「新型コロナウイルス対策に不備があれば当然主張すべきだが、それを聖火リレーの開催条件に結び付けるのはおかしい」

 政府、与党内からは不満の声が出ているが、ネット上では<よくぞ言ってくれた。あっぱれだ><知事が県民と政府のどちらを向いて仕事をしているのかがよく分かる>などと好意的な受け止めが目立つ。東京五輪・パラリンピックをめぐり、5月に地元で予定されている聖火リレー中止の検討を表明した島根県の丸山達也知事(50)のことだ。

 福岡県の専業農家に生まれ、東大法学部から総務省に入省。島根県で3年間、環境生活部長や政策企画局長を務めた経験から、総務官僚を辞して2019年4月の知事選に出馬。見事に初当選した。

 知名度が高くないため、あまり知られていないものの、丸山知事が政府の姿勢に反発するのはこれが初めてではない。昨春、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためとして、安倍首相(当時)が全国一律の休校要請を出した際、島根県(島根県教委)は47都道府県の中で唯一、県立高校や特別支援学校の休校を見送っている。この時も、政府内から「勝手なことをするな」と批判の声が上がったが、県民の評価は高かった。

 大会前のイベントに過ぎないリレーに今、7200万円の県予算をつぎ込む必要があるのか。それよりも新型コロナ対策に全力を尽くすべきではないか。丸山知事の考えは極めて合理的だ。しかも、丸山知事は突然、「五輪は開催するべきではない」と言い始めたわけではない。そう訴えている理由があるのだ。

 島根県は、東京都などが新型コロナ感染者の濃厚接触者や感染経路を調べる「積極的疫学調査」を縮小していることを問題視し、以前から厚労省に対して全国調査の結果や情報提供などを求めてきた。ところが厚労省は「ゼロ回答」のまま。10日の会見でも、丸山知事は「状況について何も情報が得られていない。ゼロ回答です。何もしていないということではないでしょうか。この話をどうでもいいと思っている政府は危機的」などと怒りをあらわにしていた。

 さらに緊急事態宣言の期間中に行われた東京・千代田区長選で候補者の応援演説などをしていた小池百合子知事(68)の行動にも疑問を投げかけ、「不要不急の外出自粛要請の兼ね合いの中で許容されることなのか」「私がこういうことをやったら袋叩きだと思いますよ。でも大きなイベントの主要主催者だから、みなさん(メデイア)に許されているのかなとしか思えません」と主張。五輪を開催する都市のトップにありながら、新型コロナ対策に取り組む姿勢が足りないのでは――と疑問を呈していた。

 ジャーナリストの横田一氏がこう言う。

「丸山知事は政府や東京都の小池知事に対しても臆することなく、正々堂々と正論を主張する。非常にマトモな知事といった印象です。政府や都は『唐突に何を言うのか』みたいな受け止めですが、島根県が厚労省に疫学調査に関する情報提供を要請していたことすら知らない。つまり、放置していたわけです。これでは政府や都に不信感を抱くのも当然です。コロナで厳しい状況に追い込まれているのは全国どこでも同じであり、その中で『東京五輪に協力して』というのであれば、政府や都が主導し、きちんとしたコロナ対策を講じるべきです」

 丸山知事の正論を政府や小池知事はどう受け止めるのか。

日刊ゲンダイ
2/19(金) 9:06
https://news.yahoo.co.jp/articles/ee6a1b530bb33d956a38a80de3ae193c423706b2