曜「私にとっての故郷は場所ではなくて千歌ちゃんでした」 [無断転載禁止]©2ch.net
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「何食べる?」
「僕、焼きそば食べたいなぁ……」
「お母さん!早くいこーよー」
沼津駅前がいつになく騒がしい。
今日は年に1度のお祭りだからかな。
友達同士で来てる人とか、お母さんと来てる子供とか。恋人同士で来てる人も沢山いる。
私はというと、今日は千歌ちゃんと2人。
一応、恋人と──になるのかな?
どっちから付き合ってくださいって言ったわけでもないけど、「じゃあ、付き合おっか。」みたいな感じでお付き合いが始まった。
付き合い始めたからといって特に変わることはなくて、2人で学校に行って、勉強して、練習して、一緒に帰って って、前と変わらない生活。 当然恋人らしいことも何も出来てなくて、私達ほんとに付き合ってるのかな?って考えたりもした。
そんなだから、「2人でお祭りデートしよ?」って千歌ちゃんから誘われた時はとっても嬉しかった。
2人で一緒のバスに乗って行くんじゃなくて、恋人らしく待ち合わせしようってなって、今は千歌ちゃんを待ってるところ。
ちなみに、待ち合わせの時間はもう15分前なんだけどね……
まあ、遅れてくるほうが千歌ちゃんらしいと思ったりもするし、怒ってはいないんだけど。 「よーちゃーーーん!!」
そろそろ来るかな?と思ったその時、遠くから私を呼ぶ声がする。
何十回、何百回と聞いた声。
人混みの中でもどこにいるかはっきり分かった。
だんだん声が近づいてきて、雑踏の中から彼女が現れた。
千歌ちゃんらしいひまわり柄の明るい浴衣。
歩きにくそうにしながらもてててっとこっちに向かって走ってくる彼女は、それはそれは可愛くて。
思わず飛びつきたくなっちゃうぐらい。
髪型もいつもとは違くて、髪を下ろしていた。 「千歌ちゃん!」
「曜ちゃん、遅れてごめんね?待った?」
「ううん!今来たところ!」
「いやいや、ほんとに少し前に着いたよ?」
「ほんとにー??」
これも、恋人ならではのお決まりの会話だよね。
ほんの少しの短い会話だけど、こんな会話を千歌ちゃんと出来るのは私だけ。
そう思うと、千歌ちゃんが遅れてきてくれたのはラッキーだったのかも。
千歌ちゃんが遅れてきたおかげで恋人らしいことが出来たわけだしね。 「うん、ほんとほんと!」
「そっかー……じゃあ行こっか!」
そう言いながら、千歌ちゃんが私のほうに手を向ける。
それも、私の目をじっと見ながら。
「え?その手は……?」
「何って、分かんない?!」
「え?えっと、手を、繋ぐの……?」
「ねえ曜ちゃん、私たちって恋人だよね?」
「う、うん、」
「恋人なのに、デートの時に手を繋がないの?!それで恋人って言えるの?!」
「あー、いや、えっと、よ、よーそろ……」 たどたどしく千歌ちゃんの指と自分の指を絡ませる。
ずっと昔から一緒にいるけど、物心ついてからは手を繋いだことなんて無くなっちゃったんだ。
特に高校生になってからは、恥ずかしいって思うようになっちゃったし。
だからまさか千歌ちゃんから繋ごうとしてくるとは思わなかった。
それに、2人で手を繋いで歩いてると周りからの視線が集まってるのがよく分かるから、恥ずかしかったりもするんだよね……
自然と道が空いていく気もするし、指を指されている気もする。
でも、千歌ちゃんはそんなこと気にしていない感じ。 今も私の横でルンルンしながら歩いてる。
1方私は、そんな千歌ちゃんの横顔を見ながら笑っているだけ。
普段2人でいる時はなんでも話せるんだけど、いざデートってなると何を話したらいいのか分からないんだよね。
せっかくのデートなのにいつも通りの会話をするのもつまんないし、かと言って何を話したらいいのか分からないし。 「よーちゃん?よーちゃーーん?」
「えっ?なに?」
「なにじゃなくて、着いたよ?さっきから呼んでるのにぼーっとしてるんだから……」
「ごめんごめん。ちょっと考え事をしておりました……」
「もぉー!私とのデート中に考え事してたの?!」
ほっぺをぷくっとさせながら怒る千歌ちゃんもとっても可愛い。
あまりに可愛くて、全く怒られてる気がしないぐらい。
でも、まさか千歌ちゃんが可愛くて見蕩れてたなんて言えないよね。 「ごめん!」
「ごめんで済むなら警察はいらないんだよ!曜ちゃん!」
「ま、まあそーだけど……」
「ほんとに申し訳ないって思ってるの?デート中だよ?!」
「よ、よーそろ……」
「いやいや、曜ちゃんは反省が足りないよ。これは罰ゲームが必要だね。」
「え?罰ゲーム???」
「そう!曜ちゃんは罰ゲームとして、ここで千歌とツーショットを撮るのです!」
「え?えええええええ??」
「え?じゃなくて、折角のデートだよ?ツーショットの1枚や2枚撮るの当然でしょ?」
「そ、そうだけど、こんな人が沢山いる中で……」
「なあに?それとも曜ちゃんは千歌とツーショット撮りたくないの?」
「いや、撮りたくないわけでは……」
「じゃあ撮ろう!ここで!」 そう言うと千歌ちゃんはおもむろにスマホを取り出して、カメラを起動する。
「ほら、曜ちゃんもっとこっち寄って?」
「え、でもこれ以上近づくと……」
「いいから!」
自分のほっぺと千歌ちゃんのほっぺがくっついたのが感じられる。
もちろん手は繋いだまま。
千歌ちゃんの吐息の音も聞こえるし、横を見なくても視界には千歌ちゃんがいる。
あと少し近づいたら、それこそキスしちゃいそうなくらい。 「曜ちゃん、撮るよー?」
「う、うん!」
とっさにカメラの方を向いたらその瞬間にパシャッと音がした。
ほっぺはくっついたまま、手も繋いだまま。
ツーショットを撮るにしても、千歌ちゃんが気になって仕方が無い。
でも、千歌ちゃんはやっぱりそんなこと気にしてない様子で、私の手を引っ張って歩き始めようとしてる。
「よし!撮れた、じゃあ行こう!」
「う、うん!」
今度はしっかりと返事をして、送れないように並んで歩く。
少し歩いたところで、千歌ちゃんが止まった。 「ねえ曜ちゃん、クレープ食べない?」
「たこ焼き?いいよ。丁度お腹も空いてきたし!」
「良かった。はんぶんこでいいよね?」
「はんぶんこ?」
「うん。はんぶんこ。デートっぽくない?」
デートっぽい。千歌ちゃんの口からそんな言葉が出るとは思わなかった。
確かに「はんぶんこ」って言葉はデートっぽい……かな?
「確かにデートっぽいね!いいと思う!」 そうやって返事をしたら、千歌ちゃんは静かに頷いて微笑んでくれた。
2人で屋台の前に歩いて行って、クレープをひとつ頼む。
「「クレープ一つください!!」」
「おっ!おふたりさんデートかい?
手なんか繋いじゃって、熱いねぇ。クレープは一つでいいんだね?」
「はい!はんぶんこするので!」
「おお、はんぶんこか。そりゃあいい。少しオマケしてやるよ!」
「やったー!!ありがとう、おじさん!」
「ほら、仲良く食べな。」
「うん!」 こっから書き溜め無いのですがスレタイ回収できそうにないので終わります すごく良い感じだから是非続けて
あとたこ焼きはミス? おじさんからクレープを受け取って、どこか座って食べれるところを探して歩き始める。
「あ!あそこ!曜ちゃん!あそこ座れる!」
そこは小さな段差で、座るのに丁度いいぐらいのものだった。
でも、周りはもうたくさんの人で埋まってて、そこにあるのは2人横に並ぶのがやっとぐらいの隙間。
これ、絶対密着しちゃうよね。 「よっこいしょっと。ふう。食べよっか。」
「うん、食べよう。」
「食べよう」と言う私の声は、明らかに震えていた。
なんせ、体の右側が完全に千歌ちゃんと密着しているのだから。
狙ってやっているのか単なる偶然かは分からないけれど、私の心臓をバクバクさせるには充分。
まあ、デートが始まった時から心臓はバクバク言いっ放しなんだけど……。 「あーん! ほら、曜ちゃん口開けて?」
「へ?」
「ほらはやく!千歌が食べさせてあげるから!」
「あ、あーん……」
「はいっ!」
クレープが私の口の中に入ってくる。
美味しいと評判のクレープだけど、今だけは味が全く分からない。
何が起こったのかも分からないし、美味しそうにクレープを頬張る千歌ちゃんの事をただ見ているだけ。 美味しい?って聞いているような顔をしてこっちを見る千歌ちゃんは、何も考えずにやっているのだから怖い。
あーんなんてしたの、何年ぶりだろう。何回目かな?
いや、初めてでも何回目でもいつぶりでもなんだっていい。
恥ずかしいとかでもなくて、とにかく嬉しくて。
もっと千歌ちゃんにあーんってされたいって思って、ついついおねだりしちゃった。 なんだろう、この気持ち。
さっきまで恥ずかしがってたのが馬鹿みたいで、今はなぜかとても楽しい。
千歌ちゃんと手を繋いで、なんてことない話をしながら笑って。
いつもとあまり変わらないのに、何故か分からないけど、いつもより何倍も楽しくて、嬉しい。 「次は何を食べよっか?」
「私は千歌ちゃんの食べたいものでいいよ?」
「それじゃダメ!デートなんだから、2人が食べたいもの食べないと。」
「うーん……じゃあ、かき氷食べたいかな。」
「かき氷?!いいね!じゃあ行こっ!」
「千歌ちゃん走ったら危ないよ〜!」
「大丈夫大丈夫!」 またまた千歌ちゃんに引っ張られて、人混みの中をかき分けて進んでいく。
ところどころで
「あっ!Aqoursの千歌ちゃんと曜ちゃんだ!」
「手繋いでるね!!!」
みたいな声も聞こえたけど、全く気にならなかった。
そんなこと言われるのさっきまでは恥ずかしがってたのはずなのに、今はそれすら嬉しく感じちゃう。
人の気持ちってこんなに早く変わるんだね。 曜ちゃん、何にする?」
「うーん……私はブルーハワイかな!」
「じゃあ、私はイチゴ!二つを半分ずつ食べよ?さっきはんぶんこ出来なかったし、半分ずつの方が色んな味食べれるし!」
「それいいね。じゃあ、イチゴとブルーハワイ一つずつお願いします!」
「はい。イチゴとブルーハワイ一つずつ。どうぞ。」
「ありがとうございます!」
息ぴったりにお礼をして、一つずつ受けとって、屋台から離れる。
今度はさっきとは違って、2人で歩きながらかき氷を口に運ぶ。 「曜ちゃんって、昔からブルーハワイ好きだよね〜」
「そうかな?」
「そうだよ!小さい時のお祭りでも毎回毎回ブルーハワイ食べてた気がするし。」
「千歌ちゃん、そんなのよく覚えてるね。」
「そりゃあ、幼なじみだし恋人だし?」
「だからって私が昔食べてたかき氷なんて……私も覚えてないよ?」
「へへーんっ!私は曜ちゃんのことならなんでも知ってるのだ!」 こんなたわいもない会話ですら、「デート中」の私にはとってもとっても楽しい。
ううん。会話が楽しいんじゃなくて、「千歌ちゃんとデート中に」会話してるのが楽しいのかな。
ただのたこ焼きだってかき氷だって、千歌ちゃんと一緒に食べてる時は世界で1番美味しいものになる気がする。
嘘じゃなくて、本当にそうだと思うんだ。
今ならお刺身だって食べれる気がする。
それぐらい、千歌ちゃんとのデートが楽しい。 まさか千歌ちゃんと恋人としてお祭りにくるなんて、数ヶ月前の私は予想もしなかっただろうなって。
ほぼ毎年一緒にお祭りに来てはいるけど、それは他の友達も一緒だった。
だから手を繋いだり、ツーショットを撮ったり、あーんってされたりなんて無くて、本当にただ一緒に行ってただけ。
なんで私なんだろう。私で良かったのかなって思う時も沢山ある。
けど、今みたいに手を振りながらりんご飴片手に笑いながら走ってくる千歌ちゃんを見ると、そんなことどうでもよく思えてくるんだ。 高台に登って、2人で並んで花火を眺める。
いかにも「恋人」って感じだよね。
もうすぐ花火も終わりらしくて、だんだん人が集まってるのがよく分かる。
こんな時、普通は「花火より君が綺麗だよ。」
なんて言ったりするのかな?
私はそんなこと言えないし、千歌ちゃんも言わなそうなんだけどね。
でも、そんなかっこいい言葉じゃなくてもいいから、「好きだ」って気持ちは伝えたいなって思うんだ。 最初は恥ずかしかった今日のデートも、いつの間にかとっても楽しくて、嬉しくて、今日で人生が終わってもいいって思うくらいの日だった。
それも全部、大好きな千歌ちゃんと一緒だったから。
ずっと昔から一緒にいて、一緒に色んなところに行って、一緒に色んなことをしてきた。
けど、それは全部幼なじみとしてで。
今日みたいに、恋人として一緒にいる日がくるなんて、思ってもいなかった。
だから、その気持ちは伝えなきゃなって思ったんだ。 「千歌ちゃん?」
「なあに?曜ちゃん?」
「今日はありがとう。私、千歌ちゃんのこと、大好きだよ。」
「どうしたの?急にそんなこと。」
「いや、なんか、そんな雰囲気かなって思って……」
「あのね、曜ちゃん。」
「なに?千歌ちゃん。」
その時、遠くからアナウンスが聞こえた。
「まもなく最後の花火です。みなさん、是非目に焼き付けてください。」
「3!2!1!」
掛け声の、「1!」が終わったその瞬間だった。 驚くほど柔らかな千歌ちゃんの唇が、私の唇に重なった。
柔らかい、今までにない感触がする。
花火の音なんて聞こえない。
世界には私と千歌ちゃんしかいないようで、周りは真っ白な世界には包まれた気がした。
「私も、曜ちゃんのこと大好きだよ。」
聞こえたのは、千歌ちゃんのその声だけ。
花火の音も、歓声も、アナウンスも、何もかも聞こえない。
こんな世界に、ずっと2人で生きていきたい幸せになれるように。 乙
初々しい曜ちゃんと引っ張る千歌ちゃんがかわいかった ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています