国費2.5億円の支出が決まった安倍元首相の国葬。実施当日の警備費を含めれば、経費はまだまだ膨らむ見込みだ。岸田政権は国民の半数に上る反対の声を無視して「弔問外交」に期待を寄せるが、しょせんは“絵に描いた餅”である。

 政府は各国首脳が顔をそろえる国葬の場を「弔問外交」に活用する狙いだが、今のところ、G7の中で現役首脳クラスが参列を検討しているのはカナダのみ。アメリカのバイデン大統領に続き、参列を検討中だったフランスのマクロン大統領も結局、内政を理由に参列を見送る。

 フランスは代わりに「できるだけ高位の人」の派遣を検討しているというが、現役首脳が一堂に会するサミットのような光景を描いていた日本政府にとっては、期待を裏切られた格好だ。高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)がこう言う。

「マクロン大統領の出席見送りは、『弔問外交に応じるつもりはない』との表明に等しいと思います。現在の国際情勢で最も重要なテーマのひとつは、ロシアによるウクライナ侵攻です。ヨーロッパ諸国の中でロシアのプーチン大統領と交渉チャンネルを持つマクロン大統領が不在では、『外交の場』としての国葬は、ほぼ意味をなしません」

 そもそも、日本政府に「弔問外交」の重要性を主張できるほどの実績はない。

■海外の葬儀には格下クラスを派遣

 2005年のローマ法王葬儀では、欧米の現役大統領が列席する中、日本は格下の首相補佐官を派遣。19年のフランスのシラク元大統領の国葬は、駐仏大使の参列で済ませた。今年5月にアラブ首長国連邦のハリファ元大統領が亡くなった際は、弔問式に首相特使として自民党の甘利明前幹事長を遣わした。

「過去の事例を見ても、日本政府は『弔問外交』をきちんとやってこなかったことが分かります。外交は国家間のギブ・アンド・テイク、つまり互酬によって成り立つ。『日本から偉い人は来ていないけど、こっちからは元首級を派遣しよう』とはならないのです。そもそも弔問外交は、国葬実施のために取ってつけた理由でしょう」(五野井郁夫氏)

日刊ゲンダイ
22/08/30 06:00
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