自民党のパーティー収入の裏金疑惑を巡って、ついに東京地検特捜部が安倍派と二階派の強制捜査に踏み切った。19日午前、両事務所にそれぞれ20人ほどの係官がガサ入れ。詰めかけた報道陣には一瞥もせず、一様に厳しい表情を浮かべていた。

 両派とも、パー券収入の政治資金収支報告書への不記載を続けてきたとされ、特捜部は刑事責任を追及する。安倍派については、パー券販売ノルマ超過分のキックバックを受けた議員を聴取。不記載に至った経緯も解明を進めるもようだ。

 見逃せないのは、安倍派の問題が「不記載」だけに限らない可能性が浮上したことだ。19日の産経新聞によると、参院選を控えた一部議員には、ノルマ超過分のみならず全額がキックバックされ、選挙に流用された恐れがあるという。これまで、ノルマ超過分のキックバックについて、派閥と議員双方が「不記載」にしたことが問題視されてきたが、選挙に流用したなら話は別だ。選挙違反に問われかねない重大問題である。

「以前から、裏金づくりの目的は選挙対策じゃないかと囁かれていました。ただでさえ、国政選挙の費用は数千万円といわれている。かつては当選が危うい候補が選挙戦最終盤で地元に“実弾”をバラまくことも当たり前のように行われていた。イザという時のために裏金をプールしていた議員がいるのではないか」(政界関係者)

■森喜朗政権時から始まったか

 安倍派が裏金を選挙に流用していたことを示唆する怪文書も永田町で出回っている。怪文書には、森喜朗政権時に実施された2000年の衆院選から〈裏金づくりが始まった〉などと記されている。一部週刊誌が、森元首相が派閥会長の時代から裏金づくりが始まった、などと報じていたが、やはり、安倍派は国政選挙のために裏金づくりに手を染めたのか。安倍派の裏金を巡っては、これまで「派閥の会計責任者はともかく、議員本人を政治資金規正法違反の不記載で立件するハードルは高い」という指摘が専門家から上がっていた。しかし、裏金を選挙で使っていたなら、議員本人が公職選挙法違反に問われるのではないか。元東京地検特捜部検事の郷原信郎弁護士が言う。

「国会議員は複数の政治団体の代表を務めています。政治資金規正法違反の不記載で立件する場合、どの政治団体への不記載の問題なのか特定するのが困難です。しかし、裏金を選挙に流用していたとなると話は全く別で、立件のハードルはグッと下がる。公選法は、選挙資金の出入りについて『選挙運動費用収支報告書』に記載するよう義務付けています。基本的に、報告書に記載する主体は議員事務所の出納責任者ですが、議員本人には記載するよう指示を出す責任がある。裏金を受け取りながら、収入を報告書に記載していなければ、議員本人が公選法違反の虚偽記入に問われる可能性がある。議員本人の立件も十分考えられるでしょう」

14年には、猪瀬直樹元都知事が医療法人「徳洲会」グループから5000万円を受け取っていた問題で、東京簡裁が公選法違反の虚偽記入の罪で罰金50万円の略式命令を出した。猪瀬元都知事は5年間の公民権停止に追い込まれ、選挙運動費用収支報告書を訂正。既に「前例」があるわけだ。司直の手が“バッジ”に及ぶ可能性が高まってきた。

日刊ゲンダイ
23/12/21 06:00
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