「マイナンバーのひも付け誤りをめぐって国民の皆様の不安を招いていることにおわびを申し上げます」ーー。岸田首相は8月4日、マイナンバーカードに対する国民の信頼回復のための対策などについて記者会見を行った。日刊ゲンダイ記者も会見に参加し、挙手を続けたが、例によって指名されなかった。

 当日、書面質問を官邸報道室に送付したところ14日、首相から回答があった。

 会見で岸田首相はマイナ保険証を持たないすべての人に職権で資格確認書を交付する方針を示した。その中で来年秋の保険証廃止を正当化するため、新たな対策のメリットを強調。「従来の健康保険証に比べ、(資格確認書の)発行コストや保険者の事務負担は減少する」と胸を張った。しかし、医療関係者を取材すると負担増の懸念が広がっている。日刊ゲンダイは具体的な懸念事例を複数挙げ、コストと事務負担が「減少する」と断定する根拠を数字で求めた。

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【日刊ゲンダイの質問】

 岸田首相は本日の会見で「今まではすべての加入者に保険証を発行してきた。今後はマイナ保険証を持っていない方に対して、資格確認書をすべて発行するので、従来の健康保険証に比べ、発行コストや保険者の事務負担は減少するのは当然のこと」と発言しました。

マイナ保険証の保有者への交付作業はなくなるかもしれませんが、資格確認書の方がコストや事務負担が減少するというのは疑問です。

 7700万人が加入している雇用者保険の健康保険証は、多くが無期限で、健保組合など保険者は入社時に一度交付すれば済みます。今後は最長でも5年に一度、マイナ保険証の非保有者(現在は人口の半分)に送るコストと手間がかかります。
入社時期は従業員でまちまちなため、大企業なら毎月の作業になる可能性があります。

 また、これまでの健康保険証では組合員に一律に送付すればよかったのですが、資格確認書の場合は組合員がマイナ保険証を保有しているのかどうか、最新の状況を確認する作業が生じます。ほかにも、組合員がマイナカードを自主返納すれば、マイナ保険証とのひも付けが解除されないため、健保組合は「マイナ保険証を保有している」と認識することになり、健保組合から交付されないのも問題です(そうしたリスクについて、厚労省の保険課長は認めている=8月1日の立憲民主党のヒアリング)。

 資格確認書の交付漏れや遅れは避けられず、無保険扱いが発生するのではないか。岸田首相が強調した「マイナ保険証を持たない方もこれまで通り保険医療を受けられる」とは言えない事態が生じるのではないか。いかがでしょうか。合わせて、従来の保険証と比べて、資格確認書の方がコストや事務負担が減少するとする根拠を数字で示してください。

【岸田首相の回答】

○国民皆保険の下で、現行の健康保険証からマイナ保険証への移行期においても、デジタル対応とアナログ対応の併用期間を設け、保険者がマイナ保険証を保有していない方、全てに申請によらず資格確認書を交付することで、全ての国民が安心して保険診療を受けられるようにすることとしています。

○従来の全ての加入者の方に保険証を発行してきた取扱いを改め、マイナ保険証を保有していない方全員に申請によらず交付する運用とすることで、現行の健康保険証に比べ、発行コストや保険者の事務負担などが、減少すると考えています。

 具体的には、 ①マイナンバーカードを保有している方が7割に上る中で、資格確認書の交付対象となる、マイナ保険証を保有していない方は、現状で、保険証を保有している方の5割程度であること、 ②資格確認書の有効期間については、被用者保険の平均加入期間や、現行の国民健康保険や後期高齢者医療の有効期間(1年又は2年)など、現行の保険証の発行事務などを踏まえ、5年以内で保険者が設定できることとし、保険者の実務への影響に配慮していること、 ③カードの形状や記載事項について、現行の健康保険証を踏まえたものとすることで、保険者の既存のシステムを最大限活かすことができるようにし、追加費用が生じないような仕組みとすることとしています。

○その実現に向け、保険者がマイナ保険証の保有状況を確認できる仕組み等を含め、資格確認書の発行などについて具体的に検討していきます。

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 岸田首相の回答は「保険者の実務への影響に配慮している」や「追加費用が生じないような仕組みとする」にとどまり、結局、日刊ゲンダイが求めた「発行コストや保険者の事務負担の減少」についての根拠は数字で示されなかった。

(取材・文=生田修平/日刊ゲンダイ)

日刊ゲンダイ
23/08/15 06:00
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