ルビィ「断髪式」 【後編】 [無断転載禁止]©2ch.net
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ルビィ「お母さん、お姉ちゃん、ただいま」
ダイヤ「ルビィ! やっと戻ってきたのね、心配したんだから」ダキッ
ルビィ「お、大袈裟だよ…お姉ちゃん」
黒澤母「クスッ、ダイヤさんは本当に妹思いですね……ねえ、ルビィさん」
ルビィ「なに?」
黒澤母「友達とのお祭りはどうでしたか?」
ルビィ「うん、すごく楽しかったよ」ニコッ
黒澤母「そうですか、それは何よりです」 ルビィ「お母さんたちは?」
黒澤母「ええ、久々に…熱が入ってしまいました」
黒澤母「いい息抜きになりましたよ」
ダイヤ「私も、お母様の意外な一面が見られて少し嬉しいです」
黒澤母「……いや、思ったより道が複雑でしてね…恥ずかしいところをお見せしました」
ダイヤ「いえいえ、そんな」クスクス
ルビィ「……?」キョトン ルビィ「あっ、そうだ……ねえお母さん」
黒澤母「何でしょうか、ルビィさん」
ルビィ「あのね、お友達がルビィの誕生日をお祝いしたいんだって」
黒澤母「ええ」
ルビィ「それでね、新年のお祝いのこと話したの」
ルビィ「ルビィの家って誕生日の考えとか、ちょっと変わってるから」
黒澤母「成程、確かに私達の家は他とは違ってダイヤさんの誕生日と同時にルビィさんの年を増やしてますからね」 ルビィ「だからあの…その新年のお祝いに、お友達を呼んでいいかなって…」
黒澤母「そうですね…まあ、挨拶程度なら問題ないでしょう」
黒澤母「ですが、あまり時間はありませんよ?」
ルビィ「うん、ありがとうお母さん」
黒澤母「いえいえ…余程好きなのですね、そのお友達が」
ルビィ「……そうだね」
ダイヤ「……ルビィ?」 ルビィ「ううん何でもないの、ちょっと疲れちゃって」
ダイヤ「そう? ならいいのだけど」
黒澤母「では少し急ぎましょうか、夜は冷えますし、風邪でも引いてしまったら余韻が台無しですからね」
ダイヤ「はい、ほらルビィ行きましょう」スッ
ルビィ「うん、お姉ちゃん」ギュッ
ルビィ(そう……好きだよ、お母さんよりも…お姉ちゃんよりも……ずっと、ずっと)
ルビィ(大好きなんだよ……でもね、言えないの)
ルビィ(それがルビィたちの決めたことだから…………だから、ごめんなさい)
……
… ─それから季節は巡り……ついには年の瀬を迎え、そして……
─ 一月一日、新年 ─ ─黒澤家
ダイヤ「……数え年、それは元旦を迎えたときに自分の年を一歳増やす…そんな数え方をするものらしいですわ」
ダイヤ「今となっては珍しいですが、昔はよく使われていたとか」
ルビィ「へえ〜…だからルビィも一緒に年をとっていたんだね」
黒澤母「まあこれも伝統の名残みたいなものですから」シュルシュル
ダイヤ「この家の風習、ですか?」
黒澤母「そんなところです」キュッ 黒澤母「……はい出来ましたよ、これで着付けは終わりです」ポンポン
黒澤母「二人ともよく似合っていますよ」
ダイヤ「ありがとうございます」
ルビィ「うーん、やっぱりちょっと動きにくいかも…」
ダイヤ「ルビィ…駄目ですわよちゃんとしなきゃ、新年の挨拶には私たちも出向くことになっているのよ」
ダイヤ「知り合いの方々にみっともない所を見せるわけにはいかない、分かるでしょう?」 黒澤母「ルビィさん今日限りの辛抱ですから、ね?」
ルビィ「…うんそうだよね、それに今日はお姉ちゃんの誕生日だもん…ルビィも頑張らないと」
ダイヤ「ルビィ……」
黒澤母「フフッ…さあ二人とも挨拶回りに行きますよ、その後はダイヤさんのお祝いですから頑張りましょうね」
ルビィ・ダイヤ「はい!」 ─
善子「あー寒っ……日が昇ってこんなに明るいっていうのに、外は冷え切ってるのね…はぁーっ嫌だわ」スタスタ
善子「…けど、あの子の顔を見れないよりマシよね」
善子「だから私は今、外に出ているわけで」
善子「…ええ、そうよ……そうなんだけど…」
