会計検査院は5日、2020年度決算の検査報告を岸田文雄首相に提出し、公表した。20年初めから感染が拡大した新型コロナウイルス対策事業について初めて検査。厚生労働省が配布した布マスクに不良品が発生したため検品作業に21億円が支出されたことや、「雇用調整助成金」の不正受給、「GoToキャンペーン」事業を巡る支出先が適正に把握できていない問題などを指摘した。

 ◇雇調金不正受給、GoToでも

 布マスクは厚労省が20年3月以降、福祉施設用や妊婦用、全戸配布用の通称「アベノマスク」を含め約2億8000万枚を調達。文部科学省が学校用に用意した約3000万枚も含め、緊急性が高いことから全て随意契約で計約442億円が支払われた。

 配布後、マスクに髪の毛の混入や汚れの付着があるとの報告が635市町村から寄せられた。厚労省と文科省は検品業務を追加し、計約21億4000万円を費やした。厚労省が契約時にマスクの仕様書を作成せず、口頭で品質基準の説明をしただけだったため、納品時には検品ができず、不良品が発生した場合の費用負担も定めていなかった。

 福祉施設や全戸配布用の布マスクは、今年3月末時点で約8200万枚(約115億円相当)が倉庫に保管されたままで、20年8月〜21年3月の保管料は約6億円に上った。配布と保管は当初、日本郵便が請け負った。20年7月末以降、一律配布から希望施設への配布に切り替え、約8200万枚を備蓄に回したため、厚労省は10月、保管のための一般競争入札を実施し、佐川急便が受託した。保管料は月額約9000万〜約2000万円だった。

 収入が減った事業者らの資金繰りを支える「持続化給付金」は、事業を請け負った一般社団法人「サービスデザイン推進協議会(サ推協)」から電通、電通ワークスに委託された後、最大で9次下請けまで再委託が繰り返された。関係した業者は延べ723社で、契約締結時の契約総額769億円のうち99・8%が下請けに再委託されていた。

 企業が従業員を休ませた場合に休業手当分を国が負担する「雇用調整助成金」と「緊急雇用安定助成金」は20年度に計3兆1900億円が支払われたが、少なくとも約3億円の不正受給が判明した。

 旅行などを促す「GoToキャンペーン」でも指摘した。20年7月から始まった「トラベル事業」は、11月以降に東京都や札幌市など5都市が対象から外れた。キャンセルされた旅行代金の35〜50%は観光庁が「取消料対応費用」として業界団体でつくる「トラベル事務局」に支給することとし、21年2〜7月に407万件で計1157億円が支払われた。観光庁は、旅行代理店や宿泊業者、交通事業者のほか、食材卸やリネン業者など関連業者にも公平に配分されるよう要請したが、実際にどう配分されたかは把握していなかった。

 検査院は対策の緊急性などを考慮し、会計検査院法に基づく「無駄遣い」などの指摘は見送ったが、「適切な実施に努め、国民に十分な情報提供を行うこと」と強調した。

 ◇実地検査中止 指摘件数近年で最少

 会計検査院が5日に公表した2020年度決算の検査報告は、税金の無駄遣いや不適切経理、資金の積み残しなど計210件・2108億円を指摘した。このうち、法令違反に当たる「不当事項」は157件(前年度比48件減)で指摘金額は66億円だった。改善を求める「処置要求」と「意見表示」は15件(同1件増)で204億円。検査を受けて報告までに改善された「処置済み事項」が20件(同2件減)で1837億円だった。

 新型コロナウイルスの感染が拡大し、緊急事態宣言期間中の実地検査をすべて中止したため、指摘件数は前年度比で38件減り、2年続けて近年で最少となった。省庁別では厚生労働省への指摘が59件で最多。以下、国土交通省27件、農林水産省25件、文部科学省20件、独立行政法人住宅金融支援機構18件と続いた。

 実地検査は20年末や21年4月などわずかな期間に限られ、検査対象のうち実地検査の実施率は10・2%。18年度より11・2ポイント下回った昨年度から、さらに5・3ポイント下がった。指摘件数は、現在の集計方法で計算すると167件となる1993年度報告以来の少なさ。検査院は今後について「感染予防対策に留意して実地検査し、ウェブ会議やITツールも活用して効率的、効果的に行いたい」としている。【山崎征克】

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毎日新聞
11/5(金) 12:01
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