LGBTQなど性的少数者や同性婚のあり方を巡り、荒井勝喜元首相秘書官が差別発言で更迭されたことをきっかけに、2021年に国会提出が見送られた「LGBT理解増進法案」が再び注目されている。当時、法案は自民党の保守系議員の反発で頓挫したが、反対派の中には「種の保存に背く」などと差別的な発言をした議員がいた。【田中裕之】

 ◇簗和生副文科相、21年に差別的発言

 現在の岸田政権で教育行政を担う副文部科学相に起用されている簗(やな)和生衆院議員は、21年5月に同法案を審議した自民党の会合で、性的少数者について「生物学上、種の保存に背く」という趣旨の発言をした。

 会合は非公開だったが、毎日新聞を含む複数のメディアが発言を問題視して報じた。

 簗氏は当時、毎日新聞の取材に「会議は非公開のため、会議の内容や発言についてお答えすることは差し控えさせていただく」とのコメントを出しただけで、自身の発言に関する具体的な説明はなかった。

 ◇自民反対派の反発で議論紛糾

 同法案は、超党派の議員連盟で作られた罰則規定がない理念法だ。

 野党側は「差別解消」、自民党側は「差別禁止ではなく理解増進」の法案を求めて意見の隔たりがあったが、最終的に自民党が作成した条文案に「性的指向及び性自認を理由とする差別は許されない」との文言を追加することなどで合意した。

 自民党では議連の実務者だった稲田朋美元防衛相が法案提出に向けた党内手続きを進めたが、議論は紛糾した。

 当時、法案提出に反対していた山谷えり子元国家公安委員長は記者団に「米国で学校のトイレ(の使い方)で、いろんなPTA問題になったり、女子の競技に男性の体で心は女性だからと参加してメダルを取ったり、そういう不条理なこともある。社会運動化、政治運動化されると、いろんな副作用もあるのではないか」などと述べ、「議論が必要」と語っていた。

 国会会期末が迫っても反対派の反発は収まらず、自民党は最終的に「法案審議は難しい」などとして提出を見送った。

 ◇過激発言、背景に保守層へのアピール

 一部の議員が過激な発言を繰り返すのは、LGBTQや同性婚の制度化に慎重な宗教右派など保守層へのアピールもあるとみられる。

 自民党議員の多くが参加する「神道政治連盟国会議員懇談会」では22年6月に「同性愛は精神の障害、または依存症」などと差別的な記載のある冊子が配られた。

 自民党は「関係断絶」を打ち出しているものの、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)系の政治団体「国際勝共連合」も同性婚の法整備に反対している。

 ◇岸田政権はどう進めるのか

 一般社団法人「LGBT法連合会」は21年9月の自民党総裁選で、岸田文雄首相ら4人の候補者に法案への賛否を問うアンケートを実施した。

 首相は賛否を示さずに「性的少数者の方々への理解を増進するとの法案の意義は理解しており、引き続き丁寧に党内における合意形成に努めていく」と答えた。

 高市早苗経済安全保障担当相は唯一「反対」と回答し、「差別の定義が曖昧で、当事者を含め多くの懸念の声があった」との理由を示した。

 荒井元秘書官の差別発言に対する批判が強まる中、首相は今月6日に法整備の準備を指示。自民党の茂木敏充幹事長は記者会見で「我が党でも引き続き提出に向けた準備を進めていきたい」と語ったが、党内議論が順調に進む保証はない。

毎日新聞
2/7(火) 12:53配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/2f0b50b3f64cde5b9759e06c66d4d75efc76b0b1