先進7カ国(G7)首脳は20日、核兵器のない世界を「究極の目標」とする広島サミットの首脳声明を発表した。これに先立ち、19日にまとめた核軍縮に関する共同文書「広島ビジョン」は、核保有国に核軍縮交渉を義務付けた核拡散防止条約(NPT)を礎とし、ロシアや中国にも対話を求めている。ただ、実現の道筋は見えない。首脳声明では、核軍縮に関する記述はわずかにとどまった。(川田篤志)

 「広島ビジョン」はG7首脳会議の成果をまとめた文書としては初めて核軍縮に特化したものだ。核兵器のない世界を「究極の目標」と位置づけつつ、「現実的なアプローチ」でのG7の関与を確認した。
 具体的には、核兵器の不使用を継続させる重要性を強調。ロシアが履行停止を決めた米ロ間に残る唯一の核軍縮合意「新戦略兵器削減条約(新START)」への履行復帰を求める。不透明な形で核戦力を増強させる中国を念頭に、核兵器の保有状況などの客観的なデータ提供も求めた。
 核不拡散につながる包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効の重要性も強調。核兵器の材料となる高濃縮ウランなどの生産を禁止する兵器用核分裂性物質生産禁止条約の早期交渉開始を求めた。原発を含む平和的な原子力利用も訴えた。
 岸田文雄首相は「核兵器のない世界の実現に向けたG7首脳の決意や具体的合意、今後の優先事項、方向性を力強く示す歴史的意義を有するものだ」と記者団に強調した。
 ただ、いずれの措置もこれまでG7が主張していたものとの違いは見えず、目新しさに欠ける。ウクライナ侵攻で核の威嚇を行うロシアや核戦力の不透明な増強を続ける中国を非難する一方で、G7の米英仏が保有する核兵器は「防衛目的」と強調し、核削減の目標も掲げていない。
 20日に発表した全40ページの英文の首脳声明のうち、「核軍縮と不拡散」の記述は1ページの半分にも満たない分量で、広島ビジョンの記述の一部を踏襲しただけだった。

東京新聞
2023年5月21日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/251314