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浅野が何事かと将軍の説教を聞いていると、昨日のあれは何なんだ、わしの顔に泥を塗る気か、というような大層な話だった
浅野も些細な間違いであるとは思ったものの、綱吉が神経質な方であるとの噂は知っており、うかつな返答はできない
見ると、綱吉は血相を変えており、目はつり上がって口はぶるぶる震えていた
上役の吉良が、何とかなだめようと、
上様、勅使殿は何も気づいておらず、無事滞りなく済みましてござりまする
その後も勅使殿はご機嫌麗しくおられましたので、どうかご安心下さいませ
等と弁明していると、突如綱吉が立ち上がった
「おのれ、口答えする気か!」
と叫ぶなり、脇に離れて控えていた小姓の手からなぎなたを取り上げると、伏していた吉良の顔面に上から切りつけた
顔を上げた吉良の眉間に浅くかすって傷がついた
「うわあああっ!!」
と吉良は驚いて額に片手を当てながら、後ろを向いて下がろうとした (はかまのすそが長いので動きにくい)
次いで綱吉は、その逃げる背にもうひと太刀浴びせたが、元来武術は達者でなく、致命傷には至らなかった
この時には既に隣室にいた家臣たちが気がついて走り寄り、上様を抱き止めていた
上様、ご乱心!