、水色の衣装を着た女の子は消えている。 穂乃果「な、な……え?」
??「穂乃果ちゃん、逃げて!」
水色「そうはさせないよ!」
水色の少女が手をかざすと、地面から水管が顔を出し、勢いよく水が溢れ出してきた。
穂乃果が戸惑っているうちに、その身体は水の膜に閉じ込められてしまう。
穂乃果『なっ、なにこれ!?』
水色「触らないほうがいいよ……その水、今全部カッターみたいになってるから」
穂乃果『ひっ……』
??「でもそれは……あなたがここにいればの話だよね!」ガッ
水色「そうだよ!」サッ 穂乃果(な、なにが起こってるの……?)
水の膜の外で聞こえる、拳を受け止め、腕を振る時の空気を切る音からして、その力は人の、それも女の子に出せるような力ではない。
穂乃果(羽の生えた……仮面ライダー?)
穂乃果を守っているであろう女の子は、露出の激しい水色と違い、全身を光沢のあるスーツに身を包み、頭まですっぽりとその姿を隠していた。
穂乃果(な、なにをすれば……)
穂乃果『私はなにをすればいいの……?』
??「ほの……っあなたは、そこに……」
水色「よそ見!」ブンッ
??「あ……」
仮面ライダーが穂乃果を一瞬見た隙に、水色はその腕を掴み、道の端へ身体ごと放り投げた。
ぶつかった電柱の方にヒビが入るような音がして、仮面ライダーの女の子は声も出せずに痛みに悶えている。 水色「本当は怪我させたくなんてないけど……きっとあなたはまた邪魔をする」
水色「千歌ちゃんを助けるためなら、私は……」
穂乃果を包んだ時のように水色が手をかざすと、同じ水管から水が吸い寄せられてきて、その手に針のような形で水が収まった。
しずく一つ落ちていない。
水色「人の命だって……」
?「そうですか」
水色「!?」クルッ
水色の視界に深い青の仮面ライダーが映ったかと思うと、その脇腹に横薙ぎに刀が振りかざされる。
咄嗟にクッション代わりに水を挟むも、強い衝撃と共に水色の少女は反対側の壁に吹き飛ばされた。
深青「……大丈夫ですか?」
深青「こと……バード」
??「バード?」
深青「…………」
バード「……なるほど、うん、大丈夫……でも内臓が逝ったかも」
深青「変身解除は……まずいですね、そのまま耐えてください」
バード「わかった」 水色「……あっぶ」
何事もなかったように立ち上がる少女の身体に、傷はない。
深青「分が悪いのは馬鹿でもわかるでしょう」
水色「……そうだね」
水色「でもやっと見つけた」
水色「手ぶらでは帰らないよ」
深青「残念です」
跳ねるように深い青の仮面ライダーが飛び出すと、水色の少女はそれを交わして背中をとった。
水の針でそこを狙うが、仮面ライダーは身体を横に傾けて側転のように少女の頭を蹴り落とす。
確かな手応えはあったが、少女はなにも感じていないようにすぐに起き上がり、仮面ライダーの脚を両腕で締め上げた。
深青「しまっ……」
4、5本の水の針がその身体にめがけて差し込まれようとするが、硬いスーツがそれを許さない。
水色「それが硬いのは知ってる……だから!」
水色は全力でその脚を締め上げると、本来曲がるはずではない方向にそれを押し曲げた。
深青「……っあ゛!?」 水色「やっぱり!」
水色「締め技は有効!」
深青「……っ」
水色「これなら……」
バード「これなら?」
水色「!」
いつの間にか起き上がっていたバードが、その羽根で水色の顔を包むように目隠しをすると、スーツに包まれた腕が水色の首を掴んだ。
バード「あなたは生身……わかる?」
水色「……なんとなく」
バード「5」
水色「…………」
バード「4、3、2……」
水色「……また来る」
そう言い残すと、バードがカウントダウンを終える前に、水色の少女はバードの拘束を振りほどき、その場から跳ねるようにして消えた。 深青「……あぁ」
バード「平気?」
深青「助かりました……なんとか」
バード「そっか、じゃあ……」
深青「まだ耐えられますか?」
バード「たぶん……でもそろそろまずいかも」
深青「急いでこの場から離れてください、一旦変身を解除します」
バード「わかった」
穂乃果「うわっぷ!」
穂乃果を包んでいた水の膜が崩れて、ただの水となって地面へと流れ落ちた。
穂乃果「冷たー……」
穂乃果「……あっ、えっと、あなたたちは」
バード「飛ぶよ!」ガシッ
穂乃果「え」
バードは穂乃果の身体を抱きしめると、そのまま身体を浮かせて、高く飛び上がった。
バード「家まで帰ろう!」
穂乃果「あ……っひゃぃ」フワッ ➖➖穂むら前
バード「よいしょ……」バサァッ
穂乃果「ひぇ……」ガクガク
穂乃果「う、上手く立てない……」
バード「あはは……ごめんね」
バード「じゃ、私はこ……」ガクッ
穂乃果「!?」
穂乃果「ば、バードちゃん?」
バード「うぁ……かはっ……おぇ」ボトボト…
穂乃果「え?」
顔を包む仮面の隙間から、赤黒い何かが流れていた。
穂乃果「!」
穂乃果「血が!」
バード「はっ……うぅ……だめだ」
バード「……変身解除」
そう呟いたかと思うと、バードを包んでいたスーツが薄い光とともに霧になって消えた。
穂乃果「……!?」
呆気にとられる穂乃果をよそに、スーツを着ていた女の子は案外平気そうな様子で苦笑いをした。
その霧の中から現れたのは、
ことり「……あは」
穂乃果「……ことりちゃん?」 ➖➖次の日
穂乃果「いやー……まさか」
ことり「あはは」
穂乃果「ことりちゃんが仮面ライダーだったなんて!」
海未「カメンライダーナンデスカ」
穂乃果「なんでカタコトなの」
海未「Is it a mask rider?」
穂乃果「いや英語でしゃべって欲しいわけじゃなくて」
海未「……そうなのですか」
ことり「うん、実はね……」
ことり「正義のヒーローだったのだ!」
穂乃果「うおぉー!」
穂乃果「昨日いた、青色のライダーはなんて名前なの?」
ことり「えっ」
海未「…………」
ことり「えっと、仮面ライダー……う……マリンとか?」
穂乃果「とか?」
海未「…………」コクン
ことり「仮面ライダーマリン!」
穂乃果「かっこいい!」
海未「そうですね」
海未「では、私は部活に行きます」
穂乃果「わかったー!」 穂乃果「でも昨日、よく無事だったね?」
穂乃果「なんか、血とか吐いてた気が……」
ことり「あれはねー」
ことり「仮面ライダーは、というか私たちが変身するとでてくるあのスーツは、普通痛みを和らげたりできるの」
ことり「力が強くなったり、いろいろ使えたりもするけど……基本的にはね」
ことり「それから、変身をするときと解除するときで、ちょっとした怪我とか病気は治っちゃうんだ」
穂乃果「だから平気になったんだ!」
ことり「そういうこと♪」
穂乃果「でも……なんで昨日、あの水色の……」
ことり「魔法少女?」
穂乃果「そうそう、魔法少女はやってきたの?」
ことり「実はね、穂乃果ちゃん」
ことり「穂乃果ちゃんは謎の組織に狙われてるんだ」 穂乃果「ふ?」
ことり「あのね、昨日の魔法少女は、これまでに何度も穂乃果ちゃんを探してる」
ことり「目的はともかく、穂乃果ちゃんを攫おうといつも襲ってきてる」
ことり「だから、仮面ライダーたちはそれを防ぐために戦ってるんだ」
穂乃果「たち、って……他にもいるの? 昨日のマリンとか」
ことり「うん、あの子とか、他にも色々」
穂乃果「私も仮面ライダーになりたい!」
ことり「だめ」 穂乃果「え……だって、狙われてるなら、自分も強くなれれば!」
ことり「だめなの」
穂乃果「なんで?」
ことり「理由は今は言えないけど……というかわからないけど」
ことり「それをさせないために、私たちは戦ってるんだ」
ことり「だから……ね」
ことり「それに、変身できるかどうかもわからないし」
穂乃果「……わかった」
ことり「うんっ、じゃ、クレープ食べに行こっか!」
穂乃果「ほんと!?」
ことり「うん、今日は特別っ」
穂乃果「やったー!」
ことり「じゃ、ことりは一瞬用があるから、穂乃果ちゃん、帰る支度してて!」
穂乃果「はーい!」 ➖➖
ことり「って言っておいたよ」
絵里「なるほど」
絵里「記憶は消さないのね?」
ことり「うん、もう、限界だよ」
ことり「雪穂ちゃん、パパにママはともかく、穂乃果ちゃん自身はそろそろ限界」
絵里「たしかに、無理やり理由をこじつけるのもそろそろ限界よね」
絵里「わかった、じゃあ変身体として姿を表すのは躊躇しなくていいってことね」
ことり「うん、穂乃果ちゃんの前なら」
ことり「幼馴染の絵里ちゃんなら、きっと穂乃果ちゃんも受け入れやすいはず」
絵里「そうね……他にもいるわけだし」
絵里「……守り抜くわよ」
ことり「……うん」 ➖➖
穂乃果「んーおいし!」ハムッ
ことり「久しぶりだもんねー」パクパク
穂乃果「ことりちゃんよく食べるねー」
ことり「変身体……仮面ライダーになるにはたくさんカロリー使っちゃうからね」
穂乃果「そうなの?」
ことり「うん、詳しくは知らないけど……」
穂乃果「ねぇ、だったらーー」
固まってしまった穂乃果の目線の先には、目新しくない姿が映っていた。
ことり「!」クルッ
水色「……この街はいいね」
青色「こんなカッコしてても、ちょっと目立つくらいで済むもんねー」
紫色「そうね、スピーディーに用を済ませてしまいましょ」 穂乃果「ま、魔法少女……」
ことり「穂乃果ちゃん、走るよ」ギュッ
穂乃果「わかった!」タタッ
青色「逃がさないよ!」
ことり「人がたくさんいたらさすがに変身できない!」
ことり「人通りの少ないところまで!」
穂乃果「うん!」
走りながら、ことりがスマホでどこかへ連絡を打ち込んでいるのを穂乃果は見逃さなかった。
息を切らして秋葉原を駆け抜ける。
穂乃果はともかくとして、元のことりはそもそも運動が得意ではない。少し走れば限界は早かった。 ことり「はぁっ、はぁっ……」
穂乃果「だ、大丈夫?」
ことり「平気だよ……これがある」
ビルの隙間に隠れて、ことりはスマホを取り出した。
穂乃果「スマホ?」
ことり「これが私の……変身アイテムって感じかな」
魔法少女が追ってきていない。恐らく上や後ろに回り込まれている。
ことり「構わないよ、守ってみせる」カシャッ
ことりがスマホを腰のあたりに添えると、イヤホンジャックから細いベルトが伸びて、ことりの腰をくるりと包んだ。
画面の表示がアプリの並びから、プログラムのような穂乃果には読めない文字列の流れる画面へと切り替わる。
穂乃果「変身ベルト!」 ことり「少し、離れてて」
これは穂乃果からは見えなかったが、細いベルトからさらにことりの身体に向けて、数本の細い針が突き刺さっていた。
その細い針が血管に、骨に接続され、腰の部分から伸びたひときわ大きな一本は、ことりの脊椎の付け根に接続される。
ことり「…………」スゥ
ことりは大きく息を吸うと、心配そうに見つめる穂乃果の不安を少しでも振り払おうと、少し照れながら適当なポーズを決めた。
ことり「変身!」
ことりの肩甲骨のあたりから少し大きめの羽根が生えて、ことりの身体を包み込む。
それが全身へ巻きつき、密着したかと思うと、昨日見たのと同じバードのスーツへと弾けるように色を変える。
更に新しくスーツの隙間から羽根が生えて、ことりは変身を終えた。
バード「仮面ライダー、バードだよ!」 水色「へえ、そうやって変身するんだ」
バード「穂乃果ちゃん、離れないでね」
バードが水色の魔法少女に向かって飛び出すと、魔法少女は避けることなく素直にその突進を受けた。
バード「……え?」
壁とバードに挟まれた魔法少女は、反対にバードの身体を抑え込んだ。
水色「2人とも!」
青色「はいよ!」
高いビルの上から、青色の魔法少女が飛び降りてくる。
バード「……!」
背中を上に向けて抑え込まれているバードに、数十キロもの体重ががつま先からめり込む。
バード「……っ!」
青色「ありゃ、貫通しなかったね」
青色のつま先には、バードの羽根の感触が伝わってきていた。
水色「クッションにされちゃったか……」
バード「……っうぁ」
だが、抑え込まれて首も苦しい上に、羽根を折られて背中に鈍痛の走るバードは、順調にダメージを受けていた。 青色「なんか、リンチみたいで心苦しいけど……!」ブンッ
バードの腹部めがけて、青色の膝が勢いよく振り上げられる。
バード「ぶっ!」ガグンッ
青色「千歌のためなら!」
穂乃果「あ……う……」
昨日の勢いとは裏腹に、相手の数が増えて圧倒的に不利なバードを前に、穂乃果はただ戸惑っていた。
穂乃果(助けなきゃ、助けなきゃ助けなきゃ)
穂乃果(あの2人を止めないと……!)
紫色「あなたがいっても、死ぬわよ?」
穂乃果「!」クルッ
紫色「一緒に来てちょうだい」
穂乃果「……い、いやだ、って言ったら」
紫色「無理やり連れて行くわ」
穂乃果「…………」
紫色「さぁ、一緒にき……」
??「きてもらえると思ってるのかしら?」スッ 紫色「!?」
紫色の魔法少女が振り返ると、砂の粒が顔に当たっただけで、そこには何もなかった。
紫色「いや……違う」
顔に触れると、砂が当たった場所に水滴がついている。
紫色「……アイスね」
穂乃果「……アイス?」
水色「果南ちゃん!」
青色「任せて!」ガシッ
水色は青色の魔法少女にバードを預けると、向かってくるとアイスブルーの仮面ライダーに立ちはだかった。
青色「私はこれを引き離すよ!」
水色「任せた!」
近くの水管を探り当て、昨日のように自分の後ろに大きな水の膜を張った水色は、すぐに仮面ライダーの様子がおかしいことに気づいた。
水色(水の膜に何か投げ込んだ……!) 青色「いたっ」
身動きの取れないバードを羽交い締めして、配管を伝って壁を登っていた青色の脚に小石が当たる。
青色「何、小石なんて……」
更に駆け出そうとして、足が自由に動かないことに気づくのに、そう時間はかからなかった。
青色(ぶつけられたところが攣った……いや、凍ってる!)
青色「ごめん、助けて善子!」
黒色「ヨハネよっ」
バランスを崩し、落ちそうになっていた青色の魔法少女の脚を、突然現れた黒色の魔法少女が掴んで止めた。
アイス「え!?」
アイス(壁にめり込んでたの……!?)
黒色の魔法少女は脚を掴んだまま3人ごと落下を始めたかと思うと、背中からバードの倍はある黒い羽根を生やし、ビルの隙間を駆け抜けていった。
アイス(おまけに飛行能力まで持ってるなんて)
アイス(でも大丈夫、あっちには……) ➖➖
アイスの仮面ライダーと水色青色の魔法少女が攻防を繰り広げている間、少し離れた場所でも、一瞬のやりとりがあった。
希「あちゃー、ウチとキャラ被ってるやん」キキッ
紫色「!」クルッ
穂乃果(緑のリボン……音ノ木坂の三年生?)
希「穂乃果ちゃん、逃げよっか」
穂乃果「え?」
穂乃果「な、なんで私のこと……」
??「説明はあとだよっ!」グルンッ
突然現れたバイクに乗った音ノ木坂生徒に穂乃果が戸惑っていると、その後ろから新しい仮面ライダーが姿を現した。
ウサギの耳のような角の生えた、ピンクの仮面ライダーは素早く穂乃果の脇をすり抜けると、壁を跳ねるようにして紫色の後頭部めがけて蹴りを打ち込んだ。
紫色「゛っ……」バキッ
??「私はバードちゃんを追う! 希ちゃんは穂乃果ちゃんを!」シュタッ
紫色の魔法少女の変身が解けるのを確認すると、ピンクの仮面ライダーは壁を駆け上がって、バードのあとを追った。 穂乃果「あ……」
倒れこんだ見慣れない制服の少女を見て、穂乃果はあとずさりした。
昨晩、今日、と現実離れした出来事と目の前の動きに感覚が麻痺していたが、今路地の奥で戦っているであろう水色の魔法少女も、ましてや他の仮面ライダーも、変身元は、
穂乃果「に、人間……」
希「そうよ」
穂乃果「!」
希「だから、あなたがここから離れれば、少なくとも今は戦わなくて済む」
希「ほら、被って! 乗って!」ヒョイ
穂乃果「わ、は、はい!」キャッチ
投げられたヘルメットを被ると、穂乃果は紫色の大きなバイクの後ろにまたがって、希と呼ばれた少女の腰に手を回した。
希「脚、気をつけてね、とばすよ!」ブゥゥゥン!
希がアクセルを回すと、バイクはその側面をビルの壁にすれすれに、散乱する空き缶のゴミを散らしながら、狭い路地裏を駆け抜けていった。 ➖➖
黒色「ここからどうするの?」
青色「鳥のライダーは捕まえたから……」
バード「うぐぅ……」ググ
青色「このまま帰ろう!」
黒色「なるほど、捕虜ね……了解!」
マリン「そうは問屋が卸しませんよ」ガシッ
黒色「えっ!?」ガクンッ
青色「!」
ビルの上を人目につかないように滑空していた魔法少女たちは、影で待ち伏せていた仮面ライダーの存在に気づけなかった。
急ブレーキの衝撃で青色とバードが投げ出され、黒色の魔法少女は腕を捻って組み伏せられる。
マリン「貴女も羽根ですか」
仮面ライダーはスーツの腕の部分から生えている刀を、魔法少女の羽根の根元に押し付けて、双葉の芽引きのようにその羽根を切り離した。
黒色「うあっ……」 青色「善子! ……こうなったらバードだけでも!」
青色「この場で!」クルッ
??「そんな怖いこと言ってたら、可愛い顔が台無しだよっ」
青色「!?」
起き上がった青色の魔法少女が屋上の端でふらついているバードに向かおうとすると、ビルの側面から別の仮面ライダーが飛び出してきた。
??「ニコニー参上! ……仮面ライダー、ってことになったんだっけ!」
ニコは地面に手を着くと、カポエラのように脚を開いて回転させて、青色のバランスを崩した。
青色「あぶっ……」
青色も負けじと地面に手をついて、バランスをすぐに立て直す。
ニコ「温度による影響もすぐに回復してる……いや、回復じゃないのかな?」
青色「ごちゃごちゃうるさい!」ブンッ
ニコ「もしかして、実は私たちと同じで見えないだけでスーツ着てるとか!」サッ
青色「ちょこまかと……!」 黒色「フフフ……」ヨロッ
マリン「…………」
黒色「やってくれたわね……」
黒色「翼という重りを亡くしたヨハネに……ついてこられるかしら?」
マリン「はぁ」
空返事をしながら、仮面ライダーマリンは黒色に対して間合いを測ろうとすると、
黒色「撤退!」クルッ
魔法少女は物影まで走って逃げた。
マリン「?」
とはいえ、屋上の塔屋に回り込んだところで、仮面ライダーであれば一瞬で追いつける。
マリン「背中を向けるとは!」シュッ
翼の折れた魔法少女の背中に向かって、刀を突きだすと、マリンの腕に、肉を断つような鈍い感覚が
マリン「……え」
伝わってこない。
魔法少女が姿を消した。
黒色「隙ありっ」ガシッ
マリン「!?」
消えたかと思うと、塔屋の影に足を踏み入れたマリンの足首を、細い手首が掴んだ。
黒色『ふふ……かかったわね』
マリン「な、何が……」
魔法少女の姿はない。ただ、地面から手首が生えている。マリンはマスクの下で冷や汗を流す。
影のかかったコンクリートから黒色の魔法少女の声が響いた。
黒色『これが私の特殊能力!』
黒色『Shadow gate to dead!』
マリン「……少し文法おかしくありませんか?」
黒色『うるさいわね!』
マリン「そうです……ね!」グイッ 黒色「うぁっ!?」ガバッ
マリンが力強く脚を上に上げると、それにつられて魔法少女が地面から魚のように顔を出した。
マリン「術師、術に溺れていますよ!」
黒色「くぅ……なんの!」
手を離した黒色は、再び水に潜るように地面へと消えた。横に薙いだマリンの刀が、虚しく宙を切る。
マリン(Shadow gate ……ということは、おそらく黒色の魔法少女は影に潜ることができる)
マリン(これは影に入っている限りこちらが不利……)チラッ
影から出ようとして、バードが倒れこんでいるところが日陰で繋がっていることに気づく。黒色の魔法少女が仮に影の中を自由に移動できるのだとすれば、
マリン「こっちですよ!」ザザッ
自分が影に入り、囮になるしかなかった。 黒色『自分からこっちのフィールドに入ってくるなんてね!』
マリン「…………」
そう言いながら、仮面ライダーの背後の塔屋から伸びる二本の腕に、マリンは気づかない。
黒色『これならどうよ!』ガシッ
マリン「!?」
急に背後から首元に腕をまわされ、マリンはそのまま壁に引き付けられてしまった。
マリン「しまっ……」
壁と、壁から伸びる白い腕に首を挟まれ、これでもかという力でスーツを圧迫される。いくら硬いスーツとはいえ、昨晩の出来事が証明したように、絞め技は有効となる。
マリン(駄目元でも……!)ガキンッ
黒色の魔法少女がいるであろう部分のコンクリートに刀を突きつけても、スーツは普通のコンクリートと同じ感触を律儀に伝えた。 マリン(まずいですね、スーツが耐えられなくなったら……)
マリン(……使いますか)
スーツが限界を迎える前に、マリンは腰のベルトに備えてあるスマホをタップした。
目を向けることなく、他から見れば読み取ることもできない言語を続けて操作していく。
マリン「二重変身」
最後に音声入力でマリンが呟くと、壁に密着した背中から、青黒い煙のような霧がマリンを包んだ。
黒色『いたっ!?』バチッ
マリン「変身中は強力な電流が走る……さすがに魔法少女でも触れていることはできないでしょう」
拘束を解かれたマリンは素早く向き直ると、壁から生えた手の中指の先を握り、強く引き寄せる。
黒色『いっ……!』
影から魔法少女の身体が出てくると、マリンはひなたへ向かって魔法少女を投げ飛ばした。
マリン「さて……これで能力とやらは使えませんね」
二重変身を終えたマリンのスーツは、全身の筋肉に沿って薄い刃が伸び、そのシルエットを大きく変えている。
マリン「何か言い残すことはありますか?」 ➖➖
アイス「さて、それより」
水色「……!」
アイスが向き直る前に、魔法少女は手をかざして水の針をアイスにめがけて飛ばす。
それは空を切って進んだかと思うと、マスクに触れる前に氷の粒となって粉々に砕けてしまった。
アイス「あなたと私、相性が随分いいみたいね」
水色「悪い、ともいうね……」
アイス「そうね」
アイスはその場から動くことなく、魔法少女を囲む水の膜に腕を伸ばすと、その膜を凍らせて地面へ落とした。
魔法少女がいくら水を張り直しても、その水は仮面ライダーに触れる前に薄く霧散してしまう。
アイス「今回は諦めてくれない?」
水色「そうはいかないね」
水色「たとえあなたがどれだけ強くても、私には助けたい人がいる」
アイス「守るべきものがあるのはいいことよ」
アイス「でも……」チラ アイス「あなたのお仲間、もう限界みたいだけど」
水色「え」
アイスが顎で指した方を見ると、さっきまで穂乃果がいた場所に、制服を着た女の子が倒れていた。
水色「ま……鞠莉ちゃん!」タタッ
アイス「おっと」サッ
アイス「『今日は引く』って聞くまで、ここは通せないわ」
周りの空気が凍るような冷たい腕が、魔法少女の行く手を阻む。
水色「今日は引く」
魔法少女はすぐに答えた。
アイス「……あなたのこと、嫌いじゃないわ」
そう言って少し笑うと、倒れた少女と水色の魔法少女を残して、アイスは壁を駆け上がってその場から離れた。 アイス(正直、あの紫色をこちらで拘束できないのは痛手だけど、こっちだって犠牲が出てる)
アイス(これ以上の危険を冒して利益を狙うより、安全に安全を重ねた方が賢いはず)
アイス(とりあえず私は穂乃果と希のところに向かいましょう)
…
……
………
マリン「何か言い残すことは?」
青色「!!」
青色(善子が……!)
ニコ「あれっ、よそ見するほど退屈かなっ?」グルンッ
青色「ぐうっ……」バシッ
激しい蹴りが繰り出される中、青色はやっとのことでその細いスーツの脚を掴んだ。
青色(やった!)
ニコ「わざわざありがとう!」グイッ
青色「え」
小柄なピンクの仮面ライダーは、掴まれた脚を支点にして、自分より大きな魔法少女の身体に向けて自分を引き寄せた。
焦って手を離す魔法少女だったが、すでに遅く、仮面ライダーはそのスーツに覆われた両手で魔法少女の目隠しをし、首をいつでもひねられるような、肩車の体勢になった。
ニコ「魔法少女も、首を捻られたら……どうなんだろ?」 青色「…………」
両脚を使って腕まで拘束されている。おそらく体を傾けて地面に叩きつけようとすれば、その動きを見せた途端に首を捩じ切られる。
魔法少女は冷や汗を流した。
青色(まずいまずいまずいまずい)
ニコ「ね、だから、大人しく……」
水色「動かないで」スタッ
マリン「!!!」
唐突に声のした方を全員が振り帰ると、スーツを着たまま倒れたバードの頭上に、水色の魔法少女が水の針を掲げていた。
水色「2人を解放して……そしたら大人しく帰る」
ニコ「……ふーん?」
マリン「……あなたが嘘をついていない証拠は?」
水色「…………」クイッ 水色の指した方向を見ると、倒れこんだ制服の少女が隣の屋上で寝かされていた。
水色「もし私がこのライダーを殺せば、あなたたちは全力で殺しにかかってくるはず」
水色「そうすれば、逃げるのに意識不明の味方がいるのは明らかに不利」
マリン「……なるほど」
ニコ「じゃ、信じていいかもね」
マリンとニコは顔を合わせて頷くと、お互い魔法少女から離れて、水色の魔法少女の前に立った。
瞳の見えない複眼の目線が、冷たく魔法少女を見下ろす。
水色「……や、約束は守るよ」
水色は掲げていた水の針を、手をグーにして、屋上の上に水として撒き散らした。
水色「帰ろう」
魔法少女3人は頷くと、倒れた少女を回収してから、屋上の上を走り去っていった。 マリン「……バード!」
バード「……うぅ」
マリン「大丈夫ですか!」
バード「く……くぃからした……ぁ……うごかない……」
ニコ「変身解除」サァァ…
にこ「脊椎損傷かもね、自力じゃ解除できないでしょ」
にこ「ちょっと待ってなさい」
マリン「…………」
仮面ライダーニコニーのスーツの下から現れた音ノ木坂の3年生は、バードのベルトのスマホに向かって、細かい操作を始めた。
にこ「超硬質筋繊維型人工皮膚纏式変身……昨日からは仮面ライダーシステム、って呼んでるんだっけ」
にこ「仮面ライダーシステムは、変身時と解除時にほぼ脳以外の全身の組織を作り直すから、あらゆる怪我は治るんだけど」
にこ「こうやって、自力で変身解除ができないときは、変身体として死んでしまうこともあるってことね」
マリン「…………」 にこ「はい」ピッ
最後にスマホを小さくタップすると、バードを包んでいたスーツが霧となって消えて、代わりにことりが中から現れた。
ことり「……ありがとう、にこちゃん」
にこ「ん、どういたしまして」
マリン「」ホッ
マリン「では私はこれで……」シュタッ
にこ「じゃ、私たちもさっさと帰りましょう」
ことり「うん……」
ことり「穂乃果ちゃんは、大丈夫かな」
にこ「大丈夫よ」
にこ「希と絵里がついてる」 ➖➖神田明神
希「とうちゃーく!」ブゥゥン!
穂乃果「おっと」グラッ
希「酔わんかったかい?」
穂乃果「は、はい、なんとか!」
希「よかった、ここなら安全やからね」
穂乃果「ここって……神田明神が?」
希「そ、ここは仮面ライダーであっても居場所が見つからない唯一の場所」
穂乃果「?」
希「魔法少女や仮面ライダー、それに仮面ライダー同士は、変身さえしていればお互いがどこにいるのか感覚でわかるんよ」
希「本来はそれを受け取るための器官が用意されるはずなんやけど、残念ながらウチらは目、耳、鼻、口、肌、しか持ってないから、代わりに肌で温度として居場所を感じ取れる」
穂乃果「???」
希「んまっ、難しいことは抜きにして、ここはセーフゾーンと思ってくれればええよ!」 穂乃果「あの、の、希先輩は……」ハッ
何者なのか、と尋ねようとして、穂乃果は逃げているとき、ことりがどこかへ連絡していたのを思い出した。助けを呼んでいたのだとすれば、たぶん、この人たちだ。
希「御察しの通り、音ノ木変身隊、高坂穂乃果護衛隊、ってところかな?」
希「ま、昨日からはあなたが名付けた、仮面ライダー……って呼んでるみたいやけど」
穂乃果「私が名付けた?」
希「うん、パッと口に出たんやろ?」
希「たしかに言われてみればほぼ仮面ライダーよね……」
希がスカートの腰に取り付けているスマホを操作すると、巨大なバイクが霧になってその場に消えた。
穂乃果「えっ」
希「これも本物のバイクやないしね」
希「燃料は、ヒ☆ミ☆ツ!」 穂乃果「はぁ……」
希「……さて、これまでは実はことりちゃんの力でむにゃむにゃだったのだけれども」
希「ことりちゃんの体調に合わせてこれからの方針が変わったみたいなので、ウチがある程度説明してしんぜよう」
穂乃果「?」
希「『仮面ライダー』について」
希「じゃ、その前に……絵里ち!」
穂乃果「え?」
アイス「はいはい」スタッ
アイス「ほかのライダーはみんな無事みたいよ」
希が物陰に声をかけると、仮面ライダーアイスがこちらへ歩いてきながら、穂乃果にとっては昨晩ぶりとなるあのセリフを呟いた。
アイス「変身解除」サァァ…
絵里「……穂乃果、絵里です」
穂乃果「ぅ絵里ちゃん!?」
穂乃果「仮面ライダーだったの!?」
絵里「ふふ、そうなのよ」
穂乃果「知らなかった……」
希「知り合い?」
絵里「子供会でよく一緒になってたのよ」
希「なるほどね」
希「さ、外で話すのもなんやし、バイト用の休憩室があるから、そこで話そっか」 ➖➖
穂乃果「あの、仮面ライダー、って結局何なんですか?」
絵里「そうね、理屈だけで言うと、特殊な作用を受けた電子機器を身体に取り付けることで」
希「これが『変身ベルト』ってやつかな」
絵里「全身の細胞を一瞬で作り変えて、さらに詳しく調べられないほど精密な『生物機械』を見に纏う人のことね」
希「これが『スーツ』なんだけど、実は昆虫って、脳みそがなくて生き物ってよりは機械に近い側面があるんやけど」
希「仮面ライダーのスーツもある意味、生物の身体……変身する人の身体から分裂した、昆虫のようなもの、と言って差し支えないかもね」
絵里「一番詳しい人は、これを『超硬質筋繊維型人工皮膚纏式変身』って呼んでるわ」
穂乃果「???」
絵里「『超硬質』……すごく硬い」
絵里「『筋繊維型』……力を生み出す」
絵里「『人工皮膚』……人の身体からつくられる」
絵里「『纏式変身』……これは魔法少女もおそらく似た理屈のはずだから、私たちのことは『纏式』と呼んでるってことね」
希「箇条書きみたいな説明ありがとう」
希「あと、変身した肉体は普通よりもかなり丈夫につくられてて、桁外れの動きを可能にするためには相当の酸素が必要」
希「だから、一度の呼吸でたくさんの酸素を得るために、喉が普通の2倍から3倍に広くなってて、そのせいで声も変わるね」
絵里「だから穂乃果も気付けなかったのね」
希「ま、簡単に言うと、仮面ライダーってのはベルトで変身する凄く強い人のことね」 穂乃果「な、なんとなく……わかりました」
希「それから、ウチらの目的も説明せんといけんね」
絵里「私たちの目的は、穂乃果を魔法少女から守ること」
穂乃果「魔法少女……?」
希「うん、彼女らもなんらかの方法で『変身』した、強化人間」
希「私たちが『機械』とすれば、あっちは『魔法』ってイメージかな」
絵里「おそらくスーツと同じようにダメージを吸収したり力を強くしたりする魔法の膜を身にまとっているの」
絵里「たぶん、私たちと違って限界を超えるまでは傷ができないし、痛みも感じていないわ」
穂乃果「あ、だから……」
〜〜
水色「……あっぶ」
何事もなかったように立ち上がる少女の身体に、傷はない。
