与野党が次期衆院選の前哨戦と位置付ける参院長野選挙区補欠選挙、広島選挙区再選挙、衆院北海道2区補選の火ぶたが切って落とされた。中でも広島は自民党が必勝を期す重点区。しかし、2019年参院選をめぐる元法相、河井克行夫妻の大規模買収事件の傷痕は深く、厚い保守地盤を背景にした当初の楽観ムードは霧散。野党統一候補と激しく競り合う展開に青ざめる。(敬称略)

 ◇空気が一変
 「本来なら楽勝でもおかしくないが、今回は本当に厳しい」。自民党の下村博文政調会長は18日、広島市での演説で危機感をあらわにした。二階俊博幹事長は19日の記者会見で「ヘッドスライディングのつもりで最後の最後まで戦わないといけない」と強調した。
 再選挙は買収事件で有罪となった前参院議員、案里の当選無効に伴う。案里は2月3日に議員辞職した。
 このころ、広島の情勢について自民党内で不安視する声は聞かれなかった。同党は広島で衆院7選挙区中5選挙区を占めるなど圧倒的な強さを誇る。党幹部は勝負の行方に「大丈夫」と絶対の自信を示していた。
 ところが、告示を待たず、党の調査で野党候補にわずか数ポイント差まで迫られていることが判明。公明党の調査で優劣が逆転したとの情報も流れ、空気は一変した。
 ◇背水の岸田
 自民党陣営は、広島県連会長で岸田派を率いる前政調会長、岸田文雄を中心に選挙態勢を敷く。陣営は「岸田派主導」の様相を呈する。
 その選挙活動は思うように回らない。最大の要因は買収事件の影響だ。克行が地方議員ら100人に現金を配ったとされ、有権者に自民党への不信感が渦巻いている。応援に入った参院議員の一人は「今回は勘弁してくれ」と支援を拒否されたという。別の議員は玄関先であしらわれ、冷たい反応に「心が折れた」。
 連携不足もある。県連は克行側から現金を受け取った地方議員を選挙に関わらせず、受領したある県議は「やっているのは電話掛けやポスター貼りぐらい」と明かした。
 県連内には19年参院選をめぐる党本部への遺恨がなお残る。案里擁立を強行され、県連支援の現職は落選。ベテラン県議は、案里をてこ入れした首相菅義偉の応援を「邪魔」と言い切る。こうした対応は陣営が自らの手足を縛るに等しい。
 厳しい状況を受け、岸田は急きょ、閣僚に電話して広島入りを要請し始めた。ただ、初動の遅れは否めない。昨年の党総裁選で菅に惨敗した岸田は次期総裁選をにらむが、周辺は「地元で敗北すれば総裁の芽がついえる」と危惧する。
 公明党も傍観者でいられない。克行が議席を得た広島3区に副代表斉藤鉄夫を擁立しているからだ。ここでの活動実績は次期衆院選での自民党の支援に跳ね返る。党代表山口那津男は11日に広島入りし、告示前には支持母体・創価学会会長の原田稔も現地で支持者を激励。「総力戦」で自民党を後押しする。
 ◇女性そろい踏み
 「まるで昭和初期のような政治とカネの問題。こんなことは二度と起こさないのが当たり前という選挙にしたい」。立憲民主党代表代行の蓮舫は8日、広島市中区でこう声を張り上げた。国民民主党政調会長の舟山康江、社民党党首の福島瑞穂とそろい踏み。女性の野党統一候補の清新さをアピールした。
 候補は政治団体「結集ひろしま」に所属。連合の後ろ盾を得て支持の上積みを図る。
 だが、野党も一枚岩ではない。「結集ひろしま」に属していない共産党は陣営の外だ。11日には、国民代表玉木雄一郎が街頭演説する直前、立憲代表枝野幸男が会場を後にし、すきま風を印象付けた。陣営は勢いづくが、共闘構築には課題が残る。

時事通信
2021年04月20日07時12分
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021041900751&;g=pol