自民党内で5年以上の議論を重ね、与野党でも合意したはずの「LGBT理解増進法案」が、会期終了を目前に、国会に提出されないまま暗礁に乗り上げている。自民党が国会提出を事実上断念する中、「今国会で成立させたい」と最後まで奔走する稲田朋美・衆院議員に話を聞いた。かつて安倍晋三前首相の「秘蔵っ子」と呼ばれた稲田さんの真意とは?【小国綾子/オピニオングループ】

基本的人権の問題だから
 ――夫婦別姓やLGBTなど性的少数者の問題に熱心に取り組む姿に「変節だ」「進化だ」とさまざまな声が上がっています。稲田さんはなぜ、この法案の成立に力を注ぐのですか。

 ◆きっかけは息子の友人がLGBTの当事者だったことでした。自民党政調会長だった2016年、党内に「性的指向・性自認に関する特命委員会」を設立し、当事者の声に耳を傾けてきました。

 学校でのいじめ、職場での嫌がらせ、自殺率の高さ……。性的マイノリティーの皆さんの置かれた困難な状況を知り、皆さんの人権を守ることは政権与党である自民党の責務だと考えました。右だ、左だ、というイデオロギーの問題ではない、基本的人権の問題だ、と。

 基本的人権の問題だからこそ対立構造の中ではなく、皆が納得した形で法律を作りたかった。自民党内ではもう5年以上議論してきました。与野党協議でも合意に達しました。オリンピック憲章には「性的指向」を理由に差別されないことが盛り込まれています。東京オリンピック・パラリンピックの年に、なんとか法案を成立させたいのです。

「差別解消」ではない理由
 ――理解増進法案の「理解増進」という言葉には正直、疑問を感じました。「差別解消」ではいけないのですか。

 ◆何が差別で何が差別でないのかの定義がまだ固まっていない現状で、「差別解消」を性急に目指せば、かえってLGBTの問題への理解が進まなくなると考えます。だからまず「理解増進」を目指そう、と自民党案として「理解増進法案」をまとめました。

 理解を増進することで、差別のない社会を作ることが、この法案の目的です。

 ――今回の与野党合意案について稲田さんは「奇跡のようなガラス細工」と表現していますね。

 ◆自民党の「理解増進法案」と野党の「差別解消法案」の間には、数々の相違点がありました。野党からは、差別解消のための具体的な措置を盛り込んでほしいという要望や、自民党案の「性同一性」ではなく「性自認」という用語を…

毎日新聞
2021/6/12 08:00
https://mainichi.jp/articles/20210610/k00/00m/010/308000c