〜〜
穂乃果(刀で切りつけられても無事だったのは、魔法の膜がそれを吸収したからで……)
穂乃果(相手が無傷なのにマリンちゃんが余裕だったのは、ダメージを受けてることを知ってたから……)
絵里「心当たりがある?」
穂乃果「うん、たぶん」 希「話を戻すと、魔法少女たちは穂乃果ちゃんを攫おうとしている」
希「けど、仮面ライダーに変身していない穂乃果ちゃんの居場所は掴めないから、これまで手探りだったんだけど……」
希「昨日、ついに見つかってしまった」
希「たぶん、穂乃果ちゃんの持つ独特の温度や波長もバレてしまった」
絵里「だから、これからは穂乃果に内緒で活動するのをやめて、穂乃果にも協力してもらいつつ魔法少女をとめることにした」
穂乃果「どうして、魔法少女は私を攫おうとするの?」
希「わからない」
希「けど口ぶりから一つ言えることは、さらわれたら生きて帰ってくるのは無理、ということやね」
穂乃果「い、生きて帰るのは無理……」
絵里「それだけは阻止しないと」 希「これは、あと1年も耐えれば終わるはずなんよ」
絵里「そうね」
穂乃果「え?」
希「穂乃果ちゃんが3年生になるくらいの時期……それまでの辛抱」
穂乃果「3年生に」
穂乃果「何か起こるの?」
絵里「え?」
絵里「だってそういうものじゃない」
穂乃果「?」
希「ほら、あと1年でしょ?」
穂乃果「???」 希「ま、細かいことはともかくとして、穂乃果ちゃんはこれまで通りの生活を送ってほしい」
絵里「穂乃果はもちろん、雪穂ちゃんたちにも迷惑はかからないようにする」
穂乃果「わ……わかった」
希「あとひとつだけ仮面ライダーのことを伝えておくと……連続で変身は難しいってことかな」
穂乃果「連続で?」
絵里「えぇ、一度の変身で多くのエネルギーを使うからね」
絵里「単純な話、変身と解除を合わせれば新しい身体を2つと強力なスーツを作るわけだから」
絵里「いくら食べても太らない!」
穂乃果「そこ?」
希「ま、そういうことだから」
絵里「今日は家まで送るわ、お風呂にでも入ってゆっくりしなさい」
穂乃果「はーい」
穂乃果(仮面ライダー……強い肉体に変身できる人)
穂乃果(そして魔法少女も、同じような理屈)
穂乃果(何か……すごくひっかかることがあるんだけど……これは一体なんなんだろう) ➖➖次の日
穂乃果「あ、みてみてマンタ!」
海未「そうですね」
ことり「マンタって以外に顔キモいよね」
穂乃果「そうかな?」
ことり「キモいよね?」
海未「そうですかね? 私はあんまり……」
ことり「キモいよね??」
海未「なんでそんなにキモくしたがるんですか」
穂乃果「……にしても」キョロキョロ
穂乃果「平日だから、あんまり人いないなぁ」
ことり「だねぇ」 穂乃果(希先輩……希ちゃんに言われて、今日は水族館に来てる)
穂乃果(もしかしたら、居場所を肌で感知する以上、温度が場所によって大きく変わる水族館だと、見つからないかもって)
〜〜
希「……てな感じで、あと昨日現れた黒色の魔法少女は影に潜れるらしいから、そこは気をつけて」
希「ということではい、チケット」
穂乃果「えっ、いいの?」
希「ウチバイトしてるから!」
希「それに、これで今日居場所がバレなければ、対策の方法も増える」
穂乃果「例えば?」
希「家の周りに水の入ったペットボトル置くとか」
穂乃果「猫みたい」
〜〜
穂乃果(だから、きっと見つからないはず!)
穂乃果(魔法少女がこなければ、みんなが痛い思いをすることもない)
穂乃果(だからお願い、このまま何事もなく時間が過ぎてくれれば……) 穂乃果「あ、そういえば昨日夢みたんだけどさ」
ことり「また?」
海未「どんな夢です?」
穂乃果「なんかねー、いっぱい仮面ライダーがでてくるんだけど、見たことないのもいたの」
穂乃果「なんか、赤に金のラインが入ってる……なんて言ってたっけ?」
ことり「……!」
海未「名前まで言っていたのですか?」
穂乃果「うん、えっとね……ティアラ、だったかな? 嬢王様的な威厳があった!」
ことり「へ、へぇ……」
海未「まぁ、仮面ライダーなんて、そんなものがいればの話ですけどね」
穂乃果「だからいるってばー!」 穂乃果「あっ、そうだ!」
ことり「?」
海未「なんですか?」
穂乃果「なんかこの水族館、カフェがあるみたいだから、そこ行ってみない?」
ことり「いいねー!」
海未「最近は減量してるのですが……少しくらいなら」
穂乃果「やったー!」
穂乃果「じゃ、そのカフェに……」
青色「カフェよりも、魔法少女はいかがかなん?」
ことり「!」バッ
桜色「もしよろしければ、私たちのところへご案内しますが」
穂乃果(新しい魔法少女……!)
海未「…………」 ことり「…………」サッサッ
穂乃果「……!」コクンッ
昨日決めたことりのハンドサインを見て、穂乃果は海未を連れて駆け出した。
穂乃果「こっち!」ギュッ
海未「は、はい!」タタッ
水族館の薄暗い廊下を駆け、分岐路を右へ左へと曲がっていく。
海未「な、なんなんですかあの2人は!?」
海未「あんな格好をして……」
穂乃果「説明はあとでする!」
穂乃果「海未ちゃんは私と一緒に……」ガチャッ
立ち入り禁止の用務員室の扉を開ける。
魔法少女側はある程度人目についていいとはいっても、狭い部屋の中、顔を確認出来る距離に他人がいれば、無茶はしないだろうと、そう予想した結果の行動だった。
黒色「ようこそ!」
穂乃果「!!!」
穂乃果(影に潜る魔法少女……!)
期待もむなしく、駐在していた用務員は、目隠しと耳栓をされて部屋の端に転がされていた。 マリン「あなたの相手は私です」ザザッ
穂乃果「!?」クルッ
黒色「来たわね宿敵……あなたは私が倒す!」
いつの間にか、握っていた海未の手はどこかへ消えており、穂乃果の後ろには、仮面ライダーマリンが立っていた。
穂乃果「う、海未ちゃんが迷子に!」
マリン「……あの子なら私が先に避難させました」
マリン「ですが波長で位置のバレるあなたはどこへ逃げても同じです」
マリン「早く他の仮面ライダーと合流してください!」
穂乃果「わ、わかった!」タタッ 穂乃果が通路の先へ走って行ったのを確認して、マリンは用務員室の扉を乱暴に閉めたうえで、ドアノブを雑に破壊した。
マリン「これでここからは外に出られません」
黒色「そうね、でも……」チラッ
用務員室は細い廊下を通じて、ほかの出入り口と繋がっている。
黒色「そして廊下にはモノがあって影もある!」
黒色「Shadow gate to dead!」シュッ
黒色の魔法少女は足早に近くの影に潜り込んだ。
黒色『通常通路に出れば、私のフィールドよ!』
マリン「その前に全ての扉を壊せばいいのです、もしくは……」タタッ
マリンも影の繋がっている方へ向けて走り出す。
マリン「あなたをここで殺します」 ➖➖大水槽前
ことり「変身」バサァッ
青色「変身中なら……!」ダダッ
変身中は身動きが取れない。青色の魔法少女は巨大な羽根に包まれたことりに向かって駆け出したが、
ことり「ふふっ」バチバチッ
青色「あっつッ!」
磁石が反発するかのように、魔法少女は仮面ライダーの変身を邪魔できない。
後ろから近づこうとしていた桜色の魔法少女にも、続けて生えてきた鋭い羽根を使って、目の辺りを薄く切りつける。
桜色「うぁっ……」ヨロッ
バード「羽根だからふわふわだって思ったら……勘違いだよ!」
青色「梨子!」
桜色「だっ、大丈夫です!」
バード(……ん? なんか聞いたことある名前) バード(でも……それより)シュタッ
羽根を使って天井まで飛び上がり、ちょうどいい凹みに掴まるも、2人の魔法少女を相手に、バードはマスクの下で冷や汗を流した。
バード(余裕っぽい表情しちゃったけど……正直これで私はネタ切れ)
バード(戦うことに関しては、私は仮面ライダーの中で最弱……!)
今、青色が飛びかかってきたら間違いなく殺される。
桜色が一体どんな力を使うかもわからない。
バードは優位に立っている表情をしたまま、意味深に羽根を羽ばたかせて、2人を無言で牽制していた。
青色「(梨子、同時に仕掛けるよ)」
梨子「(でも、相手がどんな力を使うかは……)」
青色「(私が身代わりになる)」
梨子「!」
青色「……いくよ!」
アイス「いかせないわよ」 青色「っ!」サッ
アイス「同じパターンで悪いわね!」
跳び上がろうとしていた青色は、そのままの力で声のした方へ蹴りを繰り出す
も、それは空振りに終わり、反対に背中に熱いと感じるほど冷たい氷が貼り付けられる。
桜色「果南さん!」タタッ
ニコ「あなたの相手は私!」
桜色が咄嗟に腕を構えると、その細い腕に激しい蹴りが撃ち込まれる。
痛みはないものの、燃え上がるような熱が全身を包む。
桜色「!?」
ニコ「それは私の能力じゃないよ……身体の使い方!」
桜色「勁……」
桜色は以前に聞いたことのある力の伝わり方の違いを思い出した。
一点に力を加えるのが普通の叩き合いだが、技術があれば、その力がどこへ伝わるかは選ぶことができるという。
桜色「……コワレヤスキ」
ニコ「?」
何か桜色が呟いたのをニコは聞き逃さなかったが、続けてみぞおちに向って、つま先を叩き込んだ。
小さな光が接触点で漏れる。
桜色「……っが」ガンッ
桜色の魔法少女は壁に叩きつけられ、変身が解けてその場に倒れこんでしまった。
見覚えのあるその顔に、ニコは一瞬何かを思い出しかける。 ニコ「……弱かったね」
水色「……そうでもないよ」
ニコ「!」シュッ
後ろから聞こえた声に、ニコはさっきと同じように体を捻り、脚を回転させて、相手の身体に
ニコ「ぃでっ!?」バキッ
触れた途端、ニコの脚が反対の方向へ曲がってしまった。
水色「……コワレヤスキを使ったんだ」
ニコ「いぐ……はは、やっぱさっきのなし」
ニコはみぞおちを叩いたときの淡い桜色の光を思い出す。
思うように力は入ったが、そのすぐ直後の蹴りで自身の脚が耐えきれなくなってしまった。明らかに何かされている。
青色「曜、使って!」バリンッッ
アイスの攻撃を交わした青色が、渾身の力で大水槽を叩き割る。
水色は手をかざすと、水だけを巻き上げて、ニコとアイスの上に圧し潰すように水を載せた。
アイス「だから効かないってば……!」サラサラ…
アイスの周りには氷の粒が散らばるだけだが、ニコは大量の圧を全身に受けて、
水色「!」
いなかった。
仮面ライダーが消えた。 青色「しまった、鳥がいない!」
水色「あ!」
アイス「よし……じゃあ私も!」
アイスは割れた水槽を通りざまに氷で固めて直すと、あっけにとられる2人を残して、さらに氷の壁を通路の前に作る。
アイス「魚たちを外へ出さなかったのは、あなたたちなりの優しさだと捉えておくわね!」
そう言い残すと、アイスは滑るような動きで細い通路を駆け抜けた。
青色「…………」
水色「……人が来る前に、早くおいかけよう」
青色「そうだね」
厚く高密度で張られた氷の壁を、落ちている水を集めた針で崩していく。さっきまでの騒音とは裏腹に、静かな空間に氷の音だけが響いた。
大量の水が流れて濁った大水槽では、マンタが忙しそうに泳いでいる。水色の魔法少女は横目にマンタを捉えて、顔をしかめた。
水色「……マンタって、割とキモいよね」
青色「そう?」 仮面ライダーって力の根源はライダーも敵も同じってのが基本ルールだけど
これは何になるんだろ ことりちゃんピンチになったらどこからかリボルケインが飛んできそう ➖➖クラゲの通路
穂乃果「はぁっ、はぁ……」
穂乃果(誰も追ってきてない……早く水族館を出ないと)タッタッ
穂乃果(なんか、こうしてみると水族館って割と迷路だよね……)
黄色「待ち伏せ成功だね」
紅色「さすがですわ」
穂乃果「!」ザッ
細いクラゲの通路を抜けようとすると、その先に魔法少女2人が待ち構えていた。
紅色「安心してください、他の方はここへは近寄らないようなしましたので」
黄色「できれば、一緒に来て欲しいんですけど……だめですか?」
穂乃果「…………」
穂乃果(まずい……今戻ってもたぶん他の魔法少女が来てる)
穂乃果(どうしよう……) 穂乃果「あ、ある人っていうのは……あなたたちの、大切な人なの?」
紅色「そうです」
黄色「そういう『設定』ずら」
穂乃果「設定?」
穂乃果「設定って……」
紅色「そう決められているのです」
紅色「そして、その人が私たちを魔法少女へと変身させられる」
穂乃果「!」
紅色「あなただって同じでしょう?」
紅色「纏式変身を可能にさせられる唯一の存在」
穂乃果「……え?」
黄色「あなたがいなければ、纏式変身はできない」
紅色「……詳しいことは、ついて来て下さればお話しします」 穂乃果「よくわからないけど……わ、私がいけば……もう戦わなくて済むの?」
紅色「もちろんです」
紅色「理由がありませんから」
穂乃果「これから、着いて行く、って答えたら……」
黄色「もう何も手出ししないずら」
穂乃果「」ドクンッ
穂乃果(私が……私が1人、ついて行けば)
穂乃果(他のみんなが、もう痛い思いをしなくて済むなら……)
穂乃果(だったら私は、わたしは……)
穂乃果「……ねぇ、だったらいまから」
穂乃果が一歩踏み出そうとすると、その足元で何かが弾けた。
目の前の2人の魔法少女が何かした様子はない。
穂乃果「!?」
??『それは……勘違いにもほどがあるわよ』 紅色「花丸さん!」
紅色の魔法少女が黄色の魔法少女を庇おうとすると、その伸ばした腕に、何かが撃ち込まれた。
紅色「…………」
花丸「!」キャッチ
花丸「これは……」
撃ってきた『モノ』を黄色がキャッチすると、それは手のひらに一瞬痛みを与えた後、霧となって煙のように消えた。
花丸「纏式変身の装甲!」
紅色「狙撃型に狙われていましたか……!」
穂乃果「ぇ……」
狙撃と言っても、この閉鎖された空間、狙うような場所はどこにもない。
紅色「……壁を透けたりしない限り」
穂乃果が戸惑っていると、後ろから風を切るような音が聞こえ、次の瞬間には穂乃果の身体は抱き抱えられていた。
バード「身体丸めて!」
穂乃果「!」サッ 紅色「花丸さんしゃがんで!」
黄色「うわ!」サッ
魔法少女2人が身を縮めると、その後ろ髪が鋭利なカッターで撫でられたようにパラパラと切り落とされ、少し遅れて風が2人の顔を撫でた。
紅色「い、いまのは恐らくバード……」
ニコ「そして代わりに!」
黄色「!」ザッ
穂乃果が立っていた場所には、ここまで抱えられてきたのであろうピンクの仮面ライダーが立っている。
ニコ「仮面ライダーニコニー参上!」
ニコ「おひさっ!」
紅色「あなたですか……!」
紅色「花丸さんはバードを追って、ルビィと合流してください!」
黄色「はい!」 ニコ(やば……痛い痛い痛い)
ニコ(そりゃ右脚折れてるのに無理やりまっすぐしたんだから痛いよ……やばい立ってらんない)
変身を解除すればこの程度の骨折なら治るが、一度解除すれば次の変身まで時間がかかる。急ぐための食べ物もエネルギーもない。
紅色「…………」
ニコ(いや、涙出てきた……いったぁ……)
ただ構えのポーズでたっているだけで、相手は勝手に警戒して距離を取ってくれているが、虚勢がバレるのも時間の問題だ。
そもそも立っているだけで全力である。
アイス「さすがニコね」シュタッ
紅色「……!」
後ろから現れた仮面ライダーアイスが、紅色の魔法少女に向かって大水槽の前から引っ張ってきた氷の玉を投げ飛ばす。
紅色「はっ!」ボォッ
紅色が振袖のような装飾のついた腕を振ると風の代わりに炎があがり、氷を水へと変えた。 アイス「ここを通して欲しいんだけど」
紅色「できないお願いですわね」
アイス「そ?」
アイス「じゃあ仕方ないわね……ニコ、腕は平気なのよね?」
ニコ「うん、たぶん」
アイス「じゃあ……」
仮面ライダーたちは一歩下がり、魔法少女から距離をとると、アイスが腰のスマホに向かって数回タップした。
アイス「バイク、おいで!」カチッ
音声入力でスマホの画面の色が変わる。スーツの中で絵里が姿勢を正すと、アイスの背骨に沿った装甲の隙間から、冷気のような煙が溢れてくる。
それが次第に形を作っていき、圧縮されて厚い氷になると、色を変えて狭い通路にバイクが現れた。
紅色「!」
アイス「ニコ、乗って!」
ニコ「ありがとうっ」ギュッ
アイス「とばすわよ!」ブゥゥン!
