穂乃果「いくよ、変身!」
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穂乃果「もういいんだよ、戦わなくて」
穂乃果「私が戦うから」
ことり「でも!」
穂乃果「……ううん、これが一番なんだ」
穂乃果「作られることしかできないわたしたちなら、また作られさえすればいい」
穂乃果「誰かの手によって変えられるなら……」
穂乃果「みんなが幸せになるまで変えられてみせる!」
ことり「また……穂乃果ちゃんが……」
穂乃果「私はいいんだ、みんなが笑えるなら」
穂乃果「死ななくて済むような……」
穂乃果「だから! 私はそのために戦う!」ガシャンッ
穂乃果「いくぞ、変身!」バッ ➖➖
穂乃果「って夢を見た気がするんだけど!」
海未「…………」
ことり「夢かぁ」
穂乃果「うん! なんかことりちゃん怪我してたけど、腰になんか巻いてて……ベルト?」
穂乃果「なんかスマホみたいな!」
ことり「スマホは腰には巻けないよ?」
穂乃果「そうだけど……」
海未「変身するのですか」
穂乃果「うん、なんというか……仮面ライダー的な?」
ことり「仮面ライダー……」 穂乃果「というか海未ちゃん、寝不足?」
海未「え?」
穂乃果「なんかクマがすごいよ」ジ-ッ
海未「きっ、気のせいです!」
穂乃果「ことりちゃんも、朝から辛そうだし……」
ことり「あはは……」
穂乃果「あの日?」
ことり「違う」 穂乃果「部活、頑張りすぎないでね?」
海未「わかっていますよ……体調管理も部活動のうちです」
穂乃果「最近2人と一緒に帰ることもめっきり減っちゃったからさみしいんだよー」
ことり「穂乃果ちゃんは、何か部活とかしないの?」
穂乃果「私はなー……」
穂乃果「どのみち、音ノ木坂、廃校になっちゃうらしいし」
ことり「あー」
穂乃果「止めたいけど……私たちじゃ、どうしようもね」
穂乃果「私が、何か特別なことでもできればなー」
海未「!」
ことり「!……穂乃果ちゃん、宿題、宿題進めよ?」
穂乃果「うあー、おわんないよーぅ」ゴロンッ
海未「…………」 ➖➖夜
穂乃果「ん、夜だ」
穂乃果(2人とも帰っちゃったし……暇だなぁ)
穂乃果「コンビニでも行こっと!」スタッ
…………
穂乃果「なんか人が少ないなぁ」テクテク
穂乃果「まあこの辺夜は車も通らないけどさ」
穂乃果「……あれ?」ピタ
穂乃果「こんなところに……ヒビなんてあったっけ?」
穂乃果「亀裂が入ってる……」
穂乃果「何があったんだろ……」
「見つけた!」 穂乃果「えっ?」クルッ
水色「やっとみつけた……この子だね!」
穂乃果(や、屋根の上に……女の子?)
穂乃果(あの服……)
穂乃果「プリキュアとかのコスプレ?」
水色「ちがーう!」シュバッ
穂乃果「!?」
穂乃果(あの高さから飛び降りるの!?)
水色「まあ、なんでもいいや……」
水色「お願い、一緒に来て」
穂乃果「え、え?」
水色「事情は後で話す……だから!」
??「穂乃果ちゃん伏せて!」
穂乃果「え」
穂乃果が声のした方向を振り返る頃には、耳の横を風を切る音が通り過ぎていた。
穂乃果「?」
元の場所に目線を戻すと、水色の衣装を着た女の子は消えている。 穂乃果「な、な……え?」
??「穂乃果ちゃん、逃げて!」
水色「そうはさせないよ!」
水色の少女が手をかざすと、地面から水管が顔を出し、勢いよく水が溢れ出してきた。
穂乃果が戸惑っているうちに、その身体は水の膜に閉じ込められてしまう。
穂乃果『なっ、なにこれ!?』
水色「触らないほうがいいよ……その水、今全部カッターみたいになってるから」
穂乃果『ひっ……』
??「でもそれは……あなたがここにいればの話だよね!」ガッ
水色「そうだよ!」サッ 穂乃果(な、なにが起こってるの……?)
水の膜の外で聞こえる、拳を受け止め、腕を振る時の空気を切る音からして、その力は人の、それも女の子に出せるような力ではない。
穂乃果(羽の生えた……仮面ライダー?)
穂乃果を守っているであろう女の子は、露出の激しい水色と違い、全身を光沢のあるスーツに身を包み、頭まですっぽりとその姿を隠していた。
穂乃果(な、なにをすれば……)
穂乃果『私はなにをすればいいの……?』
??「ほの……っあなたは、そこに……」
水色「よそ見!」ブンッ
??「あ……」
仮面ライダーが穂乃果を一瞬見た隙に、水色はその腕を掴み、道の端へ身体ごと放り投げた。
ぶつかった電柱の方にヒビが入るような音がして、仮面ライダーの女の子は声も出せずに痛みに悶えている。 水色「本当は怪我させたくなんてないけど……きっとあなたはまた邪魔をする」
水色「千歌ちゃんを助けるためなら、私は……」
穂乃果を包んだ時のように水色が手をかざすと、同じ水管から水が吸い寄せられてきて、その手に針のような形で水が収まった。
しずく一つ落ちていない。
水色「人の命だって……」
?「そうですか」
水色「!?」クルッ
水色の視界に深い青の仮面ライダーが映ったかと思うと、その脇腹に横薙ぎに刀が振りかざされる。
咄嗟にクッション代わりに水を挟むも、強い衝撃と共に水色の少女は反対側の壁に吹き飛ばされた。
深青「……大丈夫ですか?」
深青「こと……バード」
??「バード?」
深青「…………」
バード「……なるほど、うん、大丈夫……でも内臓が逝ったかも」
深青「変身解除は……まずいですね、そのまま耐えてください」
バード「わかった」 水色「……あっぶ」
何事もなかったように立ち上がる少女の身体に、傷はない。
深青「分が悪いのは馬鹿でもわかるでしょう」
水色「……そうだね」
水色「でもやっと見つけた」
水色「手ぶらでは帰らないよ」
深青「残念です」
跳ねるように深い青の仮面ライダーが飛び出すと、水色の少女はそれを交わして背中をとった。
水の針でそこを狙うが、仮面ライダーは身体を横に傾けて側転のように少女の頭を蹴り落とす。
確かな手応えはあったが、少女はなにも感じていないようにすぐに起き上がり、仮面ライダーの脚を両腕で締め上げた。
深青「しまっ……」
4、5本の水の針がその身体にめがけて差し込まれようとするが、硬いスーツがそれを許さない。
水色「それが硬いのは知ってる……だから!」
水色は全力でその脚を締め上げると、本来曲がるはずではない方向にそれを押し曲げた。
深青「……っあ゛!?」 水色「やっぱり!」
水色「締め技は有効!」
深青「……っ」
水色「これなら……」
バード「これなら?」
水色「!」
いつの間にか起き上がっていたバードが、その羽根で水色の顔を包むように目隠しをすると、スーツに包まれた腕が水色の首を掴んだ。
バード「あなたは生身……わかる?」
水色「……なんとなく」
バード「5」
水色「…………」
バード「4、3、2……」
水色「……また来る」
そう言い残すと、バードがカウントダウンを終える前に、水色の少女はバードの拘束を振りほどき、その場から跳ねるようにして消えた。 深青「……あぁ」
バード「平気?」
深青「助かりました……なんとか」
バード「そっか、じゃあ……」
深青「まだ耐えられますか?」
バード「たぶん……でもそろそろまずいかも」
深青「急いでこの場から離れてください、一旦変身を解除します」
バード「わかった」
穂乃果「うわっぷ!」
穂乃果を包んでいた水の膜が崩れて、ただの水となって地面へと流れ落ちた。
穂乃果「冷たー……」
穂乃果「……あっ、えっと、あなたたちは」
バード「飛ぶよ!」ガシッ
穂乃果「え」
バードは穂乃果の身体を抱きしめると、そのまま身体を浮かせて、高く飛び上がった。
バード「家まで帰ろう!」
穂乃果「あ……っひゃぃ」フワッ ➖➖穂むら前
バード「よいしょ……」バサァッ
穂乃果「ひぇ……」ガクガク
穂乃果「う、上手く立てない……」
バード「あはは……ごめんね」
バード「じゃ、私はこ……」ガクッ
穂乃果「!?」
穂乃果「ば、バードちゃん?」
バード「うぁ……かはっ……おぇ」ボトボト…
穂乃果「え?」
顔を包む仮面の隙間から、赤黒い何かが流れていた。
穂乃果「!」
穂乃果「血が!」
バード「はっ……うぅ……だめだ」
バード「……変身解除」
そう呟いたかと思うと、バードを包んでいたスーツが薄い光とともに霧になって消えた。
穂乃果「……!?」
呆気にとられる穂乃果をよそに、スーツを着ていた女の子は案外平気そうな様子で苦笑いをした。
その霧の中から現れたのは、
ことり「……あは」
穂乃果「……ことりちゃん?」 ➖➖次の日
穂乃果「いやー……まさか」
ことり「あはは」
穂乃果「ことりちゃんが仮面ライダーだったなんて!」
海未「カメンライダーナンデスカ」
穂乃果「なんでカタコトなの」
海未「Is it a mask rider?」
穂乃果「いや英語でしゃべって欲しいわけじゃなくて」
海未「……そうなのですか」
ことり「うん、実はね……」
ことり「正義のヒーローだったのだ!」
穂乃果「うおぉー!」
穂乃果「昨日いた、青色のライダーはなんて名前なの?」
ことり「えっ」
海未「…………」
ことり「えっと、仮面ライダー……う……マリンとか?」
穂乃果「とか?」
海未「…………」コクン
ことり「仮面ライダーマリン!」
穂乃果「かっこいい!」
海未「そうですね」
海未「では、私は部活に行きます」
穂乃果「わかったー!」 穂乃果「でも昨日、よく無事だったね?」
穂乃果「なんか、血とか吐いてた気が……」
ことり「あれはねー」
ことり「仮面ライダーは、というか私たちが変身するとでてくるあのスーツは、普通痛みを和らげたりできるの」
ことり「力が強くなったり、いろいろ使えたりもするけど……基本的にはね」
ことり「それから、変身をするときと解除するときで、ちょっとした怪我とか病気は治っちゃうんだ」
穂乃果「だから平気になったんだ!」
ことり「そういうこと♪」
穂乃果「でも……なんで昨日、あの水色の……」
ことり「魔法少女?」
穂乃果「そうそう、魔法少女はやってきたの?」
ことり「実はね、穂乃果ちゃん」
ことり「穂乃果ちゃんは謎の組織に狙われてるんだ」 穂乃果「ふ?」
ことり「あのね、昨日の魔法少女は、これまでに何度も穂乃果ちゃんを探してる」
ことり「目的はともかく、穂乃果ちゃんを攫おうといつも襲ってきてる」
ことり「だから、仮面ライダーたちはそれを防ぐために戦ってるんだ」
穂乃果「たち、って……他にもいるの? 昨日のマリンとか」
ことり「うん、あの子とか、他にも色々」
穂乃果「私も仮面ライダーになりたい!」
ことり「だめ」 穂乃果「え……だって、狙われてるなら、自分も強くなれれば!」
ことり「だめなの」
穂乃果「なんで?」
ことり「理由は今は言えないけど……というかわからないけど」
ことり「それをさせないために、私たちは戦ってるんだ」
ことり「だから……ね」
ことり「それに、変身できるかどうかもわからないし」
穂乃果「……わかった」
ことり「うんっ、じゃ、クレープ食べに行こっか!」
穂乃果「ほんと!?」
ことり「うん、今日は特別っ」
穂乃果「やったー!」
ことり「じゃ、ことりは一瞬用があるから、穂乃果ちゃん、帰る支度してて!」
穂乃果「はーい!」 ➖➖
ことり「って言っておいたよ」
絵里「なるほど」
絵里「記憶は消さないのね?」
ことり「うん、もう、限界だよ」
ことり「雪穂ちゃん、パパにママはともかく、穂乃果ちゃん自身はそろそろ限界」
絵里「たしかに、無理やり理由をこじつけるのもそろそろ限界よね」
絵里「わかった、じゃあ変身体として姿を表すのは躊躇しなくていいってことね」
ことり「うん、穂乃果ちゃんの前なら」
ことり「幼馴染の絵里ちゃんなら、きっと穂乃果ちゃんも受け入れやすいはず」
絵里「そうね……他にもいるわけだし」
絵里「……守り抜くわよ」
ことり「……うん」 ➖➖
穂乃果「んーおいし!」ハムッ
ことり「久しぶりだもんねー」パクパク
穂乃果「ことりちゃんよく食べるねー」
ことり「変身体……仮面ライダーになるにはたくさんカロリー使っちゃうからね」
穂乃果「そうなの?」
ことり「うん、詳しくは知らないけど……」
穂乃果「ねぇ、だったらーー」
固まってしまった穂乃果の目線の先には、目新しくない姿が映っていた。
ことり「!」クルッ
水色「……この街はいいね」
青色「こんなカッコしてても、ちょっと目立つくらいで済むもんねー」
紫色「そうね、スピーディーに用を済ませてしまいましょ」 穂乃果「ま、魔法少女……」
ことり「穂乃果ちゃん、走るよ」ギュッ
穂乃果「わかった!」タタッ
青色「逃がさないよ!」
ことり「人がたくさんいたらさすがに変身できない!」
ことり「人通りの少ないところまで!」
穂乃果「うん!」
走りながら、ことりがスマホでどこかへ連絡を打ち込んでいるのを穂乃果は見逃さなかった。
息を切らして秋葉原を駆け抜ける。
穂乃果はともかくとして、元のことりはそもそも運動が得意ではない。少し走れば限界は早かった。 ことり「はぁっ、はぁっ……」
穂乃果「だ、大丈夫?」
ことり「平気だよ……これがある」
ビルの隙間に隠れて、ことりはスマホを取り出した。
穂乃果「スマホ?」
ことり「これが私の……変身アイテムって感じかな」
魔法少女が追ってきていない。恐らく上や後ろに回り込まれている。
ことり「構わないよ、守ってみせる」カシャッ
ことりがスマホを腰のあたりに添えると、イヤホンジャックから細いベルトが伸びて、ことりの腰をくるりと包んだ。
画面の表示がアプリの並びから、プログラムのような穂乃果には読めない文字列の流れる画面へと切り替わる。
穂乃果「変身ベルト!」 ことり「少し、離れてて」
これは穂乃果からは見えなかったが、細いベルトからさらにことりの身体に向けて、数本の細い針が突き刺さっていた。
その細い針が血管に、骨に接続され、腰の部分から伸びたひときわ大きな一本は、ことりの脊椎の付け根に接続される。
ことり「…………」スゥ
ことりは大きく息を吸うと、心配そうに見つめる穂乃果の不安を少しでも振り払おうと、少し照れながら適当なポーズを決めた。
ことり「変身!」
ことりの肩甲骨のあたりから少し大きめの羽根が生えて、ことりの身体を包み込む。
それが全身へ巻きつき、密着したかと思うと、昨日見たのと同じバードのスーツへと弾けるように色を変える。
更に新しくスーツの隙間から羽根が生えて、ことりは変身を終えた。
バード「仮面ライダー、バードだよ!」 水色「へえ、そうやって変身するんだ」
バード「穂乃果ちゃん、離れないでね」
バードが水色の魔法少女に向かって飛び出すと、魔法少女は避けることなく素直にその突進を受けた。
バード「……え?」
壁とバードに挟まれた魔法少女は、反対にバードの身体を抑え込んだ。
水色「2人とも!」
青色「はいよ!」
高いビルの上から、青色の魔法少女が飛び降りてくる。
バード「……!」
背中を上に向けて抑え込まれているバードに、数十キロもの体重ががつま先からめり込む。
バード「……っ!」
青色「ありゃ、貫通しなかったね」
青色のつま先には、バードの羽根の感触が伝わってきていた。
水色「クッションにされちゃったか……」
バード「……っうぁ」
だが、抑え込まれて首も苦しい上に、羽根を折られて背中に鈍痛の走るバードは、順調にダメージを受けていた。 青色「なんか、リンチみたいで心苦しいけど……!」ブンッ
バードの腹部めがけて、青色の膝が勢いよく振り上げられる。
バード「ぶっ!」ガグンッ
青色「千歌のためなら!」
穂乃果「あ……う……」
昨日の勢いとは裏腹に、相手の数が増えて圧倒的に不利なバードを前に、穂乃果はただ戸惑っていた。
穂乃果(助けなきゃ、助けなきゃ助けなきゃ)
穂乃果(あの2人を止めないと……!)
紫色「あなたがいっても、死ぬわよ?」
穂乃果「!」クルッ
紫色「一緒に来てちょうだい」
穂乃果「……い、いやだ、って言ったら」
紫色「無理やり連れて行くわ」
穂乃果「…………」
紫色「さぁ、一緒にき……」
??「きてもらえると思ってるのかしら?」スッ 紫色「!?」
紫色の魔法少女が振り返ると、砂の粒が顔に当たっただけで、そこには何もなかった。
紫色「いや……違う」
顔に触れると、砂が当たった場所に水滴がついている。
紫色「……アイスね」
穂乃果「……アイス?」
水色「果南ちゃん!」
青色「任せて!」ガシッ
水色は青色の魔法少女にバードを預けると、向かってくるとアイスブルーの仮面ライダーに立ちはだかった。
青色「私はこれを引き離すよ!」
水色「任せた!」
近くの水管を探り当て、昨日のように自分の後ろに大きな水の膜を張った水色は、すぐに仮面ライダーの様子がおかしいことに気づいた。
水色(水の膜に何か投げ込んだ……!) 青色「いたっ」
身動きの取れないバードを羽交い締めして、配管を伝って壁を登っていた青色の脚に小石が当たる。
青色「何、小石なんて……」
更に駆け出そうとして、足が自由に動かないことに気づくのに、そう時間はかからなかった。
青色(ぶつけられたところが攣った……いや、凍ってる!)
青色「ごめん、助けて善子!」
黒色「ヨハネよっ」
バランスを崩し、落ちそうになっていた青色の魔法少女の脚を、突然現れた黒色の魔法少女が掴んで止めた。
アイス「え!?」
アイス(壁にめり込んでたの……!?)
黒色の魔法少女は脚を掴んだまま3人ごと落下を始めたかと思うと、背中からバードの倍はある黒い羽根を生やし、ビルの隙間を駆け抜けていった。
アイス(おまけに飛行能力まで持ってるなんて)
アイス(でも大丈夫、あっちには……) ➖➖
アイスの仮面ライダーと水色青色の魔法少女が攻防を繰り広げている間、少し離れた場所でも、一瞬のやりとりがあった。
希「あちゃー、ウチとキャラ被ってるやん」キキッ
紫色「!」クルッ
穂乃果(緑のリボン……音ノ木坂の三年生?)
希「穂乃果ちゃん、逃げよっか」
穂乃果「え?」
穂乃果「な、なんで私のこと……」
??「説明はあとだよっ!」グルンッ
突然現れたバイクに乗った音ノ木坂生徒に穂乃果が戸惑っていると、その後ろから新しい仮面ライダーが姿を現した。
ウサギの耳のような角の生えた、ピンクの仮面ライダーは素早く穂乃果の脇をすり抜けると、壁を跳ねるようにして紫色の後頭部めがけて蹴りを打ち込んだ。
紫色「゛っ……」バキッ
??「私はバードちゃんを追う! 希ちゃんは穂乃果ちゃんを!」シュタッ
紫色の魔法少女の変身が解けるのを確認すると、ピンクの仮面ライダーは壁を駆け上がって、バードのあとを追った。 穂乃果「あ……」
倒れこんだ見慣れない制服の少女を見て、穂乃果はあとずさりした。
昨晩、今日、と現実離れした出来事と目の前の動きに感覚が麻痺していたが、今路地の奥で戦っているであろう水色の魔法少女も、ましてや他の仮面ライダーも、変身元は、
穂乃果「に、人間……」
希「そうよ」
穂乃果「!」
希「だから、あなたがここから離れれば、少なくとも今は戦わなくて済む」
希「ほら、被って! 乗って!」ヒョイ
穂乃果「わ、は、はい!」キャッチ
投げられたヘルメットを被ると、穂乃果は紫色の大きなバイクの後ろにまたがって、希と呼ばれた少女の腰に手を回した。
希「脚、気をつけてね、とばすよ!」ブゥゥゥン!
希がアクセルを回すと、バイクはその側面をビルの壁にすれすれに、散乱する空き缶のゴミを散らしながら、狭い路地裏を駆け抜けていった。 ➖➖
黒色「ここからどうするの?」
青色「鳥のライダーは捕まえたから……」
バード「うぐぅ……」ググ
青色「このまま帰ろう!」
黒色「なるほど、捕虜ね……了解!」
マリン「そうは問屋が卸しませんよ」ガシッ
黒色「えっ!?」ガクンッ
青色「!」
ビルの上を人目につかないように滑空していた魔法少女たちは、影で待ち伏せていた仮面ライダーの存在に気づけなかった。
急ブレーキの衝撃で青色とバードが投げ出され、黒色の魔法少女は腕を捻って組み伏せられる。
マリン「貴女も羽根ですか」
仮面ライダーはスーツの腕の部分から生えている刀を、魔法少女の羽根の根元に押し付けて、双葉の芽引きのようにその羽根を切り離した。
黒色「うあっ……」 青色「善子! ……こうなったらバードだけでも!」
青色「この場で!」クルッ
??「そんな怖いこと言ってたら、可愛い顔が台無しだよっ」
青色「!?」
起き上がった青色の魔法少女が屋上の端でふらついているバードに向かおうとすると、ビルの側面から別の仮面ライダーが飛び出してきた。
??「ニコニー参上! ……仮面ライダー、ってことになったんだっけ!」
ニコは地面に手を着くと、カポエラのように脚を開いて回転させて、青色のバランスを崩した。
青色「あぶっ……」
青色も負けじと地面に手をついて、バランスをすぐに立て直す。
ニコ「温度による影響もすぐに回復してる……いや、回復じゃないのかな?」
青色「ごちゃごちゃうるさい!」ブンッ
ニコ「もしかして、実は私たちと同じで見えないだけでスーツ着てるとか!」サッ
青色「ちょこまかと……!」 黒色「フフフ……」ヨロッ
マリン「…………」
黒色「やってくれたわね……」
黒色「翼という重りを亡くしたヨハネに……ついてこられるかしら?」
マリン「はぁ」
空返事をしながら、仮面ライダーマリンは黒色に対して間合いを測ろうとすると、
黒色「撤退!」クルッ
魔法少女は物影まで走って逃げた。
マリン「?」
とはいえ、屋上の塔屋に回り込んだところで、仮面ライダーであれば一瞬で追いつける。
マリン「背中を向けるとは!」シュッ
翼の折れた魔法少女の背中に向かって、刀を突きだすと、マリンの腕に、肉を断つような鈍い感覚が
マリン「……え」
伝わってこない。
魔法少女が姿を消した。
黒色「隙ありっ」ガシッ
マリン「!?」
消えたかと思うと、塔屋の影に足を踏み入れたマリンの足首を、細い手首が掴んだ。
黒色『ふふ……かかったわね』
マリン「な、何が……」
魔法少女の姿はない。ただ、地面から手首が生えている。マリンはマスクの下で冷や汗を流す。
影のかかったコンクリートから黒色の魔法少女の声が響いた。
黒色『これが私の特殊能力!』
黒色『Shadow gate to dead!』
マリン「……少し文法おかしくありませんか?」
黒色『うるさいわね!』
マリン「そうです……ね!」グイッ 黒色「うぁっ!?」ガバッ
マリンが力強く脚を上に上げると、それにつられて魔法少女が地面から魚のように顔を出した。
マリン「術師、術に溺れていますよ!」
黒色「くぅ……なんの!」
手を離した黒色は、再び水に潜るように地面へと消えた。横に薙いだマリンの刀が、虚しく宙を切る。
マリン(Shadow gate ……ということは、おそらく黒色の魔法少女は影に潜ることができる)
マリン(これは影に入っている限りこちらが不利……)チラッ
影から出ようとして、バードが倒れこんでいるところが日陰で繋がっていることに気づく。黒色の魔法少女が仮に影の中を自由に移動できるのだとすれば、
マリン「こっちですよ!」ザザッ
自分が影に入り、囮になるしかなかった。 黒色『自分からこっちのフィールドに入ってくるなんてね!』
マリン「…………」
そう言いながら、仮面ライダーの背後の塔屋から伸びる二本の腕に、マリンは気づかない。
黒色『これならどうよ!』ガシッ
マリン「!?」
急に背後から首元に腕をまわされ、マリンはそのまま壁に引き付けられてしまった。
マリン「しまっ……」
壁と、壁から伸びる白い腕に首を挟まれ、これでもかという力でスーツを圧迫される。いくら硬いスーツとはいえ、昨晩の出来事が証明したように、絞め技は有効となる。
マリン(駄目元でも……!)ガキンッ
黒色の魔法少女がいるであろう部分のコンクリートに刀を突きつけても、スーツは普通のコンクリートと同じ感触を律儀に伝えた。 マリン(まずいですね、スーツが耐えられなくなったら……)
マリン(……使いますか)
スーツが限界を迎える前に、マリンは腰のベルトに備えてあるスマホをタップした。
目を向けることなく、他から見れば読み取ることもできない言語を続けて操作していく。
マリン「二重変身」
最後に音声入力でマリンが呟くと、壁に密着した背中から、青黒い煙のような霧がマリンを包んだ。
黒色『いたっ!?』バチッ
マリン「変身中は強力な電流が走る……さすがに魔法少女でも触れていることはできないでしょう」
拘束を解かれたマリンは素早く向き直ると、壁から生えた手の中指の先を握り、強く引き寄せる。
黒色『いっ……!』
影から魔法少女の身体が出てくると、マリンはひなたへ向かって魔法少女を投げ飛ばした。
マリン「さて……これで能力とやらは使えませんね」
二重変身を終えたマリンのスーツは、全身の筋肉に沿って薄い刃が伸び、そのシルエットを大きく変えている。
マリン「何か言い残すことはありますか?」 ➖➖
アイス「さて、それより」
水色「……!」
アイスが向き直る前に、魔法少女は手をかざして水の針をアイスにめがけて飛ばす。
それは空を切って進んだかと思うと、マスクに触れる前に氷の粒となって粉々に砕けてしまった。
アイス「あなたと私、相性が随分いいみたいね」
水色「悪い、ともいうね……」
アイス「そうね」
アイスはその場から動くことなく、魔法少女を囲む水の膜に腕を伸ばすと、その膜を凍らせて地面へ落とした。
魔法少女がいくら水を張り直しても、その水は仮面ライダーに触れる前に薄く霧散してしまう。
アイス「今回は諦めてくれない?」
水色「そうはいかないね」
水色「たとえあなたがどれだけ強くても、私には助けたい人がいる」
アイス「守るべきものがあるのはいいことよ」
アイス「でも……」チラ アイス「あなたのお仲間、もう限界みたいだけど」
水色「え」
アイスが顎で指した方を見ると、さっきまで穂乃果がいた場所に、制服を着た女の子が倒れていた。
水色「ま……鞠莉ちゃん!」タタッ
アイス「おっと」サッ
アイス「『今日は引く』って聞くまで、ここは通せないわ」
周りの空気が凍るような冷たい腕が、魔法少女の行く手を阻む。
水色「今日は引く」
魔法少女はすぐに答えた。
アイス「……あなたのこと、嫌いじゃないわ」
そう言って少し笑うと、倒れた少女と水色の魔法少女を残して、アイスは壁を駆け上がってその場から離れた。 アイス(正直、あの紫色をこちらで拘束できないのは痛手だけど、こっちだって犠牲が出てる)
アイス(これ以上の危険を冒して利益を狙うより、安全に安全を重ねた方が賢いはず)
アイス(とりあえず私は穂乃果と希のところに向かいましょう)
…
……
………
マリン「何か言い残すことは?」
青色「!!」
青色(善子が……!)
ニコ「あれっ、よそ見するほど退屈かなっ?」グルンッ
青色「ぐうっ……」バシッ
激しい蹴りが繰り出される中、青色はやっとのことでその細いスーツの脚を掴んだ。
青色(やった!)
ニコ「わざわざありがとう!」グイッ
青色「え」
小柄なピンクの仮面ライダーは、掴まれた脚を支点にして、自分より大きな魔法少女の身体に向けて自分を引き寄せた。
焦って手を離す魔法少女だったが、すでに遅く、仮面ライダーはそのスーツに覆われた両手で魔法少女の目隠しをし、首をいつでもひねられるような、肩車の体勢になった。
ニコ「魔法少女も、首を捻られたら……どうなんだろ?」 青色「…………」
両脚を使って腕まで拘束されている。おそらく体を傾けて地面に叩きつけようとすれば、その動きを見せた途端に首を捩じ切られる。
魔法少女は冷や汗を流した。
青色(まずいまずいまずいまずい)
ニコ「ね、だから、大人しく……」
水色「動かないで」スタッ
マリン「!!!」
唐突に声のした方を全員が振り帰ると、スーツを着たまま倒れたバードの頭上に、水色の魔法少女が水の針を掲げていた。
水色「2人を解放して……そしたら大人しく帰る」
ニコ「……ふーん?」
マリン「……あなたが嘘をついていない証拠は?」
水色「…………」クイッ 水色の指した方向を見ると、倒れこんだ制服の少女が隣の屋上で寝かされていた。
水色「もし私がこのライダーを殺せば、あなたたちは全力で殺しにかかってくるはず」
水色「そうすれば、逃げるのに意識不明の味方がいるのは明らかに不利」
マリン「……なるほど」
ニコ「じゃ、信じていいかもね」
マリンとニコは顔を合わせて頷くと、お互い魔法少女から離れて、水色の魔法少女の前に立った。
瞳の見えない複眼の目線が、冷たく魔法少女を見下ろす。
水色「……や、約束は守るよ」
水色は掲げていた水の針を、手をグーにして、屋上の上に水として撒き散らした。
水色「帰ろう」
魔法少女3人は頷くと、倒れた少女を回収してから、屋上の上を走り去っていった。 マリン「……バード!」
バード「……うぅ」
マリン「大丈夫ですか!」
バード「く……くぃからした……ぁ……うごかない……」
ニコ「変身解除」サァァ…
にこ「脊椎損傷かもね、自力じゃ解除できないでしょ」
にこ「ちょっと待ってなさい」
マリン「…………」
仮面ライダーニコニーのスーツの下から現れた音ノ木坂の3年生は、バードのベルトのスマホに向かって、細かい操作を始めた。
にこ「超硬質筋繊維型人工皮膚纏式変身……昨日からは仮面ライダーシステム、って呼んでるんだっけ」
にこ「仮面ライダーシステムは、変身時と解除時にほぼ脳以外の全身の組織を作り直すから、あらゆる怪我は治るんだけど」
にこ「こうやって、自力で変身解除ができないときは、変身体として死んでしまうこともあるってことね」
マリン「…………」 にこ「はい」ピッ
最後にスマホを小さくタップすると、バードを包んでいたスーツが霧となって消えて、代わりにことりが中から現れた。
ことり「……ありがとう、にこちゃん」
にこ「ん、どういたしまして」
マリン「」ホッ
マリン「では私はこれで……」シュタッ
にこ「じゃ、私たちもさっさと帰りましょう」
ことり「うん……」
ことり「穂乃果ちゃんは、大丈夫かな」
にこ「大丈夫よ」
にこ「希と絵里がついてる」 ➖➖神田明神
希「とうちゃーく!」ブゥゥン!
穂乃果「おっと」グラッ
希「酔わんかったかい?」
穂乃果「は、はい、なんとか!」
希「よかった、ここなら安全やからね」
穂乃果「ここって……神田明神が?」
希「そ、ここは仮面ライダーであっても居場所が見つからない唯一の場所」
穂乃果「?」
希「魔法少女や仮面ライダー、それに仮面ライダー同士は、変身さえしていればお互いがどこにいるのか感覚でわかるんよ」
希「本来はそれを受け取るための器官が用意されるはずなんやけど、残念ながらウチらは目、耳、鼻、口、肌、しか持ってないから、代わりに肌で温度として居場所を感じ取れる」
穂乃果「???」
希「んまっ、難しいことは抜きにして、ここはセーフゾーンと思ってくれればええよ!」 穂乃果「あの、の、希先輩は……」ハッ
何者なのか、と尋ねようとして、穂乃果は逃げているとき、ことりがどこかへ連絡していたのを思い出した。助けを呼んでいたのだとすれば、たぶん、この人たちだ。
希「御察しの通り、音ノ木変身隊、高坂穂乃果護衛隊、ってところかな?」
希「ま、昨日からはあなたが名付けた、仮面ライダー……って呼んでるみたいやけど」
穂乃果「私が名付けた?」
希「うん、パッと口に出たんやろ?」
希「たしかに言われてみればほぼ仮面ライダーよね……」
希がスカートの腰に取り付けているスマホを操作すると、巨大なバイクが霧になってその場に消えた。
穂乃果「えっ」
希「これも本物のバイクやないしね」
希「燃料は、ヒ☆ミ☆ツ!」 穂乃果「はぁ……」
希「……さて、これまでは実はことりちゃんの力でむにゃむにゃだったのだけれども」
希「ことりちゃんの体調に合わせてこれからの方針が変わったみたいなので、ウチがある程度説明してしんぜよう」
穂乃果「?」
希「『仮面ライダー』について」
希「じゃ、その前に……絵里ち!」
穂乃果「え?」
アイス「はいはい」スタッ
アイス「ほかのライダーはみんな無事みたいよ」
希が物陰に声をかけると、仮面ライダーアイスがこちらへ歩いてきながら、穂乃果にとっては昨晩ぶりとなるあのセリフを呟いた。
アイス「変身解除」サァァ…
絵里「……穂乃果、絵里です」
穂乃果「ぅ絵里ちゃん!?」
穂乃果「仮面ライダーだったの!?」
絵里「ふふ、そうなのよ」
穂乃果「知らなかった……」
希「知り合い?」
絵里「子供会でよく一緒になってたのよ」
希「なるほどね」
希「さ、外で話すのもなんやし、バイト用の休憩室があるから、そこで話そっか」 ➖➖
穂乃果「あの、仮面ライダー、って結局何なんですか?」
絵里「そうね、理屈だけで言うと、特殊な作用を受けた電子機器を身体に取り付けることで」
希「これが『変身ベルト』ってやつかな」
絵里「全身の細胞を一瞬で作り変えて、さらに詳しく調べられないほど精密な『生物機械』を見に纏う人のことね」
希「これが『スーツ』なんだけど、実は昆虫って、脳みそがなくて生き物ってよりは機械に近い側面があるんやけど」
希「仮面ライダーのスーツもある意味、生物の身体……変身する人の身体から分裂した、昆虫のようなもの、と言って差し支えないかもね」
絵里「一番詳しい人は、これを『超硬質筋繊維型人工皮膚纏式変身』って呼んでるわ」
穂乃果「???」
絵里「『超硬質』……すごく硬い」
絵里「『筋繊維型』……力を生み出す」
絵里「『人工皮膚』……人の身体からつくられる」
絵里「『纏式変身』……これは魔法少女もおそらく似た理屈のはずだから、私たちのことは『纏式』と呼んでるってことね」
希「箇条書きみたいな説明ありがとう」
希「あと、変身した肉体は普通よりもかなり丈夫につくられてて、桁外れの動きを可能にするためには相当の酸素が必要」
希「だから、一度の呼吸でたくさんの酸素を得るために、喉が普通の2倍から3倍に広くなってて、そのせいで声も変わるね」
絵里「だから穂乃果も気付けなかったのね」
希「ま、簡単に言うと、仮面ライダーってのはベルトで変身する凄く強い人のことね」 穂乃果「な、なんとなく……わかりました」
希「それから、ウチらの目的も説明せんといけんね」
絵里「私たちの目的は、穂乃果を魔法少女から守ること」
穂乃果「魔法少女……?」
希「うん、彼女らもなんらかの方法で『変身』した、強化人間」
希「私たちが『機械』とすれば、あっちは『魔法』ってイメージかな」
絵里「おそらくスーツと同じようにダメージを吸収したり力を強くしたりする魔法の膜を身にまとっているの」
絵里「たぶん、私たちと違って限界を超えるまでは傷ができないし、痛みも感じていないわ」
穂乃果「あ、だから……」
〜〜
水色「……あっぶ」
何事もなかったように立ち上がる少女の身体に、傷はない。
〜〜
穂乃果(刀で切りつけられても無事だったのは、魔法の膜がそれを吸収したからで……)
穂乃果(相手が無傷なのにマリンちゃんが余裕だったのは、ダメージを受けてることを知ってたから……)
絵里「心当たりがある?」
穂乃果「うん、たぶん」 希「話を戻すと、魔法少女たちは穂乃果ちゃんを攫おうとしている」
希「けど、仮面ライダーに変身していない穂乃果ちゃんの居場所は掴めないから、これまで手探りだったんだけど……」
希「昨日、ついに見つかってしまった」
希「たぶん、穂乃果ちゃんの持つ独特の温度や波長もバレてしまった」
絵里「だから、これからは穂乃果に内緒で活動するのをやめて、穂乃果にも協力してもらいつつ魔法少女をとめることにした」
穂乃果「どうして、魔法少女は私を攫おうとするの?」
希「わからない」
希「けど口ぶりから一つ言えることは、さらわれたら生きて帰ってくるのは無理、ということやね」
穂乃果「い、生きて帰るのは無理……」
絵里「それだけは阻止しないと」 希「これは、あと1年も耐えれば終わるはずなんよ」
絵里「そうね」
穂乃果「え?」
希「穂乃果ちゃんが3年生になるくらいの時期……それまでの辛抱」
穂乃果「3年生に」
穂乃果「何か起こるの?」
絵里「え?」
絵里「だってそういうものじゃない」
穂乃果「?」
希「ほら、あと1年でしょ?」
穂乃果「???」 希「ま、細かいことはともかくとして、穂乃果ちゃんはこれまで通りの生活を送ってほしい」
絵里「穂乃果はもちろん、雪穂ちゃんたちにも迷惑はかからないようにする」
穂乃果「わ……わかった」
希「あとひとつだけ仮面ライダーのことを伝えておくと……連続で変身は難しいってことかな」
穂乃果「連続で?」
絵里「えぇ、一度の変身で多くのエネルギーを使うからね」
絵里「単純な話、変身と解除を合わせれば新しい身体を2つと強力なスーツを作るわけだから」
絵里「いくら食べても太らない!」
穂乃果「そこ?」
希「ま、そういうことだから」
絵里「今日は家まで送るわ、お風呂にでも入ってゆっくりしなさい」
穂乃果「はーい」
穂乃果(仮面ライダー……強い肉体に変身できる人)
穂乃果(そして魔法少女も、同じような理屈)
穂乃果(何か……すごくひっかかることがあるんだけど……これは一体なんなんだろう) ➖➖次の日
穂乃果「あ、みてみてマンタ!」
海未「そうですね」
ことり「マンタって以外に顔キモいよね」
穂乃果「そうかな?」
ことり「キモいよね?」
海未「そうですかね? 私はあんまり……」
ことり「キモいよね??」
海未「なんでそんなにキモくしたがるんですか」
穂乃果「……にしても」キョロキョロ
穂乃果「平日だから、あんまり人いないなぁ」
ことり「だねぇ」 穂乃果(希先輩……希ちゃんに言われて、今日は水族館に来てる)
穂乃果(もしかしたら、居場所を肌で感知する以上、温度が場所によって大きく変わる水族館だと、見つからないかもって)
〜〜
希「……てな感じで、あと昨日現れた黒色の魔法少女は影に潜れるらしいから、そこは気をつけて」
希「ということではい、チケット」
穂乃果「えっ、いいの?」
希「ウチバイトしてるから!」
希「それに、これで今日居場所がバレなければ、対策の方法も増える」
穂乃果「例えば?」
希「家の周りに水の入ったペットボトル置くとか」
穂乃果「猫みたい」
〜〜
穂乃果(だから、きっと見つからないはず!)
穂乃果(魔法少女がこなければ、みんなが痛い思いをすることもない)
穂乃果(だからお願い、このまま何事もなく時間が過ぎてくれれば……) 穂乃果「あ、そういえば昨日夢みたんだけどさ」
ことり「また?」
海未「どんな夢です?」
穂乃果「なんかねー、いっぱい仮面ライダーがでてくるんだけど、見たことないのもいたの」
穂乃果「なんか、赤に金のラインが入ってる……なんて言ってたっけ?」
ことり「……!」
海未「名前まで言っていたのですか?」
穂乃果「うん、えっとね……ティアラ、だったかな? 嬢王様的な威厳があった!」
ことり「へ、へぇ……」
海未「まぁ、仮面ライダーなんて、そんなものがいればの話ですけどね」
穂乃果「だからいるってばー!」 穂乃果「あっ、そうだ!」
ことり「?」
海未「なんですか?」
穂乃果「なんかこの水族館、カフェがあるみたいだから、そこ行ってみない?」
ことり「いいねー!」
海未「最近は減量してるのですが……少しくらいなら」
穂乃果「やったー!」
穂乃果「じゃ、そのカフェに……」
青色「カフェよりも、魔法少女はいかがかなん?」
ことり「!」バッ
桜色「もしよろしければ、私たちのところへご案内しますが」
穂乃果(新しい魔法少女……!)
海未「…………」 ことり「…………」サッサッ
穂乃果「……!」コクンッ
昨日決めたことりのハンドサインを見て、穂乃果は海未を連れて駆け出した。
穂乃果「こっち!」ギュッ
海未「は、はい!」タタッ
水族館の薄暗い廊下を駆け、分岐路を右へ左へと曲がっていく。
海未「な、なんなんですかあの2人は!?」
海未「あんな格好をして……」
穂乃果「説明はあとでする!」
穂乃果「海未ちゃんは私と一緒に……」ガチャッ
立ち入り禁止の用務員室の扉を開ける。
魔法少女側はある程度人目についていいとはいっても、狭い部屋の中、顔を確認出来る距離に他人がいれば、無茶はしないだろうと、そう予想した結果の行動だった。
黒色「ようこそ!」
穂乃果「!!!」
穂乃果(影に潜る魔法少女……!)
期待もむなしく、駐在していた用務員は、目隠しと耳栓をされて部屋の端に転がされていた。 マリン「あなたの相手は私です」ザザッ
穂乃果「!?」クルッ
黒色「来たわね宿敵……あなたは私が倒す!」
いつの間にか、握っていた海未の手はどこかへ消えており、穂乃果の後ろには、仮面ライダーマリンが立っていた。
穂乃果「う、海未ちゃんが迷子に!」
マリン「……あの子なら私が先に避難させました」
マリン「ですが波長で位置のバレるあなたはどこへ逃げても同じです」
マリン「早く他の仮面ライダーと合流してください!」
穂乃果「わ、わかった!」タタッ 穂乃果が通路の先へ走って行ったのを確認して、マリンは用務員室の扉を乱暴に閉めたうえで、ドアノブを雑に破壊した。
マリン「これでここからは外に出られません」
黒色「そうね、でも……」チラッ
用務員室は細い廊下を通じて、ほかの出入り口と繋がっている。
黒色「そして廊下にはモノがあって影もある!」
黒色「Shadow gate to dead!」シュッ
黒色の魔法少女は足早に近くの影に潜り込んだ。
黒色『通常通路に出れば、私のフィールドよ!』
マリン「その前に全ての扉を壊せばいいのです、もしくは……」タタッ
マリンも影の繋がっている方へ向けて走り出す。
マリン「あなたをここで殺します」 ➖➖大水槽前
ことり「変身」バサァッ
青色「変身中なら……!」ダダッ
変身中は身動きが取れない。青色の魔法少女は巨大な羽根に包まれたことりに向かって駆け出したが、
ことり「ふふっ」バチバチッ
青色「あっつッ!」
磁石が反発するかのように、魔法少女は仮面ライダーの変身を邪魔できない。
後ろから近づこうとしていた桜色の魔法少女にも、続けて生えてきた鋭い羽根を使って、目の辺りを薄く切りつける。
桜色「うぁっ……」ヨロッ
バード「羽根だからふわふわだって思ったら……勘違いだよ!」
青色「梨子!」
桜色「だっ、大丈夫です!」
バード(……ん? なんか聞いたことある名前) バード(でも……それより)シュタッ
羽根を使って天井まで飛び上がり、ちょうどいい凹みに掴まるも、2人の魔法少女を相手に、バードはマスクの下で冷や汗を流した。
バード(余裕っぽい表情しちゃったけど……正直これで私はネタ切れ)
バード(戦うことに関しては、私は仮面ライダーの中で最弱……!)
今、青色が飛びかかってきたら間違いなく殺される。
桜色が一体どんな力を使うかもわからない。
バードは優位に立っている表情をしたまま、意味深に羽根を羽ばたかせて、2人を無言で牽制していた。
青色「(梨子、同時に仕掛けるよ)」
梨子「(でも、相手がどんな力を使うかは……)」
青色「(私が身代わりになる)」
梨子「!」
青色「……いくよ!」
アイス「いかせないわよ」 青色「っ!」サッ
アイス「同じパターンで悪いわね!」
跳び上がろうとしていた青色は、そのままの力で声のした方へ蹴りを繰り出す
も、それは空振りに終わり、反対に背中に熱いと感じるほど冷たい氷が貼り付けられる。
桜色「果南さん!」タタッ
ニコ「あなたの相手は私!」
桜色が咄嗟に腕を構えると、その細い腕に激しい蹴りが撃ち込まれる。
痛みはないものの、燃え上がるような熱が全身を包む。
桜色「!?」
ニコ「それは私の能力じゃないよ……身体の使い方!」
桜色「勁……」
桜色は以前に聞いたことのある力の伝わり方の違いを思い出した。
一点に力を加えるのが普通の叩き合いだが、技術があれば、その力がどこへ伝わるかは選ぶことができるという。
桜色「……コワレヤスキ」
ニコ「?」
何か桜色が呟いたのをニコは聞き逃さなかったが、続けてみぞおちに向って、つま先を叩き込んだ。
小さな光が接触点で漏れる。
桜色「……っが」ガンッ
桜色の魔法少女は壁に叩きつけられ、変身が解けてその場に倒れこんでしまった。
見覚えのあるその顔に、ニコは一瞬何かを思い出しかける。 ニコ「……弱かったね」
水色「……そうでもないよ」
ニコ「!」シュッ
後ろから聞こえた声に、ニコはさっきと同じように体を捻り、脚を回転させて、相手の身体に
ニコ「ぃでっ!?」バキッ
触れた途端、ニコの脚が反対の方向へ曲がってしまった。
水色「……コワレヤスキを使ったんだ」
ニコ「いぐ……はは、やっぱさっきのなし」
ニコはみぞおちを叩いたときの淡い桜色の光を思い出す。
思うように力は入ったが、そのすぐ直後の蹴りで自身の脚が耐えきれなくなってしまった。明らかに何かされている。
青色「曜、使って!」バリンッッ
アイスの攻撃を交わした青色が、渾身の力で大水槽を叩き割る。
水色は手をかざすと、水だけを巻き上げて、ニコとアイスの上に圧し潰すように水を載せた。
アイス「だから効かないってば……!」サラサラ…
アイスの周りには氷の粒が散らばるだけだが、ニコは大量の圧を全身に受けて、
水色「!」
いなかった。
仮面ライダーが消えた。 青色「しまった、鳥がいない!」
水色「あ!」
アイス「よし……じゃあ私も!」
アイスは割れた水槽を通りざまに氷で固めて直すと、あっけにとられる2人を残して、さらに氷の壁を通路の前に作る。
アイス「魚たちを外へ出さなかったのは、あなたたちなりの優しさだと捉えておくわね!」
そう言い残すと、アイスは滑るような動きで細い通路を駆け抜けた。
青色「…………」
水色「……人が来る前に、早くおいかけよう」
青色「そうだね」
厚く高密度で張られた氷の壁を、落ちている水を集めた針で崩していく。さっきまでの騒音とは裏腹に、静かな空間に氷の音だけが響いた。
大量の水が流れて濁った大水槽では、マンタが忙しそうに泳いでいる。水色の魔法少女は横目にマンタを捉えて、顔をしかめた。
水色「……マンタって、割とキモいよね」
青色「そう?」 仮面ライダーって力の根源はライダーも敵も同じってのが基本ルールだけど
これは何になるんだろ ことりちゃんピンチになったらどこからかリボルケインが飛んできそう ➖➖クラゲの通路
穂乃果「はぁっ、はぁ……」
穂乃果(誰も追ってきてない……早く水族館を出ないと)タッタッ
穂乃果(なんか、こうしてみると水族館って割と迷路だよね……)
黄色「待ち伏せ成功だね」
紅色「さすがですわ」
穂乃果「!」ザッ
細いクラゲの通路を抜けようとすると、その先に魔法少女2人が待ち構えていた。
紅色「安心してください、他の方はここへは近寄らないようなしましたので」
黄色「できれば、一緒に来て欲しいんですけど……だめですか?」
穂乃果「…………」
穂乃果(まずい……今戻ってもたぶん他の魔法少女が来てる)
穂乃果(どうしよう……) 穂乃果「あ、ある人っていうのは……あなたたちの、大切な人なの?」
紅色「そうです」
黄色「そういう『設定』ずら」
穂乃果「設定?」
穂乃果「設定って……」
紅色「そう決められているのです」
紅色「そして、その人が私たちを魔法少女へと変身させられる」
穂乃果「!」
紅色「あなただって同じでしょう?」
紅色「纏式変身を可能にさせられる唯一の存在」
穂乃果「……え?」
黄色「あなたがいなければ、纏式変身はできない」
紅色「……詳しいことは、ついて来て下さればお話しします」 穂乃果「よくわからないけど……わ、私がいけば……もう戦わなくて済むの?」
紅色「もちろんです」
紅色「理由がありませんから」
穂乃果「これから、着いて行く、って答えたら……」
黄色「もう何も手出ししないずら」
穂乃果「」ドクンッ
穂乃果(私が……私が1人、ついて行けば)
穂乃果(他のみんなが、もう痛い思いをしなくて済むなら……)
穂乃果(だったら私は、わたしは……)
穂乃果「……ねぇ、だったらいまから」
穂乃果が一歩踏み出そうとすると、その足元で何かが弾けた。
目の前の2人の魔法少女が何かした様子はない。
穂乃果「!?」
??『それは……勘違いにもほどがあるわよ』 紅色「花丸さん!」
紅色の魔法少女が黄色の魔法少女を庇おうとすると、その伸ばした腕に、何かが撃ち込まれた。
紅色「…………」
花丸「!」キャッチ
花丸「これは……」
撃ってきた『モノ』を黄色がキャッチすると、それは手のひらに一瞬痛みを与えた後、霧となって煙のように消えた。
花丸「纏式変身の装甲!」
紅色「狙撃型に狙われていましたか……!」
穂乃果「ぇ……」
狙撃と言っても、この閉鎖された空間、狙うような場所はどこにもない。
紅色「……壁を透けたりしない限り」
穂乃果が戸惑っていると、後ろから風を切るような音が聞こえ、次の瞬間には穂乃果の身体は抱き抱えられていた。
バード「身体丸めて!」
穂乃果「!」サッ 紅色「花丸さんしゃがんで!」
黄色「うわ!」サッ
魔法少女2人が身を縮めると、その後ろ髪が鋭利なカッターで撫でられたようにパラパラと切り落とされ、少し遅れて風が2人の顔を撫でた。
紅色「い、いまのは恐らくバード……」
ニコ「そして代わりに!」
黄色「!」ザッ
穂乃果が立っていた場所には、ここまで抱えられてきたのであろうピンクの仮面ライダーが立っている。
ニコ「仮面ライダーニコニー参上!」
ニコ「おひさっ!」
紅色「あなたですか……!」
紅色「花丸さんはバードを追って、ルビィと合流してください!」
黄色「はい!」 ニコ(やば……痛い痛い痛い)
ニコ(そりゃ右脚折れてるのに無理やりまっすぐしたんだから痛いよ……やばい立ってらんない)
変身を解除すればこの程度の骨折なら治るが、一度解除すれば次の変身まで時間がかかる。急ぐための食べ物もエネルギーもない。
紅色「…………」
ニコ(いや、涙出てきた……いったぁ……)
ただ構えのポーズでたっているだけで、相手は勝手に警戒して距離を取ってくれているが、虚勢がバレるのも時間の問題だ。
そもそも立っているだけで全力である。
アイス「さすがニコね」シュタッ
紅色「……!」
後ろから現れた仮面ライダーアイスが、紅色の魔法少女に向かって大水槽の前から引っ張ってきた氷の玉を投げ飛ばす。
紅色「はっ!」ボォッ
紅色が振袖のような装飾のついた腕を振ると風の代わりに炎があがり、氷を水へと変えた。 アイス「ここを通して欲しいんだけど」
紅色「できないお願いですわね」
アイス「そ?」
アイス「じゃあ仕方ないわね……ニコ、腕は平気なのよね?」
ニコ「うん、たぶん」
アイス「じゃあ……」
仮面ライダーたちは一歩下がり、魔法少女から距離をとると、アイスが腰のスマホに向かって数回タップした。
アイス「バイク、おいで!」カチッ
音声入力でスマホの画面の色が変わる。スーツの中で絵里が姿勢を正すと、アイスの背骨に沿った装甲の隙間から、冷気のような煙が溢れてくる。
それが次第に形を作っていき、圧縮されて厚い氷になると、色を変えて狭い通路にバイクが現れた。
紅色「!」
アイス「ニコ、乗って!」
ニコ「ありがとうっ」ギュッ
アイス「とばすわよ!」ブゥゥン!
咄嗟に紅色が通路の横へ転がると、アイスのバイクは音と冷気を残して通路を走り去り、通った後には厚い氷の跡が残った。
紅色「……めちゃくちゃですわね」 ➖➖外
穂乃果「ぶわっ」
バード「ここなら大丈夫かな……」バサァッ
水族館を抜け、建物から出て、スカイツリー前の広場に降り立つと、当然だがあたりに人が集まってきた。
「ショーかなにか?」
「今飛んでなかった……?」
「あれなにー!」
「仮面ライダーよ」
バード「穂乃果ちゃん」バサッ
穂乃果「うゎっぷ」
バードは抱えていた制服の上着を穂乃果の頭に被せると、周囲を警戒した。
バード「……やっぱり、着いてきてる」
赤色「ここなら目立った動きはできないって感じかな?」
黄色「賢い判断ずら」 赤色「敵ライダーめ! 女の子を返せ!」
黄色「離すずら!」
穂乃果「!?」
魔法少女2人は周りに聞こえるように大きな声でそう言うと、わざとらしくよく見かけるような魔法の杖を構えた。
バード(なんとしてでもショーに見せかける気だ……!)
穂乃果「ち、ちが……」
バード「ふっふっふっ、この女の子は渡さないよ!」ザッ
バードはさも作り物かのように羽根を不器用に動かして、穂乃果の前に立ちはだかった。
穂乃果「……!?」
赤色「このぉ、絶対助けるからね!」タタッ
赤色魔法少女は少しゆっくりと駆け出すと、仮面ライダーへ向けて杖を振り下ろした。
バードは魔法の弾を飛ばされたかのように適当にリアクションをとって、それから素早い動きでその杖を奪い取る。
赤色「しまっ……」
黄色「つ、杖が!」 バード「…………」
もちろん、ただの棒である。
だが、バードにとっては、状況が違った。
「ねぇママ見てきていいー?」
「あれなんの漫画ー?」
「プリキュアじゃなーい」
赤色「ステッキがとられちゃった!」
相手は周りにも聞こえるように大きな声を出している。つまり口を大きく開けている。
そして、相手にはいない、こちらには、まだ味方がいた。
黄色「大丈夫、次はわた……」
バード「えいっ」
黄色「!?」バンッ
バードが杖を振り降ろすと、それに合わせるかのように黄色の魔法少女が派手に後ろへ吹き飛ばされた。
赤色「え!?」 バード「えいっ!」ブンッ
さらに赤色に向けても杖を振ると、その口にめがけて弾が打ち出された。
赤色「!」ギュッ
魔法少女は咄嗟に口を閉じる。
バード(やっぱり……口の中は魔法の膜がないんだ!)
突然吹き飛ばされた魔法少女に、周りはざわつき始めた。
ただでさえわけがわからない状況のショーなのに、演技が生身の人間にできる動きではない。
黄色「うぅ……」パァァ…
口から血を流す黄色の魔法少女がうめき声を上げる。その衣装が光に包まれたかと思うと、その下から制服の少女が現れた。
今度こそ、周りは騒然とし始めた。 バード(まずい……穂乃果ちゃんを逃さないと……!)
赤色「……よくもフラワーちゃんを!」タタッ
口調はわざとらしいが、おそらく今度は本気でくる。バードは杖を武器として構え、羽根を使い小さく飛び上がった。
赤色「えっ……」
赤色の魔法少女の真上に移動し、後ろ頭に向けて思いっきり杖を叩きつける。
プラスチックの杖が粉々に砕けて、仮面ライダー、魔法少女ともにその衝撃で吹き飛ばされた。
「…………」パシャッ
バード「!」
気がつけば、周りの人々が皆スマホを構えていた。間違いなく撮られている。
バード(まずいまずいまずい!)
バード(人はともかく、データは流石に……!)
赤色の魔法少女に近づきつつ、感じたことのないような焦りを覚えていると、1人のスマホが爆発した。
「ぇあっつッ!」
「えっなに!?」
「きゃっ……私のも!」
バード(よかった……狙撃で壊してくれてる!)
だが、すでにショーで済ませられる範囲を超えてしまっている。今ここにいる人をこのまま帰すわけにはいかない。 希「助けに来たぞー!」ブゥゥン!
赤色「!?」
大きめのダウンに身を包み、サングラスとネックウォーマーで顔を隠した希が、広場にバイクで乗り込んできた。
穂乃果「!」ガシッ
希「さぁ、今のうちに乗って!」
赤色「しまっ……」
希「レッドちゃんがひきつけてるうちに、遠くへ逃すから!」
希「あとはまっかせろー!」ブゥゥン!
希は穂乃果を乗せると、人々の合間を縫って素早く広場を後にした。
バード「じゃあ……2人も帰ってもらえるかな」
赤色「…………」
赤色「……また来る」
赤色の魔法少女は倒れた少女を抱き抱えると、足早に広場を後にした。 バード「…………」
1人取り残されたバードは、周囲のパニックを1人で引き受けることになった。
子供は楽しそうに笑っている子、ポカーンとしている子、泣き出している子、大人はみな突然スマホが爆発したことや目の前で起こっていることに騒然としている。
バード「みなさぁーん!」
バードが手を上げて、大きな声を上げた。
事件の第一人者が声をあげたのだから、当然、ほとんどの人は振り向く。
広場の入り口からは、誰かに呼ばれたのか警察が走ってきているのも見える。
バードは深呼吸をして、久しぶりにその力を使った。
バード「私から目を離さないでくださいねー、さーん、にー、いーち!」
……その日のニュースに、騒ぎのことが取り上げられることはなかった。 ➖➖公園
マリン「2人とも!」タッタッ
アイス「あら、えっと……マリン」
マリン「黒色の魔法少女に逃げられてしまいました……申し訳ありません」
アイス「いいのよ、無理に仕留めることはないわ」
アイス「それより、まわりに魔法少女はもういないわよね?」
マリン「そうですね、気配はありません」
アイス「ニコ、もういいわよ」
ニコ「わかった……変身解除」サァァ…
地面に座り込んだニコが変身を解除すると、異常な角度で腫れ上がっていた脚が、みるみるうちに元の形に治っていった。
にこ「あ゛ー、痛かった……」
マリン「かなり折れていましたね……」
にこ「気を付けてよ、桜色のは弱体化魔法みたいなの使ってたから」
マリン「そんなゲームみたいな」
にこ「ガチよ……」 アイス「ところで、バードは……」
ことり「はい、ここに……」バタッ
マリン「ことり!」ダキッ
ことり「久しぶりに力使っちゃった……」
アイス「記憶操作……ありがとう、水族館でもずいぶん暴れてしまったから」
ことり「ううん、私も外で結構見られたから……」
にこ「まあ、必要な場面だったわね」
にこ「まさか施設まで破壊して回るなんて思いもしなかったわ」
アイス「相手も必死なのよ……穂乃果がコネクターだから」
マリン「仕方ありません、ここはそういう世界なのですから」
マリン「変わることはありません……」
ことり「そうだよね……」 ことり「ところで……マリンちゃん」
マリン「はい」
ことり「どうして、穂乃果ちゃんの前で正体を明かさないの?」
アイス「思ったわ、この状況だし、バラしてもいいんじゃ」
アイス「たしかに、これまで全員の正体がバレた世界はなかったけど……」
マリン「……1人は、必要なはずです」
にこ「?」
マリン「身の回りの人全員が特別な力を自由に使えると知って仕舞えば、きっと穂乃果は背負いこんでしまいます」
マリン「だから、私1人は……どうしても、バレてはいけないのです」
ことり「なるほど」
アイス「……たしかにね」
アイス「あの子が変身すると強制終了か、もしくはそれ以上の何かが起こるなら……変身はさせられないし」
にこ「世界が無くなってしまえば、何もかも意味はなくなるしね」
マリン「だから……私は、正体を明かしてはいけないのです」 ➖➖神田明神
希「追っ手は来てないね」キキッ
穂乃果「うん……」
穂乃果(さっきの……)
〜〜
紅色『そして、その人が私たちを魔法少女へと変身させられる』
穂乃果『!』
紅色『あなただって同じでしょう?』
紅色『纏式変身を可能にさせられる唯一の存在』
〜〜
穂乃果(ってことは、仮面ライダーをつくれるのは……)
??「さっきのは何よ」スタスタ
穂乃果「え?」グイッ
??「自分から連れていかれようとしたでしょ……!」ググ…
希「ちょっ、真姫ちゃん」 穂乃果「え……」
真姫「何のために私たちが……!」
希「ちょ、真姫ちゃん、落ち着いて落ち着いて」
真姫「…………」パッ
穂乃果「……ごめんなさい」
希「穂乃果ちゃんなりに色々考えたんやろ……コネクターである限りウチらとは違うんやから」
穂乃果(……コネクター?)
真姫「……そうよね」
真姫「穂乃果は毎回忘れてしまうから……」
希「……うん」
穂乃果「え、忘れるって」 希「話したほうがええんかな……」
穂乃果「??」
真姫「前も話したけど、ダメだったじゃない」
希「あのときは……強制終了したんだっけ」
真姫「えぇ……モブの私たちが言うのは、たぶんルール違反なのよ」
希「そうよね……」
穂乃果「話したって、なにを……」ズキッ
『だから! 私はそのために戦う!』ガシャンッ
『いくぞ、変身!』バッ
穂乃果「いたっ……」ヨロ…
真姫「?」
穂乃果(いまの見覚えは……変身?)
穂乃果(私が……ベルトを巻いてた?)
穂乃果(これって……) 穂乃果「ね、ねぇ……私って」
希「ん?」
穂乃果「ベルトを巻けば……」
穂乃果「変身できるの?」
真姫「…………」
希「…………」
希「……それは」
紫色「できると思うわよ」ザッ
穂乃果「!」ビクッ
真姫「……どうしてここがわかったの」
紫色「単純よ、ついてきただけ」
紫色「いつも居場所がわからなくなるときがあったけど……ここだったのね」 真姫「変身」カシャッ
紫色がいるということは、恐らく他の魔法少女も近くにいる。そして間違いなく仕掛けてくる。
希「真姫ちゃん!」
真姫「やるしかないでしょ」シュゥゥ…
真姫のうなじあたりから赤い布のようなものが2枚伸びてきて、止めようとした希は跳ねるように後ろへ避ける。
変身中の仮面ライダーに生身の人間が近づいたらどうなるか、希は考えるだけで身の毛がよだつ思いがした。
2枚の布がそれぞれ上下にひるがえり、真姫の身体を包みこむ。
それが密着したかと思うと、一瞬で光沢を放つスーツとなり、さらに肩にかけてマントのような追加装甲が背中を覆い隠した。
マスクの上には、斜めにティアラのような装飾がある。
穂乃果「赤に、金のラインが入ってるスーツ……」
昨日の夢と、同じライダーがそこにいた。腕が通常の3倍は太く、その手の甲の上あたりには、銃口のようなモノがみえる。
穂乃果「仮面ライダーティアラだ……」
??「ティアラ?」
ティアラ「いい名前ね、貰うわ」 紫色「この距離なら、確実に当たるわね」
ティアラ「どの距離でも当たるわよ」
仮面ライダーティアラが、その腕を紫色の魔法少女に向けると、音も立てず真っ直ぐに弾を発射した。
弾は空を切ると、真っ直ぐに
ティアラ「!?」ガギィンッ
ティアラのスーツに傷をつけた。
ティアラ「何が……」
紫色「今のも避けられなかったの?」
魔法少女は、右腕はゴムを飛ばすときのように前へ伸ばしており、左腕は顔の前で狭くピースをして、その指の間には、
紫色「もしくは、受け止めるとか」
ティアラの発射した弾が挟まれていた。
ティアラ「…………」 希「能力をパクられたのかな……穂乃果ちゃん、走って!」
穂乃果「う、うん!」
紫色「逃がさないわよ」サッ
魔法少女の指の先が穂乃果を差す。穂乃果は嫌な汗が背中を伝うのを感じた。
ティアラ「あなたの相手は私」ザザッ
ティアラが紫色の懐に飛び込み、その腕をつかもうと手を伸ばす。身体をそらしてその手を避けた魔法少女は、仮面ライダーの脇腹に蹴りを叩き込みながら後ろへ大きく回る。
紫色「でもあなた……今日だけで2回目の変身よね?」
ティアラ「……っ」ヨロ…
紫色「どこまで耐えられるかしら」
ティアラ「……貴方が帰るまでよ」
紫色「楽しみね」 希「あの場所がばれた以上、もうあそこにいる意味はない……どこかへ逃げないと!」ブゥゥッ
穂乃果「で、でもどこに!」
希「よしエンジンかかった……わかんない! どこか遠く!」
穂乃果「えぇ!?」
希「それか……よし繋がった、アイスがまだ変身してるから、ここに合流して!」
希は穂乃果のスマホで地図を表示すると、1キロほど離れた場所にピンをつけた。
希「あと、穂乃果ちゃんバイクの運転できる!?」
穂乃果「そ、操作なんとなくはわかるけど……免許持ってない!」
希「ウチの貸すから!」バシッ
穂乃果「いや免許ってそういうものじゃないし!」
希「はいヘルメット!」ガポッ
希「いって!」
穂乃果「うぅ……希ちゃんは?」
希「ウチは戦えるから……真姫ちゃんに加勢する!」
穂乃果「わ、わかった」
穂乃果「またあとで!」ブゥゥン!
希「うん!」 穂乃果(って言っても、思ったよりバイクの操作するところが多い!)
穂乃果(カチャカチャしてるのは見てるうちに覚えたけど……速すぎて怖い!)
穂乃果(車通りが少ないからまだいいけど……)
水色「見つけた!」
穂乃果「!?」
水色「逃がさないよ!」
穂乃果「やばいやばいやばい!」ブゥゥゥッ
水色「最悪生きて血が残ってさえいればいい……半殺しでも!」
穂乃果「……っ!」ギュッ
穂乃果(うわぁぁ速すぎてバランスが保ち辛い!)
水色(花丸ちゃんはもう動けないから、先に安全なところに避難してる)
水色(あと動けるのは私と合わせて7人!)
水色「なんとしてでも今日捕まえる!」
穂乃果「……!」ブゥゥン! ➖➖公園
アイス「えっ!?」
アイス「穂乃果がバイクで!?」
希『これしかなかった! 真姫ちゃんが2回も変身してる!』
希『ウチがいかんと……』
アイス「わ、わかった、すぐ合流する!」
マリン「私が先に向かいます」
マリン「今動けない魔法少女は聞く限りだと2人……1人づつが抱えて逃げているとしても、間違いなく4人はまだ残っています」
マリン「私が止めなければ」
アイス「じゃあ私のバイクを使って」
アイス「……あなた、昨日の二重変身でほとんど体力は残ってないでしょ」
マリン「……助かります」
ことり「気を付けて……!」
マリン「はい、必ず」ブゥゥン! アイス「じゃあ、私たちは……」
にこ「足手まといになるわ、私はもう完全なスーツを作るエネルギーが残ってないから、先に……」
ことり「変身」カシャッ
アイス「!?」
にこ「ことり!?」
にこ「倒れるわよ!?」
ことり「構わないよ」
青白い顔をしたことりの背中から羽根が生えるが、明らかにこれまでのよりも小さくて薄い。
それが身体を包んでも、全身を包むに至らず、ところどころに隙間ができてしまう。
変身の痛みに耐えられず、ことりは地面に両手をつく。
ことり「背筋と脚だけでも……!」
普段はスーツの下に隠れて見えていない、肉体が作り変えられる様が、肌が露出している分は見えてしまう。
一度赤黒く変色したあと、沸き上がるように作り直される全身の光景に、アイスとにこだけでなく、ことりまでも言葉を失ってしまう。
ことり「ぐぅ……ぁ……だって、私は」
腕と頭は全くスーツに覆われていない。ほぼ脚の膝から下と、上半身しかカバーできていないようなスーツで、それでも背中には翼が生え揃った。
バード「仮面ライダー……バードだから」
バード「……必ず穂乃果ちゃんを助ける」 にこ「わかったわ……ちょっと待ってなさい」
にこが立ち上がって、スマホをいくらか操作する。
にこ「バイク、出てきて」
目を閉じたにこの背中から霧のようなものが溢れ出て、ことりが変身した時に落とした羽根を集めて形を作り上げる。
ことりの目の前に、背丈の倍はあるようなピンクのバイクが現れた。
にこ「……っ」フラッ
アイス「にこ!」ダキッ
にこ「……これなら、バードのバイクみたいに飛べはしないけど……そこそこの速さは出るはずよ」
にこ「近くまでこれで向かいなさい」
バード「……ありがとう」
バードはバイクに跨ると、アクセル全開でその場から駆け出した。
普段よりもオーバースペックなバイクを作ったにこは、既に顔面蒼白になっている。
アイス「脱水症状も出てるわね……何か飲食するか、点滴しないと」
にこ「私はいいから……早く他の加勢に」
桜色「いかせませんよ」ザザッ アイス「!」
黒色『ふたりは逃しちゃったわね……まあ、アイスに間に合っただけ良い方か』
黒色『私たちについてくるか、ここで果てるか……どっちがいいかしら?』
アイス「!」バッ
にこ「…………」
アイス(嘘でしょ……桜色が復活してる)
アイス(思ったより魔法少女はタフなのか……それとも、向こうも死に物狂いの覚悟なのか)
アイス「……私1人だと、相手不足じゃないかしら?」
桜色「過小評価は良くありませんよ」
桜色「実力、能力、どちらの点でも、貴女は仮面ライダーの中で最も強いはずです」
アイス「……お褒めいただき感謝するわ」
黒色『リリー、なんとかして相手の影に潜り込ませて』
桜色「わかった」 アイス(ここから逃げ出したいのだけれど……にこを抱えたままだとあんまり高くジャンプできない)
アイス(下を走るのは、間違いなく影に入ってしまう)
アイス(おまけに日も暮れてきた、もうすぐ全ての地面が黒色の魔法少女のフィールドになる……!)
にこ「先にいって」ヨロ…
アイス「…………」
にこ「あんたが行ったの確認したら、私がこの2人の相手をする」
アイス「冗談が上手になったわね」
にこ「こんな時に冗談言うと思う?」
アイス「サンタが実在する確率くらいありえると思うわね」
にこ「限りなく低いじゃない」
アイス「100%よ」
アイス「……あなたは見捨てない」
にこ「……かっこいいじゃないの」
アイス「仮面ライダーだからね」
にこ「…………」フッ
にこ「変身!」シャキッ ➖➖
穂乃果「うわぁぁ!」キィィィッ!
入り組んだ細道を進むと、急なT字路につきあたり、初めての運転にしてはやけに華麗に急カーブをこなす。
穂乃果「はっ、はっ……!」
穂乃果(奇跡……!)
穂乃果(次曲がり角あったら死ぬ!)
水色「これが纏式……ライダーシステム……」
水色の魔法少女も見失わないように、距離を取られないように必死で走りながら、水管や用水路を見つけては水を飛ばして地面を滑りやすくする。
穂乃果(というか、バイクについてくる女の子ってなんなの……!)
ブロック塀にぶつかり装甲に傷をつけながら、脚が当たらないようにスレスレで路地を駆け抜ける。 水色「こうなったら……水のブロックで!」
魔法少女が手をかざし、穂乃果の前方に用水路の水をまとめて持ち上げた。
水色「水のブロックに突っ込めば、いくらバイクでも……!」
穂乃果「うわわわ死ぬ死ぬ死ぬ!」ギィィッ
目の前に濁った水の壁が迫ってくる穂乃果は、アクセルを緩める判断すらできず、猛スピードで水に突っ込んでいく。
水色「溺れているところを回収すれば、あとは……!」
マリン「そうはさせませんよ」
水色「!」クルッ
振り向きざまに、首をめがけて振りかざされた刀を後ろに下がって避ける。高いビルの出っ張りを走っていた魔法少女は、バランスを崩して地面に強く落下してしまう。
マリン「まだ帰らないのですか」
水色「やっと見つけた……戦力も削ってきてる……ここで引くわけにはいかない!」
マリン「戦力が削れてるのは、そちらも同じです!」ダッ 穂乃果『おぼ……ッ』ゴボッ
一方、水のブロックに全速で突っ込んだ穂乃果は、全身に生ぬるい衝撃を受けて、水中でパニックになっていた。
穂乃果(ここから出なきゃ……でも向きがわからない……!)
溺れている時は、どこへどう動いたらいいのが驚くほどわからなくなる。穂乃果はとにかく手足をばたつかせて、濁った水の中を暴れたが、もともとほとんど息を止めて運転していたせいもあって、
穂乃果(い、息が……)ゴボッ
意識が薄らいでいくのは時間の問題だった。
バード「穂乃果ちゃん!」ドボンッ
穂乃果(バ、バード……)
水のはるか上からバードが勢いよく突っ込み、その勢いのまま穂乃果を抱きかかえて、コンクリートの路地の上に激しく墜落した。
バード「がっ……!」メキッ
いくら水で勢いが和らいだとはいえ、十数メートルから羽根をたたみ急落下している。そのうえスーツをつけていない部分はコンクリートの地面にこすれて、強化された肌でも擦り傷が入った。 穂乃果「げほッ、げッ……」ボチャ…ッ
濁った泥水を大量に飲み込んだ穂乃果が、苦しそうに咳と一緒に水を吐き出す。
穂乃果「ぐぁ……おぇッ……バ、バードちゃん……」
バード「ぅ……私は、大丈夫」ググ…
穂乃果「で、でも、スーツが……」
やっと目の開いた穂乃果がバードに目をやると、明らかに足りていない全身のスーツと肌から、滲むように血が出てきていた。
バード「たまにはオシャレも意識しようと思って……」
バード「それより、ここを離れるよ」ダキッ
バード「掴まって!」
穂乃果「わ、わかった!」ギュッ ➖➖神田明神
紫色「いくら射撃の成功率が高くても、これだけ距離が縮んでいれば撃てないわね!」
ティアラ「そう……かしら!」バッ
ティアラはほんの数センチ目の前にいる紫色の背後に向かって、右腕から弾を発射する。
紫色「当てる気はないのかしら……命中率は、何%って言ってたかしら!」
ティアラ「100%!」
紫色「It's joke!」ガシッ
ティアラ「……!」
腕を掴まれたティアラは、そのまま魔法少女に地面へと叩きつけられてしまう。
ティアラ「い゛っ……」
頭を叩きつけられ、視界が揺らぐ。
痛みやそれによる症状を完全に無効にする魔法少女の膜と違って、仮面ライダーのスーツは単純にその威力を下げるだけで、力が強ければそれだけ痛みは伝わる。
仮面ライダーになっていながら視界が揺らぐのであれば、もし生身でこの力を加えられるとどうなるか、考えたくもない。 ティアラ「……ぅあッ!」バババッ
肩のマントの接続部に隠した銃口で、細かい弾を魔法少女の顔めがけて連射する。
紫色「Oh!」ササッ
紫色「そんなところの銃口……どうやって操作してるのかしら!」
ティアラ「痛い……よくもやってくれたわね」スタッ
ティアラは続けて、またさっきと同じ方向に弾を外してしまう。
紫色「さっきからグダグダじゃないの……当てる気ある?」
ティアラ「もちろん」タタッ
仮面ライダーは地面を蹴って魔法少女へ殴りかかり、魔法少女はそれを避けて後ろへ飛ぶ。
ティアラ(もう少し右……!)ブンッ
紫色「パンチもフラフラよ……諦めたら?」
ティアラ「うるさいわね……!」
当てる気は無かったが、限界なのは事実だった。もう身体が持たない。弾もさっき撃ちだしたので最後。
本来接近戦をするタイプの変身をしていないので、呼吸がうまくできなくて、喉は焼け切れそうだった。 紫色「じゃ、ここらで……」ス…
ティアラ「!」
魔法少女が指を銃の形に構えた。
この魔法少女の力がティアラの能力を真似たものなのか、オリジナルのものなのかはわからないが、この距離で弾を当てられれば間違いなくスーツが限界を迎える。
紫色「good-by!」
紫色(……あれ、何かおかしい)チラッ
ティアラ「今!」
魔法少女は自分が弾を撃つ瞬間、それを見逃さなかった。
自分を挟んで、あらゆる方向から飛んできている弾が、まるで時間が止まっているかのように空中で静止している。
??「はいよっ!」パチンッ
物陰に隠れていた仮面ライダーが指をパチン、と鳴らすと、同時に爆発のような音が続けて鳴った。
紫色(まず……)
紫色「……ぃ゛ッ!」バスッバスッ
爆発ではなかった。
静止していた弾が同時に動き出し、撃ち出された時の速度をそのままで、全方向から紫色の魔法少女の身体に衝突する。
魔法の膜が耐え切れる、その許容量をはるかに超えた。
少女「ぁっ……」
2、3発の弾が、変身の解けた体を確実に貫通していった。 ティアラ「……ふう」
最後に撃った弾を避けた仮面ライダーが、仰向けに倒れる少女の顔を見下ろして、変身前の顔もずいぶんと外国人じみているな、と感じた。
ティアラ「今のも避けられなかったの?」
少女「…………」ビグンッビグンッ
ティアラ「言ったでしょ、命中率100%だって」
少女の耳には、恐らくその声は届いていない。
??「変身解除」
希「心臓1発、肺2発……かな?」
ティアラ「心臓2発でしょうね、出血量から見て」
希「これは……」
ティアラ「死ぬわ、今すぐ手当てしないと」
ティアラ「魔法少女の治癒力はわからないけど……」
ティアラ「変身解除」サァ…
真姫「希、神社の救急セットみたいなのある?」
希「うん、ちょっと待ってて」タタッ 真姫「…………」
真姫「…………」ガクッ
真姫(よ、予想以上に辛かった……!)ゼエゼエ
同じ日に2回目の変身な上に、慣れない接近戦と特定のポイントにあらゆる方向から弾を撃ち込む作業を並行して行なった。
並の体力消費ではない。
真姫(でも……人を殺すわけにはいかない)
真姫(私は将来……いつか、医者になるんだから)
真姫(そういう『設定』なんだから)
真姫「それに、他の魔法少女の恨みを買うわけにもいかない」
希「持ってきたよ!」ガチャンッ
真姫「よし、救急車はマズイから、止血と消毒と縫合だけする」
真姫「糸はある?」
希「あるよ、何故かここにはやたら医療セットが用意されてる」
真姫「そういう設定なんでしょうね……この世界は」
少女「…………」ヒュ-…ヒュ-…
真姫「今は名前も知らない、魔法少女でもなんでもない、赤の他人」
真姫「……絶対に殺さない」 ➖➖
水色「用水路……!」
水の通っている用水路を見つけると、水色の魔法少女は一直線にマリンに向けて水の塊をぶつけた。
マリン「!」
いくら水とはいえ、勢いがつけば弾丸と変わらない。
スーツに石のように硬い水を叩きつけられ、マリンはビルの壁面から地面に落下する。
マリン「……ッ」バキッ
スーツが悲鳴をあげて、マスクの下の顔が歪む。
水色「早くあんたを片付けて、あの子を回収しないと……!」ガシッ
魔法少女は素早くマリンの上に馬乗りになって右腕を抑えた。空いた左手をかざして、散らばった水で鋭い針を作る。
水色(たぶん纏式変身の装甲も私たちの魔法の膜と仕組みは変わらない……)
水色(なら、1箇所に圧力を加え続ければ!)バスッ
マスク「う゛ッ」
水色(いつか貫通するはず……!) マリン「……!」
マリンと魔法少女の真上に水のブロックが浮かび上がり、そこからマシンガンのように音を立ててマリンの胸に向かって水の弾が発射される。
水が飛び散ったコンクリートは激しい運動で熱を持った水とその衝撃でガリガリと砕けて穴を作っていく。
水色「あんた個人に恨みはないけど……ここで殺さないとあんたはまた邪魔をする!」
魔法少女は手の角度を変えて、マリンの両腕の刀を水の弾で粉々に砕く。
マリン「当たり前です……ッ」
再び仮面ライダーの胸に向かって水の弾が降り注ぐ。
マリン「私もあなた個人に恨みはありませんが……ここで殺さなければ、あなたはまた穂乃果を奪いにくる!」
マリンは抑えられていない方の腕を伸ばし、反対に魔法少女の肩をがっしりと抑えた。
水色「!」
マリン「二重変身……!」 水色「しまっ……」ガクッ
肩の骨の隙間に指をねじ込まれ、身体が固定されたかのように動かなくなる。
水色が冷や汗を流した瞬間、仮面ライダーの背中越しに青黒い霧が湧き出てきた。
水色「あ……ッ」ビリビリッ
霧に触れた部分から電流を流されたように熱と痺れが走り、全身の筋肉が磁石のように縮まる。背中が強引に曲げられ、脚の感覚がなくなっていく。
マリンが拘束の弱まった右腕を振りほどき、みぞおちに拳を叩き込むと、水色の魔法少女は光を放って変身を解除してしまった。
マリン「仮面ライダーの変身シーンには、誰も触れてはなりません……!」
少女「ぐぅ……い゛ッあ゛ッッ」バスッ
馬乗りになってスーツに触れていた部分が、追加で生えてきたマリンの刃によってズタズタに引き裂かれる。
少女「きゃっ……」ビクンッ
抑え込まれた非力な少女は、ただ自分の白いふとももが骨まで裂けていくのに歯をくいしばることしかできない。
少女「…………!」パクパク ➖➖屋上
バード「……ぐわっ」ゴロンッ
穂乃果「ぐぅ……っ!」ザザッ
穂乃果を連れたバードは、なんとか高いビルの屋上まで飛び上がり、その上に羽根をクッションにして穂乃果と抱き合う形で転がり込んだ。
バード「うっ……ぁ」ズキズキ
ただでさえ墜落で痛んでいた腕は、スーツによる補強がされていなかった。
その上で安全帯もパラシュートもつけていない穂乃果を抱きかかえ、ビルの屋上まで登っている。
穂乃果「は、早く変身を解除して!」ダキッ
バード「ぅぅ……かいじょ……」サァ…
変身を解除すれば、あらゆる不調は治る。穂乃果はこれでことりが元気になると思ったが、
ことり「…………」グタッ… 穂乃果「な……なんで!」
変身を解いたことりは、髪は乱れたまま、擦り傷こそ治っているものの、全身の肌色が悪く、とくに顔の色は比喩でもなんでもなく、文字通り青白くなっていた。
穂乃果「どうして……」
穂乃果は頭をフル回転させて、これまでに聞いたことを思い返していた。
穂乃果(仮面ライダーは変身するときと解除するときで身体を作り変えるから、怪我も体調不良も治るはず……違ったの!?)
穂乃果(……いや、身体を作り変えるってことは)
ことり「…………」ヒュ…ヒュ…
穂乃果(栄養不足……?) 穂乃果「み、水も……食べ物も……」アセアセ
何も持っているわけがない。
そもそも医療の知識など絆創膏の貼り方くらいしかわからない穂乃果には、極度に弱っている人間が食べ物を食べていいのかどうかすらわからなかった。
穂乃果「た、助けなきゃ」
穂乃果(ことりちゃんを、病院に……救急車!)
スマホを取り出して通話の画面に繋げようとすると、水没して電源すら入らなかった。
穂乃果「こんなときに!」ガンッ
穂乃果「……ことりちゃんのスマホなら!」
変身を解除して、変身ベルトとしての機能を一切失ったことりのスマホは、無機質に床に転がり落ちていた。
穂乃果「これで、病院に……」ピタッ
穂乃果「…………」
穂乃果(いや……待って)
穂乃果(これ、もしかして……救急車呼ぶより……)ドクンッ
穂乃果(……私が変身したほうが早いんじゃないの?) 穂乃果(わ、私が変身しても羽根が生えるかどうかわからいけど……)
穂乃果(1つ低い屋上に跳び降りるくらいなら、他の仮面ライダーにも……たぶん、できる)
穂乃果(だったら、ことりちゃんを抱えて降りることもできるはず……)
穂乃果「…………」スタッ
穂乃果(こ、これを……)ドクンッ
穂乃果(腰に当てれば……)ソッ…
ことり「ほのかちゃん……」
穂乃果「!」
ことり「だめだよ、それは……」
穂乃果「で、でも!」
ことり「あなたが変身すれば、たぶん世界はもたない……またはじめからになる」
ことり「それはだめ……『設定』を『変えてもらう』ことができるのは、あなただけなんだから……」
ことり「コネクターが、『設定』をつくって、『作られにくく』なるわけにはいかない……!」
赤色「そうだよ」スタッ
紅色「だから大人しく、私たちと一緒に来てください」 穂乃果「……魔法少女」
赤色「さっきの威勢はどこにいったのかな」
ことり「…………」
紅色「今度も大人しくしてくださいよ……下手に抵抗すればバードも殺します」
紅色「私たちにとって、『モブ』はどうなろうと関係ないですから」
穂乃果「なん……なんなの」
穂乃果「みんな揃って、わけのわからないことばっかり」
紅色「なんでしたら、ここで変身してもらっても構いませんよ」
穂乃果「!?」
赤色「あっ、なるほど!」
赤色「『設定』が扱いにくくなれば、千歌ちゃんが『コネクター』に選ばれる可能性もある!」
紅色「そうです、いつだってコネクターは1人だけ……ならば、コネクターの役割を失って貰えばいいのです」
紅色「さぁ、早く」
穂乃果「…………」
ことり「ほのかちゃん……!」 穂乃果(どうする、どうする)
穂乃果(ここで変身するのは……ことりちゃんがとめているんだから、まずいのかもしれない)
穂乃果(それに魔法少女も変身を勧めてくるってことは、仮面ライダーたちの身にも何か起こるのかも……)
穂乃果(だからって、ここでおとなしく連れて行かれれば)
穂乃果(……たぶん、これから邪魔になることりちゃんは殺される)
穂乃果(ことりちゃんをこの場から逃しつつ、魔法少女から逃げ切るためには……)
ことり「…………」
穂乃果(……やっぱり、変身するしか)
穂乃果「…………」スゥ
穂乃果「……へんし」スカッ
ことり「……へんしん、するのは、わたし」ガバッ
紅色「!」ザッ 穂乃果「っ……」ドサッ
穂乃果は驚いた。
青白いことりが、穂乃果からスマホを奪い取ったからではない。
紅色「!」ザザッ
紅色の魔法少女が何のためらいもなく、変身前のことりに向けて蹴りを繰り出したことでもない。
ことり「……!」バ-ド!
ことり「ぇ」
穂乃果「……え?」
ことりが腰に巻いたベルトから、自分の声がしたからである。 ことり「ぅぐッ」バキッ
腰にベルトが巻かれた瞬間、ことりは紅色の魔法少女よってフェンスまで蹴り飛ばされた。
直接蹴りを受けた細い左腕が、脆いおもちゃのように景気良く折れる。
紅色「変身はさせません……!」ガッ
ことり「おご……ッ」メリッ
続けてフェンスが凹むほどの勢いで腹を殴られたことりは、脚を震わせて殴られた痛みに悶える。
紅色「非道と言われようとも、私たちにも抵抗する権利があります……!」ボゴッ
ことり「……ッ」
胸倉を掴まれたことりが、フェンスを歪ませるほどの力で頭を殴られる。
穂乃果「ことっ……」タタッ
赤色「あなたは連れて帰る!」ガシッ
穂乃果「ひっ……」
赤色の魔法少女に腕を掴まれた。
自分よりもずいぶんと背は低いが、この少女が本気を出せばこの腕は潰れてしまうことを、穂乃果は知っている。自然と足は震えた。 赤色「おっ、大人しく、このまま……」
ことり「ほのかち゛ゃんにさわるな゛ッ!」ガブッ
紅色「いっ……」
折れた歯に噛みつかれた紅色の魔法少女は、一瞬胸ぐらをつかむ手を離してしまう。
ことりはその隙を逃さなかった。
ことり「へ……変しん゛」
ことりが顔から地面に倒れ込み、紅色の魔法少女が距離をとる。
周囲のフェンスがビリビリと音を立てると、うつ伏せになったことりの背中から破れた制服をさらに突き破って、小さな薄銀の羽根が生えてくる。
穂乃果「!?」
これまではただの白い羽根だった。明らかにこれまでと違う薄銀の羽根が、ことりの左腕だけを包む。
そして、続けて伸びてきた大きな銀の翼は、ことりの身体を、
穂乃果「……包まない」
紅色「…………」
ことり「ア……アップデート」
ことり(……なんでいま!?)
ことり(いや……決まってる、穂乃果ちゃんが自分の『設定』を認識したからだ!)
ことり(ってことは、今のわたしは……)
バード「ちょ、ちょっとだけ……仮面ライダー、バードだ……!」バサッ 赤色「おねえちゃん!」ザッ
紅色「急いで!」
赤色が紅色の背中に後ろから抱きつくと、赤色は光に包まれて、それから真っ赤な鳥の翼が紅色の魔法少女に備わった。
バード「穂乃果ちゃん、飛ぶよ!」フラッ
穂乃果「え、でも……体調が……」
バード「今はいいから!」ダキッ
口に溜まった血を吐き出したバードが、素早く穂乃果を正面から抱きかかえる。
穂乃果「!」
スーツに包まれた左腕と、完全に生身の右腕とで、力の入り方が違う。
穂乃果は振り落とされないようにバードの首の後ろに手を回して、制服のままの柔らかい胸に頭を押し付けた。
バード「ぅ……」フラッ
とは言っても、フェンスを飛び越えると、バードは力尽きたように急降下を始めた。
銀色の翼が力なく羽ばたくも、スピードが弱まるだけで浮き上がることができない。 紅色「追いますよ……!」
赤色『わかった!』
一方、赤色の魔法少女が変身したのであろう翼を備えた紅色は、身軽にフェンスを乗り越えて、まるで自分の体の一部かのように翼を使いこなす。
紅色「これならすぐ捕まえられる!」
赤色『スピードあげるよ!』バサァッ
急降下して散っていく羽毛は、翼から離れると爆発のように燃え上がりすぐに朽ちていく。
穂乃果「ぐぅぅ……!」ギュゥ…
バード(変身で精一杯で、力が……)
もうバードに目の前は見えていなかった。音も正確に聞こえてこない。開いた目はぶつかる空気に乾かされ、焦点のあっていない黒目は虚ろに地面を見つめていた。
バード(だめだ、このままだと穂乃果ちゃんまで……)ガクンッ
??「お待たせしました」にゃ!」 紅色「!?」バサァッ
地面まで残り数メートルというところで、バードの身体が穂乃果ごと誰かに抱え上げられる。
穂乃果「っだッぁ」ガグッ
急ブレーキをかけた形になった穂乃果は殴られたように視界が揺れ、何が起こったのかわからず顔を上げる。
穂乃果「マ、マリンちゃん……?」
??「違うよ!」ますよ!」
バード「…………」ガクッ
その声を聞いたバードは翼を力なく地面に広げると、内出血で青くなった瞼を閉じた。穂乃果を抱いていた両腕がだらんと垂れ下がる。
穂乃果「バー……こ、ことりちゃん!」
穂乃果「ことりちゃんが!」
??「真姫ちゃんならなんとかしてくれる!」
??「穂乃果ちゃんは神田明神まで走って!」
穂乃果「あ、あなたは……」
??「あなたたち、ですよ」だよ!」 穂乃果「???」
??「名前考えたんだ!」
??「えっいつのまに」
??「その名も……仮面ライダーりんぱな!」
りんぱな「そのままじゃん!」
穂乃果「……?」
目の前から2人の声がする。
だが、そこにいるのは普通の大きさの1人の仮面ライダー。
唯一他と違うところを上げるとすれば、そのスーツは絡み合うように、黄緑と黄色のラインが身体に走っていた。
りんぱな「変身して会うのは初めてだっけ」でも説明はあとです!」
りんぱな「ことりちゃんを連れて走って!」オートバイ、カモン!」
黄色の右腕が、黄緑色の左脚の上に備えてあるスマホをタップすると、りんぱなの背筋から新芽のようなツルが伸びて、それが絡まり小型のバイクを作り出した。 りんぱな「はい、乗って」乗って!」ヒョイッ
穂乃果「わ、わ」
りんぱなが穂乃果とバードを片手で掴んでバイクに乗せると、右腕からツルが伸びてきて2人をバイクに固定した。
バード「…………」
りんぱな「予定変更、神田明神まで!」ぶっ飛ばして!」
りんぱな「今バードを助けられるのは」穂乃果ちゃんだけだよ!」
穂乃果「……りょうかい!」
穂乃果はしっかりとハンドルを握ると、アクセルを全力で回して飛び出した。 紅色「ルビィ、追いますよ!」タタッ
赤色『うん!』バサァッ
りんぱな「「おぉっと!」」
紅色が飛び上ろうと翼を羽ばたかせると、瞬きのような速度で仮面ライダーが目の前に現れた。
りんぱな「「ここから先は通さないよ!」ですよ!」
紅色「……気味の悪い!」ブンッ
紅色が振袖の腕を振ると、炎の波がそれに沿って燃え上がる。
りんぱなは身体を反らしてそれを避けると、地面に手をついてブリッジから逆立ちを通じて後ろへ回転した。
りんぱな「背中から狙うよ!」
紅色が距離をとろうとする前に、全力で正面に向かって走り、ロンダードからバク転を通して魔法少女の真上を跳んだ。
赤色『……!』
りんぱな「ツル!」シュルッ
黄緑色の右腕からツルが伸びると、魔法少女の身体を翼ごと絡みつけて地面に固定した。
ロンダードで地面に手をついたときに植えていたツルも魔法少女に向けて急成長し、その身体をその場に固定する。 りんぱな「さぁ、動けないんじゃ……」
紅色「ルビィ!」
赤色『燃やすよぉ!』ブワッ
ツルの巻きついている真っ赤な翼が、突然爆発するように燃え上がる。
りんぱなが距離をとった頃には、植物であるツルは燃え尽きてその拘束を解いてしまう。
紅色「私たちにその技は効きませんよ」
りんぱな「フェニックスだね……!」
りんぱな「な、なにそれ」火の鳥だよ!」
紅色(この纏式変身は一体……)
紅色(動きが早すぎる……!)ダッ
魔法少女が翼を羽ばたかせて飛び上がると、人の動きでは不可能な高さまで仮面ライダーは飛び上ってきた。
りんぱな「よっと!」ガシッ
赤色『きゃっ……』バキッ
紅色「! ルビィ!」
黄色の左腕が赤い翼を握ると、地面に落下する前に万力の力を込めてその骨を握りつぶした。
翼の折れた魔法少女は、仮面ライダーとともに地面へ真っ逆さまに落ちていく。 紅色「づッ……!」
頭から地面に墜落した魔法少女は、折れた翼をかばいながらすぐに起き上がる。
りんぱな「……これは、2人の魔法少女が合体してるのかな?」
りんぱな「みたいだね、動きがずれてる」
りんぱな「私たちと同じ!」でも少し違うね」
仮面ライダーは身軽に地面へ降り立つと、真っ直ぐ魔法少女へ向けて走り出した。
りんぱな「「私たちの方が速い!」」
紅色「システムに頼らずとも……!」
向かってくるりんぱなに向けて、ひるがえった魔法少女は燃え盛る翼を叩きつける。
りんぱな「あつっ!」
紅色「ルビィ、まだいけますね!」
赤色『もちろん……!』 ➖➖公園
桜色「コワレヤスキ……」ザッ
ニコ「!!」ザザッ
ニコ「アイス、お願い!」
アイス「間に合って……!」サッ
桜色が薄く光る手のひらでニコのスーツに触れる前に、離れた場所にいるアイスが桜色の手の周りの温度を下げる。
桜色「づっ……!」
ニコ「あぶなかった……」フラッ
黒色『よそ見していいのかしら!』ガシッ
アイス「しまっ……」
アイス(身体に触れられた!)
足首を掴まれた瞬間、仮面ライダーの影になっている部分から白い腕が伸びてきて、スーツ越しにアイスの首を掴んだ。
アイス「っ……!」
その細い指からは考えられないような力でスーツを絞められ、満足に呼吸ができなくなる。 仮面ライダーの常識外れの運動能力は、非常に通気性の良いスーツと拡張された喉による効率の良い呼吸からきている。
つまり、呼吸ができなければ、急激に全身の二酸化炭素濃度が増加し、激しい痛みと気怠さに襲われることになる。
ニコ「ごめんっ!」
突然ニコがアイスに向かって飛びかかり、その喉を絞める指ごと首を掴み、アイスの身体を地面へ叩きつける。
アイス「が……ッ」
黒色『あぶっ』
桜色「よっちゃん!」
黒色の魔法少女の腕は、影に潜ろうとするも間に合わず、地面とライダースーツに挟まれて激しい圧力を受ける。
アイス「……ッ」
アイスはそれ相当の痛みを受けるが、魔法少女は限界値を超えるまで痛みも症状もない。 黒色『あっぶなー……』
黒色の魔法少女は他の影に乗り移り、姿を隠してしまう。
ニコ「ごめん」
アイス「いえ、あれしか方法はなかっ……」ハッ
押し倒されているアイスがニコの体を抱きかかえ、体を反転させて逆にニコを押し倒す。
ニコ「……え?」
桜色「……コワレヤスキ」ピトッ
アイス「……!」ヒヤリ
ニコ「!!!」
桜色「さようなら」ブンッ
ニコを庇って上になっているアイスの背中へ、桜色が渾身の力で岩を叩きつける。
岩と言っても、大人が両手で持てるサイズではない。公園に飾られている、子供の背丈ほどある岩である。
絵里「い゛ッッ……」ベキッ
仮面ライダーの変身が解けて、制服姿の絵里がニコの上へ倒れこむ。
背骨に沿って血が滲んでおり、身体が痙攣している。 ニコ「……!」ダキッ
絵里「ぅ……」
咄嗟に絵里を抱きかかえ、日陰がない場所まで下がる。
桜色は巨大な岩を投げ捨て、黒色の魔法少女を自分の影まで招き入れた。
黒色『あと1人!』
桜色「えぇ……また同じように影に送り込むから、抑えておいてちょうだい」
黒色『承知!』サッ
ニコ(まずいよ……ニコだけじゃ満足に戦えない)
ニコ(相手の能力をアイスの能力で防いでもらってたからなんとかなったけど……)
ニコ(というか、もう数分もすれば日が暮れる……!)
焦って周囲を見渡すと、ほとんどの影が大きく引き伸ばされている。
もうじき全範囲が影に染まる。公園以外はビルの陰になっていて日向はここにしか残っていない。 桜色「…………」ス…
ニコ「!」
桜色の魔法少女が片手を上げて、ニコは絵里を抱いたまま構えをとった。最悪、抱えたままでも蹴りくらいなら出せる。
ニコ(相手の能力……コワレヤスキを使われても、次を受けなけ)ピタッ
足元に目をやった瞬間、ニコは血の気が引いていくのを感じた。
桜色の魔法少女が伸ばした手が、
ニコ「……やば」
その影が、ニコの足元まで、届いている。
黒色『もらったわ!』ガシッ
ニコ「……っ!」
絵里を離す間もなく、仮面ライダーの身体は足元を払われることよってバランスが崩れた。
上半身まで影から出てきた黒色の魔法少女が、渾身の一撃をニコの膝に叩き込む。
ニコ「づぁ……ッ」バキッ
2回目の変身で、スーツがかなり脆くなっている。魔法少女の岩石を持ち上げる腕力で殴られると、酷使している脚のスーツは限界を迎えてしまった。 桜色「抑えてて!」バギッ
手元にあった鉄棒をへし折り、桜色の魔法少女はそれをLの字にへし曲げる。
黒色「はいっ!」ガシッ
ニコ「ちょ……ッ」
生身の絵里にコワレヤスキを使われるわけにはいかない。咄嗟に身体を丸めて絵里を守ると、当然、淡く光る手のひらがニコのマスクに乗せられた。
ニコ(頭にコワレヤスキ……!)
ニコがその場から離れようとしても、足首は黒色の魔法少女に掴まれている。
桜色「ごめんなさいっ!」ブンッ
桜色の魔法少女が両手でL字の鉄棒をフルスイングすると、鋼鉄よりも硬い仮面ライダーのマスクが音を立ててヘコみ、ニコは公園の端までとばされた。
ニコ「゛゛ッッ!」ドガッ
かろうじて絵里を抱きしめたまま、公園の端まで派手に転がる。
当然、変身は解けて、日没により全範囲が黒色の魔法少女のフィールドとなった。
にこ「……ぅ……」ガクンッ にこ(お、音が変に聞こえる……)
絵里「…」
にこ(絵里はもう気を失ってる……戦えない)
にこ(昼間から変身し続けてるから、たぶん人間としてももう立ち上がれない……)
にこ(私が仮面ライダーに変身するエネルギーも、もう残ってない……)
にこ(バイクを作る分もない……でも)
にこ(私が守らないと……!)ググ
絵里を離して立ち上がろうとすると、身体がよろめいて、殴られた方の耳の穴から血が流れてきた。
にこ「あれ゛……」ボトボト
桜色「もう無理ですよ……諦めてください」
黒色『気を失ってくれれば、私たちもあの子の回収に迎えるんだけど』
にこ「いかせない……それだけは」ザッ
耳にハンカチを当てて、壁に寄りかかりながら、なんとか立ち上がる。 ピンクのハンカチが濃い赤に染まり、それを抑える腕に熱い血がつたって、地面に赤いシミを作る。
にこ「あの子が変えられるまでは……」
にこ「わたしたちは……」パリッ
にこ「!」
桜色「?」
にこ(い、今の感覚……もしかして!)
言葉では表せない何かがにこの頭を走った。いける。戦える。動ける。守れる。
スマホを取り出し、腰に添える。
にこ「……!」ニコニ-!
黒色『え!?』
桜色「まだ変身できるの!?」
にこ「へへ……やるじゃない、穂乃果」
にこ「……変身!」バッ 桜色「よっちゃん離れて!」
黒色『……っ!』
絵里から距離をとったにこは、姿勢を正して、人差し指で桜色の魔法少女を指差した。
にこ「……あんた!」
背筋を伝って、腕を通して指先からピンクのしずくが地面に落ち、それが足元を囲って、丸い円となる。
にこを中心に花開くように花弁が伸びると、にこの両脚と、腕の先だけに花弁が張り付き、スーツへと変わった。
にこ「見覚えあると思ったけど……去年まで、音ノ木坂にいたでしょ!」
桜色「!!!」
にこ「何が何だかわからないけど……穂乃果を狙うなら、容赦はしない!」
最後に弾けるようにスーツが光沢を放つと、腕と脚だけを強化したニコは、血の付いたハンカチを地面へ投げ捨てた。
ニコ「仮面ライダー全員で、あんたらをとめる!」 aqoursのメンバーにももう少し見せ場作ってあげて欲しいな ➖➖神田明神
真姫「よし、これで……」フゥ…
希「終わった……」
穂乃果「うわわわわわ!」ブゥゥン!
手術を終えた神田明神に、騒音を立ててバイクが階段を駆け上がってくる。
真姫「!?」
希「おぉっと」キャッチ
穂乃果「だっ」ガクンッ
真姫「穂乃果……?」
希「凛ちゃんと花陽ちゃんのバイク……何があったん?」
穂乃果「そ、それより、ことりちゃんが!」
バード「…………」
穂乃果「仮面ライダーのまま意識を失っちゃって……!」 真姫「は……!?」
バードの様子を確認した2人は絶句する。ただごとではない。
片腕だけ変身し、翼は銀に光っているが、全身は青白くやつれて、顔は殴られたのかボコボコに腫れ上がり目は真っ青に血が滲んでいる。
希「ちょ、これ……」
真姫「近くの病院に……いやでも変身が解除できないと……!」
穂乃果「ど、どうしよう!」
真姫「…………」
目の前には、応急処理で胸の銃創を塞いだ少女が1人。そしてバイクには瀕死の仮面ライダーが1人。どちらも放置するわけにはいかなかった。
真姫「……ウチが病院だから、その設備を勝手に使う!」
希「えっいいの!?」
真姫「死なすよりマシよ!」
真姫「穂乃果、そのままバイクで私についてきて!」ガチャッ
真姫「バイク!」
真姫がスマホをタップして、バイクを作り出そうとした時だった。
3人の間に、激しい砂煙が舞い上がる。 希「っ……!」
青色「……鞠莉に何をした」ガシッ
希「ぐっ……」ジタバタ
希が首を掴まれ、片手でその体を宙に浮かされる。怒りで青筋の走る青色の魔法少女は、身体を震わせて鞠莉の方を見た。
真姫「……患者の名前は鞠莉ね」
青色「…………」
真姫「応急処理をした」
真姫「弾はすべて貫通してた、大きな血管は破れてなかった。血はなんとか止めたから、あとは病院なりなんなりに連れて行くか魔法少女の技で治すなりなんなり」
青色「…………」パッ
希「げほっげほっ」ガクンッ
穂乃果「の、希ちゃ……」
青色「コネクター……!」サッ
穂乃果に手を伸ばそうとした青色の魔法少女を、生身の真姫が片手で牽制する。
真姫「今、鞠莉の傷を塞いだのは私」
怒り狂った魔法少女を前にして、真姫はこめかみに汗を浮かべる。
真姫「……賢明な判断を期待するわ」 青色「…………」
青色「……今回は見逃す」
青色の魔法少女は驚くほど優しく鞠莉を抱き上げると、ゆっくりとその場を去った。
真姫「…………」
穂乃果「…………」
希「……づあ」
希「助かった……」
穂乃果「す、素手で掴まれたんだよね?」
希「ガチで死んだかと思ったわ……」
真姫「馬鹿じゃなくて助かったわ」
真姫「それより、バードをなんとかしないと、このままじゃ死ぬ」
穂乃果「!」
真姫「変身体である以上、生きているだけで相当のエネルギーを消費している」
真姫「だからといって、いま変身を解除させれば間違いなく身体を壊しただけで再生できなくて死ぬ」
真姫「ひとまず点滴をしないと」
穂乃果「わ、わかった」
真姫「バイクを出す、ついてきて」カシャッ ➖➖
赤色『お、おねいちゃん、あれ!』
紅色「!?」
翼が折れてツルで脚を拘束された魔法少女が、それを見上げて何か驚いている。
りんぱな「えっなに?」何か光ってる!」
暗くなってきた空に、赤い光の玉が打ち上げられている。
りんぱな「こんな都会の真ん中で信煙弾!?」なにそれ!?」
紅色「撤退です!」
紅色「あなたは先に行きなさい!」
赤色『で、でも!』
紅色「早く!」
赤色『ぅぅう……!』ガバッ
真っ赤な翼が淡く光って、赤色の魔法少女へと姿を変える。
魔法少女は仮面ライダーを一瞥すると、一目散にその場から駆け出した。 りんぱな「どうする?」紅色を先になんとかしないと」
りんぱな「でも様子からして、多分もう終わった」え?」
りんぱな「撤退、ってことは諦めてくれたんじゃないかな」
りんぱな「なるほど」
紅色「…………」
紅色の魔法少女は振袖を揺らすと、足元のツルを燃やし、拘束をといた。
紅色「さあ、私が相手です」
りんぱな「?」
紅色「あの子たちが逃げ切るまで……」
りんぱな「いや、穂乃果ちゃん襲わないなら」別に、もう」
紅色「……は?」
りんぱな「殺すつもりはないし……」
紅色「……危機感が無さすぎる!」タタッ
そういいつつも、魔法少女はすぐに踵を返して、赤色の魔法少女の後を追った。 りんぱな「変身」解除」
2人の声で交互に呟くと、スーツが半分に割れて、真ん中から弾けるように花陽と凛が飛び出してきた。
花陽「あうっ」ドサッ
凛「よっと」スタッ
凛「毎回思うけど……」
凛「スーツの中、どうなってるんだろうね」
花陽「さぁ……」
花陽「凛ちゃんもスーツ着てる自覚あるんでしょ?」
凛「うん」
花陽「私も全身着てる自覚あるし……なんなんだろうね」
凛「ね」
花陽「そ、それより……」
花陽「みんな、無事かな」
凛「無事だよ、きっと」
凛「迎えに行かないと」
花陽「うん」 ➖➖
少女「善子ちゃん、梨子先輩!」
ニコ「!」
少女「撤退ずら……!」ヨロッ
黒色『はっ!?』
桜色「なんで戻って……」
少女「鞠莉先輩と曜先輩が意識不明……もう戦えない!」
少女「鞠莉先輩はともかく、曜先輩は命が危ない!」
少女「助けに行かないと……!」
桜色「曜ちゃん……!」タタッ
黒色『引き時ね……』スッ
ニコ「…………」 ニコ「……ぶあっ」ドサッ
ニコ「変身解除」サァ…
にこ「はぁっ、はぁっ……」
にこ「え、絵里……」
絵里「…………」
絵里「ん……」
にこ(よかった、生きてる……)ホッ
にこ(でも、私ももう限界……)ドサッ
にこ(このまま静かに……眠りたい……) ➖➖
少女「…………」ビクンッ
マリン「ふぅ……」シャキンッ
二重変身を終えたマリンは、全身の筋肉に沿って伸びる刃はもちろん、腕の刀も生え揃い、今目の前の女の子の息の根を止めるには申し分ない状態で立ち上がった。
マリン(ここで……少し刃を添えるだけで、この子は死ぬ)
地面に転がる女の子は、真っ白な太ももから、信じられない量の真っ赤な血を流して、身体を震わせている。
マリン(ここで殺さなければ……たぶん、また、穂乃果を)
目は閉じておらず、全身から汗を吹き出しながら、じっと目を見開いていた。
マリン(魔法少女を、1人でも減らして!)
マリン(確実に、穂乃果を守るためには……!)
黒色『ぶっ殺すわよ』
マリン「!」サッ 黒色『っ!』ブンッ
マリン「が……ッ」バゴッ
地面から伸びてきた白い腕に肩を掴まれ、地面に全速で叩きつけられる。
二重変身をしたとはいえ、もともと少ない体力での変身のため防御力は普段の半分以下しかない。
マリン(次はない……!)サッ
身を翻そうとすると、目の前に桜色の魔法少女の膝が迫っていた。
マリン「……え」
桜色「コワレヤス……キ!」ドスッ
マスク越しに、強烈な圧力が加わる。仮面の下で鼻の骨にヒビが入り、脳が揺れるのを感じる。
黒色「よくもッ!」ブンッ
地面から完全に出てきた黒色の魔法少女にスーツの隙間を掴まれ、まるでぬいぐるみのように軽々と持ち上げられて、渾身の力で地面へと叩きつけられた。
マリン「゛゛……ッ!」
ただでさえ連続の変身で、水色によるダメージも蓄積していた。声にならない悲鳴をあげると、体が割れるような衝撃と共に、スーツが霧となって消え、変身が解ける。
黒色「もう一回……!」ブンッ
再び生身の身体を掴んだ魔法少女は、今度は普通の人間を、岩をも砕くその力で、コンクリートへ叩きつけた。 黒色「……死んだかしら」
音ノ木坂の制服を着た少女は、割れたコンクリートの中に沈み込み、もう痙攣すらしていない。
桜色「…………」
黒色「……梨子?」
桜色「あぁ、いや、うん」
桜色「たぶんね」
桜色「よっぽど身体を鍛えて精神が強くない限り、人間なら、たぶん」
桜色「まさか、また起き上がるなんて……ね」
少女「し、止血はできたずら……ました、けど」
2人から少し離れたところで、倒れた少女の脚に布を巻いた少女は、両手を血まみれにしてうろたえていた。
少女「急いでちゃんとした手当てをしないと、本当に死んじゃう!」 黒色「帰ろう」ダキッ
黒色の魔法少女が少女2人を抱きかかえ、その場を去る。
桜色「…………」
桜色(殺したくて殺したわけじゃない……)
桜色の魔法少女は、自分たちの殺したかもしれない人間に背を向けて、その場に立ちすくんでいた。
桜色(これ以上生きていれば、また千歌ちゃんが……だから)
脚は震えている。手汗もひどい。
桜色(だから……仕方なかった)
桜色「……ごめんなさい」
桜色の魔法少女は、最後に後ろを振り返った。
桜色「…………」
少し期待した。
実は少女は死んでいなくて、いつのまにかどこかへ走り去っていないかと。
桜色「…………」
だが、割れたコンクリートの中には、依然として、頭から血を流す少女が沈み込んでいた。
桜色「…………」ダダッ 変身描写は好き
見所のバトルが戦闘じゃなく説明になってるのが残念 >>166
文章だから仕方ないよ
それを脳内で想像するのが楽しいやん? >>169
話自体は面白いけど戦闘シーンが平坦というかただの説明になってしまってるのは実際あると思うぞ。別に変に擁護するとこでもなかろ >>170
どんなだったら平坦にならないと思う?
せっかくなら言った方が作者も直しやすいと思うし、そこがSSのいいところでは SS投下中にするもんではないしやるなら総合とか違うとこでやれよ こういうのって文章力抜きに書く側のセンスもあるからな
キャラの台詞はいい感じだから一人称視点にすればいいんじゃね ➖➖
穂乃果「それから数日、魔法少女が攻めてくることはなかった」
穂乃果「私たちは数日、これまで通りの穏やかな日々を送ることになる」
穂乃果「……けど、ことりちゃんとにこちゃんは極度の栄養失調と、全身の打撲骨折で数日入院して、今は車椅子」
穂乃果「脚の骨折が治っていないけど、なるべく学校には通いたいらしい」
穂乃果「絵里ちゃんも数日は寝込んで、普通の食事をとることはできなかったけど、なんとか文化祭の準備のため学校に戻ってきた」
穂乃果「生徒会長は、こんなときも働かないといけないみたい」
穂乃果「そして……海未ちゃんは」
穂乃果「運が悪く、同じ日にトラックに轢かれたらしくて」
穂乃果「全身、これでもかってくらい壊れちゃったらしいけど……」
穂乃果「でも、奇跡的に一命は取り留めたって」
穂乃果「しばらく入院してたんだけど、ある日突然治ったみたいで、今日から学校に来てる」
穂乃果「そして今日は、文化祭の前の日」 ➖➖学校
ヒデコ「あっ、穂乃果いたいた」
フミコ「料理の先生いなくなったら困るよー」
穂乃果「……あ、ごめん」
穂乃果「ちょっと外の空気吸いたくて」エヘヘ
ミカ「ことりちゃんがメイド喫茶の衣装仕上げてくれてるよー」
穂乃果「ほんと?」
ヒデコ「うん、怪我してるのに、助かるよほんと」
フミコ「ことりちゃん、もしかしたらウワサの魔法少女だったりしてね」
穂乃果「」ピタッ ヒデコ「あー、最近噂になってるやつ?」
フミコ「そーそー、あんな感じのふりふりの衣装着てるんでしょ?」
ミカ「でもあれ、宇宙人って説もあるんでしょ?」
フミコ「えっそうなの?」
ミカ「うん、なんか他の異星人と地球を奪い合ってる、って話もあるよ」
ヒデコ「あー、他の異星人って、仮面ライダーみたいな?」
ミカ「うん、あだ名はそうなってるけど、私が思うにあれは光学迷彩じゃないかなーって思うんだけど」
フミコ「突然出てくる科学力」
穂乃果「…………」
ヒデコ「……穂乃果?」
穂乃果「……ううん、早く、教室戻ろう」
フミコ「だね、文化祭は明日なんだから」 ➖➖
希「ねぇにこっち、あのアップデートって……」
にこ「えぇ、たぶん、穂乃果の影響ね」
希「やっぱり……」
にこ「ことりの話を聞く限りだと、あの日穂乃果は何回かに分けて『コネクター』『設定』『世界』『変えられる』ってワードを耳にしてる」
希「じゃあ、本人は気づいてなくても、意識の底では自分がコネクターであるってことを認識しだしたんかな……」
にこ「かもね」
にこ「それと、私たちが『モブ』でしかないってことも」
希「…………」 希「それに加えて、ことりちゃんが不完全な変身をした姿を見たうえで」
希「さらに」
希「変身できないけど変身しないといけない、という状況を目の当たりにして、結果、仮面ライダーシステムの『設定』を変えることになった、と……」
にこ「それが一番納得がいくわね」
にこ「体の一部だけ変身なんて、これまではなかった……」
にこ「おかげで少ないエネルギーでも少しだけ変身できるし、たぶん、二重変身も一部だけで可能になるわね」
希「うん、できそう」
にこ「ただ、まあ」
希「…………」
にこ「これ以上、魔法少女がこなければいいんだけど……」 ➖➖
穂乃果(……また抜け出してきちゃった)
穂乃果(なんだか、楽しむ気分になれないや)
穂乃果「…………」
穂乃果(あの日、私が変身していれば)
穂乃果(結果は、もっと変わってたのかな……)
絵里「ほーのか」ピトッ
穂乃果「つめたっ」ビクッ
絵里「冷え性だからね」
穂乃果「うおぉ、絵里ちゃん……」
絵里「お疲れ」
穂乃果「うん。絵里ちゃんこそ」
絵里「また何か変なこと考えてたでしょ」
穂乃果「うっ」ギク
絵里「……私、個人としては」
絵里「別に、変身してもいいと思うんだけどね」
穂乃果「え?」 絵里「理由よ」
穂乃果「?」
絵里「例えば、ちょっときになる、とか、面白そう、とか。そういう理由だとやめてほしいけど」
絵里「どうしても、自分1人の力じゃどうにもできなくて、助けも期待できなくて、変身すればなんとかなる」
絵里「ちゃんとした理由があるなら、私はいいと思うんだけどね」
穂乃果「理由……」
絵里「もちろん、それでどうなるかは『設定』上、私には言えない」
穂乃果「その『設定』って……」
絵里「きまりよ」
絵里「あなただけが認識できない、この世界のきまり」 穂乃果「どういうこと……」
絵里「だっておかしいと思わないの?」
絵里「女の子がフリフリの衣装を着たからって、全身の痛覚を遮断して、運動神経が抜群になったり」
絵里「スマホで変身して、筋肉と骨で出来てるスーツを作れることだったり」
絵里「あまつさえ、魔法まで使う」
穂乃果「そ、それは」
絵里「のぞき穴よ」
穂乃果「のぞき穴……?」
絵里「何も変哲のないつまらない世界は『つくる世界』から見られることもない」
絵里「今の私たちは、普通はありえない『仮面ライダー』と『魔法少女』に変身することで、見られている」
絵里「私たちは見られないと存在できないし、そしてみんなが幸せになる『設定』に変えられるまで、耐え続けるのが私たちの役割」
穂乃果「ね、ねぇ、わかるように言ってよ……」
穂乃果「わたし、何が何だか」
絵里「それを説明すれば、この世界はなりたたなくなる」
絵里「言えないの……全部は」
穂乃果「…………」 ➖➖
穂乃果「理由……」テクテク
穂乃果(理由があれば、わたしも、変身できる……)
凛「あっ、ほーのかせんぱーい!」タッタッ
穂乃果「あれ、凛ちゃん」
花陽「この姿だとお久しぶりです」
穂乃果「久しぶり……入学式以来だっけ」
花陽「ですね、廃校が決まった知らせを聞いた時……」
穂乃果「あぁ……」 穂乃果「ねぇ、この姿だと、ってことは、やっぱり昨日の」
凛「そうですよ!」ビシッ
花陽「私たちも仮面ライダーです」スッ
穂乃果「その、スマホ……」
穂乃果「昨日の仮面ライダーは、花陽ちゃんだったんだ?」
凛「凛もだよ!」
穂乃果「?」
花陽「私、半分しか仮面ライダーになれる力がないんです」
花陽「だから、2人合わせて、1人の仮面ライダーです」
穂乃果「な、なるほど……」
穂乃果(だから声も2人分聞こえてたんだ……) 穂乃果「2人も仮面ライダーってことは、いろいろ……知ってるの?」
花陽「いろいろ、ですか」
凛「?」
花陽「わたしはなんとなく把握してますが、凛ちゃんは理解しようとしませんね」
凛「難しいこと聞いてもわかんにゃーい」
穂乃果「あはは……」
花陽「でも、それを知ったところで、私には待つことと維持することしかできません」
穂乃果「花陽ちゃんは……どうして、変身するの?」
花陽「『変えられる』権利を、ただ穂乃果先輩の元に維持し続ける」
花陽「それが私たちの戦う理由です」
穂乃果「そっか、ありがとう」 花陽「強いて」
穂乃果「!」
花陽「強いて伝えるなら……」
花陽「私たちが存在するために用意されている時間はこの一年間だけです」
穂乃果「……え?」
花陽「それが終わりを迎えれば、一部の記録……記憶はなくなって、また一から」
花陽「今の穂乃果先輩は……」
花陽「……私が言っていいのはここまでかな」
穂乃果「……そっか」
「花陽ちゃーん、こっち手伝ってー!」
花陽「はーい!」
花陽「……じゃ、そろそろ行きますね」
穂乃果「うん、また」 穂乃果「凛ちゃんは、さ」
凛「はい!」
穂乃果「なんで変身するの?」
凛「そりゃ、穂乃果先輩を守るため!」
凛「変身して先輩にあったのは昨日が初めてだけど、実は前から戦ってたんですよ!」
凛「この間は穂乃果先輩の家の近くの道路壊しちゃったけど……」
穂乃果「!」
〜〜
『……あれ?』ピタ
『こんなところに……ヒビなんてあったっけ?』
『亀裂が入ってる……』
『何があったんだろ……』
〜〜
穂乃果(あの時の亀裂……りんぱなが戦ってくれた跡だったんだ) 凛「……って、穂乃果先輩を守るのも大事だけど」
穂乃果「だけど?」
凛「かよちんがその理由で戦わなきゃいけないなら、凛はそのかよちんも守りたい」
凛「守るためには、かよちんと一緒に変身して、戦うしかない」
凛「そのためには、穂乃果先輩も守らなきゃいけない」
凛「……それが凛の理由かな」
穂乃果「えと、そのために、ってのは……」
凛「……これは、凛だけが知ってる『設定』なのかもしれないけど」
穂乃果「…………」ゴクリ
凛「穂乃果先輩の『設定』の中の1つに、先輩がもつ生体磁場が周りの電子機器……特にスマホに影響を及ぼして、ただのスマホから変身ベルトに変えるってのがある」
穂乃果「私が……変身ベルトをつくってる?」
凛「うん、そして、この『設定』をもつのは先輩だけじゃない、コネクターに選ばれる権利を持つ魔法少女側の人にもそれがいる」
凛「そっちは、変身ベルトとはちょっと違うだろうけど」
凛「つまり、私たちが変身するためには、穂乃果先輩が近くにい続けることが必要」
凛「そして変身するのは、穂乃果先輩を近くに居続けさせるため」
凛「……いやな設定だよね」 穂乃果「…………」
凛「……って、今のは忘れてくれると嬉しいにゃ!」
凛「(たぶんこれを伝えるのは、ほんとの凛の『設定』じゃない)」ボソ…
穂乃果「…………」コクリ
凛「キャラ崩壊ってやつかも!」
凛「あはは、ごめんなさい先輩、また!」タタッ
穂乃果「うん、また」
穂乃果「……凛ちゃん、花陽ちゃん、ありがとう」 ➖➖放課後
穂乃果(少しづつわかってきた、仮面ライダーのこと、私のこと、この世界のこと)
穂乃果(たぶん、私たちをみている何かがいるんだ)
穂乃果(そして、私たちはたぶん……この一年を繰り返してる、その時間しか『設定』がないから……)
穂乃果(私が思ってた普通の世界とは違うんだ)
穂乃果(ここは、作られる世界……)
海未「穂乃果」
穂乃果「!」ビクッ
海未「一緒に帰りませんか」
穂乃果「……うん」
穂乃果「雨が降ってるね」
穂乃果「傘忘れちゃった」
海未「一緒に入りましょう」バサッ
穂乃果「うん」 穂乃果「海未ちゃんさ」テクテク
海未「はい」テクテク
穂乃果「もう身体大丈夫なの?」
海未「はい、万全です」
穂乃果「トラックに轢かれたのに?」
海未「はい」
海未「鍛えてますので」
穂乃果「すごいね」
穂乃果「ところでさ」
穂乃果「海未ちゃんって、仮面ライダーの噂知ってる?」
海未「なんとなく」
穂乃果「前にことりちゃんが仮面ライダーだ、って話したじゃん」
穂乃果「あれ信じてる?」
海未「穂乃果のノリに、ことりが合わせただけだと思っています」
穂乃果「そっか」 海未「私は」
穂乃果「うん」
海未「もし仮面ライダーになれたとして」
海未「悪い人たちから誰かを守ることができるてして」
海未「その誰かがすごく大切な人だとしても」
海未「周りに止められて、それをすることで何か大変なことが起きてしまうかもしれないなら」
海未「自分からそうしようとは思いません」
穂乃果「…………」
海未「だって私たちは、まだ子供なのです」
穂乃果「……うん」
海未「それをしなければならない人がいる」
海未「なら、その人たちに任せればいいじゃないですか」
海未「……あなたが無理をして、変わる必要は、ありません」 ➖➖次の日
ワイワイガヤガヤ
穂乃果「海未ちゃん、ことりちゃん、お店回ろうよ!」
ことり「いいねー」ジャコジャコ
ことり「私車椅子だけど……」
海未「私が押しますよ」
ことり「ありがとう」
穂乃果「じゃ、いこっか!」 海未「他校の生徒はあまりいませんね」
穂乃果「そりゃーねー、国立の文化祭なんてそんなに珍しいものもないし……」
穂乃果「廃校するようなトコだしね」
ことり「まあね……」
穂乃果「でもことりちゃんが怪我してなかったらメイド姿みたい気持ちもあったなー!」
海未「似合いそうですよね」
ことり「そうかなぁ」
穂乃果「ところでさ!」
穂乃果「1年生の教室にお化け屋敷があって、凛ちゃんと花陽ちゃんがいるらしいから……」
行ってみようよ、と言いかけた穂乃果の口は、目の前の同級生の顔にひきつけられ、固まってしまった。 穂乃果「……あれ?」
その少女は、音ノ木坂の制服を着ている。
穂乃果「もしかして!」
リボンは2年生の色。
穂乃果「ねぇ、久しぶり!」
その少女は、嬉しそうにはしゃぐ穂乃果とは対照的に、こちらに身体を向けてじっと3人を見据えている。
穂乃果「ほら、一年生の終わりに転校しちゃった……」
ことりと海未は、嫌な予感を感じた。
予想は外れてほしい。
だがマリンに変身できる少女は、気を失う寸前に捉えた、桜色の魔法少女を思い出さずにはいられなかった。
穂乃果「桜内梨子ちゃん!」
穂乃果「久しぶり!」
穂乃果が駆け寄ろうとすると、少女はポツリと呟いた。
梨子「……変身」
穂乃果「え」
……なんで、その言葉、あなたが使うの、穂乃果は混乱して、動けなくなって、
ことり「海未ちゃん!」ギュッ
海未「!」ダッ
ことりが穂乃果を抱き寄せ、海未が車椅子を全力でバックさせる。
穂乃果が状況を飲み込めずにパニックになっていると、目の前の梨子は桜色の淡い光に包まれ、着ていた制服は魔法少女の衣装へと変化した。 廊下がざわめく。
「え、劇……?」
「廊下でやるの斬新」
「いま衣装変わらなかった……?」
「早着替えにしてはおかしくない?」
ことり「海未ちゃん、走って!」
海未「わ、わかってます!」ダダッ
ことりはスマホを取り出そうとして、血の気が引くのを感じた。
ことり「……ない」
穂乃果「え?」
ことり「スマホがない!」
穂乃果「あ、私のもない!」
海未「!?」 黒色『仮面ライダーは魔法少女と違って変身に触媒が必要……つまり!』バッ
黒色「それさえおさえればただの非力な少女よ……!」
桜内「思ったより早く見つけられたわね……果南さんに連絡しておいて」
黒色『了解!』
ことりと穂乃果がスマホを盗まれたことに気がついたときには、既に廊下の端まで来ていた。
海未「しまっ……階段が降りられません!」
穂乃果「私がことりちゃんをかかえるから……」
ことり「穂乃果ちゃんは先に行って!」
穂乃果「でも!」
ことり「……希ちゃんを呼んできて!」
穂乃果「!」
穂乃果「わかった!」タッタッ 海未「さて、では……」
ことり「海未ちゃんも、先に逃げて」
海未「ですが」
ことり「考えがある」
ことり「海未ちゃんは、スカートのポッケ、いつもファスナー閉めてるよね」
海未「は、はい」
海未「ですから、スマホは盗まれて……」ハッ
海未「まさか!」
ことり「そのまさかだよ、これしかない」
ことり「海未ちゃんはまだ仮面ライダーだってバらしてない……なら、穂乃果ちゃんのそばについていてあげて!」
海未「…………」スゥ
一度、深呼吸をして、海未は悩んだ。いまのことりは変身できるのか。たぶん可能だ。少なくとも自分よりは血も戻ってきている。
それに対して、海未はまだ完全に変身できるほど体力が戻っていない。なら、ここはことりに任せた方が確実に魔法少女を止められる。
海未「任せます」パシッ
ことり「ありがとう」ギュッ
海未「スマホを取り返したら、すぐに私も変身します」
ことり「わかった、そのときは届ける」
海未はスマホを預けると、階段を飛び降りて穂乃果の後を追った。
ここに魔法少女がいるということは、ほぼ間違いなく他の階にも魔法少女はいる。
海未(もしものときは、生身でも……!) ことり「…………」
残されたことりは、異様な雰囲気に集まってきた他の生徒の注目を受けながら、魔法少女と対峙していた。
ことり「ここじゃ派手な動きはできないでしょ」
桜色「あなたに至っては、変身もできないはず」
ことり「私の能力は記憶操作、5分くらいならいくらでも消せる」
ことり「つまり変身しても問題ない」
ことり「そしてたぶん……黒色の魔法少女は、いまは別の場所にいるんでしょ?」
桜色「!」
カマをかけた。
ことり(ビンゴ……相手はいま1人!) ことり「じゃ、私とあなた、どっちが強いか力比べしよっか」マリン!
桜内「……!」ダッ
ことり「変身!」バッ
ことりが痛む足を無理やり起こすと、車椅子の金属のフレームがパチパチと音を立てて歪んだ。
ことりの背筋から濃い青の霧が溢れてきて、それがことりの全身を素早く包む。
桜色が距離をとると、周りは現実離れした光景に騒然とし始めた。
ことり「今日の私は……」
霧が肌に密着すると、すぐに蒼い光沢を放つスーツとなり、その両腕から刀が二本伸びてきた。
マリン「仮面ライダー、マリンだ!」
マリン「みんな、こっち見てて!」
桜色が攻撃を仕掛けてくる前に、マリンはマスクの複眼を発光させて、周囲の目線を奪った。
これでことりが変身している記憶は消せる。
桜色「青のライダーの正体は南ことり……!」タタッ ➖➖校舎裏
黒色「さて」スッ
黄色「あ、とってこれたんだ」
赤色「どう?」
善子「試してみる」スッ
黒色の魔法少女が一旦変身を解いて、奪ったスマホを腰に当ててみる。
善子「おぉ、おお」
イヤホンジャックから細いベルトのようなものが伸びて、善子の腰の周りをぐるりと囲む。
黄色「あ、別に誰でもでも変身でき……」
善子「いっっ!」ビクッ
善子が急に悲鳴をあげて、その場に倒れこむ。腰のあたりから血がにじみ出ている。 赤色「善子ちゃん!?」
善子「いづ……いった!」
スマホから嫌な音がなり、ベルトが緩んでその場で解けた。
地面に落ちたスマホには、善子の血がべっとりと付いている。
黄色「うわぁ……」
善子「ちょ、痛い、マジで痛い……変身!」
善子は腰のあたりを抑えながら変身すると、すぐに傷を回復させた。
赤色「よかったね、変身で傷が治る仕組みで……」
黄色「今どのへんから血が出てたの?」
黒色「いや、血が出てたっていうか……そのベルトから針が飛び出してきたっていうか……」
黄色「針!」
黒色「たぶん恥骨くらいまで貫通してたわ……」
赤色「それは盛ってる」
黄色「盛ってる」
黒色「盛ってない!」 赤色「えと、こっちのスマホは変身ベルトだったけど」
赤色「もう1つの方は?」ヒョイ
黒色「そ、それが……」
黒色「影になってる部分からとっさにスカートのポケットに手突っ込んだだけだから、もしかしたらライダーじゃない人のスマホも持ってきてるかも……」
黄色「ありゃりゃ」
黄色「じゃ、変身したところ悪いけど、もう一回つけてもらえる?」
黒色「いやよあんなに痛いの!」
赤色「じゃあほら、ジャンケン!」
赤色「ジャンケンで決めよ!」
黄色「賛成ずら」
黒色「それなら、まあ」
赤色「はい、じゃーんけーん……」
…
……
……… 黒色「いやいやいやいや!」ジタバタ
黄色「負けたもんは仕方ないずら」
赤色「はい、せーの」
黒色「ちょ、ま、心の準備が……!」
暴れる黒色の魔法少女を抑えたまま、2人がかりでもう1つのスマホを腰に押し付けるが、何も起こる気配はない。
赤色「……はずれかな?」
黒色「当たりよ!」
青色「何してんのさ、3人とも」スタッ
赤色「あっ、果南さん」
赤色「ちょっと変身解いて貰えますか」
果南「はい」
赤色「これ、腰につけてみてください」
黒色「あんた中々鬼畜ね……」
果南「何も起こんないけど」ピト
赤色「じゃあハズレだね」
果南「?」 果南「で、今は」パァッ
青色「仮面ライダーを捕捉できてるの?」
黒色「えぇ、二階廊下で梨子がたぶん……」
黒色「三階の生徒会室には鞠莉が向かったわ」
青色「わかった」
青色「にしても、梨子がアイスとニコの顔を確認してくれてよかった」
黄色「だね」
青色「おかげで、1人は生徒会長だってわかったし、もう1人も……」
にこ「…………」グッタリ
青色「変身前に捕まえられた」 黒色「ヤるの?」
青色「いや、さすがに普通の人の可能性もあるから、まだ生かしとく」
黄色「スマホはもってなかった?」
赤色「んー……」ガサゴソ
赤色「あった!」
黄色「これで2つ」
青色「変身ベルト……盗れたんだね」
青色「じゃ、これは……」
改めて確認しておくと、仮面ライダー側に飛行能力があるのはもちろんバードのみ、そして単純な格闘戦だけで最も戦えるのは、ニコニーだった。
青色の魔法少女はバードとニコニーのスマホを受け取ると、両手でそれを持って、
青色「はい」パキッ
変身ベルトは、あっけなく粉々に砕ける。
青色「これで、仮面ライダーは2人減った」 ➖➖三階 生徒会室
絵里「ふぅ……」パタン
一方、まだ騒ぎを知らない絵里は、一旦荷物を置きに生徒会室へ来ていた。
紫色「お久しぶり」
絵里「!」バッ
紫色「おっと、暴れないでよ……今あなたの後ろにある扉の外には、別の魔法少女がいる」
絵里「…………」
絵里(紫色……たしか、真姫の射撃を真似た魔法少女……)
紫色「あなたの温度を下げる能力は仮面ライダーの中でもトップクラス、そしてこちらの水を操る力も防がれてしまう」
紫色「私の能力は把握してるはずだから……わざわざあなたと私がここにいる理由、わかるわよね?」
絵里(……私の能力を使わせないため!) ティアラ『お困りのようね?』
紫色「!?」
絵里「えぇ、だいぶお困りね」
ティアラ『ちょっとまってなさい』
突然、2人しかいない部屋の中でティアラの声が響く。
紫色が慌てて辺りを見渡すが、窓の外にも誰もない。
紫色「!」サッ
天井のあたりが一瞬光ったのをみて、紫色の魔法少女は咄嗟にしゃがみ込むが、左肩のあたりに弾がぶつかる。
紫色「……!」
ティアラ『言ったでしょ?』
ティアラ『たとえ、壁があろうと離れてようと見えずとも』
ティアラ『命中率100%だって』 絵里「じゃ、私はこれで」
絵里「テロリストが来たんじゃ、文化祭を中断してでも生徒を避難させないと」
紫色「まっ……」ガキィンッ
追いかけようとする魔法少女に、また見えない空間から狙撃が繰り出される。
紫色「……!」
絵里「あと、ひとついいかしら」
絵里が扉を開ける。
絵里「ハッタリをかけるなら、もうちょっと説得力を持たせるべきね」
扉の外には誰もいない。
紫色「……っ」
絵里「人の気配がしなかったわ、せめてぬいぐるみを置くとかすればよかったわね」
絵里「じゃ」 <バタン……
絵里「…………」
絵里「はぁっ、はぁっ……!」
絵里(死ぬかと思った……!)
絵里(あの状況で飛びかかられたらなす術もなく死んでた……!)
絵里(ひとまず、生徒を避難させないと……)
ティアラ『聞こえる?』
絵里「えぇ……」
何もない空間から、ティアラの声が響く。彼女の力は明らかに戦闘向きではなかったが、これで仮面ライダーティアラは100%の狙撃の命中率を可能にしている。
ティアラ『今、校舎裏に魔法少女が4人……黄、赤、青、黒』
ティアラ『それから、にこちゃんが気を失ってる』
絵里「え!?」
ティアラ『それとたぶん……バードとニコニーのベルトが壊された』
絵里「…………」 ティアラ『状況は絶望的よ』
ティアラ『ひとまず私たち一年生は穂乃果を追う』
絵里「わかった、生徒は校庭に集めたあと先生に任せる、子供にできることはほとんどないわ」
ティアラ『そうね、生徒会長であるあなたは避難させて誘導まですれば十分よ』
ティアラ『また声かけるわ』
絵里「了解」
絵里「……さて」
絵里(まずは三階放送室へ)
絵里(テロリスト……は言い過ぎね、刃物を持った不審者くらいにしましょう)
絵里(荷物はそのままで校庭に集まるよう指示すれば、先生が勝手になんとかしてくれるはず)
絵里(そのあとで変身ね……)
絵里「声が変わるなんてめんどくさい仕様がなければ、今すぐにでも変身するのに!」タッタッ ➖➖一階廊下
『現在、校舎3階に刃物を持った不審者が浸入しています。生徒の皆さんと、観覧にお越しになった保護者の皆様は、落ち着いて校舎から……』
穂乃果「ぅ絵里ちゃん!?」
海未「三階にも……!」
穂乃果「ってことは、二階だけじゃない!」
海未「みたいですね……あれ、なんなんですか」
穂乃果「魔法少女だよ……っというか、ことりちゃんは!?」
海未「っ……」
今すぐ助けに戻りたいのを、唇を噛み切る思いで堪えて、海未は静かに叫ぶ。
海未「……私に見られたらまずいと、スマホを取り出していましたっ!」
穂乃果「……!」
穂乃果(変身したんだ……脚が完治してないのに!)
穂乃果(変身で回復すればいいけど……) 希「穂乃果ちゃん!」タッタッ
穂乃果「!」
海未「こ、ことりが、うえに!」
穂乃果「あっ、えとっ、スマホがとられてて……!」
穂乃果(……あれ、じゃあ、ことりちゃん、今は変身できてないんじゃ)
置いてきたことりは、何故かバードに変身できるものだと考えていた。
穂乃果「…………」ドクンッ
スマホがなければ、ことりはことりのままだ。この間のボロボロのバードを思い出す。
仮面ライダーですらああなった。
穂乃果「…………」タッ
穂乃果は駆け出していた。
希「穂乃果ちゃん!」
海未「追います!」
海未「希は生徒を早く避難させて絵里が動けるようにしてください!」
希「ま、任せて!」 穂乃果「ことりちゃん!」
2階に駆け上がった穂乃果は、一瞬自分の目を疑った。
マリン「……っ!」
桜色「動きが噂と違うわね……!」ガシッ
仮面ライダーバードではなく、仮面ライダーマリンが、桜色に押し負けている。
マリン「ほのかちゃん……!?」
首を掴まれたマリンが、穂乃果の姿を捉えた途端に力を取り戻し、桜色の魔法少女ごと自分の頭を窓ガラスに突っ込む。
桜色「……っ」
割れたガラスが中庭に散乱し、破片に焦った桜色は手を離す。
マリン「へへ、実は私、スマホ2個もってて」
マリン「マリンも私なんだよ!」
穂乃果「そ、そうだったんだ……」 桜色「そっちから来てくれるなんてね!」タタッ
当然、仮面ライダーがいようと、魔法少女は穂乃果を狙う。
穂乃果さえ連れて帰れば彼女らの目的は達成されるのだ。
マリン「しまっ……」
海未「身体を丸めて!」ダッ
飛びかかってくる桜色に向かって海未が走り出し、穂乃果を抱きかかえながら身を屈ませて廊下を滑る。
桜色の伸ばした手がしゃがんでいく海未の頬を撫で、切り傷を作りながらそれは宙をつかむ。
桜色「!?」
穂乃果と共に廊下を滑って桜色の下を潜り抜けた海未は、転がるようにして立ち上がり、穂乃果を抱えて廊下の端へと駆け出す。
穂乃果「!?」
海未「飛びますよ……!」タッタッ
どこからか銃弾のような勢いで弾が飛んできて、廊下の突き当たりの窓ガラスにヒビを入れる。
穂乃果「……!」ギュッ
海未「……っ!」
海未はガラスの縁に脚をかけると、身を屈ませながら頭でガラスを割って、窓の外へ飛び出した。 海未「受け止めてくださいっ!」
ティアラ「あぶ……っ」ダキッ
飛び出した2人を、地面に落ちる前にティアラが抱きとめて、なんとか地面へ着地する。
穂乃果「…………」
急な高低差に、穂乃果は身体がついていかず唖然としている。
ティアラ「……たまたま仮面ライダーの私が通りかかってよかった」
海未「……はい」
ティアラ「ここは危ないから、早く外に」
赤色「あれぇ?」
黄色「こんなところに……」
黒色『昼真で影が少ないのが癪だけど』
青色「仮面ライダーは1人か」
海未「……!」
ティアラ「……まずいわね」 ティアラ「早く逃げ……」
黄色「られると思います……?」スッ…
振り返ろうとする前に、マスク越しにでもわかる柔らかい手のひらがティアラの頬を撫でた。
急に距離を詰めてきた黄色の魔法少女に戸惑うとーーすぐに体の両側を他の魔法少女に詰められる。
ティアラ「!」
青色「この銃みたいなの壊せば!」ガシッ
赤色「火薬ならバクハツするはず……!」ボッ
赤と青の2人が、ティアラの両腕の発射口を狙う。
ティアラの狙撃の動力は火薬ではなく筋肉なので、赤色の炎は多少熱いだけですんだが、
ティアラ「いっ……」
力技で潰された左側は砲身を壊れてしまった。
黒色「このままっ!」
地面から生えてきた黒色の魔法少女がティアラのマントを掴み、地面に引き寄せようとすると、
凛「そこまでだっ!」ブンッ
黒色「あでッ」ゴンッ
黒色の魔法少女の頭に、重たい砲丸がカチ当たる。 青色「!?」
花陽「凛ちゃん、いくよ!」リンパナ!
穂乃果と海未を背に、花陽がベルトを起動する。
凛「りょうかい!」サッ
2人が両手を繋いで背中合わせになると、ベルトが2人の身体を結びつけ、背中の合わせ目から上に向けて双葉が伸びてくる。
花陽・凛「「変身!!」」
双葉が大きくなり2人を閉じ込めると、さらにその隙間からツルが伸びてきて、凛と花陽は元の形がわからなくなるほど何重にも巻きつけられる。
穂乃果「……!」
その隙間から光沢のスーツを身につけた腕が伸びてきたかと思うと、ツルを突き破って、黄色と黄緑色の仮面ライダーが飛び出してきた。
りんぱな「「仮面ライダー、りんぱなだ!」」 青色「いま!」
変身したてを狙って、黒色と青色の2人が両側から攻める。
りんぱな「「左を!」右を!」
が、りんぱなは動揺することはなく、その場から一歩も動かずに、左腕は黒色の手首を掴み、右腕は変身に使ったツルを使って青色の身体を素早く巻きつけ、次の瞬間には2人の魔法少女はお互いに硬い頭を激突させていた。
黒色「……ッ」
青色「……っルビィ!」
赤色「はいっ!」ボオッ
りんぱな「「3人は逃げて!」」
ティアラ「わかった、任せる!」
穂乃果「え、でも」
ティアラ「万全のりんぱな相手だと4人でも敵わないわよ……」
ティアラ「それに、私は接近戦だと足手まといになるから、離れた場所から援護する」
ティアラ「2人は他の生徒と一緒に避難して」
海未「わかりました」
穂乃果「わ……わかった!」 りんぱな「「さあ」おいで!」
青色「どういうことなの……!」
黄色「2人が1人の仮面ライダーに……!」
赤色「私とおねいちゃんが戦ったやつ!」
赤色は紅色と違って、出せるのはせいぜい火の玉程度。
その身体能力を除けば、血縁関係にある魔法少女の体の一部になれることくらいしか変わった力はない。
赤色「でも、私だって!」タッ
りんぱな「「!」」
小走りに向かってくる赤色の魔法少女に、距離を詰めて殴りかかる。
魔法少女は不器用に転がってそれを交わすと、背中に火の玉を押し当てた。
りんぱな「あつっ!」
赤色「いま!」
黄色「!」
りんぱなが動揺した瞬間を狙って、黄色が仮面ライダーとの空間を無視して距離を詰める。
りんぱな(ワープするの……!?)
首を捻られそうになった仮面ライダーはその場で宙返りをして、赤色の魔法少女と黄色の魔法少女をぶつける。
赤色「だっ」ベタッ
黄色「っ……ルビィちゃん!」
赤色「へーき!」 りんぱな(体制を直さないと、凛ちゃんがうまく動けない……!)
りんぱな(かよちんに合わせるよ!)
りんぱな(……わかった!)
間髪いれずに向かってくる青色の魔法少女に、マスクの端を殴られながら後ろに飛び下がり、すぐに植えておいたツルで青色の魔法少女を拘束する。
青色「!」
りんぱな(次に赤色を抑える!)
倒れたままの赤色に左腕が掴みかかろうとすると、黄色の魔法少女がそれをかばって現れる。
黄色「ルビィちゃ……!」
すぐに黄色に目線を移し、魔法の膜がないのことがわかっている部分を狙う。
りんぱな(目を狙って!)
水族館の外での狙撃でわかったことがある。口の中に魔法の膜がない。
つまり、相手を生き物として仮定するなら、防御が薄いのは粘膜だ。
黄色「゛゛ッ!?」
予想通り、他の肌とは違い簡単に指が貫通する。 りんぱなの中の花陽は、伝わってくる人間の体内の感触に心が折れそうになるが、凛はその花陽を支えるために必死で耐える。
りんぱな「ぐぬああ!」ブンッ
黄色「゛゛〜〜〜〜ッ」
頭蓋骨に指を引っ掛けられ壁に叩きつけられた黄色の魔法少女は、さすがに痛みに堪えきれず変身を解除する。
光に包まれるうちに身体が再構成されて、目玉が新しくつくられる。
花丸「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」ゾワァッ
花丸「っ……おぇぇ……」
変身の解除で痛みは和らぐものの、身体に残る貫かれた感覚が花丸の背筋を凍らせる。
立ち上がろうにも、腕と脚に力が入らない。 黒色「おい」ガシッ
影から出てきた黒色の魔法少女が、息をつこうとしたりんぱなの頭をつかむ。
りんぱな「「!」」
不意をつかれたりんぱなは、襲ってきた衝撃がトラックの衝突なのか魔法少女の蹴りなのか、一瞬判断がつかなかった。
校舎の壁にヒビを入れて叩きつけられる仮面ライダーは、立ち上がる間もなくマスクの複眼を爪先で蹴り倒される。
黒色「殺す!」
赤色「ばっ……善子ちゃんさがって!」
魔法少女との差で忘れがちになるが、仮面ライダーも普通に比べればそのスーツでほとんどの痛みを軽減できている。
りんぱなは黒色の魔法少女の白い脚をつかむと、細い太ももに向けて渾身の膝蹴りを放った。
黒色「……ッ」
すぐに下がろうとするも、掴まれた脚は言うことを聞かず、そのままひなたに向けて放り投げられる。
赤色「善子ちゃん!」
青色「近くに行って影を作って!」ダッ
赤色「わかった!」タタッ りんぱな「「……!」」
飛びかかってくる青色の魔法少女の蹴りを避けきれず、視界が揺れるのをかろうじて確認しながら、りんぱなはガラスを突き破って室内に放り込まれる。
避難している生徒たちの中に、受身の取れない仮面ライダーが転がり込む。悲鳴が上がって、凛と花陽の身体はこめかみに汗を浮かべた。
青色「さぁ、ここだとあんたらでも動けないはず」
ティアラ『いまのあなたもね』
どこからか別の仮面ライダーの声がする。
ティアラ『動きを止めなければ、外で倒れてる女の子を撃つ』
青色「…………」
まだ花丸は変身できない。撃たれたら人間として死ぬ。
ティアラ『さぁ、そのまま手を挙げ……えっ』
急に声が途絶える。
りんぱな「「ティアラ!!」」
青色(でかした、ダイヤか鞠莉だ!)ダッ りんぱな「しまっ……!」
生徒に向けて駆け出した青色の魔法少女は、顔も確認せずに近くにいた生徒の1人の首をつかんだ。
りんぱな「「!!」」
青色「動かないで」
「…………」
青色「動いたらこの子の首をへし折る」
「……へぇ?」
りんぱな「「……できるならね」」
青色「え?」
希「どうぞ、やってみて?」
手元を見た魔法少女は、自分が捕まえた生徒が、この間の神田明神で同じように首をつかんだ少女であることに気づく。
青色「コイツ……!」バッ
希「変身するよ!」カシャンッ りんぱな「「ここは任せた!」」
希「かしこまり!」
青色が距離をとると、希は大げさにポーズを決めた。
希「さあいくぞ!」トリック!
他の生徒が見ている中、背筋あたりを通して、希の前と後ろを挟むように人型のブロックが組み立てられていく。
水道の蛇口がビリビリと震え、希の足元にアナログ時計の長針と短針のような筋が現れると、それが前後のブロックをつなぎ、希の元へブロックを引き寄せた。
希「変身!」
ブロックが希を挟んだかと思うと、それは紫の光沢を放つスーツへと変わり、足元の長針と短針は両脚にぺたりと張り付き白いラインとなった。
トリック「ウチの名前はトリックかぁ……おあつらえ向きだね!」
青色「どうでもいい!」バッ
青色の魔法少女が殴りかかろうとすると、急に目の前にバケツが現れて、魔法少女は視界を失った。
青色「!?」
トリック「誰か、使ってない髪止め持ってない?」
逃げるにも道がふさがって逃げられない生徒の中に、トリックが声をかける。
ヒデコ「こ、これでよければ……」
トリック「ありがと、ちょっとかりるね」 青色「あっ!?」
生徒たちから見れば、さっきから不自然に動いたり固まったりしている魔法少女が、固まるたびに仮面ライダーに全身を拘束されているようにしかみえない。
トリック「お化け屋敷に使ったカーテンと机持ってきて!」
ミカ「は、はい!」
トリック「あとはガムテープでも巻いとこか……」
魔法少女はなすすべもなく両腕と脚を後ろで結びつけられると、釣り糸とカーテンで簀巻きにされ、その上にパズルのように脚の絡んだ机を並べられた。
トリック「よしっ、これでしばらくは動けんはず!」
フミコ「と、東條先輩……」
ヒデコ「あなたたちは、いったい……」
トリック「あー……え、えっとね、じつは、ウチら……」
希はうまい言い訳が思い浮かばず、昨日見た映画のセリフを思い出した。
トリック「こ、公安直属特殊部隊!」
ミカ「特殊部隊?」
トリック「……そ! ってわけで、避難しよ、避難!」 ➖➖屋上
ティアラ「くっ……」
紫色「また会えたわね」
紫色の魔法少女がティアラの上に馬乗りになって、お互いに指先と銃口を向けあっている。
紫色「あのときはありがとう。なにやら助けられたみたいね」
ティアラ「私は……いつか医者になる」
ティアラ「人は殺さない」
紫色「魔法少女でも、敵でも?」
ティアラ「……もちろんよ」
紫色「……そう」
紫色「命を拾ってくれたこと、感謝してるわ」
紫色「……でも」
魔法少女の指先が、マスクの眉間のあたりに突きつけられる。
紫色「覚悟が足りないわ」 ティアラ「……!」バスッバスッ
紫色「……だから、この距離だと私には当たらないってば」
紫色「今日はあのもう1人の仮面ライダーもいない」
ティアラ「……それは、どうかしら」
紫色「!」
金属が軋むような音がして、魔法少女は振り返る。
給水塔が崩れ落ちてきている。
紫色「なるほど!」サッ
ティアラ「!」ガバッ
2人が飛び起きると、すぐ隣に巨大な貯水タンクが悲鳴をあげて落ちてきた。
大量の水が溢れ出して、2人は頭からびしょ濡れになる。
お互いが左腕で相手の右腕を抑え、弾を打たせないように万力の力を込めて動きを封じる。
紫色「……今アイスに来られると、一瞬で終わりね」
ティアラ「お互いね」 紫色「でも正直、大きな物音を立ててくれたのは助かったわ」
ティアラ「……え?」
紫色「違和感をなくせるもの」
互いに腕を抑えたまま、魔法少女が静かに笑うと、2人の真下あたりで爆発が起こった。
ティアラ「!?」
校舎が揺れて、屋上の柵の下から煙が上がってくる。
ティアラ(ガス爆発……ってことは、炎を使う魔法少女!)
ティアラ(でも、爆発なんて起こして何が……)
ティアラ(校舎が壊れたところで、魔法少女が有利になるなんてことは……)ハッ
ティアラ「……スプリンクラー」
ティアラ(スプリンクラーが作動する上に、水道管が露出したら……!)
紫色「ご名答」 ➖➖
曜「……ふぅ」
曜は爆発による合図を待つために、学校の隣の建物に待機していた。
曜「今助けるからね、千歌ちゃん」
水色の魔法少女の能力が届く範囲は、魔法少女と仮面ライダーの中でも最も広い。
紅色の魔法少女が再生する自分の衣装を燃やしたり、希が一定の密度のある物体しか動きを止められないことに対して、
空気中の水蒸気を媒介して届けることができる彼女の魔法は、地球上であればほとんど不可能な場所はない。
曜「変身」
足早に変身を終えると、水色の魔法少女は手をかざした。
曜(まずはスプリンクラーの水をつかって、校舎全体に張り巡らされた水道管を露出させる……!)
離れた場所であっても、水道管そのものが露出してしまえば、近くになくとも強引に水を操ることができる。
曜(見えなくても、水があることさえわかれば、とにかく暴れさせればいい……!)グ… ➖➖廊下
マリン「ねぇ、梨子ちゃんだよね!?」
桜色「…………」
廊下のガラスに刀を突き刺して、破片を桜色の魔法少女に散らす。ーー魔法少女には効果がないことを知っているから。
マリン「ねぇ、なんで……」
去年まで同じ学年だったはずの記憶を探るも、その景色はモヤがかかったように鮮明に見えることはない。
マリン「去年まで一緒だった『設定』は覚えてるのに……!」
桜色「私たちは」
明らかに動揺しているマリンの懐に、身軽な桜色は滑り混むように足を踏み入れる。
近くまで寄られると、仮面ライダーマリンの動きに慣れていない『南ことり』は、腕から生える刀を不器用にぶつけることしかできない。
マリン「……!」
魔法少女の手が淡く光る。マリンはこの話を聞いていた。触れたらまずい、触れたらまずい、触れたらまずい、
桜色「コワレヤスキ!」スッ
マリン「……ひぇっ!」
発勁のように突き出された腕を、マリンは胸を折り曲げるように反らして、なんとか回避する。
そのまま寝転がるようにして仰向けになると、マリンの真後ろにあった壁に桜色の手のひらがぶつかる。
桜色「この技の名前……一年生の子が考えてくれて、正直恥ずかしいんだけど」
コンクリートの壁は、風が吹くだけでその表面の砂を散らし、魔法少女が小さく息を吹きかけると、ヒビが入って崩れてしまった。
校舎が揺れる。 桜色「でも、あの言葉を口にすると、勇気が出てくるの」
マリン「…………」
桜色「別に、それが理由じゃないけど」
桜色「私は、あの子たちを助けたい」
マリンの刀が桜色の首を薄く撫でる。後ろ髪が置いていかれる速さで刀を避けた魔法少女は、素早く足を上げて仮面ライダーの顎を蹴り飛ばす。
マリン「゛っ!」
脳が揺れるのを感じて、複眼による無限の視界がバラバラに砕ける。
マリン(バードの複眼より数が多いから……頭の整理が追いつかない!)
視界が揺れを収める前に、さらに魔法少女は仮面ライダーの胸元を掴み、近くのドアノブに背中を叩きつけた。
マリン「いっ……!」
背骨に火が通るような痛みが襲う。
マリン(このままじゃ押し負ける……)
痛い、痛い、痛い、
マリン(なんか灯油の臭いするし……)
全身が痛い、でも、
マリン「穂乃果ちゃんは守る……!」
マリン(なんとかして二重変身を!)
だが、今のことりには極端に栄養が足りていない。部分変身でも完全に行えるかは定かではない。 マリン(でもやらなきゃ……穂乃果ちゃんが!)バッ
桜色「!」
桜色の拘束を解かずにーー逆に、その首を優しく抱きしめる。
魔法少女の耳元で、マスク越しに深呼吸をすると、マリンは囁くように言った。
マリン「二重変身」
マリンの背筋から青黒い霧が漏れる。
桜色「ん……っ!」ビクッ
それは桜色の体をわずかに痺れさせた後、マリンの、胸だけを静かに包んだ。
マリン「……女の子は、胸で勝負しなきゃ」
桜色「……!」
まだ痺れのとれない魔法少女を、今度はその細い身体を強く抱きしめる。
マリン「今度は、優しくないよ」
マリンは、胸を中心とした上半身だけを強化し直した。
当然、筋肉に沿って刃が伸びているが、『南ことり』の目的はそうではなかった。
普段、バードとして変身するから、なんとなく感覚で知っている。
鳥が空を飛ぶのに使っている筋肉は、このあたりだ。
そして、この筋肉は、人間でいうと……
マリン「抱きしめる時に、使う筋肉なんだよ」ギュッ
覚悟を決めるように呟くと、仮面ライダーは魔法少女を力強く抱き締めた。締めた。
次の瞬間、細かった魔法少女の身体はさらに畳まれるように細くなる。
桜色「い゛……ッ」ボギボギッ
身体を包んでいた魔法の膜が限界を超えて、身体を強化したとはいえ、元は身体を鍛えていない、ただの女の子である桜色の魔法少女を仮面ライダーの全力が襲う。 死ぬ、覚悟を決めた途端、目の前の魔法少女は突然近くのロッカーの中に隠れた。
マリン「……え?」
わけがわからない。
ロッカーの中から漏れた光で、梨子が変身を一旦といてから、再び変身し直したことが確認できたが、出てくることはない。
……今なら隙だらけだ。
しかし、今のマリンは下手に動くわけにはいかない。身体が異常に壊れやすくなっているのは、話でも聞いたし、目の前でも見た。
マリン(こ、これが解除される方法はわからないけど、今なら……!)
微動だにしないロッカーに目線を移ーーそうとして、マリンの複眼は扉が開いたままの廊下を捉えた。
廊下に一筋、何か液体が垂れている。
それは倉庫のような部屋から見える限り、廊下の端から端まで続いている。かなり大量に。
マリン(と、灯油みたいな匂い……もしかして)
相手に、火の使える魔法少女がいることを思い出した時には、もう遅かった。 廊下が爆発する。
液体の筋を連鎖するように光が走るのを複眼で捉えた直後、マリンの身体は部屋の端まで吹き飛ばされた。
空気が膨らんで、風船が全身に押し付けられるような感覚を覚えた直後、突き刺すような熱風がマリンの全身を削いで撫でる。
マリン「きゃ……っ!」ベキッ
なんとか受け身をとったが、明らかに骨が折れた。腕が見たことのない方向を向いている。
マリン「こ、これ……」
続けて何度か爆発が起こり、火災を察知して、爆発から生き残ったスプリンクラーが水を撒き始めた。
マリン(よ、よかった、これなら二次被害は……)ピタッ
マリン(水を使う、魔法少女)
気づくのが遅かった。 マリン(せめて遮蔽物に……!)
だからロッカーに隠れたんだ。少しでも衝撃が和らぐから。今見てみれば、廊下から死角になった場所にロッカーはある。
桜色の魔法少女と同じく、何かに身を隠そうとした次の瞬間には、廊下から無差別に吹き込んでくる弾丸のような水の球に、身体を貫かれていた。
細かく散らされるように設定されたスプリンクラーの水は、どこかに潜んでいる水色の魔法少女の手によって、一粒一粒が弾丸に変えられて、
壁を、床を、部屋を、そして、脆くなった無防備な仮面ライダーを容赦なく襲う。
マリン「゛゛ッ゛゛゛゛……ッ゛」
悲鳴が声にならない。
喉に穴が空いたからだ、と気づくのにはしばらく時間がかかった。
スーツを無視するように、水の球はマリンの身体を、喉を、腕を、脚を、そして頭を隙間なく荒らしていく。
意識があるのかないのか、もう彼女にはわからなかった。
流れた血は、ねっとりと廊下に向けて流れてながら、弾丸によって部屋中に巻き散らかされている。
最後に思い浮かべたのはやっぱり穂乃果のことで、マリンはもう使えないほど穴が空いた頬の筋肉を緩ませようとして、もうそんな顔が残っていないことに気づいた。
コワレヤスキをかけられた身体は、水の球が触れるだけでその何倍もの穴が空く。
もう動かせる筋肉はなかった。
最後は笑うことすらできないんだ、と笑おうとして、笑顔を作ろうとして、
マリン「…………」
仮面ライダーは死んだ。 ➖➖
絵里「あわわわわわ!」ズサァッ…
校舎に残った最後の1人が飛び出すと、1階から3階にかけての室内で、突然銃撃戦が行われているような騒音が響き始めた。
ガラスが割れて、校舎にヒビが入り、建物が細かく揺れる。
絵里「建物から離れて!」
騒然となる生徒たちを落ち着けながら、絵里自身もなるべく頭を守る。
絵里(早く全員を敷地から出さないと、変身が……!)
校庭では先生が点呼をとっている。
絵里(なんでこんなときもクソ真面目に点呼なんかとってんのよ!) 絵里「みんな、早く……」
最後に走れなくなっている生徒たちを急き立てようとすると、続けて地鳴りのような音が響いた。
絵里「……え?」
地鳴りではない。校舎が震えている。
全員が唖然と校舎を見上げていると、すべての階から血管のように水道管が弾け出してきて、大量の水が宙に浮かび上がった。
絵里「!?」
その水は瞬く間に広がったかと思うと、丸いドームのような形になって、音ノ木坂学院そのものを覆い隠してしまった。
透き通った水が屈折して、校庭は異様な光に包まれる。
絵里「そんな……!」
校門に張ってある水に触れてみると、指の先がシュレッダーに吸い込まれたかのようにズタズタに裂けた。
絵里「いづッ……!」 りんぱな「「絵里ちゃん!」どうすれば……!」
絵里「これは……」
絵里「今、水の中にいるのはだれかわかる?」
りんぱな「ええっと、私たちが把握してた限りだと……」
りんぱな「屋上にティアラと紫色がいたのと……えと……」
りんぱな「みんないる!」
りんぱな「「黒色と赤色の魔法少女には」逃げられちゃって……」
絵里「なるほど、わかったわ」
絵里「2人は急いで屋上のティアラの援護に行って」
絵里「もしそれが終わったら、変身を解いて生徒の中に混ざってちょうだい」
りんぱな「「了解!」」タタッ ➖➖
善子「……花丸!」
黒色の魔法少女は、赤色の魔法少女を紅色の魔法少女の元へ送ったあと、なんとか仮面ライダーの追跡を振りほどいて、元の場所に戻ってきていた。
花丸「うぅ……」
善子「立てる? 肩貸すわよ」
花丸「うぁ……」ガクッ
善子(そりゃ辛いわよ……半分死ぬような感覚を味わったんだから)
善子「他の一般客に紛れてなんとか抜け出す、もう少し耐えて」
花丸「あ、ありがとう……」
善子(魔法少女のときと普通のときとじゃ、顔つきも少し変わってくる……たぶん、大丈夫だと思うけど)
善子「……ん?」
善子はここで違和感に気付く。
善子「……あれ」
元いた場所に、割れた二台のスマホと、花丸。
善子「…………」ハッ
善子「矢澤にこがいない……!」 ➖➖
梨子「……うぅ」
果南「梨子、大丈夫?」
梨子「ここは……」
果南「まだ校舎の中だよ……いてて」
梨子「!」
梨子「頭から血が!」
果南「かすり傷だよ……変身といた後、ガラスでね」
果南「……それより、校舎を抜け出さないと」
梨子「!」
気を失っていた梨子が辺りを見渡すと、校舎の中は爆発したかのように傷だらけになっている。
果南「曜……かなり暴れたね」 果南「それと、相手していた仮面ライダーは?」
果南「えぐい量の血は残ってるけど、死体はないし……」
梨子「えっと」
気を失う直前のことを思い出す。
梨子「えっと……」
直前のことは思い出せないが、狭い倉庫のようになっている部室の中に潜り込んだところまでは覚えている。
梨子「たぶん……相打ちに持ち込もうと、狭い部屋に連れ込まれたところまでは覚えてるんですけど……」
梨子「そのあと、スプリンクラーでぐちゃぐちゃに……」
果南「でも、この部屋、梨子しかいなかったよ?」
梨子「……え?」
果南「……逃げられたかな」
梨子「そんな、コワレヤスキまで使って……スプリンクラーの嵐まで受けたのに」
果南「……もしかしたら、先に誰か助けが来ていたのかも」
梨子「!」
果南「とにかく、急いでここを出よう」 ➖➖
絵里「……!」
校庭はパニックになっていた。
出ようにも出られず、その場に止めようとする教員や他の出口へ向かおうとする生徒の波入り混じった校庭では、穂乃果1人を探すのには無理があった。
絵里(あぁもう、変身できれば水を凍らせることもできるのに……!)
が、今の状況では人目につかない場所はなかった。おまけに、ことりの記憶を消せる力は前後の数分のみで、そのことりはスマホを壊されている。
絵里「穂乃果!」
なんとか穂乃果の身の安全だけでも確保しようと校庭の中に足を踏み入れようとすると、生徒が上を見上げていることに気づいた。
絵里も上を見上げる。
絵里「は……?」 ➖➖
穂乃果「う、海未ちゃん、あれ……」
海未「そんな……人前に!」
紅色「高坂穂乃果!」
紅色「高坂穂乃果を差し出せば、私たちはひきます!」
背中に赤色の羽根を背負った紅色の魔法少女が、校庭の真上に飛び上がっていた。
希「2人とも!」コソッ
穂乃果「の、希ちゃん!」
希「マズイね……ここまで派手にやってくるなんて」
海未「ど、どうすれば」
希「とにかく、相手の出方を待とう」 紅色「5分以内に出てこなければ!」
紅色「……この水を全て落とします」
穂乃果「!」
海未「あの高さからあの重さの水を落とせば……」
希「……みんな潰れるね、まず間違いなく勢い付けて落とすだろうし」
穂乃果「わ、わたしいってく」
海未「ダメです」ガシッ
穂乃果「でも!」
海未「なんのために仮面ライダーは戦ってるんですか!」
穂乃果「…………」 りんぱな「「そこまでだぁー!」」
紅色「!」
全校生徒の前に、屋上から仮面ライダーが飛び出してきた。
りんぱなは紅色の魔法少女の脚をつかむと、校舎の近くまで引きずり降ろそうとして、
青色「邪魔しないでもらえるかな」ガシッ
りんぱな「「え」」
青色の魔法少女に腕を掴まれ、地面に叩き落とされた。
紅色「果南さん!」パシッ
青色「はいよっ」ギュッ
紅色「……ゆっくり落としますよ」
青色「うん、あの仮面ライダーはわたしが止める」
紅色「任せます」
青色「……必ず」
紅色「今回で、最後にしましょう」 りんぱな「「まだ他の魔法少女がいたなんて……」容赦しないよ!」
青色「こっちのセリフだよ」スタッ
青色「邪魔はさせない」
ガラスの散らばる校舎の影で、青色は仮面ライダーに向けて飛びかかる。
仮面ライダーはそれを避けて、右腕からツタを伸ばしてガラスを拾い上げる。
りんぱな「これなら……!」
そのツタで魔法少女の脚を縛るが、痛覚がない彼女らには普通のツタとそれは大差ない。
青色「ここで、殺さなきゃ!」
りんぱな「「!」」
青色「また千歌は眠ったままになる……!」ググ…
青色はりんぱなの両腕を掴むと、足を振り上げられる前にその身体を散乱するガラスの中に叩きつけて、マスクを踏み潰す勢いで踏みつけた。
りんぱな「「ふぐッ……」」
なんとか右腕からツタを伸ばすも、すぐに片腕でちぎられてしまう。
青色「こんなツタ!」
魔法少女は今度は足首を掴むと、校舎の窓の縁に仮面ライダーを全力で叩きつけた。
りんぱな「「゛゛ッ……ッ!」」
青色「ここで、誰かが手を汚さないと……!」 ➖➖
紅色「……ではこうしましょう」
穂乃果「!」
混乱する生徒たちは、魔法少女の一言で静まり返る。
紅色「……生徒会長、でてきてください」
海未「!?」
紅色「何故貴方なのかは、ここでは黙っておいて差し上げましょう」
紅色「ですから、どうぞ前へ」
希「絵里ち……」
希(ここで絵里ちを変身させないためか……たしかに、アイスなら水のベールを破れる)
希(それに、他の仮面ライダーが隠れている可能性がある今、人質にもなる……!) 絵里「…………」ザッ
紅色「……よくいらっしゃいました」
静かにざわめく生徒の前に、絵里が歩み出る。
絵里「めちゃくちゃよ」
紅色「わかっています」
紅色の魔法少女が、ゆっくりと絵里の前に降り立つ。
紅色「高坂穂乃果を呼んでください」
絵里「断ると言ったら?」
紅色「あなたと生徒を殺します」
絵里「なるほど、じゃあ……」
絵里がゆっくりとスマホを取り出す。
紅色「!?」
絵里「たとえ全校生徒に仮面ライダーがバレても、私が変身すると言ったら?」 絵里「この程度の覚悟もないと思われてたのかしら!」アイス!
紅色「しまっ……」バッ
絵里「変身!」
紅色が絵里に触れる前に、絵里の周りを透明な氷が包み込む。
紅色の魔法少女1人ならそれでも突っ込んで止めようとしたが、今は背中に妹もいる。無茶はできない。
透明な氷が水のように絵里の肌へ染み込んでいくと、その表面は光沢を放つスーツへと変わり、アイスブルーのマスクが顔を包み込んだ。
アイス「……さぁ、どの程度の覚悟なのか、見せてもらおうじゃない」
生徒や一般客の波は蜘蛛の子を散らしたような騒ぎになり、パニックになる人やスマホを構える人で状況は混乱を極めた。
紅色「……望むところです!」 アイス「!」バッ
魔法少女の突進を片手で受け止めつつ、残る片手を上へ伸ばし、絵里は全力で水のドームの温度を下げた。
アイス「ティアラ!」
アイス「校門のあたりを狙撃し続けて!」
ティアラ『了解……!』
その返事から数秒開けて、ドームは内側からかちかちと固まっていく。次第に中の気温が下がってくると、水のドームは完全に氷へと変わってしまった。
希「今のうちに、早く!」
アイスと希は目配せをして、避難のバトンタッチをする。
紅色「そちらばかりに気をまわしていても!」
腰を入れた蹴りを放つ魔法少女の脚を氷を斜めに貼った左腕で滑らせ、衝撃を抑える。
アイス「あら……キックってのは、これくらい強くて、はじめて攻撃よ」
仮面ライダーは身をかがめて両手を氷で地面に固定すると、体を捻って魔法少女の腰に蹴りを叩き込んだ。
紅色「……っ!」
アイス「……この程度で全力と思わないでよ!」 ➖➖屋上
ティアラ「はぁっ、はぁっ……!」
鞠莉「…………」
息を荒くするティアラの目の前には、鞠莉が頭から血を流して倒れていた。
ティアラ(危なかった……)
ティアラ(りんぱなが来てくれるのがもう少し遅ければ、私がこうなってた……)
ヒビの入ったスーツを抑えながら、ティアラはアイスの指示通り、校門の氷を狙って狙撃した。
ティアラ(なかなか壊れない……でも、何発か加えれば!)
連続で同じ場所を狙うと、氷は次第にヒビが入り始めた。
視界に希が入ってきて、手で大きくOKのサインを出す。
ティアラ「よし……変身解除」ゼェゼェ
真姫「はぁっ、はぁっ……!」
あとは人の力でも壊せる。真姫は安心して座り込んだ。
真姫(じゃ、あとは鞠莉を拘束して……家の地下室にでも)ピタッ 真姫「……え?」
横に鞠莉がいない。
鞠莉「……変身、しなくても」ザッ
後ろを振り向くと、頭を抑えた鞠莉が真姫の頭に向けてハンドガンの銃口を向けていた。
普通のハンドガンである。
真姫「……そんなもの、どこで」
鞠莉「私、お金持ちなの」
鞠莉「……good-by」
真姫「……!」
激しい銃声とともに、静かに真姫は倒れこむ。
穴の開いた頭からは、想像を絶する量の血が溢れ出していた。
鞠莉「さて……穂乃果は、どこかしら」
反動で痛む肩をさすりながら、鞠莉は校庭に目を走らせる。 鞠莉(脚が撃ち抜ければ、それがいいんだけどナー)キョロキョロ
鞠莉(お、いたいた)
人混みの中、1人の少女に背中を押されて小走りに校門に向かっている。
鞠莉(んじゃ、当たりますように……)カチャ
多少練習してきたとはいえ、ほぼ素人の鞠莉の弾が命中する確率は極端に低かった。
おまけにハンドガンである。本来はこんな距離に使えるものではない。
鞠莉(だいたい50メーターくらいが限界らしいけど……まあ50もないでしょ)
鞠莉(……当たれっ!)バンッ
……運がいいのか悪いのか、その銃弾は、奇跡的に、穂乃果の心臓に向けて真っ直ぐ撃ちだされた。
穂乃果は当然のことながら、希は避難の誘導で穂乃果のことは海未に任せており、海未も屋上からの狙撃のことなど考えてもいなかった。
……だが、唯一、この日の騒動でほぼ戦っておらず、そのために、他よりもはるかに広い視野で周りを見ることができた人物がいた。
放置されていた穂乃果のスマホを使って、マリンの居場所を探り当てることができた人物。
部室で倒れていたマリンの変身を、スマホの操作で解除することができた人物。
そのことりを校舎から連れ出して、他の生徒に預けることができた人物。
今日の作戦はいつもと違うと、本気で殺しにきていると、だれよりも早く理解できた人物。
にこ「……゛ッ!」ドスッ
穂乃果「……にこちゃん?」 にこ「…」ドサ…
穂乃果「え、あ、え……」
穂乃果に倒れかかったにこの胸に、大きな穴が空いている。
穂乃果「え、なんで、うそ、血が」
悲鳴が上がる人混みの中、脚から崩れ落ちた穂乃果の膝で、小さく体を震わせている。
穂乃果「ちょ、変身してな、え、にこちゃん、が」
海未「にこ……!」
海未がハンカチを胸に当てたところで、白いハンカチは一瞬で赤く濡れそぼってしまう。
希「誰か救急車!」
穂乃果「あ、ああぁぁぁ……」 海未「ほ、穂乃果、にこを……」
果南「……見つけた」
人混みの奥から、肩を抑えた少女が歩み寄ってきた。
果南「はぁっ……痛……」ザッ
果南「高坂穂乃果は、回収するよ」ガチャッ
希「!」
希「へんし……」バスッ
変身しようとした希の腕を、果南が持つハンドガンが撃ち抜く。
希「あぐ……ッ」
海未「のぞみっ……!」ダッ
向かってくる海未も、すぐに左足を撃ち抜かれ、バランスを崩して前に転がってしまう。 果南「梨子」
桜色「はい、これなら……」
再び変身した桜色の魔法少女は、血を流す3人の少女に一瞬目を背けるが、すぐに目線を戻し、穂乃果の身体を担ぎ上げる。
穂乃果「…………」
穂乃果はもう、抵抗しなかった。
果南「変身」
果南「……は、もうできないか」
果南「念のため」バンッ
希「゛ッ……」バスッ
果南「…………」
水色「果南ちゃん」スタッ
果南「おお」
水色「鞠莉ちゃんはなんとか変身できたみたいだから、花丸ちゃんを連れて先に離脱してる」
水色「善子ちゃんは先に目を覚まして片割れを起こしそうだったから、2人で1人になるライダーの、ベルト持ってる方を回収してる」
果南「ヤったの?」
水色「ううん、多分気絶させたのを運んでる」
果南「そっか」 果南「じゃ、作戦通りダイヤたちも最後に帰るだろうから、私たちも帰ろう」
水色「果南ちゃんは担いで行くよ」
果南「ありがと」
海未「ま……待ちなさい……!」
海未「穂乃果を……ッ!」
桜色「…………」
果南「本当にごめん」ガッ
海未「゛ッ」ガクンッ
果南が海未の顎を蹴ると、今度こそ海未は地面へ倒れこんでしまった。
果南「……行こう」
水色「うん」
その時、変身を解いたことで一命をとりとめたことりは担架で運ばれ、凛は校舎の入り口で倒れて、
真姫とにこは頭と胸に穴を開け、海未は出血多量の上に脳震盪を起こし、5人は完全に意識を失っていた。
意識があったのは、かろうじて息をして、魔法少女が逃げるのを確認しているだけの希と、まだ何が起こったのか把握していない、
他の人を守るために戦っている、絵里だけだった。 取り返しがつかない事態になっていってるのがすごいクライマックス感出てる 花陽も含めて6人が気絶して、希が数回生身で撃たれて動けないって無理じゃん。 ➖➖3日後
ことり「もう、3日」
意外にも、あの日、すぐに状況を把握して動けたのは、誰よりも重症のはずのことりだった。
すぐに頭だけ部分変身して、体力が尽きる限界まで、あたりの人の記憶を消した。
ことり(たぶん、ほとんどの人は完全に忘れてはないと思うけど)
事実、ここ数日のニュースは都内の高校で起きたテロ事件の話ばかりしている。
絵里「テロなんで大げさ、って言ってたわたしは……馬鹿だったわね」
ことり「絵里ちゃんのせいじゃない」
絵里「わたしのせいよ」
絵里「わたしが……もっと広く見てれば……」
絵里「…………」
ことり「…………」 ことり「……人は、気を失う10分くらい前のことは忘れちゃう、っていうけど」
海未「なにも……覚えて、ないです」
あの日最も重症だったのは、血を作る骨である脚の部分を弾が貫通した上、脳震盪を起こした海未だった。……生きている中では。
凛「凛も……最後に見たのは、青色の魔法少女の変身が解けたところで……」
凛の身体には、たしかに花陽の感覚があった。
今はない。
凛「…………」
凛「二人で、勝てたと、あとはかよちんのために、この人を、殺す努力をするだけ、って思ったのに……」
凛「気が付いたら……」
ためらった覚えはある。そこから先の記憶がない。
ことり「絞め技は、有効」
ことり「たぶん、テコか何かを使って」
つまり、生身の相手に、仮面ライダーは、
ことり「負けたんだ……」 希「居場所は、わかったよ」
希はあのとき、変身に失敗した。
まだかろうじて変身できる体力が残っていたところを、利き腕の関節を撃たれてしまったが、
希「でも、穂乃果ちゃんのお陰で、助かった」
ベルトだけは身体に巻きついていた。
希「穂乃果ちゃんが、アップデートしてくれたおかげで」
急いで心臓のある胸を部分変身で守った瞬間、2発目の弾は作られたばかりのスーツにヒビを入れた。
希「あれで腕の傷も少しだけ塞がったし、怪我はみんなより軽くて済んだけど」
とめることはできなかった。
ことり「……行こう」
希「うん、ウチは」
目の前で命を救ったところを見ていた相手に、目の前で命を奪われた。
希「……今度はウチが奪う」 海未「相手は8人います」
海未「こちらは5人で、変身できるのは3人」
凛「行くよ」
ことり「わたしも行く」
海未「……では、わたしが黄色と黒色を、入ってすぐに」
絵里「……できるの?」
海未「目の前で奪われました」
海未「にこの表情が頭から離れません」
絵里「…………」
海未「……殺せます」
海未「戦わずとも、2人くらい」
絵里「わかった、あなたが手を汚すならわたしも汚す」 ことり「私と凛ちゃんは、変身できないけど」ゴトッ
海未「!」
ことり「……魔法少女も、たぶんあせってた」
ことり「忘れ物を返さないと」
ハンドガン。
ことり「2つある」
ことり「私と凛ちゃんは、これで……」
凛「いらない」
ことり「え」
凛「……凛は、すぐにかよちんを見つけて変身する」
凛「保険はいらない」
海未「では、希、持っていてください」
海未「あなたは直接殺す手段を持っていません」
希「……わかった、これで、ウチは」 絵里「穂乃果を取り返せば、『設定』を変えられるかもしれない」
ことり「うん。コネクターなら、もしかしたら」
海未「できます、できるはずです」
絵里「穂乃果を取り返して、借りを返す」
絵里「これまで甘やかしてきた……甘えてきた、ツケを返さないと」
街で初めて水色とぶつかった時。振り向くだけで、紫色をしとてることができていた。真姫もにこも助かっていた。
水族館。あれだけの水があれば、いくら青色でも息の根を止められたかもしれない。
学校でも。もっと早く変身していれば、みんな助かったかもしれない。
絵里「私たちには、覚悟が足りなかった」
絵里「だから負けた」
絵里は、あの日、魔法少女が撤退した後のことを思い出す。
全部解決したと思った。
何もかも終わらされていた。
絵里「終わらせに行く」
絵里「仮面ライダーが、魔法少女を」 ➖➖
穂乃果「……ん」
穂乃果「……!」ハッ
穂乃果「ここは……」
花陽「…………」
穂乃果が目を覚ますと、カーテンで囲まれた、見覚えのない明るいベットの上にいた。
隣では花陽も寝ている。
穂乃果(そっか、私たち……)
少しづつ、連れて行かれる前のことを思い出していた。
にこの血の温度が手に蘇ってきて、胃が縮まるのを感じる。
穂乃果「…………」キョロキョロ
保健室のようにみえる。
カーテンの奥に人の気配はない。
穂乃果「……保健室なら、ぬいぐるみでも、あればいいのに」 穂乃果「あ」
しばらくして気付いたが、腕に点滴のようなものが刺さっている。
隣に寝る花陽も同じだ。
穂乃果「花陽ちゃん、起きて」
花陽「ん……」
目を覚ました花陽も、すぐに状況を把握する。
花陽「凛ちゃんは……!」ガバッ
穂乃果「わからない、とりあえず、部屋の中を探って……みよう」
曜「その必要はないよ」
穂乃果「!」
花陽「!」
曜「あれからもう3日経ってる」
曜「……何か飲む?」
カーテンの向こうには、変身前の魔法少女がいた。 曜「とりあえず説明させてほしい」
曜「隣の人を連れてきたのはついでだけど……穂乃果さん、あなたを連れてきた理由」
穂乃果「……なに」
曜「『設定』『変えられる権利』『世界』『コネクター』」
穂乃果「!」
曜「どれか聞きたい?」
穂乃果「……コネクターで」
曜「いきなり本題かぁ」
曜「まあ、これ説明すれば他のもすることになるんだけど」 曜「コネクター、ってのは、言い換えれば主人公のことだよ」
穂乃果「主人公……」
曜「主人公だけは外の世界と繋がれて、主人公を通してこの世界は書き換えられるんだ」
曜「なんていうか……私たちから見れば、神様、なのかな」
曜「そういう存在から、主人公は『変えられる権利』をもってる」
曜「つまり、穂乃果さん、あなたを通して、この世界は書き換えられてるんだ」
穂乃果「……私を、通して」
曜「心当たりない?」
曜「例えば、あなたが来たタイミングでちょうどよく何かが起こったり、あなたが知った途端に何かが変わったり」
穂乃果(仮面ライダーシステムの、アップデート……) 曜「そして『変えられる権利』をもつのは、普通私たちと同じ並びの世界には1人しかいない」
曜「けど、この世界はおかしいんだ」
穂乃果「え?」
曜「それが……2人いる」
穂乃果「2人……?」
曜「でも当然、お話に主人公は1人だけだから、もう1人は存在できない」
曜「お話に影響を与えないように、無理やり眠らされてるんだ」
曜「血の力で」
花陽「!」ハッ
穂乃果「血の力……」 曜「魔法少女も、仮面ライダーも、力の元は血だよ」
曜「だからほら……果南ちゃんもあの日は使いすぎて、変身しきれなかったし……」
曜「それに、変身しすぎた仮面ライダーは、体調はもとより、顔色が青白くなったりしてなかった?」
穂乃果「……!」
〜〜
変身を解いたことりは、髪は乱れたまま、擦り傷こそ治っているものの、全身の肌色が悪く、とくに顔の色は比喩でもなんでもなく、文字通り青白くなっていた。
穂乃果『どうして……』
〜〜
穂乃果(血が足りてなかったんだ……!) 曜「なにが言いたいのかというと」
穂乃果「!」ビクッ
曜「あなたの血を、もう1人の『変えられる権利』をもつ人に、分けてあげてほしい」
穂乃果「わける……?」
曜「今この世界で一番強く作用してる身体の成分は、血だと思う」
曜「魔法少女側に、似た血をもつ姉妹が同じような能力をもってることもあるから、説得力もある」
曜「だから、きっと『コネクター』にも、血が関係してる」
穂乃果「……つまり」
穂乃果「あなたたちの大切な人が目覚めるためには、私の血が、必要なんだ」
曜「そういうこと」
穂乃果「…………」
花陽「ほ、穂乃果先輩……」
穂乃果(寝てる間にもできたのに、しなかったってことは)
穂乃果(多分、私の気持ちも汲んでくれてるんだ……)
穂乃果「……わかった。いいよ」
穂乃果「私の血を、わけてあげて」 ➖➖
穂乃果「……どれくらいわけることになるの?」
ダイヤ「そうですわね」
穂乃果と花陽は、保健室を出て一部屋だけ異様な雰囲気を放つ、病室のような部屋へ連れてこられていた。
部屋の真ん中では、女の子が眠っている。
誰かはすぐにわかった。あれが『千歌ちゃん』だ。
当然、花陽の両手にはロープが巻かれている。
ダイヤ「まあ、これだけのことをするんですから……」
ダイヤ「あなたが生きて帰れるとは、私たちは思ってません」
花陽「!」ガタッ
穂乃果「いいよ、花陽ちゃん」
花陽「でも……!」
穂乃果「もし、私が主人公として……この時間を繰り返してきたなら」
穂乃果「そろそろ、交代の時間なのかもしれない」
穂乃果「…………」
ダイヤ「輸血の、方法ですが」 ダイヤ「花陽さん……といいましたか」
花陽「はい」
ダイヤ「私たちは、穂乃果さんから採血を繰り返して、それから輸血、と考えていたのですが」
ダイヤ「……いまなら、なんとなくわかりませんか」
花陽「…………」コクン
穂乃果「え、わかるって、なにが……」
ダイヤ「主人公には、わからないようになっているのでしょうか」
ダイヤ「その、ベルトです」
穂乃果「……ベルト?」
花陽「ベルトが、細い管になってて……変身のたびに、その人の血を吸うわけ」
ダイヤ「資格がない人が、仮面ライダーになろうとするときも、必ず血はある程度抜き取られる」
花陽「私と凛ちゃんは、血を通して意識を繋げてる……無関係なわけがない」
花陽「……ベルトは、血を渡すためにあるのかもしれない」
穂乃果「血を、渡すため」 ダイヤ「だから、主人公がいない私たちはベルトなしでも変身できる……そんな気がしてきました」
ダイヤ「ベルト、お借りしてもよろしいでしょうか」
花陽「…………」
穂乃果「……花陽ちゃん、渡して」
花陽「……はい」
ダイヤ「ありがとうございます」
ダイヤ「……ですが、どうすればいいのでしょうか」
穂乃果「花陽ちゃんと凛ちゃんのときは、確か、体をくっつけて……」
穂乃果がダイヤからスマホを受け取り、ベッドで眠る千歌に触れようとした時だった。
穂乃果「!?」
スマホのイヤホンジャックからいつものようにベルトが伸びて、それが穂乃果の腕に突き刺さった。
それは穂乃果の血管を通り貫通すると、そばで眠る千歌の首元にゆっくりと埋まっていった。 ダイヤ「な、なにが……」
花陽「い、痛く……ないですか?」
穂乃果「うん、そんなには……」
穂乃果「痛くな……」フラッ
ダイヤ「おっと」ダキッ
花陽「穂乃果ちゃん!?」
穂乃果「あ……なんか……」
穂乃果「ふわふわする……」
穂乃果(眠るみたいに……)
穂乃果(いしきが……)
…
……
……… ➖➖
千歌「おはよう」
穂乃果「おはよう」
千歌「元気?」
穂乃果「元気……といえば元気かな」
千歌「そっか」
穂乃果「うん」
穂乃果「ここは?」
千歌「わたしの中」
穂乃果「そっか」
千歌「うん」 穂乃果「……今、なにが起こってるの」
千歌「コネクターが2人いるから、2人とも眠ってるんだ」
穂乃果「2人いるの?」
千歌「コネクターの血が、穂乃果さんからわたしに流れてるから」
穂乃果「血って、他人のはダメなんじゃなかったっけ」
千歌「この『世界』には、そんな『設定』はないから、かな」
穂乃果「なるほど」 千歌「でも穂乃果さん」
穂乃果「?」
千歌「これをとめないと」
穂乃果「え……どうして?」
穂乃果「千歌ちゃんは目が覚めて、大事な人は喜んで、いいことばっかりなんじゃ」
穂乃果「……千歌ちゃんにとっては」
千歌「そう、なんだけど」
千歌「違うの」
千歌「主人公にとってバッドエンドの物語は」
千歌「繰り返してるの」
穂乃果「え」
穂乃果「……繰り返してる?」
千歌「うん」
千歌「私たちのことを大事に思ってる人がいるのは、そういう『設定』だから」
千歌「そうじゃないと『仮面ライダー』と『魔法少女』は戦わないから、そうなってる」
穂乃果「……設定」
千歌「だから、戦わなくて済むような……大事に思ってくれるなら、心の底からそう思ってもらえるような」
千歌「そんな世界にしようって、前々回は入れ替わった」
穂乃果「……前々回も、入れ替わってるんだ」 穂乃果「でも、どうしようもないよ」
穂乃果「誰かが死んじゃって……そんな世界じゃ、設定もなにも」
千歌「だから変えるんだ」
千歌「変えられるのを待つんじゃない……変えさせないと」
穂乃果「でも、どうやって」
千歌「面白くすればいいんだ」
穂乃果「え」
千歌「私たちは、結局、劇の役者なんだ」
千歌「面白い話を作れるように、努力する人たち」
千歌「それは作る人によっていろんな話になるし、いろんな『設定』になる」
千歌「だから、みんなが幸せな世界になるまで『設定』を変えさせようって、入れ替わるたびに話してるんだ」
穂乃果「『設定』を変えさせる……」 千歌「まだ、使ってない『設定』があるよね」
穂乃果「……?」
千歌「この世界は、魔法少女や仮面ライダーに変身すれば、1人1つ、不思議な魔法が使える」
穂乃果「……魔法」
千歌「うん。それは、戦うだけなら絶対にいらないものなんだよ」
千歌「でも、話を面白くする『設定』として、味付けで入ってる」
千歌「なら、利用すればいいんだ……って、前の、記憶がなくなる前の穂乃果さん、いってた」
穂乃果「利用、って……」
千歌「今回の世界なら」
千歌「魔法が何かわからないまま、死んでしまった人もいる……」
千歌「けど」
千歌「まだ、魔法がわかっていない人もいる」
穂乃果「……!」
穂乃果「凛ちゃんとか……!」
千歌「ううん、名前とか、印象とかでおかしくなってるけど」
千歌「ツタを操るのは凛さんの魔法で、2人で1つの仮面ライダーになれるのが、花陽さんの魔法」
千歌「昔の私たちが、そう願ったからできた魔法なんだと思う」
穂乃果「そんな……」
千歌「でも、まだいる」 穂乃果「…………」ハッ
穂乃果「青色の魔法少女と……」
穂乃果「仮面ライダー、マリン……!」
千歌「……うん」
千歌「その2人だ」
千歌「賭けようよ」
千歌「まだ、この世界は終わりじゃない」
千歌「きっと、もう1つ、面白くするために一波乱待ってる」
穂乃果「その一波乱で、わたしが見つければいいんだ!」
穂乃果「みんなが幸せになれる世界に変える『設定』のある、魔法を!」
千歌「うん!」
穂乃果「わたしも千歌ちゃんも、2人とも元気に過ごせて……みんなが幸せな世界を!」
穂乃果「見つけてくる!」
穂乃果「だから待ってて!」
千歌「うん、待ってる!」
…
……
……… ➖➖
穂乃果「……づぁっ!」ブチッ
ダイヤ「!?」
花陽「え!?」
穂乃果「はぁっ、はあっ!」
穂乃果「わかった……わかったよ!」
ダイヤ「え、え?」
花陽「なにが……?」
穂乃果「まだ終わりじゃない……この世界はバッドエンドじゃないんだ!」
穂乃果「まだもう一波乱ある、その中でわたしは」
穂乃果がスマホを花陽に渡そうとしたときだった。
建物のどこかでガラスが割れる音がする。
ダイヤ「!」 ダイヤ「……仮面ライダーですか」
花陽「……!」
ダイヤ「梨子さん」
梨子「はい!」ガララ
ダイヤ「2人を連れて逃げてください、奪われてはなりません」
穂乃果「あの!」
廊下へ走っていこうとするダイヤに、穂乃果が声をかけて呼び止める。
ダイヤ「……たとえあなたがどんな夢をみてこようと」
ダイヤ「私は千歌さんを諦めません」
ダイヤ「たとえそれが『設定』だとしても」
梨子「……大人しくしてくださいね」
穂乃果「……うん」
穂乃果「とりあえず、ついていこう」
花陽「…………」コクン ➖➖1階入口
ことり「……やぁ」
青色「あなたは、変身してないんだ」
ことり「いろいろあってね」
青色(……壊したベルトの持ち主かな)
青色「じゃあ、わたしも」パァァ…
果南「フェアじゃないから」
ことり「ふふ、もっとロマンチックなシュチュエーションで逢えたら」
ことり「かっこいいって思えなのになぁ」
果南「それは残念だよ」
果南「……違う形で会えてれば、あんたのことは好きになれそうだった」
ことり「ありがとう」 ことり「穂乃果ちゃんを返して」
果南「できない」
ことり「じゃあ返してもらう」
果南「させない」
ことり「……強引にそうする力が、わたしにはない」
果南「そっか」
ことり「今回のわたしは、始まる前に負けてるから」
果南「…………」
ことり「でも、穂乃果ちゃんはなんとしてでも取り戻したい」
果南「わたしも千歌を助けたい想いは同じ」
ことり「わたしは、それより、もっと」
ことり「だから、私は、たとえ……」カチッ
果南「え」
ことりが背中に隠し持っていたスイッチを押すと、果南の足元に隠してあった爆弾が悲鳴をあげた。
眩しいくらいの光が溢れて、校舎が揺れるような衝撃が走る。
ことりは後ろへ吹き飛ばされて、頭を強く打ちながら横向きに転がる。
ことり「どれだけひどい手をつかっても」
ことり「……面白くないと、言われても」
ことり「私は……」 ーーーーー
ーーーーーー
ーーーーーーー
青色「今、この子、なにみてるとおもう?」
ことり「…………」
ルビィ「さぁ、わかんないです」
青色「その爆弾の作戦が成功する夢」
ルビィ「えっぐ……」
青色「それがバレないわけないのにね」
ルビィ「まあ……あっちも必死なんでしょうか」
青色「だろうけどさ」ポイッ
青色の魔法少女は、前髪を掴んで、ことりを廊下の端へ放り投げる。
虚ろな目をしたことりが目を開いたまま横向きに転がる。
ルビィ「綺麗な顔、してますね」
青色「だね」
青色「……違う形で会えてれば、あんたのことは好きになれそうだった」
青色の魔法少女は、脚を高く上げて、ことりの頭を、 ➖➖1階非常口前
トリック「…………」
紫色「……そんなに怖い顔しないでよ」
トリック「ごめん、無意識だったわ」
紫色「まあ、緊張してるのかな?」
トリック「1つ聞かせて」
紫色「?」
トリック「撃つ時、どんな気持ちだった?」
紫色「…………」
紫色「仕方ないな、って」
トリック「そっか」
トリック「……あなたを助ける真姫ちゃんを、力づくでも止めればよかった」 トリックが手をかざすと、魔法少女の周りの時間は止まる。
トリック「別に、嫌いじゃない相手ならウチは何もできん」ガチャッ
余裕そうに微笑む紫色の頭に向けて、あの時落としていったハンドガンを構える。
トリック「けど、仲間を殺した相手になら」
両手でそれを握り、震えを止めるように紫色の眉間にそれを押し付ける。
トリック「だから、これも平気なこと」
ガタガタと震える両脚で立って、何度も浅い呼吸を繰り返す。
トリック「だって、この子が……」
2人も殺した。
トリック「……けど」
ハンドガンを投げ捨てる。
トリック「…………」
トリック「……人を、殺したくない」ポロポロ
廊下に転がるハンドガンに目もくれず、トリックはマスクの下で静かに泣いた。 紫色「……っぁ」
魔法の時間が切れる。
紫色「私の番かしら?」
紫色が指をパチンとならすと、トリックの動きは人形のように固まった。
紫色「あなたは優しいのね……でも」
落ちていたハンドガンを手に取り、残りの弾を確認する。
紫色「たしか……ライダースーツも、これなら耐えられないのよね」
ハンドガンの0距離発射なら、例えスーツでも魔法の膜でも、1発で限界値を迎える。
紫色「一定の面積に対する圧力とか、そういう問題かしら」
残り2発。
魔法少女は、トリックのマスクの眉間に銃口を押し当てた。
紫色「あなたは優しいけど、私は強かった」
鞠莉「強かったと、思う」
鞠莉「……じゃあね」
鞠莉は、震える指で、引き金を引いた。
鞠莉「……私も、優しくありたかった」
鞠莉「…………」
弾は尽きた。 ➖➖二階東
海未「…………」
黒色『あなた1人?』
海未「別々の入り口から入っていますので」
黄色「あら、言っちゃうんだ」
目の前には、黄色の魔法少女しかいない。質素な廊下で、カビの生えた水道も、錆び付いたロッカーすらこのフロアにはない。
夜の学校の廊下は、薄暗い蛍光灯しか照明がなく、薄い影が魔法少女の足元にひとつあった。
海未「どうせ、すぐバレますので」
黒色『ふぅん、あとで連絡しとこっと』
海未「あとがあれば、いいですね」
黒色『……あるわよ』 黄色「変身はしないんですか?」
黄色「待ちますよ」
余裕げに微笑む魔法少女を見て、海未はわざとらしく鼻で笑った。
海未「ふっ」
海未「……冗談が下手ですね。日本語は習いましたか?」
黄色「そっか」スッ
この瞬間だけを狙った。
黄色の魔法少女が距離を無視するのは知っている。
だから、煽り始める頃には、膝を曲げていた。背中に隠していたスマホを、腰に
添えない。
スライディングして、予想よりも身長の低い、まだ子供の魔法少女の背中に滑り込む。
魔法少女は驚く。
そしてその後ろには影が付いている。
その影から腕が伸びてくることも、海未は知っていた。
だから、
海未「……さようなら」
スマホのライトで、影を消した。 黄色「あ」ピタッ
黄色「あ」
黄色「あ」
黄色「ぁ」
あ。
黄色「ああああああああっ!?」
黄色「嘘でしょ、善子ちゃん、善子ちゃん!」
黄色「どこに隠れたの、善子ちゃん……ヨハネ、堕天使ヨハネ!」
慌てうろたえる魔法少女はしゃがみ込んで無理やり影を大きくしようとするが、その身長では体勢を変えたところでそこまで影は増えない。
そして、影から返事はこない。
海未「大変そうですね、お手伝いしましょうか?」
黄色「っ……!」
黄色「……いや、きっと善子ちゃんはまだどこかに隠れてるんだ、きっと」
海未「水がなければ魚は死にますし、宇宙がなければ星はありませんが」
黄色「一番近くの影とか……最近潜った影とか……」
海未「魔法少女には、そんな便利な『設定』あるんですか?」
黄色「…………」
海未「面白いですね」 黄色「」ブチンッ
黄色「……殺す」
海未「まあ、汚い言葉を使うものではありませんよ」
海未「せっかくのかわいい顔が台無しです」
黄色「!」スッ
黄色の魔法少女は、距離を無視することを、海未は確認していたから、
海未「変身」マリン!
タイミングを揃えて、変身しようとするだけで、事は済んだ。
青い霧は海未を包む前に、邪魔を除こうと魔法少女を包む。
黄色「あ゛っ……あ゛ッ」ビクンッ
それはスーツとして身にまとわれることなく、静かに魔法少女の身体を壊していく。
海未「もし、違う方法で会うことができたなら」
続けて現れた青い霧は、横に伸ばした海未の腕から順に、纏わりつくように広がっていく。
それは全身を包むと、蒼い光沢を放つスーツとなり、手のひらを握ると、ゆっくりと刀が伸びてきた。
マリン「……違う世界で、会うことができたなら」
マリン「かわいいと、本当に思えたのでしょうか」
花丸「…………」
マリンは、自分の血でできた銀色の刀を、静かに赤で濡らした。 ➖➖3階
花陽(逃げ出さないと……)
花陽(なんとか凛ちゃんなしでも変身できれば……)
花陽「!」
花陽(たしか、この人……)
薄暗い廊下を走りながら、花陽は梨子が元音ノ木生徒だという『設定』を思い出していた。
花陽(もし、仮面ライダーになれる条件が、音ノ木生徒という『設定』をもつこと、だったら……!)
花陽「(穂乃果先輩!)」
穂乃果「?」
花陽「(ベルトを、私の腰に当ててください!)」
穂乃果「え!?」
花陽「(早く!)」
梨子「なんの会わ……」
花陽「穂乃果先輩離れて!」クルッ
梨子「え」
突然、進行方向に背を向け、梨子に背中を合わせてきた花陽に驚くと、次の間には梨子の腰に見覚えのあるベルトが巻きついていた。 花陽「えい……っ!」ザッ
梨子「いっ……」ガンッ
花陽が両手を縛られたまま、自分に巻きついている梨子に体重をかけるように飛び跳ねる。
押し潰される形で床で頭を打った梨子は、一瞬意識が失われかけてしまう。
花陽「変身!」リンパナ…?
穂乃果「は、花陽ちゃん!?」
水平になった2人の背中の間から、細いツタだけがすろすろと伸びてきて、廊下の床を貫通して2人の体を巻き上げる。
花陽「う……っ!」
ツタで団子のような塊ができると、その中から苦しそうに黄緑色だけで構成されたスーツが生えてきた。
ぱな「ぶはぁ……っ」
穂乃果「は、はな……え?」
ぱな「相手の意識がなければ……もしかしたらと思って……!」バリッ
いつもより、変身に使ったツタが多い。
穂乃果「り、梨子ちゃんごと変身してる……」 ぱな「何はともあれ、これで自由です……穂乃果先輩、どうすればいいんですか!」
穂乃果「えっ」
ぱな「私のベルトを使ってたんだから、今変身したのでなんとなく、感覚は伝わってきました……!」
ぱな「何か、シナリオ通りに生き延びるより、大切なことが見つかったんですよね!?」
穂乃果「……うん!」
穂乃果「まずはまだ確認してない青色の魔法少女とマリンちゃんの魔法を確認する!」
ぱな「どっちも私は知りませんね……よし、行きましょう!」
ぱな「下に行けばいるはずです!」
穂乃果「わかった!」 ➖➖2階西
アイス「……見つけた」
紅色「……見つけましたわ」
アイス「あの日は」
アイス「クソみたいな気分を味あわせてくれて、どうもありがとう」
紅色「礼には及びません」
紅色「わたくしはわたくしのするべきことをこなしただですから」
アイス「そうね、あなたは犯人じゃない」
アイス「悪いのは……このお話ね」
紅色「えぇ、間違いなく」 アイス「でも、あなたが悪くないわけではない」ダッ
紅色「はい、その通りです」
アイスは廊下の床を凍らせて氷を作ると、それに沿って紅色の魔法少女の元まで距離を詰めた。
紅色「!」
魔法少女は氷を溶かそうとして……溶かさずに、上に跳ねて蹴りを避けた。
アイスは落ちてくる魔法少女を受け止めて、足首を掴んで廊下に叩きつける。
反動をそのままに壁に向けて大きく円を描こうと振り回すと、
魔法少女は両手で壁の凹凸を掴んでクッションにして、反対に両脚で仮面ライダーの腕を挟んだ。
アイス「……!」
真っ白な太ももで挟まれたスーツは、押し潰されそうな悲鳴をあげ、次の瞬間には床を突き破って下の階まで突き落とされていた。
紅色「あら……なるべく移動はしたくありませんでしたが」
アイスのスーツが、落下による衝撃を吸収する。 紅色「空気中の水蒸気を使われてるんですよね?」
アイス「……えぇ、まあ」
アイスは魔法少女の足元を固めようと手を伸ばす。
紅色「でしたら」
振袖が炎を起こして氷を溶かす。
紅色「同じ場所に居れば、いつか効率が悪くなる……ということでしょうか」
アイス「そんな簡単に湿度は変わらないわよ」
仮面ライダーはどんな表情かわからないが、悲しそうな声で返事をした。
魔法少女が近づくと、仮面ライダーはその場で立ったまま蹴りを放つ。
当然受け止められる。
アイスはその脚を自分で氷漬けにして、
紅色「!」
紅色の魔法少女と自分をくっつけた。
アイス「これで逃げられない」
体を折り曲げて脚を上げ、自分の股の間に魔法少女の頭を挟むと、逆立ちをするように両手で地面をついて、そのまま床に魔法少女の頭を撃ち付けた。
床に埋まった魔法少女が頭を抜く前に、アイスはその顔ごと氷漬けにしようとして、
赤色「お取込み中、すみせん」ゲシッ
重機のような力で突き飛ばされた。 アイス「……ぶッ」
スーツにヒビが入る。
赤色「んしょ……んしょ」ズボッ
紅色「ゴホッ……」
頭から床に埋まった姉の、長い脚をもって、妹の魔法少女はゆっくりとそれを引き抜く。
咳をした紅色の魔法少女の口からは、コンクリートの破片が零れ落ちた。
赤色「おねいちゃん、気をつけないと、股の間にも粘膜ってあるんだからね」
紅色「姉妹だからって、外でそういう話はしてはいけません」
赤色「……ごめんなさい」
紅色「……助かったわ、ルビィ」
アイス(自分にも妹がいた気がするわね……あれ、弟だっけ)
薄らぐ意識の中で見える姉妹は、きっとこれから死ぬことなんて考えてない。
真姫も、にこも、そのはずだった。
アイス「……ぁあ」
壁を蹴って駆け出して、近くにいた赤色の頭を掴もうと手を伸ばす。 赤色「!」
赤色の背の低い魔法少女は、すぐに身をかがめて反対にアイスの腕を掴む。
赤色「おねえちゃん!」
紅色「はい!」
すぐに肘に向かって紅色の魔法少女の脚が振り下ろされて、燃えるような痛みが関節を逆に曲げる。
アイス「……゛゛ッ」
次を繰り出される前に、仮面ライダーは魔法少女、蹴って距離をとる。
赤色「あぅっ」
床に転がる魔法少女は、倒れたかと思うとすぐに手をついて、跳ね上がるように身体を起こした。
アイス「…………」
燃えるなら、冷やせばいい。
腕を無理やり真っ直ぐにして、氷をギプスのように固める。
紅色「そんな使い方もできるんですね」
アイス「生憎……痛むのよね、こっちは」
相手は痛覚がない。だからいくら攻撃しても、限界を超えるまでは動きが鈍ることは全くない。
アイス「化け物」
紅色「そのままお返ししましょう」 魔法少女の姉妹は両側から仮面ライダーを抑えると、スーツのヒビから中に炎を押し込んだ。
アイス「っ!!」
いくら筋肉がついて、骨が丈夫になっても、熱に耐性がつくことは一切ない。
万力のような力で動きを封じられ、身体を冷たくすら感じる熱で燃やされる。
アイス「…………」
耐えた。
真姫も、こんなに痛かったかしら。
にこも、こんなに寒かったかしら。
花陽は、無事だといいけど。
みんな、まだ生きてるよね。
表情は見えないが、マスクの中で、絵里は泣いた。
泣いてもどうにもならないけど、涙は出てきた。
アイス「…………」
泣いてもどうにもならないから、口では言えても、実際には決心のつかなかったことを、やらなければならないと思った。
アイス「……私にも、殺せる」ガシッ
赤色「え」 アイスは拘束の緩んでいた腕をふるうと、勢いをつけた左腕で妹の方の頭をつかんだ。
紅色「ルビッ……」
焦って油断する魔法少女を押し退け、妹の頭を床に塗り込むように叩きつける。
赤色「あっ……、っがッ」
避けるまもなく不意を突かれ、顔から床に激突する妹を一瞥して、
紅色「ルビィ!」
姉はアイスの頭を掴んで炎で燃やす。
紅色「この……!」ググ…
アイス「…………」
マスクを燃やされているまま、全身のスーツにヒビの入った仮面ライダーは、腕と脚を力なく下へ垂らす。
氷が溶けてポタポタとしずくのおちるマスクの中で、アイスはポツリとつぶやいた。
アイス「……二重変身」
紅色「ッ……!」バチッ
ルビィ「ぎ……ッ」バチバチッ
真下にいるルビィを中心に、2人の魔法少女に向けて激しい電流が流れる。 腕と脚の部分だけが厚い氷で覆われると、スーツは元の腕の4、5倍の太さに膨れ上がって、
脚と腕だけが太い、異形の仮面ライダーになった。
アイス「……!」ガシッ
妹を下敷きにして、左腕で姉の背中をつかむ。右腕を大きく振りかぶると、渾身の力で圧し潰すように殴った。
17歳の姉の身体は、いつもの5倍の筋肉で圧迫される。
紅色「゛゛゛ぁ゛あ」
声にならない声で悲鳴をあげて、魔法少女は光に包まれ変身が解けた。
ダイヤ「……゛゛」
信じられないほど体が細くなっている。代わりに、アイスの手には精肉コーナーで見かけるような何かがこびり付いている。
アイス「……゛ッ」
全身が鉛のように重たい仮面ライダーは、古いラジコンのようにガクガクと動き、下敷きにしていた妹の方を向いた。
誰の妹であれ、妹だ。
私にも妹はいた。いるはずだ。
だから、多分、それが理由だ。
姉を殺した罪悪感で、胸がはちきれそうになってるけど、それは関係ない。
この子が妹だから、殺したくない。
アイス「…………」
……一週間前もそうだった。
遅かった。
もう、そこにいたのは、魔法少女でもなんでもない、普通の女の子だった。
潰れた妹がいた。
アイス「…………」
正義のヒーローは膝から崩れ落ちて、そのまま静かに目を閉じた。
異形の仮面ライダーは、もう目を覚まさない。 ➖➖
穂乃果「!?」
校舎が大きく揺れて、穂乃果はじっと身構えた。
ぱな「さっきから、地震がすごいですね……」
穂乃果「地震なのか、それとも……」
青色「あ」
穂乃果「あ」
穂乃果(青色の魔法少女……!)
見つけた瞬間、穂乃果は自分の楽観視に気づいた。
穂乃果(こ、これ、いままでろくに能力も使われずに負けてきたのに、すぐにわかるわけないじゃん……!)
穂乃果(いや、でも、案外聞けば教えてくれるかも……)
穂乃果「ねぇ、あなたの」
楽観していた。
顔を上げると、隣にいた成り損ないの仮面ライダーは頭を掴まれて床に叩きつけられていて、すぐにその変身は解けた。
花陽「……っは!」ゴロンッ
梨子「うっ……」
青色「あ、えっ!?」
青色「梨子!?」 梨子「うぅ……」
青色「まあ、いいや。後で話聞こう」
青色「…………」チラ
花陽「……ほ、穂乃果先輩、はしっ」
顔を上げた花陽は、すぐに視界を奪われる。
青色「花丸も、痛かったろうね」
指が、指が、目に、目に、
花陽「゛゛゛〜〜〜〜〜〜〜ッ」ビクンッ
花陽が声にならない悲鳴をあげて仰け反る。
穂乃果「う゛っ……」
青色「酷い、とか言いだしたら」
青色「あんたもこうする」
花陽「゛゛…………゛……ッ」ビクッビクッ
穂乃果「…………」
青色「こういう世界なんだよね」 穂乃果「ひっ……ひとつ」
青色「?」
穂乃果「教えて」
青色「……何を?」
穂乃果「あなたの能力、は、なに……?」
青色「あー……」
青色「なんで知りたいの?」
穂乃果「みんなを幸せにするため……」
穂乃果「みんなの、夢を……」
青色「…………」
青色「んー、人に夢を見させられる、的な?」
穂乃果「……夢」
青色「ごめん」
青色「綺麗に言いすぎた。幻覚を見せるだけだよ」
青色「残念ながら、人は幸せにできない」
花陽「゛゛……」ビクンッビクンッ
青色「不幸にしかできない」
青色「今この人、自分のツタが頭に入ってくる夢を見てる」 穂乃果「…………」
青色「どっちがより不幸じゃないか、っていう世界なんだよね」
穂乃果「……不幸じゃ、ないか」
青色「私だって」パァッ…
果南「私だってさ……楽しく生きたいよ」
果南「でも主人公がいなけりゃ、ろくな生活も設定されないんだよ」
果南「じゃあ、こうするしかないじゃん……」
果南「誰かを不幸にすれば、自分と、周りのみんなが幸せになれるなら……」
果南「こうするしか」
果南「これで、誰かを守れるなら」
凛「じゃあ、その指離せえええ!」ガシッ 果南「!」
凛「お前!」ブンッ
果南「づ……ッ」
階段を駆け上がってきた凛が、花陽に指をつっこむ果南に殴りかかる。
間髪入れずにあごを蹴り上げて、果南のバランスを崩す。
凛「かよちん! 早く変身を!」リンパナ!
凛が花陽を抱き上げて、腰にスマホを当てる。ベルトが2人の体を巻きつけて、準備はできるものの、
花陽「゛っ、゛っ、゛……」
凛「言えないの……!?」
凛「変身!」
凛「……変身!」
凛の音声認識では入らない。
凛「なんで!」
穂乃果「!」
穂乃果「変身!」
凛「!?」
穂乃果が隣で叫ぶと、スマホの画面が切り替わり、変身フェーズがはじめる。
凛は戸惑いつつもなんとか花陽の姿勢を保たせて、双葉の中に包まれる。 りんぱな「「ぐぁぁ……!」……ぁ!」
りんぱな「ひぁっ、ひっ、……っ!」
出てきた仮面ライダーは、情緒不安定にマスクを抑えて痛みに悶える。
穂乃果「治らなかったの!?」
りんぱな「「ちっ、ちが……」残ってる痛みがぁぁ……っ!」
2人の中で、10あった痛みが1に減ったものの、その1が無傷だった凛にとって耐え難い激痛になっている。
りんぱな「うあぁ……お前!」
果南「変身」
果南が光に包まれて、すぐに青の魔法少女の姿へと戻る。
りんぱな「「穂乃果ちゃんは走って!」」
穂乃果「わ、わかった!」タタッ
青色「……!」
りんぱな「「いかせない……」せるもんか!」」
いつもの倍のツタが伸びると、青色の魔法少女の顔にめがけて一目散に絡まる。
青色「!」
避けきれなかった魔法少女は視界を奪われると、次の瞬間下腹に激しい痛みを感じた。
青色(人差し指でで殴ってきた……!)
魔法の膜が一瞬で焼け切れた。次に腹に受けたらまずい。
魔法少女は後ろへ下がって、梨子をかばう。
りんぱな「「穂乃果先輩のところには」いかせない……!」
りんぱな「「みんなの夢を叶えてもらう……!」」 青色「それはあんたらだけの夢だ!」ダッ
青色がツタを剥いで、りんぱなの位置を確認する。
青色(梨子を守りきらないと……!)
意識を失ったままの梨子は、廊下の端で力なく伸びている。
りんぱな「「それでも!」最後はみんなが幸せに!」
青色の魔法少女が、飛びかかってきた仮面ライダーをしゃがんで避けると、ポニーテールが千切られそうな勢いで引っ張られ、上を向いた魔法少女の顔につま先が落とされる。
青色「……っ」
目を閉じたものの、鼻が少し痛む。
りんぱな「「みんなが幸せになれるかもしれないなら!」」
りんぱなは魔法少女の首を持って、ツタで何重にも巻き上げた。
りんぱな「「その邪魔をする」あんたは」
りんぱな「「ここで止める」殺す」
青色「む……矛盾してる!」
幻覚を見せようにも、直接肌で触れる必要があるため、スーツを着ていると能力は使えない。
青色(まず……息が……ッ)
抵抗する力が弱まり、魔法少女が小さく痙攣を始めそうになったあたりで、
急に拘束が解けて、青色は地面に崩れ落ちる。 桜色「なら……目の前で果南さんを殺されるなら、私は」
りんぱな「「……!」」
変身を終えて、仮面ライダーの首に壁の破片を叩き込んだ魔法少女は、青色の魔法少女を背にりんぱなの前に立ちふさがった。
桜色「あなたたちを殺す」
りんぱな「なんで……殺し合わなきゃいけないの」殺さなきゃ死んじゃうからだよ」
りんぱな「でも、そうしないために穂乃果先輩は」そのために今ここで!」
青色「ごちゃごちゃうるさい!」ダッ
桜色の魔法少女がコワレヤスキの準備をしていた。
それに合わせようと、青色の魔法少女はりんぱなの後ろに回り込む。
りんぱな「「……おいで!」」
青色「! ……しまっ」ギュッ
植えておいたツタが、回り込んだ青色をぐるぐるに巻きつける。 桜色「果南さ……っ!」
桜色「コワレヤスキ……!」
りんぱな「「!」」
りんぱなには(凛にも、花陽にも)、誰から狙うべきか、わかっていた。
コワレヤスキを使える、この魔法少女がやっかいだ。この魔法少女の力が、一番強い。
だから、不意と隙と裏を突く。
桜色の魔法少女の手首を掴み、手を、捻り、それを、
桜色「……あ」
自分の胸に当てさせる。
青色「!!!」
青色「逃げて!!!!」
桜色「かなっ……」
りんぱなは、魔法少女の真横に立って、拳を振り上げた。
りんぱな「……じゃあね」
勢いよく桜色の魔法少女に拳を叩きつけると、それは壁に吹き飛ぶわけでもなく、その場にとどまるでもなく、障子を破った時のように、
りんぱな「…………」
軽い感触が、何かを貫いた。 梨子「……゛゛゛゛゛」
青色「あぁぁぁ…………」
梨子「゛……゛゛……ッ」
青色「あぁぁぁぁぁ……ぁぁぁ!」
変身の解けた梨子が、青色の魔法少女に向けてぱくぱくと口を開く。
何を言っているのかは、聞き取れない。
青色「きこ……聞こえないよ……」
下半身を真っ赤に濡らした梨子は、仮面ライダーが腕を引き抜くと、人間とは思えないようなあっけない動きで、床に崩れ落ちた。
青色「…………」
りんぱな「「……あんたらがしたこと」だ」
りんぱなはゆっくりと青色の魔法少女の方へ向き直る。
りんぱな「「……同じことだよ」」
凛は、あの日に目が覚めた時の感覚を思い出す。
花陽は、その記憶を受け取る。
涙が出てきた。
青色「……よくわかんないけど」
魔法少女は、力づくでツタを破った。
腕で砂埃を払うと、改めてりんぱなと向き合う。
青色「ただで死ねると思わないでね」 ➖➖1階非常口
水色「…………」
魔法少女は、廊下を歩いた。
戦った跡があった。
水色「…………」
仮面ライダートリックが、スーツのまま頭に穴を開けて倒れている。
水色「……鞠莉ちゃん」
その近くには、ハンドガンをもったままの鞠莉もいた。
水色「ねぇ、鞠莉ちゃん」ユサユサ
鞠莉は涙を流したまま、返事はしなかった。
水色「起きてってば」
壁にもたれかかって座っている鞠莉は、綺麗な金の髪を赤く染めていた。
水色「ねぇ……起きてよ……」
頭に空いた穴は、どう見ても自分で空けた穴だった。
水色「なんでだよぉ……あと少しじゃん……」
水色「ねぇ……鞠莉ちゃん……」
魔法少女は泣いた。 ➖➖1階入口
マリン「…………」
仮面ライダーは、廊下を歩いた。
戦った跡があった。
マリン「…………」
ここに来る途中で拝借した、工事用の爆弾が落ちている。爆発してない。
マリン「あの、ことり……」
ことりはもう、変身できる道具を持っていなかった。
ここに来る途中で、マリンに変身するのはことりにしようかとも考えた。
マリン(けど、学校でマリンになったとき、うまく動ききれてなかったらしいから)
マリン(私が、マリンなるって、言った)
マリン(その方が……2人を守れると……)
ことりの顔が見当たらなかった。
マリン「ことり……」
最後だなんて思ってなかったから、さっき別れたときは、顔も見てなかった。
マリン「最後に笑ったの、いつでしたっけ……」
仮面ライダーは泣いた。 ➖➖1階
廊下に空いた大穴の前で、魔法少女と仮面ライダーは出会った。
マリン「絵里?」
水色「ダイヤさん?」
穴の中に何か入っているとは、2人とも考えもしなかった。
変身の解けた魔法少女が倒れている。
変身したままの仮面ライダーが倒れている。
2人とも、その人に触った。
水色「冷たい」
マリン「こっちもです」
動く気配はなかった。
水色「アイスだから、冷たいとかはないの?」
マリン「いえ、アイスでも力を使うとき以外は、普通のはずです」
水色「そっかぁ……」
マリン「そちらも、ですか?」
水色「まあね……」
マリン「そうですか……」 水色「…………」
マリン「…………」
大穴を挟んで、2人は向き合った。
水色「何しに来たの」
マリン「穂乃果を取り返しに来ました」
水色「返さないよ」
マリン「返していただきます」
水色の魔法少女は穴を飛び越えてくる。
マリン「二重変身」
仮面ライダーマリンは、何のためらいもなく全身を変身し直した。
深い青のスーツの上から、全身の筋肉に沿って刃が生えて、複眼はより細くなりツノが伸びる。手のひらが少し大きくなって、爪の先からは鋭い針のような刃が生えた。
マリン「……穂乃果はどこですか?」
水色「答えると思ってるの?」
マリンは飛び出す。
身体を捻って斜めに斬りかかり、体を回転させてその肌に刃を突き立てる。
魔法の膜がその痛みをなくして、水色は床から水道管をひねり出して水を集めた。
塊になった水をマスクに被せるが、仮面ライダーの動きは鈍らない。 水色「溺れて死ぬよ、あんた」
マリン「…………」
マリンは水色の肩を掴むと、爪を食い込ませようと強く握りしめ、その顔に向けて反対の腕の刀を突きつける。
水色は首を傾けてそれを避け、刃物に当たるのも御構い無しに膝を下腹部に叩き込む。
マスクの中に水が侵入している感覚はある。なのにマリンが鈍る様子はない。
仮面ライダーが一瞬力を緩めると、魔法少女は油断してしまって、その隙に口の中に刀を突っ込まれる。
なんとか噛み付いて止めようとするも、鋭い刃物が口の中を切り裂く感触が嫌でも頭に響く。
溢れ出る水を弾にして仮面ライダーにぶつけると、やっとマリンは仰向けに倒れて、痙攣を始めた。
水色「…………」
水色(溺死なら、あと数秒はかかる……)
仮面ライダーの胸に強く脚を振り下ろす。確かな衝撃と共に、仮面ライダーの鼓動が足の裏から伝わってくる。
変身を解くわけにはいかない。
口に溜まっていく血を吐き出しつつ、魔法少女はじっとマリンを見下ろしていた。 マリン「……ぇ」
水色「……ん?」
仰向けに倒れこんでいる仮面ライダーが、まだ何か言おうとしてる。
マスク「ぇん……」
水色「何、言ってんのか……」ハッ
わからないよ、と言おうとして、魔法少女は操るべき水がマスクの内部にないことに気付く。
水色(……飲み干された!)
マリン「変身」
魔法少女が飛び退くと、周囲の水に電流が流れて蒸発して、仮面ライダーの背筋に沿って……いるのか、それすらわからないほど大量の霧が、全身を包む。
マリン「あ゛ぁ……」
密着、というよりは、ほとんど強引にべたべたと引っ付くように、青黒い霧がマリンのスーツを覆っていく。
肘から、膝から、頭から、肩から、全身の筋肉と関節の位置を無視して、決して壊れる気配のない太くて青黒い刃が伸びてくる。
背中に至るまでもはや規則性はなく、ただ隙間を埋めるように青い刃が伸び放題に立っていた。
水色「…………」
腕や脚は2、3倍に膨れ上がり、複眼も細かすぎて複眼になっているのかどうかすら確認できなくなっている。
悪魔のように長い爪は、もう物をつかむことはできない。 マリン「゛あ゛ぁ゛……」
水色「何言ってんのか……わかんないよ」
マリンが動き出すとわかった時には、水色の魔法少女は水の壁を自分の前に作った。
仮面ライダー……と呼んでいいのか判断しかねるようなそれは、水の壁を突き破って、魔法少女の体に手を伸ばす。
魔法の膜が刃物の侵入を防ぐが、水色は肌の感覚でそれが異常な熱を持っていて、次はないということを確信した。
マリン「お゛゛のが゛゛を」
マリンは獣のような両脚で地面を踏みしめると、廊下を壊しながら魔法少女に飛びかかる。
水色「……!」
魔法少女は動きを見切って、触れられる前に蹴りを放って頭を揺らす。
避ける気の毛頭ない仮面ライダーは、されるがままに壁に全身を激突させる。
マリン「お゛゛のが゛゛をが゛ぇし゛て゛゛……」
水色「…………」
魔法少女は黙って水を集めると、全身に空いたスーツの隙間から、マスクの中に向けて大量の水を流し込んだ。
水色「これで……溺死するはず」
マリンはまだ起き上がってくる。獣のような腕で魔法少女を斬りつけると、魔法の膜を突き破って肩から胸にかけて切り傷を作る。
水色「……!」
全身を水で押さえつけて、なんとか壁の中に仮面ライダーをねじ込む。
真っ白な骨が空気にさらされる痛みは、麻痺したように感じない。
腕を動かすだけで壁を壊すような仮面ライダーは、次第に動きを弱めていき、マスクの中の水の中、静かに呼吸を止めていった。
水色「…………」
口から血を流す魔法少女は、胸にぱっくりと開いた傷口から初めて自分の骨を見て、なぜか笑った。 穂乃果「マ、マリンちゃん……?」
水色「!?」
後ろからした声に水色が動揺した瞬間だった。
仮面ライダーマリンは電池を入れ替えられたかのように動き出し、水色の魔法少女を押し倒す。
全身の刃物で体を固定されて、すでに魔法の膜がなくなっていることを知る。激痛よりも、喪失感の方が大きかった。
獣のように唸るマリンは、開いた傷口の両側を掴むと、
水色「…………゛゛゛」
反対側へ引っ張った。
マリン「゛゛゛゛」
さらにめちゃくちゃに伸びた刀を振り上げて、最後に、魔法少女の、どこを突き刺したのかは、もう、
曜「…………」
本人にはわかっていなかった。
水色の魔法少女だった、普通の少女は、ぐったり手足を寝かせた。
最後に少しだけ息を吸って、少女は何かつぶやく。
曜「ち……かちゃ……」
マリン「゛……」
穂乃果「…………」
最後に何を言いたかったのか、聞き取ることもできなかった。 穂乃果「マ、マリンちゃん?」
穂乃果の知っているマリンの姿ではなかったが、雰囲気でなんとなく感じ取ることはできた。
マリンは少しためらって、囁くようにつぶやいた。
マリン「……変身解除」
顔のスーツが霧のように溶けると、その中から大量の水と血が溢れてきて、制服は中までじっとりと濡れていた。
穂乃果「……あれ、こんなところで、なにしてるの」
穂乃果「……海未ちゃん」
海未「……奇遇ですね」
海未「道に迷ったのですよ」
海未「……帰りましょう」
穂乃果「…………」 穂乃果「ね、ねぇ……奥に、誰か寝てない?」
海未の背中越しに、穂乃果が尋ねる。
海未「あぁ……そっちは絵里ですねぇ……」
海未「腕が……強そうです……」
穂乃果「じゃ、じゃあ、あっち……は」
海未がどんな顔をしているのかは、穂乃果には見えない。
海未「ことりじゃ……ないですかね……」ポロポロ
海未「すごく、顔が少ないですが……」
海未は涙を流して穂乃果に答える。
穂乃果「……マリン、ちゃんに」
海未「…………」
穂乃果「聞きたいこと……言いたいこと……あったんだ……」
海未「……変身」マリン!
力なく、海未がベルトを巻くと、ほんの少しの霧が、喉あたりだけを包んだ。
ぐじゅぐじゅと、もう動く力なんてないのに、身体は無理やり作り直される。
首輪のようなスーツが、虚しく光沢を放った。
マリン「……なんですか」 穂乃果「あの……あのね」
穂乃果「言いたいこと……」
マリン「…………」
穂乃果「いつも……助けてくれて、ありがとう」
穂乃果「誰が入ってても……どんな時でも、マリンちゃんがいなかったら」
穂乃果「私、だめなときいっぱいあった……」
穂乃果「だから……ありがとう」
マリンは静かに涙を流す。
嗚咽の声は聞き取れない。 穂乃果「それから……聞きたいこと」
マリン「…………」
穂乃果「マリンちゃんは……どんな」
穂乃果「どんな力が……使えるの?」
マリンは涙を拭いたあと、いつものマリンの声で答えた。
マリン「人を助ける……」
穂乃果「!」
マリン「……そんな力が」
マリン「使いたかった……」
穂乃果「…………」
マリン「一度死んでも……生き返ります」
マリン「どんな死に方でも……全身に、穴が空いても、呼吸できなくて、死んでも」
マリン「一度だけ生き返る……私の力は、それだけ」
マリン「戦い続けるための……最高につまらない……そんな力です……」
穂乃果「そっか……」
穂乃果「……ありがとう」 穂乃果は膝から崩れた。
階段を降りてくる足音が聞こえる。
マリンは変身を解除して、スマホは廊下に滑り落ちた。
海未が、ゆっくりと、立ち上がる。
誰かが階段を降りてくる。
果南「…………」
果南「ヒュ-…゛゛」
何か言おうとして、息を吸ったことだけはわかった。
息を吸った少女は、階段に座り込んで、呼吸を止めるも、背中をぐったりと曲げて、驚くほど小さく丸まってしまった。
海未が穂乃果の元に歩み寄る。
海未は、穂乃果の前まで来ると、手を差し出した。
穂乃果はそれを受け取ろうとして、
海未が倒れたせいで、それは空振りに終わった。 穂乃果「うぁ……」
穂乃果「うぁぁ……」ポロポロ
穂乃果「うぁぁぁぁ……」ボロボロ
穂乃果「どうすれば……」
穂乃果「どうすればいいの……」
穂乃果「もう、誰もいない……」
穂乃果「誰もいないよ……」
廊下に、穂乃果の声が薄く響いた。
驚くほど音がない空間に、穂乃果の服がこすれる音まで響く。
穂乃果は廊下に転がるスマホを拾った。
海未も、ことりも、この中にいると思うと、少しだけ気が紛れた。 ➖➖
穂乃果「…………」
千歌「…………」
穂乃果「……もう一回」プスッ
穂乃果は、ベルトで千歌と自分を繋いだ。
穂乃果「もう……なにもしたくない……」
…
……
……… ➖➖
千歌「……穂乃果さん」
穂乃果「うぅ……」ポロポロ
穂乃果「なにもできなかった……」
千歌「…………」
穂乃果「魔法少女も、仮面ライダーも、設定を変える力なんて持ってなかった……」
穂乃果「ただ、設定を作る人が便利なように……都合よく変えただけの……」
穂乃果「そんな力だったよ……」
千歌「……穂乃果さんは」
千歌「穂乃果さんの力を、わたしは知ってる」
穂乃果「…………」
穂乃果「……え?」 千歌「繰り返して、何回も繰り返して」
千歌「何度も試した記憶が、コネクターじゃない私にはあるから」
千歌「教えることができる」
千歌「その『設定』を、私は持ってるから」
穂乃果「……私の、力は?」
千歌「夢を」
千歌「夢を叶える……」
千歌「みんなの夢を叶える力だよ」
穂乃果「夢……みんなの……」 穂乃果「でも、それで変われるなら、もうとっくに、みんな幸せに……」
千歌「穂乃果さんが思う、みんなの夢、なんだ」
千歌「もしかしたら……ずっと前の穂乃果さんは、みんなが幸せになれるように」
千歌「『幻だけでも幸せになれる魔法』を祈ったのかもしれない」
千歌「『離れてても気持ちを伝えられる魔法』も、『どこにでも助けに行ける魔法』も」
穂乃果「『死んでも死にきれない力』とか……」
千歌「『たとえ死んでも誰かを守れる力』だよ」
千歌「そういう力が、叶った夢なのかも」
千歌「じゃあ、今の、『設定』も『世界』も『変えられる力』も『コネクター』も」
千歌「全部知ってる穂乃果さんなら?」
穂乃果「全部、知ってる私……」
千歌「なにを願うの?」
穂乃果「なにを、願うか……」
千歌「……時間だよ、あと5秒繋いでれば穂乃果さんは死んじゃう」
穂乃果「……戻りたくない」
千歌「戻って」
千歌「こんな世界を、作り変えて……!」
千歌「穂乃果さんの、夢で……!」
穂乃果「私の、夢……」
…
……
……… 穂乃果「……っああああ!」ブチッ
穂乃果「はぁっ、はぁっ……!」
穂乃果「おえぇ……ッ」
帰ってきた穂乃果は、眩暈に立っていられず、何も入ってない胃から何かを吐き出した。
穂乃果「…………」
穂乃果「私の、力は……」
穂乃果「みんなの夢を、叶える力……」
スマホを握りしめた穂乃果は、ゆっくりと歩き出す。 ➖➖
穂乃果「真姫ちゃん……」
穂乃果「にこちゃん……」
穂乃果「ことりちゃん」
穂乃果「希ちゃん」
穂乃果「絵里ちゃんに……」
穂乃果「凛ちゃん、花陽ちゃん」
穂乃果「海未ちゃんも……」
穂乃果「ごめんね、私が弱くて」
穂乃果「もっと強ければ、みんな……」
穂乃果「みんなの夢は……何?」
穂乃果「私は」
穂乃果「……私は、みんなで、1つのことがしたいな」
穂乃果「殺しあったりしなくて、もっともっと楽しい何か」
穂乃果「それで……音ノ木坂のみんなと、千歌ちゃんたちのみんなで、競い合うんだ」
穂乃果「殺し合いじゃない……ワクワクする何かで」
穂乃果「みんなも、そんな夢を、みてたり、するのかなぁ……」
返事は返ってこない。 穂乃果「だってさ……あんまりだよ」
穂乃果「なにかした?」
穂乃果「わたしたち」
穂乃果「作られる世界だからって……」
穂乃果「自分で選ぶこともできない人がいて」
穂乃果「こんな目にあうの」
穂乃果「楽しい?」
穂乃果「変わりたいよ……変えてよ」
穂乃果「私が……変われるなら……」
穂乃果「みんなが自由に、楽しめる世界に……」
穂乃果「それを……叶えたい」 穂乃果「……叶えたいな」
穂乃果「いや、叶えられるのかな……」
穂乃果「そんなめちゃくちゃな設定に……」
穂乃果「みんなが楽しくて、競い合って、みんなが一番になる可能性がある」
穂乃果「そんな、都合のいい……まるで」ハッ
穂乃果「……まるで、みんなが」
穂乃果「主人公で」
穂乃果「みんなが主人公……そうだよ、それなら、みんなが変えられる、みんなが世界を楽しくできる」
穂乃果「1人ひとりが主人公なら、みんながお互いを幸せにできる」
穂乃果「みんなの夢が叶えられる……これならみんなが幸せになれる」
穂乃果「みんなが平等に競い合える、そんな世界になる……!」 穂乃果「だったら、だったら……!」
少女は立ち上がる。
涙を拭いて、しっかりとその場に立つ。
穂乃果「私は! そのために変身する!」ガシャンッ
穂乃果「叶え! みんなの夢!」ラブライブ!
穂乃果「……ラブライブ?」
穂乃果「はは、楽しそうな名前だね」
穂乃果「殺し合いとは、正反対だ」
穂乃果「これでいいんだよね、みんな」
穂乃果「…………」
穂乃果「じゃあ、それを叶えるために!」バッ
穂乃果「いくよ、変身!」 ➖➖
穂乃果「……どう、かな」
千歌「うん、世界は作り変えられる」
千歌「私は、主人公になる」
穂乃果「私も、主人公のまま」
穂乃果「海未ちゃんも、ことりちゃんも主人公」
千歌「曜ちゃんと、果南ちゃんも」
穂乃果「みんなが、主人公になれる力が欲しい」
穂乃果「それが、私の叶えたい夢」
穂乃果「……どうかな」
千歌「素敵だよ」 穂乃果「じゃあ、何しようか、主人公になって」
千歌「うーん、みんなが平等に活躍できることねー」
千歌「スポーツ?」
穂乃果「野球? サッカー?」
千歌「ロボットに乗ったり!」
穂乃果「お化け退治したり!」
千歌「ゲームしたり!」
穂乃果「おやつ食べたり!」
千歌「それ活躍関係ある?」
穂乃果「ふふふ」
穂乃果「やりたいこと、しよう」
千歌「うん」
千歌「できるかどうかじゃない、やりたいかどうかで、決めよう」
穂乃果「そうだね」 穂乃果「でも、やっぱり目標は欲しいよねー」
千歌「目標かぁー、たしかに」
穂乃果「それが達成できようができまいが、関係ないんだ」
穂乃果「ただ、走っていく目印が欲しいんだよ」
千歌「なるほど」
千歌「うーん、目印ね」
穂乃果「……あ」
千歌「?」
穂乃果「私たちの学校、たしか廃校になりそうなんだよね」
千歌「……そうなの?」
千歌「ウチも!」
穂乃果「え!?」
穂乃果「すごい奇遇……」
穂乃果「! じゃあさ!」
穂乃果「学校を助けようよ!」 千歌「学校を……助ける?」
千歌「それはさすがに……」
穂乃果「無理じゃない!」
穂乃果「いや、無理でもいいんだ……目標だから!」
千歌「……うん、たしかに」
千歌「そう考えたら、素敵かも!」
千歌「自分たちの学校を、助ける!」
穂乃果「じゃあ、決まりだ!」
穂乃果「新しい世界になったら……」
千歌「私たちは、自分のやりたいことをして……」
穂乃果「みんなが主人公で……」
千歌「そして!」
穂乃果「学校を助ける!」
千歌「決まりだね!」
穂乃果「ふふ、楽しみ!」
穂乃果「じゃあ……また会う日まで!」
千歌「叶え!私たちの夢!」
穂乃果「これは……みんなで叶える物語!」
…
……
……… ➖➖
穂乃果「どう?」
真姫「いいんじゃないの」
真姫「楽しそうで」
穂乃果「じゃあ、真姫ちゃんも一緒に!」
真姫「それは……どうかしら」
真姫「私は将来医者になるのよ?」
真姫「あんまり寄り道はしてられないわ」
穂乃果「そっかぁ……」
真姫「でも」
穂乃果「!」
真姫「何にでも使えるように……ピアノくらい、やってみようかしら」
穂乃果「ピアノ!」
真姫「音楽は何にでも繋がるわ」
真姫「そしてそんな『設定』に変えられる力を、私も持ってる」
穂乃果「うん、真姫ちゃんも、主人公だから」 ➖➖
穂乃果「どうかな、これで」
にこ「なるほどねー、いいじゃない」
にこ「私ほどのカリスマ性があれば、もう『設定』の掛け持ちもやっちゃうかもね」
穂乃果「掛け持ち!」
にこ「えぇ、私1人でより多くの人を助けるため!」
にこ「……いや、楽しませる、ためかな」
穂乃果「楽しませる」
にこ「えぇ、もう生きる死ぬの世界じゃない、ただ生きる上でどうするかの世界がいいわ」
にこ「だから、そのために私は……」
にこ「主人公になる」 ➖➖
穂乃果「ことりちゃん、いつもありがとう」
ことり「どしたの、突然」
穂乃果「ふふふふ、なんでもない」
ことり「なによ……えへへへへ」
穂乃果「ことりちゃん、世界が変わっても一緒にいてくれる?」
ことり「もちろん!」
ことり「私の一番の『設定』は穂乃果ちゃんの幼馴染、ってことだから!」
穂乃果「ふふ、そっか!」
ことり「だから、私が主人公になっても、私の主人公は穂乃果ちゃん」
穂乃果「わけわかんないよ……」
ことり「そういうことなの!」
ことり「だから……また一緒にいようね!」
穂乃果「うん!」 ➖➖
穂乃果「これなら……どうかな」
希「いいやん」
希「面白そう!」
希「これならなぜかあったウチのエセ関西弁って『設定』も活かせそうやね」
穂乃果「なにそれ」クスクス
希「お調子者だったり……たまには真面目なのもいいな、いろんな『設定』を渡り歩きたい」
穂乃果「それが、できるんだ」
穂乃果「だって、希ちゃんも」
希「……主人公だから」
穂乃果「うん!」
希「あは!」
希「楽しみ!」 ➖➖
穂乃果「絵里ちゃんはどう?」
絵里「最高じゃない」
絵里「私も主人公……そうね、どんな『設定』にするか悩むわ」
絵里「もちろん、それを決めるのは私ではなく作る人だけと……」
絵里「変えられることはできる」
穂乃果「そうだね」
絵里「なら、楽しいのがいいわね」
絵里「派手に、たくさん、みんなが集まって……騒げるような」
穂乃果「うん、叶えようね」
絵里「えぇ、必ず」 ➖➖
穂乃果「2人も、どう?」
凛「凛は賛成!」
花陽「わ、わたしも!」
花陽「でも、世界が変わっても、一緒にいようね?」
凛「あたりまえにゃ!」
穂乃果「どんな『設定』になっても、2人が一緒にいる『設定』は残り続ける……それが一番」
花陽「そうだよね」
凛「それを選ぶよ、凛は」
花陽「だって……みんなが幸せになれる世界を、だもんね」
穂乃果「……うん」
穂乃果「つくろうね、私たち、主人公全員で」 ➖➖
穂乃果「……海未ちゃんは」
海未「…………」
穂乃果「海未ちゃんは、なにしたい?」
海未「そうですね」
海未「なにも気負わず……穂乃果のそばにいたいです」
海未「ことりと一緒に」
穂乃果「そっか」
穂乃果「また『設定』が変わっても」
穂乃果「世界を変えても」
穂乃果「一緒にいてくれる?」
海未「えぇ」
穂乃果「……ふふふふふ」
海未「何ですか急に」
穂乃果「なんでもない!」
穂乃果「また一緒にいようね!」
海未「はい、もちろん」 ➖➖
はじめまして!
私、高坂穂乃果、16歳です。
このタビ、あと2年でなくなっちゃう私たちの学校を守るために立ち上がりました!
私みたいに普通の何の取り柄もないただの女の子がアイドルなんて、本当になれるかわからないけど。
でも!!
やってみなきゃ、何にも始まらないって思うんです。
私、頑張る力だけは誰にも負けないつもりで頑張ります。
そんな私達をどうか応援してください! 色々な設定があるもんな…
なにはともあれ乙だよ
楽しかったよ 細かいディテールまでよく考えられてるなーと
乙ですのだ ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています