【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
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時は天正18年(西暦1590年)――
世に聞こえる天下人、豊臣秀吉が関東の北条を攻めんとし、天下統一を間近に控えた時代。
伊豆国を治めるいち大名に過ぎなかった小原家――
父の死後、家督を継いだ小原家当主・小原鞠莉は、突如として乱心し、暴虐の限りを尽くしていた。
果てには「悪亜集」なる軍門を組織し、秀吉の首を獲らんと野望を抱く。
終わらぬ破壊と略奪に、伊豆の民は絶望の底へと落とされていた。
しかし、地獄の中でも、希望を捨てぬ者がいた。
侍に憧れる、ひとりの少女。
彼女が、小原家に対抗を続ける水軍の棟梁、そしてひとりの謎めいた旅の浪人と邂逅した時、
歴史の影に埋もれた、とある九人の物語が幕を開ける――
VIPQ2_EXTDAT: checked:vvvvv:1000:512:----: EXT was configured 〜亥の刻 伊豆国の外れ 十国峠付近〜
メラッ
パチパチ…
――日が落ち、夜の闇に包まれた山中。
陣を張る、北条方の武将とその家臣たち――
武将「・・・・・・・・・」
家臣「――殿。この山を越えた先が、豆州にございまする」
武将「うむ。この先が、彼奴等の本拠地」
武将「かつては我らが主・御本城様(北条氏)の臣下でありながら――」
武将「謀反を起こし、果てには秀吉にまで喧嘩を売らんとしている、小原家当主――」
武将「――小原鞠莉!」
家臣「正気の沙汰とは思えませぬな」
家臣「“悪亜(あくあ)集”なる軍門を率いると聞きますが、所詮は無法者の野武士や行き場をなくした浪人の寄せ集め」
家臣「そのような者共が、秀吉は勿論、我ら関東武者に太刀打ちできるとは思えませぬ」
武将「左様だ。しかし小原は、南蛮仕込みの面妖な妖術を使うとも聞く」
武将「万全を期し、今宵はここに陣を敷き、明朝をもって一斉攻勢をかける!」
家臣「御意――!」
ザワッ…
武将「――?」ピクッ
家臣「殿?」
武将(気のせいか? 何かの気配が――)
ザワザワ…
ザザザッ!!
闇の中から浮かび上がるように現れたのは、
黒い鋼の鎧に身を包んだ、不気味な兵達――
兵「なっ!?」
兵「いつの間に――囲まれていた!? 忍びの者か!?」
家臣「何奴、名を名乗れ!!」
ザッ
悪亜兵「――我ら、“悪亜集”」 武将(こ奴ら――どいつも鋼の鎧を着込んでいながら、まるで気配を感じさせぬとは)
武将(ただの無法者集団ではない――!)
悪亜兵「北条氏政が家臣、松田康直殿とお見受けする」
悪亜兵「我らが主君のため、その首頂戴いたす――!」
兵「何を小癪なっ!」
兵「切り捨てい――!!」
ワアアッ!
シャキンッ
ズバッ! ザスッ! 家臣「殿、こちらへ!」
武将(くっ、こ奴らの硬い鎧、身のこなし、やはり只者ではない!)
武将「だが我らも関東に聞こえた氏政公の軍門!!」
武将「無法者共に遅れを取るなどということは――!」
ザワッ…!
武将「・・・・・・・・・っ!?」ゾクッ
武将(何だ、この気配は――殺気!?)
???「極楽も――地獄も先は――有明の」
武将「!!!」
月の光に照らされて。
闇の中より、現れたのは――
ザッ
???「月の心に、懸かる雲なし――」
家臣「貴様は――!?」
武将「南蛮造りの、純白の鋼の鎧――顔半分を覆う、髑髏の面」
武将「そして、異人の如く鮮やかな、金色(こんじき)の髪――!」
武将「――小原鞠莉かっ!!」
カッ!
鞠莉「――いかにも」
鞠莉「我こそが豆州の支配者――淡島城城主、小原鞠莉」 家臣「大将首自ら、のこのこ現れるとは! 痴れ者がっ!!」
武将「小原――! 豆州は汝のものにあらず!」
武将「もとは貴様の父親が御本城様の大恩により、領地を与えられていたに過ぎぬ!」
武将「ここで貴様を討ち取り、豆州を再び北条家の許に取り戻してくれるわ!!」
鞠莉「」クスッ
鞠莉「――何やら、勘違いをされているようデース」
鞠莉「豆州だけが我が領地にあらず。いずれは、関東――」
鞠莉「否。この天下全てが、私のものとなるのだから」
スラッ…
武将(刀を抜いた――何だ、あの刀は!?)
武将(紫色に光る刀身――妖刀だとでも言うか!?) 家臣「貴様――世迷言を!!」
家臣「構わん! 斬れぇぇーー!!」
ワアッ!!
鞠莉「―――」
ニヤッ…
スゥッ
鞠莉「GOOD LUCK♥」
ブワッ
シャキシャキシャキンッ!!
兵「――!!?」
ズバズバズバッ!! 家臣「が・・・・・・あ・・・・・・?」
バタバタッ
武将(馬鹿な・・・・・・今のは・・・・・・一体・・・・・・!?)
ガクッ ドサッ
鞠莉「く・・・・・・く・・・・・・くくくくく」
鞠莉「あはははははははっ!!」
鞠莉「北条も――秀吉も!! この力の前には、恐るるに足らず!!」
鞠莉「私が――悪亜集が、新たな天下を作り上げてやるわっ!!」
――空に浮かぶ、不気味な程に美しい、白く輝く月に。
狂ったような哄笑が、谺(こだま)する――
ゴオオッ…
妖魔の如き力で、その行く手を阻む者を蹴散らす小原鞠莉――
そして、その力を分け与えられた悪亜集。
彼らの前に、周辺の大名たちは手をこまねき、
そして伊豆国の民は、なすすべなく耐え忍ぶのみ。
悪亜集は、来るべき北条軍、そして秀吉軍との戦いに備え、
今日も民から略奪を行っていた――
〜昼 内浦の村〜
村人「悪亜集だぁ!! 悪亜集が来たぞぉーー!!」
ワアアアッ
ドドドドッ
悪亜兵「我ら、悪亜集なり!!」
悪亜兵「世直しの為、ぬしらの金品貰い受ける!!」
ワーワー
キャー
そんな、村を荒らす悪亜集の暴虐を、
村はずれの高台から見つめる、ふたりの少女――
百姓の娘「・・・・・・・・・」ギリッ…
百姓の娘「許せない。何が“世直し”だ・・・・・・!」
漁師の娘「え!? ちょ、ちょっと・・・・・・」 悪亜兵「チッ。これっぽっちしかねえのかぁー!!」
悪亜兵「隠し立てするとただではおかんぞ!!」
美渡「か、勘弁しておくんなませ。もう村には、これくらいしか・・・・・・!」
志満「これ以上お銭や食べ物を差し上げてしまいますと、村人が飢え死にしてしまいます・・・・・・!」
悪亜兵「黙れい! 我ら悪亜集は、世直しの為、自ら“悪”の文字を掲げる義勇の兵!!」
悪亜兵「世直しの為、秀吉を打倒する為ならば犠牲も覚悟の上! ぬしらも世直しの贄となれ!!」
志満「ですが・・・・・・!」
ザッ…
???「――百姓風情が、きゃんきゃん喧しい」 悪亜兵「!」
悪亜兵「理亞様!」
理亞「・・・・・・我々の崇高な使命も理解できない、馬鹿な人たち」
ザッ
大柄な悪亜集の兵達の後ろから現れたのは、
穂長(刀身)二尺(約60cm)余り、全長十尺(約3m)はあろうかという長大な槍を担いだ、
髪を二つ結(ついんてえる)にした、ひとりの小柄な女武者。
志満「・・・・・・!」
美渡(悪亜集の幹部――“鹿角理亞”!)
美渡(小柄な体躯に似合わぬ、身の丈よりはるかに長い大身槍(おおみやり)を使う侍――!)
理亞「来る秀吉軍との戦いに備えた、今は火急の時」
理亞「主君のため、食い扶持を減らしてでも尽くすのが民の役目じゃないの」
志満「そんな・・・・・・! 村には子供もいます!」
志満「これ以上は、みな飢え死にしてしまいます・・・・・・!」
理亞「・・・・・・あくまで逆らうというのね」
理亞「――ならば」 パチッ
目に冷徹な光を宿したまま、理亞は指を鳴らすと――
理亞「ここにいる村人――」
理亞「半分減らせ」
悪亜兵「」ニヤッ…
志満「――!?」
美渡「なっ・・・・・・!?」
理亞「食い扶持が減って困るのならば、“母数”を減らせばいい――簡単なことでしょ?」
理亞「あ、お前たち。殺すのは年寄りにしといてよ」
理亞「若い人は、これからまだまだ働いてもらうんだから」
ニィッ…
美渡「な、なんて、ことを・・・・・・!!」
志満「・・・・・・っ!!」
理亞「さあ――」
スゥッ
理亞「我らが、贄となれっ!!」
ウオオオオッ!!
理亞の号令と共に、雄叫びを上げた荒武者たちが、
刀を抜いて村人に襲いかかろうとした、その刹那。
???「――待てぇい!!」
ダダダダッ!
理亞「!?」
???「どりゃあっ!」
シャキンッ
ドカッ!
悪亜兵「ぐあっ!」
そこに、刀を振り回しながら乱入してきたのは、
橙髪の、ひとりの少女――!
理亞「――女!? 何奴!!」
???「お前たち悪亜集の乱暴狼藉――」
???「たとえお天道様が許したとしても、私は決して許さない!!」
カッ!
千歌「内浦の侍、かんかんみかんの千歌とは、私のことだぁ!!」
志満「ち――千歌ちゃん!?」
美渡「あんた、何して・・・・・・!!」
曜「ちょちょちょ、ちょっと千歌ちゃん!!」
タタタタ
曜「まずいって――!!」
さらにもうひとりの娘が、千歌と呼んだ少女のもとに走り寄る。
千歌「曜ちゃん!」
曜「悪亜集に逆らったりしたら・・・・・・!!」
千歌「だからって、目の前で村の人が殺されそうになってるのに、見て見ぬふりをするなんて・・・・・・!」
千歌「そんなの、女じゃないよ! 侍じゃないよ!!」
曜「千歌ちゃんは百姓の子で、私は漁師の子だよ!」
理亞「なにが侍よ。百姓の娘じゃない」
理亞「百姓風情が我々に逆らうとは片腹痛い。やれっ、お前たち!」
ウオオオッ! カキンッ!
ズバッ!
襲い来る悪亜集の剣撃を、かろうじて避け、刀で受け止める千歌。
千歌「うわうわうわ、やばい!! 曜ちゃん、手伝って!!」
ガキッ!
曜「千歌ちゃん!! くっそー、こうなったらヤケだ!!」
曜「武器は使えないけどっ・・・・・・!!」
そして曜は、ぎゅっと拳を握り込むと、
タタタタッ
曜「喰らえー!!」
ドカッ!
ブンッ ドサッ!
素早い動きで悪亜兵の懐に飛び込み、
顔面に掌底を入れ敵の姿勢が崩れた隙に、腕を取って投げ飛ばす――!
悪亜兵「!? 体術か!!」
ワアアアアッ 理亞「へえ・・・・・・あの子たち、百姓の癖になかなかやるみたいね」
理亞「――だけど」
ドカッ!
千歌「ぐぅっ!!」
バコッ!
曜「うあっ!!」
数に勝る悪亜集に囲まれ、
殴られた千歌と曜が、羽交い締めにされる。
理亞「――所詮は、多勢に無勢」
理亞「それに、鞠莉様から授かった我らが鎧、あの程度では効きはしない」
曜「くっ・・・・・・!!」
千歌「このっ・・・・・・!! 離せ、離せっ!!」 理亞「――無様。所詮あんたたちなんて、この程度」
理亞「粋がってみせても、結局は無力。馬鹿じゃないの」
千歌「ちくしょー! 離せー!!」
理亞「だけど、私たちに歯向かう根性は認めてあげてもいい」
理亞「どう? なんなら、悪亜集に入ってみない?」
理亞「我ら悪亜集、志を同じくして天下獲りのため戦うならば、拒みはしない」
曜「・・・・・・!! 誰が・・・・・・!!」
千歌「絶対にごめんだねっ!!」
理亞「・・・・・・でしょうね」
ニィッ…
理亞「ならば、貴様らはここで――」
シャキッ
理亞は――
その長い大身槍の穂先を、千歌の眼前に、突きつける。
理亞「――我が大槍の露と消えろ!!」 美渡「千歌っ!!」
志満「千歌ちゃああああん!!」
千歌「――っ!!」ギュッ
千歌が、思わずぎゅっと、目を閉じた――
――その刹那。
???「――酷いねぇ」
ズパッ
悪亜兵「ぐむぅっ・・・・・・!?」
ガクッ
ドサッ
千歌「え!?」
曜「な、何?」
???「酷い酷い。どいつもこいつも、寄ってたかってさ」
不意に、千歌と曜を押さえつけていた悪亜集の兵が倒れ、
その背後から、現れたのは――
浪人「義勇の兵が、聞いて呆れるね」
長い髪を総髪(ぽにいてえる)に結い、
背中に、身の丈近くもある大太刀を背負った、ひとりの浪人―― 悪亜兵「貴様、何者だ!!」
悪亜兵「名を名乗れ!!」
浪人「――生憎と、悪党に名乗るような名は持ち合わせていないんでね」
そう言って彼女は、手に持った、小振りの脇差を構える――
悪亜兵「構わねえ! やっちまえ!!」
ウオオオッ!
浪人「遅いんだよ」
シャキシャキッ!
ズババッ!!
理亞「・・・・・・!!」
理亞(あの、小振りな脇差だけで立ち回り――)
理亞(しかも、鎧の隙間に的確に刃を入れている――だと!?) 悪亜兵「くっ・・・・・・おのれ!! なぜ背中の大太刀を抜かん!?」
浪人「お前らの相手なんざ、この大太刀を抜くまでもない」
浪人「脇差(こいつ)だけで、十分だ」
悪亜兵「おっ・・・・・・おのれぇーー!!」
ダッ!
浪人「甘い」
ズバッ!
悪亜兵「ぐ・・・・・・う」
ドサッ
理亞「――!」ハッ
理亞「その背中に負った、身の丈ほどもある大太刀」
理亞「そして決して大太刀を抜くことなく、一尺ばかりの脇差のみで戦う、流浪の浪人」
理亞「まさか貴様――“無太刀の果南”」
理亞「――松浦果南かっ!!」
果南「――だったらどうした」
悪亜兵「り、理亞様・・・・・・!」
理亞「ぐっ・・・・・・」
理亞「ここは――引くわ」
悪亜兵「え!? しかし――!」
理亞「ここにあの松浦果南が現れるとは、想定外」
理亞「兵も損害を受けた――このまま奴と戦うのは得策じゃない。ここは一旦引く」
果南「へえ――」
果南「悪党にも、考える頭はあるんだね」
理亞「くっ・・・・・・!」ピキッ
理亞「・・・・・・だけど、覚えておくことね。悪亜集に歯向かった以上、ただでは済まない」
理亞「覚悟しておけ。国盗りは、遊びじゃない」
果南「ふん。言ってろ、絵空事を」
理亞「撤収! 撤収ーー!!」
ザザザザッ 千歌「・・・・・・・・・」ポカーン
曜「行っ・・・・・・ちゃった・・・・・・」
果南「――たまたま、この村に立ち寄ったら、何だかとんでもないことになってたからさ」パチンッ
果南「しかし、無茶するね。君、大丈夫? 怪我はない?」
千歌「・・・・・・・・・!」ピクッ
千歌「もしかして・・・・・・果南、ちゃん?」
果南「!」
果南「まさか・・・・・・千歌・・・・・・?」
出会いは、新たな出会いを生む。
新たな縁(えにし)が、まだ見ぬ縁を導く。
ごく普通の百姓の子、千歌の、この出会いは――
新たな出会いと縁を生み、やがてその連鎖は大きなうねりとなって、
彼女の運命を飲み込んでいく――
すでに面白いんだ
落ちたらしたらばで続き書いてほすい これは期待
今度出来た移住先の方なら落ちないしSS書きやすいと思う 過疎+ngワードでss向いてないぞそこ
ss総合の方がマシ
速報はゴミ なんか読んだことある気がする
速報で同じようなの書いてエタってなかった? 千歌「果南ちゃん・・・・・・果南ちゃん!」
曜「まさか、果南ちゃんが・・・・・・!」
千歌「久しぶり! 何年ぶりかな!?」
果南「千歌・・・・・・曜も! 大きくなったね!」
千歌「果南ちゃんこそ! すごーい、立派なお侍さんだ!」
果南「そんな大層なものじゃないよ。ただの旅の浪人だし」
千歌「果南ちゃんが、どうして――」
その時。
千歌のもとに、姉の美渡が走り寄り――
ダダダッ!
美渡「――千歌っ!!」
バチンッ!!
千歌「っ!!」 曜「千歌ちゃん!?」
千歌「・・・・・・!! 美渡ねえ、何を、」
美渡「あんたは・・・・・・この馬鹿!! 悪亜集に喧嘩を売るなんて・・・・・・!!」
美渡「殺されるところだったんだよ!!」ジワッ
千歌「だって、あのままじゃみんな・・・・・・!!」
美渡「うるさい! あんたって子は・・・・・・!!」
志満「――美渡ちゃん、待って!」
果南「・・・・・・・・・」
志満を始め、生き残った村人たちが、
果南の前で座り込み、頭を下げる。
志満「――お侍様。助けて頂いて、ありがとうございます」
村人「ありがとうございます!」
村人「ありがとうございます・・・・・・!」
志満「ほら、美渡ちゃんと、千歌ちゃんも」
美渡「ありがとうございます・・・・・・」
千歌「あ、ありがとう・・・・・・ございます」 志満「お侍様がいなければ、村のみんなの命はありませんでした・・・・・・」
果南「・・・・・・いや、礼には及ばないよ。頭を上げてください」
果南「私も、たまたま旅の途中でここに立ち寄って、連中の横暴に腹が立っただけだからね」
志満「それでも・・・・・・!」
ダダダダッ
その時――村に、徒党を組んで、駆け込んできた一団。
水軍の旗印を掲げ、武装した兵達――
???「悪亜集が現れたとの報せを受けましたが――!」
???「村人たちは無事かっ!?」 千歌「あれは――」
曜「――“黒澤水軍”!!」
水軍の兵達の先頭に立つのは――
艶やかな黒髪が見事な、水軍の頭領。
カッ!
ダイヤ「黒澤水軍頭領、黒澤金剛(ダイヤ)ですわ!!」
ダイヤ「悪亜集は、何処(いずこ)に――!?」
果南「悪亜集なら、とっくの昔に尻尾を巻いて逃げてったよ」
果南「遅刻だね――ダイヤ」
ダイヤ「――!!」
ダイヤ「貴方は・・・・・・果南、さん・・・・・・?」 〜その夜、村はずれの寺〜
ホー…ホー…
果南「・・・・・・・・・」
――村はずれにある、小さな寺の離れ。
一夜の宿をとり、行灯の明かりのもと、ひとり座る果南――
その時、外から、雨戸を叩く音。
トントン
果南「!」ピクッ
果南「――誰?」
カララ…
千歌「えへへ・・・・・・果南ちゃん。来ちゃった」
曜「こんばんはー・・・・・・」
果南「千歌――それに曜も」
果南「こんな夜更けに、家を抜け出して来たの? 姉君に怒られるよ」
千歌「いいんだもん。美渡ねえはわからずやなんだもん」プクー
果南「・・・・・・まったく」フッ 〜同じ頃、千歌の家〜
美渡「志満ねえ、千歌は!?」
美渡「布団がもぬけの殻だよ!」
志満「そうねえ。私は気がつかなかったけど・・・・・・」
美渡「まさか、昼間の侍のところへ・・・・・・!?」
美渡「あの馬鹿・・・・・・! ただでさえ、夜中に出歩くなんて危ないのに・・・・・・!」
志満「きっと曜ちゃんも一緒だから、大丈夫じゃないかしら?」
志満「それに、久しぶりに会った昔の友達なんだから・・・・・・今晩くらいはいいじゃない」
美渡「志満ねえは千歌に甘すぎるの!」
美渡「昼間も、悪亜集に喧嘩を売るような馬鹿をやったし」
美渡「私たちは、ただの百姓なんだよ。あの子が本気で、侍を目指すなんて言い始めたら・・・・・・!!」
志満「・・・・・・・・・」 志満「・・・・・・美渡ちゃんは、千歌ちゃんが侍を目指すこと、やっぱり反対なの?」
美渡「当たり前だよ! 忘れたの、お父さんとお母さんのこと!」
美渡「お父さんも・・・・・・お母さんも。ごく普通の百姓だったのに、足軽として、戦(いくさ)にとられて・・・・・・!」
美渡「結局、ふたりとも死んじゃった・・・・・・!」
志満「・・・・・・・・・」
美渡「所詮、百姓は百姓なんだよ。秀吉公みたいに、武勲を上げて偉くなるなんて無理なの」
美渡「千歌に・・・・・・馬鹿な夢を、見てほしくないの・・・・・・!」
志満「美渡ちゃん・・・・・・」 〜時は遡り、昼間、内浦の村〜
ダイヤ「果南さん・・・・・・貴方がここにいるなんて」
果南「久しいね、ダイヤ。何年ぶりかな」
バタバタ
その時、ダイヤたちのもとに駆け寄り、
三人の水軍の兵が武器を構える。
ザザッ
よしみ「我ら、黒澤水軍!」
いつき「か弱き民草は我らが守る・・・・・・!」
むつ「悪亜集はいずこに!?」
曜「・・・・・・果南ちゃんがとっくにやっつけちゃったよ」
よいつむ「「「なんと!?」」」
果南「所詮水軍は、陸(おか)の上じゃ役に立たないってことかなん?」ニマニマ
ダイヤ「ぐぬぬ・・・・・・!!」 ダイヤ「・・・・・・確かにわたくしたちが出遅れたため、村の人たちが危ない目に遭ってしまった。それは認めますわ」
ダイヤ「ですが果南さん、なぜ貴方がここに?」
果南「私は、ただの根無し草だよ」
果南「旅の途中で、たまたまこの村に立ち寄ったら、あの悪亜とかいう連中が暴れてて、ムカついただけさ」
ダイヤ「“無太刀の果南”――貴方の武勇伝は、風の噂で聞きますわ」
ダイヤ「たまたま――ですか。ですが、貴方は――」
ダイヤ「――鞠莉さんに、会いに来たのではなくて?」
果南「・・・・・・・・・!」
フッ
果南「・・・・・・さてね」
千歌「・・・・・・?」 果南「ところで、その・・・・・・」
???「・・・・・・」コソッ
果南「ダイヤの後ろに、隠れてる子は?」
???「ピギッ!?」ビクッ
ダイヤ「もう、まったく――ほら、出てきなさい、ルビィ!」
ソーッ
ダイヤの背後から、恐る恐る顔を出したのは――
小柄な、赤髪の可愛らしい少女。
ルビィ「あ、あぅ・・・・・・おねいちゃ・・・・・・」
ダイヤ「この子は、黒澤紅玉(ルビィ)。わたくしの妹ですわ」
果南「へえ、ルビィちゃんか〜! おっきくなったねえ、私のこと覚えてる?」
ルビィ「ぴっ!」ササッ
果南「・・・・・・ありゃ、隠れちゃった」
ダイヤ「まったく、この子ときたら、極度の人見知りなんですの」
ダイヤ「こら、ルビィ! 黒澤水軍頭領の妹たるもの、もっと堂々となさい!」
ルビィ「ご、ごめんなさい・・・・・・お姉ちゃん・・・・・・」ビクビク よしみ「ダイヤ様」
いつき「怪我をした村人には、薬草を配りました」
むつ「薬草は、今や貴重品ではありますが・・・・・・」
ダイヤ「仕方がないですわ。怪我をした村の人たちを、放っておくわけにはいきませんし」
ダイヤ「では、わたくしたちは撤収しましょう」
よいむつ「「「御意!」」」
ダイヤ「――果南さん」
果南「ん?」
ダイヤ「わたくしたちと・・・・・・共に、戦いませんか?」
ダイヤ「貴方が力を貸してくれるなら、百人力ですわ」
果南「・・・・・・・・・」
フッ
果南「・・・・・・私は、根無し草だからさ」
果南「そういう柄じゃないよ――今更、誰かとつるむなんてさ」
ダイヤ「果南さん・・・・・・」 千歌「あ・・・・・・あの!」
ザッ
ダイヤ「・・・・・・? 貴方は・・・・・・」
千歌「だったら・・・・・・私を、仲間に入れて頂けませんか!?」
曜「ち、千歌ちゃん!?」
美渡「千歌、あんた何言って・・・・・・!!」
千歌「私、百姓の子ですけど、侍になりたいんです!」
千歌「戦って、村を守りたいんです――私も!」
ダイヤ「・・・・・・・・・」
フウ
ダイヤ「・・・・・・貴方、確か前も悪亜集に、無謀にも喧嘩を売ろうとしていましたわね」
ダイヤ「やめておきなさい。貴方たち素人が下手に手を出して、どうこうできるものではありません」
千歌「で、でも・・・・・・!」
ダイヤ「貴方のような素人が、侍になるなど――」
ダイヤ「――認められません!」
千歌「・・・・・・・・・!」 志満「あのう・・・・・・お侍様」
果南「え、私?」
志満「もしよろしければ、今夜は私たちの村にお泊りください」
志満「何も無い村ですが・・・・・・助けて頂いたお礼に、精一杯のもてなしをいたします」
果南「・・・・・・・・・」
果南「いや、やめときます。その気持ちだけで。もてなしてもらうなんて、私の柄じゃないし」
ザッ…
果南「村の外れに、寺があった。今夜は、そこにでも泊めてもらいます」
志満「あ、お侍様・・・・・・!」 ダイヤ「――果南さん」
果南「」ピタッ
ダイヤ「鞠莉さんは――」
ダイヤ「――もう、昔の鞠莉さんではありませんわよ」
果南「・・・・・・・・・」
果南「わかってるよ――そんなこと」
ザッ…ザッ…
ダイヤの言葉に、すげない言葉を返すと――
果南は、そのまま振り返ることなく、立ち去ってしまった。
千歌「・・・・・・・・・?」
曜「果南ちゃん・・・・・・?」 ダイヤ「行ってしまわれました――か」
ダイヤ「わたくしたちも、引き上げましょう」
ダイヤ「ほら、置いていきますわよ、ルビィ!」
ルビィ「うゅ!? ま、待ってよぉ、おねぃちゃぁ〜!」
タタタタ
千歌「・・・・・・・・・」
曜「みんな・・・・・・行っちゃったね」
美渡「・・・・・・!!」
スタスタ
美渡「――千歌!!」
グイッ
千歌「痛っ!? 美渡ねえ、何するの!?」 美渡「侍になりたいだなんて・・・・・・馬鹿なことは言わないで!」
千歌「なんで・・・・・・!」
美渡「侍になんかなったって! 悪亜集みたいに、落ちぶれて悪党になるか!」
美渡「戦って――死ぬだけなんだよ!?」
千歌「そんなこと、」
美渡「お母さんたちのこと、忘れたの!?」
千歌「・・・・・・!」
美渡「とにかく・・・・・・もうやめて。侍の真似事なんて」
千歌「美渡ねえ・・・・・・」
千歌「美渡ねえは・・・・・・侍のこと、嫌いなの?」
美渡「・・・・・・・・・」
クルッ
美渡「・・・・・・嫌いだよ。侍なんて」
曜「・・・・・・・・・」
志満「美渡ちゃん・・・・・・」 〜再び夜、村はずれの寺〜
千歌「・・・・・・嫌い、だって。美渡ねえのわからずや」プクー
果南「姉君の気持ちもくんでやりなよ。ろくなもんじゃないさ、侍なんて」
果南「千歌の、親御さんだって・・・・・・戦にとられて、命を落としたんだろう?」
千歌「そうだけど・・・・・・でも私は、お母さんとお父さんのことも、誇りに思ってるもの」
果南「曜は・・・・・・親御さんは?」
曜「うん・・・・・・おっ母(かあ)は、三年前に、流行り病で」
曜「おっ父(とう)は、漁師船の船頭だったけど・・・・・・」
曜「黒澤水軍と一緒に、村を守るため、悪亜集と戦って・・・・・・死んじゃったよ」
果南「・・・・・・すまない」
曜「ううん、いいの! 私だって、おっ父のことは、誇りに思ってるもの!」 果南「そう言えば――黒澤水軍は、頭(かしら)が代わったんだな」
曜「うん。黒澤水軍は、もともと小原家の臣下の水軍だったけれど――」
曜「今の、鞠莉様が家督を継いで、豆州で暴れまわるようになってから、小原家に背いたんだ」
曜「悪亜集との戦いの中で、前のお頭様は亡くなって――」
曜「今は、娘のダイヤさんが、頭領になって戦ってるよ」
千歌「まだ若いのに、悪亜集に負けずに戦ってて、カッコいいんだよ!」
果南「ふうん――あの、ダイヤがねえ・・・・・・」
曜「果南ちゃん・・・・・・ダイヤさんのこと、知ってるの?」
ゴロン
果南「・・・・・・さてね」
トントン
???「あのー・・・・・・お茶をお持ちしました」
ようちか「「!?」」ビクッ 曜「ま、まずいよ千歌ちゃん、誰か来た!」ボソボソ
千歌「こっそり入り込んだのがバレちゃう! 隠れなきゃ・・・・・・!」ボソボソ
果南「はーい、どうぞー」
ようちか((果南ちゃん!?))アセアセ
???「失礼します」
ふすまを開け、姿を見せたのは――
袈裟をまとってはいるものの、まだ年端もいかぬように見える、少女。
千歌「あっ・・・・・・」
曜「あの、私たち・・・・・・!」
???「・・・・・・あれっ!? お客さんが増えてる?」
???「面妖ずら・・・・・・!」 果南「ははは、気にしなくていいよ。昔なじみだ」
千歌「お、お邪魔してます・・・・・・」
曜「すみません、こんな夜更けに」
花丸「なーんだ、狐か狸かと思ったずら〜」
花丸「オラ、このお寺の住職、国木田花丸といいます。よろしくお願いするずら」
千歌「・・・・・・え!? 住職!?」
曜「見たとこ、私たちよりも年下に見えるのに・・・・・・!?」
花丸「前まではおじいちゃんとおばあちゃんがいたんだけど・・・・・・去年、流行り病で亡くなったずら」
花丸「それからは、オラがこのお寺を守ってるんだ!」エヘン
曜「そう・・・・・・なんだ」
千歌「偉いね・・・・・・花丸ちゃん」 果南「成る程ねえ・・・・・・皆がそれぞれ、色んな境遇の中で、頑張ってるって訳だね」
花丸「あの・・・・・・お侍さんと、そこのおふたりさんの・・・・・・えーと」
千歌「かんかんみかん侍の千歌だよっ!」
曜「宜候(よーそろー)! 漁師の娘、曜っていいます!」
花丸「千歌さんと曜さんは・・・・・・お侍さんと、どういう関係なんですか?」
千歌「果南ちゃんはねっ・・・・・・私の、剣の師匠なんだっ!」
花丸「師匠?」
果南「・・・・・・そんなご大層なもんじゃないよ」フッ 曜「昔ね、私たちが小さかった頃――果南ちゃんは、自分のお父さんたちと一緒に、長浜のお城にいたことがあるんだ」
曜「まだ、小原家が長浜のお城を捨てる前の話だね」
千歌「果南ちゃんも小さかったから、よく村まで降りてきてたんだけど――」
千歌「その時、私、果南ちゃんから剣術を教わったの!」
果南「ちょっとちょっと、大したことは教えてないよ」
果南「せいぜい、剣の握り方とか、構え方、振り方くらいだよ」
千歌「それでも私、感動したんだよ!」
千歌「私と年も少ししか違わないのに、果南ちゃんは剣術を身につけてて、なんてカッコいいお侍なんだろうって!」
花丸「へ〜、すごいずら!」 曜「あの頃は、毎日のように一緒に遊んで、千歌ちゃんは暇さえあれば果南ちゃんに稽古をつけてもらってたね」
千歌「うん。そのうち果南ちゃんは、お家の都合で、他国に行っちゃったけど・・・・・・」
千歌「私、果南ちゃんみたいな侍になれるように、一日も欠かさず、剣の稽古をしてたんだよ!」
果南「まったく――大げさなんだから、千歌は」
曜(あれ――そう言えば、果南ちゃんは今、流浪の浪人だって言ってたけれど)
曜(あの時一緒にいた、果南ちゃんのお父さんや、一族の人たちは、どうしてるんだろう・・・・・・?)
千歌「ねえ、果南ちゃん! また私に、剣術を教えてよ!」
千歌「私、もっともっと強くなりたいの! 強い侍になって、この村を守りたいの!」
千歌「だから――!」
果南「・・・・・・・・・」 果南「いや――それは出来ない」
千歌「・・・・・・え?」
千歌「な、なんで・・・・・・」
果南「さっきも言ったでしょ。侍になんかなったって、ろくなことがない」
果南「ろくなもんじゃないんだ、侍なんて。私だって、大した人間じゃない」
千歌「そんな、果南ちゃんは違うよ!」
千歌「果南ちゃんは・・・・・・!」
曜「・・・・・・・・・」
曜「果南ちゃんが、自分のことをそういう風に言うのと・・・・・・」
曜「流浪人をしていることは、関係があるの?」
果南「・・・・・・・・・」
曜の問いかけに対して、果南は視線を落とし――
そして、ふっ、と口許に自嘲するような笑みを浮かべ――そのまま、寝転がった。
果南「――さてね」 〜同刻 淡島城〜
オオオオ…
――淡島城、天守。
南蛮風の椅子に掛け、頬杖をつきながら、
杯の中の赤黒い葡萄酒を傾ける、小原鞠莉――
鞠莉「・・・・・・・・・へぇ?」
クスッ
鞠莉「現れたと言うの? ――果南が」
理亞「――はっ」
理亞「あの背中に背負った大太刀」
理亞「そして、脇差のみで悪亜集と渡り合う技量」
理亞「音に聞こえた、“無太刀の果南”――松浦果南に相違ございません」
鞠莉「そう――果南が」
鞠莉「く――く、く」
鞠莉「あははははははははっ!!」 理亞「鞠莉様――?」
鞠莉「来てくれたのね、果南っ・・・・・・!!」
鞠莉「また、私のもとへっ!!」
鞠莉「うふふふ・・・・・・楽しいパーティが始まるわっ・・・・・・!」
鞠莉「あはははははっ!!」
???「――鞠莉様」
スウッ
――その時。
音も無く、まるで闇から生まれ出でた影のように、現れた者。
鞠莉「あら――どうしたんデスか、聖良?」
理亞「姉様!」
聖良「申し上げます。先刻、城内にくせ者が紛れ込み――」
聖良「――“煉獄の書”のひとつを、盗まれました」
理亞「なんですって・・・・・・!?」
聖良「面目次第もございません」
聖良「ただ今――“追手”を差し向けております故」
鞠莉「へぇ・・・・・・」クスッ 〜同刻 内浦の村の近く、森の中〜
――その頃。
内浦の村に程近い、森の中。
黒い鎧を身にまとい、闇の中を疾駆する悪亜集の兵たち――
悪亜兵「逃がすなっ!!」
悪亜兵「追えぇーー!!」
ザザザザ
そして、森の中を必死に逃げる、ひとりの少女。
その手には、一本の巻物――
少女「はぁっ・・・・・・はぁっ・・・・・・!!」
ダダダダ
少女「捕まったらっ・・・・・・殺されるっ・・・・・・!!」
少女「なんとしても・・・・・・逃げなきゃ・・・・・・!!」
ダダダダッ 悪亜兵甲「逃げ足の速い奴だ・・・・・・!」
悪亜兵乙「おのれ、我らから逃げられると思うな・・・・・・!!」
と――その時。
森の中の悪亜集の元に現れた――ひとつの人影。
ザッ
???「――ふっ。彷徨える哀れな子羊が」
???「闇の祝福を受けし、この私から逃れられると思っているのかしら?」
闇よりも深い、漆黒の外套(マント)を身にまとった――少女。
悪亜兵丙「貴方は――」
悪亜兵甲「――善子様!!」 善子「――」ピクッ
善子、と呼ばれた黒衣の少女は――
一瞬、不快そうに眉を上げ、
善子「――ねぇ、貴方」
ポイッ
悪亜兵甲(――? 何かを投げ、)
悪亜兵甲「!!」
カッ
ドカァァン!! モクモク
悪亜兵甲「かっ・・・・・・げほっ・・・・・・!?」
バタッ
悪亜兵のひとり、その足元で激しい音と爆煙が巻き起こり、
巻き込まれたその兵が、ばったりとその場に昏倒する。
悪亜兵乙「!!?」
悪亜兵丙(ば、爆発、した・・・・・・!?)
善子「――“夜羽根(よはね)”」
善子「間違えるな。私の名は、夜・羽・根」
悪亜兵乙「はっ・・・・・・ははっ!」
悪亜兵丙「夜羽根様!!」
善子「くくく・・・・・・」
善子「・・・・・・この、“堕天使の夜羽根”から、逃げられると思わないことね」ギランッ
追う者、追われる者。
森の中を逃げるひとりの少女。
彼女を追う、黒衣の刺客。
彼女たちもまた、物語の舞台へと上がる。
呑み込まれる運命の先に待つのは、
果たして希望か、絶望か。
〜森の中〜
ダダダッ
少女「はあっ、はあっ!」
<アソコダ!
<マワリコメ!
少女(駄目、このままじゃ逃げ切れない・・・・・・!)
少女(でも、捕まる訳には・・・・・・!)
少女「!」ピクッ
少女(あそこに見えるのは・・・・・・明かり?) 〜花丸の寺〜
千歌「あはは、それでねー!」
花丸「ふわぁぁ・・・・・・」
曜「花丸ちゃん、眠そうだよ」
花丸「あっ・・・・・・失礼したずら。オラ、普段は朝が早いから、こんなに夜更かしすることもなくて・・・・・・」
果南「そろそろ、丑三つあたりか」
千歌「あ、ごめんなさい! 私すっかり、おしゃべりに夢中になっちゃって・・・・・・」
曜「千歌ちゃん、そろそろ帰ろう?」
花丸「もう遅いし、危ないずら。良かったら、今夜はここに泊まっていくずら」
千歌「ほんと? うーん、どうしようかなぁ・・・・・・美渡ねえに怒られそうだけど・・・・・・」
果南「――!」
ピクッ
曜「・・・・・・? 果南ちゃん、どうかした?」
果南「いや――」
果南(この気配――)
果南(森の中から――か?) 果南が、何かの気配を察した――その時、
ドンドンッ!
千歌「うひゃあっ!?」
曜「な、何!? 誰かが、外から戸を叩いてる!?」
千歌「よ、妖怪!?」
花丸「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏・・・・・・!」
果南「・・・・・・」スッ
ガラッ!
動揺する三人を尻目に、果南は黙って立ち上がり、
戸を開けると――そこに立っていたのは、
少女「・・・・・・!!」
ハァハァ
曜「え・・・・・・あれ?」
千歌「お、女の子・・・・・・?」
梨子「わ、私・・・・・・梨子、って言います・・・・・・!」
梨子「た、助けて――かくまってください!」 ガラガラッ ピシャッ
部屋に迎え上げられた、梨子と名乗る娘。
その顔面は蒼白で、服も身体も泥だらけ、呼吸も荒い。
梨子「・・・・・・・・・」ハァハァ
千歌「大丈夫!? 落ち着いて!」
花丸「服も格好もボロボロずら・・・・・・!」
曜「梨子ちゃん、だっけ・・・・・・? 何があったの?」
梨子「わ、私・・・・・・武蔵国から、逃げてきたの・・・・・・」
千歌「ええっ、武蔵――ってことは、関東から!?」
曜「山を越えてきたの!? なんでまた・・・・・・!」
梨子「・・・・・・・・・」
梨子「私・・・・・・故郷の村を、無くしたの」
梨子「みんなみんな、焼かれて・・・・・・」
千歌「・・・・・・!」
梨子「関東にいても駄目だ、他国に逃げよう、と思って」
梨子「ひたすら逃げ続けて、気づけばここまで来てたんだけど・・・・・・」
梨子「そうしたら・・・・・・」 〜梨子の回想 淡島城の近辺〜
梨子『・・・・・・』ハァハァ
梨子『逃げ続けて、ここまで来たけれど・・・・・・ここ、どこだろう・・・・・・?』
梨子が、夜の闇に包まれた、海岸通りを見渡す。
その時、道の脇の草叢が、にわかにさざめき――
ザッ…
男『待たれ・・・・・・そこのお人・・・・・・』ヨロッ…
梨子『!? だ、誰!?』ビクッ
梨子『・・・・・・!? 酷い怪我・・・・・・!』
現れたのは、黒装束に身を包み、
身体から血を流した、ひとりの男。
男『お主に・・・・・・頼みが、ある・・・・・・』
男『これを・・・・・・!』
スッ
梨子『・・・・・・!? 巻物・・・・・・?』 男は、梨子に向かって一本の巻物を差し出し、
息も絶え絶えに、語る。
男『これは、淡島城より奪いし、“煉獄の書”・・・・・・!』
男『この中に、奴らの、小原の秘術の秘密が・・・・・・』
ガハッ!
梨子『!! 大丈夫ですか!?』
男『俺は・・・・・・もう、駄目だ・・・・・・』
男『しかし・・・・・・! この書は、この世にあってはならぬ・・・・・・!』
男『頼む・・・・・・! この書を、奴らの手に渡さぬよう・・・・・・!』
スッ
梨子『・・・・・・? この、巻物を・・・・・・?』
男『!!』ゲボッ!
梨子『!? しっかり!!』
男『頼む、この書を・・・・・・!!』
ガクッ
男が倒れ、こと切れた――その時。
<アッチダ!
<ニガスナ!
バタバタ
遠くから近づいてくる、男たちの怒号と、複数の足音。
梨子『・・・・・・!? もしかして、この巻物を奪いに・・・・・・!?』
梨子『に、逃げなきゃ・・・・・・!!』 梨子「――そんなことがあって。もう、訳がわからない・・・・・・!」
千歌「“レンゴクの書”・・・・・・!?」
曜「その男の人は、他の国の大名の、隠密か何かだったのかな・・・・・・?」
梨子「これが、その巻物なんだけど・・・・・・」
スッ
曜「それじゃもしかして、これを狙って、悪亜集が・・・・・・!?」
果南「・・・・・・・・・」
果南(気のせいか? この娘――)
秘かに、果南が眉をひそめた――
――その時。
ザワッ…
果南「!」ピクッ
花丸「か、果南さん?」
果南「・・・・・・どうやら、もう逃げ場はなさそうだよ」
花丸「ええっ!?」
梨子「・・・・・・・・・!!」 〜花丸の寺 境内〜
ザザッ…
――暗闇に紛れて、花丸の寺を取り囲む者たち。
悪亜集の兵たちと、黒衣の少女――
悪亜兵「夜羽根様。寺の周りは、完全に囲みました」
善子「ふっ。籠の中の鳥とは、このことね」
ドンドンッ!
悪亜集の兵たちが、閉ざされた本堂の戸を乱暴に叩く。
悪亜兵「この戸を開けられいっ! 我ら、淡島城城主、小原鞠莉公の配下、悪亜集である!!」
悪亜兵「ここに逃げ込んだ娘を出せ! 隠し立てするとためにならんぞ!!」 すると、堂の中から、か弱い少女の答える声。
花丸「・・・・・・お侍様方、このお寺には住職のオラ以外、誰もいないずら」
花丸「夜も遅うございますし、お引き取りしてほしいずらー」
悪亜兵「たわけたことをっ! ここに逃げ込んだのはわかっているぞ!!」
悪亜兵「なめくさりおって!! 構わん、戸を破れぃ!!」
ワアアッ!!
ドンドカッ!
果南「――やれやれ」 ズパッ
バカッ!
悪亜兵「――!?」
悪亜兵「戸が、中から斬られ――!?」
そして、真っ二つに斬られた戸の向こうから、
悠然と現れたのは――
果南「ゆっくり、寝かせてもらいたいんだけどねぇ」
ザッ
悪亜兵「・・・・・・!! 松浦果南!!」
悪亜兵「なぜ貴様がここにっ!?」
花丸「か、果南さん・・・・・・」
果南「任せといて、マル」
花丸「・・・・・・後で、戸の直し賃を頂戴するずら」ジトッ
果南「・・・・・・う。貸しにしといてくれ」タラッ 果南「――さて」
果南「娘がどうとか、どーでもいい」
果南「私は気持ちよく寝ようとしてたんだ。その寝込みを襲おうっていうんだから――」
スラッ…
果南「――覚悟は出来てるな?」
悪亜兵「く・・・・・・!」
悪亜兵「そ・・・・・・そんな短い脇差一本で何が出来る! かかれっ!!」
ワアアッ!
果南「――上等」ニッ
シャキンッ!
ズパッ!
悪亜兵「ぐわっ!」
悪亜兵「ひでぶっ」 一方、堂の中に隠れ、
境内で戦う果南と悪亜集の様子を窺う、千歌たち。
千歌「・・・・・・梨子ちゃんは、部屋の奥に隠れてて」
梨子「・・・・・・!!」
梨子「すごい、あの果南さんっていうお侍、強い・・・・・・!」
梨子「あんな短い脇差一本で、何人もの鎧武者と渡り合ってる・・・・・・!」
千歌「当たり前だよ! 果南ちゃんはすごいんだから!」
曜「でも・・・・・・昼間の時より、相手の数が多い」
曜「流石の果南ちゃんも、この数が相手だと・・・・・・」
悪亜兵「かかれかかれ! 所詮は多勢に無勢!」
悪亜兵「いかに“無太刀の果南”といえども、この数にかなうと思うなよ!!」
果南「・・・・・・言ってろ」
ガキン!
ズパッ!
――数に勝る悪亜集に、一歩も退かず渡り合う果南であったが、
四方八方から次々と襲い来る兵たちに、手こずっているのは明らかであった。
曜「このままじゃ・・・・・・!」
千歌「・・・・・・!」 千歌「・・・・・・曜ちゃん」
曜「え?」
千歌「美渡ねえや果南ちゃんは、侍になんかなるな、って言ってた・・・・・・」
千歌「確かに、侍の中には酷い人だっている。そのくらい、私にだってわかってる・・・・・・」
曜「千歌ちゃん・・・・・・」
千歌「だけど・・・・・・だけどね」
千歌「本当の、侍って・・・・・・誰かが困ってる時、力になってくれる」
千歌「そんな人のことを言うんじゃないかなって、千歌は思うの」
千歌「そう・・・・・・果南ちゃんみたいに」 グッ
千歌「ね・・・・・・曜ちゃん」
千歌「もし私と一緒に、侍になろうって言ったら・・・・・・」
千歌「曜ちゃんは・・・・・・一緒に、やってくれる?」
曜「・・・・・・・・・」
曜「本気・・・・・・なんだね」
クスッ
曜「私、小さい頃からずっと思ってた。千歌ちゃんと一緒に、何かやってみたいって」
曜「だから・・・・・・」
千歌「・・・・・・!!」
千歌「曜ちゃん・・・・・・!」 キイン!
ガンッ!
悪亜兵「ふふふ、流石だな、松浦果南」
悪亜兵「しかし貴様とて、この数を一度に相手にするのは容易ではあるまい」
果南(くっ・・・・・・! 一人一人は雑魚だけど、いかんせんこの数は・・・・・・)
悪亜兵「さあ、どんどんかかれっ!!」
ウオオオッ!
カキン! ギンッ!
悪亜兵「その隙に、寺の中へ押し入るのだ!!」
ワアアアッ!
果南が見せた、一瞬の隙を逃さず、
兵の何人かが、堂に向かって突進する。
果南「くっ!! しまっ・・・・・・」 千歌「どおりゃあああ!!」
ギインッ!!
悪亜兵「ぐあっ!?」
曜「蹴りいいいいいっ!!」
ドキャッ!!
悪亜兵「へぶっ!?」
――その時。
堂の中から飛び出した千歌と曜が、押し入ろうとした兵たちを、勢いに任せて蹴散らす――!
千歌「果南ちゃん!!」
曜「大丈夫!?」
果南「な!? 千歌、曜!?」
果南「何しに出てきた!! ふたりは中にいろって・・・・・・!!」 千歌「果南ちゃん! 私は確かに、ごく普通の百姓の子だよ! でもね・・・・・・!」
千歌「困ってる人がいるのに、それを見て見ぬふりするほど、腐ってもいない!!」
果南「!」
曜「私だって! 果南ちゃんと千歌ちゃんが頑張ってるなら・・・・・・!」
曜「ひと肌脱ぐよ! おっ父だって、きっとそうした!!」
果南「千歌、曜―――」
キッ!
果南「――いいか! あくまで、己の身を守るために戦えっ!!」
果南「いいね!!」
千歌「合点(がってん)――」
曜「――承知之助!」 悪亜兵「このっ・・・・・・! 舐めるな小娘ぇ!!」
ガキッ!
千歌「ぐぅぅ・・・・・・!!」
ギリギリ
兵のひとりが、千歌に斬りかかり、
千歌はかろうじて、刀でそれを受ける。
悪亜兵「ふはは、防ぐだけで精一杯じゃねえか!!」
悪亜兵「百姓の小娘風情が、悪亜集にかなうと思うなぁっ!!」
ギインッ!
千歌「あうっ!」
ズザッ
体格に勝る悪亜兵が、力任せに押し返し、
弾かれた千歌は倒れそうになるも、なんとか踏みとどまる。
悪亜兵「くくく・・・・・・一丁前に、刀なんざ構えちゃいるが・・・・・・」
悪亜兵「どうせ、人を斬ったことなんざねえんだろぉ!? てめえにゃそんな刀、勿体無ぇ!!」
千歌「うるさい・・・・・・!! この刀は、戦で戦ったお母さんの形見の刀・・・・・・!」
千歌「私は、この刀で・・・・・・! 本当の、侍になるっ!!」 悪亜兵「しゃらくせぇっ!! 死ねっ!!」
グオッ!
千歌「・・・・・・!!」
千歌に向かって、悪亜兵が刀を振り上げる――!
千歌(落ち着け・・・・・・! 相手の動きは大振り!)
千歌(昔、稽古をつけてもらった頃の、果南ちゃんにすら劣る・・・・・・!!)
千歌(落ち着いて、相手の体の、全体を見るっ!!)
チャキッ
千歌(相手は銅鎧を身につけてるけど・・・・・・果南ちゃんは、瞬時に鎧の隙間に、刃を当てていた)
千歌(だったら――そこを狙って!!)
グッ
千歌「そこ!!」
ドグッ! 悪亜兵「ごふぁっ!?」
千歌「や、やった・・・・・・!!」
悪亜兵「馬鹿、な・・・・・・!!」
ドサッ
千歌は、返した刀の峰を、悪亜兵の胴当ての隙間に叩き込み――
兵は、その場に昏倒した。
千歌「・・・・・・峰打ちだから、勘弁ね」
ドキドキ
千歌(やった! 私だって・・・・・・戦える!!)
キッ
千歌「来るなら来い、悪亜集!!」
千歌「みんなはっ・・・・・・私が、守るっ!!」 悪亜兵「ぐへへ・・・・・・」
ジリジリ
曜「・・・・・・!」
―― 一方の曜。
武器を持たない曜に、刀を構えた兵のひとりが、じりじりとにじり寄る。
悪亜兵「丸腰じゃねえか。それでどうやって戦うつもりだ、ああ?」
曜「・・・・・・私は、武器を使えないからさ」
曜「いや、違うかな。“使えない”んじゃない、“使わない”んだ」
曜「おっ父も言ってた。海の男は、武器になんか頼らず、自分の体ひとつで戦うんだって」
悪亜兵「何を寝言ほざいてやがる!! 死ねっ!!」
ジャキッ!
グオッ!
曜の脳天目掛け、
悪亜兵が、刀を振り上げる――!
曜「―――」
スゥッ ――しかし。
曜の頭は、冴えていた。
その目で、瞬時に、相手の全身を見渡す。
曜(――遅い。それに動きが大振りで、無駄がありすぎる)
曜(私に稽古をつけてくれてたおっ父は、もっと――)
曜「――速かった!!」
ダンッ!!
悪亜兵「!?」
悪亜兵が刀を振り上げた、その刹那。
相手が刀を振り下ろすより一瞬速く、曜は相手の懐へと踏み出す。
曜(おっ父は言ってた。刀を、怖れるな)
曜(刀を振るえば、動きは大きくなる。刀を恐れず、振られる前に、一気に間合いに踏み込んで――)
ガッ
ガシッ
曜(襟口と腰を掴んで、一気に重心を崩し)
曜(肘を相手の首に入れたまま――投げ落とすべし!!)
曜「どおおりゃあああああっ!!!」
ブワアッ
ドキャッ ゴキッ!!
悪亜兵「!!?」 悪亜兵「が・・・・・・あ・・・・・・!?」
ガクッ
曜「はぁぁ・・・・・・やった・・・・・・!」
曜に投げ落とされ、頭を地面に強打した悪亜兵は、
そのまま白目を剥き、失神した。
曜(武器がなくったって・・・・・・私も、戦える!)
曜(千歌ちゃんの、力になれる・・・・・・! 侍に、なれるんだ!)
曜(この、おっ父直伝の――体術があれば!!)
曜「――宜候(よーそろー)!!」
曜「さあ、どんどん行くぞぉぉーー!!」 〜寺の中、本堂〜
梨子「・・・・・・!!」
ドキドキ
梨子(すごい、あの、千歌ちゃんと曜ちゃんって子・・・・・・!)
梨子(悪亜集を、倒した・・・・・・! ただの、百姓の子じゃないの?)
梨子(あの、果南さんっていう侍は、相変わらず強いし・・・・・・)
ゴクッ
梨子(ここに隠れてるように、言われたけど・・・・・・)
梨子(助かる、かも・・・・・・?)
――その時。
梨子の背後の闇から、現れた者――
ギシッ…
???「――そんな、格子の隙間から覗き見してないで」
???「もっと近くで、見物してはいかが?」
梨子「!?」ビクッ
梨子「――誰!?」 スゥッ
善子「――くくく。愚かな人間風情は、この私をこう呼ぶわ」
善子「“堕天使の夜羽根”と」
梨子「だ・・・・・・だてんし・・・・・・!?」タラッ
梨子「そ、それより・・・・・・! 貴方、どこから・・・・・・!!」
善子「くくく。夜羽根の魔術に、不可能は無いのよ」
梨子「そうか! あえて表で派手に部下を暴れ回らせ、注意を表に向けて――」
梨子「自分はこっそり、裏から侵入したのね! せこい!」
善子「せこい言うな!」 善子「ふふ・・・・・・まあいいわ。追い詰めたわよ」
ジリ…
善子「さあ、大人しく、我らが城から奪った書を渡しなさい」
梨子「・・・・・・!」
梨子「あの巻物は、渡すわけには・・・・・・!」
善子「愚かな・・・・・・あくまで、夜羽根に逆らうというのね」
善子「手荒な真似はしたくないけど――致し方ない」
ジリッ
善子「力ずくでも――!」
梨子「――!」
???「――そこまでずら!」
シャッ! ブンッ!
善子「!!」
バッ!
不意に突き出された刃を、
善子が咄嗟にかわす。
善子「危なっ――誰!?」
梨子「和尚様――」
梨子「じゃなくて、花丸ちゃん!!」
チャキッ…
花丸「――オラのお寺で、乱暴狼藉する人は」
花丸「いくらオラでも、許さないずら」
現れたのは、
十字の刃が光る槍を構えた、花丸――!
善子「十文字槍――ですって?」
善子「ただの坊主じゃないわね――」 花丸「おじいちゃんから受け継いだ、宝蔵院流槍術――」
花丸「――ただの坊主だと思ったら、大間違いずら」
善子「ふ――面白い」
バサッ
善子「所詮は脆弱な人間風情の武器術など、恐るるに足らず」
善子「この“堕天使の夜羽根”の魔術に――」
ギランッ
善子「――恐れおののくがいいわ」 続く
余談ですが、この時代(天正18年:西暦1590年)の2年前にはすでに秀吉により刀狩令が発布されていますが、
実際は何らかの理由をつけて農民が武器を所有したままであることも多く、
そこまで「農民から武器を取り上げる」ことが徹底されていた訳ではなかったようです
ちかっちやマルが刀や槍を持ってるのもそういう訳でひとつ大目に見てやってください
詳しくはwikipediaかなんかで 宝蔵院流と聞くとバガボンドを思い出す
マルちゃんも強いのかな 刀狩りはどの時代も象徴的なものだしね
明治の廃刀令も没収はされてないし 〜花丸の寺 境内〜
果南「はぁっ!」
キィンッ!
ガスッ
悪亜兵「ぐあ!?」
果南(・・・・・・妙だね)
果南(こいつら、数は多いけど、そこまで必死に戦っているように感じない)
果南(まるで、時間稼ぎでもしているかのような――)
果南「!」ハッ
果南(まさか――!?) 〜寺の中、本堂〜
善子「槍術――大した槍だけれど」
善子「貴方みたいな小坊主に、まともに扱えるのかしら?」
花丸「馬鹿にしないでほしいずら」
花丸「・・・・・・ん?」
花丸「暗くて、よく見えなかったけど・・・・・・よーく見ると・・・・・・」
花丸「真っ黒のマントなんか羽織って、南蛮かぶれずら?」
善子「なっ!? 南蛮かぶれじゃなーい!」
善子「あったまきた・・・・・・! この夜羽根の魔術を見て、恐怖におののくがいいわっ!」
善子「堕天流魔術・壱式・・・・・・!」
スッ
花丸(・・・・・・? マントの中に手を入れて・・・・・・)
花丸(何をするつもりずら?)
善子「――“地獄火焔龍”!!」
ボワッ!! マントから出した右手を、花丸と梨子に向けた瞬間、
差し出した善子の右手から、炎が放たれる――!
花丸「なっ!?」
梨子「て、手から火を吹いた!?」
ボワッ!
花丸「危ないっ!!」
バッ
善子「くくく・・・・・・上手く避けたみたいだけど」
善子「私の“地獄火焔龍”から、逃れることなんて・・・・・・!」
花丸「――こらああぁぁぁぁ!!」
善子「へっ!?」ビクッ
花丸「お寺の中で火なんて燃やしたら危ないずら!!」
梨子「は、花丸ちゃん?」
善子「ご、ごめんなさい・・・・・・」シュン
梨子「素直に謝った!?」
梨子(意外と、いい子なのかも・・・・・・) 善子「――って! なんで私が謝らなきゃ、」
花丸「隙ありぃっ!!」
ヒュバッ
善子「あああぶなっ!?」
ビュンッ
善子の隙を逃さず、花丸が槍を突き出し、
善子はかろうじて、槍の刃を避ける。
善子「こんの卑怯者!!」
花丸「貴方に言われたくないずら!」
花丸「南無阿弥陀仏――お覚悟!!」
ビュッ
善子「くっ・・・・・・!!」 善子(あの槍は厄介ね・・・・・・この暗い屋内じゃ・・・・・・)
善子「ならばっ!」
サッ
花丸(――!? また手をマントの中に、)
善子「堕天流魔術・弐式――“天堂極閃光”!!」
カッ!!
今度は、マントから手が出された瞬間、
堂内を、まばゆい光が照らす――!
梨子「!?」
花丸(光――!? 目くらまし!?) 〜花丸の寺 境内〜
カッ!!
千歌「――!? 曜ちゃん、あれ――!?」
曜「うん! お寺のお堂の中から、強い光が――!?」
果南が戸を斬った、本堂の入口。
その中から、まばゆい光が周囲にこぼれる。
カアアッ!!
曜「ま、まぶし・・・・・・!!」
千歌「な、なに、なんなのぉ!?」 千歌たちの目が慣れてきて――
一同が、寺の本堂の方へと、視線を凝らすと、
善子「あーっはっはっはぁ!!」
千歌「!? な、なに!?」
曜「あそこ、お堂の屋根の上!!」
バサッ…!
果南「な・・・・・・なんだ?」
果南「あの、変なマントを羽織った傾奇者は・・・・・・」
本堂の屋根の上に、いつの間によじ登ったのか、
漆黒のマントをはためかせ、妙なポーズで立つ善子の姿。
悪亜兵「よ・・・・・・善子様!」
悪亜兵「善子様!!」
善子「だから夜羽根よっ!」
ピョーン 善子「くくく・・・・・・計画通り」ギランッ
善子「あんたたちが表で騒いでる間、“煉獄の書”はまんまと頂いたわ!」
善子「ほら、この通り」
スッ
千歌「あ! あの巻物!」
曜「とられちゃったの!?」
善子「あははは! 愚かな下界の人間どもめー! まんまとしてやったわ!」
善子「さあ、さっさと撤収するわよっ!」
巻物を手にした善子が、勝ち誇った高笑いを上げていると――
花丸「――おおっと」
ザッ
花丸「まんまとしてやったのは――どっちずら?」
梨子「げほっ、ごほっ!」
本堂の中から煙に巻かれつつ、
外に出てきたのは、花丸と梨子。
千歌「花丸ちゃん、梨子ちゃんも!」
曜「無事だったんだね!」 善子「ふ。負け惜しみとは、愚かな――」
花丸「そんな、カッコつける前に」
花丸「その巻物、よーく見るといいずら」
善子「なんですって? これがなんだって・・・・・・」
善子「・・・・・・!!?」
善子「違う! “煉獄の書”じゃない!?」
花丸「まんまとひっかかったずらね! それは、オラがつけてるお寺の家計簿ずら!」
花丸「あの、光で目くらましをした隙に、巻物を盗っていったんだろうけど――」
花丸「こんなこともあろうかと、あらかじめすり替えておいたずら!」
梨子「本物は、お寺の中に隠してあります!」
善子「ぐうう・・・・・・だ、騙したのね・・・・・・!」
善子「おのれえぇぇ・・・・・・!!」 善子「許さないっ・・・・・・!!」
善子「あんたたち全員、この堕天使・夜羽根の最強魔術で、灰燼と化すがいいわっ!」
サッ
果南(マントの中に、両手を入れた――!?)
果南「気をつけて、何かするつもりだよ!!」
善子「遅いわっ! 堕天流魔術・参式――」
善子「――“魔界光龍弾”っ!!」
バッ!
バラバラッ
マントの中から出された善子の両手から、
小さな球のような“何か”が、屋根の下にばらまかれる。
曜「――!?」
千歌「屋根の上から、何か、投げ――」
カッ!
果南「!?」
ドカドカドカァァン!! 善子がばらまいた“何か”は、
地面に落ちるたび、爆発を起こす――!
千歌「げほっ、ごほっ!」
果南「み、みんな無事!?」
曜「な、なんとか・・・・・・!」
梨子「ば、爆発した・・・・・・!?」
花丸「一体、なんなんずら・・・・・・!?」
善子「あはははっ! まだまだいくわよぉー!」
ポイポイッ
悪亜兵「ちょちょ、夜羽根様、我々も巻き添えに――!」
ドカドカァン!!
善子「くくく、はーはっは!!」
善子「堕天使・夜羽根を馬鹿にした罰よっ! 地獄の業火に焼かれるがいいっ!!」
悪亜兵「駄目だ聞いちゃいねえ!!」 曜「あぶあぶ、あぶなっ!!」
花丸「逃げなきゃ、ふっとんじゃうずら!」
千歌「なんなの、これ!? あの子が言ってる通り、妖術!?」
果南「そんな訳ない。この攻撃は――」
千歌「もー、頭きたよ! 妖術だかなんだか知らないけど、こんな危ないこと、やめさせなきゃ!」
果南「ちょ、ちょっと千歌!?」
善子「ふふふ。さあとどめに、もう一丁――」
千歌「こらぁー!! 待てぇー!!」
ヨジヨジッ
善子「――え!?」
柱伝いに、屋根によじ登ってきた千歌の姿を目にし、
善子は、思わず目を剥く。
千歌「ぜえぜえ・・・・・・そんな危ないこと、したら駄目だよ!!」
善子「よ、よじ登ってきた・・・・・・!? 屋根の上に!?」
善子「なんなの、この子!?」 千歌「妖術だかなんだか知らないけど、あんなことしたら危ないじゃん!」
善子「あ、危ないって、あんたねぇ・・・・・・! それにあれは妖術じゃなくて堕天流魔術よ!」
千歌「どーでもいいー!! 貴方はこの場で成敗するっ!!」
チャキッ
屋根の上で善子と対峙した千歌が、刀を構える。
善子「このっ・・・・・・! 来ないでっ!!」
善子「それ以上近づくなら、堕天流魔術・壱式・・・・・・!」
スッ
梨子「――!」
梨子「避けて、千歌ちゃん!!」
善子「――“地獄火焔龍”!!」
ボワッ!
千歌「!? あぶなちゃちゃっ!?」
千歌「ひ、火!? 手から火が出た!?」 善子「くくく・・・・・・我が堕天流魔術の力、思い知ったか・・・・・・!」
千歌「そ、そんな・・・・・・本当に、妖術が使えるなんて・・・・・・!」
善子「だから堕天流魔術!」
善子「いいわ、貴方はこの地獄の火炎で、消し炭となるがいい・・・・・・!」
千歌「く・・・・・・!」
千歌が、思わず怯んだ――その時、
果南「待てぇっ!!」
ブンッ!
地上の果南が、手に持った竹筒を放り投げ、
それは、屋根の上の、善子に当たる。
バコッ!
善子「あだっ!?」
バシャッ!
善子「な、何・・・・・・!? 竹筒の・・・・・・水筒!?」
善子(しまった、手が水に濡れて・・・・・・!) 果南「幽霊の正体見たり枯れ尾花ってね」
果南「あんたのそれは、妖術でも魔術でもない」
ビシッ
果南「――ただの、“火薬”だ!!」
善子「!!」ギクッ
梨子「手から火を出したのは、おそらく手に筒のようなものを隠し持って、そこに仕込んだ火薬か油に火を点けただけ」
梨子「あの目くらましの光は、ただの音と光の強い花火――火薬玉です」
果南「そして、さっきからばらまいているのは、小型の焙烙(ほうろく)玉だろう」
花丸(この梨子さんって人、なんだか妙に、詳しいずらね・・・・・・)
果南「つまりあんたは、魔術使いでもなんでもない」
果南「――火薬を始めとした火器を操る、“火器使い”だ!!」
善子「ぐ・・・・・・うぅ・・・・・・!!」 千歌「え!? 魔術じゃなかったの!? 騙したなー!」
善子「う・・・・・・うるさいうるさーい!!」
善子「私は堕天使の夜羽根! 誰がなんと言おうと魔術なのよっ!」
果南「――千歌っ!!」
果南「相手の武器はただの火薬だよ! ならば戦いようもある!」
千歌(戦い方・・・・・・? それって・・・・・・?)
千歌(火薬・・・・・・火薬は火・・・・・・火なら・・・・・・)
千歌「――!」ハッ
善子「なにごちゃごちゃ言ってるのよ!」
善子「私の魔術を馬鹿にした奴は、地獄の業火で・・・・・・!」 千歌「――やーいやーい!」
善子「はっ!?」
千歌「インチキ魔術ー! あなたなんて怖くないよーだ! べー!」
善子「な、なんですって・・・・・・!?」ピキッ
千歌「ここまでおいで、鬼さんこちらー!」
ダダッ!
善子「こ、この・・・・・・!!」ビキビキ
曜「千歌ちゃん!?」
花丸「屋根の上を走ったら、危ないずら!」
善子「ぜっっったい許さない!!」
善子「まてこのおおお!!」
ダダッ! 千歌が善子を挑発しながら屋根を走り、
善子は、それを追いかける。
千歌「へへーん、悔しかったら捕まえてみろー!」
千歌「とおっ!」
バッ!
善子(――! 寺の裏に飛び降りた!?)
善子「逃がすかあああ!!」
善子「うりゃっ!」
バッ!
屋根から飛び降りた千歌を追い、
頭に血が上った善子が、飛び降りた――その刹那。
千歌「――かかったね」 善子「え?」
屋根から飛んだ善子が――ふと下を見ると、
善子の足元には、いっぱいに水を張った――
バッシャーン!!
善子「わぷっ!?」
善子「みっ・・・・・・水瓶!!?」 ゴロン
バシャン!
善子「げほっ、ごほっ!?」
善子は瓶の中でもがき、
なんとか瓶を倒して、脱出するも――
善子(くっ・・・・・・! 体が、水浸しに・・・・・・!!)
果南「――そこまでだよ」
チャキッ…
善子「――!!」
バッ!
ジャキッ
千歌「――!!」
果南が、善子の喉元に、脇差の刃を突きつけると同時に――
善子は、マントの中から、素早く短筒(片手撃ちの、砲身の短い鉄砲)を取り出し、果南に突きつける――! 果南「種子島(火縄銃)か――やっぱりあんたは、火器使いだったんだね」
果南「でも、水浸しの今、それも役立たずだよ」
善子「くっ・・・・・・!」
善子「私を、あの水瓶の中に落とすために・・・・・・わざと挑発を・・・・・・!!」
千歌「そういうこと!」
果南「咄嗟にあんな気転をきかせるなんて、千歌もなかなかやるね」
千歌「えへへ、それほどでも・・・・・・」
千歌「お寺の裏に、水を貯めた水瓶があったのを思い出したから――」
千歌「上手くいくかも、って思って!」
果南「――さて、あんたの手品の種は切れた。他の悪亜集も、あらかた片付けたよ」
果南と千歌だけでなく、曜と花丸も、
睨みをきかせて、善子に向かい合う。
曜「・・・・・・」ザッ
花丸「・・・・・・」チャキ…
果南「――これでも、まだやる?」
善子「う・・・・・・うう・・・・・・!!」 善子「わーん!!」
バッ!
ダダッ!
梨子「あ!」
曜「逃げた!」
善子「・・・・・・覚えてなさいよ! あんたたち!」
善子「この夜羽根に恥をかかせたこと、後悔させてやるんだからぁ〜!!」
ダダダッ
悪亜兵「ああっ! 善子様!」
悪亜兵「待ってくだせぇ〜!!」
ダダダダ
曜「行っちゃった・・・・・・」
花丸「逃げ足は速いずら」 千歌「や、やった・・・・・・?」
曜「勝ったの? 私たち・・・・・・」
花丸「よ、良かったずら・・・・・・」
果南「――ふぅ」
パチン
果南(素人だらけだったけど――なんとかなったか)
果南(しかし、曜の武の才覚、そして千歌の機転――)
果南(この子たち、ただの素人かと思ってたけど、もしかしたら――) 梨子「あ、あの・・・・・・ありがとうございました!」
梨子「皆さんに助けてもらえなかったら、私――」
千歌「なんのなんの。困った時はお互い様だよー!」
アハハハ
――その時。
???「」ムクッ…
梨子の背後から、忍び寄る影――
果南「!!」
果南「梨子、後ろっ!!」 梨子「!!」ピクッ
ガバッ!
不意に姿を現したのは、
血走った目で、刀を握る、悪亜兵の生き残り――!
悪亜兵「貴様ら、よくも――!!」
悪亜兵「こいつだけでも、斬り殺してやらぁ!!」
ジャキッ!
果南(悪亜集!! うかつだった、まだ隠れていた奴が!?)
果南(駄目だ、間に合わ――)
千歌「梨子ちゃんっ!!」
千歌「あああああっ!!!」
――千歌は、
無我夢中だった。
――梨子ちゃんが危ない。
梨子に襲いかかろうとした悪亜兵。
自分が一番、近くにいたから。
無我夢中で、刀を握って――
ズパッ
千歌「―――」
梨子「・・・・・・・・・え、」
ピュッ
ブシュウウ…
悪亜兵「あ・・・・・・あ・・・・・・?」
千歌と――梨子と――
その場にいた、皆が、目にした光景。
千歌が振るった刀が、兵の喉笛を切り裂き。
そこから血を吹きながら、
ゆっくりと倒れ込む、兵の姿――
ガクッ…
ドサッ 果南「――!」
曜「ち、千歌、ちゃ・・・・・・」
千歌「――あ」
千歌「わ・・・・・・私・・・・・・?」
呆然とする千歌を尻目に。
花丸が、倒れた兵の許に、屈み込む。
花丸「・・・・・・・・・」
悪亜兵「―――」
花丸「・・・・・・・・・」
そして花丸は、そっと、両掌を合わせ――
スッ
花丸「・・・・・・南無阿弥陀仏」 千歌「え・・・・・・え?」
千歌「し・・・・・・死んじゃ、った・・・・・・の?」
果南「・・・・・・・・・」
千歌「そんな・・・・・・私、こ、殺す、つもりなんて・・・・・・」
ガタ…
千歌「ただ・・・・・・梨子ちゃんを助けなきゃ、って・・・・・・無我夢中で・・・・・・」
千歌「気づいたら・・・・・・刀を、振ってて・・・・・・そしたら、首から、血、血が、たくさん・・・・・・!!」
ガタガタ
曜「――千歌ちゃん!」
ガバッ
がたがたと体を震わせ、取り乱しそうになる千歌を、
曜が必死で、抱き締める。 ギュッ
曜「もういい――もういいから!!」
千歌「う・・・・・・うう、う・・・・・・!!」ポロポロ
梨子「千歌ちゃん・・・・・・」
果南「千歌・・・・・・」
花丸「――人は、死ぬ」
花丸「当たり前の――世の理(ことわり)ずら」
スッ
花丸「南無――・・・」
――刀で斬れば、人は死ぬ。
少女は、その当たり前の現実に、直面する。
そして少女は、選択を迫られる。
人としての尊厳を捨て、家畜同然に生くるか。
人としての尊厳を守るべく、血塗られた道を往くか。
少女の選択の先に――未来はあるか。
乙!
善子が火器使い設定なのはいいね
そして何やらシリアスな空気に… 最初に鉄砲導入した大名連中はみんな南蛮かぶれなのでヨハネとか自称しちゃうのはむしろ正しいかも 〜翌日、花丸の寺 境内〜
―― 一夜明け。
悪亜集襲撃の報を受けた黒澤水軍の一党は、花丸の寺へと集まっていた。
ガヤガヤ
よしみ「ダイヤ様、悪亜集は果南殿らが討ち取った者を除き、皆逃げたようです」
いつき「今のところ、悪亜集が再び攻めてくる様子はありませんが」
むつ「油断は出来ないかと」
ダイヤ「――ええ。果南さんは?」
よしみ「裏手の墓地にいるようです」
ダイヤ「そうですか。それにしても、悪亜集がこの寺を襲うとは――しかも」
スッ
ダイヤ「この、“煉獄の書”を狙って・・・・・・」
手にした巻物に視線を落としたのち――
ダイヤは、振り返る。
ダイヤ「――もう一度、事情を聞かせて頂きますわよ。梨子さんとやら」
梨子「――はい」
ギュッ…
呼ばれた梨子は、着物の裾を握り締めた―― 〜花丸の寺 裏手の森の墓地〜
ザクッ ザクッ
―― 一方の、果南たち。
沈んだ表情で、掘った穴に土を被せていく千歌――
果南「――ふぅ。これくらい、土を被せれば大丈夫だろう」
千歌「・・・・・・・・・」ザクッザクッ
曜「千歌ちゃん、大丈夫?」
果南「人ひとりぶんの穴を掘って、疲れた?」
果南「だけど私の方は、三人分だからね」
千歌「うん・・・・・・」
曜「・・・・・・悪亜集のために、墓を作る必要なんてあるの?」
果南「悪党でも、死んだら皆同じ、ただの骸(むくろ)だよ」
果南「そりゃ、死体だらけの大きな戦場(いくさば)なら話は別だけど――」
果南「自分が手にかけた奴を埋めてやるぐらいしても、バチは当たらないさ」
千歌「・・・・・・・・・」 花丸「摩訶般若波羅蜜多心経 観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時・・・・・・」
――埋めた土の上に石を置いた、簡素な四つの塚。
その前で、粛々と経を唱える花丸。
表情の晴れぬまま佇む、千歌、曜、果南――
千歌「・・・・・・・・・」
曜「・・・・・・・・・」
果南「・・・・・・・・・」
果南「――私はゆうべ、三人斬った」
千歌「・・・・・・」
果南「命を獲らずに越したことはないだろうけど――」
果南「私は後悔していないし、斬られた悪亜兵の連中だって、自分達が常に死と隣り合わせであることぐらい、覚悟の上だろう」
果南「もしも、そんな“覚悟”すら出来ていないような奴らだったとしたら――」
果南「“侍”を名乗る資格は無い」
千歌「・・・・・・!」 果南「刀で斬れば――人は死ぬ」
果南「当然のことだよ。それを、知らなかった訳じゃあ――ないよね?」
千歌「・・・・・・・・・」
果南「だけどね、千歌」
果南「千歌の、その怖れは――手の、体の震えは――なくしちゃいけないものなんだ」
果南「人を斬っても、人を殺めても、動じないような人間になったら――駄目なんだ」
曜「・・・・・・・・・」
果南「――だから、言ったでしょ。侍なんて、ろくなもんじゃない」
果南「私だって、ろくな人間じゃないんだって――」
千歌「・・・・・・・・・」 果南「千歌――それに、曜も」
果南「今なら、まだ戻れる」
千歌「・・・・・・!」
曜「果南ちゃん・・・・・・」
果南「侍になるということは――命のやり取りと、常に隣り合わせになる覚悟を背負うということ」
果南「自らの命を獲られる覚悟と――他人の命を獲る覚悟」
果南「それを背負って――生きていけるのかどうか」
千歌「覚悟・・・・・・」
果南「だけど、それは本来、人間が持ってはいけないものなのかもしれない」
果南「だから――今なら、まだ戻れる」
ザッ…
果南「――しっかり、答を出すんだね」
ザッザッ… 果南は、振り返ることなく、その場から立ち去り――
後には、千歌と曜が、残される。
千歌「・・・・・・・・・」
曜「千歌ちゃん・・・・・・」
曜「・・・・・・やめる? もう・・・・・・」
千歌「・・・・・・・・・」
曜の、問いかけに――
千歌は、答えることが出来なかった。 〜長浜城 城門前〜
ザッ
果南「長浜城か・・・・・・」
果南「子供の時以来だよ。懐かしいな」
ダイヤ「・・・・・・あの頃とは、すっかり様変わりしてしまいましたが」
ダイヤ「悪亜集との、度々の戦であちこちボロボロですわ」
果南「かつては、小原家の居城であった、ここが・・・・・・」
果南「見る影も無いとは、このことか」
――伊豆国長浜城。
かつて、小原家が居城としていた、平山城(ひらやまじろ)である。
天守を備えた平城(ひらじろ)と異なり、山上に城郭、麓に居館を築き、
戦の際には山上の城郭に篭って防御を固め、平時は居館にて過ごす、という形の城である。
※参考画像
https://i.imgur.com/Iw5BXk7.jpg ダイヤ「家督を継ぎ、御本城様(北条氏)や秀吉公に反旗を翻した鞠莉さんは――」
ダイヤ「この伝統ある長浜城を捨て、淡島に、新たに“淡島城”を築きましたわ」
ダイヤ「淡島という島そのものが要塞――難攻不落の城ですわ。我ら黒澤水軍の力を持ってしても、攻め落とすに至りません」
ダイヤ「そして、この長浜城は、今や我々黒澤水軍の本拠地、という訳ですわ」
果南「成る程ね・・・・・・」
ダイヤ「――さ。参りましょう」
ザッ… 〜長浜城 居館〜
梨子「・・・・・・・・・」
――居館内の、大広間。
ダイヤ、果南の前で、神妙な顔つきで座る梨子。
ダイヤ「さて――改めて訊きますが、梨子さん」
梨子「・・・・・・はい」
ダイヤ「村を焼かれ、関東から逃れてきた貴方は、間者と思われる手負いの男から、この巻物を受け取った」
ダイヤ「そして、訳もわからぬ内に、悪亜集に追われる羽目になった、と・・・・・・」
梨子「はい・・・・・・その通りです」
ダイヤ「ふぅむ・・・・・・」 梨子「う・・・・・・嘘はついていません。どうか、信じてください・・・・・・」
ダイヤ「――貴方が嘘をついている、とは言っていませんわ」
ダイヤ「貴方が、この書のことについて、何も知らないのは事実のようですし――」
ダイヤ「ですが、悪亜集が書を持っていた貴方を再び狙うかもしれません」
ダイヤ「貴方がよろしければ、この長浜城にしばらく身を寄せるとよろしいでしょう」
梨子「そんな、私はただの百姓ですし・・・・・・!」
ダイヤ「遠慮は無用ですわ。その代わり、飯炊き番の手伝いくらいはやって頂きますが」
梨子「・・・・・・わかりました。ありがとうございます・・・・・・!」ペコッ
ダイヤ「――ルビィ。お部屋へご案内を」
ダイヤが呼ぶと、部屋の隅で待機していたルビィが立ち上がり、
襖を開け、梨子を促す。
ルビィ「――はい。では、こちらへどうぞ」
スッ
パタン
ルビィに連れられて、梨子が部屋を後にし、
広間には、ダイヤと果南だけが残された。
果南「・・・・・・・・・」 果南「“嘘をついているとは言っていない”――」
果南「だけど、“信じてもいない”ってことかな?」
果南「だから彼女を城に留めることで、監視下に置く、と」
ダイヤ「・・・・・・・・・」
ダイヤ「そこまでは言っていませんわ。ですが、今の世、何が起こるかわかりませんから」
果南「念には念を、ってことか」
果南「すっかり、頭領の顔になったね――ダイヤ」
ダイヤ「――それよりも」コホン
スッ
ダイヤ「これが――南蛮仕込みの妖術と噂される――」
ダイヤ「小原の秘術について書かれた、“煉獄の書”――」
果南「・・・・・・中身は?」
ダイヤ「・・・・・・お待ちください」
スルスル…
ダイヤ「――! これは――?」
慎重に、巻物の紐を解き、書を広げたダイヤだったが――
中身を見て、思わず目を見張る。
果南「南蛮の文字――かな?」
ダイヤ「これでは、何が書いてあるのかわかりませんわね――」
ダイヤ「果南さんは、読めますか?」
果南「無茶言わないで。さっぱりだよ」 果南「この城の中に、南蛮文字が読める人間はいないの?」
ダイヤ「悪亜集との戦いの中で、水軍も随分人が減ってしまいました」
ダイヤ「今残っている者の中には、残念ながら・・・・・・」
果南「・・・・・・小原家の秘密が探れるかと思ったんだけど。残念だな」
ダイヤ「・・・・・・・・・」
ダイヤ「・・・・・・果南さん。やはり貴方が戻ってきたのは、鞠莉さんに会うため――なのですか?」
果南「・・・・・・・・・」
ダイヤ「ならば今は、わたくし達に手を貸して頂けませんか」
ダイヤ「――彼女の真意を、知るためにも」
果南「・・・・・・・・・」
果南は、しばし逡巡したのち。
目線を上げ――ダイヤと、目を合わせる。
果南「私は、誰かに仕えるつもりはない」
果南「だけど――」
果南「鞠莉を、一発ぶん殴ってやりたい――って気持ちは、同じだよ」
ダイヤ「・・・・・・」クス…
果南の返事に――
ダイヤは、口許に笑みをこぼした。 〜長浜城 居館 渡り廊下〜
ルビィ「・・・・・・・・・」
渡り廊下を歩くルビィと、その後に付き従う梨子。
梨子は、赤い着物を着込んだ目の前の少女の、小さな背中を見つめる。
梨子(この子・・・・・・私よりも、年下に見えるけど・・・・・・)
梨子(この子も、水軍? あの頭領さんの、妹だって聞いたけど・・・・・・)
梨子(――! あそこにいるのは、)
廊下の隅で佇んでいるのは、
見覚えのある、袈裟をまとった、ひとりの少女。
花丸「・・・・・・・・・」
梨子「――和尚さ・・・・・・じゃなくて、花丸ちゃん!」
花丸「!」
ルビィ「・・・・・・花丸ちゃん!?」
花丸「ルビィちゃん! それに梨子さん!」 ルビィ「花丸ちゃん・・・・・・!」パタタタ
花丸「ルビィちゃん、久しぶり〜!」
梨子「・・・・・・ふたりは、知り合いなの?」
ルビィ「は、はい・・・・・・花丸ちゃんのお寺は、ルビィたち黒澤水軍の、代々の菩提寺なんです」
花丸「その縁で、ルビィちゃんとオラは小さい頃からの幼馴染ずら」
梨子「そうだったんだ・・・・・・」
ルビィ「花丸ちゃんが、どうしてここに?」
花丸「昨日の騒ぎで、オラのお寺も、滅茶苦茶になっちゃったから・・・・・・」
花丸「しばらくはここにいるといいって、ダイヤさんが言ってくれたずら」
ルビィ「そうなんだ・・・・・・お寺が・・・・・・」シュン
花丸「ルビィちゃんがそんな顔することないずらー」
ルビィ「だけど、私たち水軍が、もっと早く騒ぎに気づいていれば・・・・・・」 梨子「ううん。元はといえば私が・・・・・・助けを求めたりしなければ・・・・・・」
梨子「・・・・・・ごめんなさい」
花丸「梨子さんのせいでもないずら! オラは全然、平気だよ」
花丸「御本尊様をお寺に残してきちゃったのは心残りだけど・・・・・・」
花丸「どこにいても、お祈りする心があれば、仏様は見守っていてくれるずら」ナムー
ルビィ「花丸ちゃん・・・・・・」
花丸「・・・・・・そしていつか絶対、悪亜集からお寺の修繕費をがっぽりふんだくってやるずら」キラン
ルビィ「あはは・・・・・・たくましいね、花丸ちゃんは」
梨子「・・・・・・・・・」
――どこか、和気藹々とした二人のやりとり。
しかし梨子は、どうしても気がかりなことがあった。
梨子「あの・・・・・・千歌ちゃんと、曜ちゃんは・・・・・・」
花丸「・・・・・・あのふたりずらか」
花丸「亡くなった、悪亜集の人たちの亡骸を、果南さんと一緒に葬ってあげてたけど・・・・・・」
花丸「その後は・・・・・・村に帰ったんじゃないかな」
梨子「そう・・・・・・」
梨子「千歌ちゃん・・・・・・私を、かばって・・・・・・悪亜集の人を・・・・・・」
花丸「・・・・・・・・・」 花丸「・・・・・・所詮人間は、この広い世界の中で見れば、ちっぽけな存在」
花丸「仏様の前では、人も、鳥も、獣も、虫も、みんな同じ。平等に生きて――そして等しく死ぬ存在」
花丸「あの、悪亜集の人たちがあそこで命を落としたのも、それもまた仏様の御心なのかもしれないずら」
ルビィ「花丸ちゃん・・・・・・」
梨子「だけど・・・・・・!」
花丸「・・・・・・・・・」
花丸「・・・・・・でもそれは、ごく普通の女の子には、辛すぎる現実なのかもしれないずらね」
梨子「・・・・・・・・・」
梨子は――
ぎゅっ、と、拳を握り。
意を決して、顔を上げた。
梨子「あの・・・・・・ルビィさん、と言いましたよね」
ルビィ「は・・・・・・はい?」
梨子「――頼みがあります」 〜内浦の村〜
千歌「・・・・・・・・・」
トボトボ…
曜「帰ってきたね・・・・・・」
千歌「・・・・・・うん」
曜「私は、一人暮らしだからいいけれど・・・・・・もう、昼過ぎになっちゃってるし」
曜「千歌ちゃん、美渡さんに怒られちゃうかもね」
千歌「うん・・・・・・」
曜「・・・・・・・・・」
スタ…スタ…
――帰ってきた、ふたりの表情は暗く。
言葉も少ない。
意を決して――曜が、千歌に向き合う。
曜「・・・・・・千歌ちゃん」
曜「やっぱり・・・・・・やめる?」
千歌「」ピタッ
曜「千歌ちゃんが、つらいなら・・・・・・私・・・・・・」 千歌「・・・・・・・・・」
パッ
千歌「な、何言ってるのさ、曜ちゃん! 私、全然平気だって!」
顔を上げた、千歌の笑顔は――
引きつっていた。
千歌「だって私、侍になるんだもの! こんなことくらいじゃへこたれてられないよ!」
曜「千歌ちゃん・・・・・・」
千歌「こ、こんな、こと・・・・・・くらい、じゃ・・・・・・」
ブルッ…
千歌「わ、私は・・・・・・侍になるって、覚悟を決めて・・・・・・覚悟・・・・・・を・・・・・・」
曜「・・・・・・・・・」
千歌「ご、ごめんね・・・・・・曜ちゃん。私、ちょっと疲れちゃったから・・・・・・」
千歌「今日は・・・・・・帰る、ね・・・・・・」
千歌は、きびすを返すと――
そのまま足早に、立ち去ろうとする。
曜「――千歌ちゃん!」
千歌「」ピタッ 曜「私は――千歌ちゃんに、“覚悟”が無かったなんて思わない!」
曜「だって千歌ちゃんは、単にカッコいいとか、そんな理由で侍になりたいと思った訳じゃないでしょ!?」
曜「村を襲う、悪亜集に立ち向かった時も――ゆうべ、寺を襲った悪亜集と戦った時も――」
曜「村を、村のみんなを、守りたかったから! 助けを求める、梨子ちゃんを助けたかったから!」
曜「――誰かを助けてあげるために、自分が傷つくのも構わずに、立ち向かったんだよ!」
千歌「・・・・・・・・・」
曜「その心は――きっと、本物の侍だから」
曜「だから私は、千歌ちゃんと一緒に、侍になりたいって思ったんだよ!」
曜「千歌ちゃん――!」
千歌「・・・・・・・・・」
千歌「曜ちゃん・・・・・・」
千歌「・・・・・・ありがと」
スタ…スタ…
千歌は、振り返らずに――
力無い足取りで、去っていき。
残された曜の表情も――暗く、翳る。
曜「・・・・・・・・・」
曜「千歌ちゃん・・・・・・」 〜千歌の家〜
千歌「・・・・・・ただいま・・・・・・」
美渡「千歌――千歌!?」
美渡「あんた、どこほっつき歩いてたのよ!! 畑仕事もしないで!!」
しいたけ「ワン!」
美渡「一晩中、一体――」
志満「――美渡ちゃん! 待って」
千歌「・・・・・・・・・」
千歌の異変に気づいた志満が、美渡を遮り――
美渡もまた、千歌の格好を目にして、目を見張る。
美渡「!」ハッ
美渡「千歌・・・・・・あんた、服に血が・・・・・・」
美渡「まさか・・・・・・!?」
志満「・・・・・・・・・」 志満「」ニコッ
志満「疲れたでしょう。今日は手伝いはいいから、服を着替えて、休んでなさい」
千歌「うん・・・・・・」
スタ…スタ…
千歌「志満ねえ、美渡ねえ・・・・・・ありがとう」
ガララッ…
ピシャッ
志満「・・・・・・・・・」
志満「・・・・・・仕方のないことなのかもね。この、人の命が簡単に消える、今の世では」
美渡「だけど・・・・・・だからって・・・・・・!」
ギリッ…
美渡「・・・・・・バカチカ・・・・・・!!」 千歌「・・・・・・」
千歌「・・・・・・・・・」
千歌「・・・・・・・・・・・・」
薄い布団の上で、横になり。
長いのか短いのか、わからない時間が過ぎていく。
気づけば――外からは、もう夕陽が差していた。
カァーカァー
千歌(駄目だ・・・・・・横になっても、全然寝られないや)
千歌(もう、夕方か・・・・・・)
ゴロッ…
千歌(私・・・・・・どうしたら、いいんだろう・・・・・・)
トントン
千歌「・・・・・・?」ムクッ 千歌「・・・・・・はーい?」
志満「――千歌ちゃん、入るわね」
ガラッ
千歌「志満ねえ・・・・・・?」
志満「」クスッ
志満「・・・・・・お客さんよ、千歌ちゃん」
スッ
千歌「――えっ!?」
ガバッ
志満が脇にのいて、その背後から、現れた少女。
横になっていた千歌が、思わず起き上がる。
梨子「・・・・・・・・・」モジ…
梨子「・・・・・・こんにちは」
千歌「――梨子ちゃん!?」 〜淡島城 城内〜
鞠莉「・・・・・・・・・」
オオオ…
――淡島城、天守。
南蛮風の椅子に掛け、頬杖をつく鞠莉。
その両脇には、聖良、理亞の姉妹幹部。
そして、その前で、脂汗をかきながら、ひざまずいているのは――
善子「・・・・・・・・・」
ゴクッ
理亞「・・・・・・・・・」
聖良「・・・・・・つまり? “煉獄の書”を奪い返せなかったばかりか」
聖良「松浦果南以外の、素人共に負けて、おめおめ逃げ帰ってきた――」
聖良「――という訳ですか」
善子「は・・・・・・はい・・・・・・」
ダラダラ… 聖良「忘れたのですか――善子さん」
ツカツカ…
聖良「一族を秀吉によって滅ぼされた貴方を拾い――」
聖良「こうして、生かして頂いているのが――どなた様のお陰なのか」
善子「そ・・・・・・それは・・・・・・」
鞠莉「――善子」
善子「!!」ビクッ
鞠莉「いえ――貴方好みに、ヨハネ、と呼びましょうか」
鞠莉「私はね――貴方に、期待しているの」
鞠莉「だけど――」
ツカツカ… 悠然とした足取りで、善子の許へと歩み寄った鞠莉は――
善子の、顎を持ち上げ。
クイッ
善子「・・・・・・っ」
鞠莉「イージーに負けちゃうような子は――好みじゃないわ」
ペロ…
自らの紅い唇を、舌で舐め――
口許に、不気味な笑みを浮かべた。
善子「・・・・・・・・・!!」ゾクッ 鞠莉「・・・・・・もう一度だけ、チャンスをあげマース」
鞠莉「次こそは――ミスすることなく」
鞠莉「“煉獄の書”を――取り戻してくるのよ」
善子「は・・・・・・はいっ・・・・・・!」
ガタガタ
鞠莉「・・・・・・うふふ」
ニィ…
鞠莉「貴方の中に流れる、失われた“サイカ”の血の力――」
鞠莉「もう一度、マリーに見せて頂戴♥」
淡島にまで城を作られたら武田の進軍は絶望的ですね。。。 果南もマルちゃんも達観してるなあ
この時代ならそれが普通なのかもしれないけど つってもサイカってことは豊臣に恨みあってもおかしくなさそうだしな
Wiki見たら豊臣に滅ぼされて散り散りになったらしいし 〜内浦の村 近くの海岸〜
ザン…
ザザーン…
千歌「・・・・・・・・・」
――時は、既に夕刻。
目の前の、夕陽で赤く染まる海を見つめる、千歌と梨子。
梨子「・・・・・・綺麗ね。押しては返す波と、夕焼けの朱の色と――」
梨子「私の住んでた村の近くには・・・・・・海は、無かったから」
千歌「そう・・・・・・」
ザザン…
千歌「梨子ちゃん・・・・・・話ってなあに?」
梨子「・・・・・・お礼を、言いたくて」 梨子「ありがとう。見ず知らずの私を、かばってくれて・・・・・・」
梨子「千歌ちゃんも・・・・・・曜ちゃんも。こんなに優しい人たちに、出会えて良かった」
梨子「・・・・・・ありがとう」
千歌「・・・・・・やめてよ。私は、そんな・・・・・・」
梨子「・・・・・・・・・」
梨子「・・・・・・ごめんね。千歌ちゃん」
梨子「私のために・・・・・・その・・・・・・嫌な思いを、させて・・・・・・」
千歌「――っ」
梨子「――だから、言いたかったの。あれは、千歌ちゃんのせいじゃない」
梨子「千歌ちゃんは、私を守ってくれようとしただけなんだって。だから、私・・・・・・!!」
千歌「――そんなこと!」 千歌「・・・・・・そんな、こと・・・・・・」
梨子「千歌・・・・・・ちゃん?」
千歌「・・・・・・・・・」
――千歌は、ぐ、と拳を握り締め。
千歌「・・・・・・わかってたんだ。ううん、わかってたつもりなんだ。頭では」
千歌「侍になるって、カッコいいことばかりじゃない。命を獲られたり――命を奪ったりすることもあるんだって」
千歌「綺麗事ばかりじゃないんだって・・・・・・だけど、実際に、そうなってみたら・・・・・・」
千歌「怖くて・・・・・・手の、震えが・・・・・・止まらなくて・・・・・・!」
ガツッ!
そして――握った両拳を、自らの頭に打ち付けた。
千歌「私・・・・・・私、は・・・・・・!」
梨子「――千歌ちゃん!」
ギュッ
梨子は――
そんな千歌を、後ろから、抱き締める。 梨子「自分を――責めないで」
千歌「だけど・・・・・・だけど・・・・・・!」グスッ
梨子「千歌ちゃんは――偉いよ」
梨子「ちゃんと、命の大切さを、わかってる――」
ギュッ
梨子「そんな千歌ちゃんの心は――」
梨子「悪亜集なんかとは、違う。立派な、お侍よ」
千歌「梨子・・・・・・ちゃん・・・・・・?」
梨子「・・・・・・・・・」クスッ
振り向いた、千歌に――
梨子が、微笑む。
千歌「・・・・・・・・・」
ゴシゴシ
千歌は、両手で、涙を拭う。
千歌「・・・・・・梨子ちゃん。私、どうしたらいいのかな・・・・・・」
梨子「・・・・・・それは、私には答えられない。千歌ちゃんが決めることよ」
千歌「そう・・・・・・だよね」
梨子「私から言えるのは・・・・・・」
梨子「千歌ちゃんは、ちょっと変だけど、誰にも恥じることはない」
梨子「立派な人だ、ってことよ」
千歌「梨子ちゃん・・・・・・」 ザン…
ザザン…
千歌「・・・・・・いっこ、訊いてもいい?」
梨子「なに?」
千歌「梨子ちゃんは・・・・・・ひとりで、生まれ故郷から離れた場所まで来て・・・・・・」
千歌「・・・・・・寂しく、ないの?」
梨子「・・・・・・・・・」
梨子「寂しいとか・・・・・・そういう気持ちは、もうあんまり無い、かな」
梨子「私のいた村は・・・・・・ふるさとは、もう無いから」
千歌「え・・・・・・」
梨子「貧しい村で・・・・・・領主様にお納めする年貢が、とても払えなくて・・・・・・」
梨子「見せしめに・・・・・・村は、焼き払われちゃったから」
千歌「・・・・・・!!」
千歌「酷い・・・・・・」 梨子は、ふっと、寂しげな笑みを浮かべたのち――
懐から、一本の笛を取り出した。
梨子「これ・・・・・・これが・・・・・・唯一の、ふるさとの思い出」
千歌「それ・・・・・・笛?」
梨子「私ね――笛を吹くの、好きなんだ」
梨子「お母さんの形見で・・・・・・これだけは、肌身離さず・・・・・・」
千歌「・・・・・・・・・」
梨子「・・・・・・あ。だけど今は、全然寂しくないかも」
梨子「だって・・・・・・千歌ちゃん、曜ちゃんに、出会えたんだもの」ニコッ
千歌「梨子ちゃん・・・・・・」 千歌「梨子ちゃん・・・・・・わがまま言ってもいい?」
梨子「どうぞ」
千歌「梨子ちゃんの、笛・・・・・・聞きたいな」
梨子「・・・・・・・・・」
クスッ
梨子「・・・・・・あんまり、期待しないでね」
スッ…
――梨子が、横笛を、その唇につける。
そして、そこから流れ出した――
静かな調べが、辺りを包み込む。
………
…………
………………
千歌(それは、とっても優しくて――)
千歌(でも、どこか切ない、音色だった) 梨子「・・・・・・ふぅ」
千歌「すごい・・・・・・梨子ちゃん・・・・・・!」
千歌「私、感動しちゃったよ・・・・・・!」パチパチ
梨子「そんなこと・・・・・・ないと、思うけど・・・・・・///」
ザン…
ザザン…
梨子「・・・・・・もうすぐ、日が落ちるし」
梨子「私・・・・・・そろそろ、行くね」
千歌「梨子ちゃん・・・・・・」
千歌「なんか・・・・・・ありがとね」
梨子「ううん・・・・・・私は、お礼と・・・・・・」
梨子「自分の言いたいことを、言いたかっただけだから」
梨子「こちらこそ・・・・・・ありがとう」
千歌「うん・・・・・・」
千歌(そのまま、梨子ちゃんは去っていき――)
千歌(私の、心は――)
千歌(少しだけ、軽くなったような気がした) 〜村のはずれ〜
――海岸から、戻ってきた梨子。
村のはずれで、梨子を待っていたのは――
ルビィ「・・・・・・梨子さん」
黒澤水軍頭領の妹、ルビィと、お付のいつき。
梨子「待っててくれた――と、言うより」
梨子「監視役、というところですね」
ルビィ「る、ルビィは、そんな・・・・・・!」
梨子「いいんです――自分の立場くらい、わかっています」
梨子「行きましょう――ルビィさん」
ルビィ「・・・・・・・・・」
ルビィ「あ、あの、梨子さん・・・・・・!」
ルビィ「ルビィは、梨子さんより年下だし・・・・・・その、梨子さんが、良ければ・・・・・・」
ルビィ「固い言葉で・・・・・・話してくれなくて、いい、です・・・・・・///」
梨子「・・・・・・え?」
ルビィ「あ、いいい嫌なら、別に・・・・・・!」アセアセ
梨子「・・・・・・ううん」
ニコッ
梨子「ありがとう・・・・・・ルビィちゃん」 〜曜の家、庭先〜
―― 一方、同じく村はずれにある、曜の家。
母を病で亡くし、父も悪亜集との戦いの中で亡くした曜。
今や、海に面したこの家に住むのも、曜独りである。
曜は、庭先に腰掛け、浮かない表情を浮かべていた。
曜(千歌ちゃん・・・・・・)
曜(あんなに落ち込んでる千歌ちゃんは・・・・・・初めてだ・・・・・・)
天涯孤独となった曜にとって、今や唯一、幼馴染の千歌だけが、
家族と呼べるような存在であった。
そんな千歌が、塞ぎ込んでいる今――
曜の心も、鬱々として晴れなかった。
曜(私じゃ・・・・・・千歌ちゃんの、力にはなれないのかな・・・・・・)
曜(千歌ちゃんを、笑顔にしてあげることは・・・・・・出来ないのかな・・・・・・)
――その時。 曜「・・・・・・!」ピクッ
――ぼうっと辺りを眺めていた曜の、目に入ってきたもの。
それは、村はずれを歩く、梨子とルビィの姿――
曜(あれ、梨子ちゃん・・・・・・?)
曜(それに、黒澤水軍のお頭の妹、ルビィちゃんも・・・・・・)
曜(なんで、梨子ちゃんがここに? まさか――)
曜(千歌ちゃんに、会いに・・・・・・?)
ちくり――と。
曜の心が、僅かに疼いた。 〜千歌の部屋〜
千歌「・・・・・・・・・」
ゴロッ…
千歌(選ぶのは、私・・・・・・)
千歌(自分で・・・・・・決めること、か・・・・・・)
ムクッ
千歌「・・・・・・もう、すっかり日が落ちちゃった」
千歌「月が、綺麗だな・・・・・・」
千歌(・・・・・・・・・)
千歌(私が、やりたいこと・・・・・・)
――と。
千歌の部屋から、覗く海。
月明かりに照らされた、海の向こうから。
ぽつり――ぽつりと。
不気味な光が、浮かび上がり――
千歌「・・・・・・っ!?」
ガバッ! 千歌(暗い海の、向こうから・・・・・・鬼火みたいな、光が・・・・・・?)
千歌(ひとつ、ふたつ・・・・・・ううん、たくさん・・・・・・!)
ユラッ……ユラッ
千歌「・・・・・・船だ」
千歌「たくさんの船が、向かってくる・・・・・・!」
千歌「船の向かってる、方向は・・・・・・」
千歌「まさか・・・・・・!?」 〜長浜城 居館〜
よしみ「悪亜集です!!」
いつき「悪亜集の船が、この長浜城目指して向かってきます!!」
ダイヤ「日が落ちてから、船を率いてやって来るとは・・・・・・!」
ダイヤ「狙いは、“煉獄の書”――ですわね」
ダイヤ「わたくしたちも、打って出ますわよ!!」
むつ「御意!!」
バタバタ
ダイヤ「――ルビィ!!」
ルビィ「は、はい!?」
ダイヤ「貴方も、出ますわよ。準備なさい」
ルビィ「・・・・・・!!」
ゴクッ…
ルビィ「は、はい・・・・・・お姉ちゃん・・・・・・!」 ダイヤ「・・・・・・果南さん」
果南「・・・・・・・・・」
ダイヤ「貴方は、ここに留まり・・・・・・」
ダイヤ「城を、お頼み申しますわ」
果南「――承知した」
花丸(また――戦が始まるずら)
花丸(また、血が流れる――)
スッ
花丸「願わくば――皆に、仏様のご加護があります様」
花丸「南無――」 〜千歌の部屋〜
千歌「・・・・・・・・・」
千歌は――ひとり。
母が遺した、刀を握る。
千歌(お母さんの、形見の刀・・・・・・)
ギュッ
千歌(お母さんやお父さんは、何のために戦ったんだろう)
千歌(戦にとられたから、仕方なく? それとも、武勲を上げて、偉くなるため?)
千歌(わからない。だけど、私は――)
ググッ…
千歌「・・・・・・長浜のお城には、きっと梨子ちゃんや、果南ちゃんたちがいる」
千歌「私は――誰かの、助けになりたい」
千歌「そして、村を――救いたい!」
千歌「何も出来ないまま、死ぬなんて――」
千歌「そして、何もしないまま、生きるなんて」
キッ!
千歌「――まっぴらだ!」 ガラッ
千歌「・・・・・・・・・」キョロキョロ
ソロー…
月明かりの下――
千歌は辺りを伺いながら、そっと、家の外へと出る。
その時――
美渡「――千歌」
千歌「!!」ビクッ
志満「――千歌ちゃん」
千歌「美渡ねえ・・・・・・志満ねえも」
美渡「・・・・・・・・・」
志満「千歌ちゃん――行くのね」
千歌「・・・・・・・・・」
コクッ 千歌「・・・・・・美渡ねえは、怒るかもしれないけど」
千歌「でも私、誰かが傷つくのを、見て見ぬ振りして生きるのも、何もしないまま死ぬのも、どっちも嫌なの」
千歌「綺麗事ばかりじゃないってことは、思い知ったよ・・・・・・だけど・・・・・・」
千歌「それでも、私は・・・・・・私に出来ることを、やりたいんだよ・・・・・・!」
美渡「・・・・・・・・・」
美渡「・・・・・・バカチカ」ボソッ
志満「・・・・・・・・・」
志満「――千歌ちゃん。お母さんとお父さんは、決して武勲を上げるためとか、そういう目的で戦に行った訳ではないの」
志満「お母さん、最後に出かける時、言っていたわ」
志満「“貴方たちが、怯えて暮らすことのない、太平の世にしたいんだ”――って」
千歌「・・・・・・!」
志満「お母さんたちもまた、私たちのために、戦ってくれていたのよ」 志満「貴方が、今の想いを、この先も違(たが)わぬのであれば――」
志満「往きなさい。貴方が、信じる道を」
千歌「志満ねえ・・・・・・」
美渡「・・・・・・・・・」
美渡「・・・・・・まったく」ハァ
美渡「あんたは! 昔っから、ほんと言い出したら聞かない、頑固者なんだから!」
そう言って、美渡は――
千歌に向かって、何かを差し出す。
美渡「――これ。持って行きなさい」
千歌「これ・・・・・・脇差?」
美渡「あんたが持ってる、お母さんの刀の、脇差よ」
美渡「刀は、本差(ほんざし)と脇差、対のふたつを持つものでしょ。バカチカ」
千歌「美渡ねえ・・・・・・」 ギュッ
そして――美渡は。
千歌の体を、抱き締めた。
千歌「!」
美渡「・・・・・・いい? 千歌。命を粗末にしないで」
美渡「自分の命も、守ってこその・・・・・・侍なんだから・・・・・・!」ジワッ
千歌「・・・・・・!」
千歌「うん・・・・・・わかった。約束する」
千歌「ありがとう――美渡ねえ、志満ねえ!」 志満「――行っちゃったわね」
美渡「・・・・・・バカチカ」ボソッ
志満「千歌ちゃんには、曜ちゃんや、果南さんもついていてくれる」
志満「きっと・・・・・・大丈夫よ」
美渡「・・・・・・・・・」
美渡「だけど・・・・・・重なっちゃうんだ」
美渡「あの日・・・・・・最後に、戦に出かけていったお母さんを、見送った時と・・・・・・」
志満「・・・・・・・・・」 〜村のはずれ〜
タタタタ
千歌(急がなきゃ・・・・・・! このままじゃ、長浜のお城が・・・・・・!)
曜「おおっと。誰かお忘れじゃないかな?」
カッ!
千歌「――曜ちゃん!!」
曜「水臭いよ、千歌ちゃん。私を置いて、ひとりで行くつもりだったの?」
千歌「ご、ごめん・・・・・・」
千歌「でも、いいの? 曜ちゃん。私のわがままに、付き合わせちゃうのは――」
曜「もう、何言ってるのさ、千歌ちゃん!」
ギュッ
曜「言ったでしょ? 私、小さい頃からずっと、千歌ちゃんと一緒に何かやりたいって思ってたって」
曜「だから、私も行くよ。侍目指して――千歌ちゃんと一緒に!」
千歌「曜ちゃん・・・・・・!」ウルッ 千歌「よーし! それじゃあ一緒に行こう! 曜ちゃん!」
曜「うん! ――あ、そう言えば・・・・・・」
曜「千歌ちゃん、さっき、梨子ちゃんと・・・・・・」
千歌「――え? 曜ちゃん、何か言った?」
曜「・・・・・・ううん、なんでもない」
曜(・・・・・・千歌ちゃんと梨子ちゃんの間に、何かあったのかな)
曜(梨子ちゃんが、千歌ちゃんを立ち直らせた・・・・・・?)
曜(私じゃ――駄目だったのに?)ズキッ 千歌「曜ちゃん――どうかした?」
曜「・・・・・・あ、いや、何でもないよ!」
曜(そうだ。今は、そんなこと――別にいいよね)
曜(だって――千歌ちゃんに、また元気が戻ってきたんだから!)
曜「一緒に頑張ろう、千歌ちゃん!」
千歌「うん! さあ目指すは、長浜のお城だー!」
千歌「待ってろ、悪亜集!!」
曜「宜候(よーそろー)!!」
――少女は選んだ。
己の道を。
選んだその先の未来に待つものが、
希望に繋がる船なのか、絶望へと向かう船なのか。
それはまだ、誰にもわからない。
乙!
梨子ちゃんにもなんか色々ありそうだなぁ
そして曜ちゃん闇堕ちルートくるのか…? ● 浪人中(笑)は建前で実はニートやってる要素庭でもわかる三極構造 ●
・第一極・・・保守+国際的に用いられる本来の意味でのリベラル(穏健な自由主義者)
・第二極・・・極右の女独裁者と、選別され奴隷と化した変節保身パヨク ←選挙後再び変節か?w
・第三極・・・極左+日本で誤用されるいわゆるリベラル(反日護憲左翼) ←当初合流を望むも拒まれ一転"筋を通した"
(※支持者が総理の演説を大音量で妨害し、党首は革マル派系団体から800万円の献金を受けていた/衆院予算委)
※新たな極・・・マスコミによるアナウンス効果(上乗せした数字に支持者が安心→投票に行かせないという狙いか?)
■健全で常識的な国民の皆さん 発表された数字に惑わされず投票に行きましょう。 偏向した”左派”メディアにまたも騙されている可能性があります。 サイレントマジョリティー(謙虚なお人好し)でいることを、私たちはもうやめませんか? 〜長浜城 山上 城郭内〜
――長浜城の山上、奥まった城郭に籠った果南、梨子、花丸の三人。
山上から見下ろす、夜の内浦の海には、既に無数の灯が揺らめいている。
梨子「船の灯が、たくさん・・・・・・!」
花丸「もう間近に迫ってるずら!」
果南「日が落ちてから攻めてくるとは・・・・・・悪亜集らしいといえばそうかな」
果南「梨子は、奥の間に隠れてな」
梨子「は、はい・・・・・・だけど・・・・・・」
花丸「果南さんは、ダイヤさんたちと一緒に行かなくて、大丈夫ずら・・・・・・?」
果南「まあね。黒澤水軍の、お手並み拝見といこうかな」
果南(それに、ダイヤが私をここに残した理由)
果南(それは――) 〜長浜城前 内浦湾 海上〜
――同刻、内浦の海上。
既に各々が船に乗り込み、悪亜集を迎え撃たんと湾内に展開する黒澤水軍。
【ダイヤ船(頭領船)】
ダイヤ「――来ましたわね。数で優位に立ったつもりでしょうが――」
ダイヤ「この程度でやられる我が黒澤水軍ではありませんわ」ニッ
ダイヤ「来るなら来なさい、悪亜集!」
【ルビィ船】
ルビィ「わ、わぁ、いっぱいきたぁ・・・・・・!!」
ルビィ「だけど・・・・・・お姉ちゃんの指揮なら、きっと大丈夫なはず・・・・・・!」
ルビィ「わ、私もお姉ちゃんの足を引っ張らないように、頑張るびぃ、しなきゃ・・・・・・!」 ―― 一方の悪亜集。
頭領船である聖良の船を始め、黒澤水軍の倍はあろうかという数で、長浜城へと迫る。
【悪亜集 理亞船】
理亞「・・・・・・・・・」
理亞(私を虚仮にした、松浦果南・・・・・・出てきているの・・・・・・?)
理亞(奴は、私が討ち取る・・・・・・!)
ギリッ
【悪亜集 聖良船(頭領船)】
聖良「ほお。すでに迎え撃つ備えは万端――」
聖良「流石は黒澤水軍ですね」
聖良「いいでしょう。進軍の合図を」
悪亜兵「御意!! 全船、進めぇーー!!」
ドンドンドン 【ダイヤ船(頭領船)】
よしみ「ダイヤ様、敵の太鼓方の合図です!」
ダイヤ「数に任せて、突っ込んでくる――」
ダイヤ「全く、なんのひねりもありませんわね」ハァ
ダイヤ「うろたえるな! ギリギリまで引き付けるのですわ!」
【ルビィ船】
ルビィ(お姉ちゃんからの合図は無い・・・・・・)
ルビィ(今は、我慢して待つ、ってことだね・・・・・・お姉ちゃん・・・・・・!)
ルビィ「こ、このまま相手を引き付けます!」
ルビィ「皆さんは、そのままで! 我慢してください!」
いつき「承知!!」
■ ■ ■
■ ■ ■ ■
■ ■ ■
□ □
□ □ □ □ □
■…悪亜集
□…黒澤水軍
【悪亜集 理亞船】
理亞「弓隊、射れぇ!!」
シュパシュパッ
理亞「ふん。亀みたいに固まって、防戦一方じゃない」ニヤッ
理亞「黒澤水軍、恐るるに足らず――!」
【悪亜集 聖良船(頭領船)】
聖良(不自然ですね――ここまで、守りに徹するとは)
聖良(もしや――?)
【悪亜集 理亞船】
理亞「長浜城と、敵の頭の船は目前・・・・・・!」
理亞「一気に進めっ!!」
ウオオオッ
【ダイヤ船(頭領船)】
よしみ「ダイヤ様・・・・・・!!」
ダイヤ「――今ですわ! “鶴翼之陣”!!」
よしみ「御意!!」
カンカンカンッ 【ルビィ船】
ルビィ「・・・・・・!! お姉ちゃんの船の、陣鐘方から合図!」
ルビィ「い、今です!! “鶴翼之陣”!!」
いつき「進めぇーー!!」
ワアアアッ!
【悪亜集 理亞船】
理亞(――!? これは!?)
理亞(横一線に固まっていた黒澤水軍の船が、一斉に動き出して――)
理亞(囲まれている!?)
【悪亜集 聖良船(頭領船)】
聖良「成る程。こちらが前進してくるのを待ち――」
聖良「十分に引きつけた所で、一気に両翼の船が翼を広げるが如く回り込み、包囲する」
聖良「流石は、黒澤水軍といった所ですか」
□ ■ ■ ■ □
■ ■ ■ ■
□ ■ ■ ■ □
□ □
□
■…悪亜集
□…黒澤水軍
【ダイヤ船(頭領船)】
ダイヤ「これぞ黒澤水軍伝統の陣形がひとつ、“鶴翼之陣”!」
ダイヤ「さあ、相手は包囲しましたわ! 集中攻撃でやっつけますわよ!!」
よしみ「弓隊、射れーー!!」
ワアアアッ
シュパシュパッ!
【悪亜集 聖良船(頭領船)】
聖良「――ふ」
聖良「ですが、これくらいでやられる我ら悪亜集ではありません」
聖良「行きますよ、理亞」
【悪亜集 理亞船】
理亞「わかってるわ、姉様」
理亞「進みなさいっ!!」
ザザザザ 【ダイヤ船(頭領船)】
よしみ「だ、ダイヤ様!! 船が二艘、飛び出してきました!!」
ダイヤ「自棄(やけ)にでもなったんですの――? 愚かな」
よしみ「ですが、こちらの放つ矢を、ものともしていません!!」
ダイヤ「なんですって――」
ダイヤ「!! あの船は!?」
【ルビィ船】
いつき「飛び出した船のうち一艘が、こちらに迫ってきます!!」
ルビィ「――!? あの船――!!」
ルビィ「暗くて、よく見えなかったけど・・・・・・近くで、よく見ると・・・・・・!!」
ルビィ「船の周りが、鋼で、覆われてる――!?」
【悪亜集 聖良船(頭領船)】
聖良「――その通り。これぞ、我ら悪亜集が造り出した、小型の鉄甲船」
聖良「この鉄甲船ならば、多少の矢や鉄砲など、ものともしません」 【ダイヤ船(頭領船)】
よしみ「一艘、こちらにどんどん迫ってきます!!」
ダイヤ「もう一艘が、向かっている先は――」
ハッ
ダイヤ「あそこには、ルビィの船が――!!」
よしみ「ぶ、ぶつかる・・・・・・うわあぁっ!!」
ガッシャアアン!!
ダイヤ「っ!!」
【ルビィ船】
いつき「こっちに突っ込んできます!!」
ルビィ「よ、避けて・・・・・・!!」
いつき「ま、間に合わな・・・・・・わぁっ!!」
ドガアアン!!
ルビィ「ぴぃっ!?」 ――ダイヤ船には聖良の、ルビィ船には理亞の鉄甲船が、体当たりをするように突っ込み、
ダイヤ達の船に寄せた鉄甲船から、兵が次々と飛び移ってくる。
ウオオオッ!!
ルビィ(!! 向こうの船から、悪亜集の人たちが乗り移ってくる・・・・・・!!)
いつき「ルビィ様!!」
ガキン!
襲い来る悪亜兵の刀をいつきが受け止め、
ルビィ船内の兵達も、船に飛び移ってきた悪亜兵を迎え撃つ。
いつき「ルビィ様を守れ!! 黒澤水軍!!」
ワアアア!
その時――
長槍を手に、悪亜集の鉄甲船から、ゆっくりと姿を現したのは。
理亞「あら――残念」
ルビィ「!!」
理亞「松浦果南じゃ――なかったか」 ―― 一方の、ダイヤ船。
ダイヤ「いつつ・・・・・・な、なんという無茶を・・・・・・!!」
よしみ「ダイヤ様、寄せた船から悪亜集がこちらに攻めてきます!!」
ダイヤ「小癪なっ・・・・・・!! 応戦しますわ!! 武器を持て!!」
よしみ「承知!!」
ウオオオッ!
ダイヤ達もまた、乗り込んできた悪亜兵達を相手に、
一歩も退かずに応戦する。
そして、鉄甲船の中から、
そんな小競り合いの様子を、不敵に眺める者――
聖良「さて――“狙い通り”」
クスッ
聖良「相手の懐に飛び込んでしまえば、こちらのものですよ」 〜長浜城 城門前〜
――同刻、長浜城の麓、城門前。
警護として残る、むつと、何人かの水軍の兵達。
オオオオ…
むつ「・・・・・・!」
むつ(海から兵の雄叫びが・・・・・・!)
むつ(私も助太刀したい所だけど・・・・・・この城を守らねば・・・・・・!)
――その時。
コツッ!
コロコロ… むつの足元に転がってきた、
小さな、玉のようなもの。
むつ「――?」
むつ「これは、」
むつが、何気なく手に取ろうとした――
その瞬間。
カッ!
ドカァァァン!! 〜長浜城近くの、海沿いの道〜
ダダダダッ
千歌「・・・・・・! あれは・・・・・・!!」
曜「千歌ちゃん!! 長浜のお城の前の海に、たくさんの船が!!」
千歌「もう始まってる・・・・・・! 急がなきゃ・・・・・・!!」
ドコォ…ン
曜「・・・・・・!? なに、今の音!?」
千歌「長浜のお城の方だ・・・・・・!!」 〜長浜城 山上 城郭内〜
花丸「なんずら!? さっきの、音・・・・・・!!」
梨子「門の方から、聞こえてきましたけど・・・・・・」
果南「あれは――」
果南たちが、城郭から外の様子を窺う。
目に入ってきたのは、麓の方向から、濛々と立ち昇る煙――
モクモク
花丸「門の方が、煙でいっぱいに・・・・・・!」
果南「炸裂弾――煙幕か」
果南「どうやら、来たみたいだね――“本命”が」 〜長浜城 城門付近〜
悪亜兵「今だァ!! 一気に攻め込めぇぇ!!」
ウオオオッ!!
どこかに潜んでいたのか、
爆発と煙に怯んだむつ達に、悪亜集の兵達が襲い掛かる。
むつ「げほごほっ! ひ、怯まないで、皆の衆!」
ガキッ!
ギイン!
むつ(しかし、兵はほとんど船の方に出していて、数が足りない・・・・・・!!)
むつ(それに、煙幕で、視界がきかな――)
バキュウン!!
ビシュッ!
むつ「っ!!!」 むつは、肩に、焼けた鉄を突き立てられたような激痛を感じ、
思わず、その場に倒れこむ。
ドサッ
むつ「あ・・・・・・あう・・・・・・!!」
むつ(撃たれた・・・・・・今のは・・・・・・)
むつ(種子島・・・・・・!?)
ザッザッ…
???「――恨まないでよね」
むつ「――!!」
むつ(あれは・・・・・・!!) ――白く霞む煙の中から、漆黒のマントを身にまとい、現れた者。
それは――
ザッ!
善子「――私も、もう後が無いから」
善子「返してもらうわよ――“煉獄の書”」
バサッ…
その時――むつは、目にした。
漆黒のマントが翻り――
善子の胴、両脚に巻かれたベルト。
そして、マントの裏地。
そこに、括りつけられている――長短様々な、何挺もの、鉄砲。 むつ(・・・・・・!? マントの、下に・・・・・・)
むつ(たくさんの、鉄砲・・・・・・!?)
漆黒の衣の下に、夥しい火器をまとった少女は――
鋭い視線を、山上へと向けた。
善子「堕天使、夜羽根――」
キッ!
善子「――参る」
wktk
黒澤姉妹には今後の活躍シーンがあることを期待したいぞ… 乙です
黒澤姉妹VS鹿角姉妹、果南VS善子かな
わくわくする 面白い
エタらずに完結出来たら久々の大作になるかも 〜長浜城 山上 城館前〜
ワアアアッ!
――長浜城の山上。
黒澤水軍の警護の兵達を蹴散らし、
最後の砦たる城館へと迫る悪亜集の一党。
悪亜兵「一気に攻め込めぇ!!」
悪亜兵「“煉獄の書”を取り戻すのだ!!」
ウオオオッ!!
???「――おっと」
ガキイン! ――しかし。
悪亜集の前に立ち塞がるは、松浦果南。
悪亜兵「――!?」
悪亜兵「脇差ひとつで――受け止めただと!?」
キインッ!
悪亜兵「うおおおっ!!」
ドサドサッ
果南は、相変わらず脇差ひと振りで、
悪亜集の兵達の刀を受け止め、蹴散らす。
果南「行かせないよ――」
果南「――この先には」 悪亜兵「――!! “無太刀の果南”っ!!」
悪亜兵「おのれ、またしても大太刀を抜かず、我らを愚弄するかっ!!」
悪亜兵「ええい怯むな!! 者共、“無太刀の果南”を討ち取り名を上げるのだぁ!!」
ウオオオッ!!
花丸「――させないずら!!」
ヒュンッ
ガキィッ!!
さらに、襲いかからんとする悪亜集の刀を受け止め、薙ぎ払ったのは、
花丸の振るった、十文字槍の刃。
悪亜兵「何――」
悪亜兵「十文字槍だとぉ!?」 果南「マル――梨子は?」
花丸「“煉獄の書”と一緒に、奥に隠れてもらってるずら」
果南「マルは、いいの? 坊主が、こんな血の香る戦場(いくさば)で、そんなもの振り回して」
花丸「勿論――無益な殺生はしたくない」
花丸「だけど――命が獲られていくのを、黙って見ていることが出来るほど、達観するには――」
花丸「――オラは、まだまだ修行が足りないずら」
果南「上等――」
ニッ
果南「ゆくぞ――悪亜集!!」 〜長浜城 城門前〜
タタタタ
千歌「着いた・・・・・・!」
曜「――! これは――!」
千歌「煙が残ってるし、ボロボロだ・・・・・・!」
千歌「やっぱり、悪亜集が来たんだよ!」
曜「!! 千歌ちゃん、あそこ!」
むつ「う・・・・・・」
千歌「あれは――黒澤水軍の――!」 千歌「大丈夫!?」
むつ「うう・・・・・・千歌・・・・・・曜も・・・・・・」
曜「肩から、血が・・・・・・!!」
むつ「大したこと、ない・・・・・・行かなきゃ・・・・・・!!」
むつ「いつっ!!」
曜「動いたら駄目だよ!」
むつ「だけど・・・・・・悪亜集が、城内に・・・・・・!!」
むつ「情けない・・・・・・ここを、守れなかった・・・・・・!!」ギリッ
千歌「――私たちが、行く!! 貴方は、ここにいて!!」
むつ「まっ・・・・・・待って!!」
むつ「悪亜集の中の、黒いマントを羽織った奴・・・・・・!!」
曜「黒い――マント!?」
むつ「あの傾奇者は、たくさんの鉄砲を持っていた・・・・・・気をつけて・・・・・・!!」
千歌(もしかして――)
千歌(“あの子”が――また?) 〜長浜城 山上 城館前〜
ガキッ!
ギインッ!
悪亜兵「ぐああっ!」
ドサドサッ
悪亜兵「ぐ・・・・・・強い・・・・・・!!」
果南の圧倒的な技量、そして花丸の十文字槍の前に、
苦戦を強いられる悪亜集。 果南「ほらほら、どうした? もう終わりかい?」
花丸「口ほどにもないずら」
果南「マルも、なかなかやるね」
花丸「おじいちゃん仕込みの、この宝蔵院流槍術――」
花丸「こんな、仏の道を外れた人たちにやられる程、甘くないずら」
果南「成る程――結構、頼もしいね」
花丸「さあ、反省してオラのお寺の門徒になって、仏様を信じるなら赦してあげるずら!」
花丸「その時はオラのお寺にお布施を――」
コロコロ…
――と、その時。
果南と花丸の目の前に、転がってきた小さな球――
花丸「・・・・・・?」
果南「あれは――!!」
カッ!
ボウンッ!! 花丸「げほごほっ!! なんずら!?」
果南(煙幕――!! まず、)
ドキュウン!!
ビシュッ
――不意に、銃声が響き渡り、
果南の腕を、銃弾がかすめる。
果南「くっ!!」
花丸「果南さ、」
果南「伏せて、マル!!」
グイッ
ドサッ!
果南は、咄嗟に花丸の背中を押さえつけ、
地面に倒す。
花丸「!! 果南さん、血が、」
果南「腕をかすっただけ・・・・・・大丈夫・・・・・・!」
果南「それよりも・・・・・・」 モクモク…
ユラッ…
白い煙の中で、僅かに揺らめいたのは。
漆黒の、マント――
善子「・・・・・・・・・」
果南(煙幕で視界を遮ってから、種子島で狙撃・・・・・・!!)
果南(こいつは厄介だね・・・・・・下手に動けない・・・・・・!)
悪亜兵「おお・・・・・・善子様!!」
悪亜兵「善子様に来て頂ければ、こたびの戦、勝ったも同然――」
バキュウン!
ヒュッ
悪亜兵「ひえっ!?」 ――と。
悪亜兵のひとりの鼻先を、銃弾がかすめる。
善子「――次、うるさく騒いだら、当てるから」
ギロ…
兵達を、鋭い眼差しで一瞥したのち――
善子は、再び視線を、果南たちの方向に向ける。
善子「さあ――撃ち殺されたくなかったら」
善子「大人しく降参して――“煉獄の書”を渡して」 〜長浜城前 内浦湾 ルビィ船上〜
ワアアアッ!
キンッ! ガキンッ!
―― 同刻、内浦湾上の、ルビィ船。
乗り込んできた悪亜集の兵をを迎え撃つ、黒澤水軍。
いつき「黒澤水軍を舐めるなっ!」
いつき「皆の衆、ルビィ様をお守りしろっ!!」
ウオオオッ!
ルビィ「み、みなさん・・・・・・」
悪亜兵「へっ! しゃらくせえ!」
――と、兵のひとりが、隙を見て飛び出し――
刀を構え、奥のルビィ目掛け、走る。
悪亜兵「何も出来ない餓鬼なんざ、ぶった斬ってやらぁっ!!」
ダダッ!
いつき「!! ルビィ様!!」 ルビィ「ぴぎぃ!?」
ルビィ(お、おねえちゃ、怖いよ、お姉ちゃん・・・・・・!)
――貴方も、誇り高き黒澤水軍頭領家の血を引く人間です。
――気持ちを強く持つのですよ。ルビィ――
ルビィ「・・・・・・!!」
キッ!
ルビィは――
奥歯を噛み締め。
前を向いた。
ルビィ(逃げちゃ駄目――)
ルビィ(お姉ちゃんだって、闘ってる。ルビィだって――!) ルビィは、素早く右手を、左の袖に入れ――
そこから抜いた右手を、鋭く振るう。
シュパッ!
――次の瞬間。
ドスッ!
悪亜兵「あぐ!? あ・・・・・・あぁ!?」
悪亜兵「なんだ・・・・・・!? 俺の肩にぃ!?」
ルビィを襲おうとした、悪亜兵の肩に――
丸い玉のついた、太い針が、突き刺さっていた。 いつき(あれは――かんざし?)
いつき(否、違う。あれは、極太の“待ち針”――!)
ルビィ「る・・・・・・ルビィ、だって・・・・・・!」
フルフル…
キッ!
ルビィ「黒澤水軍、だもの・・・・・・!!」
ルビィ「うわああっ!!」
シュパシュパッ!
ドスッ
悪亜兵「ぐわ!?」
バスッ
悪亜兵「あがぁ!?」 ルビィが右手を振るい、
飛ばした針が、次々と悪亜集の兵達の、腕、脚に突き刺さる。
いつき(すごい、一瞬で三人もの悪亜集を・・・・・・!)
いつき(まるで、飛び苦無――!)
ルビィ「・・・・・・・・・」
ハァハァ
ルビィ「きゅ・・・・・・急所は、外して、あります・・・・・・」
ルビィ「だから・・・・・・ルビィの船から、で、出て行ってぇ!!」
シュパッ!
???「――笑止」
ビュオッ
ガキンッ!
ルビィ「・・・・・・!?」
ルビィ(え・・・・・・!? 今、矢を・・・・・・弾き飛ばした・・・・・・!?)
理亞「何を――世迷言を」
ザッ 巨大な槍を担ぎ上げた、鹿角理亞が――
ルビィの船へと、足を踏み入れる。
いつき(な、何・・・・・・!?)
いつき(あんな小さな体の癖して、身の丈ほどもある大身槍(おおみやり)を軽々と振り回して――)
いつき(飛んできた針を、空中で叩き落とすなんて・・・・・・!?)
ルビィ「・・・・・・っ!!」
理亞「面白いじゃない――小さな“黒澤水軍”さん」
理亞「私をこの船から、引きずり降ろせるものなら――」
ブンブンッ
ジャキッ!
理亞「――降ろしてみろ」 〜長浜城前 内浦湾 ダイヤ船上〜
―― 一方の、ダイヤ船。
悪亜集に応戦する、ダイヤ達黒澤水軍。
ワアアアッ!
よしみ「我ら黒澤水軍!! 無法者などに負けるかぁ!!」
ダイヤ「おとといきやがれですわっ!!」
キンッ ガンッ!
悪亜兵「ぐわぁっ!!」
悪亜兵「ぐぅ・・・・・・流石は頭領船、なかなかやりおる・・・・・・!!」
ダイヤ「雑魚が何人来ても同じことですわ」
ダイヤ「わかったら、大人しく――!」
???「全く――情けないですね」
ザッ…
悪亜兵「せっ・・・・・・」
悪亜兵「聖良様!!」 ――悠然と姿を現し、ダイヤの船へと足を踏み入れたのは。
鞘に収めたままの刀を、ひと振りだけ携えた、鹿角聖良。
聖良「もういいです――下がりなさい」
聖良「後は、私がやります」
悪亜兵「し、しかし――!」
キッ…
聖良「“巻き込まれたく”なければ――」
聖良「大人しく、離れなさい」
聖良「――死にますよ」
悪亜兵「・・・・・・!!」
ゾクッ…
悪亜兵「はっ・・・・・・はっ!!」
ドタドタ
ダイヤ(・・・・・・!? 周りの兵が、元の船に逃げた・・・・・・!?) よしみ「なっ・・・・・・なんだかよくわからないけど、」
よしみ「たった一人で我らに挑もうとは、愚かの極み!!」
ジリ…
聖良「・・・・・・・・・」
スッ…
聖良は――
鞘に収めたままの刀を、眼前に構える。
ダイヤ(――? 刀を――なんですの、あの構えは?)
ダイヤ(刀を、鞘に収めたまま、眼前で――逆手で、柄を持った――?)
よしみ「皆―― 一気にかかれっ!!」
ワアアッ!
ダイヤ「ま、待て――!!」
――その刹那。 クスッ
聖良「――滅」
ヒュヒュヒュッ
よしみ「――え、」
ズパズパズパッ!
一瞬の内に、聖良の刀が抜かれ。
次の瞬間、周囲のよしみ達、水軍の兵の身から、血が吹く。
よしみ「――!!!」 聖良「―――」
パチン…
聖良が、刀をゆっくりと鞘に収めると同時に――
よしみ達は、次々とその場に倒れた。
よしみ「な・・・・・・!?」
ガクッ
よしみ(き、斬られた・・・・・・いつ・・・・・・!?)
よしみ(み・・・・・・見えな、かった・・・・・・)
聖良「――とどめ」
グッ
聖良が、再び柄を握る手に力を込めた瞬間――
ダイヤ「させない!!」
ダッ!
ガキィン!! ギギギ…!
ダイヤ「――!!」
聖良が刀を抜こうとした瞬間、咄嗟にダイヤが間合を詰め。
その手の武具が、聖良の刀の刃を、鞘から抜ききられる寸前で止めていた。
聖良「――ほぉ」
聖良(これは――“扇”? 扇で、私の刀を、止めた――)
聖良「“鉄扇術”――ですか」
ダイヤ「そういう貴方は、抜刀術――」
ダイヤ「“居合”、ですわね」
聖良「――いかにも」
ギインッ!
聖良はダイヤを押し返し、
両者は再び、距離をとる。
聖良「驚きました――初見で、私の居合を見破り、抜刀の刹那に刀を止めるとは」
ダイヤ「貴方も、数人に囲まれていながら、一瞬で全員を斬り伏せる――」
ダイヤ「その剣速――大したものですわね」 聖良「ふふ――ならば、もう一度試してみますか」
クス…
聖良「私の“居合”と、貴方の“鉄扇術”――」
聖良「――どちらが、上か」
ダイヤ「・・・・・・!」
ザッ!
よしみ(ダイヤ様・・・・・・!!) 〜長浜城 山上 城館前〜
善子「このっ!」
ドンッ!
チュイーン
花丸「ずらっ!?」
花丸「な、なんとか壁の陰に隠れられたけど・・・・・・出られないずら・・・・・・!」
果南「種子島は厄介だねぇ・・・・・・」
善子と交戦する果南、花丸。
咄嗟に後退し、城館の中へと入って、入口の戸の陰に身を潜める。
しかし、城館とはいえ、そこは堅牢な天守などではなく、木造りの平屋敷である。
このまま、善子と悪亜集に踏み込まれれば、ひとたまりもない。 花丸「確か、鉄砲は連発出来ないって聞いたことがあるずら」
花丸「ってことは、撃った後に素早く走り出て、弾を込める前に取り押さえたら・・・・・・!」
ドンドンッ!
チュイチュイーン!
善子が撃った弾が、花丸のすぐ脇、
入口の柱をかすめる。
花丸「ずららっ!?」
果南「・・・・・・無理だな。さっき見えたあの種子島は、改良された連発型だ」
果南「それにマントの下に、何挺も持っているのも見えた。奴は隙を作るつもりは無いらしい」
果南「とはいえ、退けば奴らに城館内へ侵入を許してしまう。中にいる梨子と“煉獄の書”が危ない」
花丸「じゃあ、どうすれば・・・・・・!!」 善子「さあ、大人しく降参して、“煉獄の書”を出すのよ!」
善子「さもなくば、この堕天使・夜羽根の放つ“魔弾”で、貴方たち人間風情なんか――」
悪亜兵「善子様ァ! 構わねえ、一気に攻め込んじまいましょうぜ!!」
悪亜兵「中にいる奴らなんか、皆殺しにしちまいましょう!!」
善子「だから善子じゃなくて夜羽根!!」
善子(くっ・・・・・・こいつら、野蛮だし汗臭くて汚いしうるさいし・・・・・・)
善子(もう、鬱陶しい! 私だって必死なのに・・・・・・!)イライラ
善子「いいから、あんたたちは夜羽根の言うことを聞いて――!」
千歌「――今だ!! 曜ちゃん!!」
曜「――がってん! 宜候(よーそろー)!!」
ガッ! と、その時。
城館の平屋敷を囲む、石垣の一部。
積み重なった石が、不意に崩れ始め――
グラッ…
ガラガラガラッ!
悪亜兵「な!? 石垣が、両側から崩れてきて・・・・・・!!」
悪亜兵「う、うわああああ!!」
ガラガラ
ズズズズン!
悪亜兵「ぶほっ!! な、なんだこりゃあ!?」
悪亜兵「か、体が埋まって、鎧が重くて、動けねえ・・・・・・!!」
善子「なっ!? み、みんな埋まっちゃった・・・・・・!?」
善子「い、一体何が・・・・・・!?」 ――崩れた石垣の上から、姿を現したのは。
ガラッ…
千歌「――げほごほっ! 危ない、私も一緒に埋まっちゃうとこだった・・・・・・」
千歌「って、たぶんこの人たち、生きてる・・・・・・よね?」
曜「げほっ! もう、千歌ちゃんったら、無茶するんだから・・・・・・」
千歌「えへへ、でも上手くいったでしょ、“石垣崩し作戦”!」
善子「あっ・・・・・・あんたたちは・・・・・・!」
果南「――千歌! 曜!」
果南「なんで、こんな所に・・・・・・!」
千歌「えへへ・・・・・・お待たせ、果南ちゃん」
千歌「かんかんみかん侍の千歌、只今参上!!」
ビシッ 続く
聖良の居合の構えは座頭市をイメージしてください
https://i.imgur.com/hjpdy5C.jpg
https://i.imgur.com/FTYbhyH.jpg
あと連発型の種子島とかいうのは失われたサイカのオーバーテクノロジーです >>305修正
誤 ルビィ(え・・・・・・!? 今、矢を・・・・・・弾き飛ばした・・・・・・!?)
↓
正 ルビィ(え・・・・・・!? 今、針を・・・・・・弾き飛ばした・・・・・・!?) ルビィちゃんが針を武器にしてるのは裁縫得意だからか ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています