沖縄は23日、「慰霊の日」を迎えた。米軍基地の過重負担に苦しむ島はいま、国際情勢の緊張を理由に、さらなる軍備増強の波に洗われている。戦後78年、この時代の空気のなかで、今だから語らなければならないこととは何か。10年間、沖縄に住んだ作家の池澤夏樹さんに、沖縄を取材し続けてきた記者が聞いた。

沖縄から見れば「ヤマト問題」
 ――「『沖縄問題』があるのではない。日本と沖縄の間に問題があるのだ」と以前から主張されていますね。

 「そう、米軍基地の集中にしても、決して沖縄の問題ではない。沖縄と日本の間の問題です。いや、これは沖縄から見れば、ヤマト(日本本土)問題だと言える。ぼくは、沖縄を基準にして日本を測っているんです。そうすると、違うものが見えてくる。これまで国内外の様々な場所に住みましたが、沖縄に住んだ1994年からの10年間は特別なものでした」

 「昨年、『あまくま琉球』というサイトを始めました。『あまくま』は沖縄の言葉で『あちらこちら』を意味し、沖縄の文化、歴史を含めた様々な情報を国内外に発信するのが目的です。クラウドファンディングを使い、すべてに英訳をつけて写真とエッセーを掲載しています。沖縄は日本とは違う国だった。別の文化を持ち、ほとんど別の言葉を話していた。それが日本に併合され、ヤマト化されて今に至っているということを、世界の人に知ってもらいたい」

 ――沖縄に住んでいた頃から続いている米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設問題では、県民の反対を押し切り、名護市辺野古で今も工事が行われています。

 「着実に海は埋め立てられている。でも、本当にできるのか、とぼくは疑っています。埋め立て予定海域の大浦湾側の海底は、マヨネーズと言われるほどの軟弱地盤だということが分かっている。現実的に考えれば、技術的な解決策はないでしょう。ぐずぐずと埋め立てを続け、その間、危険な普天間飛行場を使い続けて大事故が起きたら、日米関係の根幹が揺らぐ。アメリカも、それを心配しているはずです」

 「では、誰が工事を続ける決定をしているのか。そうした内実がまったく見えてきません。『大東亜戦争』と同じで、誰も止める人間がいないのでしょう。あれほど予算を投入し、反対を押し切ってここまで来た以上、今更やめるとは言えない。これは、ほとんどメンツの問題ですよ。工事が進めば進むほど止めにくくなる点も、戦争と同じです」

これはまずい、と止める人がいない日本

 ――一方で、米中関係の緊張を背景に、自衛隊による沖縄への部隊配置が進められ、敵基地攻撃能力を持つミサイルの配備も取りざたされています。琉球弧でますます軍事力の増強が進んでいますね。

 「中国のやり方は非常に危ういと思う。しかし、軍事的な観点から見て、日本は敵基地攻撃能力を持つミサイルをあれほど近くに配備しなければならないのか、大きな疑問があります。射程範囲に入るなら、九州のどこか、または東京の米軍横田基地に置く、ということではいけないのか。そう考えると、沖縄にミサイルを置くというのは、手を出すと戦争になるぞ、と脅すためのパブリシティーとして有効だからでしょう」

 「しかし、軍備を増強すると、こんなにお金を使ったんだから利用しなければ、という心理になるものです。第2次世界大戦における連合艦隊がそうでした。大変なお金をつぎ込んで国民に我慢を強いてきた以上、ただ置いておくだけというわけにはいかない、という妙にねじれた論理から、勝てる公算がないのに戦争を始めてしまった。こういうとき、これはまずいぞ、と止める人が日本にはいないんです」

朝日新聞
2023/6/23 7:30
https://www.asahi.com/sp/articles/ASR6Q661CR6NUPQJ01B.html