新型コロナウイルスの感染拡大で希薄になった人の交わりの隙を突くように広がる「雑な言葉」。それは時として、社会から排除されている人や差別されている人に向けられる。自らもSNS上で「ヘイトスピーチ」などをぶつけられてきた、小説家の柳美里さんが、いま憂うこととは。

『JR上野駅公園口』で全米図書賞(翻訳文学部門)を受賞し、注目を集める芥川賞作家で劇作家の柳美里さん。

コロナ禍において、排除されている人たちや、差別されている人たちに向けられた「雑な言葉」が広がりをみせていることに、危機感を抱いている。

言葉はときに、暴力につながりかねないーー。いったい、彼女は何を感じているのか。なぜ、「丁寧な言葉による対話」が必要だと訴えるのか。

BuzzFeed News単独インタビューを上下連載でお伝えする。

「コロナ禍では、日本中、世界中の人が命の危機に陥っていて、誰しもが絶望の中にいる。このような時には、『雑な言葉』が広がりやすいのです」

柳さんはいま、新型コロナウイルスの感染拡大下において希薄になった人の交わりの隙を突くように広がる「雑な言葉」と、それが誘発する暴力を危惧している。

「個人が大きな括弧でくくられてしまうような雑な言葉には、特に気をつけないといけないと思っています。私のことを『在日韓国人』というように、『日本人は』『在日韓国人は』『被災者は』などと大きなくくられ方をしてしまうとき、ひとりひとりが顔を持って、歩んできた人生が見えなくなってしまうのです」

「誰かが命がけで産んだ命であり、手をかけられて育てられて、それからいろいろな人と出会い、生きてきた軌跡、すべてを見えなくしてしまう。そうなると、人は暴力に走りやすい。言葉が暴力に移行する距離というのは、思っているよりも短いのです。矛先が誰に向くのかといえば、排除されている、隅においやられている、差別されている人たちがターゲットになるのではないでしょうか」

世の中に不安が蔓延しているからこそ、何かのはずみでその連鎖に火がつくのではないか、と柳さんは恐れる。

「大きな声で叫ばれた雑な言葉は、遠くまで広がります。みんなの不安はパンク寸前にまで膨らみ、さまざまなことに対して怒りを持ち、苛立っているから、打ち消す余裕もないでしょう」

「もしかしたら、いま大きな地震が起きるかもしれない。火事が起きるかもしれない。不安、鬱憤が暴力という形で過激な形で暴発したら。誰かの命を奪うという、取り返しのつかないことにつながりかねません」

「歴史的にも、関東大震災の時には日本にいた朝鮮人たち、あるいは朝鮮人の疑いをかけられた東北の方が『井戸に毒を入れている』というデマから、人々に殺害されました。そのようなことが起きないのか。私は、恐れています」

2月中旬、東日本大震災から10年が経とうとする東北地方を最大震度6強の地震がおそった。ネット上には関東大震災を彷彿とさせる在日コリアンに関するデマが多数、書き込まれた。

多くは愉快犯のような振る舞いを見せていたが、決して「冗談」で済むようなものではない。

差別や憎悪、暴力を扇動しかねない「雑な言葉」に向けて、柳さんは「何故、地震直後に、差別を扇動する人がいるのか」「許せない」と、ツイートした。

2につづく

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