政府が1日にユネスコ(国連教育科学文化機関)に推薦した「佐渡島(さど)の金山」(新潟県佐渡市)の世界文化遺産登録を巡り、保守派や一部メディアで「歴史戦」という言葉が叫ばれている。強制労働があったとして韓国側が反発しているためだ。日韓はこれまでも歴史認識で対立を繰り返してきたが、果たして世界遺産を「歴史戦」の戦場にしてよいのだろうか。【佐野格、山下智恵/デジタル報道センター】

江戸期の金山に「強制労働」と反発

 まずは経緯を振り返りたい。

 佐渡金山は、戦国時代末から平成(1989年)まで操業した国内最大級の金銀山だ。17世紀には世界最大級の金の産出量を誇った。とくに、金の採取から精錬まで手作業で行っていた江戸時代の遺構は世界的にも珍しく、世界遺産に求められる「普遍的価値」が高いとされる。2010年に暫定リストに入ったが、推薦候補に4回挑みながら、いずれも落選した。

 国や新潟県などは5回目の挑戦にあたり、普遍的価値を強調するため、江戸〜明治初期にわたった構成資産のうち、明治時代のものは除き、江戸時代の二つの鉱山に絞った。名称もそれまでの長いものから「佐渡島の金山」とシンプルにした。これが奏功し、21年12月、ようやく世界遺産への推薦候補に選ばれた。

しかし問題があった。佐渡金山で「朝鮮半島出身者の強制労働があった」とする韓国の反発だ。これには背景がある。15年に世界遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産」だ。

 韓国側から朝鮮人労働者の「徴用」を巡る反発があり、日本は登録に際し、戦時中に朝鮮人労働者が意に反して働かされたことを説明すると世界遺産委員会で約束した。だが委員会は21年、説明が不十分で日本が約束を守っていないと「強い遺憾」を表明する決議を採択した。

 また、ユネスコの「世界記憶遺産」では、加盟国の反対がある限り登録されない制度を、日本の働きかけで21年に導入させた経緯もある。「南京大虐殺」に関する資料が登録されたことに日本が反発したためで、日本が今回、佐渡金山を推薦すれば「逆の立場」になるのだ。

毎日新聞
2022/2/5 08:00
https://mainichi.jp/articles/20220204/k00/00m/040/074000c