衆院選が19日公示された。2012、14、17年と過去3回の衆院選で大勝した自民党では、今回は「議席減は想定内」との見方が強く、「減り幅」をどれだけ抑えられるかが焦点だ。新型コロナウイルス対応への批判や野党の候補一本化などが理由だが、大幅減となれば岸田文雄首相(党総裁)の求心力低下は避けられない。自民単独で過半数233議席を確保できるかが「勝敗」の目安になりそうだ。

◇最低ライン

 「与党で過半数が目標だ」。首相は19日夜のNHK番組でこう強調。その上で「できればより多く上乗せし、政策を進めていきたい」と語った。
 定数465に対し、自民党の公示前勢力は276。公明党の29と合わせ与党で305だ。与党過半数は14年と17年で安倍晋三元首相が掲げたのと同じ勝敗ライン。目標を低めに設定するのは、責任論を回避する狙いがありそうだ。
 ただ、自民党の置かれた状況は厳しい。今回、立憲民主、共産など野党は289小選挙区のうち210超の小選挙区で候補を一本化。低支持率にあえいだ菅義偉前首相から岸田首相へ交代し、自民党への強烈な逆風は和らいだが、「ご祝儀相場」が期待された今月の内閣支持率は政権発足直後としては低調だ。
 甘利明幹事長は12日のBSフジ番組で、情勢について「最悪の危機は脱したが、政党支持率の高さほどには(議席数の予測が)ついてきていない」と指摘。野党共闘に関し「警戒しないといけない。決して楽観はできない」と語った。
 もっとも、与党過半数は公明党と合わせて72議席を失ってもクリアできる。勝敗ラインではなく「最低ライン」(遠藤利明選対委員長)というのが大方の見方だ。閣僚経験者は来夏の参院選に向け、「与党過半数を得ても議席が大きく減少すれば党内はごたごたする」との見方を示した。

 ◇三つの目標
 では、政権運営のため首相が求心力を維持できる議席はどれくらいか。党関係者は「勝敗ラインとは別の『目標』がある」として、いずれも自民党単独で「過半数233」「安定多数244」「絶対安定多数261」を挙げる。
 安定多数は、17ある常任委員会の委員長ポストを独占した上で、委員の半数を占める。自民単独で32減までならこれを満たす。絶対安定多数は、委員の数でも野党を上回り安定的に国会を運営できる。減少幅は15までだ。単独過半数は43減まで。安倍氏は過去3回の衆院選で絶対安定多数を確保し、長期政権につなげた。
 同じ党関係者は「絶対安定多数を取りたいが厳しい」とした上で、「次善の安定多数はクリアしたい」と語った。一方、単独過半数を割るような結果に陥れば「首相の責任論に発展し、党内政局になる」との見方もある。

 ◇立民上積み注目
 立民は一本化効果で公示前勢力110からどこまで上積みできるかが注目点だ。菅内閣の支持率が「危険水域」に落ち込んだ8月には「150議席まで伸びる」(枝野幸男代表周辺)との声が出ていた。だが、自民党総裁選で野党への注目度が下がったこともあり、衆院選を迎えても政党支持率は上向いていない。
 党内の一部にはトップダウン型の枝野氏らの党運営に不満がくすぶっており、「結果次第で体制刷新を求める」(中堅)との声もある。枝野氏は18日の党首討論で、支持率低迷の理由を問われ「世論調査で最終評価をしないでほしい。決めるのは投票行動だ」といら立ちをあらわにした。
 一方、憲法改正の発議に必要な「3分の2」は310議席。自民、公明両党に、改憲勢力と目される日本維新の会、国民民主を加えた4党の公示前勢力は計324で、改憲ラインを上回るかは見通せない。首相は14日の記者会見で「選挙だけで確保するのは無理がある。その後の議論で多くの方に理解を得て、結果として3分2を得たい」と説明した。

時事通信
2021年10月20日07時02分
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