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2018年12月16日

日曜に想う 編集委員・福島申二

「一杯のかけそば」から貧困たたきへ 平成の相は険しく

寒気のなかに吐く息も白く、平成を見送る師走である。年の瀬は涙腺のゆるむ人情話がよく似合う。
平成の始まった年に話題をさらった「一杯のかけそば」をご記憶のかたもいるだろう。

――大みそかの夜、2人の男の子を連れた母親が、かけそば1人前を遠慮がちに注文する。
事情を察したそば屋の夫婦はひそかに大盛りをつくり、1杯を分けあう母子を心で励ました。
十数年たった大みそかの夜、夫婦や客が母子に思いをはせる店に、立派に成人した息子2人が母親とのれんをくぐって現れる。

泣かせどころたっぷりの物語は、実話という触れ込みもあって人々の琴線を鳴らした。衆院予算委員会では質問に立った議員が朗読した。議場は静まりかえって、涙をぬぐう閣僚や委員もいた。

大勢を泣かせ、感動させた要素の一つは母と子のたたずまいであろう。描かれているのは「理想の弱者像」とでもいうべき姿である。置かれた境遇で健気(けなげ)につつましく生きるイメージの弱者(あるいは少数者)に世間は同情的だ。

ところが、そうした人たちが声…

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朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/ASLDB52L8LDBULZU00P.html

(略)