「私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員もやめる」――。森友学園への不透明な国有地売却が発覚し、安倍前首相が国会でそう発言してから4年になる。

 この後、公文書の改ざんという前代未聞の事態が起きた。民主主義の根底を揺るがす大事件にもかかわらず、動機や指揮命令系統の詳細などの全容は依然解明されていない。

 糸口になるかもしれないのが「赤木ファイル」だ。

 改ざんに加担させられたことを苦に自死した近畿財務局の元職員赤木俊夫さんが職場に残したもので、一連の経緯が詳しく記録されているという。

 赤木さんの妻雅子さんが国などに損害賠償を求めている裁判で、原告側はこのファイルの提出を請求した。国会でも野党が追及を続けるが、政府は不誠実な態度に終始している。

 たとえばこんな具合だ。

 ファイルの存在を確認する質問に対し、麻生財務相は衆院予算委員会で「訴訟にかかわることを訴訟外で答えることは控える」と答弁。裁判所の要請があればファイルを出すかとの問いにもゼロ回答を続けた。昨年行われた衆院調査局の調査の際も同じ理由で提出を拒んだ。

 一方で、政府は裁判の場では「改ざんの経緯や内容についてはおおむね争いがない。だからファイルを提出せよという原告側の要求に、回答する必要はない」と主張している。

 野党が、国会では「裁判にかかわる」と言い、法廷では「裁判の争点とは関係ない」と言っているとして、二枚舌ではないかと批判するのもわかる。政治家、財務省、訴訟対応にあたる法務省が、一体となって隠蔽(いんぺい)しているとしか見えない。

 財務省が調査して佐川宣寿元理財局長らを処分したことで、改ざんの全体像は判明し問題は決着したというのであれば、ファイルを出しても何の支障もないはずだ。にもかかわらず、その存否すら明らかにするのをかたくなに拒む。異様な対応というほかない。いったい何を恐れているのだろう。

 雅子さんは17日の法廷で、ファイルの提出について「二度と決裁文書の改ざんが行われないようにするためにも、とても意味がある」と意見を述べた。

 公務員が自信と誇りをもって日々の職務に臨める、当たり前の政府になってもらいたいという思いが伝わってくる言葉だ。「当たり前の政治」は菅首相のモットーではなかったか。

 森友問題では事実と異なる国会答弁が139回繰り返され、国民は愚弄(ぐろう)され続けた。首相は雅子さんの訴えを受け止め、ファイルの提出を指示すべきだ。

朝日新聞
2021年2月21日 5時00分
https://www.asahi.com/articles/DA3S14807774.html