咄嗟に紅色が通路の横へ転がると、アイスのバイクは音と冷気を残して通路を走り去り、通った後には厚い氷の跡が残った。
紅色「……めちゃくちゃですわね」 ➖➖外
穂乃果「ぶわっ」
バード「ここなら大丈夫かな……」バサァッ
水族館を抜け、建物から出て、スカイツリー前の広場に降り立つと、当然だがあたりに人が集まってきた。
「ショーかなにか?」
「今飛んでなかった……?」
「あれなにー!」
「仮面ライダーよ」
バード「穂乃果ちゃん」バサッ
穂乃果「うゎっぷ」
バードは抱えていた制服の上着を穂乃果の頭に被せると、周囲を警戒した。
バード「……やっぱり、着いてきてる」
赤色「ここなら目立った動きはできないって感じかな?」
黄色「賢い判断ずら」 赤色「敵ライダーめ! 女の子を返せ!」
黄色「離すずら!」
穂乃果「!?」
魔法少女2人は周りに聞こえるように大きな声でそう言うと、わざとらしくよく見かけるような魔法の杖を構えた。
バード(なんとしてでもショーに見せかける気だ……!)
穂乃果「ち、ちが……」
バード「ふっふっふっ、この女の子は渡さないよ!」ザッ
バードはさも作り物かのように羽根を不器用に動かして、穂乃果の前に立ちはだかった。
穂乃果「……!?」
赤色「このぉ、絶対助けるからね!」タタッ
赤色魔法少女は少しゆっくりと駆け出すと、仮面ライダーへ向けて杖を振り下ろした。
バードは魔法の弾を飛ばされたかのように適当にリアクションをとって、それから素早い動きでその杖を奪い取る。
赤色「しまっ……」
黄色「つ、杖が!」 バード「…………」
もちろん、ただの棒である。
だが、バードにとっては、状況が違った。
「ねぇママ見てきていいー?」
「あれなんの漫画ー?」
「プリキュアじゃなーい」
赤色「ステッキがとられちゃった!」
相手は周りにも聞こえるように大きな声を出している。つまり口を大きく開けている。
そして、相手にはいない、こちらには、まだ味方がいた。
黄色「大丈夫、次はわた……」
バード「えいっ」
黄色「!?」バンッ
バードが杖を振り降ろすと、それに合わせるかのように黄色の魔法少女が派手に後ろへ吹き飛ばされた。
赤色「え!?」 バード「えいっ!」ブンッ
さらに赤色に向けても杖を振ると、その口にめがけて弾が打ち出された。
赤色「!」ギュッ
魔法少女は咄嗟に口を閉じる。
バード(やっぱり……口の中は魔法の膜がないんだ!)
突然吹き飛ばされた魔法少女に、周りはざわつき始めた。
ただでさえわけがわからない状況のショーなのに、演技が生身の人間にできる動きではない。
黄色「うぅ……」パァァ…
口から血を流す黄色の魔法少女がうめき声を上げる。その衣装が光に包まれたかと思うと、その下から制服の少女が現れた。
今度こそ、周りは騒然とし始めた。 バード(まずい……穂乃果ちゃんを逃さないと……!)
赤色「……よくもフラワーちゃんを!」タタッ
口調はわざとらしいが、おそらく今度は本気でくる。バードは杖を武器として構え、羽根を使い小さく飛び上がった。
赤色「えっ……」
赤色の魔法少女の真上に移動し、後ろ頭に向けて思いっきり杖を叩きつける。
プラスチックの杖が粉々に砕けて、仮面ライダー、魔法少女ともにその衝撃で吹き飛ばされた。
「…………」パシャッ
バード「!」
気がつけば、周りの人々が皆スマホを構えていた。間違いなく撮られている。
バード(まずいまずいまずい!)
バード(人はともかく、データは流石に……!)
赤色の魔法少女に近づきつつ、感じたことのないような焦りを覚えていると、1人のスマホが爆発した。
「ぇあっつッ!」
「えっなに!?」
「きゃっ……私のも!」
バード(よかった……狙撃で壊してくれてる!)
だが、すでにショーで済ませられる範囲を超えてしまっている。今ここにいる人をこのまま帰すわけにはいかない。 希「助けに来たぞー!」ブゥゥン!
赤色「!?」
大きめのダウンに身を包み、サングラスとネックウォーマーで顔を隠した希が、広場にバイクで乗り込んできた。
穂乃果「!」ガシッ
希「さぁ、今のうちに乗って!」
赤色「しまっ……」
希「レッドちゃんがひきつけてるうちに、遠くへ逃すから!」
希「あとはまっかせろー!」ブゥゥン!
希は穂乃果を乗せると、人々の合間を縫って素早く広場を後にした。
バード「じゃあ……2人も帰ってもらえるかな」
赤色「…………」
赤色「……また来る」
赤色の魔法少女は倒れた少女を抱き抱えると、足早に広場を後にした。 バード「…………」
1人取り残されたバードは、周囲のパニックを1人で引き受けることになった。
子供は楽しそうに笑っている子、ポカーンとしている子、泣き出している子、大人はみな突然スマホが爆発したことや目の前で起こっていることに騒然としている。
バード「みなさぁーん!」
バードが手を上げて、大きな声を上げた。
事件の第一人者が声をあげたのだから、当然、ほとんどの人は振り向く。
広場の入り口からは、誰かに呼ばれたのか警察が走ってきているのも見える。
バードは深呼吸をして、久しぶりにその力を使った。
バード「私から目を離さないでくださいねー、さーん、にー、いーち!」
……その日のニュースに、騒ぎのことが取り上げられることはなかった。 ➖➖公園
マリン「2人とも!」タッタッ
アイス「あら、えっと……マリン」
マリン「黒色の魔法少女に逃げられてしまいました……申し訳ありません」
アイス「いいのよ、無理に仕留めることはないわ」
アイス「それより、まわりに魔法少女はもういないわよね?」
マリン「そうですね、気配はありません」
アイス「ニコ、もういいわよ」
ニコ「わかった……変身解除」サァァ…
地面に座り込んだニコが変身を解除すると、異常な角度で腫れ上がっていた脚が、みるみるうちに元の形に治っていった。
にこ「あ゛ー、痛かった……」
マリン「かなり折れていましたね……」
にこ「気を付けてよ、桜色のは弱体化魔法みたいなの使ってたから」
マリン「そんなゲームみたいな」
にこ「ガチよ……」 アイス「ところで、バードは……」
ことり「はい、ここに……」バタッ
マリン「ことり!」ダキッ
ことり「久しぶりに力使っちゃった……」
アイス「記憶操作……ありがとう、水族館でもずいぶん暴れてしまったから」
ことり「ううん、私も外で結構見られたから……」
にこ「まあ、必要な場面だったわね」
にこ「まさか施設まで破壊して回るなんて思いもしなかったわ」
アイス「相手も必死なのよ……穂乃果がコネクターだから」
マリン「仕方ありません、ここはそういう世界なのですから」
マリン「変わることはありません……」
ことり「そうだよね……」 ことり「ところで……マリンちゃん」
マリン「はい」
ことり「どうして、穂乃果ちゃんの前で正体を明かさないの?」
アイス「思ったわ、この状況だし、バラしてもいいんじゃ」
アイス「たしかに、これまで全員の正体がバレた世界はなかったけど……」
マリン「……1人は、必要なはずです」
にこ「?」
マリン「身の回りの人全員が特別な力を自由に使えると知って仕舞えば、きっと穂乃果は背負いこんでしまいます」
マリン「だから、私1人は……どうしても、バレてはいけないのです」
ことり「なるほど」
アイス「……たしかにね」
アイス「あの子が変身すると強制終了か、もしくはそれ以上の何かが起こるなら……変身はさせられないし」
にこ「世界が無くなってしまえば、何もかも意味はなくなるしね」
マリン「だから……私は、正体を明かしてはいけないのです」 ➖➖神田明神
希「追っ手は来てないね」キキッ
穂乃果「うん……」
穂乃果(さっきの……)
〜〜
紅色『そして、その人が私たちを魔法少女へと変身させられる』
穂乃果『!』
紅色『あなただって同じでしょう?』
紅色『纏式変身を可能にさせられる唯一の存在』
〜〜
穂乃果(ってことは、仮面ライダーをつくれるのは……)
??「さっきのは何よ」スタスタ
穂乃果「え?」グイッ
??「自分から連れていかれようとしたでしょ……!」ググ…
希「ちょっ、真姫ちゃん」 穂乃果「え……」
真姫「何のために私たちが……!」
希「ちょ、真姫ちゃん、落ち着いて落ち着いて」
真姫「…………」パッ
穂乃果「……ごめんなさい」
希「穂乃果ちゃんなりに色々考えたんやろ……コネクターである限りウチらとは違うんやから」
穂乃果(……コネクター?)
