安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件の背景には、「宗教」の影があった。10月3日発売の週刊東洋経済は「宗教 カネと政治」を特集。

「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会、以下、統一教会)は9月29日、読売テレビやTBS、各番組で発言した弁護士3人に対して訴訟を提起した。こうした統一教会のメディアへの訴訟や抗議は過去に何度も繰り返されてきた。
 安倍晋三元首相銃撃事件の後、一斉に統一教会批判キャンペーンを展開したマスコミ。国会議員が教団のイベントであいさつしている写真や動画、教団内部の資料など、あまたのデータが「動かぬ証拠」として報道されてきた。それらの情報の多くはジャーナリスト、鈴木エイト氏により提供されたものだった。

 事件後、本誌を含め多くのマスコミ関係者は鈴木氏にコンタクトを取り、情報やデータの提供を求めた。この10年、統一教会の動向を継続的に取材してきたのは鈴木氏ほぼ1人だったからである。 

 「悪質な霊感商法や高額献金、2世たちの苦悩。目を背けてはならない現実があるのに、なぜ政治家はこの教団と関わりを持つのか。そんな疑問を抱きながら、私は第2次安倍政権が発足した翌年の2013年から首相官邸と教団の関わりを調べ、記事を書いてきました。

 しかし残念ながら私と同じ問題意識を持って取材、報道するメディアはほとんどありませんでした。今年7月に安倍さんが銃撃される事件が起きるまでは」

■政治家の戸惑い

 事件後、マスコミ各社は「教団と接点を持っていた政治家」の洗い出しに奔走し、深い関わりを持ってきた政治家は釈明に追われた。ついこの間まで問題視してこなかったマスコミの豹変ぶりにいら立ち、戸惑った政治家は少なくない。鈴木氏は、政治家による2つの発言に着目する。

 1つ目は自民党の福田達夫総務会長(当時)による「何でこんなに騒いでいるのか正直わからない」という発言。2つ目は東京都八王子市の教会との関わりが指摘された萩生田光一政調会長の「正直申し上げて、統一教会の昭和の時代の関連(霊感)商法のことなどは承知をしておりましたが、その後、悪い噂を聞くこともなかったですし、そういった報道に接する機会もなかった」という発言だ。

 「2人とも正直に語っています。政治家たちは統一教会や関連団体と付き合うことを問題だとはまったく思っていなかったのだから。イベントに祝電を送ったり出席してあいさつをしてやるだけで選挙のときは信者たちが無償で猛烈に働いてくれる。マスコミがそのことを問題視しないのだから、政治家にとっては教団を使わない手はない。

結果的に多くの政治家が教団をコンビニのように便利に使ってきた。ただし、以前は違いました。少なくとも2006年に安倍さんがUPFに祝電を送ったとき、メディアはしっかり報じているのです」

 2006年、官房長官だった安倍氏は教団の友好団体、天宙平和連合(UPF)に祝電を送っている。マスコミが報じたことで、安倍氏は、「誤解を招きかねない対応であるので担当者にはよく注意した」と、釈明に追われる事態となった。

 ところが状況は変わる。

 15年余りが経過した昨年9月、安倍氏は再びUPFのイベントにビデオメッセージで登場。韓鶴子(ハンハクチャ)総裁に「敬意を表します」とまで言い切った。

■反応しなくなったマスコミ

 「山上徹也容疑者が教団と安倍さんの『近さ』を感じ、殺意を抱くきっかけになったとされる映像なのですが、もうこの頃には大手のテレビ局や新聞社がまったく反応しなくなっていました。報じたのは『週刊ポスト』と『FRIDAY』、私が寄稿した『実話BUNKA超タブー』、日本共産党の機関紙「しんぶん赤旗」のみ。

 マスコミが継続的に報道していれば、安倍さんがUPFにビデオメッセージを送るようなことも、山上容疑者が安倍さんに殺意を抱くこともなかったかもしれない。そうした観点で事件の原因を考えると、メディアの責任は決して軽くないと思うのです」

 メディア側には宗教問題を忌避する事情もあった。

2に続く

東洋経済オンライン
10/4(火) 5:01
https://news.yahoo.co.jp/articles/383763d201347e16d6c4418755ad19184075b00b