とりあえず、アントンは使えない人だった。
でも『出来る女』を演じるのが好きだった。

35歳だから、それなりに事務仕事は出来るだろうと考えていたけど、

両面&縮小&拡大コピーが出来ない。エクセル・ワードもぼちぼち。

電話応対&敬語が変。

そのくせ、全てにおいてオーバーアクション。

一度にコピーを撮ればいいのに数回に分けてバタバタ走り回る。

電話を取れば耳と肩に受話器を挟んで、何故か自分のスケジュール帳
みたいなやつにメモ。

皆アントンには急ぎの仕事や重要な仕事は廻さないようにしてた。


だけど、アントンは常に忙しそう。

電話をとっても早口で乱暴。PCのキーボードはガンガンドスドス。

引き出しを閉めるのはバーンバーン。

いつもアントンの周りでは色んな音がしていた。

そんなある日、アントンがとうとう



や ら か し た。

いつものように設計の出来ないアントンはFAXを送るよう指示されてた。

不貞腐れながらもFAXを送り、また喫煙室へ消えていった。

最近では、アントンの行動にも皆慣れてきて普通の光景だった。


しばらく経つと、FAXを送ったA社から電話がかかってきた。

「電話番号にFAX送ってない?何回もコール鳴るから取り消してよ」と
苦情の電話。

そこへアントン登場。
設計さんが「電話番号にFAXしてるらしいからやり直して」と書類を渡すと、
「間違ってません。」と一言。

苦情の電話がきた事を話しても「間違ってません」とまだ引かない。

とりあえずもう一回送るようにと言われ、舌打ちをしながらFAXを送りにいった。

さすがに今度は喫煙室へは行かなかった。

ドスンという音と共に椅子に座ると、ガンガンドスドス始めた。

設計さんもちょっとイラッとしてたし、周りも凍りついて
ガンガンドスドスだけが響いていた。