岸田首相が久々に「聞く力」を発揮している。旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)に対する宗教法人法に基づく解散命令請求の要件について、19日の参院予算委員会で「民法の不法行為も入りうる」と答弁。「入らない」とした前日までの答弁を翻し、一夜にして法解釈を変更した。

 教団をめぐっては、民事裁判で高額献金などの不法行為や使用者責任が認定されていて、「解散要件を満たしている」とする専門家は少なくない。解散へ向けたハードルは一気に下がった格好だ。

「電撃撤回」が飛び出したのは参院予算委の冒頭。質疑のトップバッターに立った立憲民主党の小西洋之議員から「きのう(19日)の衆院の審議で、宗教法人の解散命令を請求する要件には民法違反は該当しないと繰り返し明言した。これこそ自民党と旧統一教会の癒着のなれの果て。答弁を撤回・修正する考えはあるか」と迫られた岸田首相は、官僚が用意したペーパーに始終目を落としながら、こう答弁した。

「改めて関係省庁で集まり議論した。宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたと考えられる場合などには個別の事案に応じて解散命令の請求を判断すべきで、行為の組織性や悪質性、継続性などが明らかで、宗教法人法の要件に該当する場合、民法の不法行為も入りうると整理した」

 委員会室は軽くどよめき、出はなをくじかれた小西議員は「朝令暮改にもほどがある」と言っていたが、アッと驚く展開ではある。

 そもそも、「解散命令を請求する要件には民法違反は該当しない」という政府の狭義の解釈には、専門家から批判が相次いでいた。

永岡大臣が墓穴を掘る前に先手を打った?

旧統一教会の被害者救済に長年取り組む「全国霊感商法対策弁護士連絡会」(全国弁連)は「旧統一教会の解散請求等を求める声明」(9月16日付)を採択し、今月11日に永岡文科相、葉梨法相、甲斐検事総長に請求を申し入れている。強弁をふるうほど自民党と教団との癒着が浮き彫りになる。解散を求める世論のうねりにあらがえなくなったことも背景にありそうだ。

 内閣支持率はつるべ落とし。解散を求めるオンライン署名への賛同も広がる。焦った岸田首相は教団に対する「報告聴取・質問権」の行使を永岡大臣に指示するに至ったが、段取りをつけるのに少なくとも1カ月は要する。

 答弁能力の低さが露呈した永岡大臣が墓穴を深掘りする前に先手を打ったつもりなのかも知れないが、半世紀超にわたって旧統一教会とベッタリの自民党政権が腹をくくって解散命令の請求に踏み出せるのか。

■司法に圧力をかけた疑いが浮上

 18日の衆院予算委では、共産党の宮本徹議員の指摘により、自民党政権が教団の守護神のごとく動き回って司法に圧力をかけた疑いまで浮上している。元信者の70代女性が献金返還などを求めて教団や国を相手取り、2009年に鳥取地裁米子支部に提起した民事裁判で、裁判所が決定した和解調書に国側が猛反発し、一部を削除した「更正調書」を作らせていたことが判明。

「国においても、従前の宗務行政の適法性・妥当性に対する疑問の余地がないわけではないことや、今後適切な宗務行政がなされることを期待する」などとした裁判長の言葉を削らせていた。行政の違法性をうかがわせる記録を消し去る意図がアリアリである。

 宮本議員から「和解調書を受けて宗務行政をどう改善したのか」と問われた永岡大臣は質問には真正面から答えず、「(和解調書には)裁判長が発言していない内容が記載されていた」と大ウソをついていた。原告側代理人を務めた全国弁連の勝俣彰仁弁護士はこう言う。

「和解調書にあった裁判長の言葉は一言一句、実際に発言されたもの。大臣答弁は事実に反しています。裁判所に対しても適切な行政に期待して和解を受け入れた原告に対しても失礼極まりない」

 ブレまくる岸田首相は今度こそ「決断と実行」をするのか。

日刊ゲンダイ
10/20(木) 15:00
https://news.yahoo.co.jp/articles/9de141597aca1fac80dee39547ad7ad8610994f5