「おう、久しぶりやな」

まず法廷では裁判長の前で証人らが横一線に立ち、“良心に従って真実を述べる”旨を宣誓する。その際、文信氏は、証人として呼ばれた本誌記者を挟み、元組長と並んだ。すかさず元組長は文信氏を睨みつけると、

「おう、久しぶりやな。懐かしいのぉ」

「お前、よう来れたな」

 などと声をかけた。ところが、文信氏は元組長に目もくれず無言を貫いた。そんな彼は、尋問で暴力団組員であったかを問われても、

「(元組長には)会ったことはありません」

 と答え、自らの過去には一切口を噤(つぐ)んだのだ。

 だが、これに続いて証言台に立った元組長は、京都にあった家で文信氏と盃を交わすまでのいきさつから、組のベンツを運転させていたことや、「事始め」と称する新年会で毎回顔を合わせていたことなど、現役当時の具体的なエピソードを交えて証言したのである。

 民事裁判でも、証人が法廷での宣誓を破って偽りを述べれば「偽証罪」に問われる。そのリスクを承知の上で法廷に立った元組長の発言を重視した裁判所は、文信氏の隠された経歴を認めるに至ったわけだ。

 ちなみに、本誌と「週刊文春」が共に文信氏から訴えられた際に、大手新聞社が〈野田総務相の夫が文春と新潮提訴〉と報じたが、それから2年経って本誌が事実上の“勝訴”となったことを報じた社は皆無……。

 一方で、文信氏が求めた損害賠償が認められ、実質的に“敗訴”した「文春判決」のことは、〈野田氏夫への名誉毀損認定 文藝春秋に賠償命令〉などと報じているのだ。

「週刊誌が取材先から訴えられ、敗訴した時はニュース価値を認めて報じるのに、勝訴した時は報じない。こうしたダブルスタンダードは見直されるべきです」

 と苦言を呈するのは、メディア論が専門で元上智大学教授の田島泰彦氏だ。

「どのような結果であれ、大手メディアは司法の判断をきちんと報じるべきなのに、週刊誌が敗訴したら問題だと言わんばかりに書く。政治家にまつわる問題は、本来なら大手メディアも扱うべき話題です。それを週刊誌だけが報じていることを恥じるべきだと思います。“政治家の夫が元暴力団員だった”という話は有権者にとっても重要な公益情報であり、大手メディアであれ週刊誌であれ、勝ち取った情報はお互い役割を補完しながら世間に発信すべきではないでしょうか」

 本誌が訴えられた当該記事を取材した当時、野田氏は文信氏の過去について〈事実ではございません〉と明確に否定している。

 今回改めて、判決についての見解を問うたところ、

「裁判中につき回答は控えます」(野田聖子事務所)

 と言うのみだった。

 宰相を目指す政治家ならば、まずは世間に対して明確な説明が求められるのは言うまでもない。