岸田政権が進める年金制度の「大改悪」。どのように年金が減らされていくのか。私たちはどう対抗すればいいのか。年金博士こと社会保険労務士の北村庄吾氏がQ&A方式で解説していく。【全3回の第2回。第1回から読む】

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 2024年は5年に一度の「年金改正」があり、そこに向けた議論が具体化してきました。昨年10月25日に開かれた厚生労働省の社会保障審議会年金部会での議論や資料などを見ると、5つの論点が浮かび上がってきます。

【1】国民年金の加入期間を40年から45年に延ばす
【2】厚生年金の被保険者期間を「70歳まで」から「75歳まで」に延ばす
【3】パート労働者らに厚生年金加入を適用拡大する
【4】厚生年金のマクロ経済スライド期間を延長する
【5】年金支給開始年齢を引き上げる

 これらが岸田政権による「令和の年金改悪」だと考えられます。いくつかそのポイントを紹介しましょう。

減額を誤魔化したい政府
Q:支払う年金保険料が増えるのでしょうか。
A:国民年金は5年延長で約100万円の負担増です。

【1】の国民年金の加入期間を40年(20~60歳)から45年(20~65歳)に延ばすという話は、マクロ経済スライドによる実質減額を誤魔化そうとしているような話です。

 現在、40年加入して満額受給だと国民年金は年約80万円で、これだけではとても生活できない。それがさらに実質減額となると余計に苦しいから、5年長く加入させて年金額を年約10万円増やそうという話ですが、結局は支払う保険料が約20万円×5年間で約100万円も増えてしまいます。

Q:65歳という年金受給開始年齢も引き上げられるのですか。
A:最終的に75歳受給開始になる可能性があります。

【2】の厚生年金の被保険者期間が「70歳まで」から「75歳まで」に引き上げられるという話は、今のところ関係があるのは70歳を過ぎてもしっかり働き口がある会社の役員クラスくらいでしょう。

ただ、政府が「歳をとっても働き続ける社会」の到来を前提にしているのは明らかです。そうなると、60歳定年の時代に65歳受給開始だった年金は、65歳定年なら70歳受給開始、70歳定年になれば75歳受給開始、となるのが非常に現実味のあるシナリオです。公務員の定年を65歳へと段階的に引き上げるなど、政府はいくつも布石を打ってきたので、あとは受給開始年齢引き上げの判断をするだけという状況です。

Q:パートも保険料を払うことになる?
A:払わなくてはいけない人が100万人単位で増えます。

【3】の厚生年金の適用拡大は、これまで年金保険料を払わなくてよかった人たちが払わされるようになるということです。

 すでに2022年10月から従業員数101人以上500人以下の企業が新たに厚生年金の適用となりましたが、2024年10月からは51人以上の企業に拡大されます。岸田改悪ではこの51人以上という条件も撤廃し、会社の規模に関係なく、週20時間以上働くパートに対して適用拡大するという案もある。それで新たに保険料を払う必要が出てくる人は約125万人とされます。

 さらには賃金が月額8万8000円以上という要件も撤廃するのではないかという話もある。そうなれば被保険者は約325万人増えるとされています。

Q:パートの手取りはどのくらい減りますか。
A:給料の約15%が保険料として引かれます。

 パート労働者の手取りは大きく減ります。厚生年金に加入すれば健康保険にも加入することになる。厚生年金の保険料率が18.3%、健康保険の保険料率が10%で合わせて28.3%。これを労使で折半するので15%弱が給料から天引きされる。月10万円のパートの人なら約1万5000円が天引きされ、さらに所得税と住民税が引かれます。

 これまでは保険料天引きを避けるために収入や労働時間を抑える考え方が成立したが、適用要件が厳しくなれば成り立たない。パートをするならたくさん働いてより多く稼ぐことを考えなくてはならなくなります。

2に続く

マネーポストWEB
1/18(水) 7:15
https://news.yahoo.co.jp/articles/45bad40b43dcfea69e5032110605466084f91fef