国会で、会見で、総理の様子がどこかおかしいと感じる人が増えている。次々と降りかかる難題、発覚する不祥事、そして低迷する支持率――心身に蓄積したダメージは、限界を超えつつある。

もう諦めの境地

自民党岸田派のある議員は、スマホをチェックしては気を揉む。

 「総理は派閥の議員には『何かあったらLINEでいつでも連絡してほしい』と言っていた。なのにここ1週間ほど、送ったメッセージが既読にすらならないんです。もう官邸で半径数m以内にいる人以外、誰ともコミュニケーションをとれていないんじゃないか」

 岸田のもとには昼夜を問わず、自民党議員や官邸のスタッフたちから無数のメールやLINEが届く。八方塞がりの岸田を案じる連絡や、政策に関するアドバイスだ。しかし今、岸田はそれに返信するどころか、目を通すことすら困難になっている。いわゆる「未読スルー」――精神的に追い詰められている証だ。

 前経済再生担当相の山際大志郎と統一教会の関係が報じられた直後、岸田は山際を更迭しようとしたが、「お目付け役」がそれを許さなかった。山際の所属派閥の会長で党副総裁の麻生太郎と、山際と同じ神奈川が地盤で、やはり麻生派重鎮の前党幹事長・甘利明である。

 「麻生さんと甘利さんは『山際が辞めれば(統一教会との関係が指摘されている)細田(博之)衆院議長もドミノ倒しで辞めることになる』と言って強く止めてきた。言われているうちに総理もその気になり、途中からは『山際を絶対に守る』と路線変更したんです。

 そうして粘っているうちに回復不可能なほど傷が広がり、辞めさせるほかなくなった。今までの努力は一体何だったんだ、という気持ちでしょう」(前出と別の自民党岸田派議員)

 10月24日夜、山際との面会を終えて出てきた岸田は、どこか諦めたような、投げやりな表情を浮かべていた。

 「(辞任の)申し出を了とすることを決断いたしました」「申し出があった。私としては、了解した」「私が、それを了とした」「申し出を了とした」「辞職を了とした次第であります」「了とした」……。

 ひどい鼻声で、何を聞かれても壊れたレコードのように、山際の辞任を「了とした」と繰り返す岸田。その回数は計8回にも及び、記者たちは顔を見合わせた。

 この理不尽な状況を「了とする」しかない――自分にそう言い聞かせているかのようだった。

岸田派でも孤立している

 うわの空で会見を終えて官邸を出た岸田は、品川区西大井へ公用車を飛ばした。かつて東芝が所有し、今は家具小売大手のニトリHDが迎賓館として使う「志高荘」に招かれていたのだ。

 同席者は、外相の林芳正、党税調会長の宮沢洋一、そして衆院予算委員長で岸田派事務総長の根本匠。いずれも、岸田派の重鎮中の重鎮である。

 だが岸田は、主宰者であるニトリ会長・似鳥昭雄に挨拶だけすると、わずか10分で再びそそくさと車に乗り込んだ。

 前出と別の岸田派所属議員が証言する。

 「岸田さんは、もはや自派のナンバー2である林さんや、従兄弟である宮沢さんにさえ心を許すことができない。支持率低迷で機能停止した政権の例にもれず、今や岸田官邸では財務省がやりたい放題ですが、その財務省の茶谷(栄治事務次官)たちが真っ先に情報を入れるのは、岸田さんではなく『財務族』の林さんと宮沢さんなんですから。

 宮沢さんは身内なのに、岸田さんのことを笑っているらしいよ。『インベスト・イン・キシダと言うけれど、この状況で日本に投資する人なんているわけがない』と」

2に続く


現代ビジネス
11/1(火) 7:17
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