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読了した
けーね先生の誕生秘話を綴った二次創作漫画

博麗大結界が完成してちょうど60年が経った西暦1945年のこと
一人の外来人の少女が幻想郷へと迷い込み、人里に棲む白髪の女性に保護される
少女はその身に起こった凄絶な出来事のショックから、外界の記憶を一切失っていた
これが後のけーねである

けーねを保護する白髪の女性は歴史家であり、幻想郷の人間や妖怪の足跡を記録し
それを『秘境史』と銘打った一冊の歴史書に纏めることをライフワークとしていた
人間より遥かに強い力を持ち、長い寿命を生きることが出来る妖怪たちに対し
真実を記録し、後世に残すことが人間にできる唯一の対抗手段だと、女性は語った

妖怪とは人間の恐怖を糧として存在を保つものであり、恐怖とは不安から生まれ、
不安とは無知から生まれるものである。故に、正しい知識こそが人間の光となり、
千変万化の妖異の本質を見抜き正体を照らす武器に、あるいは盾になるのである

生来頭がよく回り好奇心も旺盛だったけーねは、幻想郷の魅力に憑りつかれ
歴史家の女性を師のように慕い、様々な教えを素直に、実直によく吸収した
歴史家の女性はけーねの成長を温かく見守りながら、一つの決断にあぐねていた

1945年、おりしも太平洋戦争の終局において、外界から幻想郷へと数多の
「死者の魂」が流入したことは、幻想郷を終の楽園とする妖怪たちのあいだで
幻想郷の行く末が変わるかもしれない「流れ」として、大きな関心になっていた

パパラッチ記者射命丸は、外界から来たという少女けーねの噂を聞きつけると
少女に接近を図り、外界の近況を聞き出そうとする。外界の記憶が無いことを伝え
射命丸を追い払うけーねであったが、その際置き土産にもらった文々。新聞によって
かえって外界の状況を知り、外界での出来事を思い出してしまう

その夜、けーねは「夢」を見た。照り付ける日差しの下、灰燼に帰した故郷の街に
けーねは立っていた。けーねはすぐに、自らが記憶を取り戻したために外界へと
送還されたのだということを悟った。そこはもう、家族も友人も全てをうばわれた
茫漠たる白亜の世界であった。けーねはむせび泣き、川へと身を投げようとした
しかしまさにその時、幻想のむこうから、けーねを追って白髪の女性が現れた

白髪の女性に対し、けーねはもう、現世に帰ってきたくはない、
ずっと幻想郷にいたいと心の内をさらけ出した。ここにつけ、白髪の女性は
ずっと胸中であぐねていた一つの決断を下し、けーねに真実を語りだした

白髪の女性の名は上白沢和音という。かつて神獣白澤(はくたく)を信奉しながら
白澤を殺し、血を口にすることで「呪い」を受けた遠祖より、脈々と継承された
呪いを受け継ぎ、十五夜のごとに獣の姿へと変貌する、半人半獣の妖怪である
並の人間より遥かに長い寿命を持ちながら、半人半獣にもやはり衰退は存在し、
けーねと出会ったときにはもう、そう長くは生きられない運命にあった

和音はけーねの才覚とまっすぐな気質を認め、その後継者にと嘱望しながらも
もしけーねが外界へ帰る気があるなら、その望みを叶えてやりたいとも考えていた
しかしけーねが幻想郷移住を決めたことで、和音の心中も遂に定まったのである

幻想郷に帰還した和音は、
けーねに自らの血と「慧音」の名を与え、白澤の力となすべき道を説く
白澤には歴史を食う力がある。新しい歴史は、白澤が古い歴史を食うことで生まれる
ゆえに「上白沢慧音」が成すべき最初の仕事は、先代「上白沢和音」の名と存在、
その白澤が綴り上げた歴史を食い、消すことであった。南斗鳳凰拳みたいな伝承方法である
こうして、新しい白澤が生まれ、新しい幻想郷の歴史が始まった