善子「これは流石に入りづらいというか……ねえ?」
善子「なにこの部外者は立ち入り厳禁みたいなオーラが漂う場所……これが、黒澤家なのね…」 善子「何度も思ったし今さらすぎるけど…本当にとんでもないところだわ」
善子「そしてそんな家の娘が、ルビィなのよね…」
善子「……ま、だからどうしたって話だけど」
「……あれ? 善子ちゃん?」
善子「!」
ルビィ「来てくれたんだね」クス
善子「ルビィ……ええ貴女に会いに来たわ、明けましておめでとう」フッ
ルビィ「うん、おめでとうございます」ニコッ 善子「でもどうしてここに? ダイヤさんのお祝いがあったんじゃないの?」
ルビィ「うん今もやってるよ、でも今は親戚の人たちの番だから」
ルビィ「それにルビィは先にお祝いしてもう終わってるから、少しだけ時間を貰ったんだ」
善子「私に会うために…?」
ルビィ「もちろん」
善子「そっか…」
ルビィ「ねえ善子ちゃん、ちょっとだけ上がっていかない?」
善子「……ええ、そうさせてもらうわ」 善子「お祝い自体は神社の境内でやってるのね」
ルビィ「新年の挨拶も兼ねてるからそっちのほうがいいんだって」
善子「へえ、せっかくだからお参りしていこうかしら」
ルビィ「じゃあルビィも」 パンパンッ
善子・ルビィ「……」
善子「…なにお願いしたの?」
ルビィ「ずっと一緒にいられますようにって」
善子「そう…私もよ」
ルビィ「じゃあ、約束だね」
善子「ええ、約束…」 ─
ダイヤ「……ふぅ」
黒澤母「お疲れ様でした、ダイヤさん」ドウゾ
ダイヤ「ありがとうございます……あの、今年は例年より人が多いように感じられましたが」
黒澤母「いい賑わいですものね」
ダイヤ「どうして今年はそんなに多いのでしょうか?」プハッ 黒澤母「それはきっと、ダイヤさんを一目見たいと思っている方が沢山いるからでしょうね」
ダイヤ「私をですか? 一体なぜ?」
黒澤母「ダイヤさんは今年で小学校を卒業し、中学生になるわけですからね」
黒澤母「皆さんはまた一つ成長したその晴れ姿を見ておきたかったのでしょう」
ダイヤ「……そういうものでしょうか」
黒澤母「ええ、ダイヤさんも大人になれば分かりますよ」フフッ 黒澤母「…ところで、ルビィさんは今どちらに? そろそろ時間なのですが見当たらなくて」
ダイヤ「恐らく、お友達の善子さんと一緒にいると思いますが……あっ、いました」
黒澤母「え? どこですか?」
ダイヤ「あちらです、ほらあそこの……」
黒澤母「ああ、あそこでした…か…………!?」
ダイヤ「お母様?」 黒澤母「ダイヤさん……隣にいるのは?」
ダイヤ「お友達の善子さんですね」
黒澤母「善子……あの子が…?」
黒澤母「…………姓は?」
ダイヤ「え?」
黒澤母「彼女の姓は津島、と言いませんか?」
ダイヤ「ええ、確か…そうだったような気が…私もルビィからほとんど名前しか聞いていなかったので正確には知りませんが」 黒澤母「そうですか」
ダイヤ「あの、それが何か…?」
黒澤母「ダイヤさん」
ダイヤ「は、はい」
黒澤母「私はあの子に挨拶をしていきますから少し外しますね」
ダイヤ「え、ええ…わかりました」
黒澤母「では後ほど…」スタスタ
ダイヤ「……お母様、一体どうしたんでしょうか」
ダイヤ(今、一瞬だけ…とても怖かった……) ─
ルビィ「それでね、この間お姉ちゃんが……」
「ルビィさん」
黒澤母「そろそろお時間ですよ」
ルビィ「あっ、お母さん」
善子「お母さん? この人が……」
善子(確かにダイヤさんによく似てるわね…)
黒澤母(成程、間違いありませんね…) 善子「あの、初めまして…津島善子です」
黒澤母「ええ…存じていますよ、ルビィさんから貴女の話はよく聞いていますから」
黒澤母「ルビィさんのことをいつも気に掛けてくれているとか」
善子「いえそんな…」
黒澤母「フフッ、謙遜することはありませんよ」
黒澤母「…………ルビィさんのこと、好きなのですね」
善子「……友達、ですから」 黒澤母「……」
黒澤母「そうですか、ありがとうございます……それと」
黒澤母「─ごめんなさいね」
善子「え?」
黒澤母「…ここから先は身内の者だけで行うことになっておりますので」
善子「成程…分かりました、お暇させていただきます」 黒澤母「話が早くて助かります、さあルビィさん…」
ルビィ「はい」
善子「……ルビィ!」
ルビィ「ん?」クルッ
善子「またね」ニコッ
黒澤母「……」
ルビィ「うん、またね!」ニコッ ─
黒澤母「ダイヤさん、お待たせしました……時間は?」
ダイヤ「まだ余裕があるみたいです、一息入れるくらいなら可能かと」
黒澤母「それならよかった」
ダイヤ「あら…? ルビィ、どうしたのその髪飾り」
ルビィ「えへへっ…さっき善子ちゃんに貰ったんだぁ、色違いのお揃いなんだって!」
ダイヤ「そう、よかったわね」
ルビィ「うん!」
黒澤母「……」 黒澤母「では時間が来るまで二人はそこで待っていてくださいね、私は用事を済ませてきますから」
ダイヤ「はい」
ルビィ「うん、待ってる」
黒澤母「……」
黒澤母「……ああ、その前に聞いておきたいことがありました」
ダイヤ・ルビィ「?」
黒澤母「ルビィさん、今善子さんがどちらに住んでいらっしゃるか…分かりますか?」
……
… ─それから数日後、黒澤家
黒澤母「……来ましたね」
善子母「……ご用件とは何でしょうか」
黒澤母「聞かなくても分かるのでは? 私が手紙を寄越した理由も察しているのでしょう?」
善子母「……」
黒澤母「…取り敢えずそこにお掛けになって下さい、お茶程度なら出します」
善子母「……お心遣い痛み入ります」 ─
ダイヤ「あら……今日はお客人がいるのね、この期間じゃ珍しいですけど」
ダイヤ「一体誰が……」
……デショウカ キカナクテモ…
ダイヤ「……ん? 話し声? ……一人はお母様ですわね」
ダイヤ「それともう一人……確か、この声は……」ソッ 黒澤母「どうぞ」コトン
善子母「ありがとうございます」
ダイヤ(やはり善子さんの…)
黒澤母「いえ、私も少し落ち着きたかったので……」ズズッ
善子母「……」ズズッ
黒澤母「ハァーッ……さて、では本題に入りましょう……と言いたいところですが」
黒澤母「その前にいくつか質問をさせていただいてもよろしいですか?」
善子母「はい、どうぞ気の済むまで」 黒澤母「では一つ目、ルビィさんのことについてです」
黒澤母「いつから気づいていました?」
善子母「四月です、確信に至ったのは娘から色々話を聞いたあとですが」
黒澤母「……二つ目、その娘さんとルビィさんの関係について」
ダイヤ(……え? …今、なんて……)
黒澤母「これはいつから存じておりましたか」
善子母「七月には大方…はっきりと分かったのは八月の夏祭り、でしょうか」 黒澤母「……成程、よく分かりました」
黒澤母「では最後にもう一つだけ……」
善子母「…はい」
黒澤母「……」フゥーッ
黒澤母「どうしてああなるまで放っておいたんですか!」
善子母「っ……!」 黒澤母「七月には大体察していたと言いましたね? 何故そのときに娘さんを止めなかったのですか!」
黒澤母「あの娘がルビィさんを見る目はもう完全に友達に対するそれじゃない! ルビィさんが善子さんを見る目もそうです!」
ダイヤ(!!)
黒澤母「一体何を考えているんですか貴女は!」
善子母「それはっ……」 黒澤母「……女性同士なら大丈夫だと高を括っていましたか」
黒澤母「…あるいは所詮小学生のままごとだと、現状に対して…見て見ぬふりをしていたのですか」
黒澤母「それとも……まさかとは思いますが」
黒澤母「愛情さえあれば乗り越えていけると…そんなご自身の理想に囚われた妄言を吐くつもりではないでしょうね」
黒澤母「─あの時と同じように」
善子母「っ!!」 黒澤母「……またですか」
黒澤母「津島さん、貴女教師ですよね? 人にものを教える立場でありながら、貴女はあの騒動から何ひとつ学んでいない」
善子母「……」
黒澤母「また同じことを繰り返すおつもりですか、サファイア」
ダイヤ(サファイア……?)
善子母「……」
黒澤母「……何か言ったらどうです」
善子母「……仰る通りです、弁解の余地もありません…」 黒澤母「……貴女は女性である前に、一人の娘の親でしょう」
善子母「…はい、本当に……申し訳ありませんでした…」
黒澤母「それならば私の言いたいことも分かりますよね?」
善子母「……はい」
黒澤母「では本題です…今すぐ二人を別れさせなさい」
ダイヤ(!?)
黒澤母「今ならまだ最低限の傷だけで済みます…そうでしょう?」
黒澤母「貴方が望んでいることは、十やそこらの子供が背負うには余りにも業が深すぎる」 善子母「……ですが、私はあの子たちを…」
黒澤母「何ですか、彼女たちの関係を隠し通せるとでも? だとすれば見当違いも甚だしい」
黒澤母「たとえ今はよくても…いずれ周囲に知れ渡ります、それは貴女が一番よく分かっているはずですが?」
善子母「っ……」
黒澤母「何度も同じことを言わせないでください…さあ、返事は?」
善子母「……分かりまし「待ってください!」 善子母「……!」
黒澤母「……人の大事な話に聞き耳を立てるとは、感心しませんね」
ダイヤ「どういう、ことですか……」
ダイヤ「お母様…今の話は、本当に……!」
黒澤母「……私の用件はこれで終わりです…津島さん」
黒澤母「あとは貴女に任せます、今日はもう下がってください」
善子母「……はい、失礼しました…」 ─ピシャッ
黒澤母「……さて、いつから聞いていました?」
ダイヤ「……最初からです」
黒澤母「……そんな子に育てた覚えはないのですがね」
ダイヤ「申し訳ございません……ですが」
ダイヤ「私にも知る権利はあると思います」
黒澤母「…そうですね」 ダイヤ「お母様、詳しく聞かせてください」
ダイヤ「このままでは……納得出来ません」
黒澤母「…聞いても納得出来ないかもしれませんよ?」
ダイヤ「それでも構いません」
ダイヤ「私にお母様のことを…教えてください」 黒澤母「…本当はこんな形で真相を告げたくはなかったのですがね……いいでしょう」
黒澤母「聞いて後悔しても、もう遅いですよ?」
ダイヤ「……」
黒澤母「では始めましょうか…そう、あれは今から十年以上前の話です──」
……
… ─津島家
善子「─なに? 大事な話って」
善子母「……ルビィちゃんのことよ」
善子「えっ」
善子母「付き合ってるのよね、貴女たち」 善子「…何言ってるの? 私とルビィはただの友達で「善子」
善子母「もう全部…分かってるのよ」
善子「……」
善子母「そして、その上で言わせてもらうわ」
善子「……何を?」
善子母「…善子、ルビィちゃんと別れて」
善子「…………は?」 善子「ママ……何言って…ねえ、なんで?」
善子母「……」
善子「か、隠してたことなら謝るから……それとも、やっぱり女の子同士だから?」
善子「そのことだって…私はちゃんと……」
善子母「……そもそも、ルビィちゃんが善子のこと…そこまで好きじゃないとしたら?」
善子「…は? ちょっと何言ってるの、いくらママでも流石に怒るわよ」 善子母「だから、善子が一方的に好意を向けてるだけじゃないのって」
善子「っ! ちょっと本当に怒るわよ!! 大体何を根拠にそんなこと言ってるわけ!?」
善子「一方的? ふざけないでよ、そんなことないっ! ルビィだって私のことが……!」
善子母「ええ、好きでしょうね…でもそれ以上に─」
善子母「善子、貴女がルビィちゃんに惹かれすぎているのよ…どうしようもないほどにね」
善子「っ!? 何を……」
善子母「違うの? 今までの貴女たちがやってきたことだって、全部善子からの言葉がきっかけなんじゃないの?」
善子「私からって……!」 ─
『ねえちょっと……そこのあんたよ、あんた』
『それに、その見た目なら私のリトルデーモンとしても十分、いやそれ以上に……』
『…ならそうね、休日は?』
『夏祭り、あるじゃない? あんたと二人で行きたいから……』
『─ねえルビィ、あんたはさ……もし、私が女の子のことが好きって……』
『ルビィのことが好きだって言ったら……笑う?』
─ 善子「──!!」
善子母「……やっぱり」
善子「あっ……ち、違う! 違う……違う! そんなことない! 適当なことばかり言わないでよ!」
善子「黙って聞いていればなによ! それだって勝手な推測なんじゃないの!? ママは私たちのこと、何も知らないくせに!」
善子母「……分かるわよ、だって今の善子─」
善子母「昔の私にそっくりなんだもの…」
善子「……え……?」 善子「なに…昔って……」
善子母「……お姉様の言った通りね、やっぱり私には…隠し通せなかった」
善子「何言ってるの…ねえママ、ちゃんと説明してよっ!」
善子「何がそっくりなの!」
善子母「……昔、好きな人がいたわ」
善子「! 何を急に……」
善子母「その人はね、善子が好きになった人と同じ……」
善子母「赤い髪をしていたのよ」
善子「……っ!?」 お帰りなさい
いよいよ因果が暴かれる時がきたか
板の現状を鑑みるに、なるべく書き溜めて早目に完結させた方がいいです
規制もされない荒らしが毎日のように圧縮を起こしてますので 落ちてたからどうなるかと思ったけど再開してくれてよかった… 早めに完結させた方がいいとのことなので、このまま最後まで行きます。 ─
黒澤母「いいですかダイヤさん、黒澤家は代々…その長男が領主の跡を継ぐことになるのですが」
黒澤母「私たちの代…まあ今もですが、生まれてきたのは女性だけ…男に恵まれなかったわけです」
黒澤母「その場合、婿養子を取ってその方に跡を継がせるのですが…貴女たちの父親、つまり私の主人がこれに当て嵌まるわけですね」
黒澤母「ここまでは分かりますか?」
ダイヤ「はい」 黒澤母「では続けましょう、そのように決められた形式ではあったものの、私はお父様と結ばれることについては特に不満はありませんでした」
黒澤母「領主となるに相応しい、器量を持ち合わせていましたからね」
ダイヤ「……」
黒澤母「そんなものですから交際自体は至って順調に進みました……ですが」
黒澤母「一つ、大きな問題があったのです」
ダイヤ「……あの、それは…?」
黒澤母「……」
黒澤母「今は無き、黒澤家…分家側の一人娘」
黒澤母「黒澤サファイア……善子さんの、母親ですよ」
ダイヤ「─!?」 ─
善子「黒澤……え…? それってルビィの名字、よね……何で…」
善子母「善子、今は嫁いで姓を変えてるけど…私は元々黒澤家の人間なの」
善子母「と言っても私は分家の方だったんだけどね」
善子「分家……」
善子母「そう、そしてその頃の私の許婚が今の善子のお父さん」
善子「なっ……!」 善子母「ちなみにルビィちゃんのお母さんは本家の人、私とは…再従姉妹(はとこ)の関係ね」
善子「え、じゃあ…私とルビィは親戚ってことになるの…? そんなの……」
善子母「……いいえ、違うわ」
善子「違うって……いや、だって私はお父さんとお母さんの子供で…」
善子母「……そこが違うのよ」
善子「……何、言ってるの…」 ─
黒澤母「分家のサファイアにも許婚がいました、今の善子さんのお父様です」
ダイヤ「成程…だから今、津島と…」
黒澤母「ええ、その通りです……当時サファイアはその津島さんと結ばれるはずだったのですが」
黒澤母「生憎と彼女が愛していたのは別の人物でした」
ダイヤ「まさか……」
黒澤母「そう、貴女たちのお父様ですよ」
ダイヤ「!」 ダイヤ「そんな…」
黒澤母「まあそのこと自体はさして珍しいものではありませんよ、両親が婚約相手を決めるというしきたりの中ではしばしば起きることですからね」
黒澤母「自分の恋心を抑えて、一族の繁栄のために婚約相手と結婚するという事例だっていくらでもあります」
黒澤母「ですから、問題なのはそこではない」
ダイヤ「……」
黒澤母「この際に最も懸念すべきものはですね…その恋心が抑えきれないということなんですよ」 黒澤母「つまり…一族の未来よりも、自分自身のエゴを優先するわけです」
黒澤母「そしてサファイアはその感情に従った」
黒澤母「貴女たちの父親を…諦めきれなかったんですよ」
黒澤母「それによって生まれたのが……もうお気づきでしょう」
ダイヤ「……」ギュッ
黒澤母「津島…善子さんです」 ─
善子母「当然すぐにバレたわ、お父さんに身に覚えがなかったからね」
善子母「そしてその事実は一気に広まって、ダイヤちゃんが生まれたことで幸せに満ちていた空気が一変…重苦しいものになった」
善子母「そのときになってようやく気付いたの、自分のしでかした罪の重さに」
善子「……」
善子母「結果私はそれが原因で黒澤家から勘当され、津島として生きることになった」
善子母「─これが私の昔の話よ」 善子「……」
善子母「だから別れてって言ったの、だって貴女は「やめてよ」
善子「ねえママ、さっきから何言ってるの?」
善子「本家とか分家とか、なにそれ……そんなの私知らないし」
善子「意味が、分からないんだけど…」
善子母「……」
『……貴女は女性である前に、一人の娘の親でしょう』
善子母「……なら、もっと分かりやすく、はっきりと…言ってあげましょうか?」 善子「……やめて」
善子母「…善子」
善子「嫌だ」
善子母「貴女には」
善子「言わないでよ……!」
善子母「……ルビィちゃんと同じ血が流れている」
善子「〜〜ッ!!!」
─パアンッ!
善子母「っ……」
善子「ふざけるなぁっ!!」ポロポロ 善子「なんで……なんでっ! 私が! 私たちが!! そんな思いしなきゃならないのよ!」
善子「じゃあなに!? 私がルビィを好きになったのはママの遺伝でっ! 惹かれていたのは同じ血が流れていたからだって言うの!?」
善子「そんなの茶番にも程があるでしょっ!!」
善子母「……善子」
善子「うるさい! 黙れ! 違うんだ! 私はっ!! ママとは違う!」
善子「遺伝なんかじゃない! 血なんて関係ない! 私は……私はっ、本気であの子のことを……! ルビィを……!」
善子「すきに…なっ…たのに……! どう…して……」 善子母「……」
善子「……ねえ…おしえてよ」
善子「これからどんな顔して…ルビィに会えばいいの……」
善子「もう…わからないよぉ……」
善子「……うぅっ……ああああぁぁぁぁ…………!」
善子母「……前と同じじゃない…私のやってることは…」
善子母「…もっと、最低なものだったわ…………」
善子母「こんなことを言っても…許してもらえないのは分かってる……でも」
善子母「……本当に……ごめんなさいっ……」 ─
黒澤母「以上が事の顛末です」
ダイヤ「……よく、分かりました」
ダイヤ「お母様が二人を別れさせたがっていた理由も…納得、いきました」
ダイヤ「……ですが……ですがっ!!」
ダイヤ「こんなのはあんまりすぎます!!」ポロポロ 黒澤母「……」
ダイヤ「あの子にはっ…ルビィには……初めて出来た友達でっ! やっと…やっとよく笑うようになったのに!」
ダイヤ「このままではルビィも善子さんも可哀想すぎます!!」
ダイヤ「お母様! お願いします! どうか……どうか別の方法を…!」
黒澤母「……ありません」
ダイヤ「っ…!!」 黒澤母「このまま私たちが匿うとして、それがいつまで続きますか?」
黒澤母「そして彼女たちの関係が周囲に知られたら、どう思われます?」
黒澤母「耐えられると? 同性愛だけではない、彼女たちは血が繋がっている姉妹です」
黒澤母「それに向けられる目が如何程のものか…経験などなくとも分かるでしょう」
黒澤母「今までのことを無かったことにして、関係を断ち切る……今後の彼女たちのためにも、そうするのが一番いい」
黒澤母「…世の中には、知らないほうがいいこともあります」 ダイヤ「しかしっ…!」
黒澤母「……でしたら、言えますか?」
ダイヤ「えっ…」
黒澤母「今のルビィさんに、ここで聞いたことを全て…包み隠さず」
黒澤母「打ち明けることが……ダイヤさんには出来ますか?」
ダイヤ「─!!」
黒澤母「……そういうことです」 ダイヤ「………っくぅ……! ……うぅっ…!」ポロポロ
黒澤母「……ダイヤさん、ダイヤさんは本当に…いいお姉さんですよ」
黒澤母「妹のために、辛いことを……代わりに背負ってくれるのですから」
ダイヤ「ああああああああ! わあああああああああん!!」
黒澤母「今は思い切り泣いてしまいなさい、ここで全て……次にまた、笑えるように」ギュッ
……
… ─それから一ヶ月の時間が過ぎ……
善子母「……そろそろ時間ね」
善子「……うん」
善子母「お別れの挨拶は言ったの?」
善子「……何も、そっちのほうが…いいと思ったから」
善子母「そう……」 善子「……行きましょう」
「待って! 善子ちゃん!」
善子「!! ……なんで」
ルビィ「はあっ……はあっ……間に合った…」
善子母「……善子」
善子「…先に行ってて」
善子「……まさか来るとは思わなかったわ」
ルビィ「先生に聞いたんだよ、そしたら善子ちゃん…今日出るっていうから……」 善子「…ええ、そうよ…今日でこの町ともお別れ」
ルビィ「……ルビィ、本当は善子ちゃんと離れるのは嫌だけど……でも」
ルビィ「ちゃんと、お別れが言いたくて…」
ルビィ「だからっ……! 会いに来たの!」
善子「っ……!」ジワッ
善子(ここ一ヶ月…碌に口もきかなかったのに……!) ルビィ「善子ちゃん……ルビィね、善子ちゃんに言いたいことがあるの」
善子「……なに?」
ルビィ「善子ちゃん、今までたくさんルビィと一緒にいてくれてありがとう」
ルビィ「ルビィね、善子ちゃんと一緒にいた日が…一番幸せだったよ!」ニコッ
善子「!!」 善子「そう……私もね、ルビィに言いたいことがあるのよ」
ルビィ「うん……なに?」
善子「……」
善子「…………っ」ギュゥ
ルビィ「……善子ちゃん?」 ─
『……また引っ越し、か…』
『はぁーっ…結局、こうなるのよね……ま、それはそうか』
『本当のことなんて知ったら…ルビィ、耐えられないもの』
『…でもね、それは私だって同じなのよ……』
『今だってずっと嘘だと思ってる、これが嘘ならどんなに…どんなにいいか』
『でも嘘じゃなくて、どうしようもなくて……だからねルビィ、私…ときどき、こう考えちゃうのよ』
『こんな思いをするくらいなら……最初から──』
─ 善子「──あんたに…出会わなければよかった」
ルビィ「…ぇ……?」
善子「もううんざりなのよ、早く私の前からいなくなって」
ルビィ「そんな…嘘だよね? …ねえ善子ちゃん、嘘なんだよね?」
ルビィ「だって言ったよね? 約束したよね? ルビィと……」
善子「忘れたわ」
ルビィ「ずっと一緒に……って」
善子「…忘れたわ」
ルビィ「……大好きだって言ったのに!!」
善子「忘れたって言ってるでしょ!!」 ルビィ「!!」
ルビィ「…じゃあ、夏祭りのことは……?」
善子「…知らない」
ルビィ「お誕生日は…?」
善子「……あったかしら?」
ルビィ「っ……お正月に…ルビィに、くれた……髪飾りは……?」
善子「そんなもの…覚えてないわよっ!」 ルビィ「……!」
善子「…もういいでしょ、私…行かなきゃいけないから」
ルビィ「……まって」
ルビィ「ねえ、善子ちゃん…………それでも」
ルビィ「ルビィは…ルビィはね……」
善子(ルビィ…なんで……どうしてまだ嫌いにならないのよ…)
善子(私…今最低なことを貴女に言っているのよ……なのに) ルビィ「善子ちゃんのことが……」
善子「……嫌い」
ルビィ「…………ぇ?」
善子「あんたのこと、嫌いだから」クルッ
善子「だから、それ以上……言うのは、やめて…」
善子「……虫唾が走るわ」
ルビィ「──!!」 ルビィ「あ………あぁ………っ……」
ルビィ「……な……んで……」
善子「じゃあね、もう二度と、会うことはないでしょうけど」
ルビィ「……ま、って……ダメ、ぃか…ないで……」
善子「……」スタスタ
ルビィ「……ょしこ、ちゃん……よしこちゃん……善子ちゃんっ!!」ダッ
ルビィ「嫌だ!嫌だよぉ!……まだっ!…行かないで……!」ダキッ
善子「……っ…うるさい、うるさいうるさいうるさい!!」
善子「いい加減にしてよ! だから嫌いなのよ!! もうこれ以上、私の足を止めるようなことをするなっ!!」バシッ ルビィ「ぅあっ……!」ドサッ
善子「あっ……! ルビィ…!」
ルビィ「ぅう……善子ちゃん…」ヨロッ
善子「! ……さよならっ…」タッ
ルビィ「…………あ……あぁ…」
ルビィ「………よ…しこ……ちゃん…!」ポロポロ ─
善子「……お待たせ」
善子母「……もう、いいのね?」
善子「…………いいもなにも」
善子「こうするしかっ…ないじゃない……!!」ポロポロ
善子「ルビィっ……ごめん……わた…し………うぅっ…」
善子「わたしも…好きよ……すき……だい、すきなのよ……っ…!」
善子母「……」ギュッ
善子「うわあああああああああああああああああああん!!! ルビィ! ……ルビィっ! ああああああああああああ!!」ボロボロ
……
… ─そして二年後、黒澤家
ルビィ「……」
ダイヤ「ルビィ、入りますわよ」ガチャ
ルビィ「あっ、お姉ちゃん…なに?」
ダイヤ「いえ…明日から中学生になるでしょう? 気を引き締めるようにと言いに来たのだけど…」
ルビィ「えへへっ、大丈夫だよ…心配いらないから」 ダイヤ「ならいいのだけど……」
ダイヤ「……ねえ」
ルビィ「なに?」
ダイヤ「…どうしたの、その髪」
ルビィ「うん、切っちゃった」 ダイヤ「……習い事も全てやめたそうですわね、お母様から聞きました」
ルビィ「うん」
ダイヤ「ルビィ……」
ルビィ「……これで本当にさよなら」
ダイヤ「!」
ルビィ「学校も、習い事も、この…思い出も全部」
ルビィ「今日でおしまい」 ルビィ「だからね、ルビィは今から生まれ変わるの、新しい……ルビィになるんだよ」
ダイヤ「……そう……ねえ、ルビィ」
ダキッ
ダイヤ「今日までよく頑張りましたわね、本当に」
ダイヤ「だから……もう、いいのよ?」ナデナデ
ルビィ「っ! ……ぉねえちゃ…」
ルビィ「……ぅう…!……うんっ…!」ポロポロ
ルビィ「うわああああああん!! ああああああああああ!!!」ボロボロ
───
──
─ それからのことは、ご存知でしょう。
浦の星に入学したルビィは貴女たちに誘われ、晴れて念願のスクールアイドルになることが出来た。
……そして、彼女と約五年ぶりの再会を果たしたことを。 ダイヤ「─以上が私の知っている全てです……よく、耐えましたわね」
ダイヤ「ですがこれで分かったでしょう…? ここで再会した二人が、何故」
ダイヤ「あのような行動を取ったのかが」
ダイヤ「……確かに常人には理解しがたいでしょう、しかし…彼女たちはその経緯からして普通ではありません」
ダイヤ「それでも……なにか私に出来ることはないかと、考えはしたのですがね」 ダイヤ「結果はご覧の通りです、彼女たちの過去を知っていながら尚……私は二人を止められなかった」
ダイヤ「…そうですね、どうしてこうなってしまったのでしょうか」
ダイヤ「それは私にも分かりません」
ダイヤ「結局先のことなど、誰も知ることは出来ないのだから」
ダイヤ「…ですが、一つだけ……」 ダイヤ「そう、ただ……一つだけ思ったことは」
ダイヤ「彼女はやはり、自分自身のエゴを捨てることは出来なかったのだろうと……そして─」
ダイヤ「あの子は…私が思っていた以上に」
ダイヤ「女泣かせだったということです」
ダイヤ「──ええ、そうでしょうね」
ダイヤ「本当に……罪な人達よ」 終わりです。ここまでお付き合いいただきありがとうございました
ハッピーエンドのよしルビが見たい方はこちらをどうぞ。
善子・ルビィ「未来通信」 乙。
2人がどういう行動を取ったかまでは明記されていないのが……アアアァァッ
つらい。せめて駆け落ちであって欲しい……乙乙( c||-ヮ-|| どうもお疲れさまでした
重いですね…一族の血の因縁ですか
自分の恋に従う事は悪い事ではないですがやはり、
産まれてくる子の生涯を鑑みなくてはなりませんね
しっかり書ききって頂きありがとうございました ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています