河野太郎デジタル相が新潟県内の講演会で、マイナンバーカードをめぐるトラブルについて、マイナンバー制度を始めたのは旧民主党政権だとして、野党議員の批判に「お前が始めたんだろ、と言い返したくなる」と語った。批判されると「悪夢の民主党政権」と繰り返した安倍晋三元首相を彷彿ほうふつとさせる言いぐさだが、これは責任転嫁できるような話なのか。検証してみたい。(宮畑譲、大杉はるか、中山岳)

◆「民主党政権が作った制度」は本当か?
 「マイナンバー制度は民主党政権が作った制度。作った時の人が『一回ちょっと立ち止まれ』みたいなことをいうと『お前が始めたんだろ』と言い返したくもなる」。25日にあった新潟県内の講演会で、河野氏がこう述べたと、地元民放などが報じた。
 そもそも、河野氏の「民主党政権が作った」との言い分は正しいのだろうか。
 確かに、民主党政権時代の2012年の国会で法案が提出された。いったんは民主、自民、公明で修正合意に至ったが、自民党は国会中の解散を求めて協力拒否に転じた。結局、11月の解散で廃案となった。

 この選挙で政権を奪還した自民党は翌13年の国会でマイナンバー法案を提出、安倍晋三内閣の下で成立させた。しかし、さらにその前にさかのぼると、09年に麻生太郎内閣が「社会保障番号・カード」を導入する方針を打ち出したが、総選挙で惨敗して実現しなかったという過去もある。

◆番号制度の構想はもっと以前の自民政権でも
 さらに、国民が統一した番号を持つ制度の構想自体は、民主党政権が誕生するはるか前からある。
 1980年、大平正芳内閣が「グリーンカード」と呼ばれる、納税者番号制度を導入するための法案を成立させた。これは、少額貯蓄の優遇措置の悪用を防ぐためだったが、金融業界の反対などで導入前の85年に廃止された。
 民主党政権でマイナ制度の設計に携わった、元参院議員の峰崎直樹氏は「そもそもは大平さんから始まった。何を言っているのかという話」と憤る。正確に所得を捕捉して再分配を強めることを目指したといい、「われわれが主張してきた本当の狙いではなく、マイナカードを早く効率よく持たせようとしている。国会でも本来の目的が何だったのかを議論してほしい」と話す。

◆住基ネットの失敗、そして「消えた年金」
 02年には住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)が始まったが、多くの反対と問題を起こして失敗した。こちらも導入したのは自民党政権。しかし、07年の大量の年金保険料の納付記録漏れが分かった「消えた年金問題」で、番号制度が必要との議論が盛り上がった。
 税や社会保障を機能させることが目的だったというマイナ制度。だが、マイナカードの事実上の義務化などは想定されていなかった。衆院厚生労働委員会所属の山井和則氏(立民)は「最大の問題は保険証の廃止。民主党政権では影も形もなかった話だ。医療現場などで不安と混乱は高まっている。民主党政権うんぬんより、河野大臣は廃止延期の決断をするのが今の責任ではないか」と批判する。
 民主党政権時に厚労相を務めた長妻昭衆院議員(同)は「事実関係をご存じないのでは」とあきれた上で「漏れたら取り返しがつかないから、医療情報のひも付けはやめてくれと大臣として言った。当時の政権全体でも、ひも付けは相当限定しなければならない、なんでもひも付けるのはダメだという話で始まった」と振り返り、現在の河野氏ら自公政権が進めるマイナンバーやマイナカードの利用拡大、ひも付け拡大路線との違いを鮮明にする。

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東京新聞
2023年6月28日 12時00分
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