鮫島浩×望月衣塑子・徹底対談② 菅前首相の意外な素顔と功罪
https://friday.kodansha.co.jp/article/251889

2022年07月05日

気鋭のジャーナリスト、『朝日新聞政治部』(講談社)著者の鮫島浩氏(50)と東京新聞社会部記者・望月衣塑子氏(46)の対談2回目。今回紹介するのは、新聞報道の舞台裏や政治家の素顔だ。

鮫島 官邸記者クラブで菅義偉官房長官(当時)に突っ込みまくった手腕で一躍有名人になった望月さんですが、実は社会部では特ダネ記者としても有名だったことはあまり知られていません。

望月 いえいえ、そんな……。とは言え、男社会の組織では女性記者は男性記者よりも有利に取材ができていたことは確かでしょうね。政治家でも役人でも相手がおじさんばかりなので、自分の娘くらいの記者が夜な夜な訪ねてきたら「ほんと、お前はがんばっちょるな」と相手してくれる。

もちろん、セクハラ被害と隣り合わせな面があることも否定できませんが、警察でも特捜部でも女性記者のほうがネタを取れていたような気がしますね。ただし、鮫島さんのように「オフレコ破り」でいったん政治家を怒らせるようなテクニックを持つ女性記者がいるのかどうか……。

鮫島 望月さんだってテクニックありますよね。県警担当の支局時代は相当ネタを取っていたと評判です。

望月 刑事部長が毎朝5時にジョギングをしていると聞いて、私もその時間に朝駆けしてジョギングしたりと、けっこう地道にやりました。毎朝ジョギングして「じゃあ、朝飯でも一緒に食うか」となって、食い込んだことはありました。他社からは「望月が刑事部長に食い込んだぞ」と警戒されていたとは思います。ある時、読売新聞が特ダネとして用意していたネタを、私が同着で書いたことがありました。読売の特ダネをつぶしてしまったわけですから「望月に漏らしたのは刑事部長だ」と批判めいたうわさがたちましたね。でも、実は違うんですよ。

鮫島 刑事部長がカモフラージュだったと(笑)

望月 刑事部長とは携帯でつながる間柄だったのですが、彼はとにかく口が堅い。それでいつも「なんで教えてくれないんですか」とケンカしていたんですよ。だから、犯人扱いされて可哀そうなことをしたなと。

鮫島 さすがです。そんな特ダネ記者だからこそ、番記者制度の弊害がよく身に染みているのだと思います。望月さんが官邸記者クラブに批判的な最大の理由ですね。

ネタを取ることと権力批判の違い

望月 官邸記者クラブのひそひそ話ではこんなことも言われていたそうですよ。「もし望月が政治部で安倍番や菅番だったら、NHKで安倍晋三首相に食い込んで特ダネを連発した岩田明子さんのようになっていた」と(笑)。

鮫島 それは望月さんの本質を、まったくわかっていないよね。政治記者クラブに属していない望月さんだからこそ、菅義偉官房長官に噛みついているわけで。

望月 その通りです。岩田さんは新聞協会賞を受賞していて確かに優秀。しかし、ネタは取れるけど権力に対する批判は弱いなとどうしても感じてしまう。かく言う私も、特ダネを取ってもそれを批判的に表現できなかった反省があるわけです。例えば、鮫島さんが『朝日新聞政治部』で書かれていましたが、政権交代前夜の民主党の小沢一郎さんや鳩山由紀夫さんへの東京地検特捜部の捜査はいま考えても異常でした。

鮫島 政治部記者をしていた私から見れば、あの時の特捜部の異様さは際立っていましたね。まさに政権交代が起こる総選挙が迫っている中で、野党第一党の党首に強制捜査をかけるというのは、民主主義のガバナンスを考えたときに検察ファッショとも言える愚行だと感じました。こうした民主主義の危機を指摘するのがジャーナリズムの役割だと考えて、編集局長室に単身で乗り込んで「紙面の最終責任者である編集局長が民主主義の危機であるという論文を一面で執筆し、朝日新聞の覚悟を示すべきだ」と訴えたんです。

望月 そうなんです。番記者ではそういう視点を持てなくなってしまうんですよね。当時は、田原総一朗さんとか、マーティン・ファクラーさんなど日本の既存の記者クラブメディアの外側にいるジャーナリストが、鮫島さんと同じ視点に立って検察批判を展開していました。それが検察番の私にはできなかったという反省に立つと、やはり当時は私もニンジンを目の前にぶらさげられて、ひたすら走っていただけだったと思うのです。そこにものすごい後悔がありました。

(略)

※省略していますので全文はソース元を参照して下さい。