岸田政権が進める年金制度の「大改悪」。どのように年金が減らされていくのか。私たちはどう対抗すればいいのか。年金博士こと社会保険労務士の北村庄吾氏がQ&A方式で解説していく。【全3回の第1回】

 * * *
 2024年は5年に一度の「年金改正」があり、そこに向けた議論が具体化してきました。昨年10月25日に開かれた厚生労働省の社会保障審議会年金部会での議論や資料などを見ると、5つの論点が浮かび上がってきます。

【1】国民年金の加入期間を40年から45年に延ばす
【2】厚生年金の被保険者期間を「70歳まで」から「75歳まで」に延ばす
【3】パート労働者らに厚生年金加入を適用拡大する
【4】厚生年金のマクロ経済スライド期間を延長する
【5】年金支給開始年齢を引き上げる

 これらが岸田政権による「令和の年金改悪」だと考えられます。

Q:何がいちばんの問題なのでしょう?
A:年金が大きく目減りさせられることです

 最大の問題が【4】のマクロ経済スライド延長です。もともと年金制度は、物価や賃金が上昇すると年金も一緒に増える仕組みでした。インフレが起きても、年金が実質的に減ることはなかった。

 それを変えたのが2004年の年金改正で導入された「マクロ経済スライド」です。この仕組みによって、物価が上がっても年金の増額は抑制され、実質的には目減りするようになってしまいました。今回の年金改悪では、サラリーマンの厚生年金に対してマクロ経済スライドが適用される期間が延長されようとしています。

Q:どのくらい減らされるのでしょうか。
A:月額約2万円の減額。20年間で400万円超の大幅カットです。

 マクロ経済スライドは年金財政を支える現役世代の被保険者数の変化などを数値化し、物価や賃金の上昇分から「一定の調整率」を差し引いた分しか年金額を引き上げない仕組みです。厚労省の試算では調整率は0.9%。つまり、物価が2%上がっても、年金は1.1%しか上がらない。受給者からすれば額面は少し増えているから減っている実感がない“騙し討ち”のようなやり方です。

年金には自営業者らの国民年金(1階部分)とサラリーマンらの厚生年金(2階部分)がありますが、現行ルールではマクロ経済スライドは国民年金で2046年まで、厚生年金で2025年まで続くことになっている。ただ、それでは国民年金の目減りが大きすぎるので、国民年金も厚生年金もマクロ経済スライドの適用を2033年までとする期間統一が検討されている。つまり、厚生年金のほうは8年も減額が延長されるのです。

 厚労省のモデルとなる厚生年金が月額約15万5000円(1階部分が約6万5000円、2階部分が約9万円)の人の場合、現行制度なら2033年の時点で月14万2500円までの減額で済むところ、マクロ経済スライドの適用が延びれば月13万6600円まで減ってしまう。月額2万円弱、年額20万円以上の減額です。年金は約20年間受け取ると考えれば、400万円以上の給付カットです。

Q:年金だけで安心の老後を送れますか。
A:まず無理です。

「夫婦の年金額」を考えると、厚労省のモデル世帯では現在、月額約22万円。現役男子の手取り収入の平均である月額約35.7万円に対して6割超の水準となっています。それが厚労省の資料にあるシミュレーションによれば、2060年には夫婦の年金が月額約27.6万円になり、その時の現役男子の手取り収入月額約54.3万円に対して約5割となっている。一見、年金額が増えたように思えますが、物価や賃金の上昇を加味せず現在の価値で考えれば実質の年金額は月額約18万円まで減るということです。

 総務省の家計調査では年金暮らしの夫婦2人世帯の支出は月額約27万円となっています。年金が月額約18万円になれば毎月約9万円の赤字です。年間約110万円、65歳でリタイア後20年間で約2200万円も足りなくなる。公的年金だけではとても暮らしていけません。

マネーポストWEB
1/17(火) 7:15配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/8730f4870db9509977126057c7a138008e044b33