工事が始まった明治神宮外苑の再開発。多くの樹木を伐採するなどの計画に反対の声が上がっている。作家の甘糟りり子氏が自らの考えを綴る。

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 とうとう3月22日に神宮第二球場の解体工事が始まってしまった。明治神宮外苑といえば銀杏並木をイメージするが他にもたくさんの樹木があり、都心にありながら緑の豊かな美しい街だ。しかし、再開発のために743本の樹木を伐採し、高層ビルを建てるのだという。完成は2036年予定。

 明治神宮外苑の建立は1926年。1912年の明治天皇崩御の後、大喪の礼は青山練兵場で行われたが、明治天皇の遺言で御遺体は京都の伏見桃山陵に埋葬されたため、東京に明治天皇を記念する建物の建立を希望する声が多くあがった。そこで、青山練兵場跡地に明治神宮の「外苑」として公園が整備され、いくつかの施設が置かれたのが明治神宮外苑である。

 この実現にあたっては、「日本資本主義の父」渋沢栄一が資金集め他、多方面に奔走したという。このような東京の、日本の歴史を体現した場所を「世界に誇るスポーツクラスター(集積地)にする」とかなんとかで、豊かな緑も貴重な建物も片っ端から壊してしまうのだ。愚行としか思えない。私は東京都民ではないけれど、昨年末インターネットで反対の署名をした。12万人の署名が集まり、東京都に届いているはずだが、都は2月17日に工事施工を認可した。

 坂本龍一さんは東京都の小池百合子知事に見直しを要求する手紙を送った。それは「目の前の経済的利益のために先人が100年かけて守り育ててきた貴重な樹々を犠牲にすべきではない」「外苑の開発は持続可能なものとは言えない」「これらの樹々を私たちが未来の子供達へと手渡せるよう、再開発計画を中断し、見直すべきだ」といった内容で、「あなたのリーダーシップに期待します」と結んであった。手紙は他に、文部科学相、文化庁長官、新宿区長、港区長に送られたという。

 ご存知の通り、坂本さんは癌の闘病中である。2014年に中咽頭癌、2020年に直腸癌、同年末に肝臓とリンパへの転移、その後肺にも転移が見つかり、二年間で六度の手術を受けているという。反対運動に参加する体力は残っていないが、「あの美しい場所を守るために何もしなかったのでは禍根を残す」と手紙を書いた。YMO&坂本龍一ファンとしては今あるエネルギーをすべて音楽制作に向けて欲しい気持ちもなくはないが、今回の行動でますますファンになった。

果たして、小池都知事は記者会見で「事業者の明治神宮にも手紙を送られた方がいいじゃないでしょうか」と言い放ったそう。他人事のような返事に呆れるし、腹が立つ。なんという言い草だろうか。明治神宮外苑もそこにある樹木も、小池都知事の大好きな東京のすばらしい「レガシー」であるのに、それを破壊する許可を出しているのは東京都なのだ。闘病中の身でありながら自分の故郷である東京のことを考えて綴った手紙に対して真摯に向き合わないのは、何か後ろめたいことでもあるのかと勘ぐりたくなってしまう。

 坂本さんはインタビューで「樹々は差別なく万人に恩恵をもたらすが、開発は一部の既得権者と富裕層だけに恩恵をもたらす」と指摘している。

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NEWSポストセブン
3/28(火) 16:15配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/bd3a423a883d6e44a32a8c2173a9904d0f053ad7