真姫「……そうよね」
真姫「穂乃果は毎回忘れてしまうから……」
希「……うん」
穂乃果「え、忘れるって」 希「話したほうがええんかな……」
穂乃果「??」
真姫「前も話したけど、ダメだったじゃない」
希「あのときは……強制終了したんだっけ」
真姫「えぇ……モブの私たちが言うのは、たぶんルール違反なのよ」
希「そうよね……」
穂乃果「話したって、なにを……」ズキッ
『だから! 私はそのために戦う!』ガシャンッ
『いくぞ、変身!』バッ
穂乃果「いたっ……」ヨロ…
真姫「?」
穂乃果(いまの見覚えは……変身?)
穂乃果(私が……ベルトを巻いてた?)
穂乃果(これって……) 穂乃果「ね、ねぇ……私って」
希「ん?」
穂乃果「ベルトを巻けば……」
穂乃果「変身できるの?」
真姫「…………」
希「…………」
希「……それは」
紫色「できると思うわよ」ザッ
穂乃果「!」ビクッ
真姫「……どうしてここがわかったの」
紫色「単純よ、ついてきただけ」
紫色「いつも居場所がわからなくなるときがあったけど……ここだったのね」 真姫「変身」カシャッ
紫色がいるということは、恐らく他の魔法少女も近くにいる。そして間違いなく仕掛けてくる。
希「真姫ちゃん!」
真姫「やるしかないでしょ」シュゥゥ…
真姫のうなじあたりから赤い布のようなものが2枚伸びてきて、止めようとした希は跳ねるように後ろへ避ける。
変身中の仮面ライダーに生身の人間が近づいたらどうなるか、希は考えるだけで身の毛がよだつ思いがした。
2枚の布がそれぞれ上下にひるがえり、真姫の身体を包みこむ。
それが密着したかと思うと、一瞬で光沢を放つスーツとなり、さらに肩にかけてマントのような追加装甲が背中を覆い隠した。
マスクの上には、斜めにティアラのような装飾がある。
穂乃果「赤に、金のラインが入ってるスーツ……」
昨日の夢と、同じライダーがそこにいた。腕が通常の3倍は太く、その手の甲の上あたりには、銃口のようなモノがみえる。
穂乃果「仮面ライダーティアラだ……」
??「ティアラ?」
ティアラ「いい名前ね、貰うわ」 紫色「この距離なら、確実に当たるわね」
ティアラ「どの距離でも当たるわよ」
仮面ライダーティアラが、その腕を紫色の魔法少女に向けると、音も立てず真っ直ぐに弾を発射した。
弾は空を切ると、真っ直ぐに
ティアラ「!?」ガギィンッ
ティアラのスーツに傷をつけた。
ティアラ「何が……」
紫色「今のも避けられなかったの?」
魔法少女は、右腕はゴムを飛ばすときのように前へ伸ばしており、左腕は顔の前で狭くピースをして、その指の間には、
紫色「もしくは、受け止めるとか」
ティアラの発射した弾が挟まれていた。
ティアラ「…………」 希「能力をパクられたのかな……穂乃果ちゃん、走って!」
穂乃果「う、うん!」
紫色「逃がさないわよ」サッ
魔法少女の指の先が穂乃果を差す。穂乃果は嫌な汗が背中を伝うのを感じた。
ティアラ「あなたの相手は私」ザザッ
ティアラが紫色の懐に飛び込み、その腕をつかもうと手を伸ばす。身体をそらしてその手を避けた魔法少女は、仮面ライダーの脇腹に蹴りを叩き込みながら後ろへ大きく回る。
紫色「でもあなた……今日だけで2回目の変身よね?」
ティアラ「……っ」ヨロ…
紫色「どこまで耐えられるかしら」
ティアラ「……貴方が帰るまでよ」
紫色「楽しみね」 希「あの場所がばれた以上、もうあそこにいる意味はない……どこかへ逃げないと!」ブゥゥッ
穂乃果「で、でもどこに!」
希「よしエンジンかかった……わかんない! どこか遠く!」
穂乃果「えぇ!?」
希「それか……よし繋がった、アイスがまだ変身してるから、ここに合流して!」
希は穂乃果のスマホで地図を表示すると、1キロほど離れた場所にピンをつけた。
希「あと、穂乃果ちゃんバイクの運転できる!?」
穂乃果「そ、操作なんとなくはわかるけど……免許持ってない!」
希「ウチの貸すから!」バシッ
穂乃果「いや免許ってそういうものじゃないし!」
希「はいヘルメット!」ガポッ
希「いって!」
穂乃果「うぅ……希ちゃんは?」
希「ウチは戦えるから……真姫ちゃんに加勢する!」
穂乃果「わ、わかった」
穂乃果「またあとで!」ブゥゥン!
希「うん!」 穂乃果(って言っても、思ったよりバイクの操作するところが多い!)
穂乃果(カチャカチャしてるのは見てるうちに覚えたけど……速すぎて怖い!)
穂乃果(車通りが少ないからまだいいけど……)
水色「見つけた!」
穂乃果「!?」
水色「逃がさないよ!」
穂乃果「やばいやばいやばい!」ブゥゥゥッ
水色「最悪生きて血が残ってさえいればいい……半殺しでも!」
穂乃果「……っ!」ギュッ
穂乃果(うわぁぁ速すぎてバランスが保ち辛い!)
水色(花丸ちゃんはもう動けないから、先に安全なところに避難してる)
水色(あと動けるのは私と合わせて7人!)
水色「なんとしてでも今日捕まえる!」
穂乃果「……!」ブゥゥン! ➖➖公園
アイス「えっ!?」
アイス「穂乃果がバイクで!?」
希『これしかなかった! 真姫ちゃんが2回も変身してる!』
希『ウチがいかんと……』
アイス「わ、わかった、すぐ合流する!」
マリン「私が先に向かいます」
マリン「今動けない魔法少女は聞く限りだと2人……1人づつが抱えて逃げているとしても、間違いなく4人はまだ残っています」
マリン「私が止めなければ」
アイス「じゃあ私のバイクを使って」
アイス「……あなた、昨日の二重変身でほとんど体力は残ってないでしょ」
マリン「……助かります」
ことり「気を付けて……!」
マリン「はい、必ず」ブゥゥン! アイス「じゃあ、私たちは……」
にこ「足手まといになるわ、私はもう完全なスーツを作るエネルギーが残ってないから、先に……」
ことり「変身」カシャッ
アイス「!?」
にこ「ことり!?」
にこ「倒れるわよ!?」
ことり「構わないよ」
青白い顔をしたことりの背中から羽根が生えるが、明らかにこれまでのよりも小さくて薄い。
それが身体を包んでも、全身を包むに至らず、ところどころに隙間ができてしまう。
変身の痛みに耐えられず、ことりは地面に両手をつく。
ことり「背筋と脚だけでも……!」
普段はスーツの下に隠れて見えていない、肉体が作り変えられる様が、肌が露出している分は見えてしまう。
一度赤黒く変色したあと、沸き上がるように作り直される全身の光景に、アイスとにこだけでなく、ことりまでも言葉を失ってしまう。
ことり「ぐぅ……ぁ……だって、私は」
腕と頭は全くスーツに覆われていない。ほぼ脚の膝から下と、上半身しかカバーできていないようなスーツで、それでも背中には翼が生え揃った。
バード「仮面ライダー……バードだから」
バード「……必ず穂乃果ちゃんを助ける」 にこ「わかったわ……ちょっと待ってなさい」
にこが立ち上がって、スマホをいくらか操作する。
にこ「バイク、出てきて」
目を閉じたにこの背中から霧のようなものが溢れ出て、ことりが変身した時に落とした羽根を集めて形を作り上げる。
ことりの目の前に、背丈の倍はあるようなピンクのバイクが現れた。
にこ「……っ」フラッ
アイス「にこ!」ダキッ
にこ「……これなら、バードのバイクみたいに飛べはしないけど……そこそこの速さは出るはずよ」
にこ「近くまでこれで向かいなさい」
バード「……ありがとう」
バードはバイクに跨ると、アクセル全開でその場から駆け出した。
普段よりもオーバースペックなバイクを作ったにこは、既に顔面蒼白になっている。
アイス「脱水症状も出てるわね……何か飲食するか、点滴しないと」
にこ「私はいいから……早く他の加勢に」
桜色「いかせませんよ」ザザッ ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています