【SS】千歌「かげおくり」 [無断転載禁止]©2ch.net
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私にその遊びを教えてくれたのは、母だった。
千歳「この遊びはね、かげおくりっていうのよ」
ちか「かげおくり…?」
千歳「そうよ。今日みたいにお日様がさんさんと輝いている日に、自分の影をじっと見つめるの」
ちか「ジィー…」
千歳「うふふ。そんなに目を凝らして見つめなくてもいいのに。
さあ。影を十秒ほど見つめたら、今度はお空を見上げて」
ちか「おそらを…?」
私は母の言うとおり、空を見上げた。
そこには、薄い黒をした、"かげ"が映っていた。 ちか「うわぁ!?おそらに黒いのがいるよ!」
千歳「それはね、千歌の"かげ"よ」
ちか「わたしの…」
私は空から目を離さなかった。
空を漂う黒のかげはゆらゆらと揺れ、今にも白い雲に流されてしまいそうだった。
すると、私よりもほんの少しだけ大きいかげが現れ、私のかげをそっと支えた。
ちか「おかあさんのかげだ!おかあさんがちかのとなりにいるよ!」
千歳「ふふ、そうね。一人ぼっちじゃ、寂しいものね」
母は悲しそうな表情を浮かべ、そう呟いた。 千歳「……ごめんね、千歌。お母さん、お仕事の都合で、東京に行かなくちゃいけないの」
ちか「え、なんで?おかあさんいなくなっちゃうの?」
千歳「ごめんね…。でも、千歌にはお姉ちゃん達がいる。独りじゃないわ」
ちか「いやだいやだ!おかあさんとはなれたくない!ずっとちかのそばにいて!」
千歳「……千歌…」
母は私と同じ目線の高さにしゃがみ込み、優しく微笑み、暖かな手を私の頭にぽん、と置いた。
千歳「私のかげを残していくわ。それなら、千歌は寂しくないでしょ?」
私は空を見上げた。
空に並ぶ二つのかげは、手を繋ぎ合い、仲良く笑っているように見えた。
ちか「うん…。おかあさん、いってらっしゃい」
母は笑顔で応えた。
千歳「うん。行ってきます」 私はそれから、二人の姉とかげおくりで遊ぶようになった。
千歌「十秒だよ。自分のかげを見つめて、十秒。
そしたら、一気にグワン!って、お空を見上げるの」
美渡「はいはい。判ってるって」
姉達は少し呆れながらも、私に付き合ってくれた。
見上げた空。
そこには、三つのかげが手を取り合い、ゆらゆらと靡いていた。 千歌「大きい雲に乗ってるかげ。あれ、ちかのかげだよ!」
美渡「ああ、あの一番チビすけのことか」
千歌「なにをー!
あ、あの意地悪そうなかげ!あれ絶対みと姉のかげだ!」
美渡「言ったな!この、この!」
千歌「いたぁい!しま姉、みと姉がいじめてくるよー!」
志満「よしよし、大丈夫よ。もうお姉ちゃんバリアを張ったから、バリアの中に美渡は入ってこれないわ」
美渡「くそ、千歌の奴、志満姉を巧く取り込んだな…」
千歌「あ!あの一番大きくて、一番優しそうなかげは、しま姉のだよ!」
志満「ふふふ。ありがと、千歌」
私たち三人は空を見上げ、そこに漂うかげに、それぞれの想いを馳せた。
母がいなくなって、もう数年。
空にはもう、母のかげは残っていない。
私は母のいない間に、身も心も大きく育った。
そして、母のいない生活にもすっかり慣れ、いつからか、母と過ごした記憶も段々と思い出せなくなっていた。 その日は、太陽がさんさんと降る、とある夏の日だった。
窓から差し込む西日に、私は目を覚ました。
目が光に慣れるまで、私はベッドに腰を掛けた。
私がぼんやりしていると、何処からか、声が聴こえてきた。
千歌「お母、さん…?」
朧げな記憶の中で、私は、それが母の声色であることに気が付いた。
すぐに部屋を飛び出し、階段を駆け下り、外へと降り立った。
私は家の庭から、空を見上げた。
夕陽に照らされた空は赤く染まり、今日という日の終わりが近付いていることを教えてくれた。 「………八、九、十。」
何処かから、数を数える声が聴こえた。
私は上を見た。
すると、赤い空に、黒く焦げついたようなかげが、ぽつりと浮かんでいた。
「………八、九、十。」
「………八、九、十。」
また、声が聞こえた。
見上げると、赤のキャンバスに黒く染みたかげが三つ。
三つのかげは、私を見ていた。
私は俯き、自分の影に視線を落とした。
千歌「………一、二、三、四、五、六、七、八、九、十。」
私は数え上げ、空を見上げた。
黒く焼け焦げたそれは四つに数を増やし、赤に染まる夕空に揺蕩った。
「なんだ…。みんな、そこに居たんだね」 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:0be15ced7fbdb9fdb4d0ce1929c1b82f) ゆとり世代なら小学生の時に国語で習ったはず
かげぼうしじゃなかったっけ? ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています