安倍元首相と旧統一教会とのつながりが注目されるなか、英紙「フィナンシャル・タイムズ」がそのカルト団体との“近すぎる距離”に迫った。それは祖父・岸信介の時代から、日本の支配者層とメディアが見て見ぬふりをしてきた公然の秘密だと指摘する。

日本政界の「不都合な真実」
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)は7月11日に東京都内で会見を開き、安倍晋三元首相殺害の容疑者が同教会に恨みを抱いていたという報道に困惑しているとの見解を示した。

日本教会会長の田中富広は、山上徹也容疑者の母親が会員であることは認めたが、献金額については明らかにせず、教会への献金は強要ではなく本人の意思であると述べた。

山上の母親は同協会への多額の献金によって破産したと報じられている。

何十年もの間、旧統一教会と自民党の有力者との密接な関係は、日本の政治においてほとんど議論されない公然の秘密であった。

しかし今、旧統一教会に家庭を壊されたと主張する男が安倍を殺害した事件により、この宗教団体と自民党との関係に光が当てられることになったのである。

日本の大手メディアしか参加を許されなかった会見で、田中は山上の母親が1998年頃から信者であることを認め、最後に同教会の会合に姿を見せたのは2ヵ月前だと述べた。

警察によれば、山上は取り調べで「特定の宗教団体」に恨みを抱いており、安倍がその団体と密接な関係にあると思っていたと供述している。警察はいまだその団体名を公表していないが、捜査の内情を知る人物によると、山上は旧統一教会のことを言っているという。

田中は山上の母親の献金額は明かさなかったものの、彼女が2002年頃に破産したのは知っていると語った。

「いずれにしろ、教会に対する恨み、そこから安倍元首相の殺害に至ることは、とても大きな距離があって、私たちも少し困惑をしております」と田中は述べ、なぜ教会への怒りが安倍銃撃につながったのかわからないとした(次ページへ)。

安倍の祖父・岸信介の時代から

統一教会は1954年に韓国で文鮮明によって創設された。「カルト」と非難されるなか、1950年代後半に欧米に広がり、1990年代には世界各地に拡大した。日本支部は1959年に設立され、60万人の会員を擁している。

安倍と彼の祖父である故・岸信介元首相は会員ではないが、旧統一教会の支持者として公に知られていた。

また報道によれば、山上容疑者は岸が日本での教会設立に一役買ったと考えているという。「(海外から日本に)招き入れたのが岸信介元首相。だから安倍氏を殺した」と山上が捜査官に話したと日本のメディアが報じている。

ナショナリスト運動の専門家である神田外語大学のジェフリー・ホールは、旧統一教会は安倍首相の祖父の時代から日本の保守政治に関与してきたと指摘する。

「統一教会が反共産主義で信頼できる同盟者であった冷戦期から、この団体は自民党の支持母体の一つでした。彼らは、のちに安倍派となる自民党の岸派と協力関係を築いたのです」

教会は自民党への政治献金はないと否定している。だが日本では政治運動に関する法律が厳しく、有権者とつながりを持つことが難しいため、金銭以外の関係も重要になってくるとホールは言う。

「選挙日に必ず自分の党に投票してくれて、選挙運動のボランティアまで出してくれる。そんな非常に信頼できる有権者層を提供してくれる宗教団体を味方につけることは重要です」

クーリエ・ジャポン
2022.7.12
https://courrier.jp/cj/294114/