河井克行・元法相(60)が公職選挙法違反で実刑となった2019年参院選を巡る大規模買収事件で、東京地検特捜部の検事が、元法相から現金を受領したとして任意で取り調べた広島市議(当時)に対して不起訴にすると示唆し、「現金は買収目的だった」と認めさせていたことが、読売新聞が独自に入手した録音データで明らかになった。不起訴を期待させ、特捜部の描く事件の構図に沿った供述を引き出した利益誘導の疑いがある。

 事件では、同法違反(被買収)で正式裁判を受けている広島の地元政治家11人のうち8人が「不起訴を示唆され、買収されたと認めるよう言われた」などと公判で主張する異例の事態となっている。最高検も録音データの内容を把握しており、調査を行う。

 検察当局は、元法相が妻・案里元被告(49)の当選のために票の取りまとめを依頼したとみて、地元政治家らを被買収容疑で取り調べた。市議も20年3~6月に計9回、任意で事情聴取を受け、本紙はうち計6時間超に及ぶ録音データを入手した。

 関係者によると、市議は自身が立候補した市議選期間中の19年4月、元法相から現金30万円を買収資金として受け取ったと検事に指摘され、「何かは受け取ったが、お金との認識も、買収資金との認識もなかった」と否定していた。

 録音データによると、検事は市議に対して「彼(元法相)を処罰すればいい」と話し、「認識がないというのは否認になる」と説明。「できたら議員を続けてほしいと思っている」「先生(市議)を否認にしたくない」とも述べた。被買収罪で起訴されて有罪となれば議員失職が避けられないことから、検事の発言には、認めれば起訴を見送るとの意図があったとみられる。

 市議は20年4月27日の聴取で買収資金と認める供述調書に署名。その後、改めて認識を否定したが、検事は市議に対して「全面的に認めて反省しているということを出してもらい、不起訴であったり、なるべく軽い処分に」と言って調書は修正しなかった。同年6月18日、特捜部は元法相と案里氏を逮捕した。

読売新聞
7/21(金) 5:02配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/17ee8c38813df7026c26175d24b18e55e03330e8