『「杉田水脈政務官」の衝撃』。

 これは毎日新聞のコラムである(8月17日)。執筆者の与良正男氏は、内閣改造で岸田文雄首相が自民党の杉田水脈衆院議員を総務政務官に起用したことを聞き、

《一瞬、耳を疑った。》

 杉田氏は2018年、LGBTなど性的少数者は「子供を作らない、つまり『生産性』がない」と月刊誌に寄稿して批判を浴びた人物だ。

《杉田氏のような考え方は、これまでも自民党の一部にはあった。しかし、党全体としては一定の節度があり、これほど公然とは語られてこなかったと思う。》

 それが一転して、安倍政権下で大手を振って表舞台に登場してきたことに驚がくしたという。杉田氏が「過去に多様性を否定したことも差別したこともない」と就任後に言い切ったことも「驚いた」とし、

《この政権が節度を取り戻せるとは到底、思えない。》

 とコラムを終わっている。

杉田水脈のトンデモ発言をふりかえる
 杉田氏がどんなことを書いていたのか。あらためて振り返ってみる。それは「新潮45」2018年8月号に掲載された『「LGBT」支援の度が過ぎる』だ。

 大事なポイントを言うと、新潮45は「日本を不幸にする『朝日新聞』」という特集の中で杉田寄稿を掲載していた。実際に杉田氏は早々に、

《朝日新聞や毎日新聞といったリベラルなメディアは「LGBT」の権利を認め、彼らを支援する動きを報道することが好きなようですが、違和感を覚えざるをえません。》

 と書いている。そして「報道の背後」にうかがえるものとして、LGBTの権利を守ることに加え、差別をなくしその生きづらさを解消してあげよう、多様な生き方を認めてあげようという考え方が朝日新聞にあると書く。

《しかし、LGBTだからといって、実際そんなに差別されているものでしょうか。もし自分の男友達がゲイだったり、女友達がレズビアンだったりしても、私自身は気にせず付き合えます。》

 こういう展開になるのであった。「黒人の友人を持つ私は、人種差別主義者ではない」と言って正当化するおなじみの論理だ。

「機械と結婚させろという声も出てくるかもしれません」

 さらに杉田氏は生きづらさを変えることは社会制度を変えることでどうにかなるものではない、そもそも世の中は生きづらく理不尽なものだとし、「行政が動くということは税金を使うということです」と書く。

 そしてここ。

《LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり「生産性」がないのです。そこに税金を投入することが果たしていいのかどうか。》

 このようなことも。

《多様性を受けいれて、様々な性的指向も認めよということになると、同性婚の容認だけにとどまらず、例えば兄弟婚を認めろ、親子婚を認めろ、それどころかペット婚や、機械と結婚させろという声も出てくるかもしれません。》

 最後は、

《「常識」や「普通であること」を見失っていく社会は「秩序」がなくなり、いずれ崩壊していくことにもなりかねません。》

 全編にわたって性的少数者に対しての差別を展開している。

貧すれば鈍する…なぜ新潮社は掲載したのか

 私が驚いたのはこれを新潮社の雑誌が載せたことだった。先述したようにこの号の特集は「日本を不幸にする『朝日新聞』」でいわゆる朝日叩きだった。それ自体は珍しいものではない。朝日の記事にツッコミを入れたり朝日新聞社の醜聞を書くことは昔も今も週刊誌や月刊誌の十八番である。偉そうな新聞に対して雑誌側が放つカウンターは新潮社や文藝春秋社の鉄板芸だ。私も学生の頃からそれらを面白く読んでいた。それどころか「ここまでネタにされているなら原本(朝日)を読んだほうがもっと楽しめるのではないか?」と考えて朝日新聞を契約したくらいだ。

「新潮」対「朝日」、「文春」対「朝日」というマスコミ同士の応酬、言論のプロによる当てこすり合戦は見ごたえがあった。たまに朝日の反撃もあった。私は確かにプロの伝統芸を堪能していたのである。なのでそこに杉田氏レベルのものを載せてしまうと興覚めなのだ。日本を代表する伝統ある出版社が差別を拡散していることに驚いた。底が抜けたことを痛感した。雑誌が売れなくなったからだろうか、絵に描いたような「貧すれば鈍する」が切なかった(そのあと新潮45は事実上の廃刊となった)。

2に続く

文春オンライン
8/30(火) 6:12
https://news.yahoo.co.jp/articles/6e25f74952419d9469b634b1890f25a2ce25b8be